説明

無電解ニッケルめっき皮膜、この皮膜を有する機械部品および無電解めっき浴

【課題】室温から高温領域にわたる広い温度範囲において高い硬度を有し、摺動性および靭性に優れ、しかも高速で形成することができるめっき皮膜、および上記めっき皮膜で摺動部分を被覆した、広い温度範囲で硬度が高く、摺動特性に優れた機械部品を提供すること。
【解決手段】Coを1〜50質量%、Wを1〜20質量%、Pを1〜5質量%含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき皮膜。摺動部分を有する機械部品。少なくとも前記摺動部分を上記皮膜で被覆する。Niイオンを0.03〜0.1mol/L、Coイオンを0.01〜0.05mol/L、WO4イオンを0.01〜0.05mol/L、リン化合物を0.15〜0.30mol/L含有する無電解めっき浴。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル系の無電解めっき皮膜およびこの皮膜を用いた機械部品に関する。より詳しくは、本発明は、室温〜高温の幅広い温度範囲で高硬度を示す、摺動特性に優れためっき皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき皮膜は、電気めっきと異なり、めっき浴に被めっき物を浸漬するだけで、均一なめっき皮膜を形成することができ、生産性において優れている。無電解めっきの中で、ニッケルにリンまたはホウ素の少なくとも一方を含有させた皮膜は、比較的高い硬度を有することから種々の機械部品の表面処理に用いられている。
【0003】
摺動部品に対する表面処理としては、例えば、Ni−Co−P無電解めっき皮膜が提案されている(非特許文献1)。Ni−Co−P無電解めっき皮膜は、200℃程度までの硬度の低下が小さく、摺動特性に優れることが知られている。しかし、析出時の硬度はHv 500〜650程度と低く、Hv 700以上を得るためには、300℃以上の比較的高温の熱処理を必要とする。しかしこの場合、Niマトリックス中に靭性の低いNi3Pが分散されている状態であることから、皮膜全体として靭性が劣化するという問題がある。しかも、熱処理硬化型Al合金や樹脂等では、高温での熱処理は硬度低下などをもたらすため、高温の熱処理を加えることができない。そのため、Al系などの軽金属および樹脂系の摺動部品には、Ni−P、Ni−Co−P皮膜自体を用いることが困難である。
【0004】
上記皮膜以外にも、Ni−W−P、Co−W−P、Co−W−B系無電解めっき皮膜も報告されている(特許文献1参照)。しかし、これらめっき皮膜は、高温の熱処理を施すことなく室温・高温ともに硬度・摺動特性を維持するためには、タングステンを大量に添加する必要性がある。しかしながら、上記めっき皮膜におけるタングステンの大量添加は、めっき速度の大幅な低下につながるだけでなく、皮膜応力の増加につながるため、皮膜靭性の悪化、ひいてはクラック発生に結びつくおそれがある。そのため、これらの皮膜は現在工業的に摺動部材に対してはほとんど用いられていない。
【特許文献1】特開平4−119265号公報
【非特許文献1】金属表面技術 Vol.19, No12, p498-503 (1968)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、室温から高温領域にわたる広い温度範囲において高い硬度を有し、摺動性および靭性に優れ、しかも高速で形成することができるめっき皮膜を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記めっき皮膜で摺動部分を被覆した、広い温度範囲で硬度が高く、摺動特性に優れた機械部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。
前述のように、Ni−Co−Pめっきは摺動特性に優れていることが知られている。そこで、本発明者らは、Ni−Co−Pが高温硬度において優れていることを予測し、Ni−Pめっきに添加するコバルト量を調整することにより、高温硬度の向上を図った。しかしながら、Ni−Co−Pめっきは温度による硬度の低下率は低いものの、そもそも室温における硬度が低く、広い温度域にわたって十分な硬度が得られなかった。そこで、本発明者らは、Ni−Co−Pめっきの室温における硬度を上昇させ、さらに、Ni−Co−Pの高温硬度変化にも大きな影響を与えない添加元素を検討した。この際、特に次のことに着目した。まず、高温硬度および加熱時の靭性を低下させないために、主成分であるNiとは金属間化合物を形成しにくい、言い換えるとNiに対して低温〜高温領域まで固溶度の大きい元素、さらに、硬度向上を図るため、原子番号の大きい、すなわち大きな歪を形成する元素に注目した。これらの点を考慮し、鋭意検討を重ねた結果、所定量のWの添加により、高温における硬度変化に悪影響を与えることなく、室温における硬度を向上させることができることを見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成された。
