説明

焼結体、焼結体を用いた切削工具および焼結体の製造方法

【課題】優れた硬度を有する焼結体、およびその製造方法、ならびに耐摩耗性に優れた切削工具を提供することを目的とする。
【解決手段】立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン、ならびに鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む焼結体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体、焼結体を用いた切削工具および焼結体の製造方法に関し、より特定的には、立方晶型サイアロンを含む焼結体、前記焼結体を用いた切削工具および前記焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイアロン(以下、SiAlONともいう)は、窒化ケイ素にアルミニウムと酸素が固溶した構造を有しており、六方晶系に属するα型とβ型の2種類の結晶形がある(以下、それぞれα型サイアロン、β型サイアロンともいう)。サイアロンを用いた焼結体は、被加工材との反応性が低いという特性を有するため、切削工具用材料としての研究が進められている。
【0003】
たとえば、特許文献1(特開昭53−14714号公報)には、β’−サイアロン主成分素材に、窒化珪素粉および窒化アルミニウム粉のうちいずれか1種以上を混合して、得られた混合素材粉を成形および焼成することを特徴とする緻密質β’−サイアロン焼結体の製造方法が開示されている。
【0004】
上記のサイアロンセラミックスは、被加工材との反応性は低いが、立方晶型窒化硼素と比べると硬度が低く、切削工具材料として用いた場合に耐摩耗性が不十分である。
【0005】
したがって、優れた硬度および切削工具の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性を有する切削工具を得ることのできる焼結体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53−14714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた硬度を有する焼結体、およびその製造方法、ならびに耐摩耗性に優れた切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の焼結体は、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン、ならびに鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む。
【0009】
本発明の焼結体によれば、立方晶型サイアロンおよび上記の元素を含むことで、低反応性というサイアロンの特徴を維持したまま、焼結体の硬度と靭性を向上させることができる。
【0010】
本発明の焼結体は、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン、ならびに第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物または前記元素の硼化物を含む。
【0011】
本発明の焼結体によれば、立方晶型サイアロンおよび上記の化合物を含むことで、低反応性というサイアロンの特徴を維持したまま、焼結体の硬度と靭性を向上させることができる。
【0012】
本発明の切削工具は、上記の焼結体よりなる。
上記の焼結体は優れた硬度および靭性を有しているため、切削工具に用いた場合、耐摩耗性に優れた切削工具を得ることができる。
【0013】
本発明の焼結体の製造方法は、以下の工程を備える。β型の結晶構造を有するβ型サイアロン粒子を準備する。β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン粒子を得る。立方晶型サイアロン粒子に、鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属粒子を添加して金属含有混合物を得る。金属含有混合物を焼結する。
【0014】
立方晶型サイアロン粒子を、上記の金属粒子と混合して焼結することにより、優れた硬度および靭性を有する焼結体を得ることができる。
【0015】
本発明の焼結体の製造方法において好ましくは、金属含有混合物を得る工程において、金属粒子を、立方晶型サイアロン粒子の0.5質量%以上5質量%以下の割合で添加する。
【0016】
金属粒子の添加量を上記の範囲とすることで、焼結体の硬度および靭性を向上させることができる。
【0017】
本発明の焼結体の製造方法において好ましくは、立方晶型サイアロン粒子を得る工程の後であって、金属含有混合物を得る工程の前に、立方晶型サイアロン粒子を精製する工程をさらに備える。
【0018】
精製された立方晶型サイアロン粒子を用いることで、焼結体の硬度および靭性を向上させることができる。
