説明

焼入れ品質検査装置

【課題】検査対象物に残留する磁気の影響を無くして、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を簡単に且つ精度良く検査することができる焼入れ品質検査装置を提供する。
【解決手段】検査対象物1の表面に接触させる通電用電極2,2と、電源4と、検査対象物1を流れる品質測定用電流が生成する磁界を測定する磁界検出手段5とを備える。磁界検出手段5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定する品質測定手段18を設ける。品質測定前に検査対象物1に残留する磁気を脱磁する脱磁手段7Aを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼材製品における焼入れ硬度分布、焼入れ深さ等の焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受等の転動製品には焼入れ処理や焼戻し処理が施される。これらの処理の中でも、高周波焼入れ処理や、浸炭処理、浸炭窒化処理等の表面硬化処理では、品質保証のために表面硬化層の検査が行われる。この検査では、実際の製品を切断して、その切断面上で、製品表面から深さ方向に硬度を測定して硬化層の深さを測定している。製品を切断できないものでは、テストピースに製品と同じ炉で熱処理を施し、そのテストピースを切断して前記と同様に硬化層深さを測定して、製品の硬化層深さの保証を行っている。
【0003】
このように、熱処理した転動製品の焼入れ硬化層深さの検査では、製品を切断する破壊検査が行われているが、この場合には製品が破壊されるため、マテリアルコストが大きくなる問題がある。また、製品の切断、および硬度計による深さ方向の硬度測定に時間がかかり、工数が大きくなる問題点もある。
製品を切断できない場合には、上記したようなテストピースにより保証が行われているが、実際の製品の検査ではないため、保証精度が悪い等の問題点がある。
【0004】
そこで、破壊検査での上記した課題を解決するために、焼入れ硬化層を非破壊で検査する方法が提案されている。その非破壊検査の提案例の一つは、焼入れによる導電率の変化を利用して検査する電位差法である。この方法は、検査対象物に接触させたプローブで、検査対象物に直流電流を通電し、この検査対象物におけるプローブの接触位置とは異なる位置で接触させた2つの探針間の電位差を測定して焼入れ深さを求めるものである(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−309355号公報
【特許文献2】特開2007−064817号公報
【特許文献3】特願2009−134727号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した非破壊検査方法では、検査対象物に直流電流を通電していることから、焼入れ深さの測定には有効であるものの、硬度の深さ方向の分布を測定できない。焼入れの品質保証精度を向上させるためには、焼入れ深さだけでなく、焼入れ硬度の深さ方向の分布検出が必要である。
【0007】
上記問題を解決するため、本件出願人は、図5に示すように、一対の通電用電極22,22と磁界を測定する磁界センサ25とを一体として検出ヘッド28を構成し、検査対象物21の表面に通電用電極22,22を接触させ、電源からこれら通電用電極22,22を通して検査対象物21に電流を通電し、検査対象物21中を流れる電流が生成する磁界を磁界センサ25で測定することで焼入れ深さや焼入れ硬度分布などを検査する焼入れ品質検査装置を提案した(特許文献3)。この装置では、電流の周波数を変化させることで電流が流れる深さを制御できるため、深さ方向の硬度分布を検出できる。
【0008】
ところで、軸受などの機械部品の製作における研磨工程では、その機械部品を保持するのにマグネットチャックなどを使用するため、製作される機械部品に磁気が残留する場合がある。このような磁気の残留する機械部品を検査対象物として上記した焼入れ品質検査装置で焼入れ硬化層深さの検査を行うと、残留磁気のために検査精度が悪化するという問題がある。この場合に、前記機械部品に残留する磁気を、予め脱磁機を用いて脱磁しておき、その後で焼入れ品質検査装置による検査を行うようにすれば、上記した問題を解消することができる。しかし、そのためには、焼入れ品質検査装置とは別に脱磁機を準備する必要があり、焼入れ品質検査の工程が複雑になるという新たな問題が生じる。
【0009】
