説明

無電解金めっき液及びそれを用いて得られた金皮膜

【課題】ワイヤーボンディング用基板に金めっきを施す無電解金めっき液と金皮膜の製造方法を提供する。
【解決手段】パラジウムめっき皮膜上に金皮膜を析出せしめる無電解金めっき液であって、シアノ基を含有しない水溶性金化合物、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩類、R−S−R−COOR(1)[一般式(1)中、Rは、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、Rは、アルキレン基、アミノアルキレン基、アルキル基が結合していてもよいアリーレン基、又は、アラルキレン基を示し、Rは、水素原子、アルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示す。]及び、酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物を含有することを特徴とする無電解金めっき液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の組成を有する無電解金めっき液、その無電解金めっき液を用いる金皮膜の製造方法、その無電解金めっき液を用いて得られたパラジウム皮膜上の金皮膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル皮膜上に施す金めっきは、ニッケルが下地金属として優れた耐熱性能を有するため、金の優れた耐食性、機械的特性、電気特性、ワイヤーボンディング特性が生かせるため、電子電気部品等の分野で広く用いられている。
【0003】
近年、金が非常に高価となり金を節約する目的で、ニッケル皮膜上にパラジウムめっきを施し、更に金めっきを施す仕様が普及し始めている。パラジウムめっき皮膜は、貴金属ではあるが金よりも安価で、優れた耐熱性能を有するため、従来のニッケル皮膜上に施す金めっき膜厚よりも、パラジウムめっきを施して金めっきを施す方が、金膜厚を約半分に節約しても同等の耐熱性能を実現することができ、高価な金の使用量を節約することができる。
【0004】
また、従来は、ワイヤーボンディング用端子の金めっきには、電解ニッケル\電解金めっき技術が使用されていたが、近年の配線の微細化に伴い電解めっき用配線部の確保が難しくなってきており、電解めっき用配線の必要がない無電解めっき技術の適用が必須となりつつある。
【0005】
ところが、無電解ニッケル\金めっき技術における金めっき技術には、一般的に下地ニッケルの溶解により金を析出させる置換金めっき技術か、下地ニッケルの溶解は発生しないがめっき液の管理が非常に煩雑である還元金めっき技術の2種類しかない。このうち、置換金めっき技術は、浴の管理は容易ではあるものの、下地ニッケルの溶解によるはんだ接合強度の低下や、ワイヤーボンディング性能不良が発生し、電解ニッケル\電解金めっき技術に比べて著しく特性が低下してしまうことが問題となっている。一方、還元金めっき技術は、還元剤の酸化により発生する電子を利用して金を析出させる技術であることから、金濃度、浴pH、浴温度、還元剤濃度、不純物濃度等の影響を著しく受けて金の析出速度や金皮膜の状態が非常に変化し易く、めっき液の管理が非常に難しいという問題を持っていた。
【0006】
ワイヤーボンディング部分は、例えば、はんだボールパッド部分に比較して厚い金めっき皮膜を形成させる必要があるため、無電解で金めっき皮膜をワイヤーボンディング部分に形成しようとすれば、置換金めっき技術ではなく還元金めっき技術を適用せざるを得ないため、上記した理由で、無電解ニッケル\無電解金めっき技術のワイヤーボンディング実装基板への適用は一般に普及していなかった。
【0007】
そこで、近年一般に普及してきたのが、無電解ニッケル\無電解パラジウム\無電解金めっき技術である。無電解めっきであるので電解用配線確保の必要がなく、無電解パラジウム皮膜の優れた耐熱性やバリア特製を生かして、浴管理の容易な置換金めっきを使用しても下地ニッケルの溶解が少なく、はんだ接合強度の低下やワイヤーボンディング性能不良の発生を抑制できることで、無電解ニッケル\無電解パラジウム\無電解金めっき技術が一般に普及し始めている。
【0008】
しかしながら、図1のようなワイヤーボンディング実装基板にめっき処理を施す場合、ワイヤーボンディング用の面積の非常に狭い端子と、はんだボール実装用若しくは金膜厚確認用の非常に広い面積の端子が同一基板上に共存することになり、更に面積比の大きく違う双方の端子が通電されることによって端子間の電位差が発生し、パラジウムめっき皮膜上に施す金めっきの膜厚がそれぞれの端子間で1.5倍〜10倍程度に開いてしまうという現象が頻発している。更に、ワイヤーボンディング端子とはんだボール端子を接続する配線長が長ければ長いほどこの現象は顕著に表れる。多くの場合、面積の広い端子で金が薄く析出し、面積の狭い端子で金が厚く析出する。
【0009】
このような現象が発生する基板を使用すると、金膜厚を確認する広い端子で金膜厚を管理するために、面積の狭い端子に設定膜厚の数倍の金膜厚を析出させることになり、意図したような金の使用量節約効果が得られないという問題があった。更に、めっき面積の狭いワイヤーボンディング端子においても必要以上に金が析出してしまうことから、バリア層である無電解パラジウムめっき皮膜層を有していても、無電解金めっき処理によるニッケル皮膜の局所溶解が発生し易く、ワイヤーボンディング特性を低下させてしまい実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−008438号公報
【特許文献2】特開平10−168578号公報
