説明

焦電型赤外線センサ

【課題】光利用効率がよく高感度の、加工が容易であって安価な、赤外線透過フィルタを有する焦電型赤外線センサを提供すること。
【解決手段】赤外線を検知する焦電素子と、赤外線の入射経路に位置し、焦電素子に赤外線を透過する赤外線透過フィルタを備える焦電型赤外線センサにおいて、赤外線透過フィルタは、赤外線透過性基板の両面に、検知する赤外線の半波長以下のピッチで凹部による矩形周期構造体が形成され、凹部の形状は、表面と裏面が同一形状であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電素子と赤外線透過フィルタからなり、人体等から放射される赤外線を検知する焦電型赤外線センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
焦電型赤外線センサに用いられる焦電素子は、光を熱源として用いており、焦電素子自体は、光の波長依存性が低いため、光を選択する透過フィルタを用意することにより、必要な波長を容易に選べる特性を有する。従って、人体等を検出する焦電型赤外線センサの性能を最大限に発揮させるために、検知する特定波長の赤外線の光を効率よく焦電素子に到達させることが重要である。
【0003】
すなわち、従来の焦電型赤外線センサは、赤外線を検知するための焦電素子と、入射経路に設置された赤外線透過性基板と、赤外線透過性基板の表面または裏面に矩形の形状をした凹凸を有した回折光学レンズを一体に形成して、焦電素子に集光または結像させて赤外線を検知する構造を形成したものが用いられていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−92026号公報(第3頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示す従来の焦電型赤外線センサは、赤外線透過性基板の表面または裏面に回折光学レンズを形成するものであるが、赤外線透過性基板の表面上に溝を形成する2レベルの回折光学レンズは光利用効率が40%程度と低いため感度に問題があり、光利用効率を更に向上するためには階段状に8レベルの8段階の段を形成せねばならず、加工が難しく、そして、製造工数が掛かり高価になる問題があった。
【0007】
そして、赤外線透過性基板に形成した溝を、回折光学レンズの機能に形成したため、赤外線透過フィルタとしての機能を更に形成させるために、その表面と裏面に特定波長領域のみを透過する干渉膜フィルタを形成することが必要であり、従って、製造工数が掛かり高価になる問題があった。
【0008】
本発明の目的は、光利用効率がよく、高感度の、加工が容易であって安価な、赤外線透過フィルタを有する焦電型赤外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の焦電型赤外線センサは、上記目的を達成するために、下記記載の構成を採用するものである。
赤外線を検知する焦電素子と、赤外線の入射経路に位置し、焦電素子に赤外線を透過する赤外線透過フィルタを備える焦電型赤外線センサにおいて、赤外線透過フィルタは、赤外線透過性基板の両面に、検知する赤外線の半波長以下のピッチで凹部による矩形周期構造体が形成され、凹部の形状は、表面と裏面が同一形状であることを特徴とする。
【0010】
この場合、赤外線透過性基板に形成された前記凹部の形状は、溝部で形成され、赤外線透過性基板の表面と裏面の溝方向が、同一方向であることが好ましい。
【0011】
また、焦電素子に形成された受光電極パターンと、赤外線透過性基板に形成された前記溝部の溝方向を整合することにより、焦電素子の感度に指向性を有することが好ましい。
【0012】
この場合、矩形周期構造体の溝部の溝幅は、溝ピッチの3分の2であることが好ましい。
【0013】
また、赤外線透過性基板に形成された凹部の形状は、円柱或いは角柱形状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、赤外線透過性基板の両面に、赤外線の波長以下のピッチの凹部による矩形周期構造体を形成し、その両面に形成した矩形周期構造体の見かけ上の屈折率を下げることで、赤外線の透過率が向上し、赤外線透過性基板が赤外線透過フィルタの機能を有することが可能となる。
