説明

無血管組織の修復を促進するための方法及び組成物

椎間板を含む損傷無血管領域の修復を必要とする患者における椎間板を含む損傷無血管領域を修復するための組成物及び方法を提供する。本発明は、1つ若しくは複数の不良な栄養領域又は不利な環境、すなわち無血管領域を有する損傷組織の修復に使用される組成物及び方法を提供する。不良な栄養領域又は不利な環境は、一般的に、組織が限られた血管血液供給を受ける又は血管血液供給を欠く部位、すなわち、本明細書で無血管移行領域又は無血管領域と呼ばれる部位にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷した無血管部位、例えば、椎間板の修復を促進するための組成物及び方法を提供し、より具体的には、本発明は、それを必要とする患者における無血管部位内又は無血管部位に隣接する最適化位置に環境に適応させた自己幹細胞を適用することを提供する。
【背景技術】
【0002】
無血管移行領域及び他の修復困難部位は、身体の多くの重要な組織に存在する。これらの領域は、組織、例えば、椎間板への血液供給が限られている若しくは欠如している部位又は組織の損傷が修復処置に抵抗する過酷な環境をもたらした部位に存在する。例えば、無血管組織が損傷を受けた場合、当組織への血液供給の欠如又は制限は、修復過程に対する重大な障害となる。これは、通常の負荷の問題が修復及び治癒を促進することを困難にする、椎間板、膝及び股関節部に特に当てはまる。
【0003】
1つの特に重要な体内の無血管移行領域は、直接的な血液供給が存在しない椎間板内にある。椎間板への栄養素は、軟骨下骨中の小毛細血管床を経て一般的に到達し、時間の経過とともに椎間板全体に広がる。さらに、椎間板は、歩行、走行などの軸方向負荷活動中に周囲組織から栄養素を吸引、言い換えれば、吸収することにより栄養素を受け入れる。
【0004】
椎間板は、脊柱の2つの椎骨を互いに分離させる衝撃吸収パッドである。これらの円板は、脊柱に3つの機能を本質的に与え、第1に直立位であるときに身体の軸方向負荷を支える衝撃吸収材としての役割を果たし、第2に2つの隣接する椎骨を一緒に保持する靭帯としての役割を果たし、第3に脊柱の曲げ及び回転の促進のための回転軸としての役割を果たす。
【0005】
ヒトは、脊柱に23個の円板、すなわち、頸部に6個、胸部に12個、腰部に5個を有する。各円板は、髄核、線維輪及び椎骨終板からなっている。髄核は、水に富み、ゼラチン様であり、円板の中心領域を含む。線維輪は、本質的に線維性であり、コラーゲンからなり、(髄核と比較して)水をほとんど含まず、髄核を取り囲んでいる。加圧髄核を含むために一連の薄層が線維輪に配置されている。さらに、椎骨終板は、各円板を隣接する椎体に付着させる役割を果たす。
【0006】
上述のように、円板の環境上の過酷な側面(無血管性、高圧、有害なpH等)及び修復中に円盤に置かれる困難な機械的要件(二足歩行運動に伴う応力及び歪み)のため、組織の修復及び再生は、損傷円板においては困難であることが証明された。幹細胞技術を利用する従来の修復方法論は、一般的にキャリア物質の存在下で髄核内への幹細胞(一般的に先在性非自己細胞系から得られる)の直接的な移植に焦点を合わせたものであった。これらの方法論は動物モデルにおけるいくつかの希望のもてる結果をもたらしたが、これらの修復は、変性椎間板疾患(DDD)又は他の同様な状態を有するヒトにおいてまだ実証されていない。これらの動物モデルにおける有望な結果は、動物に関する研究に用いられた椎間板変性モデルの急性性質に起因する可能性がある。例えば、これらの動物モデルにおける椎間板は、ヒトにおける長期にわたる変性椎間板より良好な血液供給状態で新たに変性させたものである。さらに、これらのモデルに用いられた動物は、二足性であるヒトに対して一般的に四足性であり、したがって、椎間板に対する負荷が異なる。最後に、これらのDDDモデルに用いられた動物は、若く、健康である傾向があり、DDDについて一般的に臨床で認められるコホートよりはるかに若い患者と年齢が同等である。したがって一般的に、従来の方法論は、幹細胞療法を必要とするヒト患者に認められるものと潜在的に非常に異なる損傷椎間板環境の修復及び再生に基づいている。
【0007】
椎間板における組織の修復及び再生に関連する問題は、股関節部、膝及び肩(回旋腱板を含む)においても一般的に見られる。これらの組織のそれぞれにおいて、過酷な環境上の側面が損傷又は老化によりしばしば確立され、この場合、無血管移行領域と困難な機械的必要条件とが相まって、低い幹細胞修復の成功のシナリオを構築する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の1つ又は複数の問題を克服することを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、1つ若しくは複数の不良な栄養領域又は不利な環境、すなわち無血管領域を有する損傷組織の修復に使用される組成物及び方法を提供する。不良な栄養領域又は不利な環境は、一般的に、組織が限られた血管血液供給を受ける又は血管血液供給を欠く部位、すなわち、本明細書で無血管移行領域又は無血管領域と呼ばれる部位にある。この点における領域又は環境としては、椎間板、股関節部(関節唇)、肩(回旋腱板を含む)及び他の同様な部位が挙げられる。本明細書における実施形態は、無血管領域の修復を必要とする患者からの幹細胞、例えば、間葉幹細胞の入手を含む。次に、入手した細胞を、患者の無血管領域の修復に使用される細胞の能力の最適化を可能にする環境にin vitroで条件づける。十分な数の最適化され、条件づけられた細胞が存在する場合、修復を必要とする無血管領域の標的部位に細胞を入れる。いくつかの実施形態において、該部位への血液の流れ/栄養素の流れを増大させるために血小板若しくは血小板溶解物(一般的に自己由来)及び/又は補給物処理を条件づけ細胞と併用して行う。血小板及び/又は補給物処理の時期は、一般的に条件づけ細胞の挿入の直前、挿入時又は挿入直後であるが、他の時期も考えられる。部位の修復を保証するために条件づけ細胞の挿入又は血小板/血小板溶解物/補給物処理(単数又は複数)のみの繰返しを含む処置を繰り返すことができる。
【0010】
一実施形態において、それを必要とする患者における損傷椎間板の修復に使用される組成物及び方法を提供する。一態様において、損傷椎間板の修復及び/又は再生に使用される細胞の能力を最適化する条件下での幹細胞の入手及び培養の方法を提供する。他の態様において、損傷椎間板組織の増殖及び再生を最適化するための損傷椎間板の標的部位へのこれらの条件づけ幹細胞の挿入の方法を提供する。他の態様において、損傷椎間板組織への、かつそれを通しての血流を増大させるための硬膜外補給物処理(epidural supplement treatment)と併用した患者体内の標的部位への条件づけ幹細胞の挿入の方法を提供する。さらに、本発明は、損傷椎間板を修復及び/又は再生することができる細胞の選択に専用の幹細胞の培養のための改良組成物を提供する。個別に、かつ/又は併用で、本発明の方法及び組成物は、(他の従来の技術と比べて)椎間板の修復及び再生の分野の驚くべき、かつ予期しない発展をもたらす。
【0011】
他の実施形態において、幹細胞(例えば、間葉幹細胞)は、椎間板の修復を必要とする患者から採取し、不良な栄養環境、他の点で不利な環境(例えば、pHが健常な細胞の増殖を促進することに通常調和する範囲内にない環境)、低酸素環境及び/又は損傷椎間板内の高い二酸化炭素レベルを示す環境に耐えることができる細胞を選択し、増殖することに基づく条件下で培養する。次いで、これらの条件づけ細胞を椎間板輪後部(posterior disc annulus)に移植する(髄核における移植を一般的に必要とする従来の方法論と比較)。場合によって、次いで椎間板輪後部への血流を促進するために硬膜外補給(増殖因子、サイトカイン、インテグリン、カドヘリン等)により患者を治療する。実施形態の各態様は、椎間板環境が移植細胞への栄養素及び酸素の増加をもたらすことを促進することに加えて、損傷椎間板環境において生存及び増殖することができる幹細胞も増加させ、選択する。さらに、損傷椎間板内の幹細胞の生存及び増殖を促進するために、自己血小板又は血小板溶解物組成物を選択される幹細胞と別個に又は併用投与することができる。別個又は併用で、本明細書におけるアプローチは、自己幹細胞に基づく椎間板修復の修復過程及び結果を向上させる。
【0012】
いくつかの事例において、椎間板の修復を必要とする患者から採取した幹細胞をin vitroで1〜10%酸素中で、より一般的には3〜7%酸素中で1〜28日間の期間中培養する。これは、患者の体内移植の前に細胞を培養する時間の約1/3からすべてに相当しうる。生存細胞、すなわち、低酸素条件下で増殖することができる細胞を生存能力について選択し、損傷椎間板内への移植のための十分な細胞を入手するためにこれらの低酸素条件下で増殖させる。選択される細胞は、損傷椎間板の酸素欠乏環境中で生存し、増殖し、最終的に修復する高い能力を有する。
