説明

無電解金めっき方法

【課題】本発明の目的は、被めっき物の金属導体部分にのみ選択的に、無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を、順次行う無電解金めっき方法において、無電解金めっきの未析出が発生しない無電解金めっき方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、金属導体配線を形成した被めっき物の金属導体部分にのみ選択的に無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を、順次行う無電解金めっき方法において、該被めっき物に置換金めっき処理を行った後、還元剤を含む液で処理してから無電解金めっき処理を行うことを特徴とする無電解金めっき方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき析出性に優れた無電解金めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板やパッケージ基板の無電解金めっき処理では、一般的に銅や銀の金属導体配線上にのみ選択的に、無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を順次行う。
【0003】
このめっき層構成のうち、最下層の無電解ニッケルめっき皮膜は、次亜リン酸塩で還元する液組成が一般的に使用されており、次亜リン酸塩中のリンがニッケルと共析してニッケル−リン合金の非晶質の形で析出する。無電解金めっきの下地めっきには、皮膜中にリンを重量比で5〜9%含む中リンタイプと呼ばれる無電解ニッケルめっき液が使用されることが多い。無電解ニッケルめっきは、通常、2〜8μmの厚さを施す。この無電解ニッケルめっき皮膜は、導体配線の銅や銀が上層の金めっき皮膜に拡散し皮膜物性を低下させないよう、バリヤーめっき層の働きをするとともに優れた耐腐食性や耐摩耗性を有する。
【0004】
次の工程では、置換金めっき液で置換反応により、無電解ニッケルめっき皮膜上にのみ置換金めっきを行う。置換金めっきは、通常、0.02〜0.1μmの厚さを施す。この置換金めっきまでで処理を完了するものは、薄付金めっき品と呼ばれ、金が腐食されにくい特長を利用して、主にはんだ濡れ性向上等の目的に使用される。
【0005】
更に、金めっき皮膜と金ワイヤーの接合(ワイヤーボンディング)強度や高温高湿下での長期信頼性を得るためには、無電解金めっき液で厚付金めっきを行う。無電解金めっきは、通常、0.1〜1μmの厚さを施す。この無電解金めっきは、下地の置換金めっき粒子が反応触媒になるものであり、還元反応により置換金めっき皮膜上にのみ析出する。無電解金めっきまで処理したものは、厚付金めっき品と呼ばれる。無電解金めっき処理としては、一般的に特開2004−169058号公報(特許文献1)記載の無電解金めっき液や無電解金めっき方法が使用される。
【0006】
一方、年々、プリント配線板やパッケージ基板は微細配線化されてきており、金属導体配線幅や配線端子が各々100μm以下の製品が、製造または開発されている。プリント配線板やパッケージ基板の無電解金めっき処理では、金属導体配線上にのみ選択的にめっき処理を行うため、無電解金めっきの未析出や金属導体配線以外への無電解金めっき異常析出を改善し、生産歩留を向上する必要がある。
【0007】
これらの不具合の中で無電解金めっきの未析出は、触媒作用をもたらす置換金めっき皮膜の活性低下により起こると考えられている。これは、置換金めっき皮膜が薄く、また無電解ニッケルめっき皮膜上にポーラスに析出しているため、めっき処理を行う際、露出しているニッケル部分が、移槽間の空中や工程間の水洗中で酸化し、無電解金めっきへの触媒活性を低下させるものと推測される。
【0008】
この現象は、析出速度の遅い、シアンを含まない無電解金めっき液で発生することが多い。そのため、特開2004−332037号公報(特許文献2)記載の無電解金めっき方法のように、置換金めっき液と無電解金めっき液の金塩や錯化剤などの主成分を同一にすることにより、被めっき物に置換金めっき処理を行った後、水洗することなく、直接無電解金めっき処理することが試みられた。
【特許文献1】特開2004−169058号公報
【特許文献2】特開2004−332037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この無電解金めっき方法では、同じ液で数回繰り返し処理を行うと、置換金めっき液の中に置換反応で溶解蓄積したニッケルイオンが、無電解金めっき液中に持ち込まれ、無電解金めっき液の安定性を低下させる問題があることが分かった。