この発明の目的は、検査対象物に残留する磁気の影響を無くして、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を簡単にかつ精度良く検査することができる焼入れ品質検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の焼入れ品質検査装置は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、前記検査対象物の表面に接触させる通電用電極と、この通電用電極を介して前記検査対象物に品質測定用の電流を印加する電源と、この電源により前記検査対象物を流れる品質測定用電流が生成する磁界を測定する磁界検出手段と、この磁界検出手段で測定した磁界により、前記検査対象物の焼入れ品質を測定する品質測定手段と、品質測定前に前記検査対象物に残留する磁気を脱磁する脱磁手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によると、検査対象物の表面に一対の通電用電極を接触させ、電源からこれら通電用電極を通して品質測定用の電流を通電する。この状態において、検査対象物を流れる電流が生成する磁界を、磁界検出手段で測定する。品質測定手段は、磁界検出手段で測定した磁界により、検査対象物の焼入れ品質を測定する。例えば、磁界の磁路断面積の変化が磁気抵抗の変化として現れ、この磁気抵抗の変化に基づく磁界の変化から、検査対象物の焼入れ硬度、焼入れ深さ等の焼入れ品質等を求める。
焼入れにより鋼材の透磁率、導電率が変化する。一般に焼入れにより鋼材の硬度が高くなる程、透磁率、導電率共に小さくなる。この理由により、焼入れ硬度、深さによって検査対象物に流れる電流が変化する。よって、電流がつくる磁界の磁路断面積の変化による磁界の変化を磁界検出手段で測定することにより、電流の変化を検出する。
【0012】
検査対象物1を電流が流れる深さは、表皮効果により周波数f、導電率σ、透磁率μにより変化する。ここで電流が流れる深さδは、次式(1)で表される。
δ=√(1/πfσμ) …(1)
上式(1)より、検査対象物1を電流が流れる侵入深さは周波数により変化する。このため、周波数を変化させることで、電流が流れる深さを変えながら測定を行うことができる。例えば、高周波電流を通電したときは、電流は検査対象物表面しか流れることができないので、検査対象物表面の焼入れ硬度を知ることができる。周波数を高周波側から次第に小さくしていくと、電流の侵入深さは大きくなっていく。したがって、例えば、周波数を高周波側から小さくしつつ磁界を測定することで、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定することができる。このように、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
特に、脱磁手段を設けて、品質測定前に前記検査対象物に残留する磁気を脱磁するようにしているので、別途脱磁機を設けることなく検査対象物に残留する磁気の影響を無くすことができ、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を簡単に且つ精度良く検査することができる。
【0013】
この発明において、前記脱磁手段は、前記電源に設けられ、品質測定前に前記通電用電極を介して前記検査対象物に脱磁用の電流を印加する脱磁用電流供給部であっても良い。この構成の場合、電源の構成の大部分と、前記通電用電極とを脱磁手段として共用できるので、構成を簡略化できる。
【0014】
この発明において、前記脱磁用の電流は、振幅が漸減する交流電流であるのが望ましく、その交流電流は一定周期のものであることが望ましい。
【0015】
また、この発明において、前記品質測定用の電流は、振幅が一定で周波数が変化する交流電流であるのが望ましい。
電源から検査対象物に印加する品質測定用の電流が、振幅が一定で周波数が変化する交流電流であると、周波数に応じて検査目的となる焼入れ品質を求めることができ、多様な品質検査を行うことができる。品質測定用の電流の周波数の変化は、次第に連続的に変化するようにしても、また段階的に変化するようにしても良い。
【0016】
この発明において、前記磁界検出手段は、低周波の磁界を測定可能な磁界センサであるのが望ましい。検査対象物に印加する交流電流の周波数が低い程、その交流電流は検査対象物の深い部分を流れるので、より深い位置での焼入れ硬度を知るためには、磁界センサは、低周波の磁界を測定できるものが望ましい。
【0017】