【0019】
本発明の焼結体の製造方法において好ましくは、立方晶型サイアロン粒子を精製する工程は、立方晶型サイアロン粒子を得る工程により得られた、立方晶型サイアロン粒子を含む粉末をフッ酸で洗浄する工程と、フッ酸で洗浄する工程の後で、遠心分離法を用いて立方晶型サイアロン粒子を分離する工程とを含む。
【0020】
β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法により処理した場合の、β型サイアロン粒子から立方晶型サイアロン粒子への変換率は30〜50%である。したがって、立方晶型サイアロン粒子を得る工程により得られた粉末には、立方晶型サイアロン粒子とβ型サイアロン粒子とが混在し、さらにわずかな非晶質物質が含まれている。非晶質物質は、フッ酸に溶解する。したがって、立方晶型サイアロン粒子、β型サイアロン粒子および非晶質物質を含む粉末をフッ酸で洗浄すると、非晶質物質を除去することができる。また、立方晶型サイアロン粒子とβ型サイアロン粒子の比重は異なるため(立方晶型サイアロン粒子:4.0g/cm3、β型サイアロン粒子:3.14g/cm3)、両者が混在した粉末を遠心分離法を用いて処理すると、立方晶型サイアロン粒子とβ型サイアロン粒子を分離することができる。
【0021】
本発明の焼結体の製造方法において好ましくは、立方晶型サイアロン粒子を得る工程において、衝撃圧縮法は、2000℃以上4000℃以下かつ40GPa以上50GPa以下の雰囲気にて行われる。
【0022】
衝撃圧縮法を上記の条件下で行うことにより、平均粒径が0.01μm以上5μm以下の立方晶型サイアロンの結晶を得ることができる。
【0023】
本発明の焼結体の製造方法は、以下の工程を備える。β型の結晶構造を有するβ型サイアロン粒子を準備する。β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン粒子を得る。立方晶型サイアロン粒子に、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物または前記元素の硼化物からなる金属化合物粒子を添加して金属化合物含有混合物を得る。金属化合物含有混合物を焼結する。
【0024】
立方晶型サイアロン粒子を、上記の金属化合物粒子と混合して焼結することにより、優れた硬度および靭性を有する焼結体を得ることができる。
【0025】
本発明の焼結体は、上記の焼結体の製造方法により得られる。得られた焼結体は優れた硬度および靭性を有することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の焼結体、焼結体を用いた切削工具および焼結体の製造方法によれば、優れた硬度および靭性を有する焼結体、および耐摩耗性に優れた切削工具を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、高い硬度と高い靭性の両方の特性を兼ね備えた切削工具材料を得るべく研究開発を行った結果、立方晶の結晶構造を有するサイアロン(以下、立方晶型サイアロンまたはc-SiAlONともいう)を用いて焼結体を作製することで、低反応性というサイアロンの特徴を維持したまま、焼結体の硬度および靭性を向上させることができることを見出した。
【0028】
<焼結体>
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態において、焼結体は立方晶型サイアロン粒子、ならびに鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下、金属元素ともいう)を含む。
【0029】
立方晶型サイアロンは、窒化ケイ素(Si34)にアルミニウム原子(Al)と酸素原子(O)が固溶した構造を有するサイアロンのうち、立方晶の結晶構造を有するものである。立方晶型サイアロンを含む焼結体は、低反応性というサイアロンの特徴を維持したまま、硬度と靭性を向上させることができる。
【0030】
金属元素は、焼結体中で、立方晶型サイアロン同士を結合する機能を有すると考えられている。
【0031】
金属元素としては、鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素が挙げられ、1種類が含まれていても、2種類以上が含まれていてもよい。
【0032】
[実施の形態2]
本発明の一実施の形態において、焼結体は立方晶型サイアロン、ならびに第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物または前記元素の硼化物(以下、金属化合物ともいう)を含む。
【0033】
立方晶型サイアロン粒子は、実施の形態1と同様のものである。
金属化合物は、焼結体中で、立方晶型サイアロン同士を結合する機能を有すると考えられている。
【0034】
