説明

焼き菓子類製品用油脂組成物及び焼き菓子類製品

【課題】
本発明は、風味及び食感が良好で、油っぽくなく手や包装袋へのべたつきがなく、かつ、シーズニングの固着性が良好な焼き菓子類製品を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、20℃での固体脂含量(SFC)が45以上、及び35℃での固体脂含量(SFC)が30以下の油脂に、上昇融点+10℃の温度で測定する接触角が、組成物と同程度の上昇融点の油脂と対比して、接触角が0.7倍以下に低下させる乳化剤を添加してなる油脂組成物並びに、該油脂組成物を加工・焼成した製品表面に直接接触されてなる焼き菓子類製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子類製品用油脂組成物及び焼き菓子類製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、風味剤を配合した焼き菓子類製品の風味は、焼成すると風味が弱くなってしまうため、焼成後表面に風味剤などを付着させることにより様々な多様性を持った商品が設計されている。この際、風味剤単独では焼き菓子類製品への付着性が悪く、風味剤を付着させる前後に油脂を接触させることが一般的であった。
【0003】
焼き菓子類製品に油脂を接触させることは、上記に示した風味剤の付着性向上以外にも、油脂を接触させることで焼き菓子類製品の吸湿による生地のべたつき性改善や喉越しの改良といった食感への効果が生じる。しかしながら、従来から使用されている油脂では、融点が低い油脂を使用しているため、食した時に油っぽく感じられ、且つ手で持ったときに油脂によるベトツキが生じるという悪影響を及ぼす問題があった。
【0004】
一方、融点が高い油脂を焼き菓子類製品に接触させるとは、油脂が常温(20℃)で固化し、焼き菓子類製品表面を白色化するといった問題があった。こうした実情から、例えば、焼き菓子類の製造においては、べたつきや白色化、シーズニングの固着性を改良するため、いくつかの改良策が提案されてきた。
【0005】
10℃における固体脂指数が5以下の液状油脂100重量部に対して、極度硬化油を所定量配合した油脂組成物を用いることにより、白くボケたり、色調が沈んだりすることなく良好な外観を呈し、優れた風味・食感を有する製品を効率よく製造できるコーティング用油脂組成物(特許文献1)があるが、これは液状油脂に極度硬化油を使用し速乾性、べたつきを抑えることを狙っているもので、シーズニングの固着性についての改善はない。
【0006】
また、炭素数16〜炭素数24個の脂肪酸から由来する長鎖飽和脂肪酸残基、並びに酢酸、プロピオン酸、酪酸及びこれらの混合物からなる群から由来する短鎖酸残基を有するトリグリセリド(70°F(21.1℃)で少なくとも約50%の固体脂肪指数、80°F(26.7℃)で少なくとも約40%の固体脂肪指数を有する)であるスプレイオイル組成物をスナック基材へ適用し、脂っこい感触のないスナック製品を製造する方法(特許文献2)があるが、これは固体油脂をベースに使用しているため、べたつきは抑えられるが、生地の白色化防止効果は不十分と考ええられる。
従って、風味及び食感が良好で、油っぽくなく手や包装袋へのべたつきがなく、かつ、シーズニングの固着性が良好な焼き菓子が求められている。
【特許文献1】特開2002-47500号公報
【特許文献2】特許3328743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、風味及び食感が良好で、油っぽくなく手や包装袋へのべたつきがなく、かつ、シーズニングの固着性が良好な焼き菓子類製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、油脂のSFCが20℃で45以上、35℃で30以下の油脂に、上昇融点+10℃の温度で測定する接触角が、組成物と同程度の上昇融点の油脂と対比して、接触角が0.7倍以下に低下させる乳化剤を添加することで、焼き菓子類製品への馴染みの良い油脂組成物を作成した。