説明

無針注射器用ノズルおよび無針注射器

【課題】無針注射器において着脱可能な樹脂製のノズルにおいて、注射目的物質の注射によってその変形や破壊を回避する。
【解決手段】保持部材に対して着脱自在なノズルであって、ノズル内部には、導入口を含み径の大きい第一流路と、射出口を含み径の小さい第二流路と、それらの流路をつなぐ接続流路が形成されている。そのノズル本体は、射出口が注射対象領域に露出して対向するように、ノズル本体を保持部材に対して接触する接触部であって、ノズル本体の側面からつながり、且つ加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在する平面形状又は曲面形状の接触部を有する。そして、その接触部は、加圧された注射目的物質の流れ方向において、接続流路と第二流路との接続部位の近傍の該接続流路上の所定位置より射出口側の何れかの位置に位置するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
注射針を介することなく注射を行う無針注射器では、加圧ガスやバネにより注射液が収容された収容室に対して圧力を加えることで注射成分を射出する構成が採られることがある。例えば特許文献1に示す無針注射器では、注射器本体の先端に取り替え可能にノズル組立体が設置される。このノズル組立体には注射成分を収容するアンプルが含まれ、ユーザの使用ごとにノズル組立体が交換されることになる。ここで、ノズル組立体は、注射液の射出時に印加される圧力を考慮して、高圧に耐え得る部材が使用され、その例として金属材料だけではなく、ポリカーボネートやポリプロピレン等の樹脂材料も挙げられている。
【0003】
一方で、例えば特許文献2には、無針注射器の先端部分に位置するノズル部分を形成するためのモールディング技術が開示されている。特に図7に示すノズル部分のオリフィス部材については、プラスチック材料で形成される点が開示されているが、プラスチック材料の強度に関しては、オリフィスの部分の径は他の部分よりも極めて小さいことから、注射時にはノズル部分の強度は大きな問題とはならない点が示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許明細書第5599302号
【特許文献2】米国特許明細書第5312577号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無針注射器において、注射液等の形態で注射目的物質を注射対象領域に射出するノズルは、例えば衛生上の観点から着脱可能、すなわち使い捨て可能な構成とされる場合がある。そのため、大量のノズルを容易に製造するために、例えばモールディング技術が利用され、樹脂製のノズルが製造されることがある。
【0006】
上記先行技術においては、樹脂製のノズルを無針注射器に適用するにあたって、強度的な問題に関する考察は何ら開示されてはいないが、本出願人は、樹脂製ノズルを無針注射器に利用するに当り、従来技術の範疇においては、加圧された注射目的物質によりノズルが変形、破壊される可能性がいまだ拭い去れていないことを見出した。ノズルが変形、破壊されると、結果的に注射目的物質を注射対象領域の適切な部位に注射することが困難となる。
【0007】
本発明では、上記した問題に鑑み、無針注射器において着脱可能な樹脂製のノズルであって、注射目的物質の注射によってその変形や破壊を回避すべく適切な強度を確保できるノズルまたは当該ノズルを備える無針注射器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、無針注射器の保持部材に着脱可能に構成されるノズルが、該保持部材に装着されたときに該保持部材と接触する接触部の位置を、ノズルの本体内に形成された流路との相対関係に基づいて決定される構成を採用することとした
。注射目的物質がノズル内の流路を流れて注射対象領域に対して射出されるとき、加圧された注射目的物質が流路形状に起因した衝撃を、該流路を含めたノズル側に与えることを考慮したものである。
【0009】
具体的には、本発明は、注射針を介することなく、加圧された注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器の、該注射対象領域への射出口を形成し、該無針注射器側の保持部材に対して着脱可能に構成される樹脂製のノズルであって、前記保持部材に着脱可能な形状の側面を有するノズル本体と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、端部に位置する導入口を経て前記無針注射器側から前記加圧された注射目的物質が流れ込む第一流路と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路より流路径が小さく、前記射出口を前記端部とは異なる端部に含む第二流路と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路と前記第二流路とを接続し、前記加圧された注射目的物質の流れに沿って流路の径が減少する接続流路と、を備える。そして、前記ノズル本体は、前記射出口が前記注射対象領域に露出して対向するように、前記ノズル本体を前記保持部材に対して接触する接触部であって、前記ノズル本体の側面からつながり、且つ前記加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在する平面形状又は曲面形状の接触部を有し、この接触部は、前記加圧された注射目的物質の流れ方向において、前記接続流路と前記第二流路との接続部位の近傍の該接続流路上の所定位置より前記射出口側の何れかの位置に位置する。
【0010】
本発明に係る無針注射器では、注射目的物質に対して圧力が加えられることで、注射目的物質の移動が促されることになる。その結果、第一流路に含まれる導入口を経てノズル本体内に注射目的物質が流れ込み、そして、第二流路に含まれる射出口を経てノズル本体から注射目的物質が注射対象領域に対して射出される。この注射目的物質は、注射対象領域の内部で効能が期待される成分を含むものであり、上記のように加えられる圧力がその射出時の駆動源である。そのため、加圧による射出が可能であれば、注射目的物質の無針注射器内の収容状態や、液体やゲル状等の流体、粉体、粒状の固体等の注射目的物質の具体的な物理的形態は問われない。
【0011】
たとえば、注射目的物質は液体であり、また固体であっても射出を可能とする流動性が担保されればゲル状の固体であってもよい。そして、注射目的物質には、生体の注射対象領域に送り込むべき成分が含まれ、当該成分は注射目的物質の内部に溶解した状態で存在してもよく、又は当該成分が溶解せずに単に混合された状態であってもよい。一例を挙げれば、送りこむべき成分として、抗体増強のためのワクチン、美容のためのタンパク質、毛髪再生用の培養細胞等があり、これらが射出可能となるように、液体、ゲル状等の流体に含まれることで注射目的物質が形成される。
【0012】
また、注射目的物質への加圧源は加圧による射出が可能である限りにおいて、様々な加圧源を利用することができる。たとえば、バネ等による弾性力を利用したもの、加圧されたガスを利用したもの、火薬の燃焼を利用したもの、加圧のための電気的アクチュエータ(モータやピエゾ素子等)を利用したものが、加圧源として挙げられる。
【0013】
このように加圧された注射目的物質は、導入口を経て第一流路に入り、第二流路から射出口を経て外部に射出される過程において、第一流路と第二流路とをつなぐ接続流路を通過する。この接続通路は、流路径が異なる第一流路と第二流路とをつなぐ流路であることから、該接続流路の流路径は、注射目的物質の流れに沿って減少する構成を有している。ただし、その減少の割合は一定である必要はない。したがって、接続流路は、そこを加圧された注射目的物質が進行するに従い、該注射目的物質から受ける圧力が大きくなり得る部位である。
【0014】
一方で、本発明に係るノズルは、無針注射器側の保持部材に対して着脱可能に構成されるが、詳細には、上記のとおり平面形状又は曲面形状の接触部による保持部材との接触によって該ノズルは無針注射器に装着されることとなる。ここで、この接触部によって形成される面が、加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在することで、すなわち該流れ方向には少なくとも平行とならない方向に延在することで、上記のようにノズル本体内を流れる注射目的物質からノズル本体が受ける力、特に構造的に力を受けやすい接続流路を介して受ける力を保持部材側に伝達し、物理的に該ノズルを保持することが可能となる。そのため、接触部は、加圧された注射目的物質からの力を受け止めるための接触面を有するように構成される。
【0015】
