説明

無酸素性運動向上剤及び無酸素性運動向上用の食品

【課題】
ミドルパワーや間欠的無酸素性運動など無酸素性運動を向上させることが可能な新規な物質を提供することである。
【解決手段】
本発明の無酸素性運動向上剤は、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルからなる。本発明の無酸素性運動向上剤により、無酸素性運動で生じる種々の障害を抑制し、無酸素性運動の低下を改善にすることができる。本発明の無酸素性運動向上剤は、安全性が高く、健康食品などとして日常的に常用できるため、酸素性運動を高めるために非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスタキサンチンを有効成分として無酸素性運動を向上及び無酸素性運動によって生じる障害を改善するための薬剤及び飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
瞬発的で急激な運動は、最初の30秒までは主にATP−PCr系を、その後の2分までは主に解糖系によるエネルギーを生産して行う運動であり、筋肉中のATP、PCr、グリコーゲンが消費される2分程度しか継続できなくなる。これらは、呼吸による酸素の消費を行わないため、無酸素性運動と言われる。
無酸素性運動のなかでも継続時間でも長いものはミドルパワーであり、運動のエネルギー獲得機構のうち最初の10秒程度はATP−PCr系、その後は解糖系が最大限に動員され、30秒〜2分程度で疲労困憊に至る運動である。例えば、陸上競技の400m・800m、水泳競技の100m・200m、スキー競技のモーグル、スケート競技の500m〜1500mなどがこれに含まれる。無酸素性運動を短い休息や軽運動を挟みながら断続的に行う運動が、間欠的無酸素性運動である。例えば、球技や格闘技などである。
【0003】
アスタキサンチンの身体的な運動の向上・改善効果として、筋肉持続時間の改善効果(特許文献1)、疲労改善効果(特許文献2、3)などが知られている。さらに、三段階の持久性運動負荷での血圧、心拍数、交感神経が有意に増加したこと(非特許文献1)、10分程度の運動時に血中乳酸を有意に下げて疲労改善効果があること(非特許文献2)が知られている。
【0004】
しかし、これらは2分以上の持久的な運動、すなわち有酸素性運動であり、ATP−PCr系や解糖系によって生じるエネルギーによる急激な運動、すなわち無酸素性運動に対してアスタキサンチンが改善効果を有することは知られてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO99/11251号パンフレット
【特許文献2】日本国特開2006−16409号公報
【特許文献3】日本国特開2006−347927号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】疲労と休養の科学,2002,18,35
【非特許文献2】臨床医薬,2002,18,1085
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無酸素性運動を向上させる食品及び医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
アスタキサンチンを有効成分として投与することによって、無酸素性運動を向上及び無酸素性運動によって生じる障害を改善することができる。
【発明の効果】
【0009】
アスタキサンチンからなる組成物を医薬品、機能性食品、飲食物などの形態で投与・摂取することによって、無酸素性運動を向上及び無酸素性運動によって生じる障害を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
アスタキサンチンとは、天然物由来のもの又は合成により得られるものを意味する。天然物由来のものとしては、例えば、緑藻ヘマトコッカスなどの微細藻類、赤色酵母ファフィアなどの酵母類、エビ、オキアミ、カニなどの甲殻類の甲殻、イカ、タコなどの頭足類の内臓、種々の魚介類の皮やヒレ、ナツザキフクジュソウなどのAdonis属植物の花弁、Paracoccus sp. N81106、Brevundimonas sp. SD212、Erythrobacter sp. PC6などのα−プロテオバクテリア類、Gordonia sp. KANMONKAZ-1129などの放線菌、Schizochytriuym sp. KH105などのラビリンチュラ類(特にヤブレツボカビ科)やアスタキサンチン産生遺伝子組み換え生物体などから得られるものをあげることができる。天然からの抽出物及び化学合成品は市販されており、入手は容易である。
【0011】
