説明

焦電型センサ素子

【課題】 熱容量が小さく、感度や応答性が高く、さらに、分極時に絶縁破壊が発生し難い、小型かつ低コストで量産可能な焦電型センサ素子を提供すること。
【解決手段】 基板2と、基板2上に形成された焦電体薄膜4と、焦電体薄膜4上に設置された上部電極3とを有し、上部電極3は、対向配置された2つの電極対3a、3bと信号取り出し用電極3c、3dとを含み、くし形電極を構成している。また、焦電体薄膜4は、信号取り出し用電極3c、3d間に電圧を印加することにより、対向配置された電極対3aの間、電極対3bの間、および電極対3aと3bとの間の部分においては膜の面内方向に分極されている。また、焦電体薄膜4の電極対3a、3bが存在する領域6の下面の近傍には、導体が存在しない。基板2は、シリコン基板であり、また、焦電体薄膜4の電極対3a、3bが存在する領域6の下部領域7において、基板2のすべてが除去されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電効果を利用して人体等の物体が発する赤外線を検出する焦電型赤外線センサに関し、特に、焦電型赤外線センサに使用される焦電型センサ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な焦電型センサ素子は、焦電体基板の表裏に電極を設置した構造となっている。焦電体は、赤外線が照射されていない状態、すなわち温度が変化していない状態でも自発分極により表面電荷を有するが、通常は表面に周囲の浮遊電荷を引き寄せて中性状態となっている。温度変化に伴い自発分極の状態が変化すると、その際の浮遊電荷の応答が遅いことから中性状態が崩れ、この結果表面電荷を生じる。この表面電荷の変化を焦電体基板の表裏に設けた電極から取り出し、出力信号としている。焦電型赤外線センサの多くは、上記のような焦電型センサ素子を1つの検出画素としてそれを複数個備えている。
【0003】
例えば、2つの焦電型センサ素子をそれらの極性を反転して直列に接続したデュアル素子においては、このように接続することによって、外部温度の変化等で2つの焦電型センサ素子に電荷が発生しても、その各々の出力が相殺されることにより、目的とする人体などによる赤外線以外の影響が補償されるようになっている。
【0004】
また、そのデュアル素子をさらに複数個組み合わせることにより、検知対象である赤外線を放射する物体の移動を検出することができるように構成している焦電型赤外線センサもある。
【0005】
従来の焦電型センサ素子は、例えば特許文献1〜3などに記載されている。一般的には、特許文献1および2に記載されているように、感知部分の熱容量を小さくして高い感度を得るために、焦電体を薄板化または薄膜化し、焦電体が搭載された基板部分の厚さをエッチングなどにより薄くしている。この場合、通常は焦電体の分極を行う必要がある。薄膜の場合はその上下面に設置された電極間に電圧を印加して分極を行う方法が一般的である。一方、特許文献1では、複数個搭載された焦電型センサ素子の分極を特別な配線を必要とせずに同時に行うために、コロナ放電による分極方法が示されている。また、特許文献2では、特別な製造方法により配向させることにより、分極処理を不要とする焦電体薄膜が得られることが示されている。
【0006】
一方、特許文献3では、薄膜状の焦電体を用いることなく、バルク状の焦電体基板にくし形電極を設置した焦電型センサ素子が示されている。図3は、特許文献3に記載された従来の焦電型センサ素子の斜視図である。焦電型センサ素子20は、焦電材料で形成された基板12と、基板12の表面に形成されたくし形電極14と、基板12の裏面の全面に形成された下部電極16とから構成されている。くし形電極14は、互いに100μm以上の間隔で、くし状に交差するように配置された電極指14a,14bを有している。下部電極16は、電極指間の電界分布を最適化するため設置されている。予め、電極指14aおよび14b間に直流電圧が印加されて基板12の表面に対して平行に分極処理が施され、くし形電極14が形成された基板12の表面が赤外線受光面となる。
【0007】
図3の焦電型センサ素子では、基板12の表面に対して平行に分極処理が施されているので、赤外線の熱エネルギーは、赤外線受光面となる基板の一方の主面のみで捕らえられる。この基板の一方の主面の熱変換のみで、焦電効果による電流が得られる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−174547号公報
【特許文献2】特開平6−317465号公報