【特許文献3】特開2008−174774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記背景技術を鑑みてなされたものであり、その課題はワイヤーボンディング用端子で面積の非常に狭い端子と、はんだボール実装用若しくは膜厚確認用の非常に広い面積の端子が同一基板上に共存する基板に金めっきを施す場合に、ニッケル皮膜上にパラジウムめっきを施し、更に金めっきを施す際に、端子パッド間の金皮膜の膜厚差が非常に少なく、高価な金の使用量を節約可能であり、金が設定膜厚以上に析出する箇所がないことから、必要最小限のニッケル局所溶解しか発生しない無電解金めっき液と金皮膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シアノ基を含有しない水溶性金化合物、イオウ原子とカルボキシル基を含有する特定の化学構造を有する化合物、及び、特定範囲の酸化還元電位を有する電子供与性化合物を同時に必須成分として含有する無電解金めっき液を用いて、パラジウムめっき皮膜上に金皮膜を析出せしめると、同一基板上に2か所以上開口する被めっき面の面積比が1:100であったとしても、金めっき皮膜の厚みの差が30%以内に抑制されることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、パラジウムめっき皮膜上に金皮膜を析出せしめる無電解金めっき液であって、
(a)シアノ基を含有しない水溶性金化合物、
(b)下記一般式(1)で表される化合物又はその塩類、
−S−R−COOR (1)
[一般式(1)中、
は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、アルキレン基、アミノアルキレン基、アルキル基が結合していてもよいアリーレン基、又は、アラルキレン基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。]
及び、
(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物
を含有することを特徴とする無電解金めっき液を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、基板上のパラジウムめっき皮膜上に無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する方法であって、該無電解金めっき液が、
(a)シアノ基を含有しない水溶性金化合物、
(b)下記一般式(1)で表される化合物又はその塩類、
−S−R−COOR (1)
[一般式(1)中、
は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、アルキレン基、アミノアルキレン基、アルキル基が結合していてもよいアリーレン基、又は、アラルキレン基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。]
及び、
(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物を含有するものであることを特徴とする金皮膜の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、基板上のパラジウムめっき皮膜上に、上記の無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する方法であって、同一基板上に開口する少なくとも2か所の被めっき面の面積比が1:100であっても、金皮膜の厚みの差を30%以内に抑制することを特徴とする金皮膜の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記の無電解金めっき液を用いてパラジウムめっき皮膜上に無電解金めっきを行うことによって得られたものであることを特徴とする金皮膜を提供するものである。また、本発明は、上記の金皮膜の製造方法を使用して得られたものであることを特徴とする金皮膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記問題点と課題を解決し、ワイヤーボンディング用端子で面積の非常に小さい端子と、はんだボール実装用端子又は膜厚確認用端子であって面積の非常に大きい端子が、同一基板上に共存する基板(例えば図1に示されるような基板)上に無電解金めっきを施しても、端子間の金皮膜の厚さに差が非常に少ないため、高価な金の使用量を節約することができる。
【0018】
本発明は、無電解ニッケル\無電解パラジウム\無電解金めっきにおける、無電解金めっきとして極めて特異的に効果を発揮する。すなわち、面積が大きく異なる端子間の金皮膜の厚さに差が非常に少ないため、金皮膜を必要以上に析出させるおそれがないことから、下地のニッケル皮膜において、必要最小限のニッケル局所溶解しか起こさず、そのためワイヤーボンディング用端子に欠陥が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ワイヤーボンディング端子とはんだボール端子の両方を備えた基板の一例を示す概略平面図である。
【図2】本発明の実施例で用いた評価基板の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形して実施することができる。また、以下に記載される例示化合物は、水に溶解されて無電解金めっき液の成分となるものであるから、具体的表現が「塩」の形になっていなくても、塩になり得るものは塩をも意味するものとする。
【0021】
本発明の無電解金めっき液には、少なくとも、
(a)シアノ基を含有しない水溶性金化合物、
(b)下記一般式(1)で表される化合物又はその塩類、
−S−R−COOR (1)
[一般式(1)中、
は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、アルキレン基、アミノアルキレン基、アルキル基が結合していてもよいアリーレン基、又は、アラルキレン基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。]
(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物
を含有することが必須である。
【0022】
<(a)「シアノ基を含有しない水溶性金化合物」について>
「シアノ基を含有しない水溶性金化合物」は、シアノ基(CN−)を分子内に含有していない水溶性の金化合物、いわゆるシアン非含有の水溶性の金化合物であれば特に限定はないが、具体的には、塩化金ナトリウム、塩化金カリウム、塩化金アンモニウム等の塩化金塩;亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金アンモニウム等の亜硫酸金塩;チオ硫酸金ナトリウム、チオ硫酸金カリウム、チオ硫酸金アンモニウム等のチオ硫酸金塩;等が挙げられる。中でも、塩化金ナトリウム、塩化金カリウム、亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金カリウム等が入手の容易さ、金錯体の合成コストの低さの点で好ましい。
