説明

焦電型赤外線薄膜素子とその製造方法

【課題】 焦電体薄膜そのものの特性を十二分に発揮させうる焦電型赤外線薄膜素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 基板1上に下部電極5を形成し、その上面に焦電体薄膜3を成膜した後、上部電極4を成膜し、その後、上部電極4、焦電体薄膜3、下部電極3をそれぞれパターニングするようにして、焦電体薄膜3と上部電極4および下部電極5との間に他の部材が介在しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、焦電体薄膜と、その上面および下面にそれぞれ設けられる上部電極および下部電極とからなる赤外線検出部が表層部に凹部を有する基板の前記凹部の上部に形成されている赤外線検出用の焦電型赤外線薄膜素子とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】前記焦電型赤外線薄膜素子の一つに、特開平7−55577号公報に示されるものがある。この焦電型赤外線薄膜素子は、図9(A),(B)に示すように、基板51としてMgO(100)単結晶基板を用い、その上層に下部電極52としてPt(白金)薄膜を設け、その上層に焦電体薄膜53を設け、さらに、それらの上層の少なくとも一部に、上部電極54として赤外光の反射率の小さいNiCr(ニクロム)薄膜を設け、その後、焦電体薄膜53側からエッチング用マスクを介して微小空洞55を設けたものである。なお、56は層間絶縁膜である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記構成の焦電型赤外線薄膜素子によれば、下部電極52、焦電体薄膜53および上部電極54が互いに重なり合うところの赤外線検出部の下部に微小空洞55が形成されているので、基板51の熱容量が小さくなり、熱応答性に優れるといった効果があるものの、次のような欠点がある。
【0004】すなわち、前記図9(B)から理解されるように、その赤外線検出部において、焦電体薄膜53の上部に僅かに覆われた層間絶縁膜56が上部電極54と下部電極52との間に介在し、これが焦電体薄膜53の僅かな領域に密着している。また、この焦電型赤外線薄膜素子の製造方法は、焦電体薄膜53を成膜した後、この焦電体薄膜53をパターニングし、層間絶縁膜56を形成し、その後、上部電極54を成膜している。その結果、焦電体薄膜53のパターニングおよび下部電極52のパターニングに焦電体薄膜53の表面に、異物など低誘電率の不純物が付着するおそれがある。
【0005】ところで、一般に、焦電体薄膜53を構成する強誘電体材料は、非常に高い誘電率を有しているが、焦電体薄膜53と上部電極54および下部電極52との間に低誘電率の不純物が存在することは、その性能の低下につながる。
【0006】したがって、上述した従来の焦電型赤外線薄膜素子の構造や製造方法においては、焦電体薄膜53の表面に低誘電率の不純物が存在しやすい構造および製造方法であるため、焦電体薄膜本来の優れた特性を十分に発揮し得る焦電型赤外線薄膜素子を得ることが困難であった。
【0007】この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、焦電体薄膜そのものの特性を十二分に発揮させることができる焦電型赤外線薄膜素子とその製造方法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明では、焦電体薄膜と、その上面および下面にそれぞれ設けられる上部電極および下部電極とからなる赤外線検出部が表層部に凹部を有する基板の前記凹部の上部に形成されてなる焦電型赤外線薄膜素子において、前記焦電体薄膜と上部電極および下部電極との間に他の部材が介在しないようにしている。
【0009】そして、この発明の焦電型赤外線薄膜素子の製造方法は、基板上に下部電極を形成し、その上面に焦電体薄膜を成膜した後、上部電極を成膜し、その後、上部電極、焦電体薄膜、下部電極をそれぞれパターニングするようにした点に特徴がある。
【0010】この発明の焦電型赤外線薄膜素子においては、焦電体薄膜と上部電極および下部電極との間に、低誘電率の不純物など他の部材が存在しないので、焦電体薄膜そのものの特性を十二分に発揮させることができ、したがって、高感度並びに高速応答性を有する焦電型赤外線薄膜素子を得ることができる。
