説明

焦点維持装置及び顕微鏡装置

【課題】迷光をモニタし、焦点維持制御時に信号処理を行うことで迷光の影響を低減するように構成された焦点維持装置、及び、顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】顕微鏡装置40に用いられる焦点維持装置10は、フォーカス光を放射する光源20と、フォーカス光を検出して検出信号を出力するラインセンサ50と、フォーカス光を対物レンズ41を介して標本に照射し、標本で反射したフォーカス光をラインセンサ50に導くフォーカス光学系30と、対物レンズ41から放射されたフォーカス光が、再びこの対物レンズ41に入射しない状態で、補正信号で補正された検出信号に基づいて、対物レンズ41と標本との相対位置関係を変化させることで、対物レンズ41の焦点面を標本の所定の位置に維持する制御部60と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点維持装置及び顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、焦点維持装置を持つ顕微鏡装置が市場を拡大しつつある。常に標本に合焦し続ける焦点維持装置は、長時間のタイムラプス観察や試薬投与に伴う観察画像のボケやユレを効果的に除去することができる。焦点維持の手法の一つとして、アクティブ方式がある。この手法は、標本に照射したフォーカス光(以下「AF光」と呼ぶ)の反射から、標本のz軸方向の位置(対物レンズの光軸方向位置)を検出する(例えば、特許文献1参照)。反射光を光検出器で検出し、光検出器上での光強度分布よりz軸方向の位置情報を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−323094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したようなアクティブ方式の焦点維持装置の場合、AF光以外の望まない光(迷光)が光検出器に混入すると、光検出器上での光強度分布がAF光本来の形状から変化し、正確なz軸方向の位置を算出することが困難になるという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、迷光強度分布を検出し、焦点維持制御時に信号処理を行うことで迷光の影響を低減するように構成された焦点維持装置、及び、この焦点維持装置を有する顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る焦点維持装置は、顕微鏡装置の対物レンズの焦点面を標本の所定の位置に維持する焦点維持装置であって、光源から放射されたフォーカス光を対物レンズを介して標本の標本面に集光するとともに、標本で反射したフォーカス光を光検出部に導くフォーカス光学系と、フォーカス光を前記対物レンズを介して標本の標本面に集光したときに対物レンズから発生する迷光に関する信号を第1の補正信号として記憶する記憶部と、光検出部から出力される、標本面を反射したフォーカス光の第1の検出信号を記憶部に記憶された第1の補正信号により補正し、補正された第1の検出信号に基づいて、対物レンズと標本との相対位置関係を変化させることで、対物レンズの焦点面を標本の所定の位置に維持する制御部と、を有することを特徴とする。
【0007】
このような焦点維持装置において、対物レンズから発生する迷光に関する信号は、フォーカス光が対物レンズから放射された後、再び対物レンズに入射しない状態で、光検出部で検出され、出力される信号であることが好ましい。
【0008】
また、このような焦点維持装置において、フォーカス光学系は、対物レンズによりフォーカス光が結像される位置をオフセットさせる結像位置オフセット部を有し、記憶部は、結像位置オフセット部のオフセット量に対応させて第1の補正信号を記憶し、制御部は、結像位置オフセット部によるオフセット量を検出し、当該オフセット量に対応する第1の補正信号を記憶部から読み出して第1の検出信号を補正するように構成することが好ましい。
【0009】
また、このような焦点維持装置において、対物レンズは、互いに異なる複数種類の対物レンズからなり、オフセット量に対応させた第1の補正信号は、対物レンズ毎に記憶されていることが好ましい。
【0010】
また、このような焦点維持装置において、フォーカス光学系は、光軸と略直交する方向に挿脱され、光源から放射されたフォーカス光の光束うち、少なくとも半分以上を遮光するマスクを有することが好ましい。
【0011】
また、このような焦点維持装置において、標本面は、標本に含まれる光学部材の対物レンズ側に位置する第1の面であり、記憶部は、フォーカス光を対物レンズを介して第1の面に集光したときに第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号を第2の補正信号として記憶し、制御部は、補正された第1の検出信号を第2の補正信号により補正し、補正された第2の検出信号に基づいて、対物レンズと標本との相対位置関係を変化させることで、対物レンズの焦点面を標本の所定の位置に維持することが好ましい。
