説明

焼結複合体の焼結接合方法

【課題】 焼結による外部材の収縮を利用した焼結接合方法を対象とし、接合面が単純な平板状、接合面の途中に凹溝を有する態様、何れにも適用容易にして汎用性に優れ、接合強度を向上できるようにする。
【解決手段】 内部材及び外部材を嵌め合わせて焼結により接合する焼結複合体の焼結接合方法において、前記外部材が圧縮成形された略筒形の圧粉体を焼結したものである場合、外部材用圧粉体20Aの長さを内部材10の接合予定部の長さより大きく設定し、内部材10の接合予定部より圧粉体20Aの端部がはみ出し前記内部材10と非接触になるように圧粉体20Aの筒内に内部材10を嵌め合わせ、圧粉体20Aの焼結による寸法収縮により、前記外部材が前記内部材を握り締めるよう変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内外部材を嵌め合わせて焼結により接合する焼結接合方法に関し、特に外部材に圧粉体、内部材に鋼材や焼結材料などを用い、焼結による外部材の収縮を利用して接合する場合に好適な焼結複合体の焼結接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の焼結接合方法は焼結工程で内外部材を接合するため、機械的な接合と比べて簡易で製造費が有利となる。この接合方法では、外部材の焼結による収縮を利用することがあり、図9(a)のごとく内部材17と外部材27とが面接合である場合において、接合力を高めようとして焼結による収縮(shrinkage)が大きい外部材用圧粉体を採用すると、外部材27が長さ方向にも収縮するため、外部材27は長さ方向の中間部が内部材17と密着接合され、両端27a,27aが内部材17の対応部に密着せずに拡径し易くなり、隙間40を発生するとともに接合強度が不充分となる。これは、外部材用圧粉体が、長さ方向の両端部密度より中間部密度が低い場合(neutral zone)、及び焼結(焼結温度から室温まで冷却した)後の寸法が圧粉体寸法に対して約0.3%以上に収縮する態様に発生し易い。下記特許文献1は、図10の構成により前述のような問題を解消したものである。同(a)は焼結前を示し、(b)は焼結後の焼結複合体を示している。この接合特徴は、内部材19が外部材29の両端内周に対応した大径部19a,19bと、間の径小部19cと、径小部19cと各大径部19a,19bとの間のなだらかな連結部19dとを形成している。そして、内部材19を外部材用圧粉体29Aに嵌め合わせて焼結する過程で、圧粉体29Aの内周面が内部材19の造形された外周面形状に対応した形状に変形しながら、内部材外周面に焼結接合されることにより、未接合部分が極力生じないようにし接合強度を充足させる。
【0003】
【特許文献1】特許第3318213号公報(第2〜3頁、図1〜図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の焼結接合方法では、図9(a)における外部材端部の拡径及び隙間40を抑えて内外部材の接合強度をそれなりに強くできるが、内部材への加工が複雑となり、接合強度が径小部と大径部との間の段差寸法、連結部の傾斜角の設定等により変動し易い。また、図9(b)に挙げたように、内部材18が外周に筒内と連通する凹溝18gを有し、外部材28が凹溝18gを覆うような形態だと適用が困難になる。通常は外部材28が圧粉体を焼結する過程で凹溝18gに逃げるよう収縮し、外部材両端は図9(a)と同様に内部材18と密着しなくなる。このため、焼結複合体としては接合不完全で、凹溝18gが流体通路になる場合には隙間ができて流体漏れ要因となる。従って、焼結複合体の普及や量産性からは、接合用に施される内部材の加工をより簡略化したり、内部材が外部材で閉じられた通路用凹溝を有する態様にも有効となり、しかも強固な接合強度を確保可能にしなければならない。
【0005】