この発明において、前記磁界センサは、ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、TMRセンサ、MIセンサ、およびフラックスゲートセンサのうちのいずれか一つであっても良い。
【0018】
この発明において、前記品質測定手段は、前記焼入れ品質として、前記検査対象物の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを測定するものとしても良い。
【発明の効果】
【0019】
この発明の焼入れ品質検査装置は、検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、前記検査対象物の表面に接触させる通電用電極と、この通電用電極を介して前記検査対象物に品質測定用の電流を印加する電源と、この電源により前記検査対象物を流れる品質測定用電流が生成する磁界を測定する磁界検出手段と、この磁界検出手段で測定した磁界により、前記検査対象物の焼入れ品質を測定する品質測定手段と、品質測定前に前記検査対象物に残留する磁気を脱磁する脱磁手段とを備えるため、検査対象物に残留する磁気の影響を無くして、非破壊検査により検査対象物の焼入れ品質を簡単に且つ精度良く検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態にかかる焼入れ品質検査装置の概要を示す説明図である。
【図2】同焼入れ品質検査装置の構成を示すブロック図である。
【図3】同焼入れ品質検査装置の電源が供給する品質測定用電流の波形図である。
【図4】同焼入れ品質検査装置の脱磁手段が供給する脱磁用電流の波形図である。
【図5】提案例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1において、この実施形態の焼入れ品質検査装置の原理について説明する。この焼入れ品質検査装置では、検査対象物1に品質測定用の電流を通電し、その検査対象物1中を流れる電流3がつくる磁界6を測定することで焼入れ品質を検査する。図中で、磁界6は磁束を示す線により、電流3は流れ経路を示す線により、それぞれ図示している。検査対象物1は、焼入れ処理が施された部品、例えば軸受や軸受部品等の鋼材製品である。ただし、これらの鋼材製品に限定されるものではない。
【0022】
この例では、品質測定用の通電電流として交流電流が使用される。図1に示すように、品質測定用の交流電流は、検査対象物1に接触させた一対の通電用電極2,2を介して交流電源である電源4から供給、すなわち印加する。検査対象物1に交流電流を印加して、検査対象物1上に設けた磁界検出手段である磁界センサ5で、検査対象物1を流れる電流3が生成する磁界6を測定する。磁界センサ5は、磁界の強さまたは大きさおよび方向を検出するセンサであり、例えば電圧値で出力する。この明細書で言う「磁界センサ」は、磁気センサを含む。
検査対象物1となる鋼材は、焼入れにより透磁率、導電率が変化する。一般に焼入れにより鋼材の硬度が高くなる程、透磁率、導電率共に小さくなる。この理由により、焼入れ硬度、深さによって検査対象物1に流れる電流が変化する。よって、電流がつくる磁界の強さまたは大きさを磁界センサ5で測定することにより、電流の変化を検出する。
【0023】
検査対象物1を電流が流れる深さは、表皮効果により周波数f、導電率σ、透磁率μにより変化する。ここで電流が流れる深さδは、次式(1)で表される。
δ=√(1/πfσμ) …(1)
上式(1)より、検査対象物1を電流が流れる侵入深さδは周波数fにより変化する。このため、周波数fを変化させることで、電流が流れる深さδを変えながら測定を行うことができる。例えば、高周波電流を通電したときは、電流は検査対象物表面しか流れることができないので、検査対象物表面の焼入れ硬度を知ることができる。この観点から、より深い位置での焼入れ硬度を知るためには、磁界センサ5は、低周波の磁界を測定できるものが望ましい。周波数を高周波側から次第に小さくしていくと、電流の侵入深さδは大きくなっていく。したがって、例えば、周波数fを高周波側から小さくしつつ磁界を測定することで、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定することができる。このように、非破壊検査により検査対象物1の焼入れ品質を精度良く検査することができる。周波数fを変化させる場合、段階的に変化させても、また連続的に変化させても良い。
【0024】