【0012】
また、このような焦点維持装置において、第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号は、光学部材の第1の面で反射されたフォーカス光が光検出部で検出され、出力されたときの信号から、光学部材と媒質が同一で、対物レンズの焦点深度の外に第1の面に対向する面が位置するような補正値測定用光学部材の第1の面にフォーカス光を結像させた状態で光検出部で検出され、出力された信号を減算し、当該減算した結果であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る焦点維持装置は、顕微鏡装置の対物レンズの焦点面を、標本の所定の位置に維持する焦点維持装置であって、光源から放射されたフォーカス光を対物レンズを介して標本に含まれる光学部材の対物レンズ側に位置する第1の面に結像させるとともに、当該光学部材の第1の面で反射したフォーカス光を光検出部に導くフォーカス光学系と、フォーカス光を対物レンズを介して第1の面に集光したときに第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号を補正信号として記憶する記憶部と、光検出部から出力される、第1の面で反射したフォーカス光の検出信号を記憶部に記憶された補正信号により補正し、補正された検出信号に基づいて、対物レンズと標本との相対位置関係を変化させることで、対物レンズの焦点面を標本の所定の位置に維持する制御部と、を有することを特徴とする。
【0014】
このような焦点維持装置において、第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号は、光学部材の第1の面で反射されたフォーカス光が光検出部で検出され、出力されたときの信号から、光学部材と媒質が同一で、対物レンズの焦点深度の外に第1の面に対向する面が位置するような補正値測定用光学部材の第1の面にフォーカス光を結像させた状態で光検出部で検出され、出力された信号を減算し、当該減算した結果であることが好ましい。
【0015】
また、このような焦点維持装置において、フォーカス光学系は、対物レンズによりフォーカス光が結像される位置をオフセットさせる結像位置オフセット部を有し、記憶部は、結像位置オフセット部のオフセット量に対応させて補正信号を記憶し、制御部は、結像位置オフセット部によるオフセット量を検出し、当該オフセット量に対応する補正信号を記憶部から読み出して検出信号を補正するように構成することが好ましい。
【0016】
また、このような焦点維持装置において、対物レンズは、互いに異なる複数種類の対物レンズからなり、オフセット量に対応させた補正信号は、対物レンズ毎に記憶されていることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る焦点維持装置は、顕微鏡装置の対物レンズの焦点面を、標本の所定の位置に維持する焦点維持装置であって、光源から放射されたフォーカス光を対物レンズを介して標本に含まれる光学部材の対物レンズ側に位置する第1の面に結像させるとともに、当該光学部材の第1の面で反射したフォーカス光を光検出部に導くフォーカス光学系と、フォーカス光を対物レンズを介して第1の面に集光にしたときに対物レンズから発生する迷光に関する信号を第1の補正信号として記憶し、フォーカス光を対物レンズを介して第1の面に集光したときに第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号を第2の補正信号として記憶する記憶部と、対物レンズは、互いに異なる複数種類の対物レンズからなり、選択された対物レンズの種類に応じて、光検出部から出力される、第1の面で反射したフォーカス光の検出信号を記憶部に記憶された第1の補正信号又は第2の補正信号により補正し、補正された検出信号に基づいて、対物レンズと標本との相対位置関係を変化させることで、対物レンズの焦点面を標本の所定の位置に維持する制御部と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る顕微鏡装置は、上述の焦点維持装置のいずれかを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る焦点維持装置及びこの焦点維持装置を有する顕微鏡装置を以上のように構成すると、迷光の影響を低減することができ、AF光のみを高感度で検出して焦点維持の能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】焦点維持装置及び顕微鏡装置の構成を示す説明図である。
