説明

焼結金属部品

【課題】焼結金属部品の摺動面における潤滑油の供給性能を高めると共に、異物を残すことなく摺動面の研磨を行うことで、摺動性能の改善を図る。
【解決手段】トルクリミッタに用いる内輪は、原料粉末を圧粉成形する工程(a)、圧粉成形体を焼結する工程(b)、焼結体にサイジングを施す工程(c)、焼結体に熱処理を施す工程(d)、焼結体に共ずりバレル研磨を施す工程(e)、焼結体に潤滑油を含浸させる工程(f)を経て製造される。このうち、共ずりバレル工程(e)において、複数の焼結体をバレル型容器内に投入し、このバレル型容器を回転あるいは回転軸に沿って往復運動させることにより、容器内の焼結体に相互の研磨作用を付与し、摺動面を含む焼結体表面を研磨する。同時に、焼結体同士を相互に衝突させて、これら焼結体の摺動面に衝突による変形痕としての凹部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面を有する焼結金属部品、特にその外面側に摺動面を有する焼結金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種機械部品、特に軸受部や動力伝達部など他の機械要素との間で摺動を伴う部分に使用される機械部品に、焼結金属で形成されその内部空孔に潤滑油等を含浸させた焼結金属部品が好適に用いられている。
【0003】
例えば、トルクリミッタの内輪を焼結金属で形成し、この内輪の内部空孔に潤滑油を含浸させたものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、この内輪への潤滑油の含浸作業を低温下で行うことにより、この内輪を組み込んだトルクリミッタの使用時、潤滑油の内部への引き込みを抑えて摺動面での潤滑性を高めたものが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
また、トルクリミッタは、その内輪と外輪、あるいは外輪と連結したコイルばね等との間でトルク伝達と相対摺動とを繰り返すものであるから、その内輪には、長期使用に耐え得るよう高い耐久性(耐摩耗性)が要求される。かかる耐久性を満足するため、例えば特開2002−372069号公報(特許文献3)には、カラー(内輪)にバレル研磨を施すことで、摺動面となる外周面の表面粗さを所定範囲に調整する方法が提案されている。
【0006】
また、耐久性向上のため、焼結体に熱処理を施すことで摺動面の硬度向上を図る手段が提案されているが、この場合にも、熱処理時に生じたスケール等の異物を除去する目的でバレル研磨を行うようにしている(何れも、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平8−270673号公報
【特許文献2】特開2004−292854号公報
【特許文献3】特開2002−372069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、潤滑油の焼結金属軸受への含浸作業は、通常、焼結金属軸受を減圧環境下で潤滑油に浸漬して行われる(いわゆる真空含浸)。この際、例えば潤滑油を加熱し、粘性抵抗を下げた状態で含浸作業を行えば、潤滑油が焼結金属軸受の内部空孔に入り込み易くなる。しかしながら、この方法による含浸を行った製品においては、初期の摺動時に軸受面に潤滑油が存在せず、潤滑油による潤滑作用が十分に得られない場合が考えられる。
【0008】
すなわち、潤滑油は、通常、金属の数百倍もの繊膨張係数を有するため、加熱した状態の潤滑油を含浸した後、製品が使用温度(例えば常温)まで冷却されることで、収縮比の大きい潤滑油が焼結軸受内に引き込まれ、軸受面上に潤滑油が残らない場合が起こり得る。これでは、軸と軸受とが接触摺動することになり、十分な潤滑効果が得られないことから、摩擦の増大を招き、軸受の摩耗をはじめ、異音や振動の発生が懸念される。
【0009】
特許文献2には、内輪への潤滑油の含浸作業を低温下で行うことにより、この内輪を組み込んだトルクリミッタの使用時、潤滑油の内部への引き込みを抑制する旨が開示されているが、油の引き込みが生じることには違いなく、かかる手段で摺動面での潤滑油不足が解消されるとは言い難い。
【0010】