図2は、焼入れ品質検査装置の構成を示す。この焼入れ品質検査装置は、検出ヘッドとなるプローブ8と、測定装置9とを有する。プローブ8は、検査対象物1の表面1aに接触させる一対の通電用電極2,2と、電源4により検査対象物1を流れる品質測定用の電流が生成する磁界を測定する磁界センサ5とを一体にしたものである。すなわち磁界センサ5は、センサ基板11に実装され、モールド材12等でセンサハウジング13に固定されている。センサハウジング13は樹脂等の非磁性体であることが望ましい。センサハウジング13は、図示の例では、ブロック状に形成されて下面の外周に周壁が突出し、その周壁の内方が凹み部となった形状を成しており、その凹み部の底面にセンサ基板11が配置される。前記モールド材12は、磁界センサ5が実装されたセンサ基板11と前記センサハウジング13の前記周壁との間の隙間を埋める。
【0025】
センサハウジング13には、センサ基板11への配線である電極14,15および前記一対の通電用電極2,2が固定される。各通電用電極2は丸棒状に形成されこの通電用電極2の少なくとも一端部が、センサハウジング13の端面から突出するように、プローブ8に上から下に向けて配置されている。電極14,15および通電用電極2は、センサハウジング13に設けられた貫通孔に挿通される。また一対の通電用電極2,2は所定距離隔てて平行に配置され、且つ、これら通電用電極2,2間に磁界センサ5が配置されている。各通電用電極2の他端部は、測定装置9における後述の増幅回路16に電気的に接続され、センサ基板11に固着される電極14,15が測定装置9における後述のセンサ信号処理回路17に電気的に接続されている。
【0026】
図2において、前記測定装置9は、電源4と、品質測定手段18を有する。電源4は、周波数可変の発振回路19と、この発振回路19から出力された交流信号を増幅して検査対象物1に通電する電流を供給つまり印加する増幅回路16とを含む。発振回路19は、品質測定手段18の信号処理部20に電気的に接続され、この信号処理部20からの指示により周波数を変化させる。
品質測定手段18は、発振回路19から出力される品質測定用の交流電流の周波数を変化させながら磁界センサ5で測定した磁界により、検査対象物1の焼入れ品質を測定するものである。ここでは、品質測定用の交流電流は、図3のように振幅が一定で周波数が連続的に次第に変化する波形とされている。周波数の変化は、段階的に生じるようにしても良い。この品質測定手段18は、磁界センサ5の信号に増幅、リニア化、フィルタ処理等の前処理を施すセンサ信号処理回路17と、センサ信号処理回路17で前処理された磁界センサ信号から焼入れ深さや硬度分布を推定する信号処理部20とを有する。
【0027】
信号処理部20は、焼入れ品質として、検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さ(「焼入れ硬度等」と称す)を推定する手段である。信号処理部20は、検出された電圧値を、これらの各品質項目毎に定められた磁気抵抗の変化量に見合う電圧値と品質値(表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、焼入れ深さ等)の関係に照らし、対応する前記表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、焼入れ深さ等を推定値として出力する。ただし、これら検査対象物1の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さのうちの少なくともいずれか1つを測定するものとしても良い。信号処理部20は、判定部20aと周波数変更指令部20bとを有し、判定部20aにより、上記の推定と、次の異常判定とを行う。
【0028】
判定部20aは、測定値から上記のように推定した焼入れ品質が設定品質値を下回るときに、品質異常つまり焼入れ異常と判定する。判定部20aは、センサ信号処理回路17で処理された信号に比例する深さ方向の焼入れ硬度等を算出する電子回路と、異常判定を行う電子回路とからなる。判定部20aの上記焼入れ硬度等を算出する電子回路は、検出された電圧値と深さ方向の焼入れ硬度等との関係を演算式またはテーブル等で設定した関係設定手段(図示せず)を有し、測定した磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号である電圧値を、前記関係設定手段に照らし深さ方向の焼入れ硬度等を算出する。
前記設定品質値は、種々の試験等から求めて適宜設定される閾値であり、例えば書換え可能な不図示の記憶媒体等に記憶される。判定部20aは、異常判定として、前記関係設定手段に照らして算出した任意の深さの焼入れ硬度が、同深さにおける設定品質値を下回るか否かを判定する。前記算出した焼入れ硬度が設定品質値を下回るとき、品質異常と判定する。