そして、赤外線透過性基板に形成された凹部と、焦電素子の受光電極と整合することで、焦電素子の感度に指向性を有することを可能としたので、小型で、低価格の、光利用効率の高い、高感度の焦電型赤外線センサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の焦電型赤外線センサの外観の斜視図である。
【図2】本発明の焦電型赤外線センサの構成を説明するための分解斜視図である。
【図3】本発明の焦電型赤外線センサの構成を説明するための断面図である。
【図4】本発明の実施例1における赤外線透過性基板に形成された矩形周期構造体を説明するための模式的な断面図である。
【図5】本発明の実施例1における赤外線透過フィルタの矩形周期構造体の屈折率と赤外線の透過率の関係を説明するためのグラフである。
【図6】本発明の実施例1における溝部の矩形周期構造体と入射光の関係を説明するための部分断面図である。
【図7】本発明の実施例1における溝部の方向と受光電極の配置による整合を説明するための焦電型赤外線センサの平面図である。
【図8】本発明の実施例2における赤外線透過性基板に形成された矩形周期構造体の六角柱形状の凹部を説明するための斜視図である。
【図9】本発明の実施例3における赤外線透過性基板に形成された矩形周期構造体の円柱形状の凹部を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
なお、以下に説明する実施例において、人が発する赤外線、すなわち、波長約10μmの赤外線を検知する焦電型赤外線センサを例として説明する。
【0017】
[実施例1]
図1から図7は、本実施例1の焦電型赤外線センサの構成を説明するための図面であり、図1は、この焦電型赤外線センサの外観を説明するための斜視図である。図2は、この焦電型赤外線センサの構成を説明するための分解斜視図である。図3は、この焦電型赤外線センサの構成を説明するための断面図である。図4は、赤外線透過性基板の表面と裏面に、一定ピッチの溝部により形成された矩形周期構造体を説明するための模式的に示す断面図である。図5は、赤外線透過フィルタの赤外線透過性基板に形成された溝部による矩形周期構造体の見かけ上の屈折率と赤外線透過フィルタの赤外線の透過率の関係を説明するためのグラフである。図6は、赤外線透過性基板に形成された溝部による矩形周期構造体の指向性を説明するための部分断面図である。図7は、赤外線透過性基板に形成された溝部の方向と焦電素子に形成された受光電極との配置による整合を説明するための焦電型赤外線センサの平面図である。
【0018】
[焦電型赤外線センサの全体構成:図1〜図3]
まず、図1から図3を用いて実施例1の焦電型赤外線センサの全体構成を説明する。
なお、各図において、同一の構成部材には同一の番号を付して重複する説明は省略する。
【0019】
図1に示すように、焦電型赤外線センサ1は、いわゆる、表面実装型であって、外形寸法は、幅4mm、奥行き4mm、厚さ3mmほどで、非常に小型の形状に形成されている。ケース12は、その内部に焦電素子と電子回路を内蔵し、ケース12のケース窓121の内側には、シリコン基板からなる平板の赤外線透過フィルタ11が配置され、赤外線が入射する窓として形成されている。
【0020】
図2の焦電型赤外線センサ1の分解斜視図に示すように、回路基板14は、BTレジン(三菱ガス化学の商標名)からなるガラス基材銅張積層板であって、その上面には、固定抵抗素子15と電界効果トランジスタ16が実装され、焦電素子の高い出力インピーダンスを下げる働きを担った電子回路を形成している。そして、下面には、端子(図示せず)が形成され、電子回路の駆動電源端子と検出信号の出力端子を備え、表面実装が可能なように配置されている。
【0021】
スペーサ基板13は、回路基板14と同様の材質からなり、焦電素子10と回路基板14を電気的に接続する配線パターン(図示せず)を有し、銀ペーストにて回路基板14に接着固定されて電気的に接合されている。
【0022】
焦電素子10は、LiTaOからなり、熱伝導の影響を極力小さくするため、構成部品との接触面積を小さくして、浮かした状態で配設するのが好ましく、スペーサ基板13の中段に、両端を銀ペーストで接合され、上述したように、スペーサ基板13の配線パターンを経由して、電気的に電子回路14と接続されている。
そして、焦電素子10の両面には、ニッケルを含有する黒体塗料からなる受光電極101が形成され、赤外線を吸収し、焦電効果をより発揮する機能を有している。
【0023】
