説明

無鉛性カチオン電着塗料組成物

【課題】 基材の表面に、防錆性に優れた塗膜を形成することができる、無鉛性カチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を含有する無鉛性カチオン電着塗料組成物であって、この複合化合物が、40〜90重量%の酸化亜鉛を含む化合物であり、この複合化合物が、塗料固形分100重量部に対して7〜50重量部含まれる、無鉛性カチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に、防錆性に優れた塗膜を形成することができる、無鉛性カチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板または冷延鋼板などの鋼板は、加工性に優れるため工業材料として汎用されている。これらの鋼板は鉄であり錆が生じる。そのため、自動車用途など耐食性が要求される用途においては、亜鉛めっき処理を施した亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき処理を施した亜鉛−ニッケルめっき鋼板などが用いられている。しかし、近年の経済情勢から原料コストの削減が重要な課題となりつつあり、そのため、コスト的により安価な無処理の鋼板の使用も検討されるようになってきた。
【0003】
ところで、自動車などの基材の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を形成して、基材を保護すると同時に美しい外観を付与している。このような複数の塗膜には電着塗膜が含まれる。電着塗膜は、導電性基材の上に塗装する塗膜であり、主として基材の耐食性、防錆性を向上させるために設けられる。
【0004】
これまで電着塗料組成物には、耐食性を付与するため、鉛を含む耐食性付与剤が添加されてきた。近年、鉛は環境に対して悪影響を与えることから、使用量の削減が要求されている。そのため鉛を含む耐食性付与剤を含まない、いわゆる無鉛性カチオン電着塗料が主として利用されつつある。しかし、電着塗料組成物に鉛を使用しないことによって、電着塗膜の耐食性付与性能が低下することが多く、特に無処理の鋼板表面を無鉛性電着塗料組成物で電着塗装した基材は、耐食性が劣ることとなる。
【0005】
特開2001−2997号公報(特許文献1)には、カチオン電着塗料用樹脂(A)、ハイドロタルサイト系固溶体(B)及びビスマス含有化合物(C)を含有することを特徴とするカチオン電着塗料が記載されている。このカチオン電着塗料は、無処理鋼板に塗装しても防錆性がすぐれ、エッジ防錆性、つきまわり性、耐薬品性、平滑性などの良好な塗膜を形成することができる旨が記載されている。しかしながら、これは必ずしも満足のいくレベルの性能を有するものではない。
【0006】
特開2001−329221号公報(特許文献2)には、カチオン電着塗料用樹脂(A)、縮合リン酸アルミニウム及び/又は亜鉛化合物(B)、ならびに酸化アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウム(C)を含有することを特徴とするカチオン電着塗料が記載されている。この文献の実施例によると、亜鉛化合物として酸化亜鉛が用いられている。ここでは、トリポリリン酸アルミニウム粒子にシリカ及び酸化亜鉛処理を施してなる材料にさらに水酸化アルミニウム処理をなしている。これは、酸化亜鉛の量が本発明と比較して少なく、防錆効果が不充分である。
【0007】
【特許文献1】特開2001−2997号公報
【特許文献2】特開2001−329221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、基材(特に、無処理の鋼板)の表面に、防錆性に優れた塗膜を形成することができる、無鉛性カチオン電着塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を含有する無鉛性カチオン電着塗料組成物であって、
この複合化合物が、40〜90重量%の酸化亜鉛を含む化合物であり、
この複合化合物が、塗料固形分100重量部に対して7〜50重量部含まれる、
無鉛性カチオン電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0010】
上記縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物は、濃度1g/100mlでpH7の水溶液に浸漬した場合における亜鉛イオンの濃度が100ppm以下であり、かつ
濃度1g/100mlでpH4の水溶液に浸漬した場合における亜鉛イオンの濃度が400〜4000ppmである、複合化合物であるのが好ましい。
【0011】
上記複合化合物に含まれる縮合リン酸金属塩は、ポリリン酸亜鉛またはトリポリリン酸アルミニウムであるのが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は、無処理の鋼板の電着塗装用として用いることができる。
【0013】
本明細書でいう「無鉛性」とは、実質上鉛を含まないことをいい、環境に悪影響を与えるような量で鉛を含まないことを意味する。具体的には、電着浴中の鉛化合物濃度が50ppm、好ましくは20ppmを超える量で鉛を含まないことをいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電着塗料組成物は防錆性付与性能に優れるものである。本発明の電着塗料組成物は、鉛を含む耐食性付与剤が含まれないことにも関わらず、高い防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物は特に、亜鉛めっき処理などなされていない無処理の鋼板に対して、高い防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物を無処理の鋼板に電着塗装することによって、亜鉛めっき鋼板を電着塗装した場合と同等の防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物は、亜鉛めっき鋼板を無処理の鋼板に代替する可能性を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
最初に、本発明に至る過程を記載する。亜鉛めっきは、鉄の錆を防止する手段として知られている。亜鉛は鉄よりイオン化傾向が大きいため、鉄と亜鉛とを接触させた状態とすると、水の存在下において亜鉛が溶けだし、鉄の腐食が防止されるからである。この知見に基づき、本発明者らは、酸化亜鉛粉末を含む電着塗料組成物を無処理の鋼板に電着塗装することによって、亜鉛めっき処理を行った鋼板を用いる場合と同等の効果が得られるのではないかと考えた。しかし、これらの効果を得るのに必要とされる量の酸化亜鉛を電着塗料組成物中に加えることを試みたところ、顔料分散ペーストの調製の段階で不具合が生じた。具体的には、酸化亜鉛は中和酸による溶出が高いため、顔料分散ペーストを調製する段階で亜鉛が溶出して顔料分散ペーストの増粘が生じ、塗料としての性状をなさなくなってしまった。
