焼入れ装置
【課題】加熱処理されたワークを順次安定した姿勢で冷却液槽内に投入し、ワークの変形等を抑制して歩留まりを向上させる焼入れ装置を提供する。
【解決手段】焼入れ油18を貯留する油槽12と、水平面に沿った周回軌道上に所定のピッチで配列され、ワークを一定の姿勢で個別に保持する複数のワーク保持体13と、油槽12の外部に配置され、複数のワーク保持体13を周回軌道に沿って循環させる移動機構14と、油槽12の外部に配置され、ワーク保持体13を上下に昇降させて当該ワーク保持体13で保持されたワークWを油槽12に貯留された焼入れ油18の上方位置と焼入れ油18の内部との間で上下方向に移動させる昇降機構15とを備える。周回軌道上の所定位置には、ワーク投入領域A1とワーク引上領域A2とが設定され、昇降機構15は、ワーク引上領域A2とワーク投入領域A1とでワーク保持体を昇降させる昇降制御手段を有する。
【解決手段】焼入れ油18を貯留する油槽12と、水平面に沿った周回軌道上に所定のピッチで配列され、ワークを一定の姿勢で個別に保持する複数のワーク保持体13と、油槽12の外部に配置され、複数のワーク保持体13を周回軌道に沿って循環させる移動機構14と、油槽12の外部に配置され、ワーク保持体13を上下に昇降させて当該ワーク保持体13で保持されたワークWを油槽12に貯留された焼入れ油18の上方位置と焼入れ油18の内部との間で上下方向に移動させる昇降機構15とを備える。周回軌道上の所定位置には、ワーク投入領域A1とワーク引上領域A2とが設定され、昇降機構15は、ワーク引上領域A2とワーク投入領域A1とでワーク保持体を昇降させる昇降制御手段を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理した後のワークを冷却液に浸漬して焼入れを行う焼入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受を構成する外輪及び内輪は、焼入れによる硬化処理が行われている。このような焼入れ処理を行う装置として、下記特許文献1及び2には、搬送コンベアによってワーク(外輪、内輪)を搬送しながら、加熱炉によってワークを加熱し、加熱炉を通過したワークを搬送コンベアの終端において油槽内に投入し、この油槽内に貯留された焼入れ油にワークを浸漬して焼入れを施し、油槽内に設置された引き上げコンベアによってワークを引き上げるようにした連続焼入れ炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−84635号公報
【特許文献2】特開2001−317876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に記載された連続焼入れ炉は、大量のワークを連続して処理可能であるため、生産性が高いという利点がある。
しかしながら、この連続焼入れ炉は、加熱処理済みのワークを搬送コンベアの終端で落下させて油槽内に投入しているため、ワークの落下時に、焼入れ油の油面や油槽内の引き上げコンベア、搬送コンベアと油槽との間に設けられた案内シュート等にワークが衝突し、ワークに打ち傷や変形が生じる場合がある。また、焼入れ油に落下したときのワークの姿勢が一定ではないため、冷却ムラが生じやすく、焼入れ変形量も大きくなる傾向にある。したがって、特許文献1又は2に記載された連続焼入れ炉では、ワークの歩留まりが悪く、焼入れ後の矯正が必要になるケースも多くなるという欠点がある。
また、油槽からワークを引き上げるために、引き上げコンベアという大掛かりな機構が必要となり、この引き上げコンベアを設置するために大きな油槽が必要で、その設置スペースが増大するとともに、大量の焼入れ油が必要になるという欠点もある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、加熱処理されたワークを、順次安定した姿勢で冷却液槽内に投入することにより、ワークの変形等を抑制して歩留まりを向上させることができ、更に冷却液にワークを投入する構成、引き上げる構成を簡素化して冷却液槽の小型化を可能にする焼入れ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、加熱処理済みのワークを冷却液に浸漬して焼入れする焼入れ装置であって、
冷却液を貯留する冷却液槽と、
水平面に沿った周回軌道上に所定のピッチで配列され、かつワークを一定の姿勢で個別に保持する複数のワーク保持体と、
前記冷却液槽の外部に配置され、前記複数のワーク保持体を前記周回軌道に沿って循環させる移動機構と、
前記冷却液槽の外部に配置され、前記ワーク保持体を昇降させることで、当該ワーク保持体によって保持されたワークを前記冷却液槽に貯留された冷却液の上方位置と当該冷却液の内部との間で上下方向に移動させる昇降機構と、を備えており、
前記周回軌道上の所定位置にワーク投入領域とワーク引上領域とが設定され、
前記昇降機構は、前記ワーク投入領域と前記ワーク引上領域とにおいて前記ワーク保持体を昇降させる昇降制御手段を有していることを特徴とする。
【0007】
本発明の焼入れ装置によれば、ワーク投入領域において上昇しているワーク保持体にワークを供給し、その後、ワーク保持体を下降させてワークを冷却液に投入するとともに周回軌道上を循環させて焼入れを行い、ワーク引上領域に移動したワーク保持体を再び上昇させてワークを冷却液から引き上げ、焼入れ装置からワークを取り出すことができる。ワークは、ワーク保持体によって安定した姿勢に保持されるので、冷却液に投入するときに打ち傷や変形が生じることはほとんどなく、また、冷却ムラの発生も防止することができる。したがって、歩留まりの向上を図ることができる。
【0008】
また、ワーク保持体を昇降させることによって冷却液に対するワークの投入と引き上げとを行うことができるので、ワークの投入及び引き上げのための構成を簡素化して冷却液槽を小型化することが可能となる。また、ワークを周回軌道上で循環させながら焼入れを行うことができるので、小型の冷却槽であっても充分な焼入れ時間(冷却時間)を確保することができる。
【0009】
また、移動機構や昇降機構は冷却液槽の外部に配置されているので、当該機構を冷却液槽の内部(例えば、冷却液の下方領域)に配置する場合に比べて、各機構の構成を簡素化することができるとともに、メンテナンスも容易に行うことができ、より冷却液槽の小型化に寄与することができる。
【0010】
(2)前記ワーク引上領域において、前記冷却液槽に貯留された冷却液から引き上げられたワークにガスを吹き付けるガス吹付機構を更に備えていることが好ましい。
この構成によれば、ワーク引上領域において冷却液から引き上げられたワークに対してガスを吹き付けることで、当該ワークに付着した冷却液を吹き飛ばすことができる。
【0011】
(3)前記ガス吹付機構は、前記冷却液槽の内部でかつ前記冷却液の液面の上方においてワークにガスを吹き付けることが好ましい。
この構成によれば、ガスが吹き付けられることによってワークから吹き飛ばされた冷却液は、冷却液槽の外部へ飛び出すことはほとんどなく、周囲を冷却液で汚してしまうこともない。
【0012】
(4)本発明の焼入れ装置は、前記冷却液の内部において、前記ワーク保持体によって保持されたワークの外周全体に冷却液を噴射する冷却液噴射機構を更に備えていることが好ましい。
このような構成によって、ワークの均一な冷却が可能となり、冷却ムラを防止することができる。
【0013】
(5)前記冷却液噴射機構は、前記ワーク投入領域において前記冷却液の内部のワークに冷却液を噴射することが好ましい。
この構成によれば、冷却液に投入された直後のワークに冷却液を噴射することができるので、冷却ムラをより確実に防止することができる。
【0014】
(6)前記昇降機構は、前記ワーク引上領域と前記ワーク投入領域との間における前記ワーク保持体の移動中、当該ワーク保持体を上昇させた状態に保持する高さ保持部を有していることが好ましい。
この構成によれば、ワーク引上領域においてワーク保持体を上昇させてワークを取り出した後、ワーク投入領域においてワーク保持体に新たなワークを供給するまでの間、ワーク保持体を上昇させた状態で維持することができるので、ワーク保持体の無駄な昇降動作をなくすことができる。
【0015】
(7)前記周回軌道は、鉛直軸を中心とする円軌道であり、前記移動機構は、複数のワーク保持体を前記円軌道に沿って旋回させることが好ましい。
これにより、簡単な構成で複数のワーク保持体を周回軌道上で循環させることができる。
【0016】
(8)前記移動機構は、鉛直軸回りに回転可能な回転台と、この回転台を回転させる回転駆動部と、を有しており、
前記ワーク保持体は、前記鉛直軸に平行な上下方向の軸心を有するとともに前記回転台に対して上下方向に摺動可能に支持された支持ロッドと、この支持ロッドの下端部に設けられてワークを保持する保持部材と、前記支持ロッドの上端部に設けられた係合部材と、を備えており、