また、特許文献2や3に開示のバレル研磨を行う際には、研磨対象となる焼結体と共にメディア等の研磨材を投入して行うのが一般的である。しかしながら、焼結体には多数の表面開孔が存在するため、上述の如くバレル研磨処理を行うと、研磨材として投入したメディアあるいはその一部が、焼結体の表面開孔に突き刺さる場合がある。突き刺さったメディアは、バレル研磨後に洗浄処理を施した場合であっても容易には除去できず、完成品の表面に突き刺さったままの状態で残る恐れがある。特に、摺動面となる領域に突き刺さったままのメディアがあると、相手部材を傷付けることになり、摺動摩耗の増大、ひいては使用寿命の低下を招く恐れがあり好ましくない。上述の問題は、トルクリミッタ用の内輪以外の摺動部品を焼結金属で形成する場合にも同様に起こり得る。
【0011】
以上の事情に鑑み、本発明では、焼結金属部品の摺動面における潤滑油の供給性能を高めると共に、異物を残すことなく摺動面の研磨を行うことで、摺動性能の改善を図ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、金属粉末を圧粉成形し、焼結して得られる多孔質の焼結体で、その内部空孔に潤滑流体が含浸されると共に、他部材との摺動面を有する焼結金属部品の製造方法であって、複数の焼結体を容器に投入し、容器の運動により、複数の焼結体を相互に研磨材として作用させ摺動面を研磨すると共に、複数の焼結体を相互に衝突させ摺動面に衝突による凹部を形成する工程と、焼結体の内部空孔および凹部に潤滑流体を供給する工程とを少なくとも備える焼結金属部品の製造方法を提供する。
【0013】
このように、本発明では、複数の焼結体を容器に投入し、この容器の運動により、焼結体相互に研磨作用をもたせ、この研磨作用で摺動面を研磨するようにした。これにより、、メディア等の研磨材を別途投入することなく、焼結体の外面側に設けた摺動面の研磨を行うことができる。そのため、研磨後、メディア等の異物が焼結体の表面開孔に残存するのを可及的に防いで、良好な面性状を有する摺動面を得ることができる。
【0014】
また、本発明では、同一容器内で複数の焼結体を相互に衝突させ、当該焼結体の表面に、衝突による凹部を形成すると共に、この凹部に、研磨工程後の潤滑流体供給工程において潤滑流体を供給するようにした。これにより、摺動面上の凹部に保持された潤滑流体により、摺動面上に容易かつ早急に潤滑油を供給することができ、例えば摺動初期における潤滑油不足を解消することができる。特に、上述の研磨工程で形成された凹部であれば、表面開孔と比べて大容積の油溜りとして機能するため、潤滑油の供給性能を一層高めることができる。また、この凹部は相互衝突により形成されるものであるから、当該凹部の周囲にバリや返りなどの突起を生じる可能性は低い。そのため、研磨された摺動面の平滑性を損なわせることなく、他部材との間で良好な摺動状態を得ることができる。
【0015】
その一方で、潤滑油が滲み出る摺動面は他部材との摺動を必然的に伴うものであるから、他部材との摺動摩耗を低減し、耐久性のさらなる向上を図ることが望ましい。かかる事情に鑑み、本発明では、上述の相互研磨工程の前に摺動面をサイジングする工程をさらに設けることとした。
【0016】
このように、摺動面をサイジングすることで、当該摺動面を高精度に仕上げてその寸法精度や面精度を高めることができる。また、予めサイジングを施した焼結体に対して上述の研磨処理を施すようにすれば、上記研磨時、焼結体が相互に衝突して形成される凹部をサイジングにより消滅させてしまう恐れもないため、かかる順序でサイジングと研磨とを実施するのが好ましい。
【0017】
また、特に摺動面の硬度向上が必要となる場合には、サイジング工程の後でかつ相互研磨工程の前に、焼結体に対して熱処理を施し、摺動面の硬度向上を図る熱処理工程をさらに設けることもできる。サイジングの後に熱処理を行うのであれば、過度な荷重を必要とすることなくサイジングを実施することができ、サイジングの加工精度も高い。また、相互研磨工程の前に摺動面の硬度向上のための熱処理を実施しておけば、後の相互研磨工程で、熱処理により表面に生じるスケール等の異物を除去することができる。
【0018】