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1] Coを1〜50質量%、Wを1〜20質量%、Pを1〜5質量%含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき皮膜。
[2] 25℃におけるマイクロビッカース硬度が700〜900の範囲であり、かつ400℃におけるマイクロビッカース硬度が300〜400の範囲である、[1]に記載の無電解ニッケルめっき皮膜。
[3] 200℃におけるマイクロビッカース硬度が650〜750の範囲である[2]に記載の無電解ニッケルめっき皮膜。
[4] 摺動部分を有する機械部品であって、少なくとも前記摺動部分を[1]〜[3]のいずれかに記載の皮膜で被覆した機械部品。
[5] Niイオンを0.03〜0.1mol/L、Coイオンを0.01〜0.05mol/L、WO4イオンを0.01〜0.05mol/L、リン化合物を0.15〜0.30mol/L含有する無電解めっき浴。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、室温硬度、高温硬度がいずれも高く、摺動性および靭性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について更に詳細に説明する。

本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、Coを1〜50質量%、Wを1〜20質量%、Pを1〜5質量%含有する。なお、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜におけるCo、W、Pの残部はNiである。
本発明の無電解ニッケルめっき皮膜において、W含有量は、1〜20質量%である。前記無電解ニッケルめっき皮膜において、Wは、室温硬度向上に寄与すると考えられるが、W含有量が1質量%未満では、所望の室温硬度向上効果を得ることができない。一方、W含有量20質量%を超えると、めっき速度が著しく低下し、また、Wは希少金属であるため高コスト化に結びつく。W含有量は、好ましくは2〜10質量%、より好ましくは3〜5質量%である。
【0009】
本発明の無電解ニッケルめっき皮膜中のCo含有量が1質量%未満では、高温硬度が劣化し、50質量%を超えると、室温硬度が劣化する。前記無電解ニッケルめっき皮膜中のCo含有量は、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
【0010】
本発明の無電解ニッケルめっき皮膜において、P含有量は1〜5質量%である。P含有量が1質量%未満では、めっき速度および室温硬度の低下を引き起こす。一方、P含有量が5質量%を超えると、非晶質領域が多くなり、析出時の硬度低下が生じる。P含有量は、好ましくは1〜4質量%、より好ましくは2〜3質量%である。
【0011】
本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、ニッケル塩に還元剤としてリン化合物、添加物としてコバルト化合物およびタングステン化合物を添加し、合金を析出させることにより得ることができる。コバルト塩およびニッケル塩としては、例えば、硫酸塩・塩化物・酢酸塩・炭酸塩などを用いることができる。還元剤のリン化合物としては、例えば次亜燐酸ナトリウム、次亜燐酸カリウム、次亜燐酸ニッケルなどを用いることができる。タングステン化合物としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム等を用いることができる。めっき浴中のニッケル塩・リン化合物・タングステン酸塩およびコバルト塩の比率は、めっき皮膜の組成に応じて適宜調整することができる。また、各成分の濃度は、浴の安定性や析出速度を考慮して決定することができる。例えば、Niイオン濃度は0.03〜0.1mol/L、Coイオン濃度は0.01〜0.05mol/L、WO4イオン濃度は0.01〜0.05mol/L、還元剤のリン化合物の濃度は0.15〜0.30mol/Lとすることができる。
【0012】