【0023】
上記、「シアノ基を含有しない水溶性金化合物」の濃度は特に限定はないが、好ましくは金換算の濃度で、無電解金めっき液全体に対して、0.01g/L以上、10g/L以下であり、特に好ましくは0.1g/L以上、5g/L以下である。「シアノ基を含有しない水溶性金化合物」の濃度が高すぎると、めっき液が不安定になる場合があり、めっき槽内に金が異常析出してしまい、めっき液の更新を頻繁に行わなければならず、生産コストが大きくなって実用的ではない。一方、「シアノ基を含有しない水溶性金化合物」の濃度が少なすぎる場合は、無電解金めっき液の活性が不十分で、実用的な金析出速度が得られない場合や、未析出なる現象が発生する場合があり実用的ではない。
【0024】
<「錯化剤」について>
また、本発明の無電解金めっき液には、金めっき液の金の溶解性を安定化させるために、錯化剤を含有させることが望ましい。錯化剤としては、好ましくは亜硫酸塩、チオ硫酸塩である。錯化剤として特に好ましいものは、入手のし易さ等から、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム又はチオ硫酸カリウムである。
【0025】
上記錯化剤の濃度は、特に限定はないが、0.1g/L以上、100g/L以下が好ましく、特に好ましくは、1g/L以上、50g/L以下である。錯化剤の濃度が大きすぎると、金の析出速度が低下してしまう場合があり、また、ある一定以上の濃度にしても効果の増加が見られないことから一定量以上を添加しても不経済である。一方、少なすぎると、金の溶解性の安定化剤としての十分な効果が得られない場合があり、目的を達成できない。
【0026】
<(b)「一般式(1)で表される化合物」について>
一般式(1)は以下で表される。
−S−R−COOR (1)
[一般式(1)中、
は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、アルキレン基、アミノアルキレン基、アルキル基が結合していてもよいアリーレン基、又は、アラルキレン基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。]
【0027】
<<一般式(1)中のRについて>>
は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、「アルキル基が結合していてもよいアリール基」、又は、アラルキル(aralkyl)基を示す。アルキル基又は「アルキル基が結合していてもよいアリール基」のアルキル基の炭素数は、1〜20個であり、好ましくは1〜15個であり、特に好ましくは1〜10個である。また、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基又はアラルキル基の有するアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、好ましくは1〜15個であり、特に好ましくは1〜10個である。これらの炭素数が多すぎる場合は、容易に水に溶解できない、入手が困難、金めっき皮膜外観不良が発生する等の場合がある。
【0028】
上記「カルボキシアルキル基」には、「HOOC−X−(Xはアルキレン基を示す)」の他に、カルボン酸がエステルになったもの、すなわち、「YOOC−X−(Xはアルキレン基を示し、Yはアルキル基又はアリール基を示す)」も含まれる。
【0029】
「アルキル基が結合していてもよいアリール基」又はアラルキル基の「アリール基部分」は、炭化水素環であっても複素環であってもよく、特に限定はないが、具体的には、例えば、フェニル基(フェニレン基)、ナフチル基(ナフチレン基)、ベンジル基、トリル基等が挙げられる。特に好ましくはフェニル基である。
【0030】
それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基は、直鎖であっても側鎖を有していてもよい。なお、側鎖を有している場合の炭素数には、側鎖を形成する炭素の数も含まれる。
【0031】
としては、アルキル基又は「アルキル基が結合していてもよいアリール基」がより好ましく、上記した(特に)好ましい炭素数を有するものが更に好ましい。
【0032】
<<一般式(1)中のRについて>>
は、アルキレン基、アミノアルキレン基、「アルキル基が結合していてもよいアリーレン基」又はアラルキレン(aralkylene)基を示す。これらの基の有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、好ましくは1〜15個であり、特に好ましくは1〜10個である。これらの炭素数が多すぎる場合は、容易に水に溶解できない、入手が困難、金めっき皮膜外観不良が発生する等の場合がある。
【0033】
「アルキル基が結合していてもよいアリーレン基」又はアラルキレンの「アリーレン基部分」は、炭化水素環であっても複素環であってもよく、特に限定はないが、具体的には、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、ベンジレン基、トリレン基等が挙げられる。特に好ましくはフェニレン基である。
【0034】
これらは、直鎖であっても側鎖を有していてもよい。側鎖を有している場合の炭素数には、側鎖を形成する炭素の数も含まれる。
【0035】
としては、アルキレン基又は「アルキル基が結合していてもよいアリーレン基」がより好ましく、上記した(特に)好ましい炭素数を有するものが更に好ましい。
【0036】
<<一般式(1)中のRについて>>
は、水素原子、アルキル基、「アルキル基が結合していてもよいアリール基」又はアラルキル基を示す。アルキル基又は「アルキル基が結合していてもよいアリール基」のアルキル基の炭素数は、1〜20個であり、好ましくは1〜15個であり、特に好ましくは1〜10個である。また、アラルキル基の有するアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、好ましくは1〜15個であり、特に好ましくは1〜10個である。これらの炭素数が多すぎる場合は、容易に水に溶解できない、入手が困難、金めっき皮膜外観不良が発生する等の場合がある。
