説明

焼き芋風味の芋焼酎の製造方法およびそれにより得られる焼き芋風味の芋焼酎

【課題】焼き芋の風味、特に甘コゲ香に優れた芋焼酎を提供すること。
【解決手段】焼酎の原料として薩摩芋を用いる芋焼酎の製造方法であって、高温高圧処理された薩摩芋を原料に用いることを特徴とする焼き芋風味の芋焼酎の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼き芋の風味に優れた芋焼酎の製造方法およびそれにより得られる焼き芋風味の芋焼酎に関する。
【背景技術】
【0002】
焼酎には、米、麦、そば等の穀類、薩摩芋、馬鈴薯等の芋類、紫蘇、胡麻、黒糖等を原料とするものが知られている。
【0003】
近年では、嗜好の多様化に伴い、上記原料に更に種々の風味を付与した焼酎が上市されてきている。例えば、芋焼酎であれば、焼き芋や干し芋を原料とし、焼き芋や干し芋の風味を付与したものが上市されている。
【0004】
しかしながら、焼き芋風味の芋焼酎は、単に焼き芋を原料としただけでは、焼き芋の風味が薄く、満足のいかないものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、焼き芋の風味に優れた芋焼酎の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、原料の薩摩芋として焼き芋ではなく、高温高圧処理された薩摩芋を用いることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、焼酎の原料として薩摩芋を用いる芋焼酎の製造方法であって、高温高圧処理された薩摩芋を原料に用いることを特徴とする焼き芋風味の芋焼酎の製造方法である。
【0008】
また本発明は、上記製造方法により得られる焼き芋風味の芋焼酎である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、原料の薩摩芋の処理条件を変えることにより、焼き芋の風味、特に甘コゲ香に優れた芋焼酎を製造することができ、しかも、従来の焼き芋の風味を付与していない芋焼酎の製造方法と、焼酎の収量も変わらない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の焼き芋風味の芋焼酎の製造方法は、高温高圧処理された薩摩芋(以下、「処理芋」ということがある)を原料に用いる以外は、通常の芋焼酎の製造方法(例えば、米格焼酎製造技術((財)日本醸造協会)等に記載の方法)に準じて実施することができる。
【0011】
処理芋に用いられる薩摩芋の品種は特に制限されないが、一般的に焼酎の原料として使用される、デンプン質の多い、コガネセンガン等が好ましい。この薩摩芋は高温高圧処理の前に洗浄し、病変部位を取り除いておくことが好ましい。また、薩摩芋の高温高圧処理は、常温常圧で行われる通常の蒸煮よりも高温高圧で蒸煮できるのであれば特に制限されないが、一般的な高温高圧処理に用いられるオートクレーブ等の装置を用い、例えば、110〜130℃、0.15〜0.27MPaの条件で行うことが好ましく、特に120〜130℃、0.20〜0.27MPaの条件で行うことが好ましい。また、この高温高圧処理における処理時間は特に制限されないが、20〜40分、好ましくは20〜30分である。
【0012】
以下、本発明の焼き芋風味の芋焼酎の製造方法の好ましい態様を、処理芋を二次仕込みの原料として用いる場合を例に挙げて説明するが、処理芋は芋麹の原料として用いることもできることは言うまでもない。
【0013】
まず、精白米等の原料米200gを、洗米・浸漬した後、蒸きょうし、放冷する。放冷後に白麹菌等の麹菌を原料米100gに対し、約0.1gで種付けし、製麹する。製麹した麹を、焼酎酵母の培養液5gと汲水240gで一次仕込みを行い、5〜7日間、25〜35℃で熟成させ、一次醪を得る。
【0014】
次に、上記で得た一次醪を、110〜130℃、0.15〜0.27MPaで20〜40分間オートクレーブで高温高圧処理された1000gの薩摩芋の皮を剥き、5mm角のダイス状に細断したものと汲水540〜600g(汲水歩合65〜70%)で二次仕込みを行い、8〜10日間、25〜30℃で熟成させ、二次醪を得る。
【0015】
更に、上記で得た二次醪を、単式蒸留器に張り込み、常圧で蒸留して芋焼酎を得る。
【0016】
なお、上記で得られた芋焼酎は、そのまま瓶詰めし、製品とすることもできるが、更に、ろ過等の精製手段、貯蔵等の熟成手段、割水等の調整手段等を行ってもよい。
【0017】
斯くして得られる芋焼酎は処理芋を原料としているために、焼き芋の風味、特に甘コゲ香に優れたものである。また、この芋焼酎は、通常の蒸煮処理をした薩摩芋を原料とした芋焼酎と比べて、アセトアルデヒド、プロパノール、ヘキサノール、フルフラール、酢酸および酢酸エチルの含有量が高く、メタノール、イソブタノール、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、カプリル酸エチル、フェネチルアルコール、カプリン酸エチル、α−テルピネオール、シトロネロールおよびゲラニオールの含有量が低くなっている。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、この実施例により本発明は何ら制約されるものではない。
【0019】
実 施 例 1
焼き芋風味の芋焼酎の製造:
(1)薩摩芋の処理
薩摩芋(品種:コガネセンガン)の約1.1kg(約4個)をヘタを切り取らずに、オートクレーブ(HV−50:平山製作所製)中で、以下の表1の条件でそれぞれ高温高圧処理した。また、高温高圧処理において排出された芋ドレンを回収して分析を行った。分析の結果を表2示した。なお、コントロールは大気圧で蒸し器を利用して蒸煮したものである。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
蒸煮により排出された芋ドレンは、薩摩芋を処理する温度および圧力が高くなるほど、ドレン量および流出糖分が増え、pHは低くなる傾向にあった。また、ドレン自体の色も濃くなる傾向にあった。
【0023】
(2)仕込み
原料米200gを蒸きょう、放冷後、0.2gの種麹(白麹菌)を種付けし、製麹した。次に、製麹した麹に、焼酎酵母(鹿児島2号)の培養液5gと、以下の表3に記載の原料を混合し、一次仕込みを行い、一次醪を得た。なお、一次仕込みは5日間、27℃のインキュベーター内で行った。次に、一次醪に、以下の表3に記載の原料を混合し、二次仕込みを行い二次醪を得た。なお、二次仕込みは8日間、27℃のインキュベーター内で行った。
【0024】
【表3】

