説明

無電解金めっき方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、置換による無電解金めっき方法に関するものであり、特には例えば現在急速に発展しつつある各種半導体デバイス向けに軽量化、小型化、高信頼性化を指向しているプリント回路におけるワイヤボンディング等を目的としてプリント基板上に密着性の良い0.3〜0.5μmの厚付け金めっき皮膜を形成することのできる無電解金めっき方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】銅張りプリント基板、リードフレーム、TAB、半導体デバイス等のワイヤボンディング、金電極形成等に代表されるように、電子デバイスにおいては金めっきが必要とされることが非常に多い。例えば、プリント基板におけるワイヤーボンディングを目的とする金めっき皮膜の形成においては、必要とされるめっき皮膜厚0.3μm以上を得ることのできる無電解金めっき液がこれまでなかったため、電気めっきで対応していた。
【0003】しかし、パターンが微細化すると電気めっきではもはや対応できず、無電解めっき液が要望されるようになった。また、プリント基板のCOB用として電気めっきで金めっき皮膜を得、ワイヤーボンディングに供しているが、回路の引き廻しの関係から、無電解金めっきが望まれている。この他、従来からの電気金めっきでは、ボンディングバッドや本来の回路配線の他にリードが必要であるのに対して、無電解金めっきではこれらが不要となる等の多くのメリットがある。こうした点から優れた無電解金めっき技術を確立することが急務となっている。
【0004】無電解金めっきには還元型と置換型がある。還元型金めっき液は還元剤をめっき液中に含ませるものであり、他方置換型金めっき液はイオン化傾向の差を利用するものである。これまで厚めっき(0.3〜0.5μm)に対しては還元型金めっきが行なわれて来た。しかし、アルカリ性の浴であるため、レジスト皮膜や基板に悪影響を与えるため中性浴が求められている。
【0005】こうした中で、本件出願人を含め当業界においては、中性浴として置換型金めっき液を開発してきた。例えば、特開平4−314870号、特開平5−287541号、特開平5−295558号等を参照されたい。置換型金めっきは、被めっき物を溶解し、金が電子を受けて析出するものであるため、下地及び素材の腐食を必然的に伴う。プリント基板は、銅材にNi−Pめっき下地を形成した後金めっき皮膜を形成するのが一般である。置換型金めっきは、Ni−P下地を腐食して成立するため下地のみでなく、腐食が進むと素材の侵食も行なわれる。これが外観不良や密着性不良が起こり又液の汚染さらに金皮膜の汚染が起こる等の悪影響の原因となる。すなわち、置換型のめっきであるため、下地の溶解をしながら析出させる事から、Ni−P及び素材の銅の侵食が生じ得る。Ni−P下地は柱状晶の結晶析出であるためP%の低い部分の侵食が早く、縦方向に銅に到達する腐食が進む。このことからNi−P皮膜の下の銅表面が腐食され、Ni−Pとの密着性を悪化するのである。
【0006】そこで、置換めっきを薄付けにとどめ、侵食を少なくした上で、還元型めっき液を用いて厚付け金めっきを行い、必要とする金皮膜厚0.3μ〜0.5μmを得る手法が一般に採用されている。他方、置換のみで厚付けを得るために、Ni−P皮膜中のP%を変化させた低P含有Ni層/高P含有Ni層という2層めっきが提案されている。Ni−P皮膜はP%が低い程、Niの溶出が進み易く、金が置換し易いのであるが、P%を高くすると溶解が抑制されることに着目したものである。例えば、サーキットテクノロジーVol.8 No.6(1993)477〜478頁に報告されている。しかし、Ni−P皮膜のP%を安定化することや、2種類の浴の管理面から現実的でない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、通常的に使用されるNi−Pめっき液を使用して、上述した問題点のない置換型の無電解金めっき液を使用して密着性の良好な厚付け金めっき皮膜を形成する方法を確立することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、同一のNi−Pめっき皮膜を同一浴から得ることの中で、Ni−P下地の耐食性を高める方法として、中間にNi−Pより貴な金属めっき層をバリアー層として介在させることを想到し、試行の結果、好成績を得た。この知見に基づいて、本発明は、素材上にNi−Pめっき下地を形成し、該Ni−Pめっき下地上に置換型金めっき液を用いて金めっき皮膜を形成する無電解金めっき方法において、Ni−Pめっき下地を2層以上のNi−Pめっき下地層としそして該Ni−Pめっき下地層間にNiより貴な金属(ただし、金を除く)のバリアー層を形成することを特徴とする無電解金めっき方法を提供する。本方法は、好適には、銅素材上に第1Ni−Pめっき下地層を形成し、貴金属液に浸漬して該第1Ni−Pめっき下地層上にNiより貴な金属(ただし、金を除く)のバリアー層を形成し、該バリアー層上に第2Ni−Pめっき下地層を形成し、その後該第2Ni−Pめっき下地層上に置換型金めっき液を用いて金めっき皮膜を形成することにより具現することができる。Niより貴な金属はAg、Pt、Ru、Pd及びRhから成る群から選択することが好ましい。金めっき皮膜は0.3〜0.5μmの厚付けめっきであり、そして優れた密着性を有している。
