説明

無電解めっき用前処理液、およびこれを用いた無電解めっき方法

【課題】 優れた脱脂・洗浄力を有し、且つ、めっき反応に活性な触媒を被めっき物の表面、特に有機樹脂や無機材料に容易かつ確実に付着させるため、該被めっき物の表面にコンディショニングを行なうための無電解めっき用前処理液およびこれを用いた無電解めっき方法を提供する。
【解決手段】 1種以上の非イオン性界面活性剤と、1種以上の陽イオン性樹脂と、1種以上の金属イオンの錯化剤を含む無電解めっき用前処理液であって、前記陽イオン性樹脂が、ポリアルキレンポリアミンである無電解めっき用前処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき用前処理液、およびこれを用いた無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスティック、ガラス等の非導電性物質からなる被めっき物へ無電解めっきを行なう場合、無電解めっき反応を速やかに開始させるための当該反応に活性な触媒を反応場に付与する必要がある。そのため、従来より、無電解めっきを行なう場合、被めっき物をめっき液に投入する前の前処理として、脱脂洗浄およびコンディショニングの後、上記触媒の前駆体(例えば、触媒が金属パラジウムの場合にはパラジウム塩等)を含む液中に被めっき物を浸漬し、次いで、活性化処理などの処理を施して、被めっき物の表面に上記触媒を付与するための処理が行われている。
【0003】
例えば、触媒溶液として強酸性のパラジウム−錫触媒液を使用し、この液に被めっき物を浸漬して触媒核を付与し、次いで、酸又はアルカリ処理を行い、触媒活性を発現させた後、得られる被めっき物を自己触媒型の無電解めっき液に浸漬してめっき皮膜(めっき層)を生成する方法が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
なお、本明細書において、「自己触媒型の無電解めっき液」とは、無電解めっきのうち、めっき反応に還元剤を利用する「化学還元めっき」に使用される液であって、以下の触媒作用を有する金属(めっき層を形成する金属)の原料となる金属イオンが含有されているものを示す。すなわち、上記の金属とは、還元剤により原料の金属イオンが還元されることにより被めっき物の表面に金属として析出した際に、還元剤と金属イオンとの反応に対して触媒作用(自己触媒作用)を有するものである。
【0005】
無電解めっきの代表的な適用事例に、電子機器に搭載するプリント配線板の製造工程で、スルーホールやビアホールの電気的接続を行なうための層間接続技術として、無電解めっきが行なわれている。近年の電子機器の小型化、軽量化に伴い、スルーホールやビアホールの小径化が進み、特にドリルやレーザーによって開けられた穴へ無電解めっきを行なう際、孔内の有機樹脂や無機材料(特にガラス繊維の破断面)でめっきが未析出となり、被めっき物の表面の一部が外部に露出する現象が多発した。この現象は層間の電気接続部の信頼性が低下することが懸念される。この原因の一つとして、前記パラジウム−錫触媒が有機樹脂や無機材料に吸着していないことが挙げられる。
【0006】
この現象を防ぐための手法として、例えば、親水性を有し、且つキレートを形成しやすい活性官能基を分子中に有するシランカップリング剤を被めっき物の表面に存在させ、然る後に無電解めっきを施す方法が提案されている(例えば、下記特許文献2参照)。また、被めっき物を、アクリルアミドと第4アンモニウム化合物または第4フォスフォニウム化合物との共重合水溶液に接触させ、然るのち、前記パラジウム−錫触媒液に接触させる方法が提案されている(例えば、下記特許文献3参照)。
【0007】
また、被めっき物の洗浄力を高め、且つ、めっき皮膜の密着力を向上させるためのめっき前処理として、シランカップリング剤、非イオン性界面活性剤、エチレンジアミンテトラ酢酸又はその塩又はその誘導体、および第4アンモニウム塩を含む水溶液よりなる無電解めっき用の前処理液を用いる方法が提案されている(下記特許文献4参照)。
【0008】
また、プリント配線板の製造工程において、スルーホール内のめっきつきまわり性を大きく向上させるためのめっき前処理として、非イオン性界面活性剤、フッ素を含む界面活性剤、金属錯化物、およびポリアクリルアミドを骨格に持つ界面活性剤を含むpH10以上の水溶液よりなる無電解めっき用の前処理液を用いる方法が提案されている(下記特許文献5参照)。
【特許文献1】米国特許第3011920号明細書
【特許文献2】特公昭59−52701号公報
【特許文献3】特公昭63−21752号公報
【特許文献4】特開平4−56776号公報