【0016】
本発明者らは研究を重ねた結果、酸化亜鉛と、縮合リン酸金属塩を構成する縮合リン酸とを予め複合することによって、塗料調製に関する上記不良事象を解消することができること、さらに各種pHを有する水溶液中に上記の縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を浸漬した場合において、亜鉛イオンの濃度が特定の範囲となる複合化合物を電着塗料組成物に含めることによって、電着塗料の防錆性を向上させることができることを見出した。特に縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を電着塗料組成物に含めることによって、無処理の鋼板に電着塗装した場合においても高い防錆性を付与できることを見出した。これは、亜鉛めっき鋼板を無処理の鋼板に代替する可能性を見出したこととなる。以下、本発明について記載していく。
【0017】
本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂が、水性媒体中に分散・溶解した電着塗料組成物である。電着塗料組成物は一般に、バインダー樹脂以外にも、中和酸、有機溶媒、顔料、硬化触媒などを含む。そして本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は、特定の縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を含有することを特徴とする。なお、本明細書中において「縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物」を単に「複合化合物」と記載することもある。
【0018】
縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物
本発明で用いられる縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物とは、縮合リン酸金属塩に対して、酸化亜鉛を湿式混合または乾式混合して複合化したものである。この複合化合物は、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛とを、同一粒子内に含む化合物である。この複合物は、酸化亜鉛が縮合リン酸金属塩の一部または全部を被覆する構造、縮合リン酸金属塩が酸化亜鉛の一部または全部を被覆する構造、またはこれらが互いに密着する構造などを有すると考えられる。
【0019】
この複合化合物は、複合することによって、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛を単に混合して用いた場合と比較して、塗料性能に不具合を与えることなく防錆性能を向上させることができる。縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛を、複合化合物としてではなく、単に混合物として電着塗料組成物中に含まれる場合は、縮合リン酸金属塩および酸化亜鉛が別々の粒子として含まれることとなる。そしてこのような混合物が含まれる場合は、酸化亜鉛の含有量が増えるに伴って、塗料組成物が増粘するという不具合がある。
【0020】
本発明においては、上記複合化合物を用いることによって、塗料組成物の増粘などの不具合を伴うことなく、防錆性能を向上させることができる。さらに本発明者らは、複合化合物に含まれる酸化亜鉛の複合量を、複合化合物の全量に対して40〜80重量%とすることによって、防錆性能向上効果を著しく向上させることができることを見出した。なお、複合化合物に含まれる酸化亜鉛の量は、45〜85重量%であるのが好ましく、50〜80重量%であるのがより好ましく、この場合は防錆性能をさらに向上させることができる。
【0021】
複合化合物は、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛とが複合化した化合物である。この中で、縮合リン酸金属塩を構成する縮合リン酸は、オルトリン酸の脱水縮合によって生じる直鎖状高分子リン酸(ピロリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸等)の総称であり、一般式P3n+1(式中、nは2以上の整数である。)で示される。また、縮合リン酸金属塩を構成する金属は、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、およびバリウムである。本発明においては、縮合リン酸金属塩が、ポリリン酸亜鉛またはトリポリリン酸アルミニウムであるのが好ましい。
【0022】
本発明で用いられる縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物は、濃度1g/100mlでpH7の水溶液に55℃で72時間浸漬した場合における亜鉛イオンの濃度が100ppm以下であり、かつ濃度1g/100mlでpH4の水溶液に55℃で72時間浸漬した場合における亜鉛イオンの濃度が400〜4000ppmである、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を用いるのが好ましい。なお、浸漬条件を一定にするため、本発明における浸漬条件は、55℃の水溶液に72時間浸漬した場合と定める。このような縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を用いることによって、電着塗装に不具合を与えることなく、電着塗料組成物の防錆性付与性能を高めることができる。
【0023】
ところで、縮合リン酸金属塩、および酸化亜鉛は、一般的に塗料に配合される顔料に分類されるものもある。本発明においては、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛とが複合化した複合化合物以外のものは顔料に分類される。
【0024】
上記縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物は、塗料固形分100重量部に対して下限7重量部上限50重量部となる量で、本発明のカチオン電着塗料組成物中に含有されるのが好ましい。上記下限は15重量部であるのがより好ましく、25重量部であるのがさらに好ましい。この複合化合物の含有量が7重量部より少ない場合は、複合化合物の添加による効果(耐食効果)が不十分となる。また複合化合物の含有量が50重量部を超える場合は、塗膜外観の悪化による性能低下の不具合が生じる恐れがある。この複合化合物は、電着塗料組成物の調製に用いられる顔料ペーストを製造する際に、顔料と同様に加えてペースト化して加えてもよい。または複合化合物のペースト物を、顔料ペーストの調製と同様にして個別に調製し、これを電着塗料組成物に加えてもよい。
