説明

無縫製チェーン状編地およびその編成方法

【課題】 人的作業に伴うものではなく、無縫製で形成するチェーン状編地およびその編成方法を示すこと。
【解決手段】 少なくとも前後一対の針床を有し、前後針床が相対的にラッキング可能に構成された横編機を用いて、少なくとも二つの編幅方向に開口するリング状編地3,4を形成する。編成の際に、一つのリング状編地の前後いずれか一方の編地を他の組の前編地と後編地の間を通して交差させる。対となる前編地5,15と後編地6,16をそれぞれ最終の編目列で伏目処理し、無縫製でチェーン状編地10を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機で無縫製のリング状編地を相互に交差させてチェーン状に形成することが可能な新しい無縫製チェーン状編地およびその編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から横編機で編成する編地をチェーン状に形成する場合、編地を編成後に、後工程でチェーン状に繋げている。すなわち、従来は平編みなどで編成した複数の編地を、互いに交差させながら、個々の編地の一端と他端の編目を縫製やリンキング、手編みにて接合してリング状の編地を形成する後工程が必要である。
【0003】
横編機でも、前後の針床に編糸を周回させて直接リング状の編地を編成することはできる。また、衣類の衿や前立て等の付属編地について、筒状に編成し、かつ編み終り部を折返しておき、ミシンがけで主たる編地に接合する作業を容易にする技術も開示されている(たとえば、特許文献1参照。)。なお、丸編機では、無縫製で筒状の編地が編成される。
【0004】
丸編地で、編み始めコースまたはその付近のコースに編み終りコースを編み付け、二重筒状の編地とする技術も開示されている(たとえば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特公平7−78302号公報
【特許文献2】実開平1−147289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法では、編地をリング状に形成したり、リング状の編地を相互に交差させてチェーン状編地を形成するために、後工程の時間や人手が必要となる。さらに、そのような後工程には手作業が伴うため、熟練度の違いにより仕上がりがバラツクといった問題も発生することがあった。
【0006】
本発明は、これらの問題を解決すべく、横編機を用いて無縫製で編地をチェーン状に形成する無縫製チェーン状編地およびその編成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて無縫製でそれぞれ環状に編成される複数のリング状編地を有し、
各リング状編地は、他の少なくとも一つのリング状編地と相互に交差していることを特徴とする無縫製チェーン状編地である。
【0008】
また本発明で、前記リング状編地は、チューブ状編地が軸線方向でも環状となるように編成されていることを特徴とする。
【0009】
また本発明で、前記リング状編地は、編幅方向に開口することを特徴とする。
【0010】
さらに本発明は、少なくとも前後一対の針床を有し、前後の針床が相対的にラッキング可能に構成された横編機を用いて、少なくとも二つのリング状編地をそれぞれ編成するに際し、隣接するリング状編地同士を、相互に交差させて無縫製のチェーン状編地を編成する方法であって、
各リング状編地は、
(1)リング状編地としての編み出し編成を行うステップ、
(2)編み出し編成に続けて、少なくとも前後のうちの一方の針床で編地を編成するステップ、
(3)前後の針床での編成後に各針床で係止する編地を接合してリング状編地を形成するステップ、
を含んでそれぞれ編成され、
隣接するリング状編地同士の交差は、いずれのリング状編地も(2)のステップまで編成されている状態でのラッキングを含む編目の移動で、一つのリング状編地の前後いずれか一方の針床で係止する編地を、他のリング状編地の前針床で係止する編地と後針床で係止する編地の間に挿通させて行うことを特徴とする無縫製チェーン状編地の編成方法である。
【0011】
また本発明の前記(2)のステップでは、前記編出しに続けてウエール方向の両側にそれぞれ編地を編成し、
前記(3)のステップでは、編出しの両側に形成される編地の終端の編目同士を接合することを特徴とする。
【0012】