この油脂組成物を焼き菓子類製品に直接接触させることで、風味及び食感が良好で、油っぽくなく手や包装袋へのべたつきがなく、かつ、シーズニングの固着性が良好な焼き菓子類製品を得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、20℃での固体脂含量(SFC)が45以上、及び35℃での固体脂含量(SFC)が30以下の油脂に、上昇融点+10℃の温度で測定する接触角が、組成物と同程度の上昇融点の油脂と対比して、接触角が0.7倍以下に低下させる乳化剤を添加してなる油脂組成物並びに、該油脂組成物を加工・焼成した製品表面に直接接触されてなる焼き菓子類製品である。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したとおり、油脂組成物を用いることにより、風味及び食感が良好で、油脂の接触量を調整でき、且つシーズニングの固着性が良好な焼き菓子類製品を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明でいう焼き菓子類製品とは、小麦粉、コーンフラワー、もしくは米粉等の穀粉、澱粉、加工澱粉等の澱粉性原料(これらの化工澱粉を含む)、必要に応じて油脂原料を使用した生地を加工・焼成したものであって、加工・焼成とは、ビスケット類の生地を最終製品の形状に成型し、オーブン等で加熱すること、及び膨化食品の加圧加熱押出成型等のことを言う。エクストルーダーによる加熱・乾燥、加圧蒸煮・蒸錬機による加工ビスケット類としては、ビスケット(ビスコッティを含む)、クッキー、ワッフル、クラッカー(乾パン、プレッツェルを含む)、パイ、ラスク、ウエハース、スナック菓子、小麦せんべい等を例示することができる。米菓としては、煎餅、おかき、あられ等を例示することができる。
【0012】
本発明の油脂組成物に用いられる油脂原料としては、例えば、パーム油、菜種油、大豆油、ひまわり油、コーン油、綿実油、サフラワー油、米ぬか油、ヤシ油、パーム核油等、食用油脂であれば特に限定はされない。また、本発明の油脂組成物に用いられる油脂は、前述の油脂原料を水素添加、エステル交換、分別等の処理をして、20℃での固体脂含量(SFC)が40以上、及び35℃での固体脂含量(SFC)が30以下であるものであれば、特に限定されない。
【0013】
油脂組成物に用いられる油脂の20℃での固体脂含量(SFC)が45未満の場合、生地がべとつき、シーズニングの固着性が不十分となり、また、油脂組成物に用いられる油脂の35℃での固体脂含量(SFC)が30を越えた場合、生地表面が白色化するという問題が生じる。
【0014】
シーズニングは調味料のことで、例えば砂糖等の糖類、食塩、醤油、アミノ酸等の調味料の他、味噌、胡椒、唐辛子、山椒、ワサビ、ガーリック、セロリー、パプリカ等の香辛料やビーフ、ポーク、チキン、えび、かに等から得られた天然オイルフレーバー、さらに澱粉、色素、香料等がある。これらのシーズニングは固体(粉状ないし粒状等)の任意の形態で使用可能であり限定されない。また、シーズニングの固着性の判断は、生地に油脂組成物を生地重量対比10%塗布した後、過剰のシーズニングを生地表面に振りかけ、100℃雰囲気に5分間保存後(スプレー後固化した油脂組成物を100℃雰囲気に5分間保存することで油脂組成物が溶解し、シーズニングをしっかり固着させることができる)、冷却し、触手での評価、及び40℃雰囲気に10分間保持した後、刷毛で生地表面を軽く掃いて剥がれ落ちたシーズニング量を測定し、40℃に保持する前のシーズニング量からシーズニングの固着率を計算する。
【0015】
固体脂含量(SFC)の測定方法は、IUPAC2.150(Solid Content Determination in Fats by NMR)に準じて行った。
【0016】
本発明の油脂組成物は、20℃での固体脂含量(SFC)が45以上、及び35℃での固体脂含量(SFC)が30以下の油脂に、上昇融点+10℃の温度で測定する接触角が、組成物と同程度の上昇融点の油脂と対比して、接触角が0.7倍以下に低下させる乳化剤を添加してなるものであれば特に限定されない。接触角の低下方法としては、乳化剤はHLB4〜12である乳化剤を油脂に添加することでできる。HLBが4未満のものであれば、接触角の低下効果が小さく、組成物と同程度の上昇融点の油脂と対比して、接触角を0.7倍以下にすることが困難であり、HLBが12よりも大きいものであれば、油脂への溶解性が低く本発明の効果が得られ難くなる。乳化剤のHLBについては、5〜10が更に好ましい。また乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び有機酸モノグリセリドなどが挙げられるが、HLBが4〜12、好ましくは5〜10のものを好適に用いることができる。