【0025】
カチオン性エポキシ樹脂
本発明で用いるカチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0026】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0027】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0028】
【化1】

【0029】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0030】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0031】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0032】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0033】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0034】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0035】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0036】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数の種類を併用して用いてもよい。
【0037】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明のブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0038】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0039】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0040】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0041】
ブロック剤としては、ε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等通常使用されるものを用いることができる。しかしながら、これらの内、揮発性のブロック剤はHAPsの対象として規制されているものが多く、使用量は必要最小限とすることが好ましい。
【0042】
顔料
本発明の方法に用いられるカチオン電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用し得る顔料の例としては、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸鉄、リン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウムのような防錆顔料等が挙げられる。
【0043】
これらの顔料は、電着塗料組成物の塗料固形分100重量部に対して一般に1〜35重量部、好ましくは10〜30重量部を占める量で電着塗料組成物に含有される。但し本発明において用いられる複合化合物は、固体成分であり顔料の置き換え物と考えることもできるため、本発明の電着塗料組成物に含まれる顔料の配合量は少なくなり、塗料固形分の15重量部以下、好ましくは2重量部以下となる。
【0044】
本発明のカチオン電着塗料組成物中における、上述の複合化合物および上記顔料を含めた全顔料濃度は、電着塗料組成物の固形分100重量部に対して一般的に7〜50重量部であり、好ましくは15〜45重量部であり、より好ましくは25〜45重量部である。この全顔料濃度が7重量部に満たない場合は、十分な性能が得られない恐れがある。また、全顔料濃度が50重量部を超えると、塗膜外観が低下する恐れがある。
【0045】
但し、本発明の電着塗料を無鉛性カチオン電着塗料とする場合は、鉛を含む耐食性付与剤、例えば、塩基性ケイ酸鉛、塩基性硫酸鉛、鉛丹、及びシアナミド鉛のような鉛系防錆顔料は使用しないか、または使用しても希釈塗料(電着浴へ加えられる状態)の鉛イオン濃度が100ppm以下となるような量で使用すべきである。鉛イオン濃度が高いと環境に対する負荷が大きいからである。
【0046】
顔料分散ペースト
上記の縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物、そして必要に応じた顔料は、予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状に調製して加えるのが望ましい。複合化合物および顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0047】
顔料分散ペーストは、複合化合物および必要に応じた顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は、複合化合物および必要に応じた顔料を含めた全顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0048】
硬化触媒
本発明で使用される硬化触媒としては、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、モノブチル錫オキサイドおよびそれらの混合物等が挙げられる。好ましくは、ジブチル錫オキサイドである。これらの硬化触媒は、ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤解離に対する触媒として作用する。
【0049】
上記硬化触媒は、電着塗料中の樹脂固形分に対し0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の量で配合する。
【0050】
無鉛性カチオン電着塗料組成物の調製
本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は、上に述べた硬化触媒、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、及び複合化合物を含む顔料分散ペーストを水性媒体中に分散することによって調製することができる。また、通常、水性媒体にはカチオン性エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0051】