上記めっき浴には、安定性、pH緩衝作用を考慮して、酢酸・リンゴ酸・クエン酸等の有機酸や、エチレンジアミン4酢酸等のキレート剤を添加することもできる。また、浴の安定化剤として、微量の鉛化合物、ビスマス化合物、インジウム化合物、アンチモン化合物、硫黄化合物等を添加することができる。さらに、上記めっき浴は、浴の安定性や析出速度などを考慮して、pH7〜8の範囲に調整することが好ましい。
【0013】
本発明のめっき皮膜は、母材の被めっき表面を上記めっき浴に一定期間浸漬することで、形成することができる。めっき浴の温度は、浴の安定性と析出速度を考慮して決定することができ、例えば70〜95℃, 好ましくは85〜92℃の範囲とすることができる。なお、母材の被めっき表面には、めっき浴に浸漬する前に、通常のめっき工程で行われる前処理を施すことが好ましい。そのような前処理としては、例えば、溶剤またはアルカリ溶液を用いた脱脂、亜鉛置換処理、酸浸漬処理などを挙げることができる。
【0014】
上記の無電解めっきにより所定量のリン、コバルトおよびタングステンを含有するめっき皮膜を形成することができる。さらに、上記で得られたニッケルめっき皮膜は、熱処理することにより、密着性・皮膜硬度を向上させることができる。熱処理の条件は、皮膜に要求される硬度と母材の耐熱性を考慮して決めることができる。熱処理範囲は、例えば150〜450℃範囲とすることができる。150℃以上であれば、皮膜硬度や密着性の向上効果を十分得ることができる。但し、450℃を超えると、皮膜硬度が逆に低下する場合がある。熱処理温度は、好ましくは、200〜400℃の範囲である。また、熱処理時間は、処理温度・皮膜に要求される硬度・母材の耐熱性および、生産性などを考慮して決めることができ、通常30〜120分間とすることができる。熱処理の雰囲気は、空気、不活性ガス、還元性のガスなどを用いることができ、作業性およびコストなどを考慮して適宜選択することができる。
【0015】
本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、室温、高温のいずれにおいても高い硬度を示すことができる。なお、従来のめっき皮膜では硬度向上のために熱処理が行われていたが、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、熱処理なしでも、室温、高温のいずれにおいても高い硬度を示すことができる。熱処理の有無にかかわらず、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜の25℃におけるマイクロビッカース硬度は、例えば700〜900、好ましくは750〜850である。また、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、熱処理の有無にかかわらず、400℃において、例えば300〜400のマイクロビッカース硬度を示すことができる。更に、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、熱処理の有無にかかわらず、200℃において、例えば650〜750のマイクロビッカース硬度を示すこともできる。このように高温硬度に優れるめっき皮膜は、摺動時に高温となる摺動部品の表面処理に好適である。なお、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜に熱処理を行うことももちろん可能であり、これにより、室温硬度、高温硬度を向上させることができる。
【0016】
更に、本発明のめっき皮膜は、高い室温硬度、高温硬度を有するとともに、優れた靭性をも発揮し得る。従来のめっき皮膜は、硬度向上のために行われる熱処理により、靭性が低下するという問題があり、靭性と硬度を両立することは困難であった。それに対し、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、例えばクラック発生荷重が20〜100Nという高い靭性を発揮することができる。特に、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、熱処理なしでも室温、高温のいずれにおいても高い硬度を示すことができ、この場合は、熱処理による靭性低下が皆無であるため、例えばクラック発生荷重50N以上という優れた靭性を示すことができる。また、本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、熱処理による靭性低下が少ないため、熱処理後のめっき皮膜は室温、高温のいずれにおいても高い硬度を示すとともに、例えばクラック発生荷重20N以上という良好な靭性を示すことができる。