上述の方法で製造された焼結金属部品は、例えば筒状をなし外周に摺動面を有するもので、その外側に配した他部材としてのコイルばねから締付け力を受ける向きに回転する際、コイルばねとの間でトルク伝達を行い、伝達トルクが所定量を超えた場合、摺動面とコイルばねとの間で相対摺動を行う、トルクリミッタの内輪として好適に提供することができる。あるいは、この内輪を備えたトルクリミッタとして好適に提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上より、本発明によれば、焼結金属部品の摺動面における潤滑油の供給性能を高めると共に、異物を残すことなく摺動面の研磨を行うことで、摺動性能の改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る焼結金属部品の製造方法の一例を示す工程の流れ図である。この製造方法は、例えば筒状をなし、その外周にコイルばねとの摺動面を有するトルクリミッタ用の内輪(図7中、符号11で示す部品)を製造するためのものであり、原料粉末を圧粉成形する工程(a)、圧粉成形体を焼結する工程(b)、焼結体にサイジングを施す工程(c)、焼結体に熱処理を施す工程(d)、焼結体に共ずりバレル研磨を施す工程(e)、焼結体に潤滑油を含浸させる工程(f)とを含む。以下、各工程を時系列順に説明する。なお、ここでは、含油工程の前に実施する「共ずりバレル工程」が、本発明における「相互研磨工程」に相当する。
【0022】
(a)圧粉成形工程
まず、原料となる金属粉末を成形金型内部に充填し、これを圧縮成形することで完成品(ここでは円筒状をなすトルクリミッタの内輪11)に近い形状の圧粉成形体を得る。なお、原料には、例えばFeあるいはFe系合金の金属粉末を主成分とするものが用いられるが、CuあるいはCu系合金の金属粉末など他の金属粉末を原料に用いることもでき、これら複数種の金属粉末を混合したものを原料として用いることもできる。また、必要に応じて、Sn等のバインダ、黒鉛や二硫化モリブデン等の粉末状固体潤滑剤のうち一種以上を原料に添加したものを用いても構わない。
【0023】
(b)焼結工程
上記工程(a)で得られた圧粉成形体を、原料となる金属粉末の焼結温度まで加熱することで焼結し、焼結体を得る。図2は、原料となる金属粉末2を互いに焼結結合してなる焼結体1の、表層部の拡大断面図を示す。同図より、焼結体1には多数の内部空孔3が存在すると共に、その表面に多数の表面開孔4が存在している。なお、使用する金属粉末の種類によっては、焼結による浸炭作用を避けるため、かかる焼結作業を非浸炭雰囲気下で行うことも可能である。
【0024】
(c)サイジング工程
上記工程(b)で得られた焼結体に対し、適当な金型を用いて圧迫力を付与することで、焼結体を所定形状に整形すると共に、その寸法を所定の精度に仕上げる。図3は、サイジング後の焼結体1における表層部の拡大断面図を示している。同図より、焼結体1の表面(外周面)がサイジングにより平滑化され、これにより外周面に摺動面5が形成されている。また、サイジングを受けて生じた変形は内部空孔3に吸収されると共に、その表面開孔4を埋める向きに生じる。
【0025】
(d)熱処理工程
上記工程(c)で得られた焼結体に対し、適当な熱処理を施し、焼結体のうち摺動面となる領域の硬度を向上させる。この実施形態では、焼結体1に対して浸炭焼き入れを行うことで、摺動面5を含む焼結体1表層部の硬度を向上させるようにしている。
【0026】
(e)共ずりバレル工程
熱処理工程(d)を経た焼結体1に対して、共ずりバレル研磨を施す。具体的には、図示は省略するが、複数の焼結体1をバレル型容器内に投入し、このバレル型容器を回転あるいは回転軸に沿って往復運動等させることにより、容器内の焼結体1に相互の研磨作用を付与し、摺動面5を含む焼結体1表面を研磨する。これにより、先の熱処理時に焼結体1表面に形成されたスケールなどの不純物を除去する。また、焼結体1同士の相互の衝突(の繰り返し)により、焼結体1の表面に、衝突による変形痕としての凹部が形成される。なお、バレル型容器は、回転運動させる際、その回転軸に沿った往復運動など他の運動を伴うものであってもよい。また、バレル型容器内には、水など実質的に研磨作用を有しない媒体を複数の焼結体1と共に投入することも可能である。
【0027】