また本発明の前記(2)のステップでは、前記編出し編成の編目を残して、ウエール方向の片側で編地を編成し、
前記(3)のステップでは、編出しの片側に形成される編地の終端の編目を、残している編み出し編成の編目に接合することを特徴とする。
【0013】
また本発明の前記ウエール方向の片側では、前記前後の針床でチューブ状に編地を編成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、横編機を用いて無縫製でそれぞれ環状に編成される複数のリング状編地は、相互に交差させてチェーン状に繋がった状態で形成される。後工程で編地をリング状に形成したり、リング状の編地を相互に交差させてチェーン状編地を形成する必要はなく、時間や人手を不要にすることができる。
【0015】
また本発明によれば、チューブ状編地でリング状編地を形成し、チェーン状に繋げることができる。
【0016】
また本発明によれば、各リング状編地は、編幅方向に開口するので、リングの周方向の長さをコース数で調整することができる。
【0017】
さらに本発明の編成方法によれば、横編機を用いて、従来にはない無縫製のチェーン状編地を編成することが可能となり、手作業による縫製等の後工程を削減することができる。
【0018】
また本発明によれば、編み出し編成に続けてウエール方向の両側で終端までそれぞれ編地を編成するので、前後の針床を使用して、編出し編成の部分を歯口から引下げながら編地の編成を続けることができる。前後の針床で編成する編糸を異ならせ、色などを異ならせることもできる。
【0019】
また本発明によれば、編み出し編成に続いてウエール方向の片側で編地を編成し、編成された編地の終端の編目を、残しておいた編み出し編成の編目に接合するので、一カ所の継目で、リング状編地を形成することができる。
【0020】
また本発明によれば、ウエール方向の片側にチューブ状に編地を編成してリング状編地を形成しながら、チェーン状に繋げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の好適な実施例について、図面とともに説明する。なお、実施例では、編針を列設した少なくとも前後一対の針床を有し、前後針床が相対的にラッキング可能に構成された横編機を用いるものとする。図1および図3では、横編機の前後針床間の歯口で編成される編地の状態を示す。ただし、実際に歯口で編成される状態の編地では、少なくとも編み出し部分の最初と、編み終わり部分の最後とに、編糸が連なっているけれども、図示を省略する。
【0022】
また、本明細書では、前編地は、図1および図3において各リング状編地での前側に現れる編地を、後編地は、後側に現れる編地としてそれぞれ定義する。本実施例ではリング状編地の前編地は前針床、後編地は後針床の編針を使用して編成される例を示すが、前針床で編成したものが前編地で、後針床で編成したものが後編地ということではない。
【0023】
図1は、本発明の第一実施例によって編まれたチェーン状編地の概略的な構成を示す。編み出し部分1と伏目部分2とを有する第一リング状編地3に、第二リング状編地4を交差させて、チェーン状編地10が形成される。第二リング状編地4は、編み出し部分11と伏目部分12との間に、前編地15と後編地16とが形成される。編み出し部分1に続く前編地5と後編地6とが、伏目部分2にて接合して第一リング状編地3が形成され、その開口部の中を、同様に形成された第二リング状編地4の前編地15が挿通して交差が行われる。
【0024】
図2は、第一実施例についての編成工程の概要を示す。図2の編成工程図および後記する図4、図7、および図8〜10の編成工程図等において、左端の数字は、相対的なコース番号を、アルファベットのFは前針床、Bは後針床を、左右方向の矢印はキャリッジの進行方向を、上下方向の矢印は目移し方向を示す。
【0025】