そして、本発明に係るノズルにおいては、接触部は、加圧された注射目的物質の流れ方向において、接続流路と第二流路との接続部位の近傍の該接続流路上の所定位置より前記射出口側の何れかの位置に位置するように、ノズル本体に形成される。すなわち、本出願人は、上記に示す第一流路、接続流路、第二流路という流路構成を内部に有するノズルにおいて、接続流路と第二流路との接続部位の近傍であって該接続流路上の所定位置で、換言すれば、当該接続部位よりも第二流路側ではなく接続流路側に戻った当該所定位置で、加圧された注射目的物質からノズル本体が受ける力が極値的に大きくなることを見出した。仮に加圧された注射目的物質から受ける力によってノズルが変形、破壊されるとした場合、当該所定位置はその変形等に与える影響は大きいと考えられる。そこで、本発明に係るノズルにおいては、接触部を、この所定位置よりも射出口側の何れかの位置とすることで、当該所定位置を含む流路の内壁を介して作用する注射目的物質からの力を、接触部によって確実に受け止めること、さらには接続流路の接続部位近傍において、注射目的物質から受ける力が最大になる部分を含むようにノズルの肉厚を十分量確保することで、以てノズルの変形、破壊を可及的に回避することが可能となる。
【0016】
また、上記の無針注射器用ノズルにおいて、前記接触部は、前記加圧された注射目的物質の流れ方向において前記接続部位と前記射出口との間に位置してもよい。すなわち、前記所定部位よりも更に射出口側に位置する前記接続部位と、その射出口との間に接触部が位置することで、より確実に、当該所定位置を含む流路の内壁を介して作用する注射目的物質からの力を受け止めることが可能となる。
【0017】
また、上述までの無針注射器用ノズルにおいて、前記ノズル本体は、前記保持部材の一端側から挿入されて前記射出口が該保持部材の他端側に露出する構成であってもよい。その場合、前記ノズル本体の側面は、前記保持部材への挿入方向に平行に延在し、又は該保持部材への挿入方向に対して交わる方向に傾斜して延在する面を形成する。このような構成により、ノズル本体を保持部材に挿入すると、接触部を介したノズル本体と保持部材との接触により、該ノズル本体の挿入が停止される。その停止状態が、接触部を介したノズルの保持部材での装着状態である。また、ノズル本体の側面が挿入方向に平行、もしくは該挿入方向に対して傾斜することで、ノズル本体の保持部材への挿入が円滑に行われる。
【0018】
また、上述までの無針注射器用ノズルにおいて、前記ノズル本体は、第一の所定直径又は第一の所定幅を有する筒形状の第一段部と、前記第一段部の第一所定直径又は第一所定幅より小さい、第二の所定直径又は第二の所定幅を有する第二段部であって、該第一段部の一方の端面側に接続された第二段部と、を有する構成としてもよい。そして、この場合に、前記接触部は、前記第一段部の前記一方の端面において前記第二段部に占められていない面によって形成され、また、前記導入口は、前記第一段部の他方の端面側に形成され、前記射出口は、前記第二段部の端面のうち前記第一段部が接続されていない端面側に形成されている。このようなノズル本体の具体的な構成を採用することで、第一段部と第二段部の組み合わせによりノズルを形成できるとともに、第一段部と第二段部の直径の違いで生じる面を接触部として機能させることができる。
【0019】
また、上述までの無針注射器用ノズルと、前記注射目的物質を収容した収容部と、前記収容部に収容された前記注射目的物質に対して加圧し、外部へ排出させる加圧部と、を備える、無針注射器も、本願発明の範疇に属するものであることは、当業者において理解されよう。この無針注射器では、生体の注射対象領域に対して注射される注射目的物質が収容部に収容され、そしてこの収容部に収容された注射目的物質に対して加圧部によって圧力が加えられることで、注射目的物質の移動が促されることになる。加圧部による加圧の形態や、収容部による注射目的物質の収容形態については上記無針注射器用ノズルについて示した通りである。
【0020】
ここで、本願発明を、上記とは別の無針注射器の側面から捉えることも可能である。すなわち、本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器であって、前記注射目的物質を収容した収容部と、前記収容部に収容された前記注射目的物質に対して加圧し、外部へ排出させる加圧部と、前記加圧部によって加圧された注射目的物質の前記注射対象領域への射出口を形成し、前記無針注射器側の保持部材に対して脱着可能に構成される樹脂製のノズルと、を備える。そして、前記ノズルは、ノズル本体と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、端部に位置する導入口を経て前記無針注射器側から前記加圧された注射目的物質が流れ込む第一流路と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路より流路径が小さく、前記射出口を前記端部とは異なる端部に含む第二流路と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路と前記第二流路とを接続し、前記加圧された注射目的物質の流れに沿って流路の径が減少する接続流路と、前記射出口が前記注射対象領域に露出して対向するように、前記ノズル本体を前記保持部材に対して接触する接触部であって、前記ノズル本体の側面からつながり、且つ前記加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在する平面形状又は曲面形状の接触部と、を有し、この接触部は、前記加圧された注射目的物質の流れ方向において、前記接続流路と前記第一流路との接続部位より前記射出口側の何れかの位置に位置し、また、前記ノズルが前記接触部を介して前記保持部材に接触した状態で、前記ノズル本体の側面のうち前記導入口が位置する該ノズル本体の端面側から前記接触部による接触位置までの範囲にある側面と、該保持部材との間に、前記加圧された注射目的物質が流れ込む側流路が形成される。
【0021】
上記収容部および加圧部については、上述までの通りである。そして、ノズル本体の内部には、上記と同じように、第一流路、接続流路、第二流路が形成されており、加圧された注射目的物質は、導入口を経て第一流路に入り、第二流路から射出口を経て外部に射出される過程において、第一流路と第二流路とをつなぐ接続流路を通過する。この接続通路は、流路径が異なる第一流路と第二流路とをつなぐ流路であることから、該接続流路の流路径は、注射目的物質の流れに沿って減少する構成を有している。ただし、その減少の割合は一定である必要はない。したがって、流路径の減少が始まる第一流路と接続流路との接続部位を含む当該接続流路は、そこを加圧された注射目的物質が進行するに従い、該注射目的物質から受ける圧力が大きくなり得る部位である。
【0022】
一方で、本発明に係るノズルは、無針注射器側の保持部材に対して着脱可能に構成されるが、詳細には、上記のとおり平面形状又は曲面形状の接触部による保持部材との接触によって該ノズルは無針注射器に装着されることとなる。ここで、この接触部によって形成される面が、加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在することで、すなわち該流れ方向には少なくとも平行とならない方向に延在することで、上記のようにノズル本体内を流れる注射目的物質からノズル本体が受ける力、特に構造的に力を受けやすい接続流路を介して受ける力を保持部材側に伝達し、物理的に該ノズルを保持することが可能となる。そのため、接触部は、加圧された注射目的物質からの力を受け止めるための接触面を有するように構成される。
【0023】
そして、本発明に係るノズルにおいては、接触部は、加圧された注射目的物質の流れ方向において、接続流路と第一流路との接続部位より前記射出口側の何れかの位置に位置するように、ノズル本体に形成されるとともに、その接触部による接触位置まで加圧された注射目的物質がノズル本体の外側の側面と保持部材との間に形成された側流路を流れ込むことが可能なように、ノズルと保持部材の相関が形成される。この構成により、ノズル本体内部で接続流路の流路壁面を挟んで、内部からは、加圧された注射目的物質より力を受ける一方で、外部からは側流路を満たす加圧された注射目的物質より力を受ける状態となる。このため、当該接続流路を挟んで、ノズル本体は、その内外の間で形成される圧力差を小さく抑えることができ、その結果、特に、構造的に力を受けやすい接続流路を含む流路内における注射目的物質からの圧力から、ノズルを保護することができ、以て、ノズルの変形、破壊を可及的に回避することが可能となる。
【0024】