アスタキサンチンは、3、3'−ジヒドロキシ−β、β−カロテン−4、4'−ジオンであり、立体異性体を有する。具体的には、(3R、3'R)−アスタキサンチン、(3R、3'S)−アスタキサンチン及び(3S、3'S)−アスタキサンチンの3種の立体異性体が知られているが、本発明にはそのいずれも用いることができる。本発明はこれらアスタキサンチン異性体のモノエステル及びジエステルを含む。
【0012】
本発明のアスタキサンチンとしては、アスタキサンチンの遊離体、モノエステル体、ジエステル体の少なくとも一種を用いることができる。ジエステル体は2つの水酸基がエステル結合により保護されているため化学的及び物理的に遊離体やモノエステル体よりも安定性が高く本発明の組成物中で酸化分解されにくい。しかし、腸内で酵素により、又は生体中に取り込まれると生体内酵素により速やかにキサントフィルに加水分解され、効果を示すものと考えられている。
【0013】
アスタキサンチンのモノエステルとしては、低級又は高級飽和脂肪酸、あるいは低級又は高級不飽和脂肪酸によりエステル化されたエステル類をあげることができる。前記低級又は高級飽和脂肪酸、あるいは低級又は高級不飽和脂肪酸の具体例としては、酢酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、へブタデカン酸、エライジン酸、リシノール酸、ベトロセリン酸、バクセン酸、エレオステアリン酸、プニシン酸、リカン酸、パリナリン酸、ガドール酸、5−エイコセン酸、5−ドコセン酸、セトール酸、エルシン酸、5、13−ドコサジエン酸、セラコール酸、デセン酸、ステリング酸、ドデセン酸、オレイン酸、ステアリン酸、エイコサオペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などをあげることができる。また、カロテノイドのジエステルとしては前記脂肪酸からなる群から選択される同一又は異種の脂肪酸によりエステル化されたジエステル類をあげることができる。
【0014】
さらに、アスタキサンチンのモノエステルとしては、グリシン、アラニンなどのアミノ酸;酢酸、クエン酸などの一価又は多価カルボン酸;リン酸、硫酸などの無機酸;グルコシドなどの糖;グリセロ糖脂肪酸、スフィンゴ糖脂肪酸などの糖脂肪酸;グリセロ脂肪酸などの脂肪酸;グリセロリン酸などによりエステル化されたモノエステル類をあげることができる。なお、考えられ得る場合は前記モノエステル類の塩も含む。脂肪酸の誘導体としては、上記脂肪酸のリン脂質型、アルコール型、エーテル型、ショ糖エステル型、ポリグリセリンエステル型があげられる。
【0015】
アスタキサンチンのジエステルとしては、前記低級飽和脂肪酸、高級飽和脂肪酸、低級不飽和脂肪酸、高級不飽和脂肪酸、アミノ酸、一価又は多価カルボン酸、無機酸、糖、糖脂肪酸、脂肪酸及びグリセロリン酸からなる群から選択される同一又は異種の酸によりエステル化されたジエステル類をあげることができる。なお、考えられ得る場合は前記ジエステル類の塩も含む。グリセロリン酸のジエステルとしては、グリセロリン酸の飽和脂肪酸エステル類、又は高級不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸から選択される脂肪酸類を含有するグリセロリン酸エステル類などをあげることができる。
【0016】
本発明において、アスタキサンチンの脂肪酸エステルは、天然物由来のもの又は合成により得られるもののいずれも用いることができるが、体内での吸収からアスタキサンチンエステルが各種の油脂に溶解した天然物由来が好ましい。天然物由来には、例えば、オキアミ抽出物、ファフィア酵母抽出物、ヘマトコッカス藻抽出物があるが、特に好ましいのはアスタキサンチンの安定性の良さとアスタキサンチンのエステルの種類によりヘマトコッカス藻抽出物である。
【0017】
アスタキサンチンの脂肪酸エステルは突然変異原性が観察されず、安全性が高い化合物であることが知られて、食品添加物として広く用いられている(高橋二郎ほか:ヘマトコッカス藻アスタキサンチンの毒性試験―Ames試験、ラット単回投与毒性試験、ラット90日反復経口投与性毒性試験―、臨床医薬、20:867−881、2004)。
【0018】
ヘマトコッカス藻は、ボルボックス目クラミドモナス科に属する緑藻類であり、通常は緑藻であるためクロロフィル含量が高く緑色であり、2本の鞭毛によって水中を遊泳しているが、栄養源欠乏や温度変化等の飢餓条件では休眠胞子を形成し、アスタキサンチン含量が高くなり赤い球形となる。本発明においては、いずれの状態でのヘマトコッカス藻を用いることができるが、アスタキサンチンを多く含有した休眠胞子となったヘマトコッカス藻を用いるのが好ましい。また、ヘマトコッカス属に属する緑藻類では、例えば、ヘマトコッカス・プルビイアリス(Haematococcus pluvialis)が好ましい。
【0019】