【図2】ラインセンサで検出される信号強度を示す説明図であって、(a)は迷光がない場合を示し、(b)は迷光がある場合を示す。
【図3】迷光の信号強度を検出する方法を説明するための説明図である。
【図4】検出された信号から迷光の影響を除去する方法を説明するための説明図である。
【図5】マスクの絞り量を絞ったときの状態を示す説明図である。
【図6】カバーガラスの厚さを変えてAF光を計測する方法を説明する説明図である。
【図7】カバーガラスの厚さの違いによる信号強度の状態と、これらの信号強度から求められた補正信号の信号強度を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
[第1の実施形態]
まず、第1の実施形態に係る焦点維持装置の構成について説明する。この焦点維持装置10は、LEDやLD若しくはレーザー等の光源20からのAF光を、フォーカス光学系30を用いて顕微鏡装置40の対物レンズ41に導き、この対物レンズ41を介して標本(例えば、スライドガラスに配置された生物試料をカバーガラスで覆った(保持した)もの、細胞を培養容器(シャーレ)に入れたものをいう)に照射し、その反射光をラインセンサ50で検出することで、対物レンズ41に対する標本のz軸方向位置を検出するものである。なお、以降の説明において、対物レンズ41の焦点面を標本の所定の位置に維持するためにAF光を反射させる面を「標本面O」と呼ぶ。
【0023】
この焦点維持装置10のフォーカス光学系30は、光源20側から順に、光源20から放射されたAF光(例えば、赤外光)を略平行光束に変換するコリメートレンズ31、略平行光束の径の略半分を半月状に遮光するマスク32、入射するAF光の略半分を透過し、残りを反射させるハーフミラー33、対物レンズ41によりAF光が結像される位置をオフセットさせる結像位置オフセット部として機能するオフセットレンズ34、及び、顕微鏡装置40を構成する対物レンズ41の像側に配置され、光源20から放射されたAF光を反射して対物レンズ41に導くとともに、標本面Oで反射されたAF光を焦点維持装置10に導くダイクロイックミラー35を有している。この顕微鏡装置40において、標本面Oに照射される照明光及びこの標本面Oから出射する信号光(例えば、照明光により励起された蛍光)はダイクロイックミラー35を透過する。ここで、ダイクロイックミラー35を透過した信号光は図示しない第2対物レンズに導かれ、標本の像が形成される。また、この焦点維持装置10のフォーカス光学系30は、標本面OからのAF光(反射光)がハーフミラー33で反射する方向に、結像レンズ36を有している。また、ラインセンサ50は、結像レンズ36の焦点面上に配置されている。なお、光検出部はCMOS、CCD、PDアレイ、QPDなどを用いることもできる。
【0024】
このような焦点維持装置10において、光源20から射出したAF光は、コリメートレンズ31により略平行光束に変換された後、マスク32によりビームプロファイルが半月状になり、ハーフミラー33に入射する。そして、このハーフミラー33を透過した略平行光束はオフセットレンズ34により曲率変化を受け、さらにダイクロイックミラー35により照明光と合波され、対物レンズ41に導かれる。そして、対物レンズ41によって集光されたAF光は、標本面Oで反射し、再び対物レンズ41を通過する。その後、ダイクロイックミラー35で反射し、オフセットレンズ34を通過して略平行光束に戻り、ハーフミラー33で反射されて結像レンズ36によりラインセンサ50上に集光される。
【0025】
なお、オフセットレンズ34は、対物レンズ41の焦点面に対してAF光の結像位置をz軸方向にずらす機能を有している。すなわち、光源20から放射されてコリメートレンズ31により略平行光束となったAF光がオフセットレンズ34を通過した後も略平行光束である場合は、対物レンズ41により結像するAF光の位置は対物レンズ41の焦点面に略一致する。一方、このオフセットレンズ34を射出したAF光が発散光である場合は、AF光の結像位置は対物レンズ41の焦点面より奥側(対物レンズ41から離れる方向)に移動し、オフセットレンズ34を射出したAF光が収束光である場合は、AF光の結像位置は対物レンズ41の焦点面より手前側(対物レンズ41に近づく方向)に移動する。このように、対物レンズ41の焦点面に対してAF光の結像位置を光軸方向にずらす(オフセットする)ことにより、対物レンズ41の焦点は標本内の所望の位置に合焦させながら、対物レンズ41の焦点面とは異なる位置(例えば、カバーガラスと生物試料との境界面、カバーガラスの対物レンズ41側の面(上述の「標本面O」))でAF光を反射させて焦点の維持を行うことができる。
【0026】