図2、図4、図8〜図10で、右端に示すL0Pなどの表記は後針床のラッキング位置を示し、Lは左方向、Rは右方向、数字Pは針本数を示している。黒色の点は空針を示し、黒丸を前編地5、白丸を後編地6とした第一リング状編地3と、黒三角を前編地15、白三角を後編地16とした第二リング状編地4として示す。図示はしていないが、図2および図4で、給糸口は1つのリング状編地の編成に2個使用し、第一リング状編地3については、編み出し部分1と前編地5は、同一の給糸口からの給糸により編成し、後編地6は他の給糸口からの給糸により編成する。他のリング状編地の編成についても、同様にそれぞれ2個の給糸口を使用する。なお、本実施例では各給糸口を以下、第一給糸口、第二給糸口、第三給糸口、第四給糸口、第五給糸口、第六給糸口、として説明に用いる。全部の給糸口から同一種の編糸を給糸すれば、すべてのリング状編地を同一の編糸で編成しているように見える。給糸口から給糸する編糸を異ならせて、リング状編地毎、またはリング状編地の半分毎に、色を変えるなどの変化を与えることもできる。図中の編目を囲む四角形の枠は、伏目処理を行うことを示す。伏目を行うコースについては、キャリッジの動きが複数回必要となるため、上記左右方向の矢印は省略する。
【0026】
なお、以下の説明では説明の便宜上、実際の編成で使用される編針数に比べて極小数の編針のみを使用し、1本おきの編針を使う針抜き編成としている。前針床で前編地を編成する際、前針床において編目が係止されている編針と対向する後針床の針は空針となり、この空針は、また、後針床で後編地を編成する際には、後針床において編目が係止されている編針と対向する前針床の編針は空針となるので、前後の編地はそれぞれ対向する針床に目移し可能となり、または裏目編成用の空針を常に確保することができる。また、各編針を区別する場合、前針床Fの編針の位置には、A〜Z、AA〜GGなどのように大文字の符号を付け、後針床Bの編針の位置には、a〜z、aa〜ggなどのように小文字の符号を付けて、それぞれ示す。ただし、各針床で編針が存在する範囲は、符号を付けた範囲外にも広がっているものとする。さらに、符号は、各図のうち、一番上のコースにのみ記載する。
【0027】
図2のコース1では、第一給糸口から編針j、K、l、M、n、Oに対して給糸し、また、第三給糸口から編針r、S、t、U、v、Wに対して給糸して、編み出し部分1と編み出し部分11で編み出し編成を行う。すなわち、編み出し部分1,11は、前後の針床にジグザグ状に編糸を掛けて編成される。
【0028】
コース2では、第一給糸口から編針K、M、Oへ給糸し、第二給糸口から編針j、l、nへ給糸して、それぞれ第一リング状編地3の前編地5と後編地6を編成する。また、第三給糸口から編針S、U、Wへ給糸し、第四給糸口から編針r、t、vへ給糸して第二リング状編地4の前編地15と後編地16を編成する。編み出し部分1,11は、横編機に備えられる編み出し機構などで、歯口から引き下げられる。各編地が、所望の長さになるまでコース2の編成を左右方向に繰り返し行い、リングの大きさを調整する。
【0029】
コース3では、第二リング状編地4の後編地16が第一リング状編地3の前編地5と後編地6の間を挿通する位置へと目移しを利用し移動する。この場合、後針床を基準位置から左に14針ラッキングした位置で目移しを行う。なお、横編機によっては、14針のような比較的大きい針数分のラッキングが不可能な場合もあり得る。またラッキングは可能でも、編成する編地の編幅が大きく、針床にラッキングと目移しとで、編地を相対的に移動させる余地がない場合もあり得る。このような場合は、より少ない針数分のラッキングを繰り返して行えばよい。
【0030】
コース4では、上記コース3にて移動した状態から、後針床を基準位置までラッキングした状態で、第一リング状編地3の前編地5と後編地6を接合する。接合は、公知の伏目方法で行う。
【0031】
コース5では、コース4にて接合した第一リング状編地3に対して、リングの開口部を通過している第二リング状編地4の後編地16を、前編地15と接合するために、左に14針ラッキングし、後針床の編針へ目移しする。コース6では、第二リング状編地4の前編地15と後編地16を接合し、編幅方向に開口する二つのリング状編地3、4をチェーン状に無縫製に形成することが完了する。
【0032】
また、上記第一実施例では、二つのリング状編地をチェーン状に形成する方法を示したが、コース5とコース6で、前編地15と後編地16を伏目して接合する前に、新しいリング状編地を形成し、コース3からコース6の同じ工程を経た後接合を行うようにしてもよい。同様の繰り返しを行うことで、リングの数を増やしたチェーン状編地が形成される。
【0033】
図3および図4は、第二実施例によって編まれたチェーン状編地20の概略的な構成およびその編成工程の概要をそれぞれ示す。第一実施例では一つのリングと一つのリングを交差させて二つのリング状編地をチェーン状に形成する方法を示したが、第二実施例では二つのリングと一つのリングを交差することで三つのリング状編地をチェーン状に形成する方法を示す。また、図4において、各リング状編地の編成には、第一実施例と同様に2個の給糸口を用いるものとする。