ヘマトコッカス緑藻類の培養方法としては、異種微生物の混入・繁殖がなく、その他の夾雑物の混入が少ない密閉型の培養方法が好ましく、例えば、一部解放型のドーム形状、円錐形状又は円筒形状の培養装置と装置内で移動自在のガス吐出装置を有する培養基を用いて培養する方法(国際公開第99/50384号公報)や、密閉型の培養装置に光源を入れ内部から光を照射して培養する方法、平板状の培養槽やチューブ型の培養層を用いる方法が適している。
【0020】
本発明のヘマトコッカス藻から抽出物を得る方法としては、ヘマトコッカス藻を乾燥粉砕した後アセトンやアルコールなどの有機溶媒で抽出する方法、ヘマトコッカス藻を有機溶媒に懸濁させて粉砕し同時に抽出する方法、二酸化炭素などを用いる超臨界抽出する方法などで行うことができる。
【0021】
超臨界抽出法は、常法によって行うことができ、例えば、広瀬(Ind Eng Chem Res、2006、45(10)、3652-3657、Extraction of Astaxanthin from Haematococcus pluvialis Using Supercritical CO2 and Ethanol as Entrainer)らの方法で行うことができる。
【0022】
前記培養物又は前記甲殻類から有機溶媒を用いて抽出及び精製する方法については種々の方法が知られている。例えば、アスタキサンチン及びそのエステルは油溶性物質であることから、アスタキサンチンを含有する天然物からアセトン、アルコール、酢酸エチル、ベンゼン、クロロホルムなどの油溶性有機溶媒でアスタキサンチン含有成分を抽出することができる。また、二酸化炭素や水などを用い超臨界抽出を行うこともできる。抽出後、常法に従って溶媒を除去してモノエステル型のアスタキサンチンとジエステル型のアスタキサンチンの混合濃縮物を得ることができる。得られた濃縮物は、所望により分離カラムやリパーゼ分解によりさらに精製することができる。
【0023】
前記のドーム型培養装置や密閉型の培養装置で培養したヘマトコッカス藻を乾燥させ、粉砕後にアセトンで抽出又は、アセトン中で粉砕と抽出を同時に行ったのち、アセトンを除去してアスタキサンチン抽出する製法が、又は超臨界抽出を行い、精製したものは、空気に触れることがないことからアスタキサンチンの酸化がほとんどなく、夾雑物が少なく、すなわち本発明の効果を阻害する物質が少なく、アスタキサンチンとトリグリセリドを純度良く多く含むことができ好適である。
【0024】
本発明の無酸素性運動向上剤に用いられるアスタキサンチンの量は、アスタキサンチン遊離体換算量で、成人では1日あたり、0.01〜100mg、好ましくは0.1〜20mgの服用量で経口投与又は非経口投与で行う。服用量は、服用するヒトの年齢、体重、症状の程度、投与形態によって異なる。
【0025】
本発明において、無酸素性運動の向上とは、向上のみならず予防・治療・改善を含む。無酸素性運動において運動能力が低下するのは、筋肉中でのATP、PCr、グリコーゲンが消費されること、速筋細胞内で乳酸やリン酸イオン濃度の増加など種々の影響により、障害が起きるためである。原因は不明であるが、アスタキサンチンによってエネルギー産生の効率が増加したか、前述の障害が改善されことが無酸素性運動向上の要因と考えられる。
【0026】
本発明は、無酸素性運動のなかでもミドルパワーと間欠的無酸素性運動を改善する。
本発明においてミドルパワーとは、筋肉細胞特に速筋細胞のエネルギー産生において、ATP−PCr系と解糖系によってATPの産生が行われ、時間としては30秒〜2分、運動の強度としてはスプリント系の強度の高い運動に該当する。
【0027】
ミドルパワーにおいて、運動が低下するのは、活性酸素の発生増加、乳酸及びリン酸イオンの蓄積など種々の影響により、障害が起るためである。また、ミトコンドリア内のATP産生が、大量のエネルギー要求に追いつかないことが要因であり、これらを改善していることなどがアスタキサンチンの効果の要因と考えられる。これらは、後述の実施例の結果から類推することができる。アスタキサンチンの摂取によって、パワー値が向上しているが、酸素の摂取量が増加し、心拍数、乳酸に変化は見られない。筋肉細胞、特に速筋細胞内でのエネルギー代謝効率の向上が要因と考えられる。
【0028】
アスタキサンチンが2分以上の持続的な運動(有酸素運動)に心肺機能や交感神経に効果があり、運動疲労を改善することは知られている。これらの持続的運動とミドルパワーは以下の点で異なる。有酸素運動は2分以上の継続的な運動であり、かつ、運動の強度は全力運動のパワーの50〜60%であり、肝臓からの輸送されるグリコーゲンと脂質をエネルギーとして乳酸を産生し、産生した乳酸が遅延筋へ輸送されエネルギーとして消費される。そのため、乳酸の血中濃度は約10mmol以下である。これより多いと継続的に運動はできない。対して、ミドルパワーは全運動パワーの約60%以上であり、運動後の乳酸の血中濃度は約10mmol以上であり、約2分を超えて運動を継続することとはできない。