焦電素子10の上部には、赤外線透過フィルタ11がスペーサ基板13に位置決め接着され、銀ペーストで接合して配設されている。そして、その赤外線透過フィルタ11は、入射光に含まれる赤外線を、焦電素子10の受光電極101に透過する。赤外線透過フィルタ11に付いては、図4〜図6にて詳細に説明する。
【0024】
ケース12は、SPCC或いはSUSからなり、焦電素子10を外乱光から遮光すると共に電磁シールドする機能を有し、上述したように、赤外線透過フィルタ11に赤外線の入射を可能にするように、ケース窓121を備えている。
【0025】
図3に示すように、赤外線透過フィルタ11は、焦電型赤外線センサ1に入射する入射光30のほぼ赤外線だけを透過して、焦電素子10の受光電極101に赤外線の熱を伝達する。すると、焦電素子10は、入射熱量に応じて分極し、その分極量に応じた焦電電流を発生する。この焦電電流は、固定抵抗素子15によって電圧値に変換され、その電圧信号は、電界効果トランジスタ16により赤外線検出信号として出力される。従って、赤外線透過フィルタ11による赤外線の透過率の向上が、焦電型赤外線センサの感度の向上を可能としている。
【0026】
[実施例1の赤外線透過フィルタの説明:図4〜図6]
図4において、本発明の基本的な考え方を説明する。
一般によく知られているように、入射光の波長以下のピッチの周期構造を持った構造体を物質表面に形成するモスアイ構造においては、空気側からその物質中に光が入射する際、物質表面の矩形の周期構造体の存在により、光は空気とこの物質との中間の屈折率を持つ物質が、矩形の周期構造体に存在すると感じて、その部分の屈折率が低下する。
【0027】
従って、赤外線透過性基板の表面上に、赤外線の波長以下のピッチで複数個の溝を形成し、矩形の矩形周期構造体を形成することで、赤外線透過性基板本体の屈折率より低い屈折率の部分を、この矩形周期構造体で形成することが可能となる。
【0028】
図4(a)は、図2に示す赤外線透過フィルタ11の溝の長手方向に対して垂直方向の模式的な断面図であり、図4(b)は、図4(a)のA部の拡大断面図である。
図4(a)に示すように、赤外線透過フィルタ11は、赤外線透過性基板20の表面と裏面に同一方向に、赤外線の波長以下のピッチで複数個の溝を形成して、矩形周期構造体23が構成されている。
【0029】
図4(b)のA部拡大断面図に示すように、この矩形周期構造体23は、赤外線透過性基板20の表面に、凹部として、一定間隔のピッチPで一定深さLの溝幅Wを有する溝部21と、凸部である矩形壁部22が形成されており、溝深さLは、入射光の波長に対しL>λ/(N−1)(赤外線透過性基板の屈折率をN)が望ましい。そして、矩形周期構造体23は、入射光の波長よりも短い周期構造を持っているから、赤外線に対するこの矩形周期構造体23の屈折率Nxは、溝部のピッチをP、溝の幅をW、物質の屈折率をN、空気の屈折率をnとすると、Nx=(n×W+N×(P−W))/Pで表される。
【0030】
上記の式により、矩形周期構造体23の屈折率は、溝部21のピッチPを一定にして、溝部21の溝幅Wをパラメータとすることで、所定の屈折率に設定することが可能となり、また、溝部21の溝幅Wを一定にして、ピッチPをパラメータとすることであっても、所定の屈折率に設定することが可能となる。すなわち、赤外線透過性基板20の材質による屈折率Nから空気の屈折率=1まで、屈折率Nxを設定することが可能となる。
【0031】
図4(a)に示すように、入射光30は、空気層から矩形周期構造体23に入射し、そして、赤外線透過性基板20を透過し、再び、矩形周期構造体23を透過して、空気層に赤外線31を出射して、焦電センサの受光電極に達する。
【0032】
一般に知られているように、フレンネルの法則から界面の2つの屈折率をn1、n2とすると、反射率Rと透過率Tは、R=((n2/n1)−1)/((n2/n1)+1)、T=1−R、で表される。例えば、Siからなる赤外線透過性基板(屈折率=3.4)そのものに直接赤外線を透過した場合は、上記関係式から、空気層から赤外線透過性基板の透過率=70%、赤外線透過性基板から空気層の透過率=70%、従って、赤外線透過性基板そのものを透過する赤外線の透過率は、0.7×0.7=0.49となり、49%である。
【0033】
図5のグラフに示すように、赤外線透過性基板の両面に矩形周期構造体を形成した場合は、矩形周期構造体の屈折率Nxを横軸にパラメータとしたとき、赤外線透過フィルタを透過する赤外線の透過率は、矩形周期構造体の屈折率Nx=1.8のとき、最大値0.69を有する曲線となる。すなわち、空気層から矩形周期構造体の透過率=92%、矩形周期構造体から赤外線透過性基板の透過率=90.5%、赤外線透過性基板から矩形周期構造体の透過率=90.5%、矩形周期構造体から空気層の透過率=92%、故、0.92×0.905×0.905×0.92=0.69となり、69%の最大値を得る。