【0034】
図4のコース1では、第一実施例と同じように図示されない第一給糸口から編針b、C、d、E、f、Gに対して給糸し、また、第三給糸口から編針j、K、l、M、n、Oに対して給糸し、第五給糸口から編針r、S、t、U、v、Wに対しそれぞれ編成糸を給糸して、三箇所で編み出し編成を行う。以下、第三リング状編地7の前編地25を黒四角、後編地26を白四角をとして表現する。
【0035】
コース2では、第一給糸口から編針C、E、Gへ給糸し、第二給糸口から編針b、d、fへ給糸して、それぞれ第一リング状編地3の前編地5と後編地6を編成する。また、第三給糸口から編針K、M、Oへ給糸し、第四給糸口から編針j、l、nへ給糸して、それぞれ第二リング状編地4の前編地15と後編地16を編成する。また、第五給糸口から編針S、U、Wへ給糸し、第六給糸口から編針r、t、vへ給糸してそれぞれ第三リング状編地7の前編地25と後編地26を編成する。編み出し部分1,11,21は、横編機に備えられる編み出し機構などで、歯口から引き下げられる。各編地が、所望の長さになるまでコース2の編成を繰り返し行い、リングの大きさを調整する。
【0036】
コース3では、ラッキングの基準となる相対する前後の針床が揃っているL0Pの位置で、前針床で編目を係止する編針(C、E、G、K、M、O、S、U、W)の編目を後針床で編目を係止していない編針(c、e、g、k、m、o、s、u、w)に目移しを行う。編機の制限により一度にラッキング処理ができない場合、コース4〜7で示すように、対向する針床へ一時的に編目を預けて、少ないラッキング量の回数を重ねて対処することもでき、編幅が広い編地にも行える。
【0037】
コース4では、コース3で後針床に編目を預けた状態から後針床を右方向に6針ラッキングし、預けておいた編目を前針床に戻す。コース5では、さらにコース4の最終の位置から左方向に12針後針床をラッキングし、前針床の編目を再度目移しする。続いて、コース5の最終の位置から右方向に6針ラッキングし、コース6で後針床に目移しした前編地の編目を前針床に戻す。
【0038】
コース7では、第一実施例のコース3と同様の編成を行うが、ここでは第三リング状編地7の後編地26をコース6の位置から左方向に10針ラッキングし、後編地26を前針床に目移しし、第一リング状編地3と第2リング状編地4のそれぞれの前後編地間を通過させる。
【0039】
コース8では、上記コース7にて移動した状態から、後針床を右方向に22針ラッキングし、第一リング状編地3と第二リング状編地4の各前編地と後編地を公知の伏目の方法で接合する。
【0040】
コース9では、第三リング状編地7の前編地25と後編地26を接合できる位置に移動する準備として、後編地26を後針床へ目移しする。
【0041】
コース10では、第三リング状編地7の前編地25と後編地26を伏目で接合し、編幅方向に開口する3つのリング状編地を無縫製によりチェーン状に形成することを完了する。
【0042】
図5、図6、図7および図8〜図10は、第三実施例によって編まれたチェーン状編地30の概略的な構成、チェーン状編地を構成する一つのリング状編地の概略的な構成、およびその編成工程の概要をそれぞれ示す。第三実施例は、複数のリング状編地40,50,60を、それぞれチューブ状に順次編成しながら、無縫製でチェーン状に連結する方法を示す。
【0043】
図5に示すチェーン状編地30は、第一のリング状編地40に、第二のリング状編地50が交差して連なる。さらに第二のリング状編地50には、第三のリング状編地60が交差して連なる。第三のリング状編地60には、第四のリング状編地70が交差して連なる。ただし、チェーン状編地30のうちの三つのリング状編地40,50,60の連鎖状態は、図3に示す状態のチェーン状編地20のリング状編地3,4,7と、実質的に同様である。編成直後には三つのリング状編地の配置が異なっているけれども、リング状編地の位置を変えれば、実質的に同一の配置にすることができる。
【0044】
図6は、(a)で図5のチェーン状編地30を構成する第一のリング状編地40の概略的な構成を示し、(b)で第一のリング状編地40を形成する途中の状態を示す。第二のリング状編地50、第三のリング状編地60および第四のリング状編地70も同様の構成を有する。