本発明は以上のような背景から工夫されたものである。その目的は、焼結による外部材の収縮を利用した焼結接合方法を対象とし、接合面が単純な平板状、接合面の途中に凹溝(環状又は周回溝)を有する態様、何れにも適用容易にして汎用性に優れ、かつ、接合強度を向上できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、内部材及び外部材を嵌め合わせて焼結により接合する焼結複合体の焼結接合方法において、前記外部材が圧縮成形された略筒形の圧粉体を焼結したものである場合、前記外部材用圧粉体の長さを前記内部材の接合予定部の長さより大きく設定し、前記内部材の接合予定部より前記外部材用圧粉体の端部がはみ出し前記内部材と非接触になるように前記外部材用圧粉体の筒内に前記内部材を嵌め合わせ、前記外部材用圧粉体の焼結による寸法収縮により、前記外部材が前記内部材を握り締めるよう変形することを特徴としている。
【0007】
以上の本発明において、外部材用圧粉体の端部が内部材の接合予定部よりはみ出して非接触となる態様は、前記内部材の端面より前記外部材の端面が突出した状態、または、前記内部材の接合予定部に設けた端縁の面取り部、環状の溝部、接合予定部より細くした小径部のいずれかと前記外部材用圧粉体との間の隙間で形成される(請求項2)。また、前記外部材用圧粉体の前記端部はみ出し長さは0.2mm以上であること(請求項3)、前記焼結は前記外部材が前記内部材の接合予定部に密着するまで、または、前記外部材の前記端部はみ出し部の孔寸法が前記内部材の接合部太さ寸法より小さくなるまで行われること(請求項4)、前記焼結において、焼結敷き板を用い前記外部材用圧粉体に前記内部材を嵌め合わせたものを焼結敷き板上に載置して焼結するとともに、前記外部材下端面が前記焼結敷き板に接触する態様の場合に前記接触部における前記焼結敷き板の接触面積の比が5〜30%となる焼結敷き板を用いること(請求項5)が好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る焼結複合体の焼結接合方法では次のような利点を有している。
・請求項1の構成では、外部材用圧粉体の端部を内部材の接合予定部よりはみ出させて非接触つまり非拘束状態にすることにより、外部材と内部材の接合予定部とが確実に接合し、内部材軸方向の引き離し(抜去)強度を高くすることができる。また、特許文献1の方法に比べて内部材の加工が極めて簡単で量産性に優れ、品質向上に寄与できる。
・請求項2の構成では、外部材用圧粉体の端部が内部材の接合予定部よりはみ出して非接触となる態様として色々な形状があり、例えば、内外部材の接合面が単純な平面状に限られず、内部材外周に凹溝を有している態様でも適用可能なため汎用性を具備できる。
・請求項3の構成では、はみ出し長さが0.2mm以上に設定されることで接合強度をより確実に向上できる。
・請求項4の構成では、焼結において熱エネルギー(温度及び時間)を多く与えると、外部材が焼結により収縮する過程で、はみ出し部が内側へ自由に変形し、内部材の接合部太さ寸法より小(外部材の端部が抜け止めに好適な先細り状)とすることができ、この結果、接合強度はさらに高くできる。また、内外部材の冶金的な元素の移動、拡散、合金化による接合もより確実な状態になり、接合部の気密性も高いものとなる。
・請求項5の構成では、外部材用圧粉体と接触する部分の焼結敷き板の面積比が5〜30%となる焼結敷き板を使用することにより、接合強度を確実に充足したり接合強度のばらつきの幅を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明である焼結複合体の焼結接合方法を図面を参照し詳述する。図1〜図6は本発明を説明するための内外部材用原材料の組み合わ例とその焼結複合体構成を示している。
【0010】