【0029】
本発明のミドルパワー向上剤は、30秒〜2分程度の運動に適しており、例えば陸上競技の400m・800m、スケート競技の500m〜1500m、スキー競技のモーグルなどがあげられる。これらの運動で、パワーと速度を改善・向上させることができる。
【0030】
本発明において間欠的無酸素性運動とは、30秒以下の急激な運動を数秒〜数分の間をおきながら継続して行う運動である。急激な運動とは、運動強度AT値が約60を超える運動であり、機能的には速筋細胞内でATP−Cr系及び/又は解糖系でエネルギーの生産が行われ、速筋により行う運動である。
【0031】
持久的な運動は、血中乳酸濃度が安静値以上に増加し始める時の運動強度(AT)が約60を下回る運動であり、機能的には主に遅延筋が使われ、エネルギーとしては、脂肪酸や乳酸が用いられる有酸素性運動である。これらの運動の向上にアスタキサンチンが有用であることは、本出願の先行技術で明かである。
【0032】
本発明の間欠的無酸素性運動向上剤は、数秒〜30秒の急激なダッシュと少しの休憩を繰り返す運動に適しており、特に敵味方が混雑する球技、例えば、サッカー、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボールなどに適している。これらの運動で、より強いパワー発揮を継続することができる。具体的には、サッカーワールドカップの日本代表選手は、試合の終盤では走りが鈍くなって負けやすいが、本発明の間欠的無酸素性運動向上剤を摂取することによって、終盤まで動きが鈍くなることはなくなる。また、持久的な運動でも、途中で追い抜きをかけるなどダッシュが必要な場合が多く、そのときには本発明の間欠的無酸素性運動向上剤が有効に働く。
【0033】
本発明の無酸素性運動向上剤を用いる場合は、通常の飲食品、医薬品の形態で用いることができる。以下、キサントフィルの具体例として、それぞれアスタキサンチンについて述べるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の無酸素性運動向上剤を補助するため、補助効果を有する物質を添加することができる。例えば、ビタミンA類;カロテノイド類(キサントフィル除く);ビタミンB類;ビタミンC類;ビタミンD類、ビタミンE類;トコトリエノール類;グルタチオン及びこれらの誘導体並びにこれらの塩;カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、クマリンなどのポリフェノール類;リノール酸、α−又はγ−リノレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸及びその誘導体並びにそれらの塩;コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ケラチンから選ばれるタンパク質及びそれらの誘導体並びに加水分解物;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、サリチル酸などのα−ヒドロキシ酸及びそれらの誘導体並びにそれらの塩;血清除蛋白、脾臓、胎盤、鶏冠、ローヤルゼリー、酵母、乳酸菌、ビフィズス菌、霊芝、ニンジン、センブリ、ローズマリー、オウバク、ニンニク、ヒノキチオール、セファランチン、アロエ、サルビア、アルニカ、カミツレ、シラカバ、オトギリソウ、ユーカリ、ムクロジ、センプクカ、ケイケットウ、サンペンズ、ソウハクヒ、トウキ、イブキトラノオ、クララ、サンザシ、シラユリ、ホップ、ノイバラ、ヨクイニン、ドクダミ、海藻、納豆、レモングラス、ハイビスカスなどの天然物並びにそれらの抽出物;アデノシン三リン酸、アデノシン二リン酸、アデノシン一リン酸などのアデニル酸誘導体;鉄、バナジウム、モリブデン、マンガン、銅、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレン、ヨウ素などのミネラル類;マンニトール、キシリトール、グルコサミンなどの単糖類;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、グリコーゲン、キチン、キトサンなどの多糖類;デオキシリボ核酸、リボ核酸などの核酸類;その他のグリチルリチン酸、グアニン、ムチン、ユビキノン、α−リポ酸、オクタコサノール、アリシン、アリインなど、並びにそれらの混合物からなる群から1種又は2種以上選択することができる。これらの成分は、医薬品全量に対して一般には0.01〜90重量%、好ましくは0.1〜50重量%配合され、一種以上組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明の無酸素性運動向上剤を含む医薬品は、経口で投与することができる。経口用の剤形としては、例えば、錠剤、口腔内速崩壊錠、カプセル、顆粒、細粒などの固形投薬形態、シロップ及び懸濁液のような液体投薬形態で投与される。なお、医薬品には医薬部外品も含まれる。