【0009】
【作用】Ni−P皮膜はP%が低い程、Niの溶出が進み易い、すなわち金が置換し易い。P%が均一で層状析出であれば好ましいのであるが、柱状晶でP%が不均一であると、P%の低い所から溶出が起こるため、局部的に素材の銅に達する溶解が進行してしまうこととなる。他方、P%を高くすると、溶解が抑制されるが、金置換析出が減少し、厚付け金めっき皮膜が得られない。Pが一般に6〜8%の皮膜となる中PタイプのNi−P浴が多く用いられており、金めっき厚が高くなるほど腐食起こすこととなる。その対応として、Ni−Pめっき皮膜の中にNiより貴な金属のバリアー層を設けて、腐食が起こってもバリアー層で止め、腐食がストレートに素材に到達するのを抑える。
【0010】
【実施例】本発明が対象とする素材としては、銅張りプリント基板、リードフレーム、TAB、半導体デバイス、透明導電膜回路、硝子、セラミック等を例示することができ、ワイヤボンディングのための金皮膜形成、金電極形成等を必要としそして電位が金より卑なもの全般を包括する。
【0011】Ni−Pめっきとしては、市販の通常的なNi−Pめっき液のいずれでも使用することができる。形成されるNi−Pメッキ膜中のP含有量が8〜12%となる高Pめっき液、P含有量が3〜7%となる低Pめっき液、P含有量が6〜8%となる中Pめっき液いずれも使用可能である。特に対半田性の良好な中Pめっき液の使用が推奨される。例えば、日鉱メタルプレーティング(株)製ニコム−Nは、5g/1Niを含むpH4.5の中性のNi−Pめっき液である。めっき時間5〜20分で1〜5μmの膜厚を形成することができる。Ni−Pめっきに先立って銅素材を脱脂及び酸洗したのちPd等の貴金属触媒付与処理を行うことが好ましい。
【0012】バリアー層金属としては、Ni−Pより貴なものであれば良く、上下のNi−P層との密着を害さないように、例えば0.01〜5μmの範囲の極めて薄い層とすれば良い。Ag、Pt、Ru、Pd、Rh等を使用することができる。幾つかのめっき浴の例及びその使用条件例を挙げておく:(1)Ptめっき液塩化第2白金酸:0.2〜0.8g/1(Pt量)
pH:1〜3液温:室温処理時間:10〜50秒(2)Ruめっき液硫酸ルテニウム:2〜10g/1(Ru量)
pH:1〜3液温:室温処理時間:2〜10秒(3)Pdめっき液:塩化パラジウム:0.2〜1.0g/1(Pd量)
pH:0.5〜3液温:20〜50℃処理時間:10秒〜3分(4)Rhめっき液:硫酸ロジウム:0.1〜0.6g/1(Rh量)
pH:1〜2.5液温:40℃処理時間:2〜15
【0013】置換による無電解金めっき液としては、最初に文献を挙げたように、これまで様々のものが知られている。例えば、可溶性金塩にシアン化アルカリ安定化剤等を添加した置換金めっき液が知られている。本発明はそのいずれをも使用することができるが、特に好ましい置換形金めっき液の例はKG−550の商品名で市販されているものである。これは次の組成及び使用条件を有する:(A)組成KAu(CN):0.5〜5g/1錯化剤:10〜50g/1pH緩衝剤:10〜150g/1添加剤:1〜20m1/1(B)使用条件pH:6温度:60℃めっき厚:0.5μm/30分
【0014】本発明に従えば、優れた密着性を有する0.3〜0.5μmの厚付け金めっきが可能である。置換金めっきに先立ってNi−P下地を貴金属液に浸漬して活性化処理を行うことが好ましい。
【0015】以下に、実施例及び比較例を示す。密着性試験として、ピーリングテストは事務用のセロテープ(日東電工製)を金めっきしたプリント基板表面に張り、布ロールでこすりつけた後、指先でテープの端を持ち、一挙にテープを引き剥すことにより行った。Auめっき皮膜または下地Ni−Pが密着不良の場合、テープにめっき皮膜が付着する。また、一部のサンプルについては、走査電子顕微鏡でめっき状況を詳しく観察した。
【0016】(実施例1)
Cu素材上に次の手順でめっき処理を行った。
(A)第1回Ni−PめっきNi:5g/1pH:4.5液温:85℃めっき時間:5分膜厚:1μm(B)水洗(C)Ptめっき液浸漬塩化白金酸めっき液(pt:0.5g/1)
pH:2液温:室温時間:30秒(D)水洗(E)第2回Ni−Pめっき第1回Ni−Pめっき液と同じものを使用。
めっき時間:15分膜厚:4μm(F)水洗(G)活性化処理硫酸ルテニウム:5g/1(Ru量)
pH:1.0液温:室温浸漬時間:5秒(H)水洗(I)置換AuめっきAu:2g/1pH:6液温:60℃時間:30分膜厚:0.52μm(J)水洗(K)乾燥こうして0.52μmの厚い金めっき皮膜が得られた。ピーリング密着試験の結果は良好であり、断面観察の結果銅素材に達する侵食はなかった。
【0017】(比較例1)