(焼結複合体)本発明の焼結接合方法は、外部材用圧粉体の筒内に内部材を嵌め合わせた状態で焼結されて、外部材の焼結収縮により接合一体化して形成される焼結複合体に適用される。ここで、外部材用圧粉体は、粉末冶金分野で使用されている各種の混合粉を圧縮形成した圧粉体、粉末成形潤滑剤の除去のために脱ろう加熱を行ったもの、嵌め合わせ強度を確保するために、粉末成形潤滑剤が溶融する温度程度で加熱されたもの、或いは予備焼結されたものである。圧粉体や予備焼結体としては焼結寸法収縮率が少なくとも0.3%以上であることが好ましい。該寸法収縮をさせる場合は、例えば、低密度圧粉体、微粉が多い圧粉体、焼結により液相がでる圧粉体を参考にし、目標収縮率に近づけるようにする。内部材は、鋼材などの溶製材、焼結材、圧粉体を問わない。要は、焼結中に外部材との間で相対的に寸法膨張する関係にあればよい。これは、例えば、内部材用圧粉体であれば、外部材用圧粉体の焼結寸法変化の収縮率がより小さいもの、または焼結寸法変化がゼロまたは膨張するものである。
【0011】
(基本例)図1〜図6のうち、図1は筒形の外部材用圧粉体20Aの筒内に柱状の内部材10を嵌め込んだ状態を模式的に示している。外部材用圧粉体20Aは、内部材10より長く、端部20a,20aが内部材10より突出したはみ出し部20b,20bを形成している。はみ出し長さhは後述する検証結果より0.2mm以上とする。図1では外部材用圧粉体20Aと内部材10との間に隙間を設けて作図されているが、両部材のはめあいは従来技術と同様に、圧粉体の強度、肉厚、焼結寸法変化、合金の種類などを考慮して、すきまばめ、中間ばめ、しまりばめの中から適宜選択される。隙間が大きすぎると内部材10が移動しやすく、しめしろ(interference)が大きすぎると外部材用圧粉体20Aが割れやすくなることに留意する。
【0012】
図2〜図6は焼結接合の過程を順次説明する模式図である。なお、ここでは、内部材10が外部材用圧粉体の焼結により寸法変化しないものとして記載している。図2は焼結において組み合わせ部材に与えた熱エネルギーが比較的に少なく、接合が始まった初期状態を示している。外部材20は、矢印で示しているように全体に収縮し、外部材用圧粉体20Aの密度が比較的低いニュートラルゾーンでより収縮して内部材10に密着し、また、外部材20の長さ方向の収縮により、端部20a,20aが拡張して内部材10の縁部との間に隙間40,40ができている。図3は更に焼結で与えた熱エネルギーが増加し、接合が進展した状態である。外部材20は収縮し接合面積が増大し、隙間40,40が減少している。
【0013】
図4は、通常の焼結温度及び焼結時間で焼結された接合状態である。外部材20は、端部20a,20aが拡張形状を残しているが、内部材10の接合予定部外周面と完全に接合されている。このように接合されると、焼結複合体1としては、焼結後の冷却過程で内部材10に対して外部材20が拡張するような熱膨張を現す材料の組み合わせでも、端部20a,20aが両部材間の応力を緩和する効果を示し、両部材を剥離させるということがなくなる。これに対し、従来技術のように、外部材用圧粉体20Aの長さが内部材10の接合予定部の長さと同じか短い場合には、端部20a,20aの拡張部が内部材10との間に隙間40を形成することになり、接合予定部外周面に対して実際に接合される面積が少ないので期待する接合強度が得られない。
【0014】
図5は、外部材20が焼結されやすい材料であったり、焼結で与える熱エネルギーを比較的多くした場合の接合状態である。外部材20は、端部20a,20aが焼結により縮小して、筒内面が内部材10の接合面と同一の面になっている状態である。よって、この形態では、互いに合金になりやすい元素を含む部材を用いていれば元素の拡散が進展して、接合がより確かなものとなった焼結複合体2が得られる。
【0015】
図6は、図5の状態より外部材20の焼結による収縮が進展した場合の焼結複合体3である。外部材20は、端部20a,20aが筒孔が縮小して、内部材10より小さくなっている。この焼結複合体3では接合力がより高くなる。また、外部材20が焼結されやすい材料であったり、焼結で与える熱エネルギー(焼結温度及び時間)を比較的多くすることにより得ることができる。
【0016】