前記昇降機構は、前記ワーク引上領域及び前記ワーク投入領域において、前記係合部材に下側から係合する被係合部材と、この被係止部材を昇降させる昇降駆動部と、を有していることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、回転駆動部によって回転台を回転させることで、ワーク保持体を円形の周回軌道(円軌道)上で循環させることができる。また、ワーク引上領域及びワーク投入領域において、支持ロッドの上端部に設けられた係合部材に昇降機構の被係合部材を下側から係合させ、昇降駆動部により被係合部材を昇降させることによって、ワーク保持体を昇降させることができる。
【0018】
(9)前記保持部材は、上面にワークを載置させる載置具を備えており、
前記載置具は、ワークを3箇所以上で支持する支持部と、
当該載置具を上下方向に貫通し、冷却液を上下方向に流通可能な貫通部と、を備えていることが好ましい。
このような構成により、支持部によってワークを一定の姿勢で安定して保持することが可能になるとともに、貫通部を流通する冷却液によって冷却性能を向上させ、冷却ムラの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、連続的に加熱処理されたワークを、順次安定した姿勢で冷却液槽内に投入することができ、ワークの変形等を抑制して歩留まりを向上させることができる。また、冷却液にワークを投入する構成、冷却液からワークを引き上げる構成を簡素化して冷却液槽の小型化を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る焼入れ装置の正面図(一部断面図)である。
【図2】同焼入れ装置の側面図(一部断面図)である。
【図3】図2のIII−III矢示図である。
【図4】回転台の拡大側面図である。
【図5】ワーク保持体及び回転台を概略的に示す斜視図である。
【図6】被係合部材(高さ保持部)を示す正面図である。
【図7】被係合部材(高さ保持部)を示す平面図である。
【図8】焼入れ油噴射機構及びガス吹付機構の平面断面図である。
【図9】焼入れ油噴射機構の概略側面図である。
【図10】ガス吹付機構の概略側面図である。
【図11】焼入れ装置の動作サイクルを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る焼入れ装置10の正面図(一部断面図)、図2は、同焼入れ装置10の側面図(一部断面図)、図3は、図2のIII−III矢示図である。
本実施の形態の焼入れ装置10は、例えば搬送コンベアによって連続的に搬送されながら加熱炉によって加熱処理された複数のワークW(例えば、環状部材である転がり軸受の外輪や内輪)を順次焼入れ油18に浸漬して焼入れするための装置である。この焼入れ装置10には、図3に示されるように、ロボットハンドR等を利用して加熱処理済みのワークWが供給されるとともに焼入れ済みのワークWが取り出される。
【0022】
焼入れ装置10は、油槽(冷却液槽)12と、複数のワーク保持体13と、移動機構14と、昇降機構15とによって主に構成されている。油槽12は、上方が開放した略矩形の箱型に形成されており、四角形状の底壁16と、この底壁16の4辺から立ち上がる4つの側壁17a〜17dとを有している。そして、油槽12の内部には、焼入れ油(冷却液)18が貯留されている。
【0023】
〔ワーク保持体13の構成〕
ワーク保持体13は、図5に示されるように、長尺に形成されていて上下方向(鉛直方向)に沿った軸心を有する支持ロッド20と、この支持ロッド20の下端部に設けられ、ワークWを保持するワーク受け部材(保持部材)21と、支持ロッド20の上端に設けられ、後述する昇降機構15の被係合部材49に係合する係合部材22と、を有している。本実施の形態の焼入れ装置10には、6個のワーク保持体13が設けられている。支持ロッド20は、外周面に軸方向に延びるスプライン溝が形成されたスプライン軸とされている。係合部材22は、支持ロッド20の上端に嵌合する筒部22aと、この筒部22aの上端に設けられた平面視四角形状の係合板22bとを有している。
【0024】
ワーク受け部材21は、支持ロッド20の下端部から水平に突出するアーム23と、このアーム23の先端部から上方に突出する支持台24と、この支持台24の上端部に設けられてワークWが載置される載置具25とを備えている。また、載置具25は、ワークWを3箇所以上で支持する支持部と、載置具25を上下方向に貫通する貫通部とを有している。そして、この貫通部を介して焼入れ油18が載置具25の内部を上下方向に移動(流通)可能に構成されている。
【0025】
より具体的に、載置具25は、略円柱状に形成されており、薄板材によって円環状に形成された外周板26と、この外周板26の内側に放射状に設けられた3枚以上の複数枚の支持板27とを備えている。複数枚の支持板27を上下方向から見ると、隣接する支持板27の間の角度(劣角)は180度未満とされる。また、好ましくは、複数枚の支持板27は等間隔(等角度)をおいて配置される。本実施の形態では、6枚の支持板27が60°間隔(ピッチ)で等間隔に配置されている。
【0026】
載置具25は、支持板27の上端縁にワークWを載置することによって、当該ワークWを3つ以上の箇所で一定の姿勢に保持することが可能となっている。したがって、この複数枚の支持板27が上記支持部を構成している。また、外周板26と各支持板27とによって囲まれて上下方向に貫通する空間が上記貫通部を構成している。この空間により、載置具25上のワークW全体に焼入れ油18が触れやすくなるので、冷却性能を向上させることができるとともに、冷却ムラの発生を防止することが可能である。
【0027】
〔移動機構14の構成〕
図1及び図2に示されるように、油槽12の底壁16の中央部には支持柱29が立設され、この支持柱29に移動機構14が支持されている。移動機構14は、支持柱29の上端に回転自在に支持された回転台32と、この回転台32を回転駆動する回転駆動部33と、この回転駆動部33を動作制御する回転制御手段(図示略)とを有している。回転台32及び回転駆動部33は、油槽12に貯留された焼入れ油18の油面よりも上方に配置されている。
【0028】
図4及び図5に示されるように、回転台32は、上下方向の軸心を有する円盤状に形成されるとともに、その中心に回転軸(鉛直軸)34が一体回転可能に連結されている。回転軸34は、支持柱29の上端部に固定された軸受部材35によって回転自在に支持されている。
回転台32の外周部には、周方向に一定のピッチで複数の貫通孔37が形成されている。本実施の形態の回転台32には、ワーク保持体13と同数の6個の貫通孔37が形成されており、各貫通孔37のピッチ角度は60°とされている。
【0029】
また、回転台32の下面には、各貫通孔37に対応して支持筒38が固定されている。各貫通孔37及び各支持筒38には、ワーク保持体13の支持ロッド20が回転軸34と平行な上下方向(鉛直方向)に沿って摺動可能に挿通されている。そして、図2に示されるように、回転台32に対して支持ロッド20が下方に摺動すると、係合部材22が回転台32の上面に係合してワーク保持体13が回転台32に吊り下げられた状態となり、ワーク受け部材21上のワークWが油槽12内の焼入れ油18に浸漬される。また、図1に示されるように、回転台32に対して支持ロッド20が上方に摺動すると、ワーク受け部材21に保持されたワークWは焼入れ油18の上方へ引き上げられる。
【0030】
なお、以下の説明において、ワークWが焼入れ油18に浸漬されているときのワーク保持体13の位置を「下降位置L」といい、ワークWが焼入れ油18から引き上げられているときのワーク保持体13の位置を「上昇位置H」という。したがって、図1に実線で示されるワーク保持体13は上昇位置Hにあり、図2に実線で示されるワーク保持体13は下降位置Lにある。
【0031】
図5に示されるように、支持筒38には、支持ロッド20のスプライン溝に嵌合するスプライン溝が形成されており、支持ロッド20は、支持筒38によってその軸心回りの回転が規制されている。各ワーク保持体13は、図3に示されるように、ワーク受け部材21のアーム23が支持ロッド20から径方向外方へ向けて突出するように回転台32に支持されている。
【0032】
回転駆動部33は、図2及び図3に示されるように、電動モータ等からなる回転駆動体40と、この回転駆動体40の動力を回転軸34に伝達する動力伝達機構41とからなる。回転駆動体40は、油槽12の後部側壁17cの上部にブラケット42を介して固定されている。動力伝達機構41は、回転駆動体40の出力軸に設けられたプーリ43と、回転軸34の上端に設けられたプーリ44と、両プーリ43,44に巻き掛けられた伝動ベルト45とから構成されている。
【0033】