オフセットレンズ34で指定した位置に標本面Oがあるときには、結像レンズ36に入射する反射光は略平行光束であり、迷光がなければ、図2(a)に示すように、ラインセンサ50の画素のうち、結像レンズ36の光軸上にある画素(以下、「基準画素」と呼ぶ)の信号強度が最も大きくなるようなシャープな強度分布を有する検出信号(以下、「AF信号」と呼ぶ)が観測される。一方、対物レンズ41の焦点ずれが生じ、オフセットレンズ34で指定した位置に標本面Oがないときは、AF信号がラインセンサ50の画素の並び方向にずれるので、焦点ずれがないときの結像位置の中心を基準として、左右の画素の信号強度に対して、制御部60で信号処理を行い、基準画素を中心として左右の画素の信号強度が等しくなるように対物レンズ41あるいは標本面Oを光軸方向に移動させる制御を行うことで、焦点維持を達成できる。
【0027】
しかしながら、このような焦点維持装置10において、図2(b)に示すように、迷光による信号がAF信号に混入した場合では、信号処理値にこの迷光が影響してしまうため、正確な焦点維持の制御を行うことが困難になってしまう。迷光の要因は様々だが、主要因は対物レンズ41による反射であると言われている。
【0028】
そこで、迷光の信号強度を測定するために、図3に示すように、AF光の反射面(標本面O)をなくし、対物レンズ41を射出したAF光が再び対物レンズ41に入射しないようにする。例えば、標本が載置されていない状態のステージを対物レンズ41から光軸方向に最も離すことにより、対物レンズ41から射出したAF光が再び対物レンズ41に入射しないようにする。このように構成すると、ラインセンサ50においてAF光が検出されることはない。すなわち、このときラインセンサ50で検出される光こそが対物レンズ41等で反射された迷光である。本実施形態に係る焦点維持装置10では、このように、標本面Oで反射したAF光が検出器に入射しない状態で迷光のみの信号強度を検出し、その値を補正信号として記憶部62に記録する。
【0029】
ここで、迷光の強度分布はオフセットレンズ34によるオフセット量ごとに異なるので、オフセット量を変化させ、その度に迷光の強度プロファイルを補正信号として記憶部62に記録する。具体的には、オフセットレンズ34のオフセット量を変化させ、そのオフセット量を位置検出部61で検出し、ラインセンサ50で取得される信号強度と対応付けて記憶部62に記録する。なお、オフセットレンズ34のオフセット量が離散的に切り替えられるときは、各々のオフセット量ごとの強度プロファイルを補正信号として記録するように構成しても良いし、オフセットレンズ34のオフセット量が連続的に変化させることができるときは、オフセット量の変化をいくつかの領域に分割し、それぞれの領域毎の強度プロファイルを補正信号として記録するように構成しても良い。
【0030】
そして、実際に焦点維持制御を働かせるときに、制御部60は、位置検出部61で検出されるオフセットレンズ34の位置、すなわちオフセット量に応じて、対応する迷光の強度プロファイルである補正信号を記憶部62から読み出す。そして、制御部60は、ラインセンサ50からAF信号(図4(a)に示すように、標本面Oで反射したAF光の反射光であって迷光が含まれる光の信号強度)を取り出し、オフセット量に応じた迷光値(図4(b)に示すように、記憶部62から読み出した強度プロファイルの補正信号)を、このAF信号から信号処理時に補正する(減算する)ことで、図4(c)に示すように、標本面Oで反射したAF光(反射光)に対する信号だけを取り出し、この値に応じて上述の方法で対物レンズ41又は標本面Oを光軸に沿って移動させることで、対物レンズ41の焦点面を標本の所望の位置に維持させる。このように、あらかじめ記憶しておいた迷光の強度プロファイル(補正信号)により、ラインセンサ50で取得された信号を補正することにより、所望のAF光だけを高効率で検出することができ焦点維持精度を向上させることができる。
【0031】
なお、対物レンズ41を射出したAF光の除去の例として反射面(標本)の除去を挙げたが、AF光が対物レンズ41に戻らない機構であればどのような構成でもよく、ミラーを挿入することにより、対物レンズ41を射出したAF光が対物レンズ41に戻らない方向に向けたり、色ガラスフィルタなどによりAF光を吸収しても良い。このとき、フィルタ表面で反射した光が対物レンズ41に戻らないように、フィルタを対物レンズ41の光軸に対して少し傾けることが望ましい。