以上の基本例において、実証した試験結果は下記のとおりである。この試験では、図1に示すはみ出し部20b,20bのはみ出し長さh,hを種々変更した試料を用いて焼結接合を行い、焼結複合体の軸方向の抜出し圧力を測定した。内部材10は、構造用炭素鋼材S45Cを切削加工した外径寸法20mm、長さ20mmの柱体を用いた。外部材用圧粉体20Aは、3質量%のNiを含有する鉄合金粉に、2質量%銅粉、0.4質量%の黒鉛粉、及び成形潤滑剤粉1質量%を添加した混合粉を、寸法が内径20mm、外径30mm、長さ20〜24mmのリング形状で、密度7.0Mg/cm になるように圧縮成形した筒体である。外部材用圧粉体20Aの内径寸法は、内部材10の外形寸法より0.01mm大きく設定している。
【0017】
焼結は、温度1140℃、還元性ガス雰囲気中で行った。この温度は、はみ出し長さh=(24mm−20mm)/2=2mmのもので、図4に示すような外部材20の端部20a,20aが僅かに拡張しているものの、断面を顕微鏡観察したときに隙間40が認められなくなる焼結条件であった。なお、外部材用圧粉体20Aを焼結したときの内径寸法変化は0.8%の収縮であった。得られた焼結複合体について、外部材20を固定し、内部材10をポンチで軸方向に加圧した抜去最大圧力を測定した。この結果は、内部材10と外部材20の長さ寸法が同じで、はみ出し長さh=0mmのものを100としたとき、次のようになった。すなわち、h=0.2mmでは抜去圧力指数が115、h=0.5mmでは抜去圧力指数が125、h=0.8mmでは抜去圧力指数が130である。このように、構造的には、h=0.2mm以上に設定することで接合強度を確実に向上できる。但し、はみ出し長さhが1.5mmを超えても接合強度の向上はあまり期待できない。このため、はみ出し長さhとしては0.2mm〜2mm、より好ましくは0.2mm〜1.0mmの範囲に設定することである。
【0018】
また、図6に示す外部材20の端部20a,20aが僅かに縮小している焼結複合体3となる焼結温度1160℃で焼結した場合では、はみ出し長さh=0mmでは抜去圧力指数が105、h=0.2mmでは抜去圧力指数が120、h=0.5mmでは抜去圧力指数が135、h=1.0mmでは抜去圧力指数が145である。このように、外部材用圧粉体20Aのはみ出し長さhを0.2mm以上に設定して内外部材を嵌め合わせて焼結すると、焼結接合予定部が確実に密着し、接合強度の大きい焼結複合体を製造することができることが判明した。
【0019】
(変形例)図7は、内部材と外部材用圧粉体の形状が異なる焼結複合体の形態を示したものである。なお、図では理解しやすくするため形状寸法を誇張して作図している。各焼結複合体4〜8は、基本例で説明したと同様に外部材の焼結による収縮を利用して強固に接合されている。このうち、図7(a)は内部材11が径小部11dを有し、その段差により外部材21の上端部にはみ出し部21bが形成され、他端縁に面取り11cを形成すると共に内部材端面より外部材用圧粉体を突出させることにより下端部のはみ出し部21bが形成されている形状の焼結複合体4である。
【0020】
図7(b)は両部材共に筒状をしている。はみ出し部22b,22bは図1の場合と同様に内部材12と外部材22の長さ寸法の差によって形成されている形状をしている焼結複合体5である。
【0021】
図7(c)は、内部材13が図の上側に環状の凹溝13eを備えており、その凹溝13e上に外部材23のはみ出し部23bを形成し、他端縁に面取り13cを設けて外部材23を突出させることにより下端部のはみ出し部23bを形成している形状をしている焼結複合体6である。
【0022】
図7(d)は、内部材14に、外部材24の長さに対応して環状の凹溝14e,14eを設け、各凹溝上に外部材24のはみ出し部24b,24bを形成しており、外部材24は、周方向に肉厚が異なるカム形状をしている焼結複合体7である。
【0023】