【0036】
本発明の無酸素性運動向上剤を含む医薬品は、一般製剤の製造に用いられる種々の添加剤を適当量含んでいてもよい。このような添加剤として、例えば賦形剤、結合剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、界面活性剤などが挙げられる。賦形剤としては、例えばトウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、コムギコデンプン、コメデンプン、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、有孔デンプン等のデンプン類、乳糖、ショ糖、ブドウ糖などの糖、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコール、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム〔製品名「ノイシリン」、富士化学工業(株)製〕、ハイドロタルサイト、無水リン酸カルシウム〔製品名「フジカリン」、富士化学工業(株)製〕、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、軽質無水ケイ酸などの無機化合物などがあげられる。結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム末、ゼラチン、プルランなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えばデンプン、寒天、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、結晶セルロース、F−MELT〔商標、富士化学工業(株)製〕などがあげられる。酸味剤としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸などがあげられる。発泡剤としては、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。甘味料としては、例えばサッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。香料としては、例えばレモン油、オレンジ油、メントールなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。着色剤としては、例えば食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素、食用レーキ色素、三二酸化鉄などが挙げられる。安定化剤としては、エデト酸ナトリウム、トコフェロール、シクロデキストリン等が挙げられる。pH調整剤としては、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、酢酸塩、アミノ酸塩などが挙げられる。界面活性剤として、ポリソルベート80、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロース、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、アラビアガム、粉末トラガントなどがあげられる。アスタキサンチンやペプチドの吸収や製剤化をより良くするためには粉末状態にすることができる。
【0037】
本発明の組成物は、飲食品や飼料に配合して用いることができ、医薬品と同様の効果を得ることができる。
【0038】
飲食品としては、サプリメント、保健機能食、特別用途食品、一般食品として用いることができ、摂取のしやすさや摂取量が決めやすいことから、サプリメント、保健機能食、特別用途食品が好ましく、前述医薬品と同様の形態、錠剤、口腔内速崩壊錠、カプセル、顆粒、細粒などの固形投与形態、シロップ及び懸濁液のような液体投与形態で摂取することができる。上記医薬品用製剤で用いる成分に加え、食品で使用可能なものを選択でき、その他に乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミン蛋白質など、又は、これらの分解物である卵白オリゴペプチド、大豆加水分解物、アミノ酸単体の混合物を併用することもできる。また、ドリンク形態で提供する場合は、栄養バランス、摂取時の風味を良くするためにアミノ酸、ビタミン類、ミネラル類などの栄養的添加物、甘味料、香辛料、香料及び色素などを配合してもよい。本発明の飲食物の形態は、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明において、症状の改善・予防が許可されている飲食品とは、国や公共団体が許可・指定している医薬品的な効能を有する食品であり、例えば、栄養機能食品や特定保健用食品などの保健機能食品、特別用途食品などである。なお、状況や時代、各国の制度により名称や規程が変化するが、本質的に同じであるものは本発明に含まれる。