【0037】
「アルキル基が結合していてもよいアリール基」又はアラルキル基の「アリール基部分」は、炭化水素環であっても複素環であってもよく、特に限定はないが、具体的には、例えば、フェニル基(フェニレン基)、ナフチル基(ナフチレン基)、ベンジル基、トリル基等が挙げられる。特に好ましくはフェニル基である。
【0038】
それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基は、直鎖であっても側鎖を有していてもよい。側鎖を有している場合の炭素数には、側鎖を形成する炭素の数も含まれる。
【0039】
としては、水素原子又はアルキル基がより好ましく、上記した(特に)好ましい炭素数を有するものが更に好ましい。
【0040】
「(b)一般式(1)で表される化合物」は、1種類を単独で又は2種類以上を併用して使用することができる。
【0041】
具体的には、例えば、チオグリコール酸、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸エチル、チオグリコール酸プロピル、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、メルカプトプロピオン酸プロピル、メルカプトプロピオン酸エチルへキシル、メルカプト酪酸、メルカプト酪酸メチル、メルカプト酪酸エチル、メルカプトイソ酪酸、メルカプトイソ酪酸メチル、メルカプトイソ酪酸エチル、メルカプト安息香酸、メルカプト安息香酸メチル、メルカプト安息香酸エチル、チオ乳酸、チオ乳酸メチル、チオ乳酸エチル、チオ乳酸プロピル、S−メチルチオグリコール酸、S−メチルチオグリコール酸メチル、S−メチルチオグリコール酸エチル、S−メチルチオグリコール酸プロピル、S−メチルチオプロピオン酸、S−メチルチオプロピオン酸メチル、S−メチルチオプロピオン酸エチル、S−メチルチオプロピオン酸プロピル、S−メチルチオプロピオン酸エチルへキシル、S−メチルチオ酪酸、S−メチルチオ酪酸メチル、S−メチルチオ酪酸エチル、S−メチルチオイソ酪酸、S−メチルチオイソ酪酸メチル、S−メチルチオイソ酪酸エチル、S−メチルチオ安息香酸、S−メチルチオ安息香酸メチル、S−メチルチオ安息香酸エチル、S−メチルチオ乳酸、S−メチルチオ乳酸メチル、S−メチルチオ乳酸エチル、S−メチルチオ乳酸プロピル、S−フェニルチオグリコール酸、S−フェニルチオグリコール酸メチル、S−フェニルチオグリコール酸エチル、S−フェニルチオグリコール酸プロピル、S−フェニルチオプロピオン酸、S−フェニルチオプロピオン酸メチル、S−フェニルチオプロピオン酸エチル、S−フェニルチオプロピオン酸プロピル、S−フェニルチオプロピオン酸エチルへキシル、S−フェニルチオ酪酸、S−フェニルチオ酪酸メチル、S−フェニルチオ酪酸エチル、S−フェニルチオイソ酪酸、S−フェニルチオイソ酪酸メチル、S−フェニルチオイソ酪酸エチル、S−フェニルチオ安息香酸、S−フェニルチオ安息香酸メチル、S−フェニルチオ安息香酸エチル、S−フェニルチオ乳酸、S−フェニルチオ乳酸メチル、S−フェニルチオ乳酸エチル、S−フェニルチオ乳酸プロピル、チオジグリコール酸、チオジグリコール酸ジメチル、チオジグリコール酸ジエチル、チオジプロピオン酸、チオジプロピオン酸ジメチル、チオジプロピオン酸ジエチル、チオジプロピオン酸ビス(エチルへキシル)、チオジプロピオン酸ジテトラデシル、チオジプロピオン酸ジオクタデシル、システイン等が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、チオグリコール酸、チオジグリコール酸、チオグリコール酸メチル、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸エチルへキシル、メチルチオプロピオン酸、チオジプロピオン酸、チオジプロピオン酸ジメチル、チオジプロピオン酸ビス(2−エチルへキシル)、チオジプロピオン酸ジオクタデシル、チオジプロピオン酸ジテトラデシル、メルカプトイソ酪酸、チオ乳酸、フェニルチオグリコール酸、フェニルチオグリコール酸メチル、メチルチオ安息香酸、メチルチオ安息香酸メチル、メチルチオ安息香酸エチル、又は、システインが好ましく、チオグリコール酸、チオグリコール酸メチル、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸エチルへキシル、メチルチオプロピオン酸、メルカプトイソ酪酸、チオ乳酸、フェニルチオグリコール酸、フェニルチオグリコール酸メチル、メチルチオ安息香酸、メチルチオ安息香酸メチル又はメチルチオ安息香酸エチルが特に好ましい。
【0043】
「(b)一般式(1)で表される化合物」の濃度は特に限定はないが、無電解金めっき液全体に対して、0.001g/L以上、100g/L以下が好ましく、0.01g/L以上、20g/L以下が特に好ましい。濃度が高すぎても低すぎても、金の未析出や皮膜外観不良を起こし易く、また、面積が大きい端子と面積が小さい端子が同一基板上に共存する基板に無電解金めっきを施した場合、端子間の金皮膜の厚さに大きな差が生じる場合があり、本発明の目的を達成できない。
【0044】
<(c)「酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物」について>
本発明における「酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物」とは、対象物を10000ppmの濃度でイオン交換水に溶解し、次いでpH緩衝剤として昭和化学株式会社より販売されているリン酸二カリウム、昭和1級を100000ppmの濃度で溶解し、pHを7.0に調整した溶液を、株式会社東興化学研究所製 Model TP−94を使って、液温度を20℃に設定し、本装置の説明書に従って常法で測定した酸化還元電位の測定値が−30mVから−700mVの範囲である化合物をいう。pHを7.0に調整する場合に、pHを上げるには純正化学株式会社より販売されるリン酸85%(試薬特級)を使用し、pHを下げるには関東化学株式会社より販売される水酸化カリウム86%(試薬特級)を使用する。また、pHの測定は、株式会社東興化学研究所製 pHメーター TPX−90を、本装置の説明書に従って常法で測定する。