図7(e)は、従来技術で説明した図9(b)のように、内部材15に流体通路があり、外周の凹溝15gを覆うように外部材25を焼結接合した焼結複合体8である。内部材15は、おおよそ筒形状で、外周に環状の凹溝15g、凹溝15gから筒内に貫通する通路15fがあり、又、外部材25の長さ寸法に対応して2つの凹溝15e,15dがある。凹溝15e,15d上に外部材25の両端部が位置してはみ出し部25b,25bを形成した形状をしている。これらに例示されるような各種形状の焼結複合体においても、外部材用圧粉体のはみ出し部を0.2mm以上に設定して焼結接合すると、接合強度が高い焼結複合体を製造することができる。
【0024】
なお、一般に圧粉体を焼結する際に、圧粉体と焼結ケース等との反応を避けるために、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素等のセラミックス製の焼結敷き板を用い、この焼結敷き板上に圧粉体を載置して焼結することが行われており、上記の焼結複合体の焼結においても焼結敷き板の使用が推奨される。このような焼結敷き板の使用において、外部材の下端面が焼結敷き板と接触する場合(例えば図1、図7(a)、図7(b)および図10(a)のような態様)は、焼結敷き板として、圧粉体と接触する部分の焼結敷き板の面積比が5〜30%となる焼結敷き板を使用すると好適である。すなわち、外部材の下端面が焼結敷き板と接触するような場合、上記の外部材の焼結収縮の際に、外部材下端面と焼結敷き板との間の接触抵抗(摩擦)によって外部材下端部の収縮量が上端部よりも小さくなる傾向が生じるが、この傾向により接合部のうち下端部の接合状態が上端部側よりも弱まる虞がある。これに対し、表面粗さが粗い焼結敷き板を用いて焼結を行うと、外部材と焼結敷き板の接触面積が小さくなって接触抵抗を減少させ、外部材における上端部と下端部との収縮量の差を小さくすることができるようになる。このため、表面粗さが粗い焼結敷き板を用いた場合には、接合部における上端部と下端部ともに良好な接合状態が形成され、接合強度をより確実に大きくできるとともに、接合強度のばらつきの幅を小さくすることができる。上記の効果を得るためには、焼結敷き板の接触部における接触面積の比が30%以下となる焼結敷き板を用いることが好ましい。一方で、外部材用圧粉体との接触面積が過度に小さくなると圧粉体の重量をその小さな接触面で受けることとなり、凹凸部の破損や繰り返し使用のうちに凹凸が摩滅しやすく焼結敷き板の寿命が短くなる。この点から、接触部における焼結敷き板の接触面積比は5%以上とすることが好ましい。
【0025】
なお、上記の接触部における焼結敷き板の面積比は、焼結敷き板が完全に平滑であると仮定した場合を100%とした値である。また、この面積比は、通常のセラミックス製の焼結敷き板の場合、表面の微細な凹凸(密度により異なる)や、繰り返し使用による変形(反り等)により、実際の接触部における面積比はおよそ35〜80%となっている。このようなセラミックス製の焼結敷き板の接触部部における面積比を30%以下とするには、図8(a)、(b)あるいは(c)に示すようにセラミックス製敷き板の表面に畝状、クロスハッチ状あるいは網状等の凹凸を形成して、当接部の接触面積を低下させることで充足させることができる。図8(a)、(b)および(c)の敷き板部材50のハッチング部分50aが当接部における接触面積で、この部分の面積比が当接部の面積比となる。凹凸の形成は、セラミックス圧粉体を製造する金型に予め形成しておいてセラミックス圧粉体に転写してもよく、焼成前のセラミックス圧粉体に刻印して形成してもよく、また焼成後のセラミックス敷き板に機械加工を施してもよい。
【0026】
(実施例)以上の発明焼結接合方法の実施例を図7(a)と、図7(b)と、図7(e)の各形態により説明する。
【0027】