ここで、上記の無針注射器において、前記ノズル本体は、前記保持部材の一端側から挿入されて前記射出口が該保持部材の他端側に露出する構成であってもよい。その場合、前記ノズル本体の側面は、前記保持部材への挿入方向に平行に延在し、又は該保持部材への挿入方向に対して交わる方向に傾斜して延在する面を形成する。このような構成により、ノズル本体を保持部材に挿入すると、接触部を介したノズル本体と保持部材との接触により、該ノズル本体の挿入が停止される。その停止状態が、接触部を介したノズルの保持部材での装着状態である。また、ノズル本体の側面が挿入方向に平行、もしくは該挿入方向に対して傾斜することで、ノズル本体の保持部材への挿入が円滑に行われる。
【0025】
また、上述までの無針注射器において、前記ノズル本体は、第一の所定直径又は第一の所定幅を有する筒形状の第一段部と、前記第一段部の第一所定直径又は第一所定幅より小さい、第二の所定直径又は第二の所定幅を有する第二段部であって、該第一段部の一方の端面側に接続された第二段部と、を有する構成としてもよい。そして、この場合、前記接触部は、前記第一段部の前記一方の端面において前記第二段部に占められていない面によって形成され、前記導入口は、前記第一段部の他方の端面側に形成され、前記射出口は、前記第二段部の端面のうち前記第一段部が接続されていない端面側に形成されている。このようなノズル本体の具体的な構成を採用することで、第一段部と第二段部の組み合わせによりノズルを形成できるとともに、第一段部と第二段部の直径の違いで生じる面を接触部として機能させることができる。
【0026】
そして、上述までの無針注射器において、前記接触部は、前記側流路に流れ込んだ前記加圧された保持部材が前記射出口側に流れ出ることを防ぐシール部を有してもよい。これにより、ノズル本体の内外において注射目的物質を適切に位置させることができ、以て内外の間での圧力差が大きくなるのを防ぎ、ノズルの変形、破壊を回避することができる。更には、注射対象領域への注射に供されない注射目的物質の量を抑制し、その無駄を回避できる。
【0027】
また、上述までの無針注射器において、前記ノズル本体の側面上の、前記接触部による接触位置近傍の所定部位に、前記側流路に流れ込んだ前記加圧された保持部材が前記射出口側に流れ出ることを防ぐシール部が設けられた構成を採用してもよい。シール部を接触部による接触位置の近傍の所定部位に配置することで、ノズルが保持部材に装着された状態において、第一流路と接続流路の接続部位を含む当該接続流路を挟んで、ノズル本体の外側と内側とに注射目的物質をより的確に配置させることが可能となる。そのため、効果的に、ノズルの変形、破壊を回避することができる。なお、接触部による接触位置近傍の所定部位とは、当該接触位置と同位置に位置する部位も含むものであり、その場合、接触部による接触面上にシール部が配置される。また、当該所定部位は、当該接触位置を挟んで射出口側もしくは導入口側のいずれの位置の部位であってもよい。
【0028】
そして、上記の無針注射器の場合、前記接触部による接触位置近傍の所定部位には、変形可能な突起部が設けられ、前記ノズルが前記保持部材に装着されるときに前記突起部が該保持部材との接触により変形することで前記シール部が形成される構成であってもよい。着脱可能なノズル本体の所定部位上に設けられた突起部により、その保持部材への装着ごとにシール部が形成される構成とすることで、注射目的物質の射出ごとに新たなシール部が形成されることになり、効果的な注射目的物質の密封が期待される。
【0029】
ここで、本願発明を、上記とは別の無針注射器の側面から捉えることも可能である。すなわち、本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器であって、前記注射目的物質を収容した収容部と、前記収容部に収容された前記注射目的物質に対して加圧し、外部へ排出させる加圧部と、前記加圧部によって加圧された注射目的物質の前記注射対象領域への射出口を形成し、前記無針注射器側の保持部材に対して脱着可能に構成される樹脂製のノズルと、を備える。そして、前記ノズルは、ノズル本体と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、端部に位置する導入口を経て前記無針注射器側から前記加圧された注射目的物質が流れ込む第一流路と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路より流路径が小さく、前記射出口を前記端部とは異なる端部に含む第二流路と、前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路と前記第二流路とを接続し、前記加圧された注射目的物質の流れに沿って流路の径が減少する接続流路と、前記射出口が前記注射対象領域に露出して対向するように前記ノズル本体を前記保持部材に対して接触する接触部であって、前記ノズル本体の側面からつながり、且つ前記加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在する平面形状又は曲面形状の接触部と、を有し、前記接触部は、前記加圧された注射目的物質の流れ方向において、前記接続流路と前記第一流路との接続部位より前記導入口側の何れかの位置に位置し、前記ノズルが前記接触部を介して前記保持部材に接触した状態で、前記ノズル本体の側面のうち該接触部による接触位置から前記射出口側の端部までの範囲にある側面と、該保持部材との間の空間の少なくとも一部を充填する充填部材が設けられる。
【0030】
上記収容部および加圧部については、上述までの通りである。そして、ノズル本体の内部には、上記と同じように、第一流路、接続流路、第二流路が形成されており、加圧された注射目的物質は、導入口を経て第一流路に入り、第二流路から射出口を経て外部に射出される過程において、第一流路と第二流路とをつなぐ接続流路を通過する。この接続通路は、流路径が異なる第一流路と第二流路とをつなぐ流路であることから、該接続流路の流路径は、注射目的物質の流れに沿って減少する構成を有している。ただし、その減少の割合は一定である必要はない。したがって、流路径の減少が始まる第一流路と接続流路との接続部位を含む当該接続流路は、そこを加圧された注射目的物質が進行するに従い、該注射目的物質から受ける圧力が大きくなり得る部位である。
【0031】
一方で、本発明に係るノズルは、無針注射器側の保持部材に対して着脱可能に構成されるが、詳細には、上記のとおり平面形状又は曲面形状の接触部による保持部材との接触によって該ノズルは無針注射器に装着されることとなる。ここで、この接触部によって形成される面が、加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在することで、すなわち該流れ方向には少なくとも平行とならない方向に延在することで、上記のようにノズル本体内を流れる注射目的物質からノズル本体が受ける力、特に構造的に力を受けやすい接続流路を介して受ける力を保持部材側に伝達し、物理的に該ノズルを保持することが可能となる。そのため、接触部は、加圧された注射目的物質からの力を受け止めるための接触面を有するように構成される。
【0032】
更に、本発明に係るノズルにおいては、ノズルが保持部材に装着されて接触部が保持部
材と接触した状態において、ノズル本体の側面のうち該接触部による接触位置から射出口側の端部までの範囲にある側面と、該保持部材との間の空間の少なくとも一部を充填する充填部材が設けられる。これにより、接触部による接触位置だけではなく、充填部材によっても、加圧された注射目的物質からノズル本体内の流路、特に接続流路が受ける力を受け止めることができ、その結果、ノズルの変形、破損を効果的に防止することができる。すなわち、本発明は、ノズルの装着時において、充填部材によってノズル本体の変形代を塞いでしまうことで、ノズルの変形等を防止するものである。したがって、ノズル本体の変形代を効果的に塞ぐことが可能であれば、上記のノズル本体と保持部材との間の空間の全てを充填部材により塞ぐ必要は必ずしも無く、その一部だけであっても構わない。
【0033】
ここで、上記の無針注射器において、前記ノズル本体は、前記保持部材の一端側から挿入されて前記射出口が該保持部材の他端側に露出する構成であってもよい。その場合、前記ノズル本体の側面は、前記保持部材への挿入方向に平行に延在し、又は該保持部材への挿入方向に対して交わる方向に傾斜して延在する面を形成する。このような構成により、ノズル本体を保持部材に挿入すると、接触部を介したノズル本体と保持部材との接触により、該ノズル本体の挿入が停止される。その停止状態が、接触部を介したノズルの保持部材での装着状態である。また、ノズル本体の側面が挿入方向に平行、もしくは該挿入方向に対して傾斜することで、ノズル本体の保持部材への挿入が円滑に行われる。
【0034】