【0010】
本発明の目的は、被めっき物の金属導体部分にのみ選択的に、無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を、順次行う無電解金めっき方法において、無電解金めっきの未析出が発生しない無電解金めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは種々検討を重ねた結果、金属導体配線を形成した被めっき物の金属導体部分にのみ選択的に、無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を、順次行う無電解金めっき方法において、前記被めっき物に前記置換金めっき処理を行った後、還元剤を含む液で処理してから無電解金めっき処理を行うことにより、上記目的が達成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、以下に関するものである。
(1) 金属導体配線を形成した被めっき物の金属導体部分にのみ選択的に、無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を、順次行う無電解金めっき方法において、前記被めっき物に前記置換金めっき処理を行った後、還元剤を含む液で処理してから無電解金めっき処理を行うことを特徴とする無電解金めっき方法。
(2) 還元剤を含む液中の還元剤が、フェニル系化合物、水素化ホウ素塩、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸塩、ホルマリンから選ばれた一つの還元剤であることを特徴とする上記(1)記載の無電解金めっき方法。
(3) 還元剤を含む液中の還元剤濃度が、0.01〜0.5mol/Lであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の無電解金めっき方法。
(4) フェニル系化合物が、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、カテコール、ピロガロール、アミノフェノール、フェニレンジアミン類から選ばれた一つ以上の化合物であることを特徴とする上記(2)または(3)の何れかに記載の無電解金めっき方法。
(5) 無電解金めっき液が、シアンを含まない無電解金めっき液であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載の無電解金めっき方法。
(6) 金属導体が、銅または銀であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れかに記載の無電解金めっき方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無電解金めっき方法を行うことにより、金属導体配線や配線端子の幅が、各々100μm以下の微細配線を有する製品でも、無電解金めっきの未析出や金属導体配線以外への無電解異常析出の無い、無電解金めっき処理を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、金属導体配線を形成した被めっき物の金属導体部分にのみ選択的に、無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を、順次行う無電解金めっき方法において、前記被めっき物に前記置換金めっき処理を行った後、還元剤を含む液で処理してから、無電解金めっき処理を行うことを特徴とする。
【0015】
還元剤を含む液中の還元剤としては、フェニル系化合物、水素化ホウ素塩、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸塩、ホルマリンから選ばれた一つの還元剤を使用する。
【0016】
還元剤を含む液中の還元剤濃度が、0.01〜0.5mol/Lであることが好ましい。還元剤の種類により多少は異なるが、還元剤の濃度が0.01mol/L未満では、触媒作用をもたらす置換金めっき皮膜の活性を向上させる効果が小さく、100μm以下の金属導体配線や配線端子への無電解金めっき未析出が発生しやすく、改善効果が得られにくい。また、還元剤の濃度が0.5mol/Lを超える場合では、無電解金めっきの析出性向上効果はあるものの、被めっき物全体が還元雰囲気下になり、無電解金めっき液の反応活性が上がり過ぎて、金属導体配線以外への無電解金めっき異常析出が発生しやすくなる。
【0017】