(実施例1)図7(a)において、内外部材用の原材料は次のとおりである。内部材11は構造用炭素鋼S45C材を切削加工した。円筒形状の外部材21用圧粉体は、耐摩耗性焼結合金用であり、組成が質量比で3%Cr、0.3%Mo、及び0.3%Vを含有する鉄合金粉に、1質量%の黒鉛粉、及び1質量%の成形潤滑剤粉末を添加した混合粉を用意し、その混合粉を圧粉体密度6.8g/cm になるよう圧縮成形した。外部材21用圧粉体の内径寸法は内部材11の外形寸法より0.01mm大きく設定した。また、外部材21用圧粉体の長さ寸法は、内部材11の接合予定部の長さ寸法と同一のものと(比較例)、嵌め合わせたときの両端のはみ出し長さhがそれぞれ0.5mmになるように、内部材11の接合予定部の長さ寸法より1mm長いもの(実施例)を用意した。そして、内部材10を外部材21用圧粉体の筒内に嵌め合わせて、接触部における接触面積が面積比で40%のアルミナ製焼結敷き板を用い温度1250℃、還元性ガス雰囲気中で焼結した。なお、外部材21用圧粉体の焼結による内径寸法変化は0.6%の収縮であった。
【0028】
以上により作製された各焼結複合体は次のような特性を示した。まず、外部材21用圧粉体の長さ寸法が内部材11の接合予定部の長さ寸法と同一のもの(比較例の焼結複合体)は、切断面を顕微鏡で観察すると、従来技術で説明した図9(a)と同様に、接合予定部の縁部に隙間40または部材の境界部に気孔が多くなるという現象が認められた。はみ出し部21bを形成したもの(実施例の焼結複合体)は、前記基本例で説明した図5に示した外部材の収縮状態に近似していた。また、各焼結複合体は、外部材21の下端面を支持した状態で内部材11を加圧して、両部材の接合が破壊されるときの圧力つまり接合強度により評価した。この結果、接合強度は、実施例の方が比較例よりも1.3倍以上強くなり発明の有効性が確認された。
【0029】
(実施例2)図7(b)において、内外部材用の原材料は内部材12用圧粉体と外部材22用圧粉体との組み合わせである。内部材12用圧粉体は、鉄粉に2質量%の銅粉、0.8質量%の黒鉛粉を添加した混合粉を用意し、その混合粉を圧粉体密度6.4g/cm になるよう圧縮成形した。円筒形状の外部材22用圧粉体は、鉄粉に3質量%のニッケル粉、0.4質量%の黒鉛粉を添加した混合粉を用意し、その混合粉を圧粉体密度6.8g/cm になるよう圧縮成形した。外部材22用圧粉体の内径寸法と内部材12用圧粉体の外形寸法はほぼ同じである。また、前記実施例1と同様に、外部材22用圧粉体の長さ寸法は、内部材11用圧粉体の接合予定部の長さ寸法と同一のもの(比較例)と、嵌め合わせたときの両端のはみ出し長さhがそれぞれ0.5mmになるように、内部材11用圧粉体の長さ寸法より1mm長いもの(実施例)を用意した。そして、内部材10用圧粉体を外部材21用圧粉体の筒内に嵌め合わせて、接触部における接触面積が面積比で40%のアルミナ製焼結敷き板を用い温度1150℃、還元性ガス雰囲気中で焼結した。なお、各部材の焼結寸法変化は、外部材22用圧粉体の内径寸法が0.4%の収縮、内部材12用圧粉体の外径寸法が0.1%の膨張である。
【0030】
以上により作製された各焼結複合体は次のような特性を示した。はみ出し部22bのない組み合わせのもの(比較例の焼結複合体)は、切断面を顕微鏡で観察すると、接合予定部縁部の部材境界部に気孔が多く、細長い気孔が観察された。はみ出し部22bを形成したもの(実施例の焼結複合体)は、内外部材の境界部に大きな気孔や細長い気孔が認められなかった。そして、はみ出し部22bは、前記基本例で説明した図5に示した外部材の収縮状態に近似していた。各焼結複合体は、外部材22の下端面を支持した状態で内部材12を軸方向から加圧して、両部材の接合が破壊されるときの圧力つまり接合強度により評価した。この結果、接合強度は、実施例の方が比較例よりも1.25倍以上強くなり発明の有効性が確認された。
【0031】