【0045】
「(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物」は、電子供与性であるので、パラジウム皮膜上に、直接金を析出させる効果がある。
【0046】
かかる成分(c)は、酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲に入っていれば具体的には特に限定はないが、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アスコルビン酸若しくはエリソルビン酸、又は、それらの塩類が好ましいものとして挙げられる。より具体的には、例えば、ヒドラジン;メチルヒドラジン、ジメチルヒドラジン、フェニルヒドラジン、ジフェニルヒドラジン、ジアセチルヒドラジン、ジベンゾイルヒドラジン、ジベンジルヒドラジン、メトキシフェニルヒドラジン等のヒドラジン誘導体;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム等のアスコルビン酸(塩);エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウム等のエリソルビン酸(塩)が、好ましいものとして挙げられる。
【0047】
「酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物」の濃度は、無電解金めっき液全体に対して、0.1g/L以上、50g/L以下が好ましく、特に好ましくは1g/L以上、20g/L以下である。濃度が高すぎると、被めっき部分以外への金の異常析出や、めっき液が不安定になり実用的ではない。一方、濃度が低すぎると、実用的な析出速度が得られない場合、金の未析出という現象の発生がある場合、めっき面の金皮膜の厚みの差が広がる場合等があり、本発明の目的を達成できない。
【0048】
<「pH緩衝剤」について>
本発明の無電解金めっき液には、必要に応じてpH緩衝剤を適宜選択して含有させることができる。pH緩衝剤としては、金めっき液の特性に悪影響を与えることなくpH変動を緩和できるものであれば特に限定はない。具体的には、例えば、ホウ酸、リン酸、ピロリン酸、炭酸等が挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上混合して用いられる。
【0049】
本発明の金めっき液に用いるpH緩衝剤の濃度は、0.01g/L以上、100g/L以下が好ましく、特に好ましくは、0.1g/L以上、50g/L以下である。pH緩衝剤濃度が高すぎると、めっき液中で塩析を起こして、金めっき皮膜表面が荒れた金皮膜になってしまい、ある一定量以上添加しても効果の増大が見られないことから、多く添加しても不経済である。一方、pH緩衝剤濃度が少なすぎると、pH緩衝効果が十分に得られず実用的ではない。
【0050】
<「金属イオン隠蔽剤」について>
本発明の無電解金めっき液には、金属イオン隠蔽剤を含有させることが望ましい。ニッケル、銅、鉄、パラジウム等の金属イオン等の混入により、金皮膜物性への悪影響や、めっき液の安定性の低下や、パターン外へ金析出を招く場合がある。金属イオン隠蔽剤を添加することで、金属イオンのこのような挙動を抑制することが可能となる。
【0051】
本発明の金めっき液に用いる金属イオン隠蔽剤としては、酒石酸、クエン酸、グルタル酸、シュウ酸等の「オキシカルボン酸若しくは多価カルボン酸」、又はその塩類;エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン四酢酸等のアミノカルボン酸類、又はその塩類;等が挙げられる。これらは1種単独又は2種以上混合して用いられる。
【0052】
本発明の金めっき液に用いられる金属イオン隠蔽剤の濃度は、0.01g/L以上、100g/L以下が好ましく、特に好ましくは、0.1g/L以上、50g/L以下である。金属イオン隠蔽剤濃度が高すぎると、めっき液中で塩析を起こして金めっき皮膜表面が荒れた金皮膜になってしまう場合があり、ある一定量以上添加しても効果の増大が見られないので多く添加しても不経済である。一方、金属イオン隠蔽剤濃度が少なすぎると、pH緩衝効果が十分に得られない場合があり実用的ではない。
【0053】
<「結晶調整剤」について>
本発明の無電解金めっき液には、結晶調整剤として重金属塩を添加してもよい。結晶調整剤を添加することで、金皮膜外観の改善と析出速度を向上する効果が得られる。結晶調整剤としては、タリウム塩、鉛塩、砒素塩、アンチモン塩、テルル塩、ビスマス塩等の重金属の塩が挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0054】
本発明の無電解金めっき液に用いる重金属塩の濃度は、0.01ppm以上、100ppm以下が好ましく、特に好ましくは、0.1ppm以上、50ppm以下である。重金属塩の濃度が高すぎるとめっき液の安定性が低下する場合や、金めっき外観不良を引き起こす場合があり、一方、重金属塩濃度が低すぎると、結晶調整剤としての十分な効果が得られない場合がある。
【0055】
<「界面活性剤」について>
本発明の無電解金めっき液には、必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、周知の界面活性剤であれば特に限定はなく、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤又はカチオン系界面活性剤が用いられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0056】
ノニオン系界面活性剤としては、特に限定はないが、例えば、ノニフェノールポリアルコキシレート、α−ナフトールポリアルコキシレート、ジブチル−β−ナフトールポリアルコキシレート、スチレン化フェノールポリアルコキシレート等のエーテル型ノニオン系界面活性剤;オクチルアミンポリアルコキシレート、ヘキシニルアミンポリアルコキシレート、リノレイルアミンポリアルコキシレート等のアミン型ノニオン系界面活性剤;等が挙げられる。
【0057】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンノニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩;等が挙げられる。