回転台32に支持されている複数(6個)のワーク保持体13は、回転駆動部33の作動により回転軸34を中心としかつ水平面に沿った円形の周回軌道上を図3の時計回りに循環する。また、回転駆動部33は、各ワーク保持体13を所定の回転量ずつ間歇的に循環させるように作動する。具体的に、本実施の形態の回転駆動部33は、ワーク保持体13を1/2ピッチずつ、すなわち30°のピッチ角度で間歇的に循環させる。このワーク保持体13の循環の詳細については後述する。
【0034】
また、図3に示されるように、ワーク保持体13の周回軌道上の所定位置には、ワークを焼入れ油18に投入するためのワーク投入領域A1と、焼入れが終了したワークを焼入れ油18から引き上げるためのワーク引上領域A2とが設定されている。ワーク投入領域A1とワーク引上領域A2とは、油槽12の前部側で互いに左右に隣接した位置に設定されている。したがって、ワーク投入領域A1で投入されたワークWは焼入れ油18内で時計回りに循環し、一周弱(300°)回転したところでワーク引上領域A2に到り、当該領域A2において焼入れ油18から引き上げられる。
【0035】
〔昇降機構15の構成〕
図1及び図2に示されるように、昇降機構15は、前述のワーク投入領域A1とワーク引上領域A2とのそれぞれにおいて、ワーク保持体13を上下に昇降させ、焼入れ油18に対するワークの投入と引き上げとを可能にするものであり、ワーク投入用の昇降機構15Aと、ワーク引上用の昇降機構15Bとから構成されている。
【0036】
各昇降機構15A,15Bは、油槽12の左右側壁17a,17bの上端と、後部側壁17cの上端とに立設された支持フレーム30の上部に支持されている。また、各昇降機構15A,15Bは、ワーク保持体13の係合部材22に係脱可能に係合する被係合部材49A,49Bと、この被係合部材49A,49Bを昇降させる昇降駆動部50A,50Bと、この昇降駆動部50A,50Bを動作制御する昇降制御手段(図示略)を有している。
【0037】
図4及び図6に示されるように、昇降機構15A,15Bの被係合部材49A,49Bは、ワーク投入領域A1及びワーク引上領域A2に移動したワーク保持体13の係合部材22に対して下側から係合可能な一対のローラからなる。昇降機構15A,15Bの昇降駆動部50A,50Bは、上下方向に伸縮動作するエアシリンダ又は油圧シリンダからなり、そのシリンダチューブが支持フレーム30に支持され、ピストンロッドの下端部に取付部材52A,52Bを介して被係合部材49A,49Bが取り付けられている。
【0038】
そして、図1に示されるように、ワーク投入用の昇降機構15Aは、ワーク投入領域A1にワーク保持体13が移動することによって、当該ワーク保持体13の係合部材22に被係合部材49Aを係合させることができ、さらに昇降駆動部50Aを作動させることによって、ワーク保持体13を上昇位置Hと下降位置Lとに配置することができる。
【0039】
また、ワーク引上用の昇降機構15Bは、ワーク引上領域A2にワーク保持体13が移動することによって、当該ワーク保持体13の係合部材22に被係合部材49Bを係合させることができ、さらに昇降駆動部50Bを作動させることによって、ワーク保持体13を上昇位置Hと下降位置Lとに配置することができる。また、昇降機構15Bは、上昇位置Hと下降位置Lとの間の中間位置Mにもワーク保持体13を配置することができる。
【0040】
なお、図1及び図3に示されるように、ワーク投入領域A1において上昇位置に配置されたワーク受け部材21は、光電センサ等からなる検出器70によって検出され、ワーク引上領域A2において上昇位置Hに配置されたワーク保持体13のワーク受け部材21は、光電センサ等からなる検出器71によって検出される。
【0041】
図6及び図7に示されるように、昇降機構15A,15Bを支持する支持フレーム30には、上昇した被係合部材49A,49Bの間に対応する位置に、中継用の被係合部材(高さ保持部)49Cが備えられている。この被係合部材49Cは、被係合部材49A,49Bと同様に一対のローラからなり、ワーク引上領域A2からワーク投入領域A1へ循環移動するワーク保持体13の係合部材22を、被係合部材49Bから被係合部材49Aに受け渡すために設けられている。
【0042】
この被係合部材49Cを備えることによって、ワーク引上領域A2においてワーク保持体13を上昇させた状態で焼入れ装置10からワークWを取り出し、その後、ワーク保持体13を下降させることなくワーク投入領域A1に移動させ、このワーク保持体13に新たなワークWを供給することができる。
【0043】
なお、ワーク保持体13の係合部材22は、ワーク引上領域A2に配置された状態から1/2ピッチ(30°)移動することによって被係合部材49Bから被係合部材49Cに受け渡され、更に時計回りに1/2ピッチ移動することによって、被係合部材49Cから被係合部材49Aへ受け渡される。
【0044】
〔その他の構成〕
図1及び図3に示されるように、ワーク投入領域A1には、下降位置Lにあるワーク保持体13に保持されたワークWに向けて焼入れ油18を噴射する焼入れ油噴射機構55が設けられている。この焼入れ油噴射機構55は、平面視において、ワーク保持体13の載置具25の外径よりもやや大きな内径を有する略円環状(C字形状)の噴射部材56と、この噴射部材56に接続された配管部材57と、配管部材57を介して噴射部材56に焼入れ油18を供給する噴射ポンプ58とを備えている。配管部材57は、固定部材59を介して油槽12の側壁17aに固定されている。
【0045】
図8に示されるように、噴射部材56は、中空のパイプ部材を湾曲することによって略円環状に形成されており、その内周面のやや下側に複数の噴射口61が等間隔に形成されている。そして、図9に示されるように、噴射部材56の噴射口61から噴射する焼入れ油18は、油槽12内において下降位置Lにあるワーク保持体13に保持されたワークWの外周全体の径方向外側から径方向内方に向けてやや下向きに噴射され、ワークWを均一に冷却するようになっている。
【0046】
図1及び図3に示されるように、ワーク引上領域A2には、上昇位置Hと下降位置Lとの間の中間位置M(図1,図10参照)にあるワーク保持体13に保持されたワークWに向けて圧縮空気(エア)を吹き付けるエア吹付機構(ガス吹付機構)63が設けられている。このエア吹付機構63は、ワーク保持体13の載置具25の外径よりもやや大きな内径を有する略円環状(C字形状)の吹付部材64と、この吹付部材64に接続された配管部材65と、配管部材65を介して吹付部材64に圧縮空気を供給するコンプレッサ等の圧縮空気供給源(ガス供給源)66と、を備えている。配管部材65は、固定部材67を介して油槽12の側壁17bに固定されている。なお、本実施の形態では、大気中において焼入れ処理(冷却処理)を行うためにワークWに吹き付けるガス(気体)としてエアを用いているが、例えば不活性雰囲気下で焼入れ処理を行う場合には、当該雰囲気に応じたガス(窒素ガス、アルゴンガス等)を用いてワークに吹き付けることができる。
【0047】
図8に示されるように、吹付部材64は、中空のパイプ材を湾曲させることによって略円環状に形成されており、その内周面のやや下側に複数の吹出口69が等間隔に形成されている。そして、図10に示されるように、吹付部材64の吹出口69から吹き出される圧縮エアは、中間位置Mにあるワーク保持体13に保持されたワークW(焼入れ油18から引き上げられた直後のワークW)の径方向外側から径方向内方へ向けてやや下向きに吹き付けられ、ワークWに付着した焼入れ油18を吹き飛ばすようになっている。また、エア吹付機構63は、図1に示されるように、焼入れ油18の油面よりも上方であるが油槽12の内部に配置されているワークWに対してエアを吹き付けている。そのため、ワークWから吹き飛ばされた焼入れ油18が油槽12の外部へ飛散し、焼入れ装置10の周囲を汚してしまうことはほとんどない。
【0048】
〔焼入れ装置10の動作〕
図11は、焼入れ装置10の動作タイミングを示すタイムチャートである。以下、このタイムチャートを参照して、焼入れ装置10の動作を説明する。
なお、以下においては、ワーク投入領域A1に配置されたワーク保持体13を除く他の全てのワーク保持体13にワークWが保持された状態で、ワーク投入領域A1に配置されたワーク保持体13に対して新たなワークWを供給する状況から説明をスタートする。このとき、ワーク投入領域A1では、ワーク投入用の昇降機構15Aによってワーク保持体13が上昇位置Hに配置され、ワーク引上領域A2では、ワーク引上用の昇降機構15Bによってワーク保持体13が下降位置Lに配置されている。
【0049】
この状態において、ワーク投入領域A1に配置されたワーク保持体13に対してロボットハンドR(図3参照)によってワークが供給される(図11のT1)。その後、ワーク投入用の昇降機構15Aが作動(昇降制御手段によって昇降駆動部50Aが作動)することによってワーク保持体13が下降位置Lへ向けて下降し、ワーク保持体13に保持されたワークWが焼入れ油18に投入される(T2)。