【0017】
乳化剤の添加量としては、油脂に対して0.4〜10重量%が適する。0.4重量%未満では、20℃での固体脂含量(SFC)が45以上、及び35℃での固体脂含量(SFC)が30以下の油脂に、上昇融点+10℃の温度で測定する接触角が、組成物と同程度の上昇融点の油脂と対比して、接触角が0.7倍以下にすることが困難である。また、10重量%を超えると乳化剤の風味が油脂に影響を与える問題がある。
【0018】
接触角の測定方法は、油脂組成物を60℃以上で完全融解後、油脂組成物に使用する20℃での固体脂含量(SFC)が45以上、及び35℃での固体脂含量(SFC)が30以下の油脂の上昇融点+10℃の雰囲気に2時間以上放置して、油脂組成物の品温を上昇融点+10℃に調製する。接触角測定装置『FACE CONTACT−ANGLEMETER CA−D型(協和界面化学(株)社製)』を用いて、品温が油脂の融点(上昇融点)+10℃の油脂組成物を専用の液滴調整器で、薄力粉をベースとした生地(市販の餃子の皮:水分約31%)に滴下し、接触した角度を測定する。油脂組成物を専用の液滴調整器で滴下する場合、液滴調製器の針はテフロン(登録商標)吸油針を用いることが好ましい。
【0019】
焼き菓子製品の配合や製法は常法に従えばよい。本発明の焼き菓子類製品においては、焼成した後の生地の表面に本発明の油脂組成物を直接接触させる。
【0020】
油脂組成物の直接接触する方法としては、スプレー、刷毛塗り、浸漬、どぶ漬けなどがある。その際には、加工・焼成後の焼き菓子生地に油脂組成物のみ接触させることであり、それ以外に油脂組成物を焼成前、半焼成、焼成後、何れのタイミングで生地に接触して使用しても良い。作業に応じて又は最終製品の要望する食感や油性感によって、接触方法を選択すればよい。また、接触前後にドーナツシュガーやココナツ等の好みのものをまぶす、あるいは油脂組成物にあらかじめ風味剤や食感剤を混合後に接触させることもできる。また、油脂組成物をフレーク状にして焼き菓子に接触させることもできる。
【0021】
生地の白色化とは、油脂組成物を65℃〜70℃に加温し、常温の焼き菓子に接触させ、常温で保存し、色彩色差計(コニカミノルタ製、CR−300)でL値を測定した。
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の実施例はこれに限られるものではない。
【0023】
<表1>

【実施例1】
【0024】
常法に従い、小麦せんべい生地を調製し焼成した。沃素価68の分別低融点画分を異性化硬化し、融点38℃の油脂(20℃のSFC:72.4、35℃のSFC:15.1)を得た。焼成後、この油脂に乳化剤(ジグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB=8(理研ビタミン(株)製))を1%添加したものを生地にスプレー塗布し、生地の白色化、触手によるべたつき、シーズニングの固着性、風味、食感の評価を行った。結果を表2に示す。
【実施例2】
【0025】
常法に従い、小麦せんべい生地を調製し焼成した。沃素価68の分別低融点画分を異性化硬化し、融点40℃の油脂(20℃のSFC:80.2、35℃のSFC:23.8)を得た。焼成後、この油脂に乳化剤(ジグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB=8(理研ビタミン(株)製))を1%添加したものを生地にスプレー塗布し、生地の白色化、触手によるべたつき、シーズニングの固着性、風味、食感の評価を行った。結果を表2に示す。
【0026】
比較例1
常法に従い、小麦せんべい生地を調製し焼成した。焼成後、実施例1の油脂組成物の油脂を生地にスプレー塗布し、生地の白色化、触手によるべたつき、シーズニングの固着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0027】
比較例2
常法に従い、小麦せんべい生地を調製し焼成した。菜種油とパーム油を混合し水素添加して融点36℃の硬化油脂(20℃のSFC:39.7、35℃のSFC:4.8)を得た。焼成後、この硬化油脂に乳化剤(ジグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB=8(理研ビタミン(株)製))を1%添加したものを生地にスプレー塗布し、生地の白色化、触手によるべたつき、シーズニングの固着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0028】