【0032】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、標本面Oに照射するAF光により対物レンズ41で反射した迷光の影響を除去する方法について説明したが、標本面近傍からの反射光が迷光の要因となる場合もある。例えば、生物試料を覆うカバーガラスの表面(対物レンズ41側の面)、細胞を入れる培養容器(シャーレ)の底面の対物レンズ41側の面を上述の標本面Oとしている場合に、カバーガラスの裏面側(生物試料とカバーガラスとの境界面、培養容器の底面の対物レンズ41側の面(細胞と底面との境界面))で反射するAF光が迷光となる場合がある。このような標本面近傍での反射光による迷光の影響は、図5に示すように、マスク32によるAF光を絞る量を、第1の実施形態よりも大きくすることにより低減させることができる。第1の実施形態では、コリメートレンズ31から出射したAF光の略半分をマスク32により遮断して、この光束の断面形状を半月状にしていたが、それよりもさらに絞ることにより、標本面近傍に照射されるAF光の量を少なくすることができ、これにより、迷光も少なくすることができる。
【0033】
[第3の実施形態]
第2の実施形態で説明したように、カバーガラス(光学部材)の対物レンズ41側の面(表面)を標本面Oとしている場合に、このカバーガラスの裏面、培養容器の底面の対物レンズ41側の面に対向する面(細胞と底面との境界面)(以下、「標本面裏面O′」と呼ぶ)からの反射光が迷光となるのは、主に対物レンズ41として低倍対物レンズを用いている場合である。これは、一般的に対物レンズ41の倍率が低いほど(低倍であるほど)開口数(NA)が小さくなるためである。以下に、第3の実施形態として、このような標本面近傍で発生する迷光を、制御部60での補正で除去する方法について説明する。
【0034】
図6(a)に標本面裏面O′からの迷光が発生している状況を示す。この図6(a)においては、標本面Oはカバーガラス(光学部材)42の表面であるが、このカバーガラス42が薄いので、カバーガラス42の裏面からの反射光が対物レンズ41のNAとの関係から再入射し、ラインセンサ50で迷光として検出されてしまう。この時のラインセンサ50で検出される信号の様子を図7(a)に示す。制御部60は、この状態の信号をまず記憶部62に記録する。
【0035】
次に、図6(b)に示すようにカバーガラス42を、硝材としての性質は同一で、厚さが厚いカバーガラスやスライドガラス(補正値測定用光学部材)42′に変更する。この時のカバーガラス42′の厚みは、少なくとも、対物レンズ41の焦点深度の数十倍以上の厚みを有することが望ましい。このような厚みがあるカバーガラス42′では、この標本面裏面O′からの反射光は対物レンズ41のNAとの関係から対物レンズ41に再入射しないためラインセンサ50で検出されないので、標本面Oで反射した信号のみが得られる。この時のラインセンサ50で検出される信号の様子を図7(b)に示す。
【0036】
厚みの薄いカバーガラス42を用いているときの信号(図7(a)の信号であって、記憶部62に記憶されている信号)から厚みの厚いカバーガラス42′を用いているときの信号(図7(b)の信号)を減算することにより、図7(c)に示すように、標本面裏面O′からの迷光のみを検出することができる。そのため、このようにして求められた標本面裏面O′からの迷光の信号を補正信号として記憶部62に記憶しておき、実際の測定の時にラインセンサ50で取得された信号をこの補正信号で補正することにより、所望のAF光だけを高効率で検出することができ、焦点維持制度を向上させることができる。具体的には、図6(a)の状態での標本面Oを構成するカバーガラス42の厚みを、実際に測定に用いるカバーガラス42の厚みと同程度にしておき、実際の測定時に得られた信号から、図7(c)の信号を減算することで、標本面裏面O′からの迷光を除去することができる。また、図6(a)の状態(標本面O及び標本面裏面O′からの反射光を検出する状態)では、標本面裏面O′の上(標本側)には実際の測定と同様の条件となるように、水等の媒質があることが望ましい。さらに、一般的に顕微鏡用カバーガラスには厚みに規定があるので,同様のカバーガラスを用いて測定する場合、ある対物レンズ41に対して、一度だけ標本面裏面O′からのデータを取得すれば、サンプルが変わっても、同様の迷光データを減算信号として用いることが可能である。また、オフセット量の違いにより、標本面裏面O′からの反射光が異なる場合は、オフセット量ごとに補正信号を取得・記憶することが望ましい。
【0037】
なお、この第3の実施形態では、上述のように対物レンズ41として低倍対物レンズを用いた場合について説明しているため、第1の実施形態のような対物レンズ41での反射光による迷光は考慮していない。低倍対物レンズを用いた場合には、対物レンズ41での反射光よりも、標本面裏面O′での反射光の方がラインセンサ50で検出される信号強度が強くなるためである。反対に、対物レンズ41として高倍対物レンズを用いた場合には、NAが大きくなるため、対物レンズ41による反射光の方がラインセンサ50で検出される信号強度が強くなる。すなわち、一般に、低倍対物レンズでは標本面裏面O′からの反射光が迷光となる可能性が高く、高倍対物レンズではこの高倍対物レンズからの反射光が迷光となる可能性が高い。第1の実施形態のような対物レンズ41での反射光による迷光を補正するか、第3の実施形態のような標本面裏面O′での反射光による迷光を補正するかは、観察に用いられる対物レンズの種類によって決定するシステムにしてもよい。その場合、どの種類の対物レンズが観察に用いられているかは、周知の検出機構を用いて検出し、その情報を制御部60に送る。もちろん、第1の実施形態で示した方法に、この第3の実施形態で示した方法を組み合わせれば、双方の迷光を信号の補正により低減することができる。