また、上述までの無針注射器において、前記ノズル本体は、第一の所定直径又は第一の所定幅を有する筒形状の第一段部と、前記第一段部の第一所定直径又は第一所定幅より小さい、第二の所定直径又は第二の所定幅を有する第二段部であって、該第一段部の一方の端面側に接続された第二段部と、を有する構成としてもよい。そして、この場合、前記接触部は、前記第一段部の前記一方の端面において前記第二段部に占められていない面によって形成され、前記導入口は、前記第一段部の他方の端面側に形成され、前記射出口は、前記第二段部の端面のうち前記第一段部が接続されていない端面側に形成されている。このようなノズル本体の具体的な構成を採用することで、第一段部と第二段部の組み合わせによりノズルを形成できるとともに、第一段部と第二段部の直径の違いで生じる面を接触部として機能させることができる。
【0035】
上述までの無針注射器において、前記充填部材は、前記ノズル本体と前記保持部材とを接着する接着剤が硬化することで形成されてもよい。この場合、ノズルが保持部材に対して着脱可能であることを考慮すると、硬化した接着剤は、注射目的物質の射出後にノズルが保持部材から取り外せる程度の接着力であること、実用性を損なわない程度に保持部材から硬化した接着剤が射出後に除去しやすいものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
無針注射器に用いられる脱可能な樹脂製のノズルであって、注射目的物質の注射時に受ける圧力によって、その変形や破壊を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る無針注射器の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す無針注射器に装着されるイニシエータ(点火装置)の概略構成を示す図である。
【図3A】本発明に係る無針注射器におけるノズル部分の概略構成を示す第一の図である。
【図3B】本発明に係る無針注射器におけるノズル部分の概略構成を示す第二の図である。
【図4A】本発明に係る無針注射器に関して有限要素解析を行った際に設定した、無針注射器のモデルを示す図である。
【図4B】図4Aに示す無針注射器のモデルに基づいて、ノズルにかかる応力分布の有限要素解析の結果を示す図である。
【図5A】本発明に係る無針注射器におけるノズル部分の概略構成を示す第三の図である。
【図5B】本発明に係る無針注射器におけるノズル部分の概略構成を示す第四の図である。
【図6】本発明に係る無針注射器におけるノズル部分の概略構成を示す第五の図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係る無針注射器1(以下、単に「注射器1」という)について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0039】
ここで、図1(a)は注射器1の断面図であり、図1(b)は注射器1をイニシエータ20側から見た側面図であり、図1(c)は注射器1を、注射液を射出するノズル4側から見た側面図である。なお、本願の以降の記載においては、注射器1によって注射対象物に注射される注射目的物質を「注射液」と総称する。しかし、これには注射される物質の内容や形態を限定する意図は無い。注射目的物質では、皮膚構造体に届けるべき成分が溶解していても溶解していなくてもよく、また注射目的物質も、加圧することでノズル4から皮膚構造体に対して射出され得るものであれば、その具体的な形態は不問であり、液体、ゲル状等様々な形態が採用できる。ここで、注射器1は、注射器本体2を有し、該注射器本体2の中央部には、その軸方向に延在し、軸方向に沿った径が一定である貫通孔14が設けられている。そして、貫通孔14の一端は、該貫通孔14の径より大きい径を有する燃焼室9に連通し、残りの一端は、ノズル4が形成されたノズルホルダー5側に至る。更に、燃焼室9の、貫通孔14との連通箇所とは反対側に、イニシエータ20が、その点火部が該連通箇所に対向するように設置される。
【0040】
ここで、イニシエータ20の例について図2に基づいて説明する。イニシエータ20は電気式の点火装置であり、表面が絶縁カバーで覆われたカップ21によって、点火薬22を配置するための空間が該カップ21内に画定される。そして、その空間に金属ヘッダ24が配置され、その上面に筒状のチャージホルダ23が設けられている。該チャージホルダ23によって点火薬22が保持される。この点火薬22の底部には、片方の導電ピン28と金属ヘッダ24を電気的に接続したブリッジワイヤ26が配線されている。なお、二本の導電ピン28は互いが絶縁状態となるように、絶縁体25を介して金属ヘッダ24に固定される。さらに、絶縁体25で支持された二本の導電ピン28が延出するカップ21の開放口は、樹脂27によって導電ピン28間の絶縁性を良好に維持した状態で保護されている。
【0041】
このように構成されるイニシエータ20においては、外部電源によって二本の導電ピン28間に電圧印加されるとブリッジワイヤ26に電流が流れ、それにより点火薬22が燃焼する。このとき、点火薬22の燃焼による燃焼生成物はチャージホルダ23の開口部から噴出されることになる。そこで、本発明においては、イニシエータ20での点火薬22の燃焼生成物が燃焼室9内に流れ込むように、注射器本体2に対するイニシエータ20の相対位置関係が設計されている。また、イニシエータ用キャップ12は、イニシエータ20の外表面に引っ掛かるように断面が鍔状に形成され、且つ注射器本体2に対してネジ固定される。これにより、イニシエータ20は、イニシエータ用キャップ12によって注射器本体2に対して固定され、以てイニシエータ20での点火時に生じる圧力で、イニシエータ20自体が注射器本体2から脱落することを防止できる。
【0042】
なお、注射器1において用いられる点火薬22として、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。適切な注射が可能な限りにおいて、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0043】
ここで、燃焼室9内には、点火薬22の燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させる、円柱状のガス発生剤30が配置されている。ガス発生剤30の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。このガス発生剤30は、上記点火薬22と異なり、燃焼時に発生した所定のガスは常温においても気体成分を含むため、発生圧力の低下率は上記点火薬22と比べて小さい。さらに、ガス発生剤30の燃焼時の燃焼完了時間は、上記点火薬22と比べて長いが、燃焼室9内に配置されるときの該ガス発生剤30の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤30の燃焼完了時間を変化させることが可能である。これは、燃焼室9内に流れ込む点火薬22の燃焼生成物との接触状態が、ガス発生剤30の表面形状や、また燃焼室9内でのガス発生剤30の配置に起因する該ガス発生剤30と点火薬22との相対位置関係によって変化すると考えられるからである。
【0044】
次に、貫通孔14には、金属製のピストン6が、貫通孔14内を軸方向に沿って摺動可能となるように配置され、その一端が燃焼室9側に露出し、他端には封止部材7が一体に取り付けられている。そして、注射器1によって注射される注射目的物質である注射液MLは、該封止部材7と、別の封止部材8との間の貫通孔14内に形成される空間に収容される。したがって、封止部材7、8および貫通孔14によって、本発明に係る注射器の収容部が形成されることになる。この封止部材7、8は、注射液MLの封入時に該注射液が漏れ出さないように、且つピストン6の摺動に伴って注射液MLが円滑に貫通孔14内を移動できるように、表面にシリコンオイルを薄く塗布したゴム製のものである。
【0045】
ここで、注射器1の先端側(図1の右側)には、注射液MLを射出するためのノズル4が装着されたホルダー5が設けられている。注射器1においては、ノズル4はいわゆる使い捨てタイプのノズルであり、注射液MLの射出が行われごとに新たなノズルに取り換えられるように、ホルダー5に対して脱着可能に保持される構成となっている。ノズル4およびホルダー5の詳細な構成については、後述する。このホルダー5はガスケット3を挟んで注射器本体2の端面に、ホルダー用キャップ13を介して固定される。ホルダー用キャップ13はホルダー5に対して引っ掛かるように断面が鍔状に形成され、且つ注射器本体2に対してネジ固定される。これにより、ホルダー5は、注射液MLの射出時に注射液MLに掛けられる圧力によって注射器本体2から脱落することが防止される。
【0046】
また、ホルダー5が注射器本体2に取り付けられた状態のとき、封止部材8と対向する箇所に、封止部材8を収容可能な凹部10が形成されている。この凹部10は、封止部材8とほぼ同じ径を有し、封止部材8の長さより若干長い深さを有する。これにより、ピストン6に圧力がかかり注射液MLが封止部材7、8とともに注射器1の先端側に移動したときに、封止部材8が凹部10内に収容されることが可能となる。凹部10に封止部材8が収容されると、加圧された注射液MLが解放されることになる。そこで、ホルダー5の