【0045】
図6(a)に示すように、第一のリング状編地40では、編み出し部分41からウエール方向の一方42に筒状編地43が形成され、終端が編み出し部分41と接合するための伏目部分44となる。すなわち、筒状編地43は周方向に環状となるばかりではなく、チューブ状編地としての軸線方向も環状となってリング状編地40を形成する。リング状編地40が開口する方向は、筒状編地としての編幅の方向に平行である。
【0046】
なお、(a)で示すような外観は、編幅が比較的小さい状態を示す。編幅が大きくなると、チューブ状に編成しても、帯状につぶれてしまい、図1および図3に示すようなリング状編地3,4,7と同等の外観となる。ただし、帯状の形状は、表裏二枚の編地で形成される。単一の平編地では表目と裏目とで異なる編地の影響がでて編地がコース方向に丸くなりやすいけれども、チューブ状の編地をつぶして形成される帯状の編地では、編地の表裏の影響が相殺されて、平坦な形状を保ちやすくなる。また、編み出し部分41と終端とを接合する伏目部分44は一箇所に形成されるのみであるので、強度も向上させることができる。なお、このように、編み出し部分からウエール方向の片側に編地を編成して、終端で編み出し部分に接合してリング状に編地を形成する方法は、単一の帯状編地にも適用することができる。また、チェーン状編地は、単一の帯状編地によるリング状編地と、チューブ状編地によるリング状編地とを連結して形成することもできる。
【0047】
図6(b)に示すように、第一のリング状編地40を形成するための筒状編地43は、編み出し部分41に続き、ウエール方向の片側42で編成する。編み出し部分41は、後述するように掛け目として編針に係止しておき、筒状編地43の終端の編目を、編み出し部分41の掛け目に接合する。筒状編地43の編成は、たとえば前針床を使用して内側の編地を編成し、後針床を使用して外側の編地を編成する。内側の編地と外側の編地とは、一つの給糸口から編糸を供給する周回編成で筒状に編成することができる。この間、編み出し部分41の掛け目は、たとえば、前針床で内側の編地の編成に使用しない編針に係止しておく。
【0048】
図7は、第一のリング状編地40を無縫製でリング状に形成する概略的な編成手順を示す。図7では、編針を升目で示し、升目の中の図形で編目の状態を示す。「V」は、掛け目を示す。白抜きのV字は、第一のリング状編地を形成するチューブ状編地のうちで外側となる編地に連なる掛け目を示す。白抜きでないV字は、チューブ状編地のうちで内側となる編地に連なる掛け目を示す。丸印は、編目を示す。丸印内に細い斜線を施してある編目は、外側の編地として編成するものを示す。丸印内に太い斜線を施してある編目は、内側として編成するものを示す。給糸して掛け目または編目を形成する状態は、太い線で示す。上下の矢印は、目移しを示す。
【0049】
コースr1では、給糸口から前後の編針A、b、E、f、I、jにジグザグ状に編糸を給糸する。コースr2では、給糸口から前後の編針C、d、G、h、K、lにジグザグ状に編糸を給糸する。コースr1およびコースr2では、同一の給糸口を使用し、以下の編成でも同一の給糸口を使用する。コースr3では、後針床の編針d、h、lに係止している掛け目を、前針床の編針D、H、Lに目移しする。
【0050】
コースr4では、後針床の編針b、f、jに編目を形成し、これらの編針b、f、jにコースr1で形成した掛け目はノックオーバさせる。ノックオーバされた掛け目と同時にコースr1で形成された掛け目45oは、前針床の編針A、E、Iに残る。コースr5では、前針床の編針D、H、Lに編目を形成し、これらの編針D、H、Lに、コースr2で後針床の編針d、h、lに形成してからコースr3で編針d、h、lから目移しした掛け目は、ノックオーバさせる。ノックオーバされた掛け目と同時にコースr2で形成された掛け目45iは、前針床の編針C、G、Kに残る。コースr4とコースr5とによる周回編成を繰り返し、筒状編地43をチューブ状に形成する。ただし、編み出し部分41の掛け目45o、45iが前針床に係止された状態であるので、歯口から編み出し機構などで引き下げることはできない。横編機が編地を歯口で押し下げるシンカ機構などを備えていれば、このようなチューブ状編地の編成を円滑に行うことができる。
【0051】
