説明

焼き菓子

【課題】餡を主体とする生地を焼成して得られる焼き菓子は、従来、キメ、ボリューム感に乏しく、しとり感、口どけが悪いという問題や、ケーキ様の焼き菓子を得るために手間と時間がかかるという問題があった。本発明は餡を主体とし、ケーキ様のふんわりとしたボリューム感、キメを有し、口どけ、しとり、風味の良好な食感を有する生産性の良好な焼き菓子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の焼き菓子は、餡と、山芋、食用乳化剤を含む製菓用起泡剤とを含有する生地を焼成したことを特徴とする。本発明において製菓用起泡剤としては、水中油型乳化油脂を乾燥した粉末油脂が好ましい。また生地中に更にアミノグラフにおけるブラベンターユニットが300以下である澱粉を含有していると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は餡を含有する生地を焼成して得られるケーキ様の食感を有する焼き菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、菓子に対する消費者のニーズは多様化してきており、洋菓子、和菓子といった従来のカテゴリーにとらわれない、和洋折衷の菓子が望まれてきている。和の素材は洋菓子の素材に比べ、カロリー、甘味が低く、また和の素材のもつ健康イメージが高いため、消費者に受け入れられており、和菓子の素材を用いた洋菓子様の菓子が種々開発されている。中でも和菓子の素材として餡はフィリングから練り込みまで広く用いられており、餡を配合したカステラ(非特許文献1)や餡を主原料とする生地に膨張剤を配合してぺースト状とした後、焼成した気泡を含む焼き餡菓子が知られている(特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】石崎利内著 新和菓子大系・下巻 434頁、株式会社製菓実験社
【特許文献1】特開平10−191895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載されているカステラにおける餡の配合量はせいぜい40%程度であり、これ以上の餡を配合すると生地が出来ず、焼成してカステラを得ることができないという問題がある。また引用文献2に記載されている焼き餡菓子は、餡を高配合できるものの、餡生地に膨張剤を配合して焼成しただけでは特許文献1に記載されているような気泡を含む焼き菓子を得ることはできず、餡生地に膨張剤を加えた後、一晩程熟成して餡生地がペースト状になった後に焼成することが必要であり、焼き菓子の製造に手間がかかった。しかも一晩熟成させた生地は膨脹剤の効力が衰退してしまい、このような生地を焼成して得た菓子はキメがなく、ボリューム感に欠け、ケーキ様の性状を有しておらず、しとり感、口どけが悪いという問題があった。また餡生地に使用する膨張剤の種類によっては、焼き色が付き過ぎたり、独特の臭気が残り、餡本来の風味を出すことが難しかった。本発明は上記の点に鑑みなされたもので、餡を含有する生地を用いた焼き菓子の食感と風味を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)餡と、山芋、食用乳化剤を含む製菓用起泡剤とを含有する生地を焼成したことを特徴とする焼き菓子、
(2)食用乳化剤を含む製菓用起泡剤が、水中油型乳化油脂を乾燥した粉末油脂である上記(1)の焼き菓子、
(3)餡100重量部に対し、山芋1〜5重量部、食用乳化剤を有する製菓用起泡剤2〜10重量部を生地中に含有する上記(1)又は(2)の焼き菓子
(4)生地中に更にアミノグラフにおけるブラベンターユニットが300以下である澱粉を含有する上記(1)〜(3)のいずれかの焼き菓子、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の焼き菓子は、餡に、更に山芋と食用乳化剤を含む製菓用起泡剤とを配合した生地を焼成したことにより、生地の繋がりがあり、ケーキ様の、ふんわりとしたボリューム感があり、しっとりと口どけの良い食感を有する焼き菓子を得ることが出来る。また、生地の安定性に優れ、生産効率が良いため大量生産にも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の焼き菓子に用いる餡はデンプンをα化したもので、例えば小豆、インゲン豆、ササゲ豆、ソラ豆、エンドウ豆等の豆類、カボチャ、サツマイモ、栗等のデンプンをα化したものが挙げられる。小豆等の豆類の場合、煮沸して潰砕したのち篩い分け、皮を取り除き水晒し及び脱水等の工程を経て得た生餡、生餡と糖を練り合わせた漉し餡、皮をそのまま残し糖と練り合わせた粒餡の何れも用いることができる。これと同時にインゲン豆などに鶏卵の黄身等、副資材を加えて練り合わせた餡も用いることができる。餡は糖を添加したものの方が滑らかな食感、しとり感のある焼き菓子が得られ好ましい。餡の糖度はBrix50〜70程度が、餡の保存性、出来上がった焼き菓子の日持ちの上で好ましい。
【0008】