【0013】
他の事例において、椎間板の修復を必要とする患者から採取した幹細胞をin vitroで高濃度二酸化炭素中で、より一般的には2〜10%二酸化炭素中で1〜28日間の期間にわたり培養する。これは、患者の体内移植の前に細胞を培養する時間の約1/3からすべてに相当しうる。生存細胞、すなわち、高二酸化炭素条件下で増殖することができる細胞を生存能力について選択し、損傷椎間板内への移植のための十分な細胞を入手するためにこれらの条件下で増殖させる。選択される細胞は、損傷椎間板のより高い二酸化炭素条件の環境中で生存し、増殖し、最終的に修復する高い能力を有する。この同じアプローチは、(傷害又は老化による)損傷股関節部及び/又は肩の無血管部位を修復/再生するために用いる幹細胞を選択するのに用いることができる。
【0014】
他の事例において、椎間板の修復を必要とする患者から採取した幹細胞をin vitroで低酸素及び高二酸化炭素条件下で培養する。in vitro培養条件は、細胞の総培養時間の1/3からすべての期間にわたって維持することができる。選択される細胞は、損傷椎間板で一般的に認められるより低酸素及びより高い二酸化炭素条件下で生存し、増殖し、修復する高い能力を有する。この同じアプローチは、(傷害又は老化による)損傷股関節部及び/又は肩の無血管部位を修復/再生するために用いる幹細胞を選択するのに用いることができる。
【0015】
他の事例において、椎間板の修復を必要とする患者から採取した幹細胞を栄養不良条件下で培養して、生存能力について選択し、これらの不良な栄養環境中で増殖させる。培養条件は、糖、アミノ酸、脂質、鉱物、タンパク質又は幹細胞の増殖を促進することを目的とする他の物質を添加したダルベッコ変法必須培地(DMEM)から調製した基礎細胞培養培地(又は他の同様な基礎培地)の使用を含む。増殖培地は、ウシ胎児血清、ヒト全血清、多血小板血漿、血小板溶解物等を含んでいても含んでいなくてもよい。しかし、これらの調製物は、低酸素、pHの変化又はある制限された栄養利用性などのヒト変性椎間板の局所環境を模倣するように特別に設計されている。この同じアプローチは、(傷害又は老化による)損傷股関節部(例えば、関節唇)及び/又は肩の無血管部位を修復/再生するために用いる幹細胞を選択するのに用いることができる。
【0016】
pH、使用済み培地の使用、標的部位が損傷椎間板に存在する場合に髄核細胞との共培養(それにより、培養細胞の送達の最終的な標的部位に近接して存在する環境因子を供給する)及び類似のものを含む、他の選択条件を用いて採取幹細胞を増殖することができる。いくつかの事例において本明細書で述べた2つ又はそれ以上の選択条件を用いて無血管部位の修復に用いる幹細胞を同定し、増殖させることができることも留意されたい。したがって例えば、不十分な栄養培地及び低酸素条件は、第1の患者に用いる幹細胞を選択するのに用いることができるが、pH及び二酸化炭素条件は、第2の患者における選択に用いることができる。これは、所定の患者における局所微小環境の実際の測定に基づいていてよい。
【0017】
さらなる事例において、損傷部位を有する同じ患者から血小板を入手し(採取し)、トロンビン及び塩化カルシウム(CaCl)で処理する。処理済み血小板は、損傷部位内への移植のために培養され、選択される幹細胞と併用する。血小板の処理は、損傷部位内への移植の前に1日から7日に、特に5日から7日に延長してもよいことに留意されたい。さらに、血小板は、選択される幹細胞の移植の直前、移植時又は移植後に移植することができる。そのような前条件づけ血小板は、損傷部位内の幹細胞の生存及び増殖の促進に有用な無血管領域環境中に標的増殖因子を放出することができる。或いは、又は併用で、増殖因子、サイトカイン、インテグリン等を選択される幹細胞とともに損傷部位内に直接投与することができる。一実施形態において、これらの増殖因子は、硬膜外腔に入るような例えば損傷椎間板の外側の周りに投与する。
【0018】
本発明のこれら及び様々な他の特徴並びに利点は、以下の詳細な説明を読むこと及び添付の特許請求の範囲を再検討することにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本明細書で述べた実施形態を用いた椎間板輪後部の血管及び移行血管領域への幹細胞の針による挿入の重ね合わせ経路の軸方向腰部像である。
【図2】図2は、本明細書で示した技術により単層培養中で増殖させたMSCを示す図である。
【図3】図3は、L5−S1椎間板(被験体ML)の椎間板輪後部へのMSC及び血小板由来VEGF上清の注射位置の例示的な蛍光顕微鏡像である。椎間板輪後部における造影剤の濃度に留意されたい(造影剤の流れを青により強調)。
【図4】図4は、幹細胞移植後に実施した血小板由来VEGF上清の注射により達成された例示的な硬膜外流を示す図である。
【図5】図5は、手技の1ヵ月未満前に撮影したMLショートタウ反転回復(STIR)画像を示す図である。この矢状スライスは、含まれる最大の程度のL5−S1椎間板脱出を示すように選択されている。ET=6、TR=4816.7、TE=48.1で、撮像時刻は午後1:01であった。この画像は、L5−S1における0.7cmの椎間板脱出を示している。椎間板中央部で測定されるL5−S1椎間板高さは、0.5cmであり、L4−L5では0.7cmと測定される。
【図6】図6は、同じSTIRパラメーターを用いたMLの手技後1ヵ月目の対応する矢状スライスを示す図である。ET=6、TR=4816.7、TE=48.1。撮像時刻は午前11:01であった。この画像は、L5−S1における0.3cmの椎間板脱出を示している。椎間板高さはL5−S1で0.5cmであり、L4−L5では0.7cmであることに留意されたい。
【図7】図7は、同じSTIRパラメーターを用いたMLの手技後5ヵ月目の対応する矢状スライスを示す図である。ET=6、TR=4816.7、TE=48.3。撮像時刻は午前10:23であった。この画像は、L5−S1における0.3cmの椎間板脱出を示している。椎間板高さはL5−S1で0.5cmであり、L4−L5では0.7cmであることに留意されたい。
【図8】図8は、含まれる最大の程度のL4−L5椎間板脱出部を通るMJMの手技前矢状スライスを示す図である。画像は、午後12:15に撮影した。ET=6、TR=4816.7、TE=48.1。L4−L5椎間板脱出は6mmと測定される。スライスの中央部で測定された椎間板高さは、L4−L5=8mm、L5−S1=7mm、S1−S2=5mmであった。
【図9】図9は、同じSTIRパラメーターを用いたMJMの手技後2ヵ月目の対応する矢状スライスを示す図である。ET=6、TR=4816.7、TE=48.1。画像は、午後12:35に撮影した。L4−L5椎間板脱出は3mmと測定される。椎間板高さは、手技前と同じと測定される:L4−L5=8mm、L5−S1=7mm、S1−S2=5mm。
【図10】図10は、MJMの手技後4.5ヵ月目を示す図である。これは、同じ撮像パラメーターを用いた対応する矢状STIRスライスである。ET=6、TR=4833.3、TE=48.2。画像は、午後12:27に撮影した。L4−L5椎間板脱出は3mmと測定される。椎間板高さは、手技前と同じと測定される:L4−L5=8mm、L5−S1=7mm、S1−S2=5mm。
【図11】図11は、最大の程度のL5−S1椎間板脱出部を通るHOの手技前矢状STIRスライスを示す図である。ET=6、TR=4816.7、TE=48.3。画像の時刻は、午前11:26であった。L5−S1椎間板脱出は、9mmと測定される。椎間板高さの測定:L4−L5=6mm、L5−S1=8mm。
【図12】図12は、HOの手技後6週目の対応する矢状STIRスライスを示す図である。撮像パラメーターは、ET=6、TR=4816.7、TE=48.3に一定に維持した。画像の時刻は、午前11:25であった。L5−S1椎間板脱出は、8mmと測定される。椎間板高さの測定:L4−L5=6mm、L5−S1=8mm。
【図13】図13は、HOの手技後3.5ヵ月目の対応する矢状STIRスライスを示す図である。撮像パラメーターは、ET=6、TR=4816.7、TE=48.3に一定に維持した。画像の時刻は、午後1:10であった。L5−S1椎間板脱出は、9mmと測定される。椎間板高さの測定:L4−L5=6mm、L5−S1=8mm。