カチオン性エポキシ樹脂、及び硬化剤としてブロックイソシアネートを配合し、水性媒体にこれらを分散させる方法として、カチオン性エポキシ樹脂にブロックイソシアネートを溶液状態で混合してエマルションとする方法がある。
【0052】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂(スルホニウム変性エポキシ樹脂および/またはアミン変性エポキシ樹脂)と、ブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0053】
有機溶媒は、カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0054】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。
【0055】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0056】
本発明のカチオン電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0057】
本発明の電着塗料組成物は特に、無処理の鋼板に対して、高い防錆性を付与することができる。そのため、本発明のカチオン電着塗料組成物を、無処理の鋼板を電着塗装するためのカチオン電着塗料組成物として使用することもできる。無処理の鋼板として、熱延鋼板および冷延鋼板が挙げられる。また本発明でいう「無処理」とは、溶融亜鉛めっき処理、電気亜鉛めっき処理などのめっき処理がなされていない鋼板をいう。
【0058】
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0059】
電着過程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。
【0060】
電着塗膜の膜厚は、好ましくは5〜25μm、より好ましくは20μmとする。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分であり、25μmを超えると、塗料の浪費につながる。
【0061】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化させる。
【実施例】
【0062】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0063】
製造例1 ブロックイソシアネート硬化剤の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(コロネートHX:日本ポリウレタン(株)製)199部とメチルイソブチルケトン32部、およびジブチルスズジラウレート0.03部を量りとり、攪拌、窒素をバブリングしながら、メチルエチルケトオキシム87.0部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃からはじめ70℃まで昇温した。そのあと1時間反応を継続し、赤外線分光計によりNCO基の吸収が消失するまで反応させた。その後n−ブタノール0.74部、メチルイソブチルケトン39.93部を加え、不揮発分80%とした。
【0064】
製造例2 アミン変性エポキシ樹脂エマルションの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、2,4/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20wt%)71.34部と、メチルイソブチルケトン111.98部と、ジブチルスズジラウレート0.02部を量り取り、攪拌、窒素バブリングしながらメタノール14.24部を滴下ロートより30分かけて滴下した。温度は室温から発熱により60℃まで昇温した。その後30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル46.98部を滴下ロートより30分かけて滴下した。発熱により70〜75℃へ昇温した。30分間反応を継続した後、ビスフェノールAプロピレンオキシド(5モル)付加体(三洋化成工業(株)製BP−5P)41.25部を加え、90℃まで昇温し、IRスペクトルを測定しながらNCO基が消失するまで反応を継続した。
【0065】
続いてエポキシ当量475のビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製YD−7011R)475.0部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、MIBKとの共沸により反応系から水を除去した。125℃まで冷却した後、ベンジルジメチルアミン1.107部を加え、脱メタノール反応によるオキサゾリドン環形成反応を行った。反応はエポキシ当量1140になるまで継続した。
【0066】
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン24.56部,ジエタノールアミン11.46部およびアミノエチルエタノールアミンケチミン(78.8%メチルイソブチルケトン溶液)26.08部を加え、110℃で2時間反応させた。その後エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル20.74部とメチルイソブチルケトン12.85部を加えて希釈し、不揮発物82%に調節した。数平均分子量(GPC法)1380、アミン当量94.5meq/100gであった。
【0067】
別の容器にイオン交換水145.11部と酢酸5.04部を量り取り、70℃まで加温した上記アミン変性エポキシ樹脂320.11部(固形分として75.0部)および製造例1のブロックイソシアネート硬化剤190.38部(固形分として25.0部)の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。そのあとイオン交換水を加え固形分36%に調整した。
【0068】
製造例3 顔料分散樹脂ワニスの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J)382.20部と、ビスフェノールA111.98部を量り取り、80℃まで昇温し、均一に溶解した後、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1.53部を加え、170℃で2時間反応させた。140℃まで冷却した後、これに2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート(不揮発分90%)196.50部を加え、NCO基が消失するまで反応させた。これにジプロピレングリコールモノブチルエーテル205.00部を加え、続いて1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.00部、ジメチロールプロピオン酸134.00部を添加し、イオン交換水144.00部を加え、70℃で反応させた。反応は酸価が5以下になるまで継続した。得られた樹脂ワニスはイオン交換1150.50部で不揮発分35%に希釈した。