金属化合物としては、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物または前記元素の硼化物が挙げられる。具体的には、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)、二硼化チタン(TiB2)、窒化ジルコニウム(ZrN)、炭化ジルコニウム(ZrC)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二硼化ジルコニウム(ZrB2)、窒化バナジウム(VN)、炭化バナジウム(VC)、炭化タングステン(WC)などを用いることができる。金属化合物は1種類が含まれていても、2種類以上が含まれていてもよい。
【0035】
[実施の形態3]
本発明の一実施の形態において、焼結体は、前記立方晶型サイアロン、前記金属元素および前記金属化合物を含むことができる。
【0036】
[実施の形態4]
本発明の一実施の形態において、焼結体は、前記立方晶型サイアロンおよび前記金属元素とともに、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、および第3族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、前記元素の窒化物、または前記元素の酸窒化物を含むことができる。
【0037】
[実施の形態5]
本発明の一実施の形態において、焼結体は、前記立方晶型サイアロンおよび前記金属化合物とともに、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、および第3族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、前記元素の窒化物、および前記元素の酸窒化物を含むことができる。
【0038】
[実施の形態6]
本発明の一実施の形態において、焼結体は、前記立方晶型サイアロン粒子、前記金属元素、前記金属化合物およびシリコン、マグネシウム、アルミニウム、および第3族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、前記元素の窒化物、および前記元素の酸窒化物を含むことができる。
【0039】
<焼結体の製造方法>
[実施の形態7]
本発明の一実施の形態における焼結体の製造方法は、以下の工程を含む。初めに、β型サイアロン粒子を準備する。次に、前記β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、立方晶型サイアロン粒子を得る。次に、前記立方晶型サイアロン粒子に、鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属粒子を添加して金属含有混合物を得る。次に、前記金属含有混合物を焼結して焼結体を得る。
【0040】
(β型サイアロン粒子を準備する工程)
初めに、β型サイアロン粒子を準備する。β型サイアロン粒子は平均粒径が0.1〜10μmのものを用いることができる。
【0041】
(立方晶型サイアロン粒子を得る工程)
次に、β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン粒子を得る。
【0042】
立方晶型サイアロンの生成には、極めて高い圧力が必要である。たとえば、β型サイアロン粒子に、衝撃圧縮法を用いて50GPaの衝撃圧力を加えることで立方晶型サイアロン粒子を生成できたと報告されている(T. Sekine, H. He, T. Kobayashi, M. Tansho, K. kimoto; Chemical Physics Letters 344 (2001)395-399)。
【0043】
衝撃圧縮法は、2000℃以上4000℃以下かつ40GPa以上50GPa以下の雰囲気にて行われることが好ましい。この条件で処理することで、β型サイアロン粒子の30〜50%を、立方晶型サイアロン粒子に変換することができる。
【0044】
(金属含有混合物を得る工程)
次に、立方晶型サイアロン粒子に、金属粒子を添加する。金属粒子は、鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属粒子を用いることができる。
【0045】
金属粒子の平均粒径は、0.05μm〜1μmが好ましく、0.05〜0.1μmがより好ましい。金属粒子の添加量は、立方晶型サイアロンの0.5質量%以上5質量%以下の割合であることが好ましく、1質量%〜3質量%がより好ましい。
【0046】
金属含有混合物は、たとえば、予め立方晶型サイアロン粒子と金属粒子を、エタノールなどの有機溶媒中で超音波分散するか又はボールミル中で混合し、得られたスラリーをドライヤーなどで乾燥して得ることができる。
【0047】
なお、立方晶型サイアロン粒子に金属粒子を添加する際、実施の形態2に記載の金属化合物からなる金属化合物粒子および/または焼結助剤をさらに添加することもできる。
【0048】