【0038】
また、以上の第1〜第3の実施形態で説明した迷光の除去方法は、オフセットレンズ34のような機構がない焦点維持装置でも有効である。この場合、オフセット量の変化がないので、標本面Oで反射するAF光がラインセンサ50で検出されない状態での迷光値を補正信号として記録し、信号処理時に減算することで、所望のAF光のみを高感度で検出できる。
【0039】
また、焦点ずれを検出する方法として、光源20からの平行光束の径を略半分にして標本面Oに投射するナイフエッジ(半月集光)法を例として示したが、本発明がこの方法に限定されることはない。
【0040】
以上のように、予め検出した迷光の信号強度(補正信号)によりラインセンサ50で検出された信号強度を補正することで、焦点維持に必要なAF光(標本面Oで反射したAF光)の信号強度のみを高感度で検出することができるので、焦点維持装置10による対物レンズ41の焦点位置の維持制度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0041】
10 焦点維持装置 20 光源
30 フォーカス光学系 34 オフセットレンズ(結像位置オフセット部)
40 顕微鏡装置 41 対物レンズ
42 カバーガラス(光学部材)
42′ カバーガラス(補正値測定用光学部材)
50 ラインセンサ(光検出部) 60 制御部 62 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡装置の対物レンズの焦点面を標本の所定の位置に維持する焦点維持装置であって、
光源から放射されたフォーカス光を前記対物レンズを介して前記標本の標本面に集光するとともに、前記標本で反射した前記フォーカス光を光検出部に導くフォーカス光学系と、
前記フォーカス光を前記対物レンズを介して前記標本の標本面に集光したときに前記対物レンズから発生する迷光に関する信号を第1の補正信号として記憶する記憶部と、
前記光検出部から出力される、前記標本面を反射した前記フォーカス光の第1の検出信号を前記記憶部に記憶された前記第1の補正信号により補正し、補正された前記第1の検出信号に基づいて、前記対物レンズと前記標本との相対位置関係を変化させることで、前記対物レンズの焦点面を前記標本の所定の位置に維持する制御部と、を有することを特徴とする焦点維持装置。
【請求項2】
前記対物レンズから発生する迷光に関する信号は、前記フォーカス光が前記対物レンズから放射された後、再び前記対物レンズに入射しない状態で、前記光検出部で検出され、出力される信号であることを特徴とする請求項1に記載の焦点維持装置。
【請求項3】
前記フォーカス光学系は、前記対物レンズにより前記フォーカス光が結像される位置をオフセットさせる結像位置オフセット部を有し、
前記記憶部は、前記結像位置オフセット部のオフセット量に対応させて前記第1の補正信号を記憶し、
前記制御部は、前記結像位置オフセット部による前記オフセット量を検出し、当該オフセット量に対応する前記第1の補正信号を前記記憶部から読み出して前記第1の検出信号を補正するように構成することを特徴とする請求項1または2に記載の焦点維持装置。
【請求項4】
前記対物レンズは、互いに異なる複数種類の対物レンズからなり、
前記オフセット量に対応させた前記第1の補正信号は、前記対物レンズ毎に記憶されていることを特徴とする請求項3に記載の焦点維持装置。
【請求項5】
前記フォーカス光学系は、光軸と略直交する方向に挿脱され、前記光源から放射された前記フォーカス光の光束うち、少なくとも半分以上を遮光するマスクを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の焦点維持装置。
【請求項6】
前記標本面は、前記標本に含まれる光学部材の前記対物レンズ側に位置する第1の面であり、
前記記憶部は、前記フォーカス光を前記対物レンズを介して前記第1の面に集光したときに前記第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号を第2の補正信号として記憶し、
前記制御部は、補正された前記第1の検出信号を前記第2の補正信号により補正し、補正された前記第2の検出信号に基づいて、前記対物レンズと前記標本との相対位置関係を変化させることで、前記対物レンズの焦点面を前記標本の所定の位置に維持することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の焦点維持装置。