チューブ状編地の編成が終了すると、コースr6では、前針床の編針D、H、Lに係止している終端の編目を、後針床の編針d、h、lに目移しする。コースr7は、編み出し部分の掛け目45o、45iが前針床に、筒状編地の最終コースの編目46o、46iが後針床に、それぞれ係止されている状態を示す。この後、前針床の編針C、G、Kに係止される掛け目45iと後針床の編針d、h、lに係止されている編目46iとの間の伏目処理で、内側の編地を接合する。前針床の編針A、E、Iに係止される掛け目45oと後針床の編針b、f、jに係止されている編目46oとの間の伏目処理で、外側の編地を接合する。
【0052】
図8、図9および図10は、図5に示すようなチェーン状編地30を編成する手順の一例を概略的に示す。コース1〜コース5の各コースは、図7のコースr1〜コースr5の各コースにそれぞれ対応する。
【0053】
ただし、第一のリング状編地40については、図8の編針J〜U;j〜uが図7の編針A〜L;a〜lにそれぞれ対応する。第二のリング状編地50については、図8の編針V〜GG;v〜ggが図7の編針A〜L;a〜lにそれぞれ対応する。すなわち、図8のコース1では、第一のリング状編地40編み出し部分41の外側41oを編針J、k、N、o、R、sに、第二のリング状編地50の編み出し部分51の外側51oを編針V、w、Z、aa、DD、eeに、図7の編針A、b、E、f、I、jと同様に、それぞれジグザグ状に形成する。コース2では、編み出し部分41,51の内側41i,51iを、編針L、m、P、q、T、u;X、y、BB、cc、FF、ggに、図7の編針C、d、G、f、I、jと同様に、それぞれジグザグ状に形成する。コース3では、編み出し部分41,51の外側41o,51oのうち、後針床の編針m,q,u;y,cc,ggで係止している掛け目を前針床の編針M,Q,U;Y,CC,GGに目移しする。
【0054】
コース4では、編み出し部分41,51のうちの外側41o,51oとしてコース1で形成した掛け目のうち、後針床の編針k,o,s;w,aa,eeに係止する掛け目に続けて、筒状編地43,53のうちの外側43o,53oの編目を形成する。編み出し部分41,51の外側41o,51oのうち前針床の編針J,N,R;V,Z,DDに係止する掛け目45o,55oは残される。コース5では、編み出し部分41,51のうちの内側41i,51iとしてコース2で後針床の編針m、q、u;y、cc、ggに形成し、コース3で前針床の編針M,Q,U;Y,CC,GGに目移しして係止する掛け目に続けて、筒状編地43,53のうちの内側43i,53iの編目を形成する。編み出し部分41,51の内側41i,51iで前針床の編針L,P,T;X,BB,FFに係止する掛け目45i,55iは残される。以下、コース4,5を必要なコース数だけ繰返し、筒状編地43,53を周回編成で形成する。なお、コース4を繰返す際には、筒状編地43では、前針床の編針Uから後針床の編針sに編糸が移ってから、さらに編針o、kに編糸が供給される。また、筒状編地53では、前針床の編針GGから後針床の編針eeに編糸が移ってから、さらに編針aa、wに編糸が供給される。
【0055】
コース6は、筒状編地43,53を必要なコース数だけ編成し、目移しで、終端の編目46,56を、第一のリング状編地40では後針床、第二のリング状編地50では前針床にそれぞれ移動させた状態を示す。コース7は、ラッキングによって、後針床を前針床に対して右に11針分だけ振り、第二のリング状編地50の終端の編目55を後針床に目移しで移動させた状態を示す。
【0056】
図9のコース8は、ラッキングによって、後針床を前針床に対して、左に13針分だけ振り、第二のリング状編地50の終端の編目56を、前針床に目移しして移動させた状態を示す。終端の編目56は、コース7で後針床に移動する前の状態から、合計24針分だけ左に移動している。コース9は、後針床をL0Pの基準位置に戻す。第一のリング状編地40の編み出し部分41の掛け目45と筒状編地43の終端の編目46とは、前後の針床にそれぞれ係止され、コース6で目移しを行う直前の位置関係に戻る。ただし、第二のリング状編地50との交差が伴われている。
【0057】
コース10では、第一のリング状編地40で編み出し部分41の掛け目45と筒状編地43の終端の編目46との間で伏目部分44を形成する伏目処理を行い、チューブ状編地の始端と終端とを接合する。この伏目処理は、種々の手法が知られている。また、実際の伏目処理には、複数の行程が必要となるけれども、簡略化して示す。伏目処理で第一のリング状編地40が形成されると、コース11として示すように、針床から離脱して歯口に落下する。