【0058】
両性界面活性剤としては、例えば、2−ウンデシル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−ステアリル−N、N−ジメチル−N−カルボキシメチルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。
【0059】
カチオン界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルアンモニウムベタイン、ラウリルピリジニウム塩、オレイルイミダゾリウム塩又はステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0060】
これらは1種又は2種以上を混合して用いることができるが、好ましくはノニオン系界面活性剤又は両性界面活性剤である。
【0061】
本発明の無電解金めっき液中の界面活性剤の含有量は、無電解金めっき液全体に対して、好ましくは0.01g/L以上、20g/L以下であるが、所望の性能を発揮すればよく、特に含有量を限定するものではない。
【0062】
<「光沢剤」について>
本発明の電解金めっき液に必要に応じて含有される光沢剤としては、周知の光沢剤であれば特に限定はないが、例えば、ピリジン骨格を有するアミン化合物等が挙げられる。ピリジン骨格を有するアミン化合物としては、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0063】
本発明の電解金めっき液中の光沢剤の含有量は、電解金めっき液全体に対して、好ましくは、0.01g/L以上、20g/L以下であるが、所望の性能を発揮すればよく、特に含有量を限定するものではない。
【0064】
本発明の無電解金めっき液は、pH5以上pH9以下が好ましく、特に好ましくはpH6以上pH8以下である。pHが大きすぎると、正常な外観の金皮膜が得られない場合や、めっき液の安定性が低下する場合がある。一方、pHが小さすぎると実用的な析出速度が得られない場合や、金未析出が発生する場合があり実用的でない。
【0065】
<上記無電解金めっき液を使用した金皮膜の製造方法>
本発明は、上記したように無電解金めっき液の発明でもあり、また、上記した無電解金めっき液を使用した金皮膜の製造方法の発明でもある。すなわち、本発明は、基板上のパラジウムめっき皮膜上に無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する方法であって、該無電解金めっき液が上記した無電解金めっき液であることを特徴とする金皮膜の製造方法でもある。
【0066】
上記無電解金めっき液を使用して金皮膜を製造する際の、無電解金めっき液のめっき温度は、40℃以上90℃以下に調整することが好ましい。温度が高すぎるとめっき液の安定性が低下する場合があり、温度が低すぎると実用的な析出速度が得られない場合や、金未析出が発生する場合があり実用的でない。
【0067】
本発明の無電解金めっき液は、パラジウムめっき皮膜状に析出せしめることを特徴とする無電解金めっき液であり、本発明の金皮膜の製造方法は、無電解金めっき皮膜をパラジウムめっき皮膜上に析出せしめるものである。すなわち、ニッケルめっき皮膜の上に形成されたパラジウムめっき皮膜上に、無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する金皮膜の製造方法である。本発明は、無電解ニッケル\無電解パラジウム\無電解金めっきにおける、無電解金めっきとして極めて特異的に効果を発揮する。
【0068】
ここで、「パラジウムめっき皮膜」は、パラジウム単独の皮膜のみならず、パラジウム以外の金属化合物を含有することもできる。パラジウムめっき皮膜は、パラジウムを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上含有する「パラジウム単独又はパラジウム合金」めっき皮膜であることが、上記本発明の効果がより得られるために好ましい。
【0069】
パラジウムめっきの際のパラジウムめっき液としては特に限定はなく、無電解還元パラジウムめっき液、置換型パラジウムめっき液、電解パラジウムめっき液、電解パラジウム合金めっき液等が挙げられるが、前記した理由から無電解還元パラジウムめっき液が好ましい。
【0070】
無電解還元パラジウムめっき液に関しては、特に限定はなく全て使用できる。例えば、水溶性のパラジウム化合物、蟻酸若しくは蟻酸誘導体、及び、窒素含有錯化剤を含有するものが挙げられる。他にも、水溶性のパラジウム化合物、アミン化合物、2価の硫黄を含有する有機化合物、及び、次亜リン酸化合物若しくは水素化ホウ素化合物を含有するもの等が挙げられる。
【0071】
本発明は、基板上のパラジウムめっき皮膜上に、上記した無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する方法であるが、該基板が、同一基板上に開口する最も小さい面積の被めっき面の面積を1としたときに、最も大きい面積の被めっき面の面積が100以上となっている基板であるときに特に有効である。開口する被めっき面の面積に大きな差があっても、形成される金皮膜に厚さの差が小さいからである。
【0072】
本発明によれば、金皮膜の厚みの比を1:0.7〜1:1の範囲に抑制することが可能であるので、本発明は、同一基板上に開口する任意の2か所の被めっき面の金皮膜の厚みの比を、実質的に全て1:0.7〜1:1の範囲に抑制する上記の金皮膜の製造方法でもある。より好ましくは、実質的に全て1:0.75〜1:1の範囲に抑制する金皮膜の製造方法であり、特に好ましくは、実質的に全て1:0.8〜1:1の範囲に抑制する金皮膜の製造方法である。
【0073】
本発明は、基板上のパラジウムめっき皮膜上に、上記の無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する方法であって、同一基板上に開口する少なくとも2か所の被めっき面の面積比が1:100であっても、金皮膜の厚みの差を30%以内に抑制することを特徴とする金皮膜の製造方法でもある。ここで、「金皮膜の厚みの差30%以内」の意味は、