【0040】
一般食品、すなわち飲食物の形態例としては、マーガリン、バター、バターソース、チーズ、生クリーム、ショートニング、ラード、アイスクリーム、ヨーグルト、乳製品、ソース肉製品、魚製品、漬け物、フライドポテト、ポテトチップス、スナック菓子、かきもち、ポップコーン、ふりかけ、チューインガム、チョコレート、プリン、ゼリー、グミキャンディー、キャンディー、ドロップ、キャラメル、パン、カステラ、ケーキ、ドーナッツ、ビスケット、クッキー、クラッカー、マカロニ、パスタ、ラーメン、蕎麦、うどん、サラダ油、インスタントスープ、ドレッシング、卵、マヨネーズ、みそなど、又は果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料などの炭酸系飲料又は非炭酸系飲料など、茶、コーヒー、ココアなどの非アルコール又はリキュール、薬用酒などのアルコール飲料などの一般食品への添加例を挙げることができる。
【0041】
飲食品では、アスタキサンチン及びペプチドを一般食品の原料と共に配合し、常法に従って加工製造することにより製造される。アスタキサンチン及びペプチドの配合量は食品の形態などにより異なり特に限定されるものではないが、一般にはアスタキサンチン及びペプチドの使用量は当業者が飲食物の種類に応じて適宜選択でき、前述の量を配合することができる。
【0042】
本発明の無酸素性運動向上剤を飼料に配合した場合も、医薬品や飲食品と同様の効果を得ることができ、例えば、ラット、ウサギ、サル、犬、猫、豚、牛、羊、馬、トカゲ、カエル、ワニ、魚類に投与することができる。
【0043】
本発明の飼料は、固形製剤、固形、ペレット状、粒状、ビスケット状、練り状などの形態及びドライフード、セミドライフード(例えば、水分含有量10〜50重量%程度の飼料)、又は缶詰などのウェットフード(例えば、水分含有量が50〜80重量%程度の飼料)等に特に制限されない。従来の飼料製造の過程において適当な工程でアスタキサンチン及びペプチドを飼料の材料に添加混合、又はアスタキサンチン及びペプチドの水溶液を飼料にふりかけて製造することができる。また、人用の栄養補助食品と同様に、摂取が容易である錠剤、舌下錠、丸剤、散剤、粉剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤及び軟カプセルなどの固形製剤で製造することができる。
【0044】
配合可能な原料としては、飼料として使用し得るものなら特に制限はないが、飼料の原料としては、飼料の種類に応じて、慣用の成分、例えば、魚粉、魚肉、魚介類、フィッシュミール、畜肉、肉粉、肉骨粉、血粉、フェザーミール、蚕蛹油粕、脱脂粉乳、動物性油脂(牛油、豚油、骨油など)、鶏卵類、乳類などの動物性原料;ビール酵母、トルラ酵母などの微生物;トウモロコシ、マイロ、小麦、大麦、ライ麦、エン麦、小麦粉、玄米、アワ、大豆、キナコ、キャッサバなどの穀類;アルファー化デンプン、デンプンなどのデンプン類;大豆油粕、脱皮大豆油粕、ナタネ油粕、ラッカセイ油粕、ヤシ油粕、ヒマワリ油粕、アマニ油粕、ゴマ油粕、サフラワー油粕、パーム核油粕、カポック油粕などの油粕類;米ヌカ、大麦ヌカ、ふすまなどのヌカ類;グルンフィード、グルテンミール、澱粉粕、精蜜、醤油粕、ビール粕、ビートパルプ、バガス、豆腐粕、麦芽根、ミカン皮、蜜柑ジュース粕などの製造粕類;アルファルファミール、チモシー乾草、藁などの繊維素;賦形剤、結合剤、崩壊剤、食塩、砂糖などの糖類、ビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類などの成分を一種又は二種以上配合して使用することができる。
【0045】
固形製剤に配合可能な原料としては、前述の原料の他に、例えば、人の食品分野で一般的に用いられる担体と均一に混合して製造できる。具体的には、シュークロース、ソルビトール、フラクトース等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ゴマ油、菜種油、オリーブ油、大豆油などの油類、ストロベリー・フレーバー、ペッパーミントなどのフレーバー類などを使用して製造できる。また、散剤、丸剤、カプセル、軟カプセル、錠剤の形態で、ラクトース、グリコース、シュークロース、乳糖、マニトール、コーンスターチ、二酸化ケイ素などの賦形剤、デンプン、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、カゼインなどの結合剤、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、サポニン、レシチンなどの乳化剤、グアーガム、アルギン酸、カラギーナン、寒天、ペクチン、アラビアガム、結晶セルロースなどの増粘剤、グリセリンなどの可塑剤を用いて製造できる。錠剤型としては錠剤及びカプセル剤は摂取が容易であるので好ましい。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の実施例及び製剤例にて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[実施例1] ミドルパワー試験