【0058】
コース12では、コース10で伏目処理を行ったスペースに、第三のリング状編地60の編み出し部分61の外側61oを形成する。コース13では、編み出し部分61の内側61iを形成する。コース14では、編み出し部分61の内側61iのうち、後針床の編針m,q,uに係止されている掛け目を、前針床の編針M,Q,Uに目移しする。
【0059】
図10のコース15では、後針床の編針k,o,sに残る編み出し部分61の外側61oの掛け目に続いて、筒状編地63の外側63oの編目を形成する。編み出し部分61の外側61oで前針床の編針J,N,Rに係止する掛け目65oは残される。コース16では、編み出し部分61のうちの内側61iで、前針床の編針M,Q,Uに係止する掛け目に続けて、筒状編地63のうちの内側63iの編目を形成する。編み出し部分61の内側61iで前針床の編針L,P,Tに係止する掛け目65iは残される。以下、コース15,16を必要なコース数だけ繰返し、筒状編地63を周回編成で形成する。なお、コース15を繰返す際には、筒状編地63として、前針床の編針Mから後針床の編針kに編糸が移ってから、編針k、o、sに編糸が供給される。
【0060】
コース17では、目移しで、第三のリング状編地60の終端の編目66を後針床に移動させる。コース18では、ラッキングによって、後針床を前針床に対して13針分だけ左に振り、第二のリング状編地50の終端の編目56を前針床から後針床に目移しで移動させる。コース19では、ラッキングによって、後針床を前針床に対して11針分だけ右に振る。コース19は、コース18での位置関係よりも、後針床が前針床に対し、合計24針分だけ右に移動している。ラッキングの後、第二のリング状編地50の終端の編目56は、後針床から前針床に目移しで移り、後針床には、第三のリング状編地60の終端の編目66が残る。コース20では、後針床を前針床に対する基準位置L0Pに戻し、前針床から第二のリング状編地50の終端の編目56を後針床に目移しで戻す。前針床には、第二のリング状編地50の編み出し部分51の掛け目55が残っているので、掛け目55と終端の編目56との間に伏目部分54を形成する伏目処理を行い、チューブ状に形成される筒状編地53を軸線方向の両端で接合する。同様に、コース21で、第三のリング状編地60の掛け目65と終端の編目66との間で伏目処理を行い、伏目部分64を形成する。
【0061】
コース1からコース21までで、第一のリング状編地40、第二のリング状編地50および第三のリング状編地60が交互に交差して、三つのリング状編地40,50,60によるチェーン状編地30が形成される。コース20とコース21との間に、たとえば第四のリング状編地70を形成する手順を入れれば、図5に示すような四つのリング状編地40,50,60,70が連なるチェーン状編地30を得ることができる。
【0062】
なお、編み出し部分41,51,61の掛け目45,55,65を前針床に残し、周回編成は前後の針床を使用し、伏目処理は、筒状編地43,53,63の終端の編目46,56,66を後針床に目移ししてから行うようにしているけれども、前針床と後針床とは、逆にすることもできる。また、筒状編地43,53,63ではなく、図1および図3に示すような単一の編地でも、前後一方の針床に編み出し部分の一部を係止しておき、前後他方の針床で必要なコース数の編地を編成してから、終端を編み出し部分と伏目処理で接合するようにしてもよい。また、筒状編地43,53,63は、周回編成ばかりではなく、たとえば前後の針床で異なる給糸口を使用し、編幅の両端で編地を連結しながら、各針床でそれぞれ編地を編成して、チューブ状の編地を形成し、軸線方向の両端を接合してリング状編地を形成することもできる。
【0063】
図5に示すようなチェーン状編地30は、衣類などの編地の付属編地として、装飾などに利用することができる。また、バッグや袋などの取っ手として利用することもできる。また、チェーン状編地30自体でも、身体に装着する飾りなどとして利用することができる。
【0064】