【特許文献3】特開平10−132656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の従来の焦電体薄膜を用いた焦電型センサ素子は、感度や応答性がより優れた小型の素子を得るために、膜厚を小さくした場合、分極方法が問題となる。すなわち、従来の焦電体薄膜を用いた焦電型センサ素子では、一定の感度を得るために一定の電極面積が必要となるので、一般的な膜厚方向に電圧を印加する分極方法では、焦電体薄膜の絶縁破壊を生じやすく、十分な製造歩留まりが得られない。一方、特許文献1の方法では特殊な放電装置が必要となることや、複数素子間の分極状態の均一性、再現性が問題となる。また、特許文献2の方法では、コスト的に優れたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT) 等の一般的な焦電体薄膜には適用できず、さらに特別な製造装置も必要となるので、低コストで量産することはできない。
【0010】
また、特許文献3の構成では、そのままでは基板の熱容量が大きく、感度や応答性の低下を招くこととなる。これを改善するため、素子を小型化し、基板を数十μm程度の厚みにしたとしても、くし形電極14と対向する下部電極16との間の間隔が狭くなり、分極処理の際、くし形電極14と下部電極16の間で絶縁破壊が発生しやすく、歩留まりの低下が懸念される。
【0011】
そこで本発明の課題は、熱容量が小さく、感度や応答性が高く、さらに、分極時に絶縁破壊が発生し難い、小型かつ低コストで量産可能な焦電型センサ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明による焦電型センサ素子は、基板と、少なくとも一部が前記基板上に形成された焦電体薄膜と、前記焦電体薄膜の上面に設置された上部電極とを有し、前記上部電極は前記上面の面内に対向配置された1対以上の電極対を含み、前記焦電体薄膜は、前記電極対に電圧を印加することにより、前記電極対間においては膜の面内方向に分極されており、前記電極対に電圧を印加したとき前記焦電体薄膜内に生ずる前記焦電体薄膜の膜厚方向の電界強度を増加させる効果を有する導体が、前記焦電体薄膜の前記電極対が存在する領域の下方に存在しないことを特徴とする。
【0013】
ここで、前記焦電体薄膜の前記電極対が存在する領域の下部において、前記基板の一部またはすべてが除去されていてもよい。
【0014】
また、前記基板は、シリコン基板であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記のように、本発明の焦電型センサ素子は、焦電体薄膜の上面に対向配置された電極対に電圧を印加することにより面内方向に分極された焦電体薄膜によって構成されている。したがって、焦電効果によって生じる電流は、焦電体薄膜の上面の対向配置された電極対によって効率よく検出することが可能である。
【0016】
本発明では、上記の分極処理を行う場合、焦電体薄膜の上面の対向配置された電極対が存在する領域の下面の近傍に、従来のような下部電極に相当する導体が存在しないことにより、従来のように電極対と下部電極間に高電界が生ずることはない。また、分極による大きな電界が印加される領域は電極対の間の部分であり、従来のように電極対の下の領域全体に電界が印加されることはない。よって、焦電体薄膜の膜厚が対向配置された電極対間の間隔より薄くなっても、絶縁破壊が生じるおそれはなく、製造時の歩留まりの低下を防ぐことができる。
【0017】
さらに、シリコン基板を用いることにより、従来のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)関連の技術を用いて容易に作製することができる。また、対向配置された電極が存在する領域の下部において、基板の一部またはすべてをドライエッチングなどの方法によって除去することにより、素子の熱容量を小さくし、感度や応答性を高くすることができる。
【0018】
以上のように、本発明により、熱容量が小さく、感度や応答性が高く、さらに、分極時に絶縁破壊が発生し難い、小型かつ低コストで量産可能な焦電型センサ素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による焦電型センサ素子の第1の実施の形態を示す図であり、図1(a)は断面図、図1(b)は平面図。
【図2】本発明による焦電型センサ素子の第2の実施の形態を示す断面図。