注射器本体2側に接触する部位に、解放された注射液MLがノズル4まで導かれるように流路11が形成されている。これにより、解放された注射液MLは、流路11を経てノズル4から注射対象物へ射出されることになる。また、凹部10が封止部材8を収容する深さを有することで、注射液MLの射出が封止部材8によって阻害されることを回避できる。
【0047】
なお、ノズル4は、ホルダー5に複数形成されてもよく、または、一つ形成されてもよい。複数のノズルが形成される場合には、各ノズルに対して解放された注射液が送り込まれるように、各ノズルに対応する流路が形成される。さらに、複数のノズル4が形成される場合には、図1(c)に示すように、注射器1の中心軸の周囲に等間隔で各ノズルが配置されるのが好ましい。なお、本実施の形態では、ホルダー5において3個のノズル4が、注射器1の中心軸の周囲に等間隔で配置されている。また、ノズル4の径は、注射対象物、注射液MLに掛かる射出圧力、注射液の物性(粘性)、注射対象物への注射深さ等を考慮して適宜設定される。
【0048】
このように構成される注射器1では、イニシエータ20における点火薬22と、燃焼室9に配置されたガス発生剤30によって、燃焼室9内に燃焼生成物もしくは所定のガスを発生させて、ピストン6を介して貫通孔14内に収容されている注射液MLに圧力を加える。その結果、封止部材7、8を伴って注射液MLは注射器1の先端側に押し出され、封止部材8が凹部10内に収容されると注射液MLが流路11およびノズル4を経て、注射対象物に射出されることになる。射出された注射液MLには圧力が掛けられているため、注射対象物の表面を貫通し、その内部に注射液が到達することで、注射器1における注射の目的を果たすことが可能となる。
【実施例1】
【0049】
ここで、図3Aに基づいて、本発明に係る注射器1におけるノズル4とホルダー5の詳細な構成について説明する。図3Aは、ノズル4がホルダー5に装着された状態を、縦断面(注射液MLの流れに沿った断面)で示した断面図である。ノズル4は、ホルダー用キャップ13によってホルダー5ごと注射器本体2に取り付けられる前の段階で、ホルダー5に装着される。具体的には、注射器本体2への取り付け時に該注射器本体2側に位置するホルダー5の端部側から、該ホルダー5に挿入される。ノズル4は、円柱状の第一段部42と、同じように円柱状の第二段部41が、それぞれの中心軸が重なるように同軸状に配置される形状を有している。ここで、第一段部42の直径は第二段部41の直径より大きいため、第一段部42の端面のうち第二段部41が連結されている端面においては、該第二段部41によって占められていない面43が形成され、他方の第一段部42の端面は、注射器本体2側に位置することとなり流路11と空間的に連結された状態となる。
【0050】
また、ノズル4の内部には、注射器本体2側からイニシエータ20での火薬の燃焼によって加圧された注射液MLが流れ込み、注射対象物に対して射出されるために注射液MLの流れを整える流路が形成されている。具体的には、流路11に面した導入口44を有する第一流路45と、注射対象物に対向する側に露出した注射液MLの射出口48を有する第二流路47と、第一流路45と第二流路47とを結ぶ接続流路46が、ノズル4の内部に形成されている。第一流路45と第二流路47は、横断面積が一定の筒状の流路であり、両流路の中心軸が重なるように同軸状に配置されている。なお、第一流路45の内径は、第二流路47の内径より大きい。したがって、第一流路45と第二流路47とを結ぶ接続流路46は、注射液MLの流れに沿って、すなわち導入口44から射出口47に向かう方向に沿って横断面積は減少していく。換言すると、比較的横断面積が大きい第一流路45を流れている注射液MLを比較的横断面積が小さい第二流路47に導くために、注射液MLの流れに沿って横断面積が減少していく接続流路46が配置されている。
【0051】
このように内部に注射液MLを射出するための流路を有し、面43を含む段状の側面を有するノズル4は、ホルダー5に挿入されたときに、図3Aに示すように面43がホルダー5側の面54と接触し、そこに引っ掛かることで、該ホルダー5に装着された状態となる。そのため、ホルダー5にノズル4が装着される部位の近傍においては、ノズル4の第一段部42が収容される空間55を有するホルダー側第一段部53と、ノズル4の第二段部41が収容される空間51を有するホルダー側第二段部52が形成されている。したがって、ホルダー側第一段部53側の収容空間55の内径は、ホルダー側第二段部52側の収容空間51の内径より大きい。そして、ノズル4がホルダー5に装着された状態では、ノズル4の面43がホルダー5の面54と接触した状態となり、その状態において、ノズル4の射出口47は、注射対象物に対して対向可能となるようにホルダー5の外部に露出された状態となる。なお、射出口47とホルダー5の外側表面とは面一でもよく、また、注射対象物に対して行われる注射の目的に応じて射出口47がホルダー5の外側表面より内側に収まるか、もしくはその逆であってもよい。
【0052】
また、図3Bに示すノズル4およびホルダー5についても、図3Aに示すものと同一の構成については同一の参照番号を付している。ここで、両構成の相違点は、装着時にノズル4とホルダー5との接触が行われる位置、すなわちノズル4側の面43とホルダー5側の面54の接触位置の、ホルダー4内に形成されている流路、特に接続流路46に対する相対位置である。このように具体的な相違点を有する図3Aに示す構成と図3Bに示す構成であるが、ともに本発明の技術的特徴を有する構成である。そこで、両構成に共通する当該技術的特徴について、図4Aおよび図4Bに基づいて説明する。
【0053】
図4Aは、注射液MLの射出時に本発明に係るノズル4が、火薬の燃焼により加圧された注射液MLから受ける応力分布を有限要素解析するために、ノズル4に対応するように設定したモデルである。なお、図4Aに示すモデルは、ノズル4の対称性を考慮して中心軸から半分の縦断面形状を示したものである。そして、図4Aに示すモデルに基づいて応力分布を解析した結果を、分析の条件ごとに図4B(a)〜(f)にそれぞれ示している。
【0054】
先ず、図4Aに示すノズル4のモデルにおいて、各パラメータは以下の通りである。
第一流路45の直径: φ0.8mm
第二流路47の直径: φ0.1mm
第二段部41の半径L1: 0.975mm
第二流路47の流路長さL2: 1.0mm
(L2は、射出口48から、第二流路47と接続流路46の接続部位までの注射液流れ方向に沿った長さとして規定される)
接続流路46の流路長さL3: 3.5mm
(L3は、第二流路47と接続流路46の接続部位から、接続流路46と第一流路45の接続部位までの注射液流れ方向に沿った長さとして規定される)
第一段部42の長さL4: rmm(rは変数)
(L4は、注射液流れ方向に沿った第一段部42の長さとして規定される)
第一段部42の半径L5: 1.5mm
以上より、ノズル4における面43の幅は、L5−L1=0.525mmとなる。また、第一段部42と第二段部41の境界であって面43の縁にあたる図4A上の位置を角位置CPとする。
【0055】
ここで、ノズル4における応力分布の有限要素解析については、イニシエータ20での燃焼による加圧を考慮した特定の加圧条件の下、第一段部42の長さL4をr=7、6.5、6、5、4、3と変化させた場合の6通り行った。すなわち、第一段部42の長さL4以外のパラメータを固定し、ノズル4内の流路45、46、47に関する条件を維持し
た状態で、第一段部42による肉厚の部分(径方向において第一流路45に占められていない部分。第二段部41において第二流路47、接続流路46に占められていない部分の径方向の長さよりも、概ね長いため「肉厚」と称するが、第一段部42の全てにおいて第二段部41よりも肉厚であると限定する趣旨はない。)の長さを変化させたときに、ノズル4の内部にどのような応力分布が形成されるか解析を行い、その結果を図4Bに示す。なお、この加圧条件は、火薬の燃焼により加圧された注射液MLがノズル4の流路内に流れ込んだときの、該注射液によって掛けられる圧力を想定している。
【0056】
図4B(a)〜(f)のそれぞれは、第一段部42の長さL4をr=7、6.5、6、5、4、3と変化させた場合の解析結果である。なお、図4Bにおいては、応力が0MPa〜8MPaまでをD1のハッチング領域で示し、応力が8MPa〜12MPaまでをD2のハッチング領域で示し、応力が12MPa〜16MPaまでをD3のハッチング領域で示し、応力が16MPa〜20MPaまでをD4のハッチング領域で示している。なお、ハッチングが施されていない領域は、ノズル4内に形成された流路(第一流路45、接続流路46、第二流路47)を示す。また、解析結果において、最大の応力が算出された部位を最大応力位置MXとして示している。