【0050】
このように、ワーク保持体13によって保持された状態でワークWが焼入れ油18に投入されるので、ワークWに打ち傷や変形が生じてしまうことはない。また、ワークWを焼入れ油18に投入する際にワークWの姿勢が乱れることもないので、冷却ムラの発生も防止することができる。
【0051】
次いで、焼入れ油噴射機構55が作動して、下降位置Lにあるワーク保持体13のワークWに所定時間(例えば、60秒間)焼入れ油18が噴射される(T3)。このように焼入れ油18に投入した直後のワークWに対して均一に焼入れ油18を噴射することによって、より冷却ムラの発生を防止することができる。
【0052】
一方、ワーク引上領域A2では、ワーク引上用の昇降機構15Bが作動(昇降制御手段によって昇降駆動部50Bが作動)することによりワーク保持体13が中間位置Mへ向けて上昇する(T4)。これにより、ワーク保持体13によって保持されたワークWが焼入れ油18から引き上げられる。
次いで、エア吹付機構63が作動し、中間位置Mでワーク保持体13に保持されているワークWに所定時間(例えば、20秒)エアが吹き付けられる(T5)。これにより、ワークWに付着した焼入れ油18が吹き飛ばされる。所定時間経過後、エア吹付機構63が停止すると、ワーク引上用の昇降機構15Bが再び作動し、ワーク保持体13が上昇位置Lまで上昇する(T6)。
【0053】
ワーク引上領域A2のワーク保持体13が上昇位置Lまで上昇すると、次にロボットハンドRが作動してワーク保持体13からワークWが取り出される(T7)。そして、ワークWの取出作業が終了すると、移動機構14の回転駆動部33が作動して回転台32が1/2ピッチ回転する(T8)。これにより、ワーク引上領域A2において上昇位置Hに配置されているワーク保持体13の係合部材22が、ワーク引上用の昇降機構15Bの被係合部材49Bから離脱して被係合部材49C(図6参照)に係合し、当該ワーク保持体13が上昇位置Hに保持される。また、ワーク投入領域A1において、下降位置Lに配置されているワーク保持体13の係合部材22が、ワーク投入用の昇降機構15Aの被係合部材49Aから離脱する。
【0054】
次いで、ワーク投入用の昇降機構15Aが作動して被係合部材49Aが上昇し、ワーク引上用の昇降機構15Bが作動して被係合部材49Bが下降する(T9)。その後、回転駆動部33が作動して回転台32がさらに1/2ピッチ回転する(T10)。これによって、被係合部材49Cによって上昇位置Hに保持されていたワーク保持体13の係合部材22が、上昇位置Hに戻ったワーク投入用の昇降機構15Aの被係合部材49Aに係合して、そのまま上昇位置Hに保持される。また、下降位置Lにあるワーク引上用の昇降機構15Bの被係合部材49Bには、既に油槽12内を循環してワーク引上領域A2に移動したワーク保持体13の係合部材22が係合する。
以上の動作が終了すると、再び、上述のT1以降の動作が繰り返し行われる。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態の焼入れ装置10は、ワーク投入領域A1において上昇位置Hにあるワーク保持体13に加熱処理済みのワークWを供給し、その後、ワーク保持体13を下降させてワークWを焼入れ油18に投入するとともに焼入れ油18の内部で循環させ、ワーク引上領域A2に移動したワーク保持体13を再び上昇させて焼入れ済みのワークWを焼入れ油18から引き上げることができる。以上の動作の間、ワークWは、ワーク保持体13によって安定した姿勢に保持されているので、焼入れ油18への投入で打ち傷や変形が生じることはほとんどなく、また、冷却ムラの発生も防止することができ、歩留まりを向上することができる。
【0056】
また、ワーク保持体13を上下方向に昇降させることによって油槽12内の焼入れ油18に対するワークWの投入と引き上げとを行うことができるので、ワークの投入及び引き上げのための装置構成を簡素化し、当該装置構成の平面的な領域を小さくすることができるので、油槽12の小型化を図ることができる。したがって、油槽12の設定スペースを可及的に小さくすることができるとともに、油槽12内に貯留する焼入れ油18の量を少なくすることができる。
また、ワークWを周回軌道上で循環させながら焼入れを行うことができるので、油槽12を小型に構成した場合であっても充分な焼入れ時間を確保することができる。
【0057】
移動機構14や昇降機構15は、油槽12の外部、具体的には油槽12の上方に配置されているので、これらの構成を油槽12内(焼入れ油18の下方領域)に配置する場合に比べて、構成を簡素化することができるとともに、メンテナンスも容易となり、油槽12の小型化にも寄与することができる。
【0058】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、適宜設計変更可能である。例えば、図11に示すタイムチャートにおいて、(T4)以降の動作は、焼入れ油噴射機構55の動作が終了してから行ってもよい。
上記実施の形態では、ワーク投入領域A1とワーク引上領域A2とが別々の場所に設定されていたが、同一の場所に設定されていてもよい。この場合、昇降機構15は1つで足りることになる。
複数のワーク保持体13の周回軌道は、必ずしも円形でなくても良い。例えば、円形以外の環状(多角形状、楕円形状、長円形状等)に配索されて循環するチェーンやベルト等の索状体を回転台の代わりに使用し、この索状体に対して所定のピッチで複数のワーク保持体13を支持することも可能である。
本発明の焼入れ装置は、連続加熱炉によって加熱処理されたワークだけでなく、浸炭焼入れ、高周波焼入れ等の過程で加熱処理されたワークを冷却するためにも使用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:焼入れ装置、12:油槽(冷却液槽)、13:ワーク保持体、14:移動機構、15:昇降機構、18:焼入れ油(冷却液)、20:支持ロッド、21:ワーク受け部材(保持部材)、22:係合部材、25:載置具、27:支持板(支持部)、32:回転台、33:回転駆動部、34:回転軸(鉛直軸)、49A:被係合部材、49B:被係合部材、49C:被係合部材(高さ保持部)、50:昇降駆動部、55:焼入れ油噴射機構、63:エア吹付機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理した後のワークを冷却液に浸漬して焼入れを行う焼入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受を構成する外輪及び内輪は、焼入れによる硬化処理が行われている。このような焼入れ処理を行う装置として、下記特許文献1及び2には、搬送コンベアによってワーク(外輪、内輪)を搬送しながら、加熱炉によってワークを加熱し、加熱炉を通過したワークを搬送コンベアの終端において油槽内に投入し、この油槽内に貯留された焼入れ油にワークを浸漬して焼入れを施し、油槽内に設置された引き上げコンベアによってワークを引き上げるようにした連続焼入れ炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−84635号公報
【特許文献2】特開2001−317876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に記載された連続焼入れ炉は、大量のワークを連続して処理可能であるため、生産性が高いという利点がある。
しかしながら、この連続焼入れ炉は、加熱処理済みのワークを搬送コンベアの終端で落下させて油槽内に投入しているため、ワークの落下時に、焼入れ油の油面や油槽内の引き上げコンベア、搬送コンベアと油槽との間に設けられた案内シュート等にワークが衝突し、ワークに打ち傷や変形が生じる場合がある。また、焼入れ油に落下したときのワークの姿勢が一定ではないため、冷却ムラが生じやすく、焼入れ変形量も大きくなる傾向にある。したがって、特許文献1又は2に記載された連続焼入れ炉では、ワークの歩留まりが悪く、焼入れ後の矯正が必要になるケースも多くなるという欠点がある。
また、油槽からワークを引き上げるために、引き上げコンベアという大掛かりな機構が必要となり、この引き上げコンベアを設置するために大きな油槽が必要で、その設置スペースが増大するとともに、大量の焼入れ油が必要になるという欠点もある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、加熱処理されたワークを、順次安定した姿勢で冷却液槽内に投入することにより、ワークの変形等を抑制して歩留まりを向上させることができ、更に冷却液にワークを投入する構成、引き上げる構成を簡素化して冷却液槽の小型化を可能にする焼入れ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、加熱処理済みのワークを冷却液に浸漬して焼入れする焼入れ装置であって、