バリアー層を設けず、単一層のNi−Pめっきを使用し(実施例1と同一のNi−Pめっき液を使用して第1回及び第2回のNi−Pめっき合計厚さと同じ厚さを形成した)、その上に0.55μm厚付けの金めっきを施した。手順は次の通りとした。
(A)Ni−PめっきNi:5g/1pH:4.5液温:85℃めっき時間:20分膜厚:5μm(B)水洗(C)活性化処理硫酸ルテニウム:5g/1(Ru量)
pH:1.0液温:室温浸漬時間:5秒(D)水洗(E)置換AuめっきAu:2g/1pH:6液温:60℃時間:30分膜厚:0.55μm(F)水洗(G)乾燥
【0018】こうして0.55μmの厚い金めっき皮膜が得られた。ピーリング密着試験の結果は不良であり、断面観察の結果銅素材に達する侵食が認められた。図2はピーリング密着試験後に密着不良を起こした部分の走査電子顕微鏡写真を示す。Au層が剥離して、その下のNi−P層が露出し更にその下側のCu素材(黒い部分)が露出しているのが観察される。図3は、Ni−P及びCu素材の侵食状況を示す。Ni−P層は柱状に縦に侵食部が走っており、Cu素材まで侵食が拡がっている。
【0019】(実施例2)
実施例1で示した第1回及び第2回Ni−Pめっきの間の貴金属浸漬めっきを次のめっき液及び条件で行った。他の条件は同じとした。
(C)Pdめっき液浸漬塩化パラジウムめっき液(Pd:0.6g/1)
pH:2液温:室温時間:2分こうして0.5μmの厚い金めっき皮膜が得られた。ピーリング密着試験の結果は良好であり、断面観察の結果銅素材に達する侵食はなかった。めっき後の素材の断面写真を図1に示す。Cu素材に達する侵食はなく、Ni−P第2層の柱状の腐食はPdバリアー層で止まり、その下に及んでいない。
【0020】(実施例
実施例1で示した第1回及び第2回Ni−Pめっきの間の貴金属浸漬めっきを次のめっき液及び条件で行った。他の条件は同じとした。(C)Rhめっき液浸漬硫酸ロジウムめっき液(Rh:0.3g/1)
pH:1.5液温:40℃時間:8秒こうして0.44μmの厚い金めっき皮膜が得られた。ピーリング密着試験の結果は良好であり、断面観察の結果銅素材に達する侵食はなかった。
【0021】
【発明の効果】Ni−P下地めっき中にバリアー層を介在させることにより金めっき中に素材に到達するような侵食が抑制されることから、密着性の良い厚いAuめっき皮膜が得られる。ワイヤーボンディングを行うプリント基板に於いて、0.3μm以上の厚い金めっき皮膜を得ることができるため、微細化するパターンへのめっきが可能となり、軽量化、小型化、高信頼性化を指向しているプリント回路等の製造に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】めっき後の素材の断面金属組織の電子顕微鏡写真であり、Cu素材に達する侵食はなく、Ni−Pの腐食はPdバリアー層で止まっていることを示す。
【図2】ピーリング密着試験後に密着不良を起こした部分の金属組織の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図3】Ni−P及びCu素材の侵食状況を示す断面の金属組織の電子顕微鏡写真であり、Ni−P層には柱状に縦に侵食部が走っており、Cu素材まで侵食が拡がっている状況を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 素材上にNi−Pめっき下地を形成し、該Ni−Pめっき下地上に置換型金めっき液を用いて金めっき皮膜を形成する無電解金めっき方法において、Ni−Pめっき下地を2層以上のNi−Pめっき下地層としそして該Ni−Pめっき下地層間にNiより貴な金属(ただし、金を除く)のバリアー層を形成することを特徴とする無電解金めっき方法。
【請求項2】 銅素材上に第1Ni−Pめっき下地層を形成し、該第1Ni−Pめっき下地層上にNiより貴な金属(ただし、金を除く)のバリアー層を形成し、該バリアー層上に第2Ni−Pめっき下地層を形成し、その後該第2Ni−Pめっき下地層上に置換型金めっき液を用いて金めっき皮膜を形成することを特徴とする無電解金めっき方法。
【請求項3】 Niより貴な金属がAg、pt、Ru、Pd及びRhから成る群から選択されることを特徴とする請求項1乃至2の無電解金めっき方法。
【請求項4】 金めっき皮膜が0.3〜0.5μmの厚付けめっきであり、そして優れた密着性を有していることを特徴とする請求項1乃至3の無電解金めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】第2785102号
【登録日】平成10年(1998)5月29日
【発行日】平成10年(1998)8月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−83797
【出願日】平成6年(1994)3月31日
【公開番号】特開平7−268640
【公開日】平成7年(1995)10月17日
【審査請求日】平成7年(1995)12月19日
【出願人】(000231109)株式会社ジャパンエナジー (18)
【参考文献】
【文献】特開 昭59−16961(JP,A)