【0057】
ここで、図4Bに示す各ケースでの最大応力位置MXでの算出応力と、角位置CPでの算出応力を以下の表に示す。
【表1】

【0058】
上記表および図4Bから理解できるように、各ケースとも、最大応力位置MXは接続流路46上の内壁面上に位置し、そこでの応力は、概ね一定である。特筆すべきは、最大応力位置MXから角位置CPの間の領域での応力分布である。L4の値が小さくなるほど(たとえば、r=5、4、3の場合)、角位置CPと接続流路46との間に比較的高い応力の分布を見出すことができる。換言すれば、これらのケースでは、最大応力位置MX近傍のノズル内流路側から角位置CPにわたって、比較的高い応力分布が形成されている。一方で、L4の値が高くなるほど(たとえば、r=6、6.5、7の場合)、L4の値が比較的低い上記のケースでは見られていた、最大応力位置MX近傍のノズル内流路側から角位置CPにわたる比較的高い応力分布が解消している。
【0059】
以上を踏まえ、本出願人は、接続流路46上の最大応力位置MXの近傍と、角位置CPを形成する第一段部42の長さL4との相関は、注射液の射出時にノズル4内に形成される応力分布に影響を与えることを見出した。接続流路46は径の大きい第一流路45から径の小さい第二流路47へと流路径を絞る流路であり、また第二流路47の一方の端部は射出口48を有し、通常であれば大気圧に開放されていることから、第二流路47と接続流路46との接続部位より、接続流路側に戻った所定の位置において注射液による応力が最大となる最大応力位置MXが形成され、その近傍も比較的高い応力が加わる位置となる。そのため、これらの高応力位置と角位置CPとの距離が十分に確保されていないと、すなわち当該距離が短すぎると、接続流路46上の最大応力位置MX近傍の位置から角位置CPにわたって、高応力分布が形成されることになり、その結果、ノズル4が横断面方向
に破断したり、また横断面方向において変形し強度が低下した結果その一部が縦方向に変形したりするなど、ノズル4において不具合が生じる可能性が高くなると考えられる。
【0060】
したがって、本出願人は、上記の接続流路46上の高応力位置と角位置CPとの距離が十分に確保されるように、角位置CPが、最大応力位置MXを含むその近傍位置から射出口48側寄りとなるように、第一段部42の長さL4を比較的長く設定することとした(たとえば、図4Bに示す(a)〜(c)のケース)。この考えに基づいて本出願人により為された発明が、図3Aおよび図3Bに開示された構成である。
【0061】
ここで、図3Aおよび図3Bにおいて、左側に示した直線は、導入口44から射出口48までの注射液の流れを模式化したものであり、その直線に対してノズル4の導入口44、射出口48、面43(すなわち角位置CP)、最大応力位置MXを投影した点を、それぞれP1、P2、P3、P4とする。そこで、図3Aに示すノズル4およびホルダー5の構成においては、注射液の流れに沿ったときに、点P3が、点P4より点P2側に寄った位置であって、接続流路46の途中に対応する位置に位置するように、第一段部42の長さが設定されている(これにより、たとえば、図4B(c)に示す状態が形成されている)。また、図3Bに示すノズル4およびホルダー5の構成においては、注射液の流れに沿ったときに、点P3が、点P4より点P2側に寄った位置であって、接続流路46と第二流路47との接続部位に対応する位置に位置するように、第一段部42の長さが設定されている(これにより、たとえば、図4B(a)に示す状態が形成されている)。このように第一段部42の長さが設定されることで、ノズル4の強度の観点から、ノズル4内の応力分布を適切に形成することができ、以てノズル4の変形や破損を回避することが可能となる。
【0062】
なお、図3Aおよび図3Bに示す構成では、第一段部42および第二段部41は円柱状の形状を有していたが、それに代えて角柱状の形状を有しても構わない。また、図3Aおよび図3Bに示す構成においては、ノズル4の側面、すなわち第一段部42の側面および第二段部41の側面は、注射液の流れ方向に平行に延在しているが、これらの側面の延在方向を、注射液の流れに対して一定の角度をもって交わるような方向に設定することで、当該側面を傾斜面として形成してもよい。その場合、ノズル4を保持するホルダー5の収容空間54、55の内壁面も、ノズル4の側面に対応するように傾斜面として形成される。
【0063】
上述までのように構成される注射器1は、イニシエータ20による注射液MLへの加圧を調整することで、目的とする注射対象物に対して好適な注射が実現可能である。本発明に係る注射器1の注射対象物は、たとえば、ヒトや家畜等の生体の皮膚構造体である。ヒトの皮膚は、皮膚表面側から深さ方向に向かって、表皮、真皮、皮下組織・筋肉組織と層状に構成され、更に表皮は角層、皮内と層状に区別することができる。皮膚構造体の各層は、その組織を構成する主な細胞等や組織の特徴も異なる。このようにヒトの皮膚構造は、概ね層状に形成されており、各層に主に含まれる細胞・組織等によって固有の解剖学的機能が発揮されている。このことは、皮膚に対して医学的治療等を施術する場合には、その治療目的に応じた皮膚構造体の場所(深さ)に治療のための成分を注射することが望ましいことを意味する。たとえば、皮内には樹状細胞が存在することから、ここにワクチン注射を行うことでより効果的な抗原抗体反応が期待できる。
【0064】
また、真皮には、繊維芽細胞やコラーゲン細胞が存在することから、皮膚のシワを除去するためのタンパク質、酵素、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、糖類、核酸、各種成長因子(上皮細胞や繊維芽細胞)等を真皮に注入すると、効果的な美容治療効果が期待される。また、毛髪再生治療においても、毛根が真皮に位置することから、毛髪再生治療のためには、毛乳頭細胞、表皮幹細胞等を自己培養し、それを頭皮に自家移植する幹細胞注入法
や、幹細胞から抽出された数種類の成長因子や栄養成分(たとえば、毛乳頭細胞、毛根幹細胞、表皮幹細胞、HARGカクテル、移植用毛髪等)を真皮近傍に注入することが好ましいといわれている。
【0065】
また、本発明に係る注射器1によれば、上述した注射液を皮膚構造体に注射する場合以外にも、例えば、再生医療の分野において、注射対象となる細胞や足場組織・スキャフォールドに培養細胞、幹細胞等を播種することが可能となる。例えば、特開2008−206477号公報に示すように、移植される部位及び再細胞化の目的に応じて当業者が適宜決定し得る細胞、例えば、内皮細胞、内皮前駆細胞、骨髄細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、繊維芽細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腸管細胞、幹細胞、その他再生医療の分野で考慮されるあらゆる細胞を、注射器1により注射することが可能である。
【0066】
さらには、特表2007−525192号公報に記載されているような、細胞や足場組織・スキャフォールド等へのDNA等の送達にも、本発明に係る注射器1を使用することができる。この場合、針を用いて送達する場合と比較して、本発明に係る注射器1を使用した方が、細胞や足場組織・スキャフォールド等自体への影響を抑制できるためより好ましいと言える。
【0067】
さらには、各種遺伝子、癌抑制細胞、脂質エンベロープ等を直接目的とする組織に送達させたり、病原体に対する免疫を高めるために抗原遺伝子を投与したりする場合にも、本発明に係る注射器1は好適に使用される。その他、各種疾病治療の分野(特表2008−508881号公報、特表2010−503616号公報等に記載の分野)、免疫医療分野(特表2005−523679号公報等に記載の分野)等にも、当該注射器1は使用することができ、その使用可能な分野は意図的には限定されない。
【実施例2】
【0068】
図5Aおよび図5Bに、本発明に係る注射器1に供されるノズル4およびホルダー5の第2の実施例に関する構成を示す。なお、ノズル4およびホルダー5において、上記第1の実施例と同一の構成要素については同一の参照番号を付して、その詳細な説明を省略する。図5Aは、図3Aと同様に、ノズル4がホルダー5に装着された状態を、縦断面(注射液MLの流れに沿った断面)で示した断面図である。ここで、図5Aに示す構成と図3Aに示す構成の相違点は、ノズル4の面43とホルダー5の面54との接触部位近傍の構成と、第一段部42の側面とホルダー側第一段部53との間に側流路60が形成されている点である。
【0069】