【図3】従来の焦電型センサ素子の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明による焦電型センサ素子の第1の実施の形態を示す図であり、図1(a)は断面図、図1(b)は平面図である。図1(a)に示すように、本実施の形態の焦電型センサ素子1は、基板2と、基板2上に形成された焦電体薄膜4と、焦電体薄膜4上に設置された上部電極3とを有している。ここで、図1(b)に示すように、上部電極3は、同じ電極間隔で対向配置された2つの電極対3a、3bと、信号取り出し用電極3c、3dと、電極対3a、3bと信号取り出し用電極3c、3dとを接続する電極部分から構成されている。また、電極対3aと3bの内側の電極同士も電極対3a、3bの電極間隔と同じ間隔で対向配置されているので、上部電極3は、電極対3a、3bを互いに交差した電極指として、くし形電極を構成している。また、焦電体薄膜4は、信号取り出し用電極3c、3d間に電圧を印加することにより、対向配置された電極対3aの間、電極対3bの間、および電極対3aと3bとの間の部分においては膜の面内方向に分極されている。また、焦電体薄膜4の電極対3a、3bが存在する領域6の下面の近傍には、導体が存在しない。但し、本実施の形態の焦電型センサ素子においては、電極対3a、3bが存在する領域6の下部以外の部分、すなわち基板の周囲には金属膜11が存在している。
【0022】
本実施の形態の焦電型センサ素子においては、基板2は、シリコン基板であり、また、焦電体薄膜4の電極対3a、3bが存在する領域6の下部領域7において、基板2のすべてが除去されている。
【0023】
図2は本発明による焦電型センサ素子の第2の実施の形態を示す断面図である。本実施の形態の焦電型センサ素子10は、第1の実施の形態の焦電型センサ素子と同様に、シリコン基板からなる基板8と、基板8上に形成された焦電体薄膜4と、焦電体薄膜4上に設置された上部電極3とを有し、上部電極3は第1の実施の形態と同様な構成である。焦電体薄膜4は対向配置された電極対3aの間、電極対3bの間、および電極対3aと3bとの間の部分においては膜の面内方向に分極されており、焦電体薄膜4の電極対3a、3bが存在する領域6の下面の近傍には、導体が存在しない。なお、本実施の形態の焦電型センサ素子においては、二酸化シリコン膜15上に直接、焦電体薄膜4が形成されている。
【0024】
また、本実施の形態の焦電型センサ素子においては、焦電体薄膜4の電極対3a、3bが存在する領域6の下部領域9において、基板8のすべてではなく一部が除去されており、基板8の厚さが薄くなっている。これにより検出部分の熱容量を小さくし、高い感度および応答性を得ている。
【0025】
上記の第1および第2の実施の形態の焦電型センサ素子の構成は、いずれも1つの上部電極を有するシングルタイプの素子としたが、1つの基板上に2つの上部電極を設置して2つの素子を集積したデュアルタイプの素子とすること、4つの素子を集積したクワッドタイプの素子とすること、さらに多くの素子を集積した素子構成とすることも可能である。
【実施例】
【0026】
次に、第1の実施の形態の焦電型センサ素子の具体的な実施例について説明する。
【0027】
基板2として厚さ400μmのシリコン基板を用い、その表面を酸化処理して厚さ1μmの二酸化シリコン膜5を形成し、二酸化シリコン膜5の上面に、スパッタ法で形成した厚さ35nmのチタン膜と、その上面のスパッタ法で形成した厚さ200nmの白金膜とからなる金属膜11を形成した。次に、その上面にスパッタ法により厚さ2.5μmのPZTの焦電体薄膜4を形成し、その上面に上部電極3を形成した。さらに、電極対3a、3bが存在する領域6の下部領域7のシリコン基板と二酸化シリコン膜5および金属膜11をドライエッチングにより除去した。焦電型センサ素子1は、およそ2mm×2mmの平面形状を有する。上部電極3は、焦電体薄膜4の上面に、スパッタ法で形成した厚さ100nmの白金膜で構成されている。なお、焦電体薄膜4を二酸化シリコン膜上に直接形成するよりも白金膜上に形成する方が、配向性や密着性に優れた焦電体薄膜4を得るのが容易であるとの知見を得たことにより、本実施例では、金属膜11の上に焦電体薄膜4を形成し、後に下部領域7の部分の金属膜11を除去した。
【0028】
また、検出対象の電磁波に応じて、赤外線吸収膜等を焦電型センサ素子1の表面に形成してもよく、これにより、さらに高い感度が得られる。
【0029】
焦電体薄膜4は、上記のように膜の面内方向に分極処理をされているので、高い焦電性が得られる。また、上部電極3において、分極方向に対向した電極対3aおよび3bに生じた焦電効果による電荷は、信号取り出し用電極3c、3dにより効率良く取り出される。
【0030】
分極処理は、信号取り出し用電極3c、3dの間に直流電源を接続することで、電極指間の焦電体薄膜4に、面内方向の直流電界を印加して行う。本実施例では40Vの直流電圧を印加し、1時間その電圧を保持して分極処理を行った。
【0031】
電極対3a、3bの電極間隔が10μmとなるように作製した。焦電体薄膜4の厚さは上記のように2.5μmであるが、電極対3aおよび3bの焦電体薄膜4を挟んで対向する位置には電極すなわち導体が存在しないため、分極処理を行っても、従来の焦電体薄膜を用いた焦電型センサ素子でみられるような絶縁破壊の不具合は本実施例では発生しない。
【0032】