【0029】
周波数変更指令部20bは、交流電源4の発振回路19に交流信号の周波数を連続的にを変化させる指令を与える。この周波数変更指令部20bの指令を受け、発振回路19の出力する交流信号の周波数が図3のように順次変化する。ここでは、周波数変更指令部20bは、品質測定用電流となる発振回路19の交流信号の周波数のみを可変設定するものとしたが、周波数のほか振幅も可変設定できるようにしても良い。また、周波数変更指令部20bは、例えば、周波数を変える変更幅、頻度、変更の繰り返し周期等の規則等が、目的とする焼入れ品質の種類や、検査対象物1の種類等に応じて複数種類設定されていて、適宜の入力により任意の規則が選択可能なものであっても良い。具体例を示すと、前記交流電流は、一つの検査対象物を検査する間に、例えば、10Hz〜 10kHzの間で変化させる。
【0030】
周波数変更指令部20bは、検査対象物1の同一箇所において発振回路19に周波数を変更する指令を与える。これにより、検査対象物1を電流が流れる侵入深さが変化する。この場合に、判定部20aは測定した磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号を、前記関係設定手段に照らし各深さの焼入れ硬度を算出する。このような周波数変更を繰り返すことで、判定部20aは焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定し得る。なお、判定部20aは、複数の周波数における、磁界の強さまたは大きさおよび方向に基づく信号を一旦記憶しておき、焼入れ硬度の深さ方向の分布を推定するようにしても良い。
【0031】
前記測定装置9には、品質測定前に検査対象物1に脱磁用の電流を印加するための脱磁用電流供給部7Aが設けられる。この脱磁用電流供給部7Aは前記電源4に設けられる。脱磁用電流供給部7Aから供給される脱磁用の電流は、通電用電極2,2を介して検査対象物1に印加され、これにより検査対象物1に残留する磁気が品質測定前に脱磁される。すなわち、脱磁用電流供給部7Aおよび通電用電極2,2は、品質測定前に検査対象物1に残留する磁気を脱磁する脱磁手段を構成する。
【0032】
電源4における脱磁用電流供給部7Aは、モード選択部10と、発振回路19と、増幅回路16とでなる。脱磁用電流供給部7Aの一部を構成する発振回路19および増幅回路16は品質測定用電流の供給部7Bと共用される。モード選択部10は、品質測定前に外部からのスイッチなどによる選択指令を受けて、発振回路19を、その交流信号が、例えば図4に示すように、一定周波数で振幅が漸減する信号波形となるように制御する。すなわち、脱磁用電流供給部7Aから通電用電極2,2を介して検査対象物1に印加される脱磁用電流は、一定周波数で振幅が漸減する交流電流となる。振幅の変化は、例えば、一つの検査対象物の脱磁を行う間に、脱磁用電流として最大電流を印加する振幅から零まで変化させる。外部からモード選択部10に選択指令が入力されない場合には、電源4における上記した品質測定用電流供給部7Bだけが作動して、図3に示すような波形図の品質測定用の交流電流が通電用電極2,2を介して検査対象物1に印加される。
また、測定を行う前に、周波数を一定にして振幅のみを変化させる指令を周波数変更指令部20bから脱磁用電流供給部7Aに与えて脱磁を行っても良い。この場合、モード選択部10を省略することができる。
【0033】
このように、この焼入れ品質検査装置では、通電用電極2,2を検査対象物1の表面に接触させ、電源4から通電用電極2,2を介して検査対象物1に品質測定用電流を印加し、このとき検査対象物1を流れる電流が生成する磁界を磁界検出手段である磁界センサ5で測定し、この磁界センサ5で測定した磁界により品質測定手段18で検査対象物1の焼入れ品質を測定するようにしたので、非破壊検査により検査対象物1の焼入れ品質を精度良く検査することができる。
【0034】
特に、脱磁手段となる脱磁用電流供給部7Aを測定装置9の電源4に設けて、品質測定前に検査対象物1に残留する磁気を脱磁するようにしているので、別途脱磁機を用いることなく、検査対象物1に残留する磁気の影響を無くして、非破壊検査により検査対象物1の焼入れ品質を簡単に、且つ精度良く検査することができる。また、検出ヘッドとなるプローブ8内に脱磁用のコイルを設ける必要がないので、プローブ8の構造の簡略化および小型化も可能となる。
【0035】