【特許文献5】特開平4−198486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の特許文献2〜5の前処理を使用する無電解めっき方法では、近年のプリント配線板の小径スルーホール、具体的には0.3mmφ以下、且つアスペクト比(スルーホール長さ/スルーホール径)が5.0以上のスルーホールや、小径ビアホール、具体的には0.2mmφ以下、且つアスペクト比(ビア長さ/ビア径)が2.0以上のビアホールへ無電解めっきを行なう際、孔内の有機樹脂や無機材料(特に、ガラス繊維の破断面)へのめっき析出が不十分であり、未だ十分な信頼性を得ることができていないなどの課題がある。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、優れた脱脂・洗浄力を有し、且つ、めっき反応に活性な触媒を被めっき物の表面、特に有機樹脂や無機材料に容易かつ確実に付着させるため、該被めっき物の表面にコンディショニングを行なうための無電解めっき用前処理液を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる無電解めっき用前処理液を用いた無電解めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下に示す特定の成分組成の条件を満たす前処理液を構成することにより、上記目的が達成可能であることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)1種以上の非イオン性界面活性剤と、1種以上の陽イオン性樹脂と、1種以上の金属イオンの錯化剤を含む無電解めっき用前処理液であって、前記陽イオン性樹脂が、ポリアルキレンポリアミンであることを特徴とする無電解めっき用前処理液。
(2)更に1種以上のアルカリ金属化合物を含むことを特徴とする項(1)に記載の無電解めっき用前処理液。
(3)更に1種以上のシランカップリング剤を含むことを特徴とする項(1)または(2)に記載の無電解めっき用前処理液。
(4)項(1)から(3)いずれかに記載の無電解めっき用前処理液に被めっき物を浸漬する工程、被めっき物に触媒を付与する工程、被めっき物に付与した触媒を活性化する工程、被めっき物に無電解めっきを行う工程を有する無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0012】
この前処理液を用いることにより、被めっき物を効率よく洗浄し、且つ、該被めっき物表面を、パラジウム−錫触媒が容易に吸着しやすい状態にすることができる。更に、無電解めっき後に形成しためっき皮膜の密着性が良好であるという特徴を有する。上記の陽イオン性樹脂(ポリアルキレンポリアミン)は、分子中の主鎖に陽イオンを形成する基を有し、且つその基に陽イオン性窒素原子を有するため、水溶液中において、正の電荷密度が高く、これが被めっき物に吸着すると、被めっき物へのパラジウム−錫触媒の吸着を促進させ、また無電解めっき後のめっき皮膜の密着力を向上させることができる。
【0013】
また、本発明は、上記前処理液に被めっき物を浸漬し、次いで触媒付与工程および触媒活性化工程を含む無電解めっきを行なうことを特徴とする無電解めっき方法を提供する。このめっき方法により、無電解めっき後の被めっき物の表面の一部が外部に露出したり、めっき皮膜が均一な厚さで形成されない、といった問題の発生が十分に防止され、該被めっき物の表面にめっき皮膜を均一に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。先ず、本発明の無電解めっき用前処理液の好適な一実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態の無電解めっき用前処理液は、1種以上の非イオン性界面活性剤と、1種以上の陽イオン性樹脂と、1種以上の金属イオンの錯化剤を含む水溶液であり、且つ陽イオン性樹脂が、ポリアルキレンポリアミンであることを特徴とする。
【0016】
非イオン性界面活性剤は、液の表面張力を低下させ小径スルーホールや小径ビアホールへの液廻りを促すとともに、被めっき物表面の脱脂洗浄を行う。例として、脂肪酸モノグリセリンエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸ポリエチレングリコール縮合物、脂肪酸アミド・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族アルコール・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族アミン・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族メルカプタン・ポリエチレングリコール縮合物、アルキルフェノール・ポリエチレングリコール縮合物、ポリプロピレングリコール・ポリエチレングリコール縮合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