冷却液を貯留する冷却液槽と、
水平面に沿った周回軌道上に所定のピッチで配列され、かつワークを一定の姿勢で個別に保持する複数のワーク保持体と、
前記冷却液槽の外部に配置され、前記複数のワーク保持体を前記周回軌道に沿って循環させる移動機構と、
前記冷却液槽の外部に配置され、前記ワーク保持体を昇降させることで、当該ワーク保持体によって保持されたワークを前記冷却液槽に貯留された冷却液の上方位置と当該冷却液の内部との間で上下方向に移動させる昇降機構と、を備えており、
前記周回軌道上の所定位置にワーク投入領域とワーク引上領域とが設定され、
前記昇降機構は、前記ワーク投入領域と前記ワーク引上領域とにおいて前記ワーク保持体を昇降させる昇降制御手段を有していることを特徴とする。
【0007】
本発明の焼入れ装置によれば、ワーク投入領域において上昇しているワーク保持体にワークを供給し、その後、ワーク保持体を下降させてワークを冷却液に投入するとともに周回軌道上を循環させて焼入れを行い、ワーク引上領域に移動したワーク保持体を再び上昇させてワークを冷却液から引き上げ、焼入れ装置からワークを取り出すことができる。ワークは、ワーク保持体によって安定した姿勢に保持されるので、冷却液に投入するときに打ち傷や変形が生じることはほとんどなく、また、冷却ムラの発生も防止することができる。したがって、歩留まりの向上を図ることができる。
【0008】
また、ワーク保持体を昇降させることによって冷却液に対するワークの投入と引き上げとを行うことができるので、ワークの投入及び引き上げのための構成を簡素化して冷却液槽を小型化することが可能となる。また、ワークを周回軌道上で循環させながら焼入れを行うことができるので、小型の冷却槽であっても充分な焼入れ時間(冷却時間)を確保することができる。
【0009】
また、移動機構や昇降機構は冷却液槽の外部に配置されているので、当該機構を冷却液槽の内部(例えば、冷却液の下方領域)に配置する場合に比べて、各機構の構成を簡素化することができるとともに、メンテナンスも容易に行うことができ、より冷却液槽の小型化に寄与することができる。
【0010】
(2)前記ワーク引上領域において、前記冷却液槽に貯留された冷却液から引き上げられたワークにガスを吹き付けるガス吹付機構を更に備えていることが好ましい。
この構成によれば、ワーク引上領域において冷却液から引き上げられたワークに対してガスを吹き付けることで、当該ワークに付着した冷却液を吹き飛ばすことができる。
【0011】
(3)前記ガス吹付機構は、前記冷却液槽の内部でかつ前記冷却液の液面の上方においてワークにガスを吹き付けることが好ましい。
この構成によれば、ガスが吹き付けられることによってワークから吹き飛ばされた冷却液は、冷却液槽の外部へ飛び出すことはほとんどなく、周囲を冷却液で汚してしまうこともない。
【0012】
(4)本発明の焼入れ装置は、前記冷却液の内部において、前記ワーク保持体によって保持されたワークの外周全体に冷却液を噴射する冷却液噴射機構を更に備えていることが好ましい。
このような構成によって、ワークの均一な冷却が可能となり、冷却ムラを防止することができる。
【0013】
(5)前記冷却液噴射機構は、前記ワーク投入領域において前記冷却液の内部のワークに冷却液を噴射することが好ましい。
この構成によれば、冷却液に投入された直後のワークに冷却液を噴射することができるので、冷却ムラをより確実に防止することができる。
【0014】
(6)前記昇降機構は、前記ワーク引上領域と前記ワーク投入領域との間における前記ワーク保持体の移動中、当該ワーク保持体を上昇させた状態に保持する高さ保持部を有していることが好ましい。
この構成によれば、ワーク引上領域においてワーク保持体を上昇させてワークを取り出した後、ワーク投入領域においてワーク保持体に新たなワークを供給するまでの間、ワーク保持体を上昇させた状態で維持することができるので、ワーク保持体の無駄な昇降動作をなくすことができる。
【0015】
(7)前記周回軌道は、鉛直軸を中心とする円軌道であり、前記移動機構は、複数のワーク保持体を前記円軌道に沿って旋回させることが好ましい。
これにより、簡単な構成で複数のワーク保持体を周回軌道上で循環させることができる。
【0016】
(8)前記移動機構は、鉛直軸回りに回転可能な回転台と、この回転台を回転させる回転駆動部と、を有しており、
前記ワーク保持体は、前記鉛直軸に平行な上下方向の軸心を有するとともに前記回転台に対して上下方向に摺動可能に支持された支持ロッドと、この支持ロッドの下端部に設けられてワークを保持する保持部材と、前記支持ロッドの上端部に設けられた係合部材と、を備えており、
前記昇降機構は、前記ワーク引上領域及び前記ワーク投入領域において、前記係合部材に下側から係合する被係合部材と、この被係止部材を昇降させる昇降駆動部と、を有していることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、回転駆動部によって回転台を回転させることで、ワーク保持体を円形の周回軌道(円軌道)上で循環させることができる。また、ワーク引上領域及びワーク投入領域において、支持ロッドの上端部に設けられた係合部材に昇降機構の被係合部材を下側から係合させ、昇降駆動部により被係合部材を昇降させることによって、ワーク保持体を昇降させることができる。
【0018】
(9)前記保持部材は、上面にワークを載置させる載置具を備えており、
前記載置具は、ワークを3箇所以上で支持する支持部と、
当該載置具を上下方向に貫通し、冷却液を上下方向に流通可能な貫通部と、を備えていることが好ましい。
このような構成により、支持部によってワークを一定の姿勢で安定して保持することが可能になるとともに、貫通部を流通する冷却液によって冷却性能を向上させ、冷却ムラの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、連続的に加熱処理されたワークを、順次安定した姿勢で冷却液槽内に投入することができ、ワークの変形等を抑制して歩留まりを向上させることができる。また、冷却液にワークを投入する構成、冷却液からワークを引き上げる構成を簡素化して冷却液槽の小型化を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る焼入れ装置の正面図(一部断面図)である。
【図2】同焼入れ装置の側面図(一部断面図)である。
【図3】図2のIII−III矢示図である。
【図4】回転台の拡大側面図である。
【図5】ワーク保持体及び回転台を概略的に示す斜視図である。
【図6】被係合部材(高さ保持部)を示す正面図である。
【図7】被係合部材(高さ保持部)を示す平面図である。
【図8】焼入れ油噴射機構及びガス吹付機構の平面断面図である。
【図9】焼入れ油噴射機構の概略側面図である。
【図10】ガス吹付機構の概略側面図である。
【図11】焼入れ装置の動作サイクルを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る焼入れ装置10の正面図(一部断面図)、図2は、同焼入れ装置10の側面図(一部断面図)、図3は、図2のIII−III矢示図である。
本実施の形態の焼入れ装置10は、例えば搬送コンベアによって連続的に搬送されながら加熱炉によって加熱処理された複数のワークW(例えば、環状部材である転がり軸受の外輪や内輪)を順次焼入れ油18に浸漬して焼入れするための装置である。この焼入れ装置10には、図3に示されるように、ロボットハンドR等を利用して加熱処理済みのワークWが供給されるとともに焼入れ済みのワークWが取り出される。
【0022】
焼入れ装置10は、油槽(冷却液槽)12と、複数のワーク保持体13と、移動機構14と、昇降機構15とによって主に構成されている。油槽12は、上方が開放した略矩形の箱型に形成されており、四角形状の底壁16と、この底壁16の4辺から立ち上がる4つの側壁17a〜17dとを有している。そして、油槽12の内部には、焼入れ油(冷却液)18が貯留されている。
【0023】
〔ワーク保持体13の構成〕
ワーク保持体13は、図5に示されるように、長尺に形成されていて上下方向(鉛直方向)に沿った軸心を有する支持ロッド20と、この支持ロッド20の下端部に設けられ、ワークWを保持するワーク受け部材(保持部材)21と、支持ロッド20の上端に設けられ、後述する昇降機構15の被係合部材49に係合する係合部材22と、を有している。本実施の形態の焼入れ装置10には、6個のワーク保持体13が設けられている。支持ロッド20は、外周面に軸方向に延びるスプライン溝が形成されたスプライン軸とされている。係合部材22は、支持ロッド20の上端に嵌合する筒部22aと、この筒部22aの上端に設けられた平面視四角形状の係合板22bとを有している。
【0024】