本発明に使用する山芋としては、ヤマノイモ、ヤマトイモ、イチョウイモ、その他各種の山芋をすりおろしたものや、すりおろした山芋と砂糖をすり合わせ凍結したもの等を用いることができる。また、すりおろした山芋を真空凍結乾燥、噴霧乾燥、熱風乾燥、ドラム乾燥等で乾燥し粉末化した山芋粉も用いることができる。これらの山芋の中でも、山芋を真空凍結乾燥した山芋粉が望ましい。山芋粉としては、例えば仙波糖化株式会社製の「山芋特A」や、株式会社ヤマトフーズ製の「するがとろろ緑」などが挙げられる。
【0009】
製菓用起泡剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の1種又は2種以上の乳化剤を、ソルビトール等の糖アルコール中で安定化させた起泡剤や、上記乳化剤、油脂、糖アルコールを乳化させた乳化型起泡剤(起泡性乳化脂)、油脂を乳化剤、糖や蛋白などの被覆剤とともに水中油型に乳化し、噴霧乾燥、凍結乾燥などにより乾燥後粉末化した起泡剤(粉末油脂)等が挙げられる。これらの起泡剤のなかでも、ボリューム感が良く、餡の風味が良好な焼き菓子を得ることができる粉末化起泡剤(粉末油脂)が好ましい。
【0010】
本発明の焼き菓子は、餡と、山芋、製菓用起泡剤を含有するが、餡100重量部に対し、山芋1〜5重量部、製菓用起泡剤2〜10重量部を生地中に含有していることが好ましい。また、生地中の餡の割合は60重量%〜80重量%であることが好ましい。生地中の餡の割合が60重量%未満の場合、餡の風味が弱くなる虞があり、80重量%を超えると生地の粘度が高くなり、このような生地を焼成して得た菓子は、生地の繋がりがなく、キメ立ちが無くなりケーキ様ではなくなる虞がある。また本発明焼き菓子の生地中の餡100重量部に対する山芋、起泡剤の好ましい割合は、山芋1〜5重量部、起泡剤2〜10重量部であり、より好ましくは山芋1〜1.5重量部、起泡剤5〜7重量部である。焼き菓子の生地中に含まれる山芋の割合が餡100重量部に対し1重量部未満の場合、生地の繋がりが弱く、生地の安定性に欠け、キメ立ちが無くなる虞があり、5重量部を超えると生地粘度が高くなり、焼き上がりの製品に大きな亀裂を生じ、製品が硬くなる虞があるとともに、山芋の風味が強調され、他素材の風味に影響を与えてしまう虞がある。また焼き菓子の生地中の起泡剤の割合が餡100重量部に対し2重量部未満の場合、気泡を生地に含有し、保持する能力が低下する虞があり、10重量部を超えると必要以上に気泡が形成され、焼成した際に生地が浮きすぎ、冷却後縮みを生じる虞があり、更に起泡剤の風味が強調され、他素材の風味を低下させる虞がある。
【0011】
本発明の焼き菓子は、更にアミノグラフにおけるブラベンターユニットが300以下である澱粉を含有していると、ボリューム感、食感がより良くなるため好ましい。アミノグラフにおけるブラベンターユニットが300以下である澱粉を生地に配合する場合、生地中の餡100重量部に対して0.5〜1.5重量部含まれるように配合することが好ましい。
【0012】
上記、澱粉のアミログラフにおけるブラベンダーユニットの値は、無水物換算で6%濃度の澱粉懸濁液をアミログラフ(ブラベンダー社)で1分間1.5℃ずつ上昇させ95℃まで昇温し、95℃で30分間保持するという条件下での最高粘度値(ブラベンダーユニット BU)である。ブラベンダーユニットが300以下の澱粉としては、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉などの未処理澱粉や、馬鈴薯、トウモロコシ、小麦、甘藷、タピオカ等の原料をエステル化、エーテル化、架橋、酸化、湿熱処理、酵素処理などの加工をして低粘度化処理したもの等が挙げられる。
【0013】
本発明の焼き菓子は、上記餡、山芋、製菓用起泡剤を含む生地に、必要により、卵、砂糖、黒糖、食塩、蜂蜜、バターオイル粉末、チーズ、チーズ粉末、クリーム、果汁、抹茶、コーヒー、紅茶、香料等を配合することができる。
【0014】
本発明の焼き菓子は、上記餡以外の山芋、製菓用起泡剤、副材料として卵、呈味剤などの材料をミキサーに入れ、ホイッパーにて中〜高速にて攪拌して乳化後、餡を投入し、更に起泡させて得られた生地を焼成する方法もしくは、全材料をミキサーに入れ、オールインミックス法にて得られた起泡生地を焼成する方法が可能である。生地は水分含有量が35〜45重量%に調製することが好ましい。生地中の水分量は、餡、山芋、起泡剤等に含まれる水分の他に、水を添加することにより調製することが出来るが、蛋白質を含む卵や、牛乳、チーズ、クリーム等の乳製品に含まれる水により補うと、蛋白質の効果により更にボリューム感、風味の良好な焼き菓子が得られるため好ましい。より生地の繋がりを均一にしてケーキ様のキメを整え、ボリュームのある焼き菓子を得るためには、上記餡以外の山芋、製菓用起泡剤、副材料として卵、呈味剤などの材料をミキサーに入れ、ホイッパーにて中〜高速にて攪拌して乳化後、餡を投入し、更に起泡させて生地を調製することが望ましい。最終生地の比重は0.70〜0.85に調整することが、ボリューム感がありケーキ様のキメが整った製品が得られるとともに、製品のひび割れを防ぐ上で望ましい。生地を焼成する温度は150〜180℃の範囲で適宜選択すれば良い。180℃を超えると製品が均一に焼きあがる前に焼き色が強く付いてしまい、150℃未満では十分に焼きあがらず、ボリュームも出なくなるので好ましくない。