【0034】
矩形周期構造体の屈折率Nx=1.8となるのは、上述した式から、矩形周期構造体のピッチPと溝幅Wの関係が、P:W=3:2である。すなわち、赤外線透過性基板の両面に、矩形周期構造体のピッチPに対し溝幅Wが3分の2の矩形周期構造体を形成することで、20%も透過率が向上する。
【0035】
次に、図6において、溝部により形成した矩形周期構造体の入射光に対する特性について説明する。図6(a)は、図4(a)と同様に、矩形周期構造体と入射光の関係を説明するための溝の長手方向に垂直な面と入射光を示す部分拡大断面図であり、図6(b)は、溝の長手方向に平行な面と入射光を示す部分拡大断面図である
【0036】
図6(a)において、赤外線透過性基板20に形成された矩形周期構造体23の長手方向に垂直な断面で示すように、上方から垂直に入射する垂直入射光32は、溝部とそのピッチによって形成された矩形周期構造体23の溝深さLの奥にまで入射し、矩形周期構造体23を認識して、図5で説明したように透過率が高くなる。しかし、斜め上方から入射する斜め入射光33は、見た目上必要な溝深さL(L>λ/(N−1))が得られないため、矩形周期構造体23が形成されているにも拘わらず認識できず、赤外線透過性基板20自体の屈折率と認識して、屈折率が変化せず、透過率が向上しない。
【0037】
図6(b)において、赤外線透過性基板20に形成された矩形周期構造体23の長手方向に平行な断面で示すように、上方から垂直に入射する垂直入射光34は、図6(a)の垂直入射光32と同様に、溝深さLの奥にまで入射し、矩形周期構造体23と認識して、矩形周期構造体23の屈折率によって、透過率が高くなる。そして、斜め上方から入射する斜め入射光35も、見た目上必要な溝深さLの奥まで入射するから、矩形周期構造体23を認識して、垂直入射光34と同様に、透過率が高くなる。
【0038】
すなわち、赤外線透過性基板20に形成された矩形周期構造体23の溝の長手方向に対して平行な斜め方向の入射光は透過率が高い、しかし、溝の長手方向に対して直交する斜め方向の入射光は、透過率が低いことにより、赤外線透過フィルタ11が指向性の特徴を有することになる。従って、赤外線透過性基板の両面に形成される溝部を有する矩形周期構造体は表面と裏面の溝方向が同一であることが、指向性の特徴をより発揮する必須条件となる。
更に、赤外線透過性基板20に溝部21を形成することは、2レベルの単なる凹凸であるから加工が容易で、製造工数が短く、安価に製造することが可能となる。
【0039】
図7は、焦電型赤外線センサ1の平面図であって、赤外線透過フィルタ11を透過して焦電素子の受光電極101と赤外線透過性基板の溝部の配置を示した模式的な図である。
図7に示すように、XY軸に対して、赤外線透過フィルタ11は、両面に同一方向に形成された溝部21の長手方向をX軸方向、短手方向をY軸方向として配置されている。受光電極101は、H形に形成され、受光左電極101Lと受光右電極101RがX軸方向に並んで配置されている。そして、受光左電極101Lと受光右電極101Rのいずれか一方の電極に赤外線が入射した場合、あるいは、左右の電極間に赤外線入射の差がある場合は、赤外線の入射に応じた検出信号を出力する。そして、受光左電極101Lと受光右電極101Rに同時に赤外線が入射した場合、あるいは、左右の電極間に赤外線入射の差がない場合は、気温の上昇などの誤検出対策のため、検出信号を出力しない構成となっている。
【0040】
すなわち、H形に形成された受光電極101を有する焦電素子10は、X軸方向の右から左、或いは左から右に赤外線が走査する入射に感度を有し、Y軸方向で受光電極101に左右同時に赤外線が走査する入射には反応しない。
従って、本実施例1の赤外線透過フィルタ11の赤外線の透過率の高い溝部21の長手方向と、焦電素子10のX軸方向と、を一致して配置することで整合させて、X軸方向に対して一段と感度が高い焦電型赤外線センサを提供することが可能となる。更に、赤外線透過フィルタの透過率の低いY軸方向と、受光電極のY軸方向と、一致して配置することで、斜め上下方向の感度を押えて、誤検出、及び、小動物の動きなどに対しても、感度を低く押える特徴を有することが可能となる。