ワーク受け部材21は、支持ロッド20の下端部から水平に突出するアーム23と、このアーム23の先端部から上方に突出する支持台24と、この支持台24の上端部に設けられてワークWが載置される載置具25とを備えている。また、載置具25は、ワークWを3箇所以上で支持する支持部と、載置具25を上下方向に貫通する貫通部とを有している。そして、この貫通部を介して焼入れ油18が載置具25の内部を上下方向に移動(流通)可能に構成されている。
【0025】
より具体的に、載置具25は、略円柱状に形成されており、薄板材によって円環状に形成された外周板26と、この外周板26の内側に放射状に設けられた3枚以上の複数枚の支持板27とを備えている。複数枚の支持板27を上下方向から見ると、隣接する支持板27の間の角度(劣角)は180度未満とされる。また、好ましくは、複数枚の支持板27は等間隔(等角度)をおいて配置される。本実施の形態では、6枚の支持板27が60°間隔(ピッチ)で等間隔に配置されている。
【0026】
載置具25は、支持板27の上端縁にワークWを載置することによって、当該ワークWを3つ以上の箇所で一定の姿勢に保持することが可能となっている。したがって、この複数枚の支持板27が上記支持部を構成している。また、外周板26と各支持板27とによって囲まれて上下方向に貫通する空間が上記貫通部を構成している。この空間により、載置具25上のワークW全体に焼入れ油18が触れやすくなるので、冷却性能を向上させることができるとともに、冷却ムラの発生を防止することが可能である。
【0027】
〔移動機構14の構成〕
図1及び図2に示されるように、油槽12の底壁16の中央部には支持柱29が立設され、この支持柱29に移動機構14が支持されている。移動機構14は、支持柱29の上端に回転自在に支持された回転台32と、この回転台32を回転駆動する回転駆動部33と、この回転駆動部33を動作制御する回転制御手段(図示略)とを有している。回転台32及び回転駆動部33は、油槽12に貯留された焼入れ油18の油面よりも上方に配置されている。
【0028】
図4及び図5に示されるように、回転台32は、上下方向の軸心を有する円盤状に形成されるとともに、その中心に回転軸(鉛直軸)34が一体回転可能に連結されている。回転軸34は、支持柱29の上端部に固定された軸受部材35によって回転自在に支持されている。
回転台32の外周部には、周方向に一定のピッチで複数の貫通孔37が形成されている。本実施の形態の回転台32には、ワーク保持体13と同数の6個の貫通孔37が形成されており、各貫通孔37のピッチ角度は60°とされている。
【0029】
また、回転台32の下面には、各貫通孔37に対応して支持筒38が固定されている。各貫通孔37及び各支持筒38には、ワーク保持体13の支持ロッド20が回転軸34と平行な上下方向(鉛直方向)に沿って摺動可能に挿通されている。そして、図2に示されるように、回転台32に対して支持ロッド20が下方に摺動すると、係合部材22が回転台32の上面に係合してワーク保持体13が回転台32に吊り下げられた状態となり、ワーク受け部材21上のワークWが油槽12内の焼入れ油18に浸漬される。また、図1に示されるように、回転台32に対して支持ロッド20が上方に摺動すると、ワーク受け部材21に保持されたワークWは焼入れ油18の上方へ引き上げられる。
【0030】
なお、以下の説明において、ワークWが焼入れ油18に浸漬されているときのワーク保持体13の位置を「下降位置L」といい、ワークWが焼入れ油18から引き上げられているときのワーク保持体13の位置を「上昇位置H」という。したがって、図1に実線で示されるワーク保持体13は上昇位置Hにあり、図2に実線で示されるワーク保持体13は下降位置Lにある。
【0031】
図5に示されるように、支持筒38には、支持ロッド20のスプライン溝に嵌合するスプライン溝が形成されており、支持ロッド20は、支持筒38によってその軸心回りの回転が規制されている。各ワーク保持体13は、図3に示されるように、ワーク受け部材21のアーム23が支持ロッド20から径方向外方へ向けて突出するように回転台32に支持されている。
【0032】
回転駆動部33は、図2及び図3に示されるように、電動モータ等からなる回転駆動体40と、この回転駆動体40の動力を回転軸34に伝達する動力伝達機構41とからなる。回転駆動体40は、油槽12の後部側壁17cの上部にブラケット42を介して固定されている。動力伝達機構41は、回転駆動体40の出力軸に設けられたプーリ43と、回転軸34の上端に設けられたプーリ44と、両プーリ43,44に巻き掛けられた伝動ベルト45とから構成されている。
【0033】
回転台32に支持されている複数(6個)のワーク保持体13は、回転駆動部33の作動により回転軸34を中心としかつ水平面に沿った円形の周回軌道上を図3の時計回りに循環する。また、回転駆動部33は、各ワーク保持体13を所定の回転量ずつ間歇的に循環させるように作動する。具体的に、本実施の形態の回転駆動部33は、ワーク保持体13を1/2ピッチずつ、すなわち30°のピッチ角度で間歇的に循環させる。このワーク保持体13の循環の詳細については後述する。
【0034】
また、図3に示されるように、ワーク保持体13の周回軌道上の所定位置には、ワークを焼入れ油18に投入するためのワーク投入領域A1と、焼入れが終了したワークを焼入れ油18から引き上げるためのワーク引上領域A2とが設定されている。ワーク投入領域A1とワーク引上領域A2とは、油槽12の前部側で互いに左右に隣接した位置に設定されている。したがって、ワーク投入領域A1で投入されたワークWは焼入れ油18内で時計回りに循環し、一周弱(300°)回転したところでワーク引上領域A2に到り、当該領域A2において焼入れ油18から引き上げられる。
【0035】
〔昇降機構15の構成〕
図1及び図2に示されるように、昇降機構15は、前述のワーク投入領域A1とワーク引上領域A2とのそれぞれにおいて、ワーク保持体13を上下に昇降させ、焼入れ油18に対するワークの投入と引き上げとを可能にするものであり、ワーク投入用の昇降機構15Aと、ワーク引上用の昇降機構15Bとから構成されている。
【0036】
各昇降機構15A,15Bは、油槽12の左右側壁17a,17bの上端と、後部側壁17cの上端とに立設された支持フレーム30の上部に支持されている。また、各昇降機構15A,15Bは、ワーク保持体13の係合部材22に係脱可能に係合する被係合部材49A,49Bと、この被係合部材49A,49Bを昇降させる昇降駆動部50A,50Bと、この昇降駆動部50A,50Bを動作制御する昇降制御手段(図示略)を有している。
【0037】
図4及び図6に示されるように、昇降機構15A,15Bの被係合部材49A,49Bは、ワーク投入領域A1及びワーク引上領域A2に移動したワーク保持体13の係合部材22に対して下側から係合可能な一対のローラからなる。昇降機構15A,15Bの昇降駆動部50A,50Bは、上下方向に伸縮動作するエアシリンダ又は油圧シリンダからなり、そのシリンダチューブが支持フレーム30に支持され、ピストンロッドの下端部に取付部材52A,52Bを介して被係合部材49A,49Bが取り付けられている。
【0038】
そして、図1に示されるように、ワーク投入用の昇降機構15Aは、ワーク投入領域A1にワーク保持体13が移動することによって、当該ワーク保持体13の係合部材22に被係合部材49Aを係合させることができ、さらに昇降駆動部50Aを作動させることによって、ワーク保持体13を上昇位置Hと下降位置Lとに配置することができる。
【0039】
また、ワーク引上用の昇降機構15Bは、ワーク引上領域A2にワーク保持体13が移動することによって、当該ワーク保持体13の係合部材22に被係合部材49Bを係合させることができ、さらに昇降駆動部50Bを作動させることによって、ワーク保持体13を上昇位置Hと下降位置Lとに配置することができる。また、昇降機構15Bは、上昇位置Hと下降位置Lとの間の中間位置Mにもワーク保持体13を配置することができる。
【0040】
なお、図1及び図3に示されるように、ワーク投入領域A1において上昇位置に配置されたワーク受け部材21は、光電センサ等からなる検出器70によって検出され、ワーク引上領域A2において上昇位置Hに配置されたワーク保持体13のワーク受け部材21は、光電センサ等からなる検出器71によって検出される。
【0041】
図6及び図7に示されるように、昇降機構15A,15Bを支持する支持フレーム30には、上昇した被係合部材49A,49Bの間に対応する位置に、中継用の被係合部材(高さ保持部)49Cが備えられている。この被係合部材49Cは、被係合部材49A,49Bと同様に一対のローラからなり、ワーク引上領域A2からワーク投入領域A1へ循環移動するワーク保持体13の係合部材22を、被係合部材49Bから被係合部材49Aに受け渡すために設けられている。
【0042】