【図14】図14は、椎間板輪後部であった意図した標的より髄核造影に特有の、HOにおける造影剤の流れ(青で強調)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、1つ若しくは複数の不良な栄養領域又は不利な環境、すなわち無血管領域を有する損傷組織の修復に使用される組成物及び方法を提供する。不良な栄養領域又は不利な環境は、一般的に、組織が限られた血管血液供給を受ける又は血管血液供給を欠く部位、すなわち、本明細書で無血管移行領域と呼ばれる部位にある。この点における領域又は環境としては、椎間板、股関節部、肩(回旋腱板を含む)及び他の同様な部位が挙げられる。本明細書における実施形態は、無血管領域の修復を必要とする患者からの幹細胞、例えば、間葉幹細胞の入手を含む。次に、入手した細胞を、患者の無血管領域の修復に使用される細胞の能力の最適化を可能にする環境にin vitroで条件づける。十分な数の最適化され、条件づけられた細胞が存在する場合、修復を必要とする無血管領域の標的部位に細胞を入れる。いくつかの実施形態において、該部位への血液の流れ/栄養素の流れを増大させるために補給物処理を条件づけ細胞と併用して行う。補給物処理の時期は、一般的に条件づけ細胞の挿入の直前、挿入時又は挿入直後であるが、他の時期も考えられる。部位の修復を保証するために条件づけ細胞の挿入又は補給物処理のみの繰返しを含む処置を繰り返すことができる。
【0021】
本明細書における幹細胞の選択のための無血管領域の条件としては、1〜10%酸素、2〜10%二酸化炭素、pHの変化、栄養の変化及び同類のものの組合せが挙げられる。選択される細胞は、補給物、例えば、増殖因子、サイトカイン、インテグリン、カドヘリン及び同類のものと、かつ/又は処理済み自己血小板とともに修復部位に入れることができる。
【0022】
定義
以下の定義は、本明細書で頻繁に用いる特定の用語の理解を促進するために示すものであり、本開示の範囲を制限することを意味するものでない。
【0023】
「幹細胞(単数又は複数)」は、本明細書では、自己再生の特性及び潜在力を有する細胞を意味する。間葉幹細胞に関しては、これらの細胞は、多能性であり、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞、脂肪細胞及び他の同様な細胞に分化する能力を有する。
【0024】
膨隆は、本明細書では、椎間板の線維輪内への髄核の突出を意味する。
【0025】
椎間板ヘルニアは、本明細書では、線維輪の境界を越えた髄核の脱出を意味する。
【0026】
内包性椎間板ヘルニアは、本明細書では、線維輪の境界を越え、後部縦靭帯により閉じ込められている髄核の脱出を意味する。
【0027】
「患者」は、本明細書では、1つ又は複数の損傷又は老化無血管部位、例えば、損傷椎間板を有する哺乳動物、より一般的にはヒトを意味する。損傷椎間板に関して、損傷は、椎間板ヘルニア、膨隆椎間板、椎間板破壊、椎間板突出、椎間板脱出、椎間板腐骨化及び他の同様な椎間板の病気を含みうる。
【0028】
「血小板及び血小板溶解物」は、本明細書では同義で用いられ、血小板の溶解により放出された血小板に含まれる天然増殖因子の組合せを含む。これは、化学的手段(すなわちCaCl)、浸透圧による手段(蒸留HOの使用)、又は凍結/解凍処置により達成することができる。本発明の血小板溶解物は、全血から得ることもでき、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,198,357号に記載の通り調製することができる。
【0029】
「修復」又は「再生」は、同義で用いられ、標的無血管領域又は無血管領域に隣接する領域内の損傷部位の部分的又は完全な置換を意味する。例えば、椎間板の修復は、椎間板内の組織の部分的又は完全な修復又は置換を含む。修復又は再生は、通常は高齢化した患者における無血管領域の修復又は再生、すなわち、年齢により誘発された領域の損傷の修復も意味しうる。
【0030】
「環境」は、本明細書では、in vitro又はin vivoで細胞に作用又は影響を及ぼす一連のすべての条件を意味する。
【0031】
「低酸素症又は低酸素」は、本明細書では、環境において10%以下の酸素を有するin vitro又はin vivo状態を意味する。
【0032】
「補給物」又は補給物処理は、VEGF−A、PIGF、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、FGF、Ang1、Ang2、MCP−1エンドグリン、TGF−β、CCL2、VE−カドヘリンを含む増殖因子、サイトカイン、インテグリンを含む。
【0033】
本発明による実施形態は、損傷した無血管領域、例えば、椎間板の修復及び再生に有用な方法及び組成物を含む。本明細書における実施形態は、不良な栄養及び低酸素条件下での自己幹細胞の採取及び増殖により、無血管領域の修復により高い能力がある細胞が得られるという予期しない所見に基礎を置いている。さらに、条件づけ細胞と自己血小板の移植、並びに損傷部位への血流の促進により、修復の劇的な向上がもたらされる。移植は、1つ又は複数の補給物処理(血小板を含む又は含まない)も含みうる。最後に、本明細書における実施形態は、修復及び/又は再生をさらに促進するために損傷部位内の最適化部位へのこれらの条件づけ細胞及び補助物質の投与を含む。
【0034】
幹細胞
間葉幹細胞(MSC)は、再生医療における治療薬として大いに有望である。Alhadlaq, A.及びJ.J. Mao、Mesenchymal stem cells: isolation and therapeutics、Stem Cells Dev、2004年、13巻(4号)、436〜48頁。Barry, F.P.、Mesenchymal stem cell therapy in joint disease、Novartis Found Symp、2003年、249巻、86〜96頁; discussion96〜102、170〜4、239〜41。Bruder, S.P.、D.J. Fink及びA.I. Caplan、Mesenchymal stem cells in bone development、bone repair and skeletal regeneration therapy、J Cell Biochem、1994年、1994年、56巻(3号)、283〜94頁。Cha, J.及びV. Falanga、Stem cells in cutaneous wound healing、Clin Dermatol、2007年、25巻(1号)、73〜8頁。Gangji, V.、M. Toungouz及びJ. P. Hauzeur、Stem cell therapy for osteonecrosis of the femoral head、Expert Opin Biol Ther、2005年、5巻(4号)、437〜42頁。これらの成人幹細胞は、体内の多くの源から容易に分離することができる。Alhadlaq, A.及びJ.J. Mao、Mesenchymal stem cells: isolation and therapeutics、Stem Cells Dev、2004年、13巻(4号)、436〜48頁。さらに、それらは、多くの動物試験において筋肉、骨、軟骨、神経、腱及び様々な内部器官細胞に分化する能力を示した。椎間板の変性及び病変は、重大な身体障害及び相当額の医療費の主な原因である。Dagenais, S.、J. Caro及びS. Halderman、A Systematic review of low back pain cost of illness studies in the United States and internationally、Spine J、2008年、8巻(1号)、8〜20頁。椎間板切開術、固定術及び椎間板置換術などの外科的治療が臨床診療で用いられ、重大な病的状態を伴う可能性が大きい。de Kleuver, M.、F.C. Oner及びW.C. Jacobs、Total disc replacement for chronic low back pain: background and a systematic review of the literature、Eur Spine J、2003年、12巻(2号)、108〜16頁。Gotfryd, A.及びO. Avanzi、A systematic review of randomized clinical trials using posterior discectomy to treat lumber disc herniations、Int Orthop、2008年。Katonis, P.ら、Postoperative infections of the thoracic and lumbar spine: a review of 18 cases、Clin Orthop Relat Res、2007年、454巻、114〜9頁。結果として、外科的修正又は除去ではなく、椎間板(IVD)を修復する能力は、魅力的な治療選択肢である。Sakaiらは、MSCが模擬椎間板変性の穿刺モデルを用いた動物試験において椎間板修復の能力があることを示した。Sakai, D.ら、Regenerative effects of transplanting mesenchymal stem cells embedded in atelocollagen to the degenerated intervertebral disc、Biomaterials、2006年、27巻(3号)、335〜345頁。