フェニル系化合物としては、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、カテコール、ピロガロール、アミノフェノール、フェニレンジアミン類から選ばれた一つ以上の化合物を使用することができる。還元剤を含む液中の還元剤として、フェニル系化合物を使用する場合は、還元剤自体がアルカリ性で不安定になるため、還元剤を含む液のpHを8以下の中性から酸性に保つ必要がある。
【0018】
水素化ホウ素塩としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウムを使用することができる。還元剤を含む液中の還元剤として、水素化ホウ素塩やジメチルアミンボランを使用する場合は、還元剤自体が中性以下のpHで自己分解を起こすため、還元剤を含む液のpHを9以上のアルカリ性に保つ必要がある。
【0019】
次亜リン酸塩としては、次亜リン酸ナトリウムを使用することができる。還元剤を含む液中の還元剤として、次亜リン酸塩やホルマリンを使用する場合は、還元剤自体が比較的安定なため広いpH範囲を取ることができるが、還元剤を含む液の長期安定性を考慮してpHを5〜9の弱酸性から弱アルカリ性で使用することが望ましい。
【0020】
還元剤を含む液の処理温度は、温度調整することなく、5〜35℃の液温で使用することができる。ただし、各還元剤の推奨濃度範囲で、置換金めっき皮膜の活性を向上させる効果が小さい場合は、液温度を上げて使用することがより好ましい。
【0021】
還元剤を含む液の処理時間は、置換金めっき皮膜の活性を向上させる効果が比較的短時間で得られるため、1〜10分位を標準とする。処理時間が1分以下の場合は、置換金めっき皮膜の活性を向上させる効果が十分に得られない場合がある。また、処理時間が10分以上の場合は、置換金めっき皮膜の活性を向上させる効果に更なる向上は無く、作業時間が長くなる分、経済的ではない。
【0022】
液温が低い場合と処理時間が短い場合は、置換金めっき皮膜の活性を向上させる効果が小さくなる傾向があり、他方、液温が高い場合と処理時間が長い場合は、置換金めっき皮膜の活性を向上させる効果に、より大きな変化が見られない傾向がある。ただし、置換金めっきの膜厚または無電解金めっき液の液種、処理条件によっても左右されるため、個々の無電解金めっきプロセスに対応した条件出しが必要である。
【0023】
還元剤を含む液は、これらの事項を加味しても、各使用条件に対し、実用上可能な広い範囲で使用することができる。また、前述した還元剤以外に、一般的に金を還元する作用が知られている、尿素系化合物、アスコルビン酸塩やヒドラジンなども使用することができる。
【0024】
置換金めっき液と還元剤を含む液の処理の間、還元剤を含む液と無電解金めっき液の処理の間では、被めっき材を数分水洗し、処理液間での液の持込みに注意する必要がある。
【0025】
本発明の無電解金めっき方法は、例えば次のようにして行うことができる。まず、数10μmの微細配線を、電気銅めっきで形成したプリント配線板を用意する。次に、該プリント配線板を脱脂、水洗、ソフトエッチング、水洗、希硫酸中和、水洗および置換パラジウム処理の順に順次処理を行い、銅配線上にのみパラジウム触媒核を付与する。次に、水洗した後、無電解ニッケルめっき処理を行い、銅パターン上にのみ選択的に3〜10μmの無電解ニッケルめっき皮膜を施す。更に、水洗、置換金めっき処理を行い0.01〜0.1μmの置換金めっき皮膜を施す。次に、水洗した後、本特許の構成の一つであるヒドロキノン1.2〜55g/Lを含み、希硫酸または希塩酸でpHを7以下に調整した還元剤液中で、処理温度5〜35℃の条件下、1〜10分処理する。最後に、水洗、無電解金めっき処理を行い、0.1〜1μmの無電解金めっき皮膜を施す。
【0026】
このようにして処理されたプリント配線板では、数10μmの微細配線上に、無電解金めっきの未析出や金属導体配線以外への無電解金めっき異常析出は見られず、良好な無電解金めっき処理を行うことができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の好適な実施例について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
銅張積層板MCL−E−67(日立化成工業株式会社製 商品名)の銅箔上に、無電解銅めっき処理と硫酸銅電気めっき処理で、20μmの厚さの銅めっき皮膜を施した。更に、パターン形成用のドライフィルムを使用し、印刷、焼付け、現像を行って、1端子75μm角、端子間125μm、1ブロック当り100端子のテスト基板を作製して被めっき材とした。
【0029】
この被めっき材を、次の(1)〜(18)の工程で順次連続処理した。