本実施例ではウェハ状のシリコン基板を用いて1つの基板上に多数の焦電型センサ素子を作製した。分極処理後は、ダイシング加工にて各素子ごとに個片化し、信号取り出し用電極3cおよび3dをワイヤーボンディングにて外部回路(図示せず)に接続し、赤外線センサを構成した。外部回路は、電界効果トランジスタ等で構成され、例えば、信号取り出し用電極3cを電界効果トランジスタのゲート端子に接続し、信号取り出し用電極3dをグラウンド端子に接続した。さらに、電界効果トランジスタのドレイン端子に電源電圧を接続し、電界効果トランジスタのソース端子をセンサの出力端子として使用した。
【0033】
電極対3a、3b付近の焦電体薄膜4に赤外線フィルタを介して赤外線が入射すると、焦電体薄膜4の温度が上昇し、焦電効果により信号取り出し用電極3c、3d間に電荷が発生する。これにより電界効果トランジスタのゲート端子の電圧が変化し、出力端子の電圧も変化する。したがって、照射された赤外線による温度変化に応じて出力が変化し、赤外線センサとして機能する。
【0034】
電極対3a、3bが存在する領域6の下部のシリコン基板がドライエッチングによって除去されているため、熱容量が小さく、感度および応答性が良好なセンサが得られる。
【0035】
なお、焦電体薄膜の成膜方法に関しては特にスパッタ法に限定されるものではなく、ゾル・ゲル法、MOD法、MCVD法、エアロゾル堆積法等でも構わない。上部電極の成膜方法についても、蒸着法等でも構わない。
【0036】
また、本実施例の焦電型センサ素子においては、電極対3a、3bが存在する領域6の下部以外の部分には金属膜11が存在するが、二酸化シリコン膜上に直接、焦電体膜4を形成すれば、金属膜11は不要となる。
【0037】
以上のように、本発明の焦電型センサ素子は、面内方向に分極された焦電体薄膜によって構成されているため、焦電効果によって生じる電流は、焦電体薄膜の上面に対向配置された電極によって効率よく検出することが可能である。さらに、焦電体薄膜上の対向配置された電極が存在する領域の下面に、従来のような下部電極に相当する導体が存在しないことにより、分極時に絶縁破壊が生じることがなく、製造時の歩留まりの低下を防ぐことができる。さらに、対向配置された電極が存在する領域の下部において、基板の一部またはすべてをドライエッチングなどの方法によって除去することにより、素子の熱容量を小さくし、感度や応答性を高くすることができる。以上のように、小型かつ低コストで量産可能な焦電型センサ素子が得られる。
【0038】
本発明の焦電型センサ素子は、エアコン、テレビおよび照明機器などにおいて人体検知により制御を行なう場合に使用される赤外線センサや、焦電効果を利用した電磁波の検出等に利用することができる。
【0039】
なお、本発明は、上記の実施の形態および実施例に限定されるものではないことはいうまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更が可能である。例えば、基板や焦電体薄膜、上部電極などの構成や形状、材質などは目的や用途に応じて選択可能であり、また、熱伝導性の低い基板や十分に薄い基板を使用する場合は、検出部分の下部の基板を削除することが不要な場合もあり得る。
【符号の説明】
【0040】
1、10、20 焦電型センサ素子
2、8、12 基板
3 上部電極
3a、3b 電極対
3c、3d 信号取り出し用電極
4 焦電体薄膜
5、15 二酸化シリコン膜
6 領域
7、9 下部領域
11 金属膜
14 くし形電極
14a,14b 電極指
16 下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、少なくとも一部が前記基板上に形成された焦電体薄膜と、前記焦電体薄膜の上面に設置された上部電極とを有し、前記上部電極は前記上面の面内に対向配置された1対以上の電極対を含み、前記焦電体薄膜は、前記電極対に電圧を印加することにより、前記電極対間において膜の面内方向に分極され、前記電極対に電圧を印加したとき前記焦電体薄膜内に生ずる前記焦電体薄膜の膜厚方向の電界強度を増加させる効果を有する導体が、前記焦電体薄膜の前記電極対が存在する領域の下方に存在しないことを特徴とする焦電型センサ素子。
【請求項2】
前記焦電体薄膜の前記電極対が存在する領域の下方において、前記基板の一部またはすべてが除去されていることを特徴とする請求項1に記載の焦電型センサ素子。
【請求項3】
前記基板は、シリコン基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の焦電型センサ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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