Sakai, D.ら、Differentiation of mesenchymal stem cells transplanted to a rabbit degenerative disc model: potential and limitations for stem cell therapy in disc regeneration、Spine、2005年、30巻(21号)、2379〜87頁。Sakai, D.ら、Transplantation of mesenchymal stem cells embedded in Atelocollagen gel to the intervertebral disc: a potential therapeutic model for disc degeneration、Biomaterials、2003年、24巻(20号)、3531〜41頁。発明者らは、動物IVDモデルとヒトIVDモデルとの間に多くの生理学的差異があることを認識した。これらは、ヒトにおける二足力学と比べてヒツジ、ブタ及びマウス動物における四足により生じた異なる力を含む。さらに、多くの動物研究者らによって用いられている変性椎間板疾患(DDD)のよく知られている穿刺モデルは、急性損傷椎間板の科学的同等物を生じさせる。ヒトDDDは、患者が内科的又は外科的治療を求める前にしばしば数十年間存在する。本明細書における実施形態(実施例参照)は、ヒト被験体の椎間板輪後部にVEGF強化血小板由来上清とともに経皮的に挿入したMSCは、有意な椎間板修復をもたらすことを示している。椎間板輪後部に細胞を入れる決定は、髄核内の明確な無血管、低密度栄養環境と比べてこの部位の血管化が高いことに部分的に基づくものであった。
【0035】
本発明の実施形態は、無血管部位の修復を必要とする患者からの幹細胞の採取を含む。本発明による幹細胞は、定義の項で上述した通りである。いくつかの実施形態において、幹細胞は、間葉幹細胞、すなわち、いくつかある細胞型の中で特に、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞、脂肪細胞及び膵島細胞に分化することができる多能性細胞である。本発明の目的のために、他の幹細胞型も用いることができ、本発明の範囲内にあるが、多くの実施形態を間葉幹細胞に関して述べることに留意されたい。
【0036】
本発明の態様による幹細胞の採取は、全体として参照により組み込まれる米国特許出願S/N PCT/us08/68202に記載されているものを含む。さらに、米国特許第5,486,359号、第6,387,367号及び第5,197,985号に記載されている方法及び組成物は、それらの全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
より詳細には、間葉幹細胞は、骨髄、末梢血、脂肪組織及び他の同様な源に存在する多能性幹細胞である。MSCは、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞、脂肪細胞及びベータ膵島細胞を含む多くの細胞型に分化する能力を有する。
【0038】
本発明の源MSCは、回復/置換療法(又は適切なドナー)を必要とする患者の腸骨稜(或いはIVD、骨膜、滑液又は椎体若しくは椎弓根(pedicle)などの他の源)から一般的に採取し、そのような患者は、本明細書で「必要とする患者又はそれを必要とする患者」と呼ぶ(脂肪組織、滑膜組織及び結合組織などの他の源が最近同定され、本発明の範囲内のMSC源ともみなされることに留意されたい)。一実施形態において、約10〜100ccの骨髄を採取し、Centenoへの米国特許出願60/761,441に記載されている方法を用いて又はCaplanらへの米国特許第5,486,359号に記載されているようにプラスチックへの付着により「分離する」。これらの参考文献のそれぞれは、すべての目的のためにそれらの全体として本明細書に組み込まれている。
【0039】
以下でより詳細に述べるように、本発明の実施形態は、ある程度のレベル又は量の血小板も必要とすることがある。したがって、本発明は、血小板又は血小板溶解技法を用いるために適切な有核細胞数を得ることを可能にするための標準的骨髄吸引手順の変更を組み込んでいる。さらに、これらの血小板は、全血から得ることができる。大多数の公表研究が再び健常なヒト又は動物において実施されているので、様々な疾患状態を有するヒトへのこの技術の適用は、全く試験されていない。各側について3つのわずか2〜3ccの骨髄分割試料(合計6つの分割試料)を吸引する変法を用いることにより、20%血小板溶解物中で増殖させるのに成功した必要な有核細胞の収量が得られたことに留意されたい。
【0040】
本明細書で用いる血小板及び血小板溶解物は、全体として参照により本明細書に組み込まれる、Doucetの方法(Doucet、Ernouら、2005年、J. Cell Physiol、205巻(2号)、288〜36頁)を用いて骨髄採取物から調製する。一般的な溶解物は、約数千万個から数千億個の血小板を含む。Martineauら、Biomaterials、2004年25巻(18号)、4489〜503頁(その全体として参照により本明細書に組み込まれる)により示されたように、血小板溶解物は、一貫したMSCの増殖を促進するのに必要な増殖因子を本質的に含む。一般的な実施形態において、血小板溶解物及びMSCは、自己由来であり、MSCの有効かつ一貫した増殖に有用な量で存在する(以下でより十分に述べる)。特に、TGF−ベータなどの増殖因子のレベルは、MSCを増殖するのに一般的に用いられるものより血小板溶解物中ではるかに低いが、血小板溶解物中に含まれている低レベルの増殖因子のすべてを一緒に用いる場合、著しい相乗効果が存在すると考えられていることに留意されたい。
【0041】
幹細胞の選択(選択圧)
採取した幹細胞は、幹細胞(一般的に間葉幹細胞)及び最終的に修復を必要とする部位、例えば、修復を必要とする椎間板に認められる条件と同様な環境条件下で生存でき、増殖する幹細胞を選択するために培養する。選択圧は、椎間板修復に関連するので、以下でより詳細に述べるが、同様な条件は、股関節部、肩及び類似のものについて存在し、確認される。
【0042】
Urbanら、Nutrition of the intervertebral Disc、Spine、2004年、29巻(23号)、2700〜9頁(その全体として参照により本明細書に組み込まれる)に述べられているように、損傷を受け、変性している椎間板は、不良な栄養並びに酸素環境をもたらす。この環境は、健常椎間板の環境と異なる。実際、損傷椎間板における移植間葉幹細胞の生存率を測定するために実施された試験で、不十分な細胞生存率結果が示され、少数の細胞が椎間板の修復の促進に必要な必要数の細胞を供給するように増殖することができるにすぎない(Wuertzら、Behavior of mesenchymal stem cells in the chemical microenvironment of the intervertebral disc、Spine、2008年、33巻(17号)、1843〜9頁、その全体として参照により本明細書に組み込まれる)。
【0043】
より詳細には、椎間板修復又は回復を必要とする患者から採取した幹細胞を培養条件下におく。一実施形態において、培地は、DMEM又は他の同様な培地から調製される基礎細胞培養培地である。培地には糖、アミノ酸、脂質、鉱物、タンパク質又は幹細胞の増殖を促進することを目的とする他の同様な物質を添加することができる。
【0044】
さらに、本明細書における実施形態は、採取され、増殖しつつある間葉幹細胞を損傷椎間板の環境を模擬する様々な大気条件下で培養することを含みうる。一実施形態において、採取された幹細胞をin vitroで1〜15%酸素中で培養する。いくつかの例において、採取された幹細胞を3〜10%酸素中で培養し、他の例において、採取された幹細胞を3〜7%酸素中で培養する。これらの低酸素条件は、典型的な損傷椎間板環境に存在する低酸素条件を再現するものである。低酸素条件は、幹細胞増殖期の一部又は全期間中に存在しうるが、一般的に当細胞をin vitroで培養する時間の少なくとも1/3の時間存在する。選択は、細胞を培養するときに起こり、生存し、最終的に増殖することができる生存細胞は、低酸素環境を有する椎間板内に移植されたときに利点を有する。
【0045】
他の実施形態において、採取された幹細胞をin vitroで高二酸化炭素条件下、一般的に2〜10%二酸化炭素中で培養する。採取された幹細胞は、条件が2〜10%二酸化炭素及び3〜10%酸素を含む、高二酸化炭素及び低酸素環境の組合せ環境中でさらに培養することができる。上記のように、選択は、細胞を培養するときに起こり、生存し、最終的に増殖することができる生存細胞は、高二酸化炭素環境又は低酸素環境と組み合わされた高二酸化炭素環境を有する椎間板内に移植されたときに利点を有する。