(実施例3)図7(e)において、内外部材用の原材料は次のとおりである。内部材15は構造用炭素鋼材S45C材を凹溝及び通気口を備えたパイプ形状に切削加工した。円筒形状の外部材25用圧粉体は、3質量%のNiを含有する鉄合金粉に、2質量%の銅粉、0.4質量%の黒鉛粉、及び成形潤滑剤粉1質量%を添加した混合粉を密度7.0Mg/cm になるように圧縮成形した。外部材25用圧粉体の内径寸法は、内部材25の外形寸法より0.01mm大きくした。また、外部材25用圧粉体の長さ寸法は、内部材15の接合予定部と同じつまり両はみ出し部25bを除いた長さのもの(比較例)と、はみ出し部25bのはみ出し長さhがそれぞれ2mmになるように設定したもの(実施例)を用意した。そして、両部材を嵌め合わせて、接触部における接触面積が面積比で40%のアルミナ製焼結敷き板を用い温度1150℃、還元性ガス雰囲気中で焼結した。なお、外部材25用圧粉体の焼結による内径寸法変化は1%の収縮であった。
【0032】
以上により作製された各焼結複合体は次のような特性を示した。まず、はみ出し部25bのない組み合わせのもの(比較例の焼結複合体)は、外部材25の長さ寸法が収縮して内部材15の接合予定部の縁部が僅かに露出していた。この焼結複合体は切断面を顕微鏡で観察すると、外部材25の端部附近は内部材15との境界面附近に細長い気孔が認められた。はみ出し部25bを形成したもの(実施例の焼結複合体)は、はみ出し部25bの端部が縮小して僅かに先細りになっていた。この焼結複合体は顕微鏡で観察すると、部材間の境界面に特異な気孔が認められなく接合予定部が確実に接合していた。
【0033】
(実施例4)図7(a)において、内外部材用の原材料、寸法は実施例1のとおり(実施例、比較例とも)であり、内部材10を外部材21用圧粉体の筒内に嵌め合わせて、接触部における接触面積を面積比で5〜80%の範囲で変更したジルコニア製焼結敷き板を用い温度1250℃、還元性ガス雰囲気中で焼結した。以上により作製された各焼結複合体を実施例1と同様に観察・試験した結果を表1にまとめた。なお、表1の、外部材と焼結敷き板の接触部における接触面積の比が80%の焼結敷き板は、凹凸を形成しない通常のジルコニア製焼結敷き板である。接合強度は10回行ったときの平均値であり、接合強度のばらつきはこの時の標準偏差である。また、接合強度およびばらつきは、実施例1の比較例の接合強度を基準とし、これを100とする指数で示した。接合状態の観察の評価において、◎は内外部材の境界部に全く気孔が認められなかったもの、○は内外部材の境界部に若干の気孔が認められるものの大きな気孔や細長い気孔が認められなかったもの、×は境界部に大きな気孔や細長い気孔が多く認められるものである。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より接触部の面積比が80%(未加工の敷き板を用いた場合)でもはみ出し部を形成したものは、はみ出し部を形成しないもの(比較例の焼結複合体)よりも接合状態が良好で接合強度は向上し、そのばらつきも低減している。また、焼結敷き板に凹凸を形成して接触部の面積比を小さくすると接合強度及びそのばらつきが改善されている。特に接触部の面積比を30%以下とすると、接合部の接合状態が改善されるとともに接合強度が比較例の場合より1.5倍以上、そのばらつきが半分以下となり極めて良好な接合が行えることが確認された。ただし接触部の面積比が5〜15%の範囲ではそれ以上の接合状態の改善が行われておらず、焼結敷き板の寿命を考えると当接部の面積比を5%を超えて小さくすることは得策ではない。以上より焼結敷き板として接合部の面積比が5〜30%のものを用いることの有効性が確認された。
【0036】
以上のように、本発明の焼結接合方法は、内外部材が外部材の焼結収縮を利用して接合する形態において、内外部材の接合面が単純な平面状、内部材外周に凹溝を有している場合にも、外部材の端部を内部材よりはみ出させて内部材に拘束されていないので、外部材用圧粉体が焼結により収縮するときに外部材の端部が拡張して変形したとしても接合予定部まで及ぶことがなく、接合予定部を確実に接合することができる。焼結工程の冷却過程で、内部材と外部材とが引き離されるように寸法変化する部材の組み合わせであっても、接合面の縁部に隙間を作ることを防止する。外部材のはみ出し部を更に焼結収縮させれば、両部材の密着接合を確実化して接合力をより増大できる。
【0037】