詳細には、図5Aおよび図5Bにおいて左側に示した直線は、図3Aの場合と同じように、導入口44から射出口48までの注射液の流れを模式化したものであり、その直線に対してノズル4の導入口44、射出口48、面43(すなわち角位置CP)、最大応力位置MX、第一流路45と接続流路46との接続部位を投影した点を、それぞれP1、P2、P3、P4、P5とする。そこで、図5Aに示すノズル4およびホルダー5の構成においては、注射液の流れに沿ったときに、点P3が、点P5より点P2側に寄った位置に位置するように、第一段部42の長さが設定されている。
【0070】
さらに、点P3に対応するノズル4の面43が、ホルダー5側の面54と接触している部位において、注射液の漏れ出しを防ぐシール部61が設けられている。それと同時に、第一段部42と側面と、収容空間55の内壁面との間に、上端が流路11と接続し下端がシール部61でシールされて画定される側流路60が形成されている。この側流路60には、火薬の燃焼により流路11を流れてきた、加圧された注射液の一部が流れ込むように構成されるが、シール部61によりその流れ込んだ注射液は外部に漏れ出すことは抑制される。そのため、射出口48から注射液が射出される際には、注射液がノズル4内の流路
に流れ込むことで、上記実施例で示したように、ノズル4の内側から圧力がノズル本体に掛けられるとともに、側流路60に流れ込んだ注射液によって、ノズル4の外側からも圧力がノズル本体に掛けられた状態となる。これにより、ノズル4の内外における圧力差を可及的に抑制することができる。
【0071】
また、面43と面54との接触部位が、第一流路45と接続流路46との接続部位よりも射出口48側にあることは、第一流路45を流れてきた注射液の圧力が更に上昇していく位置でもある当該接続部位より、面43と面54との接触部位を下流側に配置することを意味する。そのため、側流路60を流れる注射液を当該接続部位の近傍まで導くことが可能となる。すなわち、上述したノズル4の内外における圧力差を可及的に抑制する状態を、第一流路45を流れてきた注射液の圧力が更に上昇していく位置でもある当該接続部位の近傍に形成することが可能となる。この結果、図5Aに示す構成では、側流路60に注射液が流れ込んでいない従来技術の場合と比べて、内外の圧力差によってノズル4を変形、破壊する圧力状態が形成されにくくなる。
【0072】
なお、好ましくは、点P3が、実施例1で述べた最大応力位置MXに対応する点P4よりも点P2側に位置するように、側流路60の深さ、すなわち、ノズル4の第一段部42の長さが設定される。このような構成によれば、ノズル4の内外からの圧力付与により、ノズル4を変形等させる応力分布の形成を効果的に阻止できる。
【0073】
なお、シール部61によるシール構成は、ガスケット、パッキン、Oリング等のシール機能をもつ部材を、ノズル4の面43とホルダー5の面54との間に設けることで形成してもよい。また、面43と面54との間に耐水性の接着剤を塗布し、硬化させることで形成してもよい。この場合、ノズル4が使い捨てタイプのノズルであることを考慮して、新たなノズルの装着に影響を与えにくい接着剤であることが好ましい。また、ノズル4の面43側に環状の突部を設け、それに対応するホルダー5の面54側に環状の凹部を設け、当該突部と当該凹部が係合することでシール部61を形成するようにしてもよい。もちろん、環状の突部をホルダー5の面54側に設け、環状の凹部をノズル4の面43側に設けても構わない。また、ノズル4の面43側に環状の突部を設ける構成において、当該突部をノズル4の装着時にホルダー5側の面54で潰すことでシール部61を形成するようにしてもよい。同様に、そのような潰れる突部をホルダー5の面54側に設けても構わない。
【0074】
また、シール部61の配置については、図5Bに示すように、ノズル4の面43とホルダー5の面54との接触部位の近傍の位置、たとえば、側流路60の下端側にあたる第一段部42の側面上に配置してもよい。この場合、側流路60の空間を確保するために、シール部61として、ガスケット、パッキン、Oリング等の一般的なシール部材の利用は難しい。そこで、側流路60の下端側に変形可能な突起部62を設け、ノズル4をホルダー5に装着する際に、その突起部62を変形させながらノズル4を挿入することで、シール部61を形成してもよい。
【実施例3】
【0075】
図6に、本発明に係る注射器1に供されるノズル4およびホルダー5の第3の実施例に関する構成を示す。なお、ノズル4およびホルダー5において、上記第1の実施例と同一の構成要素については同一の参照番号を付して、その詳細な説明を省略する。図6は、図3Aと同様に、ノズル4がホルダー5に装着された状態を、縦断面(注射液MLの流れに沿った断面)で示した断面図である。ここで、図6に示す構成と図3Aに示す構成の相違点は、ノズル4の面43とホルダー5の面54との接触部位近傍の構成と、第二段部41の側面とホルダー側第二段部52との間に充填部材63が配置されている点である。
【0076】
詳細には、図6において左側に示した直線は、図3Aの場合と同じように、導入口44から射出口48までの注射液の流れを模式化したものであり、その直線に対してノズル4の導入口44、射出口48、面43(すなわち角位置CP)、最大応力位置MX、第一流路45と接続流路46との接続部位を投影した点を、それぞれP1、P2、P3、P4、P5とする。そこで、図6に示すノズル4およびホルダー5の構成おいては、注射液の流れに沿ったときに、点P3が、点P5より点P1側に寄った位置に位置するように、第一段部42の長さが設定されている。
【0077】
さらに、図6に示す構成において、ノズル4の第二段部41の側面と、ホルダー5の収容空間51の内壁面との間の一部又は全部を閉塞するように充填部材63が配置されている。そして、面43と面54の接触部位が、上記のとおり第一流路45と接続流路46との接続部位より上流側(導入口44側)に配置されているため、充填部材63が、ノズル4の内部において流路径が減少することによって注射液から受ける圧力が増加し得る接続流路46の近傍の第二段部41の側面を、外部から支持する構成となる。そのため、注射液からの圧力によるノズル4の変形代を充填部材63で塞ぐことになるため、注射液の射出時にノズル4が変形、破壊するのを回避することが可能となる。
【0078】
なお、好ましくは、充填部材63が、実施例1で述べた最大応力位置MX近傍の部位に対応する第二段部の側面上の部位に接触するように配置される。このような構成によれば、ノズル4を充填部材63によって効果的に支持することが可能となる。もちろん、第二段部41の側面と収容空間51の内壁面との間の空間の全てを、充填部材63で塞ぐようにしても構わない。
【0079】
また、充填部材63は、ノズル4とホルダー5とを接着させる接着剤が硬化することで形成されてもよい。この場合、ノズル4が使い捨てタイプのノズルであることを考慮して、新たなノズルの装着に影響を与えにくい接着剤であることが好ましい。
【符号の説明】
【0080】
1・・・・注射器
2・・・・注射器本体
4・・・・ノズル
5・・・・ホルダー
6・・・・ピストン
7、8・・・・封止部材
9・・・・燃焼室
10・・・・凹部
11・・・・流路
20・・・・イニシエータ
22・・・・点火薬
30・・・・ガス発生剤
41・・・・第一段部
42・・・・第二段部
43・・・・面
44・・・・導入口
45・・・・第一流路
46・・・・接続流路
47・・・・第二流路
48・・・・射出口
51・・・・収容空間
52・・・・ホルダー側第一段部
53・・・・ホルダー側第二段部
54・・・・面
55・・・・収容空間
60・・・・側流路
61・・・・シール部
62・・・・突起部
63・・・・充填部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射針を介することなく、加圧された注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器の、該注射対象領域への射出口を形成し、該無針注射器側の保持部材に対して着脱可能に構成される樹脂製のノズルであって、
前記保持部材に着脱可能な形状の側面を有するノズル本体と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、端部に位置する導入口を経て前記無針注射器側から前記加圧された注射目的物質が流れ込む第一流路と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路より流路径が小さく、前記射出口を前記端部とは異なる端部に含む第二流路と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路と前記第二流路とを接続し、前記加圧された注射目的物質の流れに沿って流路の径が減少する接続流路と、を備え、
前記ノズル本体は、
前記射出口が前記注射対象領域に露出して対向するように、前記ノズル本体を前記保持部材に対して接触する接触部であって、前記ノズル本体の側面からつながり、且つ前記加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在する平面形状又は曲面形状の接触部を有し、