【0041】
[実施例2の赤外線透過フィルタの説明:図8]
図8は、本発明の実施例2における赤外線透過性基板に形成された矩形周期構造体の一部を拡大して示す図であり、実施例1に説明した溝部の替わりに六角柱形状の凹部を形成した矩形周期構造体の一部分の斜視図である。
【0042】
図8(a)は、赤外線透過性基板の表面に六角柱形状の凹部で形成された矩形周期構造体の一部を抜き出して模式的に示す部分的な斜視図であり、実際は、この斜視図の周囲に同様の構造体が連続して広がって形成されている。図8(b)は、この矩形周期構造体のB部を更に拡大して示した平面図である。
【0043】
図8(a)に示すように、矩形周期構造体23は、赤外線透過性基板20の表面に凹部として、実施例1の溝部に相当する六角柱形状の穴部25が、赤外線の波長以下のピッチP(図8(b)参照)で連続して形成され、そして、穴部25の周囲の壁部26と共に、いわゆる、ハニカム構造の形状で構成されている。穴部25の周囲の壁部26は、実施例1で説明した矩形壁部22に相当し凸部を形成している。
【0044】
図8(b)に示すように、矩形周期構造体23は、穴部25とその周囲の六角形の壁部26(二点差線で示す)からなるセル24の集合体により形成される。隣り合った六角形のセル24は、赤外線の波長以下の一定ピッチPで配列している。従って、この矩形周期構造体23の屈折率Nxは、平面図上の穴部25の表面積をS1、壁部26の表面積をS2、および、赤外線透過性基板の屈折率をN、穴部の屈折率をnとすると、Nx=(n×S1+N×S2)/(S1+S2)で表される。
【0045】
上記の式により、矩形周期構造体23の屈折率Nxは、一定ピッチで形成された穴部25の表面積S1をパラメータとすることで、すなわち、壁部26の外形形状を一定にして穴部の形状をパラメータとして、所定の屈折率に設定することが可能であり、他方、一定表面積で形成された穴部25のピッチを、赤外線の波長以下の値で、パラメータとすること、すなわち、壁部26の外形形状をパラメータとして、実施例1と同様に、透過率が最大となる所定の屈折率に設定することが可能となる。
【0046】
そして、斜めから入射する様々な方向からの赤外線は、図6(a)において説明した斜め入射光33のように、溝部21に相当する凹部が六角形の穴部25であるから、見た目上必要な溝深さが得られないため、矩形周期構造体23を認識できず、赤外線透過性基板20そのものの屈折率と認識して、矩形周期構造体23があっても屈折率が変化せず、透過率が向上しない。
【0047】
従って、図8に示す六角形状の穴部25で形成された矩形周期構造体23を表面と裏面に有する赤外線透過フィルタは、垂直方向の入射光に対してだけ透過率が高く、指向性の高い特徴を有する。すなわち、この六角柱の凹部を持つ赤外線透過フィルタを組み込んだ焦電型赤外線センサ1は、非常に狭い範囲に感度が絞られから、ノイズに強く、誤動作の少ない、高い感度を有することが可能となる。そして、赤外線透過性基板に単に2レベルの凹凸として、六角柱の凹部を形成するだけの、加工の容易な安価な赤外線透過フィルタを得ることが可能となる。
【0048】
[実施例3の赤外線透過フィルタの説明:図9]
図9は、本発明の実施例3における赤外線透過性基板に形成された矩形周期構造体の一部を拡大して示す斜視図であり、実施例2に説明した六角柱の凹部の替わりに円柱形の凹部を形成した矩形周期構造体の一部分の斜視図である。
【0049】
図9(a)は、赤外線透過性基板の表面に円柱形状の凹部で形成された矩形周期構造体の一部を抜き出して模式的に示す部分的な斜視図であり、実際は、この斜視図の周囲に同様の構造体が連続して広がって形成されている。図9(b)は、この矩形周期構造体のC部を更に拡大して示した平面図である。
【0050】
図9(a)に示すように、矩形周期構造体23は、凹部として、実施例2の六角柱形状の穴部に相当する円柱形状の穴部28が、赤外線の波長以下のピッチP(図9(b)参照)で連続して形成されて構成されている。穴部28の周囲の壁部29は、実施例2で説明した壁部26に相当し凸部を形成している。
【0051】
図9(b)に示すように、矩形周期構造体23は、穴部28とその周囲の壁部29(二点差線で示す)からなるセル27の集合体により形成される。隣り合ったセル27は、赤外線の波長以下の一定ピッチPで配列している。従って、この矩形周期構造体23の屈折率Nxは、実施例2と同様に、平面図上の穴部28の表面積をS1、壁部29の表面積をS2、および、赤外線透過性基板の屈折率をN、穴部の屈折率をnとすると、Nx=(n×S1+N×S2)/(S1+S2)で表される。