【0046】
他の実施形態において、採取された幹細胞を、採取され、培養された髄核細胞(NP細胞)又は線維輪細胞(AF細胞)と一緒に培養し、増殖させる。幹細胞と共培養するための髄核(NP)細胞は、針吸引又は他の同様な技術により椎間板修復を必要とする患者から採取することができる。これらのNP細胞又はAF細胞は、自己由来又は非自己由来であってよい。一般的実施形態において、約10〜10個のNP又はAF細胞を採取された幹細胞と共培養し、NP細胞及び/又はAF細胞放出因子及び廃棄物に反応する幹細胞の選択に有用な環境を提供させる。共培養条件は、不良な栄養環境、低酸素、高二酸化炭素及び本明細書で述べた他の開示された実施形態を含みうる。いくつかの実施形態において、NP細胞を幹細胞と別個のin vitroフラスコ(又は同様な容器)中で培養する。次いで、NP細胞培養からの使用済み培地を、幹細胞の培養時の上記の条件の培地と組み合わせることができ、或いはそのような条件下で生存能を維持し、最終的に増殖することができる幹細胞を増殖し、選択するために専ら用いることができる。
【0047】
他の実施形態において、採取された幹細胞を、損傷椎間板で認められるのと類似の修正pH条件下で培養し、増殖させる。例えば、(本明細書で述べたような)in vitro培地は、6.6〜7.0、より一般的に6.7〜6.9のpHを有するように修正することができる。修正pHは、本明細書で述べた培養条件のいずれかと組み合わせて、椎間板修復及び再生に用いる幹細胞の選択を促進することができる。
【0048】
他の実施形態において、採取された幹細胞を損傷椎間板で認められるのと類似の修正オスモル濃度条件下で培養し、増殖させる。例えば、(本明細書で述べたような)in vitro培地は、350〜600mOsm、より一般的に450〜500mOsmのオスモル濃度を有するように修正することができる。修正オスモル濃度は、本明細書で述べた培養条件のいずれかと組み合わせて、椎間板修復及び再生に用いる幹細胞の選択を促進することができる。
【0049】
他の実施形態において、1つ又は複数の増殖因子を含めることにより、1つ又は複数の選択条件下の幹細胞の生存及び増殖を修正することができる。これらの例において、選択下の細胞を、それら及び他の同様な因子の混合物を含む、TGF−ベータ、FGF、PDGF、IGF及び/又はHIF−1アルファの存在下で培養する。
【0050】
上記の幹細胞培養に基づく実施形態のそれぞれについて、条件(単数又は複数)を細胞標準培養環境に徐々に組み込むことができることに留意されたい。例えば、採取された幹細胞を最初に1又は2継代にわたって10%酸素中で培養し、次いで、1又は2継代にわたって9%酸素条件に移し、標的低酸素条件が得られるまで漸減レベルの酸素中で培養することができる。この手順のもとでは、細胞を損傷椎間板に存在する環境に徐々に適応させる。
【0051】
他の無血管領域の処置についても本発明の範囲内にあると想定されるが、以下の処理手順は、損傷椎間板の治療に関連して述べる。
【0052】
損傷椎間板の治療
上で述べた損傷椎間板モディファイアの少なくとも1つにより選択された幹細胞は、患者の損傷椎間板内への移植のための十分な数の細胞が存在するまで増殖させる。一般的な実施形態において、約10〜10個の選択される間葉幹細胞が損傷椎間板内への移植に必要である。
【0053】
培養細胞をPBS又は他の同様な緩衝液を用いて洗浄して、患者の体内への移植を意図しない物質、すなわち、培地成分、廃棄物等を含まない細胞集団を得る。幹細胞をNP細胞と共培養する場合、NP細胞集団は、細胞選別技術又はアフィニティークロマトグラフィーにより除去することはできるが、洗浄済み幹細胞は、NP細胞を含みうる。幹細胞は、今やそれを必要とする患者への移植の準備が整っている。
【0054】
一実施形態において、洗浄済み幹細胞を損傷椎間板の後部輪内に直接移植する。従来の方法論が髄核内への細胞の移植を示している通り、これは、幹細胞の移植の予期しない位置である。細胞は、経皮的x線ガイド又は外科的IVDアクセスによるものを含む当技術分野で公知の技術により損傷椎間板の後部輪内に移植する。14〜180日の期間が治療間で一般的であるが、損傷椎間板の修復手技に細胞移植の1回又は複数回の反復を用いることができる。
【0055】
他の実施形態において、治療を必要とする患者からの自己血小板をトロンビン及びCaClで約1〜7日間前処理する。この処理は、血管内皮増殖因子(VEGF)を選択的に発現するようにこれらの血小板を前処理するものである。いくつかの実施形態において、採取された血小板を約28.56U/mlトロンビン及び約2.86mg/mlCaClで前処理する。さらなる実施形態において、それを必要とする患者からの自己血小板をトロンビン、カルシウム又はその塩、トロンボキサンA2、アデノシン三リン酸及びアリキドネート(arichidonate)の組合せで前処理する。上記のように、前処理は、それを必要とする患者への移植1〜数日前であってよい。次いで、前処理済み自己血小板を前述の本発明の選択される条件づけ幹細胞の移植前、移植時又は移植後に移植する。血小板は、移植幹細胞と一般的に同じ位置に移植する。
【0056】
他の実施形態において、本発明の採取され選択された幹細胞は、VEGF−A、PIGF、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、TGF−β、Ang−1、Ang−2、IGF、HGF、FGF、Tie2、PDGF、CCL2、アルファ−Vベータ−5、アルファ−5ベータ−1、VE−カドヘリン、PECAM−1、プラスミノーゲン活性化因子及び酸化窒素シンターゼを含む、増殖因子、サイトカイン、インテグリン、カドヘリン又は新脈管形成、脈管形成又は動脈形成(aerteriogenesis)を促進することが公知の薬物を含む1つ若しくは複数の補給物又は補給物処理とともに移植する。代替の実施形態において、それを必要とする患者における移植に用いる幹細胞は、TGF−β、FGF、PDGF、IGF又は幹細胞及び/又は間葉幹細胞の幹細胞性若しくは増殖を促進することを目的とする他の同様な増殖因子を含む増殖因子の組合せとともに共移植する。いくつかの実施形態において、自己血小板又は血小板溶解物を前述の補給物と組み合わせて移植することができる。
【0057】
図1に重畳針穿刺による軸方向腰椎像を示す本発明の一実施形態の有用性を示す。本明細書で述べた実施形態を用いた条件づけ幹細胞を椎間板輪後部の血管及び移行血管領域に入れた。
【実施例】
【0058】
(実施例1)経皮的に移植した自己間葉幹細胞
方法:
被験体:
3例の患者被験体をIRB(Spinal Injury Foundation、Westminster、CO)承認済みMSC移植プロトコールに参加する意思に基づいて選択した。各被験体は、IRB承認済み同意書に署名した。被験体は、以下の組み入れ/除外基準に基づいて選択した。
【0059】
組み入れ基準:
1.年齢18〜65歳
2.保存的管理の失敗
3.椎間板突出又は内包性椎間板脱出(靭帯下)を伴う腰椎変性椎間板疾患
4.椎間板突出/神経を治療すべき疼痛発生源として確認した選択的神経根ブロック(主要な疼痛愁訴の>75%軽減)又は椎間板をP2疼痛発生源として確認した椎間板造影
5.T2加重MRI画像上の脱水を伴う又は伴わない正常椎間板高の少なくとも75%
6.外科的選択肢を求める意思がない
除外基準:
1.活動性炎症又は結合組織疾患(すなわち、狼瘡、線維筋痛、RA)
2.潜在的に症状を伴う活動性非矯正内分泌障害(すなわち、甲状腺機能低下、糖尿病)
3.潜在的に症状を伴う活動性神経障害(すなわち、末梢神経障害、多発性硬化症)
4.重度心疾患
5.薬剤の使用を必要とする肺疾患
6.呼吸困難又は自己血液製剤の輸液に対する他の反応の既往歴
手技前データ収集:
1.未知の医学的状態を除外するためにMSC移植の3ヵ月以内にCBC及び血液化学を得る。
【0060】
2.手技前MRI
3.手技前アウトカム測定
間葉幹細胞(MSC)の単離及び増殖:
骨髄採取処置の前の1週間にわたり患者がコルチコステロイド又はNSAIDを服用することを制限した。骨髄採取処置と同時にヘパリン加(Abraxis Pharmaceuticals)IV静脈血を採取して血小板溶解物(PL)を得るために用いた。血小板溶解物は、200gで遠心分離することにより、赤血球(RBC)から多血小板血漿(PRP)を分離して調製した。PRP容積を分割し、PLを生成するために−20℃で保存した。血小板溶解物を細胞培養培地に10〜20%で添加した。
【0061】