[(面積が1の被めっき面の金皮膜の厚み)−(面積が100の被めっき面の金皮膜の厚み)]/(面積が1の被めっき面の金皮膜の厚み)の値が0.3以下であることである。
【0074】
「同一基板上に開口する少なくとも2か所の被めっき面の面積比が1:100であっても」であるから、たとえ実際の基板の被めっき面の面積比が1:100でなくても、面積比1:100に内挿又は外挿した時の金皮膜の厚みの差が30%以内に抑制されていれば、本発明の要件を満たす。
【0075】
本発明は、同一基板上に開口する最も小さい面積の被めっき面の面積を1としたときに、最も大きい面積の被めっき面の面積が100以上となっている基板上に形成された金皮膜でもある。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
<無電解金めっき液の作製>
表1に示す(a)水溶性金化合物を、金として1g/L、表1に示す(b)一般式(1)で表される化合物又はその塩類、すなわち、R−S−R−COORで示される化合物を1g/L、及び、表1に示す(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVを示す電子供与性化合物を10g/Lとなるように純水に溶解させた。
【0078】
次いで、安定剤として亜硫酸ナトリウムを30g/L、チオ硫酸ナトリウム五水和物を20g/L溶解させた。更に、pH緩衝剤として四ホウ酸ナトリウム十水和物を10g/L、金属イオン隠蔽剤としてエチレンジアミン四酢酸ナトリウムを10g/L、結晶調整剤としてタリウム塩を10ppm溶解させた。pHは7.0に調整した。pHを上昇させる場合、水酸化ナトリウム水溶液を、pHを低下させる場合は硫酸水溶液を用いた。
【0079】
酸化還元電位は、株式会社東興化学研究所製 Model TP−94を使って、前記した通りに測定した。アスコルビン酸の酸化還元電位は、−104mVであり、ヒドラジンの酸化還元電位は、−135mVであった。
【0080】
【表1】

【0081】
<評価方法>
実施例1〜8、比較例1〜6の無電解金めっき液について、それぞれ以下に記載の評価基板を用い、金めっき皮膜の色調等の外観、及び、金被覆性の評価を行った。また、金皮膜の厚みを測定し、その金皮膜の厚みの差の評価を行った。
【0082】
<<評価基板>>
図2に示したように、ポリイミド樹脂製の基材に配置されている2種類の被めっき端子をソルダーレジスト下の配線により接続し、テスト用基板として使用した。ワイヤーボンディング端子に見立てた小さな端子は、一辺の長さ0.5mmの正方形で、被めっき面の面積が0.25mmであり、はんだボール端子に見立てた大きな端子は、一辺の長さ5mmの正方形で、被めっき面の面積が25mmである。すなわち、2種類の被めっき面の面積比は、1:100であり、それぞれがソルダーレジスト下で配線されて導通している。
【0083】
<<めっき方法>>
公知の無電解ニッケルめっき液(ICPニコロンGM、奥野製薬株式会社製)、無電解還元パラジウムめっき液(ネオパラブライト、日本高純度化学株式会社製)をそれぞれ常法にて使用し、表2に示した工程で無電解金めっきまで行った。
【0084】
<<金皮膜の色調>>
得られた無電解金めっき皮膜について、光学顕微鏡(50倍)にて、金皮膜の色調を観察した。
【0085】
<<金皮膜の厚みの測定>>
面積0.25mmの小さな端子と面積25mmの大きな端子について、蛍光X線膜厚計(SEA5120、セイコーインスツルメンツ社製)を、その説明書に従って常法により使用して、金膜厚の厚みを測定した。測定値は、それぞれの端子で各3点測定しその平均値を算出して、金膜厚の厚みの測定値とした。
【0086】
【表2】

【0087】
<評価結果>
評価結果を表3に示す。実施例1〜8の結果が示すように、本発明の(a)シアノ基を含有しない水溶性金化合物、(b)一般式(1)すなわちR−S−R−COORで表される化合物、及び、(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物、の3成分を同時に含有する無電解金めっき液は、同一基板上に開口する2か所以上の被めっき面の面積比が1:100であっても、金めっき皮膜の厚みの差が30%以内に抑制されることが判明した。
【0088】
一方、比較例1〜3の結果が示すように、(a)シアノ基を含有しない水溶性金化合物を使用せず、シアン金ナトリウムを使用した場合、他の(b)一般式(1)すなわちR−S−R−COORで表される化合物、及び、(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物を含有していたとしても、金めっき皮膜の厚みの差が30%以内に抑制されなかっただけでなく、厚い方の金めっき皮膜の厚みが約3倍以上にもなってしまい、本発明の目的を達成できなかった。
【0089】
また、比較例4〜5の結果に示すように、(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物を含有しない場合、他の(a)シアノ基を含有しない水溶性金化合物、及び、(b)一般式一般式(1)すなわちR−S−R−COORで表される化合物を含有していたとしても、厚い方の金めっき皮膜の厚みが約5倍となってしまい、本発明の目的を達成できなかった。
【0090】
比較例6に示すように、(b)一般式(1)すなわちR−S−R−COORで表される化合物を含有しない場合、他の(a)シアノ基を含有しない水溶性金化合物、及び、(c)酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物を含有していたとしても、厚い方の金めっき皮膜の厚みが約2倍となってしまい、更に、金皮膜色調も赤みを帯びており色調不良であった。すなわち、比較例1〜6の何れも本発明の目的を達成し得なかった。
【0091】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の無電解金めっき液は、近年普及しているパラジウムめっき皮膜上に行う無電解金めっき技術において、従来技術では金めっき膜厚の差が著しく大きくなってしまう、同一基板上に2か所以上開口する被めっき面の面積比が1:100であるような基板に無電解金めっきを行っても基板内の何れの端子の金膜厚差を30%以内に抑制することを実現し得る無電解金めっき液であり、パラジウムめっき皮膜上に用いられる無電解金めっき処理工程の無電解金めっき液として、電子電気部品製造等の分野で広く利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムめっき皮膜上に金皮膜を析出せしめる無電解金めっき液であって、シアノ基を含有しない水溶性金化合物、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩類、