【実施例】
【0015】
実施例1〜6、比較例1〜2
表1の配合により、山芋粉、澱粉を粉末状態で混合したものと、別途、全卵、卵黄、コンパウンドクリームを混合したものとを調製し、これらをミキサーボールに入れ、ホイッパーにて中高速で3分間ミキシングした。ついでこれに餡を加え、生地比重が0.78となるように、中高速でミキシングして生地を調製した。この生地を直径6cm、高さ18mmのアルミカップに35gずつ充填し、170℃のオーブンで焼成し、焼き菓子を得た。生地調製時の作業性、得られた焼き菓子のボリューム、形状、キメ及び官能試験により評価した結果を表1にあわせて示した。粉末状の起泡剤(起泡剤C)を配合する生地は、起泡剤を山芋粉、澱粉とともに粉末状で混合し、ペースト状の起泡剤(起泡剤A、起泡剤B)を配合する生地は、起泡剤を全卵、卵黄、コンパウンドクリームとともに混合して調製した。
【0016】
【表1】

【0017】
※1 小豆生餡(水分約61%、株式会社佐藤製餡所製)1kgに対し、グラニュー糖600g、水500gを添加して調製したBrix50の餡(水分約42%)
※2 白生餡(水分約61%、株式会社佐藤製餡所製)1kgに対し、卵黄60g、グラニュー糖600g、水400gを添加して調製したBrix50の餡(水分約41%)
※3 仙波糖化株式会社製の「山芋特A」
※4 ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトールを含有する起泡剤(三菱化学フーズ株式会社製リョートーエステルSP)
※5 グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、油脂、ソルビトールを含有する乳化型起泡剤(ミヨシ油脂株式会社製「パルファンドール」)
※6 グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、被覆剤としてカゼインナトリウム、コーンシロップ、油脂を水中油型に乳化し乾燥させて得た粉末化起泡剤(ミヨシ油脂株式会社製粉末油脂「マジカルケーキ」)
※7 ブラベンダーユニット104
※8 ブラベンダーユニット260
※9 ミヨシ油脂株式会社製「ハイクリーM」
【0018】
※10 生地作成時の作業性は、餡を加えた後の生地比重が0.78となるまでのミキシング時間により、以下の基準で評価した。
○ 作業性良い(3分〜4分未満で目標比重となった)。
△ 作業性普通(4分〜6分未満で目標比重となった)。
× 作業性悪い(目標比重になるのに6分以上かかった)。
※11 焼き菓子のボリューム、形状は、焼き上がった焼き菓子を目視して以下の基準で評価した。
◎ 割れがなく、焼き菓子上面が型の縁よりも上に盛り上がっている。
○ 割れがなく、焼き菓子の上面が型の縁と同等まで盛り上がっている。
△ 割れはないが、焼き菓子の上面が型の縁よりも下側にある。
× 割れがあり、焼き菓子の上面が型の縁よりも下側にある。
※12 焼き菓子のキメは、目視により以下の基準で評価した。
◎ 小さなキメが非常に揃っており、開いている。
○ 多少大きなキメも混在するが、キメが揃っている。
△ 大小様々なキメがあり、不均一である。
× 糊状でキメがない。
※13、14 パネラー10人が焼き菓子の口どけ、しとりを官能評価した。結果は、
◎ 10人中、8人以上が良好であると評価した。
○ 10人中、5〜7人が良好であると評価した。
△ 10人中、良好であると評価した人が3〜4人。
× 10人中、8人以上が良好でないと評価した。
として示した。
※15 パネラー10人が焼き菓子の餡の風味を官能評価し、
餡の風味が非常に良く出ていると評価したものに10点、
餡の風味が良く出ていると評価したものに5点、
餡の風味が不足していると評価したものに1点、
をつけ、10人の評価の合計点により、
○ 80点以上
△ 80点未満、50点以上
× 50点未満
として示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
餡と、山芋、食用乳化剤を含む製菓用起泡剤とを含有する生地を焼成したことを特徴とする焼き菓子。
【請求項2】
食用乳化剤を含む製菓用起泡剤が、水中油型乳化油脂を乾燥した粉末油脂である請求項1記載の焼き菓子。
【請求項3】
餡100重量部に対し、山芋1〜5重量部、食用乳化剤を有する製菓用起泡剤2〜10重量部を生地中に含有する請求項1又は2記載の焼き菓子。
【請求項4】
生地中に更にアミノグラフにおけるブラベンターユニットが300以下である澱粉を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の焼き菓子。

【公開番号】特開2009−38995(P2009−38995A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204974(P2007−204974)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】