【0017】
本発明のめっき皮膜を施す母材としては、例えば、鉄合金およびアルミニウム系合金製の機械部品などを例示できる。ただし、これらに限定されるものではなく、本発明のめっき皮膜の特性を利用し得るあらゆる物品を母材とすることができる。特に、本発明のめっき皮膜は、比較的低温での熱処理により高い硬度の皮膜を形成することが可能であることから、熱処理硬化型アルミニウム系合金、または樹脂を母材とする部品への適用に適している。特に、前述のように200℃において高い硬度を示すことは、熱処理硬化型アルミニウム系合金の溶体化処理後の焼き戻し温度(約200℃)付近またはそれ以下の熱処理で母材硬度を低下させることなく高硬度を発揮し得るという点で大きな利点である。
【0018】
更に、本発明により、摺動部分を有する機械部品であって、少なくとも前記摺動部分を前記めっき皮膜で被覆した機械部品を提供できる。前述のように、本発明のめっき皮膜は高温硬度に優れるため、高温に晒される摺動部分への適用に好適である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により説明する。但し、本発明は下記実施例に示す態様に限定されるものではない。

[実施例1]
無電解めっき浴として、下記めっき液に安定剤を適量添加したものを用いた。

硫酸ニッケル 18.4g/L
硫酸コバルト 8.4g/L
タングステン酸ナトリウム 12.55g/L
クエン酸 21.0g/L
プロピオン酸 22.8g/L
βアラニン 1.78g/L
ホウ酸 30.9g/L
次亜燐酸ナトリウム 23g/L
チオジグリコール酸 10ppm

上記無電解めっき浴を苛性ソーダでpH7.5に調整した後、90〜92℃に加温した。この浴にA6061からなるテストピース(24×50×3mm)を投入した。なお、このテストピースは投入前に以下の前処理を行った。
【0020】
(1)弱アルカリ脱脂40℃,1分(炭酸ナトリウム20g/L,トリポリ燐酸ナトリウム20g/L,残水)
(2)水洗
(3)エッチング 20〜25℃、30秒(硝酸67.5%)9割、フッ酸(50%)2割、水1割
(4)水洗
(5)亜鉛置換処理20〜25℃、30秒(苛性ソーダ 120g/L)、酸化亜鉛20g/L、塩化第二鉄2g/L、ロッシェル塩50g/L、硝酸アンモン 1g/L
(6)酸浸漬(硝酸10%)20〜25℃,1分
(7)水洗
(8)亜鉛置換処理(上記(5)と同様)
(9)水洗
(10)下付け用めっき液SC−93(商標:日本カニゼン社製) 30分
【0021】
上記無電解めっき浴に約2時間20分浸漬した後、得られためっき膜厚は、約40μmであり、めっき速度は約17μm/hであった。さらに得られためっき皮膜について、エネルギー分散型X線分析装置を用いて成分分析を行った。その結果、Ni:66.1質量%、 Co:28.0質量%、P:2.2質量%、W:3.7質量%であった。
【0022】
[実施例2]
実施例1と同じ条件にてめっきを施したテストピースを作製し、電気炉(大気中)で200℃、1時間熱処理した。
【0023】
[比較例1]
無電解ニッケルめっき浴として、純水で5倍に希釈したSK−100液(商標:日本カニゼン社製)を用いた。pHを4.5に調整した後、上記めっき浴を90℃に加温した。この浴に、実施例1で用いたものと同じA6061素材からなるテストピース(24×50×3mm)を、実施例と同様の前処理を行った後に投入した。その後、実施例と同じく、膜厚を約40μmに合わせるため、約2時間20分浸漬した。このようにして作製されたテストピースを電気炉(大気中)で320℃、2時間熱処理を加えたものを比較例1とした。得られためっき皮膜の組成をエネルギー分散型X線分析装置を用いて分析したところ、P:8質量%(残部:Ni)であった。
【0024】
[比較例2]
無電解ニッケルめっき浴としてS−795液(商標:日本カニゼン社製)を用いた。pH6.0に調整した後、浴の温度を90℃に加温した。この浴に、実施例1で用いたものと同じA6061素材からなるテストピース(24×50×3mm)を、実施例1と同様の前処理を行った後に投入した。その後、実施例と同じく膜厚を40μmに合わせるため、約2時間20分浸漬した。得られためっき皮膜の組成をエネルギー分散型X線分析装置を用いて分析したところ、P:2質量%(残部:Ni)であった。
【0025】
[比較例3]