比較例3
常法に従い、小麦せんべい生地を調製し焼成した。焼成後、やし油(20℃のSFC:42.6、35℃のSFC:0.2(不二製油(株)製))に乳化剤(ジグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB=8(理研ビタミン(株)製))を1%添加したものを生地にスプレー塗布し、生地の白色化、触手によるべたつき、シーズニングの固着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0029】
比較例4
常法に従い、小麦せんべい生地を調製し焼成した。焼成後、パームオレイン(20℃のSFC:3.7、35℃のSFC:0(不二製油(株)製))に乳化剤(ジグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB=8(理研ビタミン(株)製))を1%添加したものを生地にスプレー塗布し、生地の白色化、触手によるべたつき、シーズニングの固着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0030】
比較例5
常法に従い、小麦せんべい生地を調製し焼成した。沃素価68の分別低融点画分を異性化硬化し、融点41℃の油脂(20℃のSFC:82.2、35℃のSFC:35.0)を得た。焼成後、この油脂に乳化剤(ジグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB=8(理研ビタミン(株)製))を1%添加したものを生地にスプレー塗布し、生地の白色化、触手によるべたつき、シーズニングの固着性、風味、食感の評価を行った。結果を表2に示す。
【0031】
比較例6
常法に従い、小麦せんべい生地を調製し焼成した。焼成後、実施例1の油脂組成物の油脂に乳化剤(デカグリセリンデカオレイン酸エステル(HLB=3(太陽化学(株)製))を1%添加したものを生地にスプレー塗布し、生地の白色化、触手によるべたつき、シーズニングの固着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0032】
以上の油脂組成物をスプレーで生地重量対比10%塗布し、生地の白色化を測定。その際、生地のべたつきも、触手によって評価した。
シーズニングの固着性は生地重量対比10%塗布した後に、過剰のグラニュウ糖を振りかけ、100℃5分処理し、冷却。固着していないグラニュウ糖を除去。更に人の体温を想定し、40℃に10分間保持し、生地表面を軽く刷毛で掃いて剥がれ落ちたグラニュウ糖を測定した。また、人が触ってシーズニング(グラニュウ糖)がどの程度、剥がれるか測定した。
【0033】
<表2>

【0034】
*接触角(倍):乳化剤無添加の接触角との対比値(乳化剤添加での接触角値/乳化剤無添加の接触角値
*生地の白色化評価基準:○生地が白くなってない ×生地が白くなっている
L値: 生地のみ(スプレーなし)のL値は62
*べたつき: ○べたつかない △ややべたつく ×べたつく
*シーズニングの固着性:固着率(%)=40℃処理後固着しているシーズニング量/40℃処理前の生地に固着しているシーズニング量*100
【0035】
以上の結果から、本発明に従って調製された油脂組成物(実施例1及び2)を使用することにより、油っぽくなく、べたつきがない、且つシーズニングの固着性が良好な焼き菓子類製品が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃での固体脂含量(SFC)が45以上、及び35℃での固体脂含量(SFC)が30以下の油脂に、上昇融点+10℃の温度で測定する接触角が、組成物と同程度の上昇融点の油脂と対比して、接触角が0.7倍以下に低下させる乳化剤を添加してなる油脂組成物。
【請求項2】
請求項1の油脂組成物を加工・焼成した製品表面に直接接触されてなる焼き菓子類製品。

【公開番号】特開2006−166725(P2006−166725A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360087(P2004−360087)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】