前記接触部は、前記加圧された注射目的物質の流れ方向において、前記接続流路と前記第二流路との接続部位の近傍の該接続流路上の所定位置より前記射出口側の何れかの位置に位置する、
無針注射器用ノズル。
【請求項2】
前記接触部は、前記加圧された注射目的物質の流れ方向において前記接続部位と前記射出口との間に位置する、請求項1に記載の無針注射器用ノズル。
【請求項3】
前記ノズル本体は、前記保持部材の一端側から挿入されて前記射出口が該保持部材の他端側に露出する構成であって、
前記ノズル本体の側面は、前記保持部材への挿入方向に平行に延在し、又は該保持部材への挿入方向に対して交わる方向に傾斜して延在する、
請求項1又は請求項2に記載の無針注射器用ノズル。
【請求項4】
前記ノズル本体は、第一の所定直径又は第一の所定幅を有する筒形状の第一段部と、前記第一段部の第一所定直径又は第一所定幅より小さい、第二の所定直径又は第二の所定幅を有する第二段部であって、該第一段部の一方の端面側に接続された第二段部と、を有し、
前記接触部は、前記第一段部の前記一方の端面において前記第二段部に占められていない面によって形成され、
前記導入口は、前記第一段部の他方の端面側に形成され、
前記射出口は、前記第二段部の端面のうち前記第一段部が接続されていない端面側に形成されている、
請求項1又は請求項2に記載の無針注射器用ノズル。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の無針注射器用ノズルと、
前記注射目的物質を収容した収容部と、
前記収容部に収容された前記注射目的物質に対して加圧し、外部へ排出させる加圧部と、を備える、
無針注射器。
【請求項6】
注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器で
あって、
前記注射目的物質を収容した収容部と、
前記収容部に収容された前記注射目的物質に対して加圧し、外部へ排出させる加圧部と、
前記加圧部によって加圧された注射目的物質の前記注射対象領域への射出口を形成し、前記無針注射器側の保持部材に対して脱着可能に構成される樹脂製のノズルと、
を備え、
前記ノズルは、
ノズル本体と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、端部に位置する導入口を経て前記無針注射器側から前記加圧された注射目的物質が流れ込む第一流路と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路より流路径が小さく、前記射出口を前記端部とは異なる端部に含む第二流路と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路と前記第二流路とを接続し、前記加圧された注射目的物質の流れに沿って流路の径が減少する接続流路と、
前記射出口が前記注射対象領域に露出して対向するように、前記ノズル本体を前記保持部材に対して接触する接触部であって、前記ノズル本体の側面からつながり、且つ前記加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在する平面形状又は曲面形状の接触部と、
を有し、
前記接触部は、前記加圧された注射目的物質の流れ方向において、前記接続流路と前記第一流路との接続部位より前記射出口側の何れかの位置に位置し、
前記ノズルが前記接触部を介して前記保持部材に接触した状態で、前記ノズル本体の側面のうち前記導入口が位置する該ノズル本体の端面側から前記接触部による接触位置までの範囲にある側面と、該保持部材との間に、前記加圧された注射目的物質が流れ込む側流路が形成される、
無針注射器。
【請求項7】
前記ノズル本体は、前記保持部材の一端側から挿入されて前記射出口が該保持部材の他端側に露出する構成であって、
前記ノズル本体の側面は、前記保持部材への挿入方向に平行に延在し、又は該保持部材への挿入方向に対して交わる方向に傾斜して延在する、
請求項6に記載の無針注射器。
【請求項8】
前記ノズル本体は、第一の所定直径又は第一の所定幅を有する筒形状の第一段部と、前記第一段部の第一所定直径又は第一所定幅より小さい、第二の所定直径又は第二の所定幅を有する第二段部であって、該第一段部の一方の端面側に接続された第二段部と、を有し、
前記接触部は、前記第一段部の前記一方の端面において前記第二段部に占められていない面によって形成され、
前記導入口は、前記第一段部の他方の端面側に形成され、
前記射出口は、前記第二段部の端面のうち前記第一段部が接続されていない端面側に形成されている、
請求項6に記載の無針注射器。
【請求項9】
前記接触部は、前記側流路に流れ込んだ前記加圧された保持部材が前記射出口側に流れ出ることを防ぐシール部を有する、
請求項6から請求項8の何れか一項に記載の無針注射器。
【請求項10】
前記ノズル本体の側面上の、前記接触部による接触位置近傍の所定部位に、前記側流路
に流れ込んだ前記加圧された保持部材が前記射出口側に流れ出ることを防ぐシール部が設けられた、
請求項6から請求項8の何れか一項に記載の無針注射器。
【請求項11】
前記接触部による接触位置近傍の所定部位には、変形可能な突起部が設けられ、
前記ノズルが前記保持部材に装着されるときに前記突起部が該保持部材との接触により変形することで前記シール部が形成される、
請求項10に記載の無針注射器。
【請求項12】
注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器であって、
前記注射目的物質を収容した収容部と、
前記収容部に収容された前記注射目的物質に対して加圧し、外部へ排出させる加圧部と、
前記加圧部によって加圧された注射目的物質の前記注射対象領域への射出口を形成し、前記無針注射器側の保持部材に対して脱着可能に構成される樹脂製のノズルと、
を備え、
前記ノズルは、
ノズル本体と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、端部に位置する導入口を経て前記無針注射器側から前記加圧された注射目的物質が流れ込む第一流路と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路より流路径が小さく、前記射出口を前記端部とは異なる端部に含む第二流路と、
前記ノズル本体の内部に設けられた流路であって、前記第一流路と前記第二流路とを接続し、前記加圧された注射目的物質の流れに沿って流路の径が減少する接続流路と、
前記射出口が前記注射対象領域に露出して対向するように前記ノズル本体を前記保持部材に対して接触する接触部であって、前記ノズル本体の側面からつながり、且つ前記加圧された注射目的物質の流れ方向に交わる所定方向に延在する平面形状又は曲面形状の接触部と、
を有し、
前記接触部は、前記加圧された注射目的物質の流れ方向において、前記接続流路と前記第一流路との接続部位より前記導入口側の何れかの位置に位置し、
前記ノズルが前記接触部を介して前記保持部材に接触した状態で、前記ノズル本体の側面のうち該接触部による接触位置から前記射出口側の端部までの範囲にある側面と、該保持部材との間の空間の少なくとも一部を充填する充填部材が設けられる、
無針注射器。
【請求項13】
前記ノズル本体は、前記保持部材の一端側から挿入されて前記射出口が該保持部材の他端側に露出する構成であって、
前記ノズル本体の側面は、前記保持部材への挿入方向に平行に延在し、又は該保持部材への挿入方向に対して交わる方向に傾斜して延在する、
請求項12に記載の無針注射器。
【請求項14】
前記ノズル本体は、第一の所定直径又は第一の所定幅を有する筒形状の第一段部と、前記第一段部の第一所定直径又は第一所定幅より小さい、第二の所定直径又は第二の所定幅を有する第二段部であって、該第一段部の一方の端面側に接続された第二段部と、を有し、
前記接触部は、前記第一段部の前記一方の端面において前記第二段部に占められていない面によって形成され、
前記導入口は、前記第一段部の他方の端面側に形成され、
前記射出口は、前記第二段部の端面のうち前記第一段部が接続されていない端面側に形成されている、
請求項12に記載の無針注射器。
【請求項15】
前記充填部材は、前記ノズル本体と前記保持部材とを接着する接着剤が硬化することで形成される、
請求項12から請求項14の何れか一項に記載の無針注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−161431(P2012−161431A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23319(P2011−23319)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】