血小板由来のVEGFに富む上清もMartineauによって記載された方法に基づいて調製した(Martineau, I.、E. Lacoste及びG. Gagnon、Effects of calcium and thrombin on growth factor release from platelet concentrates:kinetics and regulation of endothelial cell proliferation、Biomaterials、2004年、25巻(18号)、4489〜502頁)。上記と同じPRP単離工程を用いて、PRPを抜き出し、分割量を28.56U/mLのヒトトロンビン(Johnson and Johnson)及び2.85mg/mLの塩化カルシウム(CaCl、American Regent)で37℃及び5%COで6日間活性化した。活性化PRP試料を3,000rpmで6分間遠心分離し、上清を抜き出し、−80℃で保存した。これは、後に増殖MSC培養と混合する注入液として、並びに硬膜外注射により送達する補給物注射用に用いた。
【0062】
全IV血採取と同時に、患者を手術室(OR)テーブル上に腹臥位とし、採取すべき部位を1%リドカインにより麻酔し、滅菌済みディスポーザブルトロカールを用いて、右PSIS部から10ccの骨髄血を、左PSIS部から10ccをヘパリン処理注射器に採取した。患者が局所麻酔により容易にコントロールされなかった痛みを骨髄採取中に報告した場合、仙骨硬膜外麻酔薬のみを加えた。
【0063】
全骨髄を200gで4〜6分間遠心分離して、RBCから有核細胞を分離した。有核細胞を除去し、別個の管に入れた。試料を1000gで6分間遠心分離し、ペレットとした。有核細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、GibCo)で1回洗浄し、計数し、次いで、10〜20%PL、5ug/mLドキシシリン(Bedford Labs)及び2IU/mLヘパリン(Abraxis Pharmaceuticals)を含むダルベッコの修正イーグル培地(DMEM、GibCo)に再懸濁した。有核細胞を組織培養フラスコに1×10細胞/cmで播種した。培養を加湿環境中で37℃/5%CO/5%Oでインキュベートした。48〜72時間後に培地を交換し、大部分の非付着細胞集団を除去した。MSCコロニーが6〜12日後に発生し、コロニー形成MSCのみが脱離するように動物由来原料不使用トリプシン様酵素(TrypLE Select、GibCo)を用いて採取した。MSCを増殖するために、それらを10〜20%PL、5ug/mLドキシシリン及び2IU/mLヘパリンを含むアルファ修正イーグル培地(AMEM、GibCo)中で6〜12,000細胞/cmの密度で平板培養し、37℃/5%CO/5%Oで集密状態近くまで増殖させた。骨髄由来の初代細胞を継代0と呼び、MSCの各後続の継代培養をさらなる1代継代とみなした。この単層細胞培養法により増殖させたMSCの形態の例については図2を参照のこと。MSCを第2〜第5継代まで継代培養した後、それらを採取し、洗浄し、注射用活性化PRPに懸濁した。
【0064】
経皮的移植手技
被験体をX線テーブル上で腹臥位とし、滅菌手袋及びドレープによりベタジンスワブを用いて準備した。AP蛍光透視像(Siemens Iso−C)を同側斜位により得た。頭側−尾側傾斜を調節することにより、注射すべき標的レベルの前終板を「オンエンド」で視覚化した。無菌法を用いて、22ゲージ7インチquinke針を二面蛍光透視下で治療すべきレベルの腰椎小関節面関節(lumber facet joint)の上関節突起に誘導し、小関節面を越えて、椎間板後部に進めた。椎間板アクセスが得られたならば、側面投影下で、近接のために治療前MRI撮像を用いて、椎間板突出の解剖学的位置にできる限り近い輪後部(posterior annulus)内に造影剤の流れ(Omnipaque 300mg/ml−NDC0407−1413−51 PBSにより50%希釈)を最大化するように針を位置決めした(図3参照)。血小板由来VEGF上清中で培養増殖させた自己MSCを注射し、針を抜去した。
【0065】
MSC移植後、1週目及び2週目に被験体は標的レベルにおけるVEGF由来上清を用いて実施した追加の経椎間孔(transformainal)硬膜外処置のために戻った。硬膜外処置は、同じ製剤を用いて実施した。硬膜外アクセスは、二面蛍光透視下で操作し、注射する標的レベルの椎弓根下(subpedicular)陥凹に向けて誘導した25ゲージ3.5インチquince針を用いて得た。椎弓根(pedicle)の上方及び下に及ぶ良好な硬膜外色素流が視覚化されたならば、VEGF由来上清及び4%リドカインを注射し、針を抜去した(図4参照)。術後治療プロトコールは、理学療法における又は在宅での4週間にわたる週3回の腰椎牽引からなっていた。
【0066】
撮像及び患者フォローアップ
GE 3.0Tesla Excite HDを用いて腰椎を撮像した。撮像シーケンスは、矢状ショートタウ反転回復(STIR)、矢状ファストグラジェントリコールエコー(FGRE)及びグラジェントリコールエコーファストスピン(GRE−FS)を含むものであった。画像を観察し、E−Film Workstation Version 1.5.3(Merge Healthcare)で測定した。マッチングTR/TE及びマッチング撮像面を用いた矢状ショートタウ反転回復(STIR)及びグラジェントリコールエコー(GRE)ファストスピン画像を用いた。これは、同じ患者における連続画像の解釈の誤りの可能性を減らすために実施した。日周性の影響を低減するために、撮像センターにできる限り同じ時刻に連続撮像を実施するように指示した。
【0067】
機能及び症状に関するフォローアップ質問を電話により開始し、患者から回答を得た。腰痛に関する修正VASスコアを取得し、「機能評価指数(Functional Rating Index)」(FRI)も得た。この質問は、患者の機能に焦点を合わせたものである(Feise, R.J.及びJ. Michael Menke、Functional rating index: a new valid and reliable instrument to measure the magnitude of clinical change in spinal conditions、Spine、2001年、26巻(1号)、78〜86頁; discussion87)。診察所来院も術後検査に用いた。これらは、以下の間隔で開始した。
【0068】
1.手技後6週目
2.手技後12週目
結果:
登録された3例の被験体の病歴及びアウトカムを以下に述べる。
【0069】
患者1:
HOは、19歳の白人女性で、持ち上げ(lifting)外傷及び女性の選択したスポーツに二次的であると考えられた腰痛の7年の病歴を有する大学のスポーツ選手であった。女性は、インターベンショナル疼痛管理医師による評価及び治療を含む広範な保存的療法を提示の前に4年間受けた。腰椎椎間関節は、関節内注射に対する陰性反応により疼痛発生源として除外された。MRIは、右側が悪い、両S1神経根に隣接するL5−S1椎間板突出を示した。椎間板造影により、L5−S1椎間板の疼痛の一致した再現を伴う症候性の輪後部の裂傷が明らかになった。手技の前に被験体は、可変性の重症度の一定の疼痛と、著しい機能の制限をもたらす身体活動に伴う右足のS1分布におけるしびれ及び刺痛感を述べた。
【0070】
被験体は、12週間を通して最大75%の改善を報告した。手技後6ヵ月目に、被験体は、報告された修正VAS疼痛スコア及び機能評価指数の変化をほとんど示さなかった。治療後MRI撮像結果の変化の対応する欠如が認められた。最大突出サイズの1mmの減少が6週目に認められたが、これは、3.5ヵ月目に手技前のサイズに戻った。すべての椎間板高測定値は、すべての撮像セッションにわたって同じままであり、撮影されたすべての画像の最大時間間隔は、1時間45分であった。HOに関する結果を図11、12及び13に示す。
【0071】
患者2:
MJMは、提示の前に腰痛の15年の病歴を有する35歳の白人男性であった。男性は、保存的療法の失敗及び活動に起因する重度の疼痛エピソードの増加しつつある頻度を報告した。MRIにより、腰椎化S1−S2セグメント、L5−S1における中等度の椎間関節侵食及び中等度の椎間孔狭窄を伴う広範囲椎間板膨隆が明らかになった。さらに、L4−L5における左より大きい右の後部内包性突出が存在していた。理学的検査では活動性神経根障害は示されなかったが、患者は悪化を伴う間欠性根症状を報告した。保存的管理の失敗の後に手術が勧告されたが、辞退した。L4−L5椎間板をこの治療の焦点とし、脱水L5−S1椎間板を対照とした。
【0072】
手技後6ヵ月目に、患者は、修正VASの3から0への改善と疼痛の頻度の80%以上の低下を示した(表1参照)。この患者のFRIスコアは、60%以上増加し、男性は全般的な症状の50%の改善を報告した。L4−L5椎間板膨隆矢状STIR画像は、術前MR画像におけるその最大程度の6mmと測定される(図8参照)。2ヵ月及び4.5ヵ月フォローアップフィルム(対応する画像シーケンス及びスライス−図9及び10参照)において、L4−L5膨隆は3mmに減少したことが認められ、L4〜S2椎間板のいずれにおいても椎間板高の変化は測定されなかった。画像を得た時刻は、20分以下の変動であった。