(1)最初に、銅配線表面の錆や有機物、汚れ等を除去するために、酸性脱脂液CLC−5000(日立化成工業株式会社製 商品名)を50℃に加温し4分間処理した。
(2)余分な界面活性剤を除去するため、50℃の湯洗で1分間処理した。
(3)流水洗で1分間処理した。
(4)エッチングにより表面の形状を均一化するために8%過硫酸アンモニウム水溶液で30秒間処理した。
(5)流水洗で1分間処理した。
(6)表面のアンモニウム残塩を除去するために10%硫酸水溶液で1分間処理した。
(7)流水洗で1分間処理した。
(8)置換パラジウム触媒液SA−100(日立化成工業株式会社製 商品名)で5分間処理し、下地銅皮膜上にパラジウム触媒を付与した。
(9)流水洗で1分間処理した。
(10)無電解ニッケルめっき液NIPS−100(日立化成工業株式会社商品名)を85℃に加温し、25分処理して5μmの無電解ニッケルめっき皮膜を施した。
(11)流水洗で1分間処理した。
(12)置換金めっき液HGS−100(日立化成工業株式会社商品名)を85℃に加温し、10分処理して0.05μmの置換金めっき皮膜を施した。
(13)流水洗で1分間処理した。
(14)表1実施例No.1〜15および表2比較例No.1〜13の各処理液で処理した。
(15)流水洗で1分間処理した。
(16)無電解金めっき液HGS−5400(日立化成工業株式会社商品名)を65℃に加温し、40分処理して0.5μmの無電解金めっき皮膜を施した。
(17)流水洗で1分間処理した。
(18)最後に、80℃の乾燥機で乾燥した後、50倍の実体顕微鏡で無電解金めっきの未析出や金属導体配線以外への無電解金めっき異常析出の発生数をカウントした。
【0030】
実施例1〜15の還元剤を含む液の条件と評価結果を、表1に示す。
【0031】
【表1】


【0032】
表1の結果、実施例1〜15の条件では、いずれも無電解金めっきの未析出や金属導体配線以外への無電解金めっき異常析出は見られず、選択性のある良好な無電解金めっき皮膜が得られた。
【0033】
比較例1〜11の条件と評価結果を表2に示す。
【0034】
【表2】


【0035】
表2の結果、還元剤を含む液で処理を行わない場合と、還元剤濃度が0.01mol/L以下の場合および還元剤を含む液の処理時間が0.2分と短い場合は、無電解金めっきの未析出が発生した。また、還元剤濃度が0.5mol/L以上の場合は、金属導体配線以外への無電解金めっき異常析出が発生した。
【0036】
以上の結果から、金属導体配線を形成した被めっき物の金属導体部分にのみ選択的に、無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を、順次行う無電解金めっき方法において、前記被めっき物に前記置換金めっき処理を行った後、還元剤を含む液で処理してから無電解金めっき処理を行うことにより、無電解金めっきの未析出を防止できることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属導体配線を形成した被めっき物の金属導体部分にのみ選択的に、無電解ニッケルめっき処理、置換金めっき処理および無電解金めっき処理を、順次行う無電解金めっき方法において、前記被めっき物に前記置換金めっき処理を行った後、還元剤を含む液で処理してから無電解金めっき処理を行うことを特徴とする無電解金めっき方法。
【請求項2】
還元剤を含む液中の還元剤が、フェニル系化合物、水素化ホウ素塩、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸塩、ホルマリンから選ばれた一つの還元剤であることを特徴とする請求項1記載の無電解金めっき方法。
【請求項3】
還元剤を含む液中の還元剤濃度が、0.01〜0.5mol/Lであることを特徴とする請求項1または2に記載の無電解金めっき方法。
【請求項4】
フェニル系化合物が、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、カテコール、ピロガロール、アミノフェノール、フェニレンジアミン類から選ばれた一つ以上の化合物であることを特徴とする請求項2または3に記載の無電解金めっき方法。
【請求項5】
無電解金めっき液が、シアンを含まない無電解金めっき液であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の無電解金めっき方法。
【請求項6】
金属導体が、銅または銀であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の無電解金めっき方法。