【0069】
実施例1
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物であるポリリン酸亜鉛A(複合化合物中に含まれる酸化亜鉛の含有量:40重量%)100部、およびイオン交換水70部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散させた。こうして、増粘することなく顔料分散ペーストを得ることができた。
【0070】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト40部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水144部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。複合化合物の、塗料固形分100重量部に対する含有量は、26重量部であった。
【0071】
実施例2
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物であるポリリン酸亜鉛B(複合化合物中に含まれる酸化亜鉛の含有量:60重量%)100部、およびイオン交換水70部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散させた。こうして、増粘することなく顔料分散ペーストを得ることができた。
【0072】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト40部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水144部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。複合化合物の、塗料固形分100重量部に対する含有量は、26重量部であった。
【0073】
実施例3
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物であるポリリン酸亜鉛C(複合化合物中に含まれる酸化亜鉛の含有量:80重量%)100部、およびイオン交換水70部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散させた。こうして、増粘することなく顔料分散ペーストを得ることができた。
【0074】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト40部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水144部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。複合化合物の、塗料固形分100重量部に対する含有量は、26重量部であった。
【0075】
実施例4
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物であるトリポリリン酸アルミニウム亜鉛100部(複合化合物中に含まれる酸化亜鉛の含有量:40重量%)、およびイオン交換水70部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散させた。こうして、増粘することなく顔料分散ペーストを得ることができた。
【0076】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト40部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水144部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。複合化合物の、塗料固形分100重量部に対する含有量は、26重量部であった。
【0077】
実施例5
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物であるポリリン酸亜鉛A(複合化合物中に含まれる酸化亜鉛の含有量:40重量%)100部、およびイオン交換水70部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散させた。こうして、増粘することなく顔料分散ペーストを得ることができた。
【0078】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト80部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水202部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物の、塗料固形分100重量部に対する含有量は、44重量部であった。
【0079】
比較例1
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物であるリンモリブデン酸アルミニウム亜鉛(複合化合物中に含まれる酸化亜鉛の含有量:30重量%)100部、およびイオン交換水70部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。
【0080】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト40部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水144部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物の、塗料固形分100重量部に対する含有量は、26重量部であった。
【0081】
比較例2
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物であるポリリン酸亜鉛A(複合化合物中に含まれる酸化亜鉛の含有量:40重量%)20部、二酸化チタン39部、カーボンブラック1部、カオリン40部、およびイオン交換水70部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。
【0082】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト40部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水144部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0083】