【0011】そして、この発明の焦電型赤外線薄膜素子の製造方法においては、焦電体薄膜と上部電極および下部電極との間に、低誘電率の不純物など他の部材を介在させることなく、所望の赤外線検出部を形成することができる。したがって、高感度並びに高速応答性を有する焦電型赤外線薄膜素子を得ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、この発明の詳細を、図を参照しながら説明する。
【0013】図1〜図3は、この発明の焦電型赤外線薄膜素子Sの一例を示し、図1は、焦電型赤外線薄膜素子Sの平面形状を示す図であり、図2は、図1におけるI−I線断面形状を拡大図とともに示す断面図であり、図3R>3は、焦電型赤外線薄膜素子Sの分解斜視図である。
【0014】これらの図において、1はMgO(酸化マグネシウム)よりなる単結晶基板で、2はこの基板1の表層部にエッチングによって形成される微小な凹部である。3は焦電体薄膜で、例えばPZT系強誘電体薄膜またはPLZT系強誘電体薄膜からなる。この焦電体薄膜3の上下両面には、例えばPt(白金)よりなる上部電極4と下部電極5とが互いに対応するように設けられている。4aは上部電極4に形成されるエッチング用の複数の孔、5aは下部電極5に形成された突起部である。なお、矢印A方向に見て、両電極4,5および焦電体薄膜3が互いに重なり合う部分を赤外線検出部6というものとする。
【0015】7は赤外線検出部6の受光電極としての上部電極4の上面を被覆するように設けられる赤外線吸収膜で、フォトリソグラフが可能な感光性有機薄膜にカーボンブラックのような赤外線吸収材料を適宜混入してなるものである。8は赤外線検出部6の周辺に形成され、赤外線検出部6を基板1に対して保持させる絶縁体薄膜で、ポリイミド系樹脂薄膜のような有機絶縁体薄膜またはSiO2 薄膜のような無機絶縁体薄膜よりなる。8aは絶縁体薄膜8に開設されるエッチング用の孔で、上部電極4の孔4aに対応して設けられるもののほか、赤外線検出部6を囲むようにして設けられている。9,10は上部電極4、下部電極5にそれぞれ連なる上部引出し電極、下部引出し電極である。
【0016】上記焦電型赤外線薄膜素子Sの形成方法について、図4〜図8を参照しながら説明する。なお、図6R>6〜図8においては、それぞれ断面形状を概略的に示す図と、平面形状を概略的に示す図を並列的に示している。また、最終形状前の各部材に対応する部分を表す符号には’(ダッシュ)を付している。
【0017】(1)適宜厚さ(例えば500μm)のMgO(100)単結晶基板1を用意する(図5(A)参照)。
【0018】(2)前記基板1の上面に、例えばスパッリングによって、下部電極5’としてPtを0.2μmの厚みに成膜する(図4のステップS1および図5(B)参照)。
【0019】(3)前記下部電極5’の上面に、例えばMOCVD法(有機金属化学気相成長法)によって、焦電体薄膜3’としてPZT系強誘電体薄膜(またはPLZT系強誘電体薄膜)を約2μmの厚みに成膜する(図4R>4のステップS2および図5(C)参照)。
【0020】(4)前記焦電体薄膜3’の上面に、スパッリングによって、上部電極4’としてPtを0.2μmの厚みに成膜する(図4のステップS3、図5(D)および図6(A),(B)参照)。
【0021】(5)前記上部電極4’にレジストを塗布し、フォトリソグラフでレジストをパターニングする。その後、エッチングにより上部電極4をパターニングした後、レジストを除去し、複数の孔4aを有する形状に形成する(図4のステップS4および図6(C),(D)参照)。
【0022】(6)次いで、焦電体薄膜3’にレジストを塗布し、フォトリソグラフでレジストをパターニングする。その後、エッチングにより焦電体薄膜3をパターニングした後、レジストを除去し、上部電極4の孔4aに対応した位置に複数の孔を有する形状に形成する(図5R>5のステップS5および図6(E),(F)参照)。なお、この実施例では、焦電体薄膜3は上部電極4よりもやや大径に形成されている。
【0023】(7)次いで、下部電極5’にレジストを塗布し、フォトリソグラフでレジストをパターニングする。その後、エッチングにより下部電極5’をパターニングした後、レジストを除去し、下部電極5およびこれに連なる下部電極突起部5aを形成する(図5のステップS6および図7(A),(B)参照)。なお、この実施例では、下部電極5は焦電体薄膜3と同径に形成されているが、これよりやや大径にしてもよい。
【0024】(8)赤外線検出部6周辺および基板1の上面にわたって、金属より小さい熱伝導率を有する絶縁体薄膜8を形成する(図5のステップS7および図7(C),(D)参照)。絶縁体薄膜8は、有機絶縁体薄膜、無機絶縁体薄膜のいずれでもよく、有機絶縁体薄膜としてはポリイミド系樹脂薄膜が、また、無機絶縁体薄膜としてはSiO2 薄膜が好適である。そして、8aは上部電極4の孔4aに対応した位置および赤外線検出部6の外周に設けられる孔である。