【0073】
患者3:
MLは、軍隊の訓練演習に伴う外傷性腰部損傷を有する24歳の白人女性であった。提示の時点で女性は3年間症候性であった。女性の訴えは、片脚及び時として両脚への電流が走るような痛み、長時間の座位又は立位での腰痛、並びに屈伸又はかがみによる疼痛からなっていた。女性は、理学療法からなる保存的管理を失敗した。手技前のMRIは、椎間板高の減少を示したが、L5−S1椎間板におけるいくぶん保存されたT2シグナルを示した(図5参照)。この椎間板は、後縦靭帯により含まれていた0.7cmの突出も有していた。輪後部は崩壊し、髄核から後縦靭帯までの高強度領域が存在していた。L4−L5椎間板は、より低いT2シグナルを有し、脱水されていたが、椎間板高の保存を示した。このレベルでの突出は0.4cmと測定され、椎間板の下中央部分に高強度領域が認められた。病歴、検査及びMRI所見に基づいて、L5及びS1における間欠性の横断(traversing)神経根刺激は、L4−L5及びL5−S1椎間板レベルにあると推定された。椎間板造影を実施したところ、両方が線維輪の裂傷を伴うL4−L5及びL5−S1における低圧調和的(concordant)疼痛(P2)が示された。MSC注射によりL5−S1椎間板のみを治療する決定を下し、L4−L5を無処置対照とした。
【0074】
手技後6ヵ月目(表1参照)にMLは、腰部修正VAS(1〜10スケール)の約40%の改善と疼痛の頻度の60%以上の低下を報告した。機能は、FRIにより測定したとき70%以上改善した。女性は、60%の症状の改善を自己報告した。女性の手技後の腰椎MRI撮像で、L5−S1椎間板突出のサイズが手技前の0.7cmから手技後1ヵ月目の0.3cmに、手技後5ヵ月目の0.4cmに減少したことが示された(図6及び7)。さらに、椎間板輪後部のHIZ部位のサイズは、両フォローアップフィルムで減少していた。画像取得の時間の差は、1.5時間以下であった。
【0075】
表1:腰部修正VAS及び頻度に関する手技前及び手技後6ヵ月目の報告されたアウトカム。1.0の頻度は、一定の疼痛に等しい。機能評価指数の測定並びに状態の変化の割合の自己報告。
【0076】
【表1】

表2:総MSC収量及び培養時間
【0077】
【表2】

考察:
3例の治療被験体のうちの2例が治療した椎間板突出のサイズの減少を示し、持続的な主観的及び機能改善を報告した。1例の被験体は、症状の一時的な減少及び椎間板突出のサイズのわずかな一時的な変化を示した後、治療前のベースライン測定値に逆行した。興味深いことに、この患者の椎間板輪後部に細胞を選択的に入れることが技術的に困難であり、椎間板輪後部への造影剤の流れが最適以下であった。発明者らは、この最適以下の挿入と被験体の持続的反応の欠如との相関を疑っている。Kogaらは、関節内腔に非特異的に注入されたMSCは軟骨病変を修復しなかったが、標的組織への付着を可能にする、欠陥部に直接的に適用したものは、修復ができたことを示した。HOの造影剤の流れ及びその後のMSCの流れ(図14参照)が主として髄核内への流れであったことに留意されたい。他の患者の髄核内に間葉幹細胞を直接入れた我々自身の未公表の臨床経験では観察できるMRI変化は起こらなかった。これらの所見も幹細胞の付着の位置が治療の成功に極めて重要であるという概念を裏付けていると思われる。特に、椎間板輪後部は、ある程度の血管潅流を維持しているが、無血管性髄核は、移植されたMSCの持続性の欠如をもたらしうる、十分に立証された最適以下の栄養環境を有する。Martin, M.D.、C.M. Boxell及びD.G. Malone、Pathophysiology of lumber disc degeneration:a review of the literature、Neurosurg Focus、2002年、13巻(2号)、E1頁。また注目すべきことに、HOは、最小の増殖性幹細胞の収量を有し、他の被験体より長い培養期間にわたって有意に少ない細胞が産生された(表2参照)。
【0078】
MSCは単層培養において線維芽細胞の形態を有する(図2参照)ので、観測された結果は、椎間板輪後部に選択的に挿入されたMSCの線維芽細胞分化に起因していた可能性がある。Awad, H.A.ら、In vitro characterization of mesenchymal stem cell−seeded collagen scaffolds for tendon repair:effects of initial seeding density on contraction kinetics、J Biomed Master Res、2000年、51巻(2号)、233〜40頁。Delorme, B.及びP. Charbord、Culture and characterization of human bone marrow、Mesenchymal stem cells、Methods Mol Med、2007年、140巻、67〜81頁。Xiang, Y.ら、Ex vivo expansion and pluripotential differentiation of cryopreserved human bone marrow mesenchymal stem cells、J Zhejiang Univ Sci B、2007年、8巻(2号)、136〜46頁。
【0079】
或いは、治療効果に寄与していた可能性がある他の変数は、フォローアップ血小板上清の硬膜外注射であった。Martineauらは、特殊なカルシウム及びトロンビン前処理を用いて調製した血小板上清が血小板(並びに他の増殖因子の宿主)からのVEGF脱顆粒の最大バーストをもたらすことを示した。Martineau, I.、E. Lacoste及びG. Gagnon、Effects of calcium and thrombin on growth factor release from platelet concentrates: kinetics and regulation of endothelial cell proliferation、Biomaterials、2004年、25巻(18号)、4489〜502頁。VEGFは、血管新生を引き起こすことが公知であり、ヒト変性椎間板(IVD)は、血管潅流が不十分であることが公知である。Maroudas, A.ら、Factors involved in the nutrition of human lumbar intervertebral disc:cellularity and diffusion of glucose in vitro、J Anat、1975年、120巻(Pt1)、113〜30頁。Wallace, A.L.ら、Humoral regulation of blood flow in the vertebral endplate、Spine、1994年、19巻(12号)、1324〜8頁。Pandya, N.M.、N.S. Dhalla及びD.D. Santani、Angiogenesis−− a new target for future therapy、Vascul Pharmacol、2006年、44巻(5号)、265〜74頁。
【0080】
これらの患者におけるIVD突出の減少の別の説明は、日周効果に帰せられた。Parkらは、MRIを朝及び夕に実施した場合の8例の無症候性志願者における椎間板膨隆のサイズの変化を実証した。Park, C.O.、Diurnal variation in lumber MRI、Correlation between signal intensity、disc height and disc bulge、Yonsei Med J、1997年、38巻(1号)、8〜18頁。これらの効果はこれらの被験体で発生した可能性があるが、患者の2例は、サイズが変化しなかった無処置対照椎間板を有していた。さらに、MRI試験を担当した単一撮像センターには、最初のスキャンの同じ時刻にできる限り近い時刻にフォローアップスキャンを実施するように指示した。結果として、患者の画像間の最大の時刻変動は、2時間未満であった。最後に、処置及び対照椎間板の高さを測定したところ、すべての被験体について有意な変化は認められなかった。日周変化が存在していた場合、吸水膨潤の効果に起因する椎間板の高さの有意な変動が予想されよう。椎間板突出サイズの減少の別の説明は、針外傷によって直接的に誘発される治癒効果であった可能性がある。Koreckiらは、in vitro動物モデルにおけるこの効果を検討し、真実に反して、針穿刺が椎間板の生体力学的損傷及びその全般的機能の低下をもたらした可能性があることを発見した。Korecki, C.L.、J.J. Costi及びJ.C. Iatridis、Needle puncture injury affects intervertebral disc mechanics and biology in an organ culture model、Spine、2008年、33巻(3号)、235〜41頁。さらに、動物におけるDDDを誘発するための標準モデルは穿刺損傷によるものであることに留意されたい。Niinimaki J.ら、Quantitative magnetic resonance imaging of experimentally injured porcine intervertebral disc、Acta Radiol、2007年、48巻(6号)、643〜9頁。