無電解ニッケルめっき浴として、SKB−200−1、SKB−200−2、SKB−200−4、SKB−200−5(商標:日本カニゼン社製)を用いた。これらの液を所定の組成にて混合してpH6.2に調整した後、浴の温度を82℃に加温した。この浴に、実施例1で用いたものと同じA6061素材からなるテストピース(サイズ)を、実施例と同様の前処理を行った後に投入した。その後、実施例1、2と同じく、膜厚を40μmにあわせるため、約2時間10分浸漬した。得られためっき皮膜の組成をエネルギー分散型X線分析装置を用いて分析したところ、P:2質量%、B:0.2質量%(残部:Ni)であった。
【0026】
[比較例4]
無電解めっき浴として、下記めっき液に安定剤を適量添加したものを用いた。
第2表
硫酸ニッケル 18.4g/L
クエン酸 21.0g/L
プロピオン酸 22.8g/L
βアラニン 3.56g/L
ホウ酸 30.9g/L
次亜燐酸ナトリウム 25g/L
チオジグリコール酸 100ppm
硫酸コバルト 8.43g/L
【0027】
上記めっき浴を苛性ソーダでpH7.15に調整した後、85〜87℃に加温した。この浴に、実施例1で用いたものと同じA6061素材からなるテストピース(サイズ)を、実施例と同様の前処理を行った後に投入した。その後、実施例と同じく、膜厚を40μmに合わせるため、約3時間20分浸漬した。得られためっき皮膜の組成をエネルギー分散型X線分析装置を用いて分析したところ、Co:35質量%、P:2質量%(残部:Ni)であった。
【0028】
試験例1:皮膜硬度・高温硬度
実施例1、2および比較例1〜4で得られた皮膜の表1に示す各温度における硬度をマイクロビッカース硬度計(試験荷重50g)により求めた。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
試験例2:靭性
実施例1、2、比較例1〜4の各サンプルについて、皮膜表面にダイヤモンドコーンを押し当てて連続的に荷重を増加させながら掃引して、試験後の皮膜クラック発生開始位置よりクラック発生荷重を検知した。クラック発生荷重が高い皮膜が靭性に優れた皮膜である。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
試験例3:摺動性(25℃)
実施例1、2および比較例1〜4の各サンプルを加熱可能な稼動台に乗せ、皮膜表面にSUJ球を押し当てて掃引することにより、摩擦係数を測定した。SUJの直径は3/16インチ、印加荷重は200gであった。さらに、複数回摺動し、50回摺動後の摩擦係数も測定した。なお、摩擦係数が0.3を超えた時点で測定を終了し、その際の摺動回数を焼付摺動回数とした。摩擦係数が低く、焼付摺動回数の大きい皮膜がより摺動性が高いといえる。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
試験例4:摺動性(200℃)
実施例1、2および比較例1〜4の各サンプルについて、サンプルを200℃に加熱しながら測定を行った以外は試験例3と同様な方法で、摩擦係数・焼付摺動回数を測定した。結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、摺動部品の表面処理として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Coを1〜50質量%、Wを1〜20質量%、Pを1〜5質量%含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき皮膜。
【請求項2】
25℃におけるマイクロビッカース硬度が700〜900の範囲であり、かつ400℃におけるマイクロビッカース硬度が300〜400の範囲である、請求項1に記載の無電解ニッケルめっき皮膜。
【請求項3】
200℃におけるマイクロビッカース硬度が650〜750の範囲である請求項2に記載の無電解ニッケルめっき皮膜。
【請求項4】
摺動部分を有する機械部品であって、少なくとも前記摺動部分を請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膜で被覆した機械部品。
【請求項5】
Niイオンを0.03〜0.1mol/L、Coイオンを0.01〜0.05mol/L、WO4イオンを0.01〜0.05mol/L、リン化合物を0.15〜0.30mol/L含有する無電解めっき浴。

【公開番号】特開2007−162069(P2007−162069A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359762(P2005−359762)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(391028339)日本カニゼン株式会社 (17)
【Fターム(参考)】