この被係合部材49Cを備えることによって、ワーク引上領域A2においてワーク保持体13を上昇させた状態で焼入れ装置10からワークWを取り出し、その後、ワーク保持体13を下降させることなくワーク投入領域A1に移動させ、このワーク保持体13に新たなワークWを供給することができる。
【0043】
なお、ワーク保持体13の係合部材22は、ワーク引上領域A2に配置された状態から1/2ピッチ(30°)移動することによって被係合部材49Bから被係合部材49Cに受け渡され、更に時計回りに1/2ピッチ移動することによって、被係合部材49Cから被係合部材49Aへ受け渡される。
【0044】
〔その他の構成〕
図1及び図3に示されるように、ワーク投入領域A1には、下降位置Lにあるワーク保持体13に保持されたワークWに向けて焼入れ油18を噴射する焼入れ油噴射機構55が設けられている。この焼入れ油噴射機構55は、平面視において、ワーク保持体13の載置具25の外径よりもやや大きな内径を有する略円環状(C字形状)の噴射部材56と、この噴射部材56に接続された配管部材57と、配管部材57を介して噴射部材56に焼入れ油18を供給する噴射ポンプ58とを備えている。配管部材57は、固定部材59を介して油槽12の側壁17aに固定されている。
【0045】
図8に示されるように、噴射部材56は、中空のパイプ部材を湾曲することによって略円環状に形成されており、その内周面のやや下側に複数の噴射口61が等間隔に形成されている。そして、図9に示されるように、噴射部材56の噴射口61から噴射する焼入れ油18は、油槽12内において下降位置Lにあるワーク保持体13に保持されたワークWの外周全体の径方向外側から径方向内方に向けてやや下向きに噴射され、ワークWを均一に冷却するようになっている。
【0046】
図1及び図3に示されるように、ワーク引上領域A2には、上昇位置Hと下降位置Lとの間の中間位置M(図1,図10参照)にあるワーク保持体13に保持されたワークWに向けて圧縮空気(エア)を吹き付けるエア吹付機構(ガス吹付機構)63が設けられている。このエア吹付機構63は、ワーク保持体13の載置具25の外径よりもやや大きな内径を有する略円環状(C字形状)の吹付部材64と、この吹付部材64に接続された配管部材65と、配管部材65を介して吹付部材64に圧縮空気を供給するコンプレッサ等の圧縮空気供給源(ガス供給源)66と、を備えている。配管部材65は、固定部材67を介して油槽12の側壁17bに固定されている。なお、本実施の形態では、大気中において焼入れ処理(冷却処理)を行うためにワークWに吹き付けるガス(気体)としてエアを用いているが、例えば不活性雰囲気下で焼入れ処理を行う場合には、当該雰囲気に応じたガス(窒素ガス、アルゴンガス等)を用いてワークに吹き付けることができる。
【0047】
図8に示されるように、吹付部材64は、中空のパイプ材を湾曲させることによって略円環状に形成されており、その内周面のやや下側に複数の吹出口69が等間隔に形成されている。そして、図10に示されるように、吹付部材64の吹出口69から吹き出される圧縮エアは、中間位置Mにあるワーク保持体13に保持されたワークW(焼入れ油18から引き上げられた直後のワークW)の径方向外側から径方向内方へ向けてやや下向きに吹き付けられ、ワークWに付着した焼入れ油18を吹き飛ばすようになっている。また、エア吹付機構63は、図1に示されるように、焼入れ油18の油面よりも上方であるが油槽12の内部に配置されているワークWに対してエアを吹き付けている。そのため、ワークWから吹き飛ばされた焼入れ油18が油槽12の外部へ飛散し、焼入れ装置10の周囲を汚してしまうことはほとんどない。
【0048】
〔焼入れ装置10の動作〕
図11は、焼入れ装置10の動作タイミングを示すタイムチャートである。以下、このタイムチャートを参照して、焼入れ装置10の動作を説明する。
なお、以下においては、ワーク投入領域A1に配置されたワーク保持体13を除く他の全てのワーク保持体13にワークWが保持された状態で、ワーク投入領域A1に配置されたワーク保持体13に対して新たなワークWを供給する状況から説明をスタートする。このとき、ワーク投入領域A1では、ワーク投入用の昇降機構15Aによってワーク保持体13が上昇位置Hに配置され、ワーク引上領域A2では、ワーク引上用の昇降機構15Bによってワーク保持体13が下降位置Lに配置されている。
【0049】
この状態において、ワーク投入領域A1に配置されたワーク保持体13に対してロボットハンドR(図3参照)によってワークが供給される(図11のT1)。その後、ワーク投入用の昇降機構15Aが作動(昇降制御手段によって昇降駆動部50Aが作動)することによってワーク保持体13が下降位置Lへ向けて下降し、ワーク保持体13に保持されたワークWが焼入れ油18に投入される(T2)。
【0050】
このように、ワーク保持体13によって保持された状態でワークWが焼入れ油18に投入されるので、ワークWに打ち傷や変形が生じてしまうことはない。また、ワークWを焼入れ油18に投入する際にワークWの姿勢が乱れることもないので、冷却ムラの発生も防止することができる。
【0051】
次いで、焼入れ油噴射機構55が作動して、下降位置Lにあるワーク保持体13のワークWに所定時間(例えば、60秒間)焼入れ油18が噴射される(T3)。このように焼入れ油18に投入した直後のワークWに対して均一に焼入れ油18を噴射することによって、より冷却ムラの発生を防止することができる。
【0052】
一方、ワーク引上領域A2では、ワーク引上用の昇降機構15Bが作動(昇降制御手段によって昇降駆動部50Bが作動)することによりワーク保持体13が中間位置Mへ向けて上昇する(T4)。これにより、ワーク保持体13によって保持されたワークWが焼入れ油18から引き上げられる。
次いで、エア吹付機構63が作動し、中間位置Mでワーク保持体13に保持されているワークWに所定時間(例えば、20秒)エアが吹き付けられる(T5)。これにより、ワークWに付着した焼入れ油18が吹き飛ばされる。所定時間経過後、エア吹付機構63が停止すると、ワーク引上用の昇降機構15Bが再び作動し、ワーク保持体13が上昇位置Lまで上昇する(T6)。
【0053】
ワーク引上領域A2のワーク保持体13が上昇位置Lまで上昇すると、次にロボットハンドRが作動してワーク保持体13からワークWが取り出される(T7)。そして、ワークWの取出作業が終了すると、移動機構14の回転駆動部33が作動して回転台32が1/2ピッチ回転する(T8)。これにより、ワーク引上領域A2において上昇位置Hに配置されているワーク保持体13の係合部材22が、ワーク引上用の昇降機構15Bの被係合部材49Bから離脱して被係合部材49C(図6参照)に係合し、当該ワーク保持体13が上昇位置Hに保持される。また、ワーク投入領域A1において、下降位置Lに配置されているワーク保持体13の係合部材22が、ワーク投入用の昇降機構15Aの被係合部材49Aから離脱する。
【0054】
次いで、ワーク投入用の昇降機構15Aが作動して被係合部材49Aが上昇し、ワーク引上用の昇降機構15Bが作動して被係合部材49Bが下降する(T9)。その後、回転駆動部33が作動して回転台32がさらに1/2ピッチ回転する(T10)。これによって、被係合部材49Cによって上昇位置Hに保持されていたワーク保持体13の係合部材22が、上昇位置Hに戻ったワーク投入用の昇降機構15Aの被係合部材49Aに係合して、そのまま上昇位置Hに保持される。また、下降位置Lにあるワーク引上用の昇降機構15Bの被係合部材49Bには、既に油槽12内を循環してワーク引上領域A2に移動したワーク保持体13の係合部材22が係合する。
以上の動作が終了すると、再び、上述のT1以降の動作が繰り返し行われる。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態の焼入れ装置10は、ワーク投入領域A1において上昇位置Hにあるワーク保持体13に加熱処理済みのワークWを供給し、その後、ワーク保持体13を下降させてワークWを焼入れ油18に投入するとともに焼入れ油18の内部で循環させ、ワーク引上領域A2に移動したワーク保持体13を再び上昇させて焼入れ済みのワークWを焼入れ油18から引き上げることができる。以上の動作の間、ワークWは、ワーク保持体13によって安定した姿勢に保持されているので、焼入れ油18への投入で打ち傷や変形が生じることはほとんどなく、また、冷却ムラの発生も防止することができ、歩留まりを向上することができる。
【0056】
また、ワーク保持体13を上下方向に昇降させることによって油槽12内の焼入れ油18に対するワークWの投入と引き上げとを行うことができるので、ワークの投入及び引き上げのための装置構成を簡素化し、当該装置構成の平面的な領域を小さくすることができるので、油槽12の小型化を図ることができる。したがって、油槽12の設定スペースを可及的に小さくすることができるとともに、油槽12内に貯留する焼入れ油18の量を少なくすることができる。