また、上記した各実施例では、二枚ベッドの横編機を用いてリング状編地を編成するようにしているが、上部前針床、下部前針床、上部後針床、そして下部後針床からなる四枚ベッドの横編機を用いて編成することもできる。四枚ベッドの横編機を用いる場合には、例えば、下部前針床に前側編地を付属させ、下部後針床に後側編地を付属させる。そして、上部後針床を、前側編地を編成する際の空針として前側編地の目移しや、裏目の形成等に用い、上部前針床を、後側編地を編成する際の空針として後側編地の目移しや、裏目の形成等に用いる。
【0065】
さらにまた、チェーン状に形成される各リング状編地の大きさは、編幅、リングの大きさについて、必ずしも同一のものにする必要は無く、異なる大きさにして組み合せても良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第一実施例のチェーン状編地10の外観構成を示す斜視図である。
【図2】第一実施例の概略的な編成工程図である。
【図3】第二実施例のチェーン状編地20の外観構成を示す斜視図である。
【図4】第二実施例の概略的な編成工程図である。
【図5】第三実施例のチェーン状編地30の外観構成を示す斜視図である。
【図6】図5に示す第一のリング状編地40の概略的な構成、および編成途中の状態を示す斜視図である。
【図7】図6に示す第一のリング状編地40を無縫製で形成する概略的な編成手順を示す図である。
【図8】図5に示すチェーン状編地30の概略的な編成手順の前部分を簡略化して示す図である。
【図9】図5に示すチェーン状編地30の概略的な編成手順の中部分を簡略化して示す図である。
【図10】図5に示すチェーン状編地30の概略的な編成手順の後部分を簡略化して示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1、11、21、41、51、61 編み出し部分
2、12、22、44、54、64 伏目部分
3、4、7、40、50、60 リング状編地
5、15、25 前編地
6、16、26 後編地
10、20、30 チェーン状編地
43、53、63 筒状編地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて無縫製でそれぞれ環状に編成される複数のリング状編地を有し、
各リング状編地は、他の少なくとも一つのリング状編地と相互に交差していることを特徴とする無縫製チェーン状編地。
【請求項2】
前記リング状編地は、チューブ状編地が軸線方向でも環状となるように編成されていることを特徴とする請求項1記載の無縫製チェーン状編地。
【請求項3】
前記リング状編地は、編幅方向に開口することを特徴とする請求項1または2記載の無縫製チェーン状編地。
【請求項4】
少なくとも前後一対の針床を有し、前後の針床が相対的にラッキング可能に構成された横編機を用いて、少なくとも二つのリング状編地をそれぞれ編成するに際し、隣接するリング状編地同士を、相互に交差させて無縫製のチェーン状編地を編成する方法であって、
各リング状編地は、
(1)リング状編地としての編み出し編成を行うステップ、
(2)編み出し編成に続けて、少なくとも前後のうちの一方の針床で編地を編成するステップ、
(3)前後の針床での編成後に各針床で係止する編地を接合してリング状編地を形成するステップ、
を含んでそれぞれ編成され、
隣接するリング状編地同士の交差は、いずれのリング状編地も(2)のステップまで編成されている状態でのラッキングを含む編目の移動で、一つのリング状編地の前後いずれか一方の針床で係止する編地を、他のリング状編地の前針床で係止する編地と後針床で係止する編地の間に挿通させて行うことを特徴とする無縫製チェーン状編地の編成方法。
【請求項5】
前記(2)のステップでは、前記編出しに続けてウエール方向の両側にそれぞれ編地を編成し、
前記(3)のステップでは、編出しの両側に形成される編地の終端の編目同士を接合することを特徴とする請求項4記載の無縫製チェーン状編地の編成方法。
【請求項6】
前記(2)のステップでは、前記編出し編成の編目を残して、ウエール方向の片側で編地を編成し、
前記(3)のステップでは、編出しの片側に形成される編地の終端の編目を、残している編み出し編成の編目に接合することを特徴とする請求項4記載の無縫製チェーン状編地の編成方法。
【請求項7】
前記ウエール方向の片側では、前記前後の針床でチューブ状に編地を編成することを特徴とする請求項6記載の無縫製チェーン状編地の編成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate