説明

焼却灰の処理方法、焼却灰層への散水方法、および焼却灰用散水装置

【課題】 前処理における焼却灰の洗浄を少ない水量で早期に行うことにある。
【解決手段】 最終処分場での焼却灰の埋立に際して、埋立前に焼却灰に散水処理と通気処理とを併用する前処理を施す。通気処理を併用することで、浸出水のTOCを40日前後で100mg/l程度にまで低下させる前処理を行うことができる。単に洗浄水で焼却灰を埋立前に洗浄する場合に比べて、少ない水量で前処理を行うことができる。前処理後は散水量を例えば2mm/日量に抑えても、4mm/日量と同程度の浸出水水質を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最終処分場における焼却灰の処理方法に関し、特に埋立前の焼却灰に前処理を施すことで、埋立後の浸出水からの溶出重金属等の低濃度化による安定化を早期に行うのに適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
最終処分場においては、埋立焼却灰に含まれる有機物、重金属等は、埋立焼却灰を降雨に曝したり、あるいは人工的に散水したりして、洗い出しや不溶化処理が施され、溶出しにくい安全性の高い状態にまで安定化させられる。かかる安定化の過程では、上記の如く、埋立焼却灰に降雨あるいは人工散水が施されるため、埋立焼却灰からはその中を透過した浸出水と呼ばれる有機物、塩類、重金属等を含む液体が排出される。
【0003】
かかる安定化処理では、処理効率を図るため、自然降雨に任せるのではなく、人為的にコントロールすべく最終処分場を建屋等の覆蓋で覆い、管理された中での散水により人為的に安定化を進める例が増えている。
【0004】
人為的な安定化の方法では、埋立後の焼却灰に散水する例と、埋め立てる前に焼却灰を洗浄する例とがある。両者とも、安定化の過程では浸出水が発生し、発生量に応じた浸出水処理施設を設置し、環境基準に示すレベルまで汚染物質の低減化等を図っている。
【0005】
例えば、特許文献1には焼却灰の埋立前に、前処理することで、最終処分場での埋立焼却灰の浄化速度を早め、最終処分場の再利用の早期化を図る技術が提案されている。
【特許文献1】特開2002−59106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の如く、最終処分場における焼却灰の処理に際して発生する浸出水に関しては、その安定化技術として種々の提案がなされているが、本発明者は、さらに改善すべき問題点があることに気づいた。
【0007】
埋立後の焼却灰に散水する処理方法では、埋立直後の焼却灰から有機物や重金属等の濃度の高い浸出水が排出される。通常の埋立では、焼却灰の搬入に応じて、順次焼却灰を積み増し、積み増す毎に埋立焼却灰への散水を繰り返す。そのため、供用期間中の最終処分場からは、濃度の高い浸出水が常時排出されることとなる。
【0008】
また、埋立終了に近い時期に搬入される焼却灰は、焼却灰層の最上層に積み増しして埋立てられる。そのため、最上層に散水することで発生する浸出水の排出には、何層にも積み増しされた埋立焼却灰層を最下層まで通過しなければならず長時間を要し、結果として長期にわたり高濃度の浸出水が発生することとなる。埋立終了後においても浸出水処理施設を長期間運転し、浸出水の処理をし続ける必要がある。
【0009】
このように、埋立後の焼却灰に散水する処理方法では、最終処分場の供用開始から埋立終了後も長期にわたり高濃度の浸出水が発生するため、実質的に最終処分場が閉鎖された後でも、長期にわたり浸出水処理装置の運転を続けることとなり、その運用コストが高くなる。また、長期にわたり高濃度の浸出水が排出され続けるため、周辺環境に対してのリスクの高い状態が長期間続くこととなる。
【0010】
かかる問題を解決するために、最終処分場での焼却灰の埋立前に、焼却灰を前処理して洗浄しておく処理方法が前述の如く提案された。埋立前に焼却灰を洗浄する処理方法では、焼却灰を安全な状態に変化させてから埋立ることができるため、最終処分場の埋立焼却灰からの浸出水は安全性が高いと考えられ、その分、供用期間の短縮を図ることができる。
【0011】
しかし、焼却灰の発生から最終処分場への埋立迄の短い期間に、焼却灰からの有機物や重金属等の溶出量を所定濃度にまで抑えることができるように洗浄を行うためには、大量の洗浄水を必要とする。そのため、洗浄後の大量の水を処理するための水処理施設が、別途必要となり、前処理に伴う処理コストの増大が懸念される。
【0012】
本発明の目的は、前処理における焼却灰の洗浄を少ない水量で早期に行うことにある。
【0013】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0015】
本発明は、焼却灰を埋立てした埋立焼却灰に建屋内で散水処理を施す焼却灰の処理方法であって、前記焼却灰は、埋立前に、所定密度に撒き出され、散水処理と通気処理とで前処理が施されることを特徴とする。かかる構成において、前記通気処理は、前記散水処理による水の前記焼却灰への浸透方向に対抗する方向で通気することを特徴とする。かかる構成において、前記散水処理と、前記通気処理とは、並行して行われることを特徴とする。前記散水処理は、一日当たりの散水量が3mm以上、6mm以下に設定されていることを特徴とする。上記いずれかの構成において、前記通気処理は、通気速度が1mm/秒以上、10mm/秒以下に設定されていることを特徴とする。
【0016】
本発明は、焼却灰を埋立てした埋立焼却灰に建屋内で散水処理を施す焼却灰の処理方法であって、前記焼却灰は、埋立前に、所定密度に撒き出され、散水処理と、前記散水処理により散水された水による前記焼却灰からの溶出物の溶出量の経時変化を小さくする溶出量の経時安定化処理とが施されることを特徴とする。かかる透水速度の向上処理とは、前記散水処理による水の前記焼却灰への浸透方向に対抗する方向で通気する処理であることを特徴とする。
【0017】
本発明は、焼却灰を埋立てした埋立焼却灰に建屋内で散水処理を施す焼却灰の処理方法であって、前記焼却灰は、埋立前に、所定密度に撒き出され、散水処理と、前記散水処理により散水された水の前記焼却灰での透水箇所の不均一性を抑制する透水箇所不均一性抑制処理とが施されることを特徴とする。かかる透水箇所不均一性抑制処理とは、前記散水処理による水の前記焼却灰への浸透方向に対抗する方向で通気する処理であることを特徴とする。
【0018】
本発明は、焼却灰を埋立てした埋立焼却灰に建屋内で散水処理を施す焼却灰の処理方法であって、前記焼却灰は、埋立前に、前処理が施され、前記前処理が、上記構成の溶出量の経時安定化処理、あるいは透水箇所不均一性処理のいずれかの処理であることを特徴とする。
【0019】
本発明は、焼却灰層に水を散水する散水方法であって、前記焼却灰層に水を散水し、併せて散水した水の前記焼却灰層の透水方向に対抗して通気することを特徴とする。かかる散水方法を、埋立前の焼却灰の前処理として採用すれば、埋立前に焼却灰の安定化処理が少量の水で早期に行えて好ましい。
【0020】
本発明は、焼却灰層に水を散水する散水装置であって、底面側に形成された透水層の上に設けられ、撤去可能に焼却灰を所定密度で撒き出し貯留する焼却灰貯留手段と、前記焼却灰貯留手段の内部に通気する通気手段と、前記焼却灰貯留手段に貯留した焼却灰層に散水する散水手段とを有することを特徴とする焼却灰用散水装置である。焼却灰用散水装置をこのように構成することで、上記焼却灰の浸出水の安定化を図るために行う散水処理が効率的に行える。
【発明の効果】
【0021】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0022】
本発明では、焼却灰の埋立前に、焼却灰を散水処理と通気処理とで前処理するため、埋立後の埋立焼却灰から発生する浸出水中の有機物、重金属等の溶出量を低く抑えることができる。
【0023】
前処理では、散水処理に併せて通気処理を採用することで、かかる通気処理を併用しない場合に比べて、前処理における使用水量を抑えながら、前処理に関わる浸出水からの有機物、重金属等の溶出量を低く抑える安定化の期間を短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0025】
本発明は、最終処分場における焼却灰の処理方法に関する技術で、埋立前の焼却灰に前処理を施すことで埋立後の焼却灰から発生する浸出水における溶出重金属等の低濃度化の早期達成に有効な技術である。すなわち。焼却灰を最終処分場に埋立処分する前に、管理された敷地内において前処理を行う。
【0026】
かかる前処理は、埋立前の焼却灰を所定密度、所定層厚に層状に撒き出し、撒き出した焼却灰層に人工的な散水と通気とを併用して施すことで、従来より提案されてきた前処理としての洗浄に比べ、格段にその使用水量、処理期間の短縮を図ることができる。このようにして所定の前処理が終了した焼却灰を、所定の最終処分場の埋設施設に投下して、埋設する。埋設した埋設焼却灰には、従来通り人工的な散水を定期的に行い、浸出水の管理を行う。
【0027】
かかる手順を、図1に示した。すなわち、ステップS100では、焼却灰の所定密度、所定層厚の撒き出しを行う。対象とする焼却灰としては、焼却施設から廃棄されるボトムアッシュ、フライアッシュ(飛灰)等を想定すればよい。撒き出しは、例えば焼却灰の埋立処理を行う最終処分場の一部に処理領域を設定して行えばよい。
【0028】
撒き出しは、バックホウ等を利用して行えばよく、撒き出し厚さは、例えば30cm等に設定しておけばよい。密度は、例えば、1.2g/cm以上、1.4g/cm以下に設定しておけばよい。1.2g/cm未満では、撒き出し管理等の不都合があり、1.4g/cmを超えると透水性を維持することが難しい等の不都合があるため、1.2g/cm以上、1.4g/cm以下の範囲が良好と判断した。より好ましくは、1.2g/cm以上、1.3g/cm以下の範囲である。
【0029】
撒き出し管理の不都合としては、例えば、密度管理の問題が挙げられる。撒き出し作業には、通常、重機を用いることが一般的に想定されるが、かかる重機を用いる場合には人が焼却灰を撒き出してレーキ等で敷きならす場合とは異なり、どうしても締め固めが強くなり、1.2g/cm未満での密度管理は実質的に行い難いという問題がある。
【0030】
ステップS200で、所定密度、所定層厚に撒き出した焼却灰に、所定量の人工散水と、所定流速の通気処理を行う。例えば、人工散水として、撒き出した焼却灰層上に、1.3mm相当の散水量の水を5〜10分間で散水する。かかる散水を、1日に、3回行う。1日当たりの散水量としては、4mm相当の散水量となる。かかる散水量の適切な範囲は、3mm/日以上、6mm/日以下である。3mm/日未満では散水量に対する蒸散量の影響が大きく、浸出水となる水量が減少し、その分洗浄効率が低下する不都合があり、6mm/日を超えては洗浄水量が過大となるためである。
【0031】
かかる散水に際しては、例えば、散水する焼却灰層の下方から、焼却灰層の中に向けて通気処理を施す。上記範囲の散水量に対しては、1mm/秒以上、10mm/秒以下の通気速度で通気処理を行えばよい。1mm/秒未満では通気処理の効果が十分に得られず、安定化が遅れる不都合があり、10mm/秒を超えては通気量が過大となり、通気により焼却灰が乾燥するなどの不都合が生じるためである。より好ましくは1mm/秒以上、3mm/秒以下である。本発明者の検討では、例えば、4mm/日の散水量に対しては、2mm/秒の通気速度の組合せが好ましかった。このようにして、焼却灰層の中を下方に通過する散水の透水方向に対抗して通気を行う。
【0032】
上記散水処理に際しては、かかる通気処理を行うと、かかる通気処理を行わない場合に比べて、散水した水の焼却灰層を通過する透水速度の散水開始後の経時変化が小さくなることが判明した。
【0033】
焼却灰層中の重金属、有機物等の溶出物の浸透水中への溶出量は、透水速度に大きく影響される。しかし、本発明にかかる前処理では、上記の如く透水速度の経時変化が小さくなるため、浸出水中への溶出物の溶出量の経時変化が少なく、安定した溶出状況が確保されることとなる。すなわち、透水速度の経時状況による遅速の変化が抑制され、溶出量の経時変動が安定化されて、結果として信頼性の高い前処理品質の確保を図ることができる。
【0034】
また、通気処理を併用することなく散水を行うと、どうしても、透水し易い道が焼却灰層の中に形成され、その道に沿って散水が流れようとする。一方、透水方向に対抗して下方から通気処理すると、焼却灰層の中が平均的に透水するようになり、透水面における透水箇所の不均一性が抑制される。
【0035】
かかる通気処理は、散水と並行して行えばよい。あるいは、散水処理と通気処理を相前後して行うようにしても構わない。かかる場合には、散水処理が先でも、通気処理が先でも構わないが、両処理を余り時間間隔をあけて行わないようにすることが必要である。好ましくは、相前後して、先の処理が終了後に、後の処理が引き続き行われるようにすればよい。ステップS200の処理の様子を、図2(a)に模式的に示した。
【0036】
また、図3には、かかるステップS200の焼却灰の通気処理を併用した散水処理が効率的に行える焼却灰用散水装置の全体構成を断面で模式的に示した。すなわち、図3に示すように、本発明に係る焼却灰用散水装置10は、焼却灰の貯留手段として、非透水性の土台11上の周縁にブロック12a等を積み上げる等して側壁12が形成されて、側壁12で囲まれた内部に焼却灰を投入して貯留することができるようになっている。側壁12には、図示はしないが、開閉可能な扉を設けておき、かかる扉を開閉することで、焼却灰の投入、取り出しが適宜に行えるようにしておけばよい。
【0037】
さらに、図示はしないが、上記のように構成された焼却灰貯留手段に貯留した焼却灰に、自然降雨が降り注がないように、焼却灰用散水装置10の全体を建屋等で覆っておけばよい。あるいは、最終処分場の建屋内に設置しても構わない。
【0038】
側壁12に囲まれた内部は、図3に示すように、土台11の上に、排水層13が設けられている。排水層13は、例えば粒径10〜20mm程度の粒径の砕石が所定層厚で設けられて砕石層13aにより形成されている。砕石層13a内には、塩化ビニル製等の有孔管が集水管として埋設されている。集水管は、図示はしない浸出水処理装置に接続され、集水管で集められた浸出水の処理、管理等が行われるようになっている。
【0039】
かかる砕石層13aの上に、ジオテキスタイル、砕石等で通気層14が設けられている。通気層14内には、通気手段として周囲に複数の小さい孔が設けられた塩化ビニル製等の有孔管15aが送気管15として埋設されている。有孔管15aは、図示はしないが、送気用のポンプに接続され、例えば、焼却灰層にその面積に対して2mm/秒等の所定の流速で通気可能に、空気を有孔管15a内に送気できるように構成されている。
【0040】
有孔管15aを通している通気層14の上には、図3に示すように、さらに通気層16が薄い層厚で設けられている。かかる通気層16も、ジオテキスタイル、砕石等で構成されている。通気層14、通気層16とでは、粒径が異なっている。かかる通気層16の上に、焼却灰の通気層への落下防止の働きをするトリカルネット17a等のネット17が設けられている。
【0041】
このようにして、トリカルネット17a上を側壁12で囲むことで、焼却灰を貯留する焼却灰貯留手段が構成されている。かかる構成の焼却灰貯留手段の上方には、散水手段18が、図示はしない給水ポンプに接続された給水管18aに散水ノズル18bを設けて構成されている。
【0042】
かかる構成の焼却灰用散水装置10を用いれば、散水処理と通気処理を併用する焼却灰の埋立前の前処理が効率的に行える。例えば、焼却施設から持ち込まれた焼却灰を、最終処分場の一角に設けた焼却灰用散水装置10の焼却灰貯留手段内に投入する。投入後、所定密度、所定層厚に層状に撒き出す。撒き出し後、散水ノズル18bから、焼却灰層上に前述の如き所定散水量で定期的に散水する。
【0043】
併せて、有孔管15aにより、前述の如き所定送気量で通気する。通気は、図3に示すように、散水した水の透水方向に対抗するように、焼却灰層中の下方から上方に向けて行われる。このようにして通気処理により溶出量の経時安定化処理がなされる散水した水は、焼却灰層中を均一性を増して透過して、効率的に焼却灰を洗浄し、排水層13に浸出水として至り、排水層13内の集水管により浸出水処理装置に送られ所定の処理が施され、その後は、例えば、場外放流、あるいは再利用等される。
【0044】
ステップS200の前処理の完了は、例えば、浸出水中の全有機炭素濃度(TOC)等を指標として判断すればよい。例えば、浸出水のTOCが、100mg/lとなった時点で、前処理完了と判断すればよい。かかる判断基準に達するには、焼却灰の性質等の影響で多少の幅はあるが、大体40日から50日の間で前処理が完了することが、実験で確認された。
【0045】
勿論、その他のEC(電気伝導度)等を判断の指標として使用しても構わない。TOCを判断指標として用いる有利な点は、TOCを指標として用いない場合に比べて、指標物質を直接示す数値だからである。因みに、その他のEC等を判断の指標として用いた場合には、より詳細には、1.0S/mの数値を基準として採用すればよい。
【0046】
このようにしてステップS200での前処理が完了した前処理済焼却灰は、ステップS300で、最終処分場の貯留構造物に投下する等して、所定要領で埋立をする。埋立要領は、従来通りで行えばよい。例えば、バックホウ等で1.7〜1.8g/cmの密度で、撒き出し、転圧をすればよい。ステップS300の様子を、図2(b)に模式的に示した。
【0047】
ステップS400では、図2(b)に示すように、最終処分場の貯留構造物に前処理済の焼却灰を投入し、その後所定層厚に撒き出し、転圧後、従来通りに散水して、浸出水の管理等を行う。例えは、1.7〜1.8g/cmの密度になるように所定層厚で撒き出し、転圧を行い、その後、0.7mm×3回/日で、すなわち約2mm/日の散水量で散水すればよい。浸出水量は、1.6〜1.9mm/日程度となり、且つ浸出水のTOCは、前処理で既に処理されているため、100mg/l以下となっている。
【0048】
図2(c)に示すように、TOCを100mg/l以下に維持した状態で、最終処分場の埋立が完了した後は、建屋を撤去したり、あるいは跡地利用を図ってもよい。図2(c)では、さらに、埋立完了後に浸出水の安定化処理を行う場合を想定し、埋立完了に際して、埋立部20内にドリップチューブ21a等の地中灌水パイプ21を埋設し、かかる地中灌水パイプ21から滴々に水を埋設部内に流し、浸出水処理装置で安定化処理を継続しても行う場合を示している。かかる安定化処理では、既に浸出水はTOCが100mg/l以下に抑制されているので、運転状態は浸出水処理プロセスの最低限度のレベルで維持すればよい。
【0049】
焼却灰の前処理を、前述の如く施さない場合に比べて、埋立完了後の浸出水安定化の処理負荷を小さく維持することができる。さらには、安定化処理の期間を短くすることもできる。
【0050】
また、上記説明の前処理では、使用する散水水量が、これまでの前処理としての洗浄水量に比べ格段に少量で済む。前処理で発生する浸出水を最終処分場の浸出水処理装置で処理させれば効率的で好ましいが、埋立焼却灰への人工散水で使用する以上の大量の洗浄水を使用する場合には、前処理に合わせて浸出水処理装置の能力を大きく設定する必要があり、設備コストの増大となる。
【0051】
また、浸出水処理装置は、埋立完了後も、継続的に浸出水の安定化処理を行うのが通常であるため、前処理のためにアップした増大能力分が、前処理終了後には無駄になる。一方、前処理専用に浸出水処理装置を設置しても構わないが、かかる場合には、より前処理コストが増大し、実効的な対応として採用しにくい場合も十分に想定される。
【0052】
しかし、本発明では、前処理に使用する散水量を少なく抑えることができるため、前処理で発生する浸出水量を、埋立焼却灰から発生する浸出水量にほぼ匹敵する程度に減らすことができ、大量に洗浄水を用いる場合とは異なり、浸出水処理装置の容量アップを特段に図ることなく、最終処分場の埋立焼却灰の浸出水管理で使用する浸出水処理装置を兼用して済ませることができる。
【0053】
上記説明の本発明で採用した前処理の有効性については、以下の実験から確認される。先ず、図4に示すように、前述の前処理がベンチスケールで行える前処理実験装置30を作成した。前処理実験装置30は、図4に示すように、カラム31内に、下方から排水層32、焼却灰層33を所定層厚に充填して構成されている。カラム31の下方には、排水層32に通じる排水口34が設けられ、カラム31の上方側には蓋35にカラム内への給水用の給水装置36が設けられている。
【0054】
カラム31内には、排水層32として、粒径10〜20mm程度の砕石が層厚5cmの厚さで充填されている。かかる排水層32の上に、焼却灰層33が、撒き出し厚さに匹敵する30cmの層厚で充填されている。焼却灰層33の充填密度は、1.3g/cmに調節した。給水装置36からの給水は、焼却灰への散水量に相当するように1.3mm/3回/日とした。かかる散水量は、3.9mm/日に相当する。併せて、排水口34の下方から、カラム31内に向けて2mm/秒で通気を行った。尚、実験時の気温は、25℃であった。
【0055】
かかる条件で、排水口34から焼却灰層33への給水により発生する浸出水を集め、浸出水のTOCの経時変化を観測した。図5には、同一の焼却施設から、異なる時期に採取した焼却灰A、Bについて、上記要領でカラム31内に充填し、給水して得られた浸出水のTOCを調べた結果を示した。図5では、縦軸にTOC濃度をmg/lで、横軸には経過日数を、それぞれ示した。
【0056】
図5に示すように、焼却灰A、Bは、それぞれ採取時期が異なり、その成分も異なると思われるが、TOCの経時変化は殆ど同じ傾向を示した。TOCの経時変化は、図5に示すように、当初増大し数日でピークを示し、その後、減少している。図5に示す実験では、実験開始後、35日から40日の間辺りで、TOCが100mg/l以下にまで下がることが確認された。
【0057】
同一焼却装置から排出された焼却灰については、焼却灰の採取時期が異なる等焼却灰の成分組成に変化が見られたとしても、前処理実験では、かかる変化にかかわらず浸出水のTOCの経時変化はほぼ同一傾向を示し、且つ、TOCが100mg/l以下に達するのは約40日ぐらいであることが確認される。上記実験は気温25℃下での実験であり、冬季の気温が低い場合を想定すれば、多少の遅れを加味して、40日から50日の間でTOCは100mg/l以下に低下すると考えて構わないと本発明者は判断した。
【0058】
次に、前処理済み焼却灰を埋立てた場合の最適な散水量を検討するため、散水量とTOCの経時変化との関係を実験で調べた。実験に際しては撒き出し層厚30cmとし、焼却灰層33の密度を1.8mg/cmとして行った。散水量は、図6に示すように、一日の散水量を4mm/日、2mm/日として行った。結果は、4mm/日でも、2mm/日でも、TOCの経時変化はほぼ同じであることが確認された。
【0059】
散水量の4mm/日は、従来の埋立方式での標準的な散水量に相当するが、その半分量、すなわち2mm/日量でも、TOCの経時変化は、4mm/日の場合とほぼ同様であることが分かった。すなわち、本発明に係る前処理を行った焼却灰を埋め立てると、かかる処理を行わない場合の平均散水量の半分の量で、浸出水の安定が、略同じ期間で行えることが確認される。
【0060】
そこで、本発明者は、前処理に際しては、40日から50日の間でTOCが100mg/l以下となるように焼却灰の前処理を行えば、前処理済み焼却灰の埋立後の散水量を
2mm/日量と設定して構わないものと、実験より判断できる。
【0061】
次に、従来の最終処分場での平均的な焼却灰の埋立密度である密度1.8g/cmで撒き出し、散水量を2mm/日量で散水し、TOCが100mg/l以下となるまでの期間的目安を40日〜50日として、40日後に、積み増しした場合の浸出水のTOCの経時変化を調べた。前処理済焼却灰と、未処理焼却灰とを、厚さ20cm、密度1.8g/cmで充填し、散水を行い、40日後に同じ焼却灰を積み増しし、散水を継続した場合の結果を図7に示す。
【0062】
未処理と比較して、前処理済焼却灰の浸出水はTOC濃度は低く保たれている。未処理の焼却灰では、積み増しした場合に、後から積み増しした焼却灰の影響を受けて、TOC濃度は再び上昇した。この結果、前処理を行わずに埋立てした場合、このような濃度変動もしくは濃度の高い浸出水が排出されることが予想されるが、前処理を済ませた焼却灰を埋立てした場合には、埋立後の浸出水のTOCの濃度は十分に低く抑えることが可能であることが確認された。
【0063】
以上の結果から、本発明を適用すれば、前処理により、前処理済焼却灰を埋立後の浸出水の水質が安定する。埋立後の焼却灰層から排出される浸出水の有機物、無機物の濃度は低く保たれる。前処理過程で排出され浸出水水質は安定しており、浸出水処理施設の設計、運転が容易となる。さらに、埋立管理に関する利点、特徴としては、前処理により、短期間で焼却灰を安全な状態にすることができる。この状態は、埋立工程での転圧等物理的な影響をうけにくい。埋立処分の過程で焼却灰の積み増しが進んでも水質は保たれる。埋立処分場の深さが増しても浸出水水質は低く保たれることから、最終処分場の敷地面積がとりにくい立地においては埋立深さを増すことで埋立容量の確保が図れる。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0065】
前記実施の形態の説明では、本発明の適用に際しての説明を、建屋内で焼却灰の埋立てを行い、埋立焼却灰に所定の散水を施して管理する閉鎖型処分場での適用例を例示として説明したが、これ以外の処分方式で適用しても構わないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、最終処分場での焼却灰の埋立処理方法等において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】焼却灰の処理手順を示すフロー図である。
【図2】(a)は前処理の状況を、(b)は埋立処理の状況を、(c)は埋立完了後の状況を、それぞれ模式的に示した説明図である。
【図3】焼却灰用散水装置の一例を示す説明図である。
【図4】前処理実験装置の構成を示す説明図である。
【図5】前処理における対象焼却灰の性状変化の影響を調べた結果を示す説明図である。
【図6】前処理済焼却灰の埋立における散水量の影響を調べた結果を示す説明図である。
【図7】積み増しにおける焼却灰の前処理の効果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0068】
10 焼却灰用散水装置
11 土台
12 側壁
12a ブロック
13 排水層
13a 砕石層
14 通気層
15 送気管
15a 有孔管
16 通気層
17 ネット
17a トリカルネット
18 散水手段
18a 給水管
18b 散水ノズル
20 埋立部
21 地中灌水パイプ
21a ドリップチューブ
30 前処理実験装置
31 カラム
32 排水層
33 焼却灰層
34 排水口
35 蓋
36 給水装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰を埋立てした埋立焼却灰に建屋内で散水処理を施す焼却灰の処理方法であって、
前記焼却灰は、埋立前に、所定密度に撒き出され、散水処理と通気処理とで前処理が施されることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の焼却灰の処理方法において、
前記通気処理は、前記散水処理による水の前記焼却灰への浸透方向に対抗する方向で通気することを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項3】
請求項2記載の焼却灰の処理方法において、
前記散水処理と、前記通気処理とは、並行して行われることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の焼却灰の処理方法において、
前記散水処理は、一日当たりの散水量が3mm以上、6mm以下に設定されていることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の焼却灰の処理方法において、
前記通気処理は、通気速度が1mm/秒以上、10mm/秒以下に設定されていることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項6】
焼却灰を埋立てした埋立焼却灰に建屋内で散水処理を施す焼却灰の処理方法であって、
前記焼却灰は、埋立前に、所定密度に撒き出され、散水処理と、前記散水処理された水による前記焼却灰からの溶出物の溶出量の経時変化を小さくする溶出量の経時安定化処理とが施されることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項7】
請求項6記載の焼却灰の処理方法において、
前記溶出量の経時安定化処理とは、前記散水処理による水の前記焼却灰への浸透方向に対抗する方向で通気する処理であることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項8】
焼却灰を埋立てした埋立焼却灰に建屋内で散水処理を施す焼却灰の処理方法であって、
前記焼却灰は、埋立前に、所定密度に撒き出され、散水処理と、前記散水処理により散水された水の前記焼却灰での透水箇所の不均一性を抑制する透水箇所不均一性抑制処理とが施されることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項9】
請求項8記載の焼却灰の処理方法において、
前記透水箇所不均一性抑制処理とは、前記散水処理による水の前記焼却灰への浸透方向に対抗する方向で通気する処理であることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項10】
焼却灰を埋立てした埋立焼却灰に建屋内で散水処理を施す焼却灰の処理方法であって、
前記焼却灰は、埋立前に、前処理が施され、
前記前処理が、請求項6〜9のいずれか1項に記載の焼却灰の処理方法が適用されていることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項11】
焼却灰層に水を散水する散水方法であって、
前記焼却灰層に水を散水し、併せて散水した水の前記焼却灰層の透水方向に対抗して通気することを特徴とする焼却灰層への散水方法。
【請求項12】
焼却灰層に水を散水する散水装置であって、
底面側に形成された透水層の上に設けられ、撤去可能に焼却灰を所定密度で撒き出して貯留する焼却灰貯留手段と、
前記焼却灰貯留手段の内部に通気する通気手段と、
前記焼却灰貯留手段に貯留した焼却灰層に散水する散水手段とを有することを特徴とする焼却灰用散水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−281006(P2006−281006A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100436(P2005−100436)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【出願人】(591052239)財団法人エンジニアリング振興協会 (8)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】