また、この実施形態では、脱磁用の電流を、振幅が漸減する交流電流としており、またその交流電流の周期を一定周期としているので、検査対象物1の残留磁気を脱磁するのにより効果を上げることができる。
【0036】
また、この実施形態では、前記品質測定手段18が、交流電源の出力する周波数を種々変化させる周波数変更指令部20bを有し、かつこの周波数変更指令部20bで変化させた各周波数における磁界を測定し、焼入れ品質を測定する機能を有するものとしているので、検査目的となる焼入れ品質を求めるのに適した周波数の変更が行い易い。
【0037】
また、この実施形態では、品質測定用の電流として、周波数が順次変化する交流電流を用いたが、周波数を変化させない単一周波数の交流電流を用いることも可能である。さらには、品質用の電流として直流電流を用いても良い。この場合には、検査対象物1に、方向、大きさが種々異なる電流を印加して、方向、大きさが異なる電流毎の磁界の強さまたは大きさおよび方向を測定しても良い。この場合にも、前記実施形態のものと同様に検査対象物1の焼入れ深さを測定し得る。
【0038】
上記実施形態において磁界検出手段として用いた磁界センサ5には、磁気インピーダンス素子(MIセンサ、MI:Magneto-Impedance)、磁気抵抗素子(MRセンサ、MR:Magnetoresistive)、巨大磁気抵抗素子(GMRセンサ、GMR:Giant Magnetoresisitive )、トンネル磁気抵抗素子(TMRセンサ、TMR:Tunnel Magnetoresisitive)、ホールセンサ、フラックスゲートセンサ等を使用することができる。交流磁界のみを測定する場合、巻き線型の磁界センサを使用しても良い。
【符号の説明】
【0039】
1…検査対象物
2…通電用電極
4…電源
5…磁界センサ(磁界検出手段)
7A…脱磁用電流供給部(脱磁手段)
18…品質測定手段
20b…周波数変更指令部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に電流を通電し、その検査対象物中を流れる電流がつくる磁界を測定することで焼入れ品質を検査する焼入れ品質検査装置であって、
前記検査対象物の表面に接触させる通電用電極と、この通電用電極を介して前記検査対象物に品質測定用の電流を印加する電源と、この電源により前記検査対象物を流れる品質測定用電流が生成する磁界を測定する磁界検出手段と、この磁界検出手段で測定した磁界により、前記検査対象物の焼入れ品質を測定する品質測定手段と、品質測定前に前記検査対象物に残留する磁気を脱磁する脱磁手段とを備えることを特徴とする焼入れ品質検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記脱磁手段は、前記電源に設けられ、品質測定前に前記通電用電極を介して前記検査対象物に脱磁用の電流を印加する脱磁用電流供給部である焼入れ品質検査装置。
【請求項3】
請求項2において、前記脱磁用の電流は、振幅が漸減する交流電流である焼入れ品質検査装置。
【請求項4】
請求項3において、前記脱磁用の電流が一定周期の交流電流である焼入れ品質検査装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記品質測定用の電流は、振幅が一定で周波数が変化する交流電流である焼入れ品質検査装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記磁界検出手段は、低周波の磁界を測定可能な磁界センサである焼入れ品質検査装置。
【請求項7】
請求項6において、前記磁界センサが、ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、TMRセンサ、MIセンサ、およびフラックスゲートセンサのうちのいずれか一つである焼入れ品質検査装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記品質測定手段は、前記焼入れ品質として、前記検査対象物の表面硬度、深さ方向の焼入れ硬度分布、および焼入れ深さの少なくとも一つを測定する焼入れ品質検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−252787(P2011−252787A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126576(P2010−126576)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】