【0052】
従って、矩形周期構造体23の屈折率Nxは、実施例2と同様に、透過率が最大となる所定の屈折率に設定することが可能となる。
そして、実施例2と同様に、斜めから入射する様々な方向の赤外線は、矩形周期構造体23を認識できず、赤外線透過性基板20そのものの屈折率と認識して、矩形周期構造体23であっても屈折率が変化せず、透過率が向上しない。
【0053】
従って、図9に示す円柱の穴で形成された矩形周期構造体23は、垂直方向の入射光に対してだけ透過率が高く形成された赤外線透過フィルタを形成し、指向性の高いノイズに強い特徴を有する。すなわち、この円柱の凹部を持つ赤外線透過フィルタを組み込んだ焦電型赤外線センサ1は、実施例2と同様に、非常に狭い範囲に感度が絞られ、誤動作の少ない高い感度を有することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、シリコン基板からなる赤外線透過性基板は、ゲルマニュウム基板であっても同様に、赤外線に対して透過フィルタが形成可能である。
【0055】
更に、赤外線透過性基板の両面に形成される矩形周期構造体の凹部の形状に関して、実施例2と実施例3で説明したように、穴部の六角柱形状と円柱形状は、全く同等の効果が得られている。従って、表面側の矩形周期構造体の凹部を六角形状に形成し、裏面側の矩形周期構造体の凹部を円柱形状に形成しても、同等の効果があることは言うまでもない。
更に、凹部の六角柱形状は、角柱であれば、四角柱、八角柱形状であっても、良いことは明らかである。
【0056】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されることはなく、それらの全てを行う必要もなく、特許請求の範囲の各請求項に記載した内容の範囲で種々変更や省略をすることが出来ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0057】
1:焦電型赤外線センサ
10:焦電素子
11:赤外線透過フィルタ
12:ケース
13:スペーサ基板
14:回路基板
15:固定抵抗素子
16:電界効果トランジスタ
20:赤外線透過性基板
21:溝部
22:矩形壁部
23:矩形周期構造体
24、27:セル
25、28:穴部
26、29:壁部
30:入射光
31:赤外線
32、34:垂直入射光
33、35:斜め入射光
101:受光電極
121:ケース窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を検知する焦電素子と、赤外線の入射経路に位置し、前記焦電素子に赤外線を透過する赤外線透過フィルタを備える焦電型赤外線センサにおいて、
前記赤外線透過フィルタは、赤外線透過性基板の両面に、検知する赤外線の半波長以下のピッチで凹部による矩形周期構造体が形成され、
前記凹部の形状は、表面と裏面が同一形状であることを特徴とする焦電型赤外線センサ。
【請求項2】
前記赤外線透過性基板に形成された前記凹部の形状は、溝部で形成され、前記赤外線透過性基板の表面と裏面の溝方向が、同一方向であることを特徴とする請求項1記載の焦電型赤外線センサ。
【請求項3】
前記焦電素子に形成された受光電極パターンと、前記赤外線透過性基板に形成された前記溝部の溝方向を整合することにより、前記焦電素子の感度に指向性を有することを特徴とする請求項2記載の焦電型赤外線センサ。
【請求項4】
前記矩形周期構造体の溝部の溝幅は、溝ピッチの3分の2であることを特徴とする請求項1及び3記載の焦電型赤外線センサ。
【請求項5】
前記赤外線透過性基板に形成された前記凹部の形状は、円柱或いは角柱形状であることを特徴とする請求項1記載の焦電型赤外線センサ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−83579(P2013−83579A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224289(P2011−224289)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000131430)シチズン電子株式会社 (798)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】