【0025】(9)例えばスパッタリングによってAuよりなる上部電極引出し部9および下部引出し部10を形成する(図5のステップS8および図7(E),(F)参照)。
【0026】(10)そして、例えばネガレジスト材料のような感光性有機薄膜に3wt%程度のカーボンブラックのような赤外線吸収材料を混入したものを、赤外線検出部6の上部電極4の上面に適宜厚さ塗布した後、パターニングすることにより、上部電極4の上面を赤外線吸収膜7によって被覆する(図5のステップS9および図8(A),(B)参照)。
【0027】絶縁体薄膜8の孔8aから所定濃度のリン酸液をエッチング液として注入して、赤外線検出部6の直下の基板1をエッチングにより除去し、凹部(微小空洞)2を形成する(図5のステップS10および図8(C),(D)参照)。この場合、凹部2は、赤外線検出部6よりも大きくなるように形成されるが、赤外線検出部6の周囲および基板1の上面にわたって絶縁体薄膜8が形成されているので、赤外線検出部6は絶縁体薄膜8によって凹部2の上面に浮揚した状態で保持される。つまり、図1〜図3および図8(C),(D)に示すような焦電型赤外線薄膜素子Sが得られる。
【0028】上記構成の焦電型赤外線薄膜素子Sの製造工程においては、図4に示したフローチャートからも理解されるように、基板1に下部電極5を成膜した(ステップS1)後、下部電極5の上面に焦電体薄膜3を成膜し(ステップS2)、その後、上部電極4を成膜し(ステップS3)、これらの成膜を順次行った後に、上部電極4、焦電体薄膜3、下部電極5をこの順位それぞれパターニングするようにしているので、焦電体薄膜3の成膜後に、この焦電体薄膜3と上部電極4および下部電極5との間に不純物が介在するといったことがない。
【0029】したがって、前記従来技術のような問題が生ずることがなく、焦電体薄膜3の性能を十二分に発揮させることができる赤外線検出部構造が得られ、したがって、高感度並びに高速応答性を有する焦電型赤外線薄膜素子Sを得ることができる。
【0030】
【発明の効果】この発明は、以上のような形態で実施され、以下のような効果を奏する。
【0031】焦電体薄膜と上部電極および下部電極との間に、低誘電率の不純物など他の部材が存在させることなく所望の赤外線検出部を構成することができるので、焦電体薄膜そのものの特性を十二分に発揮させることができる。したがって、高感度並びに高速応答性を有する焦電型赤外線薄膜素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の焦電型赤外線薄膜素子の一例を示す平面図である。
【図2】図1におけるI−I線断面形状図とその部分拡大図である。
【図3】前記焦電型赤外線薄膜素子Sの分解斜視図である。
【図4】前記焦電型赤外線薄膜素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】図6〜図8とともに前記焦電型赤外線薄膜素子の製造工程を示し、このうちの始めの部分を示している。
【図6】図5に続く製造工程を示す図である。
【図7】図6に続く製造工程を示す図である。
【図8】図7に続く製造工程を示す図である。
【図9】従来技術を説明するための図で、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【符号の説明】
1…基板、2…凹部、3…焦電体薄膜、4…上部電極、5…下部電極、S…焦電型赤外線薄膜素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 焦電体薄膜と、その上面および下面にそれぞれ設けられる上部電極および下部電極とからなる赤外線検出部が表層部に凹部を有する基板の前記凹部の上部に形成されてなる焦電型赤外線薄膜素子において、前記焦電体薄膜と上部電極および下部電極との間に他の部材が介在しないようにしてあることを特徴とする焦電型赤外線薄膜素子。
【請求項2】 基板上に下部電極を形成し、その上面に焦電体薄膜を成膜した後、上部電極を成膜し、その後、上部電極、焦電体薄膜、下部電極をそれぞれパターニングするようにしたことを特徴とする焦電型赤外線薄膜素子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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