焼結助剤は、立方晶型サイアロンの結晶粒成長を抑え、立方晶型サイアロン粒子間の空孔の消滅を容易にし、焼結体の高密度化を促進することができる。
【0049】
焼結助剤としては、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、および第3族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、前記元素の窒化物、および前記元素の酸窒化物が挙げられる。具体的には、Al23、MgO、Y23、およびZrO2などを用いることが好ましい。なお、これらの焼結助剤は1種類で用いても、異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(金属含有混合物を焼結する工程)
次に、金属含有混合物を焼結して焼結体を得る。
【0051】
焼結は、金属含有混合物を加圧成形した後に行うことができる。また、加圧成形と焼結とを同時に行うこともできる。
【0052】
たとえば、ホットプレスのように加圧成形しながら焼結すると、焼結が促進される。 加圧成形の圧力は1MPa〜5GPaが好ましく、1GPa〜5GPaがより好ましい。また、焼結温度は1400℃〜2000℃が好ましく、1500℃〜1900℃がより好ましい。
【0053】
また、冷間静水圧加圧(CIP)で成形した後、さらに熱間静水圧加圧(HIP)を用いて焼結することもできる。この場合も、焼結を促進することができる。
【0054】
[実施の形態8]
本発明の一実施の形態における焼結体の製造方法は、以下の工程を含む。初めに、β型サイアロン粒子を準備する。次に、前記β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、立方晶型サイアロン粒子を得る。次に、前記立方晶型サイアロン粒子を精製する。次に、前記立方晶型サイアロン粒子に、鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属粒子を添加して金属含有混合物を得る。次に、前記金属含有混合物を焼結して焼結体を得る。
【0055】
初めに、実施の形態7と同様に、β型の結晶構造を有するβ型サイアロン粒子を準備する。次に、前記β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法により処理することにより、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン粒子を得る。
【0056】
次に、立方晶型サイアロン粒子を精製する。β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、β型サイアロン粒子の30〜50%を、立方晶型サイアロン粒子に変換することができる。したがって、衝撃圧縮処理後の粉末には、立方晶型サイアロン粒子とともに、β型サイアロン粒子、およびわずかな非晶質物質が含まれている。したがって、処理後の粉末から立方晶型サイアロン粒子を精製することで、立方晶型サイアロン粒子の含有量が高い粉末を得ることができる。
【0057】
立方晶型サイアロン粒子の精製は、たとえば以下の方法で行うことができる。初めに、衝撃圧縮法で処理後の粉末を、フッ酸で洗浄する。非晶質物質はフッ酸に溶解するため、フッ酸で洗浄すると、前記粉末中の非晶質物質を除去することができる。立方晶型サイアロン粒子の密度は4.0g/cm3であり、β型サイアロン粒子の密度は3.14g/cm3と異なるため、遠心分離することで、立方晶型サイアロン粒子を精製することができる。このようにして得られた立方晶型サイアロン粒子の平均粒径は0.01μm〜5μm程度である。
【0058】
次に、精製された立方晶型サイアロン粒子に、実施の形態7と同様の方法で、鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属粒子を添加して金属含有混合物を得る。次に、実施の形態7と同様の方法で、前記金属含有混合物を焼結して焼結体を得る。
【0059】
[実施の形態9]
本発明の一実施の形態における焼結体の製造方法は、以下の工程を含む。初めに、β型サイアロン粒子を準備する。次に、前記β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン粒子を得る。次に、前記立方晶型サイアロン粒子に、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物または前記元素の硼化物からなる金属化合物粒子を添加して金属化合物含有混合物を得る。次に、前記金属化合物含有混合物を焼結して焼結体を得る。
【0060】
(β型サイアロン粒子を準備する工程)
初めに、実施の形態7と同様に、β型の結晶構造を有するβ型サイアロン粒子を準備する。
【0061】
(立方晶型サイアロン粒子を得る工程)