また、ワークWを周回軌道上で循環させながら焼入れを行うことができるので、油槽12を小型に構成した場合であっても充分な焼入れ時間を確保することができる。
【0057】
移動機構14や昇降機構15は、油槽12の外部、具体的には油槽12の上方に配置されているので、これらの構成を油槽12内(焼入れ油18の下方領域)に配置する場合に比べて、構成を簡素化することができるとともに、メンテナンスも容易となり、油槽12の小型化にも寄与することができる。
【0058】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、適宜設計変更可能である。例えば、図11に示すタイムチャートにおいて、(T4)以降の動作は、焼入れ油噴射機構55の動作が終了してから行ってもよい。
上記実施の形態では、ワーク投入領域A1とワーク引上領域A2とが別々の場所に設定されていたが、同一の場所に設定されていてもよい。この場合、昇降機構15は1つで足りることになる。
複数のワーク保持体13の周回軌道は、必ずしも円形でなくても良い。例えば、円形以外の環状(多角形状、楕円形状、長円形状等)に配索されて循環するチェーンやベルト等の索状体を回転台の代わりに使用し、この索状体に対して所定のピッチで複数のワーク保持体13を支持することも可能である。
本発明の焼入れ装置は、連続加熱炉によって加熱処理されたワークだけでなく、浸炭焼入れ、高周波焼入れ等の過程で加熱処理されたワークを冷却するためにも使用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:焼入れ装置、12:油槽(冷却液槽)、13:ワーク保持体、14:移動機構、15:昇降機構、18:焼入れ油(冷却液)、20:支持ロッド、21:ワーク受け部材(保持部材)、22:係合部材、25:載置具、27:支持板(支持部)、32:回転台、33:回転駆動部、34:回転軸(鉛直軸)、49A:被係合部材、49B:被係合部材、49C:被係合部材(高さ保持部)、50:昇降駆動部、55:焼入れ油噴射機構、63:エア吹付機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理済みのワークを冷却液に浸漬して焼入れする焼入れ装置であって、
冷却液を貯留する冷却液槽と、
水平面に沿った周回軌道上に所定のピッチで配列され、かつワークを一定の姿勢で個別に保持する複数のワーク保持体と、
前記冷却液槽の外部に配置され、前記複数のワーク保持体を前記周回軌道に沿って循環させる移動機構と、
前記冷却液槽の外部に配置され、前記ワーク保持体を昇降させることで、当該ワーク保持体によって保持されたワークを前記冷却液槽に貯留された冷却液の上方位置と当該冷却液の内部との間で上下方向に移動させる昇降機構と、を備えており、
前記周回軌道上の所定位置にワーク投入領域とワーク引上領域とが設定され、
前記昇降機構は、前記ワーク投入領域と前記ワーク引上領域とにおいて前記ワーク保持体を昇降させる昇降制御手段を有していることを特徴とする焼入れ装置。
【請求項2】
前記ワーク引上領域において、前記冷却液槽に貯留された冷却液から引き上げられたワークにガスを吹き付けるガス吹付機構を更に備えている請求項1に記載の焼入れ装置。
【請求項3】
前記ガス吹付機構は、前記冷却液槽の内部でかつ前記冷却液の液面の上方においてワークにガスを吹き付ける請求項2に記載の焼入れ装置。
【請求項4】
前記冷却液の内部において、前記ワーク保持体によって保持されたワークの外周全体に冷却液を噴射する冷却液噴射機構を更に備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の焼入れ装置。
【請求項5】
前記冷却液噴射機構は、前記ワーク投入領域において前記冷却液の内部のワークに冷却液を噴射する請求項4に記載の焼入れ装置。
【請求項6】
前記昇降機構は、前記ワーク引上領域と前記ワーク投入領域との間における前記ワーク保持体の移動中、当該ワーク保持体を上昇させた状態に保持する高さ保持部を有している請求項1〜5のいずれか1項に記載の焼入れ装置。
【請求項7】
前記周回軌道が、鉛直軸を中心とする円軌道であり、前記移動機構は、複数のワーク保持体を前記円軌道に沿って旋回させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の焼入れ装置。
【請求項8】
前記移動機構は、鉛直軸回りに回転可能な回転台と、この回転台を回転させる回転駆動部と、を有しており、
前記ワーク保持体は、前記鉛直軸に平行な軸心を有するとともに前記回転台に対して上下方向に摺動可能に支持された支持ロッドと、この支持ロッドの下端部に設けられてワークを保持する保持部材と、前記支持ロッドの上端部に設けられた係合部材と、を有しており、
前記昇降機構は、前記ワーク引上領域及び前記ワーク投入領域において、前記係合部材に下側から係合する被係合部材と、この被係止部材を昇降させる昇降駆動部と、を有している請求項1〜7のいずれか1項に記載の焼入れ装置。
【請求項9】
前記保持部材は、上面にワークを載置させる載置具を備えており、
前記載置具は、ワークを3箇所以上で支持する支持部と、
当該載置具を上下方向に貫通し、冷却液を上下方向に流通可能な貫通部と、を備えている請求項8に記載の焼入れ装置。
【請求項1】
加熱処理済みのワークを冷却液に浸漬して焼入れする焼入れ装置であって、
冷却液を貯留する冷却液槽と、
水平面に沿った周回軌道上に所定のピッチで配列され、かつワークを一定の姿勢で個別に保持する複数のワーク保持体と、
前記冷却液槽の外部に配置され、前記複数のワーク保持体を前記周回軌道に沿って循環させる移動機構と、
前記冷却液槽の外部に配置され、前記ワーク保持体を昇降させることで、当該ワーク保持体によって保持されたワークを前記冷却液槽に貯留された冷却液の上方位置と当該冷却液の内部との間で上下方向に移動させる昇降機構と、を備えており、
前記周回軌道上の所定位置にワーク投入領域とワーク引上領域とが設定され、
前記昇降機構は、前記ワーク投入領域と前記ワーク引上領域とにおいて前記ワーク保持体を昇降させる昇降制御手段を有していることを特徴とする焼入れ装置。
【請求項2】
前記ワーク引上領域において、前記冷却液槽に貯留された冷却液から引き上げられたワークにガスを吹き付けるガス吹付機構を更に備えている請求項1に記載の焼入れ装置。
【請求項3】
前記ガス吹付機構は、前記冷却液槽の内部でかつ前記冷却液の液面の上方においてワークにガスを吹き付ける請求項2に記載の焼入れ装置。
【請求項4】
前記冷却液の内部において、前記ワーク保持体によって保持されたワークの外周全体に冷却液を噴射する冷却液噴射機構を更に備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の焼入れ装置。
【請求項5】
前記冷却液噴射機構は、前記ワーク投入領域において前記冷却液の内部のワークに冷却液を噴射する請求項4に記載の焼入れ装置。
【請求項6】
前記昇降機構は、前記ワーク引上領域と前記ワーク投入領域との間における前記ワーク保持体の移動中、当該ワーク保持体を上昇させた状態に保持する高さ保持部を有している請求項1〜5のいずれか1項に記載の焼入れ装置。
【請求項7】
前記周回軌道が、鉛直軸を中心とする円軌道であり、前記移動機構は、複数のワーク保持体を前記円軌道に沿って旋回させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の焼入れ装置。
【請求項8】
前記移動機構は、鉛直軸回りに回転可能な回転台と、この回転台を回転させる回転駆動部と、を有しており、
前記ワーク保持体は、前記鉛直軸に平行な軸心を有するとともに前記回転台に対して上下方向に摺動可能に支持された支持ロッドと、この支持ロッドの下端部に設けられてワークを保持する保持部材と、前記支持ロッドの上端部に設けられた係合部材と、を有しており、
前記昇降機構は、前記ワーク引上領域及び前記ワーク投入領域において、前記係合部材に下側から係合する被係合部材と、この被係止部材を昇降させる昇降駆動部と、を有している請求項1〜7のいずれか1項に記載の焼入れ装置。
【請求項9】
前記保持部材は、上面にワークを載置させる載置具を備えており、
前記載置具は、ワークを3箇所以上で支持する支持部と、
当該載置具を上下方向に貫通し、冷却液を上下方向に流通可能な貫通部と、を備えている請求項8に記載の焼入れ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−62512(P2012−62512A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206884(P2010−206884)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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