【0025】
二次醪は、原料の薩摩芋を処理する温度および圧力が高くなるほど、麹の色が濃く、甘コゲ香が感じられた。なお、各原料間で発酵経過はほぼ同様であり、大きな差は認められなかった。得られた醪の分析を行った。その結果を表4に示した。
【0026】
【表4】

【0027】
(3)蒸留
二次仕込み後の醪1.2Lを蒸留容器に張り込み、常圧蒸留にて蒸留し、芋焼酎を得た。蒸留結果を表5に示した。また、芋焼酎の分析結果を表6に示した。また、芋焼酎の香りおよび味の総合評価については以下の評価基準により評価した。その結果を表7に示した。また、味と香りについては自由評価も行った、その結果も併せて表7に示した。
【0028】
【表5】

【0029】
【表6】

【0030】
<香りおよび味の総合評価基準>
(評点) (内容)
5 : 良い
4 : やや良い
3 : 普通
2 : やや良くない
1 : 良くない
【0031】
【表7】

【0032】
以上の結果より、芋焼酎の原料となる薩摩芋に高温高圧処理されたものを用いることにより、芋焼酎に焼き芋風味(甘コゲ香)を付与することができた。特に高温高圧処理2(蒸煮温度:120℃、蒸煮圧力:0.20MPa)を行った薩摩芋を用いることにより、良好な焼き芋の風味が付与された芋焼酎が得られた。また、この芋焼酎は、コントロールと比べて、アセトアルデヒド、プロパノール、ヘキサノール、フルフラール、酢酸および酢酸エチルの含有量が高く、メタノール、イソブタノール、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、カプリル酸エチル、フェネチルアルコール、カプリン酸エチル、α−テルピネオール、シトロネロールおよびゲラニオールの含有量が低くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により得られる焼き芋の風味、特に甘コゲ香に優れた芋焼酎は商品価値が高いものである。

以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎の原料として薩摩芋を用いる芋焼酎の製造方法であって、高温高圧処理された薩摩芋を原料に用いることを特徴とする焼き芋風味の芋焼酎の製造方法。
【請求項2】
高温高圧処理が、110〜130℃、0.15〜0.27MPaの条件で行われるものである請求項1記載の焼き芋風味の芋焼酎の製造方法。
【請求項3】
焼酎の二次仕込みの原料に高温高圧処理された薩摩芋を用いるものである請求項1または2記載の焼き芋風味の芋焼酎の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかの焼き芋風味の芋焼酎の製造方法により得られる焼き芋風味の芋焼酎。

【公開番号】特開2010−81899(P2010−81899A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256501(P2008−256501)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(593144105)薩摩酒造株式会社 (8)
【Fターム(参考)】