次に、実施の形態7と同様に、前記β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法により処理することにより、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン粒子を得る。
【0062】
なお、得られた立方晶型サイアロン粒子を、実施の形態8と同様の方法で精製することが好ましい。
【0063】
(金属化合物含有混合物を得る工程)
次に、立方晶型サイアロン粒子に、金属化合物粒子を添加する。金属化合物粒子は、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物または前記元素の硼化物からなる金属化合物粒子を用いることができる。
【0064】
金属化合物粒子の平均粒径は、0.05μm〜1μmが好ましく、0.05μm〜0.1μmがより好ましい。金属化合物粒子の添加量は、立方晶型サイアロンの0.5質量%以上5質量%以下の割合であることが好ましく、1〜3質量%がより好ましい。
【0065】
金属化合物含有混合物は、たとえば、予め立方晶型サイアロン粒子と金属化合物粒子を、エタノールなどの有機溶媒中で超音波分散するか又はボールミル中で混合し、得られたスラリーをドライヤーなどで乾燥して得ることができる。
【0066】
なお、立方晶型サイアロン粒子に金属化合物粒子を添加する際、実施の形態7に記載の金属粒子および/または実施の形態7に記載の焼結助剤をさらに添加することもできる。
【0067】
(金属化合物含有混合物を焼結する工程)
次に、実施の形態7と同様の方法で、金属化合物含有混合物を焼結して焼結体を得る。
【実施例】
【0068】
<実施例1〜51>
β型サイアロン粒子30gをステンレス製容器に充填し、爆薬の爆発による衝撃圧縮法により、約40GPaの圧力および2000℃〜2500℃の温度で処理した。衝撃圧縮法による処理後に、ステンレス製容器を硝酸に溶解し、粉末を回収した。回収した粉末をX線回折で分析すると、立方晶型サイアロン、β型サイアロンおよび非晶質物質が含まれていた。
【0069】
回収した粉末をフッ酸溶液で洗浄して非晶質物質を除去したのち、粉砕機で粉砕して、粉末の粒径を約0.05〜0.2μmに揃えた。次に、粒径を揃えた粉末を比重差を利用して、立方晶型サイアロン粒子とβ型サイアロン粒子とに分離した。この結果、立方晶型サイアロン粒子12.8gを得た。
【0070】
次に、得られた立方晶型サイアロン粒子10gと、表1〜表3に示す種類および重量(g)の金属粒子または金属化合物粒子とをセラミックス製ボールミル容器に入れた後、セラミックスボールとエタノール100mlを容器内に添加し、ボールミル混合を2時間行った。なお、金属粒子を2種類を使用する場合は、種類および混合比率を表中に示した。
【0071】
ボールミル混合後、スラリー状になった混合物を100℃に保持した乾燥機に入れてエタノールを蒸発させ、立方晶型サイアロン粒子と、金属粒子または金属化合物粒子の混合粉末を得た。
【0072】
次に前記混合粉末4gを、超高圧プレス機で5GPaの圧力を加えながら、1500℃で30分間焼結した。
【0073】
得られた焼結体をISO型番SNGN120408形状の切削工具形状に加工し、以下の条件で、時効処理後のインコネル718(登録商標)の切削試験を行い、切削距離が300mの時の工具刃先のVb摩耗幅を調べた。
【0074】
切削速度:300m/min
切り込み深さ:0.2mm
送り速度:0.15mm/rev
湿式条件
結果を表1に示す。
【0075】
<比較例1〜3>
比較例1〜3は、β型サイアロン粒子をそのまま用いて焼結体を作製した例である。初めに、実施例1と同様の方法で、β型サイアロン粒子10gと、表3に示す種類および重量(g)の金属粒子との混合粉末を作製した。次に、得られた混合粉末を実施例1と同様の方法で焼結した。得られた焼結体について、実施例1と同様の切削試験を行った。
【0076】
結果を表3に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
<評価結果>
実施例1〜53は、立方晶型サイアロン粒子を原料とした焼結体である。実施例1〜53のVb摩耗幅は、β型サイアロン粒子を原料とした比較例1〜3に比べて、優位な差で低減した。
【0081】
<実施例54〜86>
実施例1と同様の方法で、β型サイアロン粒子から立方晶型サイアロン粒子を作製し、実施例1と同様の方法で、β型サイアロン粒子10gと、表4および表5に示す種類および重量(g)の金属粒子と、金属化合物粒子または焼結助剤との混合粉末を作製した。なお、金属粒子、金属化合物粒子および焼結助剤のうち、2種類を使用する場合は、種類および混合比率を表中に示した。
【0082】
次に、得られた混合粉末4gを、ホットプレス機で30MPaの圧力を加えて、1800℃で1時間焼結した。
【0083】
得られた焼結体をISO型番SNGN120408形状の切削工具形状に加工し、以下の条件で、時効処理後のインコネル718(登録商標)の切削試験を行い、切削距離が300mの時の工具刃先のVb摩耗幅を調べた。