非イオン性界面活性剤の濃度は0.01〜100g/Lであることが好ましい。また、良好な洗浄効果および小径孔への液廻り効果、経済性および環境への負荷を考慮に入れると、0.1〜20g/Lがより好ましい。濃度が0.01g/L未満であると、洗浄効果および小径孔への液廻り効果が得られないため発明の効果が得られないため好ましくない。また、濃度が100g/Lを超えると経済性および環境への負荷が大きいため好ましくない。
【0018】
陽イオン性樹脂は、被めっき物へのパラジウム−錫の吸着を促進させ、また無電解めっき後のめっき皮膜の密着力を向上させる。陽イオン性樹脂は、ポリアルキレンポリアミンであり、具体的には、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリアルキレンイミン等が挙げられる。
【0019】
陽イオン性樹脂の分子量は300〜300000であることが好ましい。分子量が300未満であると、被めっき物への吸着が起こりにくくなり、それに伴いパラジウム−錫触媒の吸着が起こりにくくなるため、めっき未析出部が発生し好ましくない。また、分子量が300000を超えると、前処理液の粘度が大きくなり、小径孔への液廻り効果が得られないため好ましくない。
【0020】
陽イオン性樹脂の濃度は、0.05〜50g/Lが好ましい。また、経済性および環境への負荷を考慮に入れると、0.05〜10g/Lがより好ましい。濃度が0.05g/L未満であると、被めっき物への吸着量が小さくなり、それに伴いパラジウム−錫触媒の吸着が起こりにくくなるため、めっきの未析出部が発生し好ましくない。また、濃度が50g/L以上を超えると、経済性および環境への負荷が大きいため好ましくない。
【0021】
金属イオンの錯化剤は、洗浄過程で、被めっき物から溶出した金属イオン、例えばNi2+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Sn2+、Pb2+、Pd2+、Cr3+、Zn2+、Cd2+、Cu2+、Ag等を捕捉することによって洗浄効果を向上させるとともに、液の安定性を向上させる。錯化剤は窒素含有の配位子が好ましく、例として、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、グリシン、アラニン、ジメチルアミン、アセトアミド、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−アミノピリジン、2−メチルピリジン、尿素、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
錯化剤の濃度は、0.01〜100g/Lが好ましい。また、経済性および環境への負荷を考慮に入れると、0.01〜20g/Lがより好ましい。濃度が0.01g/L未満であると、繰り返しの使用により液の安定性が悪くなるため好ましくない。また、濃度が100g/L以上を超えると、経済性および環境への負荷が大きいため好ましくない。
【0023】
また、本実施形態の無電解めっき用前処理液は、1種以上の非イオン性界面活性剤と、1種以上の陽イオン性樹脂と、1種以上の金属イオンの錯化剤に加え、更に1種以上のアルカリ金属化合物を含むことが好ましい。アルカリ金属化合物を加えることにより、被めっき物の脱脂および洗浄効果がより大きくなる。アルカリ金属化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、及びケイ酸カリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
アルカリ金属化合物の濃度は、0.01〜200g/Lが好ましい。また、洗浄効果および経済性および環境への負荷を考慮に入れると、0.05〜50g/Lがより好ましい。濃度が200g/Lを超えると、安全性の問題から好ましくない。
【0025】
また、本実施形態の無電解めっき用前処理液は、1種以上の非イオン性界面活性剤と、1種以上の陽イオン性樹脂と、1種以上の金属イオンの錯化剤に加え、更に1種以上のシランカップリング剤を含むことが好ましい。また、本実施形態の無電解めっき用前処理液は、1種以上の非イオン性界面活性剤と、1種以上の陽イオン性樹脂と、1種以上の金属イオンの錯化剤に加え、1種以上のアルカリ金属化合物と1種以上のシランカップリング剤を含むことがより好ましい。シランカップリング剤は、無電解めっき後、めっき皮膜と被めっき物、特に無機材料との密着力を増加させることができる。シランカップリング剤としては、アミノ系のシランカップリング剤が好ましく、例として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