日常的にスポーツを実施している男子大学生23名(摂取群11名、非摂取群12名)を被験者とした。アスタキサンチン(フリー体換算で3mg含有)を含む軟カプセルを朝晩2個ずつ(アスタキサンチン投与量12mg/日)を4週間摂取させた。摂取前、4週後(摂取後)に、実験試技の測定を行った。実験試技は、自転車エルゴメーター(パワーマックスVII、コンビ社製)を用い、40秒間の全力ペダリング(負荷値:体重×0.075kp)を行った。パワー値、1秒毎の回転数、心拍数、酸素摂取量、乳酸血中濃度を測定した。
【0048】
[表1] 体重1kg当たりのパワー価

【0049】
[表2] 総回転数

【0050】
表2の詳細として、図1、2に5秒ごとの回転数を示す。非摂取群が試験の前後でほとんど変わらないのに対して、摂取群は回転数の増加が見られた。心拍数、酸素摂取量、乳酸血中濃度において変化は見られなかった。
【0051】
表1の体重1kg当たりのパワー価の向上率はアスタキサンチンの摂取群において有為に向上し、表2の総回転数においてもアスタキサンチンの摂取群において有為に向上していた。これはアスタキサンチンの摂取によって、ミドルパワーが向上していることを示す。また、心拍数、酸素摂取量、乳酸血中濃度などの心肺機能や有酸素運動に関する項目についての変化は見られなかった。ミドルパワーにおいてアスタキサンチンは有酸素運動的な機能ではなく、無酸素性運動の機能が向上していることが分かる。
【0052】
[実施例2] 間欠的無酸素性運動試験
被験者として日常的にスポーツを実施している男子大学生22名(摂取群12名、非摂取群10名)を対象とした。アスタキサンチン(フリー体換算で3mg含有)を含む軟カプセルを朝晩2個ずつ(アスタキサンチン投与量12mg/日)を4週間摂取させた。摂取前、4週後(摂取後)に、実験試技の測定を行った。実験試技は、自転車エルゴメータ(パワーマックスVII、コンビ社製)を用い、7秒間の全力ペダル(負荷値:体重×0.075kp)を23秒間の休息を挟んで20本実施した。パワー値、運動中・休息中の酸素摂取動態、心拍数、酸素摂取量、乳酸血中濃度を測定した。
【0053】
[表3] 体重1kg当たりの総ピークパワー価

【0054】
表3の詳細として、図3、4に各本数のピークパワーを示す。非摂取群が試験の前後でほとんど変わらないのに対して、摂取群は摂取後のピークパワーの増加が見られた。特に、後半において、よりピークパワーが向上していた。心拍数、酸素摂取量、乳酸血中濃度において有為な変化は見られなかった。
【0055】
表3、図3、4より体重1kg当たりのパワー価の向上率はアスタキサンチンの摂取群において有為に向上していた。これはアスタキサンチンの摂取によって、間欠的無酸素性運動が向上していることを示す。また、心拍数、酸素摂取量、乳酸血中濃度などの心肺機能や有酸素運動に関する項目についての有為な変化は見られなかったことより、間欠的無酸素性運動においてもアスタキサンチンは有酸素運動的な機能ではなく、無酸素性運動の機能が向上していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】5秒ごとの回転数(摂取群)を示す。
【図2】5秒ごとの回転数(非摂取群)を示す。
【図3】各本数の体重1kg当たりのピークパワー値(摂取群)を示す。
【図4】各本数の体重1kg当たりのピークパワー値(非摂取群)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチンを有効成分とする無酸素性運動向上剤。
【請求項2】
アスタキサンチンを有効成分とするミドルパワー向上剤。
【請求項3】
アスタキサンチンを有効成分とする間欠的無酸素性運動向上剤。
【請求項4】
アスタキサンチンを有効成分とする無酸素性運動向上用の飲食物。
【請求項5】
アスタキサンチンを有効成分とするミドルパワー向上用の飲食物。
【請求項6】
アスタキサンチンを有効成分とする間欠的無酸素性運動向上用の飲食物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63547(P2011−63547A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215659(P2009−215659)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】