【0081】
結論:
この実施例は、血小板上清硬膜外補給とともに経皮的に移植された自己MSCは、内包性腰椎椎間板突出のサイズを減少させることができることを実証している。1例の患者が該療法に反応しなかった理由は不明であるが、反応の欠如は比較的に低いMSC収量並びにMSCの最適以下の挿入に起因していたと仮説を立てることが妥当である。
【0082】
この実施例におけるデータは、本明細書で述べた方法が当技術分野で記載された他の方法と比べて修復の驚くべき改善をもたらす、本発明の一実施形態の有用性を示している。他の無血管修復部位、例えば、肩、股関節部等に関するデータは、同様のレベルの改善を示すと予想される。
【0083】
本開示の様々な実施形態は、各従属請求項が先行する従属請求項のそれぞれの制限を組み込んでいる複数の従属請求項並びに独立請求項であったかのように、特許請求の範囲に挙げられている様々な要素の置換も含みうる。そのような置換は、明確に本開示の範囲内にある。
【0084】
本発明を多くの実施形態に関して特に示し、述べたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本明細書で開示した様々な実施形態の形態及び詳細の変更を行うことができ、本明細書で開示した様々な実施形態は、特許請求の範囲に対する制限として働くことを意図するものでないことは、当業者により理解されるであろう。
【0085】
本発明の記述は、例示及び記述の目的のために示したものであって、網羅的なもの又は本発明を開示した形態に限定することを意図するものではない。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。多くの修飾形態及び変形形態が当業者には明らかであろう。記述し、図に示した実施形態は、本発明の原理、実際的適用を最もよく説明し、当業者が予期される特定の用途に適するような様々な修正を含む様々な実施形態について本発明を理解することを可能にするために選択し、記述した。
【0086】
本明細書は、特許、特許出願及び刊行物の多くの引用を含む。それぞれがすべての目的のために参照により組み込まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性椎間板の治療を必要とする患者における変性椎間板を治療する方法であって、
前記必要とする患者から幹細胞を採取する工程、
前記採取された幹細胞を損傷椎間板の環境に対応する選択圧下で培養する工程、及び
前記選択された幹細胞を前記変性椎間板の椎間板輪後部に移植する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記選択圧が、前記採取された幹細胞を約3〜約10%酸素中で培養することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選択圧が、前記採取された幹細胞を約3〜約7%酸素中で培養することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記選択圧が、前記採取された幹細胞を約2〜約10%二酸化炭素中で培養することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記採取された幹細胞を約2〜約10%二酸化炭素中で培養することを含む前記選択圧をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記必要とする患者からNP細胞を採取する工程、及び
前記NP細胞を前記採取された幹細胞と選択圧下で共培養する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記幹細胞が間葉幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記必要とする患者から血小板を採取する工程、及び
選択された幹細胞を移植する前、移植の間又は移植後に前記血小板を移植する工程
をさらに含み、前記血小板及び前記幹細胞の移植が前記椎間板輪後部においてである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
椎間板輪後部に移植する1〜7日前に前記血小板をトロンビン及び塩化カルシウムで処理する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記トロンビンの量が28.56U/mlであり、前記塩化カルシウムの量が2.86mg/mlである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記血小板をトロンビン、塩化カルシウム又はその塩、トロンボキサンA2、アデノシン三リン酸及びアリキドネートで処理する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
増殖因子、サイトカイン、インテグリン、カドヘリン、新脈管形成を促進する分子若しくは薬物、脈管形成を促進する分子若しくは薬物、又は動脈形成を促進する分子若しくは薬物からなる群から選択される1つ又は複数の化合物を投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物が、VEGF−A、PIGF、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、TGF−β、Ang−1、Ang−2、IGF、HGF、FGF、Tie2、PDGF、CCL2、アルファ−Vベータ−5、アルファ−5ベータ−1、VE−カドヘリン、PECAM−1、プラスミノーゲン活性化因子または酸化窒素シンターゼである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
選択された幹細胞を前記椎間板輪後部に移植する前、移植の間又は移植した後に1つ又は複数の増殖因子を投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ又は複数の増殖因子がTGF−β、FGF、PDGF及びIGFからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記採取された幹細胞の培養をD−MEMベースから調製した基礎培地中で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
幹細胞、血小板、1つ又は複数の増殖因子及び薬学的キャリア又は希釈剤を含む薬学的組成物。
【請求項18】
前記幹細胞が間葉幹細胞である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記幹細胞を低酸素条件下でのその生存及び増殖の能力について選択した、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記幹細胞を損傷椎間板と同等の培養条件下での前記幹細胞の生存及び増殖の能力について選択した、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
無血管領域の治療を必要とする患者における無血管領域を治療する方法であって、
前記必要とする患者から幹細胞を採取する工程、
前記採取された幹細胞を損傷無血管領域又は老化無血管領域の環境に対応する選択圧下で培養する工程、及び
前記選択された幹細胞を前記無血管領域に移植する工程
を含む方法。
【請求項22】
前記無血管領域が患者の肩にある、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記無血管領域が患者の股関節部にある、請求項21に記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公表番号】特表2012−510874(P2012−510874A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539737(P2011−539737)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/066773
【国際公開番号】WO2010/065854
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(510004206)リジェネレイティブ サイエンシーズ, エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】