シランカップリング剤の濃度は、0.01〜100g/Lが好ましい。また、経済性および環境への負荷を考慮に入れると、0.01〜10g/Lがより好ましい。濃度が0.01g/L未満であると、めっき皮膜の密着力が小さく発明の効果が得られないため好ましくない。濃度が100g/Lを超えると、カップリング剤の凝集が起こり発明の効果が得られないため好ましくない。
【0027】
また、本実施形態の無電解めっき方法は、上記本実施形態の無電解めっき用前処理液に被めっき物を浸漬する工程、被めっき物に触媒を付与する工程、被めっき物に付与した触媒を活性化する工程、被めっき物に無電解めっきを行う工程を有することを特徴とする。
【0028】
無電解めっきを行なう際の、本発明の無電解めっき用前処理液の温度は、30〜90℃が好ましい。温度が30℃未満であると脱脂洗浄力およびコンディショニングの効果が得られなくなるため好ましくない。また、温度が90℃を超えると、水分が多量に蒸発し、濃度の変化が大きくなり、また安全性の問題から好ましくない。
【0029】
また本発明の無電解めっき用前処理液に被めっき物を浸漬する時間は30秒〜30分が好ましい。また、本発明の効果を得つつ、作業効率を高めるためには、1分〜15分がより好ましい。浸漬する時間が30秒未満であると、本発明の効果が得られなくなるため好ましくない。また、浸漬時間が30分を超えると、作業効率が著しく悪くなるため好ましくない。
【0030】
本発明の無電解めっき用前処理液に浸漬した後に得られる被めっき物を、更に水洗を行ってもよい。この操作は、被めっき物表面に付着した無電解めっき用前処理液のうちの余分な分量を除去するためのものであり、被めっき物表面に付着した無電解めっき用前処理液の液膜を完全に除去するものではない。洗浄条件を最適化することにより、最適量の被めっき物表面に付着した水溶液の液膜を残しつつ、余分な分量を除去することができる。また水洗に使用する水は、イオン交換水であることがより好ましい。
【0031】
本発明の無電解めっき用前処理液に被めっき物を浸漬した後、触媒付与工程および触媒活性化工程を行なう。触媒付与工程には、公知の酸性パラジウム−錫触媒液を、触媒活性化工程には酸性もしくはアルカリ性の活性化液をそれぞれ用いることができる。
【0032】
本発明では、触媒付与工程および触媒活性化工程後に得られる被めっき物を、自己触媒型の無電解めっき液に浸漬することが好ましい。使用する自己触媒型の無電解めっき液としては、公知の自己触媒型の無電解めっき液を用いることができる。例えば、無電解銅めっき液、無電解ニッケル−リンめっき液、無電解ニッケル−ホウ素めっき液、無電解パラジウムめっき液、無電解銀めっき液、無電解金めっき液等がある。
【0033】
本発明の無電解めっき方法でめっきされる被めっき物は、PET樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等のプラスティック、ガラス、セラミックス、プリント基板等の複合材料などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、本発明の無電解めっき用前処理液及び無電解めっき方法は、スルーホールを有するプリント基板等に好適である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の好適な実施例について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
下記表1に示すように、イオン交換水に、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(日本油脂株式会社製ノニオンHS−210)5.0g/L、金属イオンの錯化剤としてトリエタノールアミン(関東化学株式会社製)3.0g/L、陽イオン性樹脂としてポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量10000)0.05g/L、0.5g/Lおよび5.0g/Lの濃度で溶解した。この水溶液を「前処理液1」(無電解めっき用前処理液:1−A〜1−C)とした。
【0035】
被めっき物として、エポキシ系銅張積層板であるMCL−E−679(日立化成工業株式会社製、商品名、厚さ1.6mm)にドリルを用いて穴径0.2mmのスルーホールを形成し、デスミア処理を行なったものを使用した。そして、下記の工程で無電解銅めっきを行った。
【0036】