【0084】
切削速度:300m/min
切り込み深さ:0.2mm
送り速度:0.15mm/rev
湿式条件
結果を表4および表5に示す。
【0085】
<比較例4〜7>
比較例4〜7は、β型サイアロン粒子をそのまま用いて焼結体を作製した例である。初めに、実施例54と同様の方法で、β型サイアロン粒子10gと、表5に示す種類および重量(g)の焼結助剤との混合粉末を作製した。次に、得られた混合粉末を実施例5と同様の方法で焼結した。得られた焼結体について、実施例54と同様の切削試験を行った。
【0086】
結果を表5に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
<評価結果>
実施例54〜86は、立方晶型サイアロン粒子ならびに金属粒子と、金属化合物粒子または焼結助剤を原料とした焼結体である。実施例54〜86のVb摩耗幅は、β型サイアロン粒子および焼結助剤を原料とした比較例4〜7に比べて、優位な差で低減した。
【0090】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン、ならびに鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、焼結体。
【請求項2】
立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン、ならびに第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物または前記元素の硼化物を含む、焼結体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の焼結体よりなる切削工具。
【請求項4】
β型の結晶構造を有するβ型サイアロン粒子を準備する工程と、
前記β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン粒子を得る工程と、
前記立方晶型サイアロン粒子に、鉄、コバルト、ニッケル、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素からなる金属粒子を添加して金属含有混合物を得る工程と、
前記金属含有混合物を焼結する工程とを備えた、焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記金属含有混合物を得る工程において、前記金属粒子を、前記立方晶型サイアロン粒子の0.5質量%以上5質量%以下の割合で添加する、請求項4に記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記立方晶型サイアロン粒子を得る工程の後であって、前記金属含有混合物を得る工程の前に、前記立方晶型サイアロン粒子を精製する工程をさらに備えた、請求項4または5に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記立方晶型サイアロン粒子を精製する工程は、前記立方晶型サイアロン粒子を得る工程により得られた、前記立方晶型サイアロン粒子を含む粉末をフッ酸で洗浄する工程と、
前記フッ酸で洗浄する工程の後で、遠心分離法を用いて前記立方晶型サイアロン粒子を分離する工程とを含む、請求項6に記載の焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記立方晶型サイアロン粒子を得る工程において、前記衝撃圧縮法は、2000℃以上4000℃以下かつ40GPa以上50GPa以下の雰囲気にて行われる、請求項4〜7のいずれか1項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項9】
β型の結晶構造を有するβ型サイアロン粒子を準備する工程と、
前記β型サイアロン粒子を衝撃圧縮法で処理することにより、立方晶の結晶構造を有する立方晶型サイアロン粒子を得る工程と、
前記立方晶型サイアロン粒子に、第4族元素、第5族元素、および第6族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物または前記元素の硼化物からなる金属化合物粒子を添加して金属化合物含有混合物を得る工程と、
前記金属化合物含有混合物を焼結する工程とを備えた、焼結体の製造方法。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれか1項に記載の製造方法により製造された焼結体。

【公開番号】特開2011−157233(P2011−157233A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20245(P2010−20245)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】