比較例3
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、酸化亜鉛100部、およびイオン交換水70部を入れて分散させたところ、分散ペーストが増粘してしまい分散させることができず、電着塗料組成物を調製することができなかった。
【0084】
実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物およびそれらを電着塗装して得られた電着塗膜について、以下の方法により評価を行なった。
【0085】
評価
縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物の溶出亜鉛イオン濃度の測定
実施例および比較例で用いた複合化合物について、溶出亜鉛イオン濃度を以下の通り測定した:
(1)複合化合物1gをpH7の水溶液100ml中に加え、55℃で72時間浸漬した後の、溶出した亜鉛イオンの濃度(ppm)を測定した;
(2)複合化合物1gをpH4以下の水溶液100ml中に加え、55℃で72時間浸漬した後の、溶出した亜鉛イオンの濃度(ppm)を測定した。
測定結果を表1および2に示す。
【0086】
サイクル腐食試験
基材としては、リン酸亜鉛処理した冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SDをサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)で処理した鋼板。)を用いた。この基材に、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物を、乾燥塗膜の膜厚が20μmになるように電着塗装し、これを160℃で25分間焼き付けて硬化させた。加熱硬化させた塗膜に、基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、JASO M609−91「自動車用材料腐食試験方法」を100サイクル行なった。その後、クロスカット部からの錆やフクレ発生を観察した。観察評価結果を表1および2に示す。
【0087】
表1の評価として、
◎ 錆またはフクレの最大幅がカット部より2mm未満(両側);
○ 錆またはフクレの最大幅がカット部より2mm以上3mm未満(両側);
△ 錆またはフクレの最大幅がカット部より3mm以上4mm未満(両側)でかつ平面部にブリスターの発生が幾分認められる;
× 錆またはフクレの最大幅がカット部より4mm以上か、全面にブリスターの発生がみられる;
ことを示す。
【0088】
さらに、冷延鋼板の代わりに溶融亜鉛めっき鋼板を用いた場合の耐食性比較も行った。サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散樹脂ワニス100部、二酸化チタン48.8部、カーボンブラック1.2部、カオリン50部、およびイオン交換水70部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た。
【0089】
製造例2で得たカチオン性エポキシ樹脂エマルション100部に、上記の顔料分散ペースト40部を加え、混合した。さらにジブチル錫オキサイド0.6部およびイオン交換水144部を加えて、カチオン電着塗料組成物を得た。こうして得られた電着塗料組成物を、冷延鋼板の代わりに溶融亜鉛めっき鋼板(JIS G3302規格品、0.8×150×70mmを、サーフダインSD−5000(日本ペイント社製)で処理した鋼板。)に電着塗装し、そして上記サイクル腐食試験と同様の処理を行った。この溶融亜鉛めっき鋼板に設けられた電着塗膜の耐食性は、本発明の電着塗料組成物による電着塗膜の場合と同程度の耐食性(◎)であった。なお、本発明の電着塗料組成物による電着塗膜の耐食性試験結果は下記表1に示されている。この評価結果から、本発明の電着塗料組成物を冷延鋼板に塗布することによって、溶融亜鉛めっき鋼板と同程度の耐食性を冷延鋼板に付与することができることがわかる。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
上記実施例および表1および2に示されるとおり、本発明の電着塗料組成物を無処理の鋼板に電着塗装した場合、亜鉛めっき鋼板に電着塗装した場合と同等の防錆性が発揮されることがわかる。一方、比較例のものは防錆性能に劣ることが、確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の無鉛性カチオン電着塗料組成物は、防錆性付与性能に優れるものである。本発明の電着塗料組成物は、鉛を含む耐食性付与剤が含まれないことにも関わらず、高い防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物は特に、亜鉛めっき処理などなされていない無処理の鋼板に対して、高い防錆性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物により、亜鉛めっき鋼板に代わって無処理の鋼板を使用する可能性が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物を含有する無鉛性カチオン電着塗料組成物であって、
該複合化合物が、40〜90重量%の酸化亜鉛を含む化合物であり、
該複合化合物が、塗料固形分100重量部に対して7〜50重量部含まれる、
無鉛性カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記縮合リン酸金属塩と酸化亜鉛との複合化合物は、濃度1g/100mlでpH7の水溶液に浸漬した場合における亜鉛イオンの濃度が100ppm以下であり、かつ
濃度1g/100mlでpH4の水溶液に浸漬した場合における亜鉛イオンの濃度が400〜4000ppmである、複合化合物である、
請求項1記載の無鉛性カチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記複合化合物に含まれる縮合リン酸金属塩が、ポリリン酸亜鉛またはトリポリリン酸アルミニウムである、請求項1または2記載の無鉛性カチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
無処理の鋼板の電着塗装用である、請求項1〜3いずれかに記載の無鉛性カチオン電着塗料組成物。

【公開番号】特開2006−137863(P2006−137863A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329137(P2004−329137)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】