先ず、「前処理液1」の液温を60℃に調整し、この液中に、上記被めっき物を5分間浸漬し、被めっき物の洗浄およびコンディショニングを行った。次に、室温(25℃)で2分間水洗した。次に、得られた被めっき物を、ソフトエッチング液である「HET−100」(日立化成工業株式会社製、商品名)に、室温(25℃)で2分間浸漬した。次に、得られた被めっき物を室温で2分間水洗した。次に、パラジウム−錫触媒の前処理液である「PD−301」(日立化成工業株式会社製、商品名)に室温(25℃)で2分間浸漬した。次に、得られた被めっき物をパラジウム−錫触媒液である「HS−202B」(日立化成工業株式会社製、商品名)に室温(25℃)で5分間浸漬した。次に、得られた被めっき物を室温(25℃)で2分間水洗した。
【0037】
次に、得られた被めっき物を、酸性の処理液である「ADP−601」(日立化成工業株式会社製、商品名)に室温(25℃)で5分間浸漬した。このようにして無電解めっきのためのパラジウム触媒を被めっき物のスルーホール内に析出させた。次に、得られた被めっき物を室温(25℃)で2分間水洗した。
【0038】
次に、得られた被めっき物を自己触媒型の無電解銅めっき液である「CUST−201」(日立化成工業株式会社製、商品名)に、液温25℃で15分間浸漬した(めっき工程)。次に、得られた被めっき物を室温(25℃)で5分間水洗した。次に、得られた被めっき物を80℃で10分間乾燥した。このようにして、被めっき物のスルーホール内に無電解銅めっき皮膜を形成した。
【0039】
次に、被めっき物のスルーホールへのめっきつきまわり性を評価するため、無電解銅めっき後の被めっき物を、図1に示すように切断し、めっき内壁面の下方から光をあてて光の透過の有無を調べるバックライトテストを行なった。無電解銅めっきの未析出部が存在した場合は、光が透過し、図2(a)に示すような像が観察され、また無電解銅めっきの未析出部が存在しない場合は、図2(b)に示すように、光の透過は観測されない。実施例1において、バックライトテストの結果、図2(b)に示すように、光の透過は観測されなかった。
【0040】
(実施例2)
下記表1に示すように、イオン交換水に、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル5.0g/L、金属イオンの錯化剤としてトリエタノールアミン3.0g/L、陽イオン性樹脂としてポリエチレンイミン0.5g/L、アルカリ金属化合物として水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)1.0g/L、10g/Lおよび50g/Lの濃度で溶解した。この水溶液を「前処理液2」(無電解めっき用前処理液:2−A〜2−C)とした。
【0041】
被めっき物として、実施例1と同じくスルーホールを形成した銅張積層板を使用した。そして、「前処理液1」を「前処理液2」に変更した以外は、実施例1と同じ工程で無電解銅めっきを行なった。次に、被めっき物のスルーホールへのめっきつきまわり性を評価するため、実施例1と同じ方法でバックライトテストを行なった。バックライトテストの結果、図2(b)に示すように、光の透過は観測されなかった。
【0042】
(実施例3)
下記表1に示すように、イオン交換水に、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル5.0g/L、金属イオンの錯化剤としてトリエタノールアミン3.0g/L、陽イオン性樹脂としてポリエチレンイミン0.5g/L、アルカリ金属化合物として水酸化ナトリウム10g/L、シランカップリング剤として「KBE−903」(3−アミノプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名)0.05g/L、0.5g/Lおよび5.0g/Lの濃度で溶解した。この水溶液を「前処理液3」(無電解めっき用前処理液:3−A〜3−C)とした。
【0043】
被めっき物として、実施例1と同じくスルーホールを形成した銅張積層板を使用した。そして、「前処理液1」を「前処理液3」に変更した以外は、実施例1と同じ工程で無電解銅めっきを行なった。次に、被めっき物のスルーホールへのめっきつきまわり性を評価するため、実施例1と同じ方法でバックライトテストを行なった。バックライトテストの結果、図2(b)に示すように、光の透過は観測されなかった。
【0044】
(比較例1)
下記表2に示すように、「前処理液1」の陽イオン性樹脂であるポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量10000)の濃度を0g/L(無電解めっき用前処理液:1−D)にした以外は、実施例1と同様に行なった。バックライトテストの結果、図2(a)に示すように、光の透過が観測された。
【0045】
(比較例2)