−S−R−COOR (1)
[一般式(1)中、
は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、アルキレン基、アミノアルキレン基、アルキル基が結合していてもよいアリーレン基、又は、アラルキレン基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。]
及び、酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物を含有することを特徴とする無電解金めっき液。
【請求項2】
上記シアノ基を含有しない水溶性金化合物が、塩化金ナトリウム、塩化金カリウム、塩化金アンモニウム、亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金アンモニウム、チオ硫酸金ナトリウム、チオ硫酸金カリウム、又は、チオ硫酸金アンモニウムである請求項1に記載の無電解金めっき液。
【請求項3】
上記一般式(1)で表される化合物が、チオグリコール酸、チオジグリコール酸、チオグリコール酸メチル、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸エチルへキシル、メチルチオプロピオン酸、チオジプロピオン酸、チオジプロピオン酸ジメチル、チオジプロピオン酸ビス(2−エチルへキシル)、チオジプロピオン酸ジオクタデシル、チオジプロピオン酸ジテトラデシル、メルカプトイソ酪酸、チオ乳酸、フェニルチオグリコール酸、フェニルチオグリコール酸メチル、メチルチオ安息香酸、メチルチオ安息香酸メチル、メチルチオ安息香酸エチル、又は、システインである請求項1又は請求項2に記載の無電解金めっき液。
【請求項4】
上記酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物が、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アスコルビン酸若しくはエリソルビン酸、又は、それらの塩類である請求項1又は請求項2に記載の無電解金めっき液。
【請求項5】
上記酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物が、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アスコルビン酸若しくはエリソルビン酸、又は、それらの塩類である請求項3に記載の無電解金めっき液。
【請求項6】
基板上のパラジウムめっき皮膜上に無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する方法であって、該無電解金めっき液が、シアノ基を含有しない水溶性金化合物、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩類、
−S−R−COOR (1)
[一般式(1)中、
は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、アルキレン基、アミノアルキレン基、アルキル基が結合していてもよいアリーレン基、又は、アラルキレン基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、アルキル基が結合していてもよいアリール基、又は、アラルキル基を示し、それぞれの基が有するアルキル基又はアルキレン基の炭素数は1〜20個であり、側鎖を有していてもよい。]
及び、酸化還元電位が−30mVから−700mVの範囲である電子供与性化合物を含有するものであることを特徴とする金皮膜の製造方法。
【請求項7】
上記基板が、同一基板上に開口する最も小さい面積の被めっき面の面積を1としたときに、最も大きい面積の被めっき面の面積が100以上となっている基板である請求項6に記載の金皮膜の製造方法。
【請求項8】
同一基板上に開口する任意の2か所の被めっき面の金皮膜の厚みの比を、実質的に全て1:0.7〜1:1の範囲に抑制する請求項7に記載の金皮膜の製造方法。
【請求項9】
ニッケルめっき皮膜の上に形成されたパラジウムめっき皮膜上に、無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する請求項6ないし請求項8の何れかの請求項に記載の金皮膜の製造方法。
【請求項10】
基板上のパラジウムめっき皮膜上に、請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の無電解金めっき液を用いて金皮膜を製造する方法であって、同一基板上に開口する少なくとも2か所の被めっき面の面積比が1:100であっても、金皮膜の厚みの差を30%以内に抑制することを特徴とする金皮膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の無電解金めっき液を用いてパラジウムめっき皮膜上に無電解金めっきを行うことによって得られたものであることを特徴とする金皮膜。
【請求項12】
請求項6ないし請求項8の何れかの請求項に記載の金皮膜の製造方法を使用して得られたものであることを特徴とする金皮膜。
【請求項13】
請求項9に記載の金皮膜の製造方法を使用して得られたものであることを特徴とする金皮膜。
【請求項14】
請求項10に記載の金皮膜の製造方法を使用して得られたものであることを特徴とする金皮膜。
【請求項15】
同一基板上に開口する最も小さい面積の被めっき面の面積を1としたときに、最も大きい面積の被めっき面の面積が100以上となっている基板上に形成されたものである請求項12に記載の金皮膜。

【図1】
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【図2】
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