なお、本発明は請求項で特定する要件を充足している範囲で従来技術を種々付加したり変形することができる。その例としては、外部材を銅系焼結合金にすること、接合予定部に凹凸を設けたり粗面にすること、内部材に複数の外部材を並列配置すること等である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明方法の第1形態を焼結前の状態で示す模式図である。
【図2】本発明方法の第1形態の焼結接合が初期の状態を示す模式図である。
【図3】本発明方法の第1形態の焼結接合の進展が途中の状態を示す模式図である。
【図4】本発明方法の第1形態の焼結接合が完了した状態を示す模式図である。
【図5】本発明方法の第1形態の焼結接合が更に進展した状態を示す模式図である。
【図6】本発明方法の第1形態の外部材の端部が縮小した状態を示す模式図である。
【図7】上記第1形態の変形例を示す模式図である。
【図8】本発明で推奨する焼結敷き板の外観の一例を示す模式図である。
【図9】従来の問題を説明するための模式図である。
【図10】焼結接合方法の従来例を焼結前後の状態で示す模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1〜8…焼結複合体
10〜15…内部材
20〜25…外部材
20A…外部材用圧粉体
20a…端部
20b〜25b…はみ出し部
11c〜13c…端縁の面取り
13e〜15e…凹溝(溝部)
11d〜15d…径小部
h…はみ出し長さ
40…隙間
50…焼結敷き板
50a…当接部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部材及び外部材を嵌め合わせて焼結により接合する焼結複合体の焼結接合方法において、
前記外部材が圧縮成形された略筒形の圧粉体を焼結したものである場合、前記外部材用圧粉体の長さを前記内部材の接合予定部の長さより大きく設定し、
前記内部材の接合予定部より前記外部材用圧粉体の端部がはみ出し前記内部材と非接触になるように前記外部材用圧粉体の筒内に前記内部材を嵌め合わせ、
前記外部材用圧粉体の焼結による寸法収縮により、前記外部材が前記内部材を握り締めるよう変形することを特徴とする焼結複合体の焼結接合方法。
【請求項2】
前記非接触の態様は、前記内部材の端面より前記外部材の端面が突出した状態、または、前記内部材の接合予定部に設けた端縁の面取り部、環状の溝部、接合予定部より細くした小径部のいずれかと前記外部材用圧粉体との間の隙間で形成されることを特徴とする請求項1に記載の焼結複合体の焼結接合方法。
【請求項3】
前記外部材用圧粉体の前記端部はみ出し長さが0.2mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結複合体の焼結接合方法。
【請求項4】
前記焼結は前記外部材が前記内部材の接合予定部に密着するまで、または、前記外部材の前記端部はみ出し部の孔寸法が前記内部材の接合予定部の太さ寸法より小さくなるまで行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の焼結複合体の焼結接合方法。
【請求項5】
前記焼結において、前記外部材用圧粉体に前記内部材を嵌め合わせたものを焼結敷き板上に載置して焼結するとともに、前記外部材下端面が前記焼結敷き板に接触する態様の場合に前記接触部における前記焼結敷き板の接触面積の比が5〜30%となる焼結敷き板を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の焼結複合体の焼結接合方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−118041(P2006−118041A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271256(P2005−271256)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】