下記表2に示すように、「前処理液2」の陽イオン性樹脂であるポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量10000)の濃度を0g/L(無電解めっき用前処理液:2−D〜2−F)にした以外は、実施例1と同様に行なった。バックライトテストの結果、図2(a)に示すように、光の透過が観測された。
【0046】
(比較例3)
下記表2に示すように、「前処理液3」の陽イオン性樹脂であるポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量10000)の濃度を0g/L(無電解めっき用前処理液:3−D〜3−F)にした以外は、実施例1と同様に行なった。バックライトテストの結果、図2(a)に示すように、光の透過が観測された。
【0047】
(比較例4)
下記表2に示すように、「前処理液1」(1−B)の金属イオンの錯化剤であるトリエタノールアミン(関東化学株式会社製)の濃度を0g/L(無電解めっき用前処理液:1−E)にした以外は、実施例1と同様に行なった。バックライトテストの結果、図2(a)に示すように、光の透過が観測された。
【0048】
(比較例5)
下記表2に示すように、「前処理液1」(1−B)の非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(日本油脂株式会社製ノニオンHS−210)の濃度を0g/L(無電解めっき用前処理液:1−F)にした以外は、実施例1と同様に行なった。バックライトテストの結果、図2(a)に示すように、光の透過が観測された。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
バックライトテストの結果から明らかなように、本発明の無電解めっき用前処理液1〜3(1−A〜1−C、2−A〜2−C、3−A〜3−C)は、陽イオン性樹脂の濃度が0g/Lである無電解めっき用前処理液:(1−D、2−D〜2−F、3−D〜3−F)と比較して、被めっき物のスルーホールへのめっきつきまわり性に優れることが確認された。また、比較例4及び比較例5に示されたように、本発明の効果を得るためには、非イオン性界面活性剤および錯化剤が必要であることが確認された。以上説明したとおり、本発明によれば、優れた脱脂・洗浄力を有しており、めっき反応に活性な触媒を被めっき物の表面に容易かつ確実に付着させることのできる無電解めっき用前処理液を提供することが可能となる。また、本発明によれば、かかる無電解めっき用前処理液を用いることにより、被めっき物とめっき皮膜との密着性が良好なめっきを行なうことが可能な無電解めっき方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)は、被めっき物の切断箇所を示す平面図であり、(b)は切断した被めっき物のバックライトテストを表す概略面である。
【図2】(a)及び(b)は、バックライトテストにおけるスルーホールの光の透過の有無を示す光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0053】
1:スルーホール
2:切断面A
3:切断面B
4:被めっき物(エポキシ系銅張積層板)
5:光学顕微鏡
6:光(バックライト)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の非イオン性界面活性剤と、1種以上の陽イオン性樹脂と、1種以上の金属イオンの錯化剤を含む無電解めっき用前処理液であって、前記陽イオン性樹脂が、ポリアルキレンポリアミンであることを特徴とする無電解めっき用前処理液。
【請求項2】
更に1種以上のアルカリ金属化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき用前処理液。
【請求項3】
更に1種以上のシランカップリング剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無電解めっき用前処理液。
【請求項4】
請求項1から3いずれかに記載の無電解めっき用前処理液に被めっき物を浸漬する工程、被めっき物に触媒を付与する工程、被めっき物に付与した触媒を活性化する工程、被めっき物に無電解めっきを行う工程を有する無電解めっき方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−249520(P2006−249520A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69059(P2005−69059)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】