【請求項7】
前記第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号は、前記光学部材の前記第1の面で反射された前記フォーカス光が前記光検出部で検出され、出力されたときの信号から、前記光学部材と媒質が同一で、前記対物レンズの焦点深度の外に前記第1の面に対向する面が位置するような補正値測定用光学部材の前記第1の面に前記フォーカス光を結像させた状態で前記光検出部で検出され、出力された信号を減算し、当該減算した結果であることを特徴とする請求項6に記載の焦点維持装置。
【請求項8】
顕微鏡装置の対物レンズの焦点面を、標本の所定の位置に維持する焦点維持装置であって、
光源から放射されたフォーカス光を前記対物レンズを介して前記標本に含まれる光学部材の前記対物レンズ側に位置する第1の面に結像させるとともに、当該光学部材の前記第1の面で反射した前記フォーカス光を光検出部に導くフォーカス光学系と、
前記フォーカス光を前記対物レンズを介して前記第1の面に集光したときに前記第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号を補正信号として記憶する記憶部と、
前記光検出部から出力される、前記第1の面で反射した前記フォーカス光の検出信号を前記記憶部に記憶された前記補正信号により補正し、補正された前記検出信号に基づいて、前記対物レンズと前記標本との相対位置関係を変化させることで、前記対物レンズの焦点面を前記標本の所定の位置に維持する制御部と、を有することを特徴とする焦点維持装置。
【請求項9】
前記第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号は、前記光学部材の前記第1の面で反射された前記フォーカス光が前記光検出部で検出され、出力されたときの信号から、前記光学部材と媒質が同一で、前記対物レンズの焦点深度の外に前記第1の面に対向する面が位置するような補正値測定用光学部材の前記第1の面に前記フォーカス光を結像させた状態で前記光検出部で検出され、出力された信号を減算し、当該減算した結果であることを特徴とする請求項8に記載の焦点維持装置。
【請求項10】
前記フォーカス光学系は、前記対物レンズにより前記フォーカス光が結像される位置をオフセットさせる結像位置オフセット部を有し、
前記記憶部は、前記結像位置オフセット部のオフセット量に対応させて前記補正信号を記憶し、
前記制御部は、前記結像位置オフセット部による前記オフセット量を検出し、当該オフセット量に対応する前記補正信号を前記記憶部から読み出して前記検出信号を補正するように構成することを特徴とする請求項8又は9に記載の焦点維持装置。
【請求項11】
前記対物レンズは、互いに異なる複数種類の対物レンズからなり、
前記オフセット量に対応させた前記補正信号は、前記対物レンズ毎に記憶されていることを特徴とする請求項10に記載の焦点維持装置。
【請求項12】
顕微鏡装置の対物レンズの焦点面を、標本の所定の位置に維持する焦点維持装置であって、
光源から放射されたフォーカス光を前記対物レンズを介して前記標本に含まれる光学部材の前記対物レンズ側に位置する第1の面に結像させるとともに、当該光学部材の前記第1の面で反射した前記フォーカス光を光検出部に導くフォーカス光学系と、
前記フォーカス光を前記対物レンズを介して前記第1の面に集光にしたときに前記対物レンズから発生する迷光に関する信号を第1の補正信号として記憶し、前記フォーカス光を前記対物レンズを介して前記第1の面に集光したときに前記第1の面に対向する面から発生する迷光に関する信号を第2の補正信号として記憶する記憶部と、
前記対物レンズは、互いに異なる複数種類の対物レンズからなり、選択された前記対物レンズの種類に応じて、前記光検出部から出力される、前記第1の面で反射した前記フォーカス光の検出信号を前記記憶部に記憶された前記第1の補正信号又は前記第2の補正信号により補正し、補正された前記検出信号に基づいて、前記対物レンズと前記標本との相対位置関係を変化させることで、前記対物レンズの焦点面を前記標本の所定の位置に維持する制御部と、を有することを特徴とする焦点維持装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の焦点維持装置を有することを特徴とする顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−212018(P2012−212018A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77528(P2011−77528)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】