図4は、共ずりバレル後の焼結体1の摺動面周辺を拡大した断面図を示す。この図に示すように、摺動面5の一部領域には、焼結体相互に衝突することによる凹部6が形成されている。ここで、摺動面5に形成される凹部6は焼結体1相互の衝突により形成されたものであるから、同じく摺動面5上に存在する表面開孔4に比べて非常に大きい寸法(容積)を有する。
【0028】
(f)含油工程
上記(a)〜(e)の工程を経た焼結体1に潤滑油を含浸させる。具体的には、所定の減圧環境下で、潤滑油で満たした潤滑油浴中に焼結体1を一定時間浸漬させることで、内部空孔3に潤滑油を含浸させると共に、焼結体1の表面(摺動面5)に形成された凹部6にも潤滑油を供給する。図5は、含油後の焼結体1の摺動面周辺を拡大した断面図を示す。同図に示すように、含油後の状態では、表面開孔4や凹部6が潤滑油7で満たされると共に、摺動面5も潤滑油7で覆われた状態、言い換えると、焼結体1の表面が潤滑油の膜で覆われた状態となっている。なお、この際、潤滑油の内部空孔3への含浸を確実かつ短時間で行うため、潤滑油を加熱した状態で含浸作業を行うこともできる。あるいは、使用時の潤滑油の内部への引き込みを考慮して、潤滑油の温度を使用温度に近づけた状態で上述の含浸作業を行うこともできる。
【0029】
そして、含浸作業後、適当な油除去装置(例えば遠心分離機)を用いて油切り作業を行う。これにより、内部空孔3に含浸させた潤滑油は保持されると共に、表面に付着した余分な潤滑油が除去され、焼結金属部品、ここではトルクリミッタ用の内輪11が完成する。なお、この油切り作業においては、少なくとも凹部6に潤滑油7が保持される程度に油切りを行うことが肝要である。
【0030】
このように、共ずりバレル研磨工程(e)において、バレル型容器内に複数の焼結体1を投入し、この容器に適当な運動を与えることで、容器内の焼結体1間で相互に摺動し、一の焼結体1が他の焼結体1に対して研磨作用を発揮する。これにより、メディア等の研磨材を別途投入することなく焼結体1の外周面に設けた摺動面5の研磨を行うことができ、研磨後の焼結体1表面に何らかの物体が表面開孔4に突き刺さる事態を防止することができる。
【0031】
また、バレル型容器の回転により、当該容器内で複数の焼結体1を相互に衝突させることで、各焼結体1の表面に上記衝突による凹部6が形成され、この凹部6には、後の含油工程(f)にて潤滑油7が供給される。よって、少なくとも上述の工程(e)および(f)を経て製造された焼結金属部品であれば、相手部材との相対摺動時、摺動面5に隣接する凹部6に保持された潤滑油7が摺動面5上に供給される。従って、例えば図6に示すように、含油直後には焼結体1全体を覆っていた潤滑油7(図5を参照)が、温度低下による内部への引き込み等により、あるいは他部材との組立時に生じる摺動面5からの拭き取り等により摺動面5上に存在しない場合でも、早急な潤滑油7の供給を図ることで、摺動部における潤滑油不足を解消して、異音の発生や摺動磨耗を抑制することができる。
【0032】
なお、上述の共ずりバレル研磨においては、所望の研磨作用および凹部6の形成が達成されるよう、その容器サイズに対する焼結体1のサイズやその投入量、あるいは当該容器の運動態様(回転数やストローク速度、処理時間など)を適正に定めるのがよい。逆に言えば、適正な上記条件下で焼結体1に共ずりバレル処理を施すことで、はじめて所要の研磨作用および油溜りとなり得る凹部6の形成が可能となる。
【0033】
また、この実施形態のように、焼結体1が円筒状をなすものである場合、その外面の大部分が平滑な曲面となる。そのため、相互の衝突により鋭部が欠けて、この欠けた部分が焼結体1の表面開孔4に刺さる(はまり込む)可能性も低い。また、衝突の大部分は、焼結体1の外周面同士で生じることから、衝突による変形は広範囲にわたって生じ、かつその変形は内部空孔3によって吸収されるので、その周囲に盛り上がりや角を生じる可能性も低い。よって、円筒状をなす焼結体1であれば、潤滑油7の保持容積を確保する点で、あるいは、隣接する摺動面5の面精度を確保する点で非常に好適である。
【0034】
また、この実施形態では、共ずりバレル研磨工程(e)の前に、サイジング工程(c)を設けるようにしたので、共ずりバレルにより形成した凹部6をサイジングにより消滅させてしまう恐れもない。
【0035】
また、この焼結体1を、例えばトルクリミッタ用の内輪に用いる場合、摺動面5の硬度向上を図る必要があるが、その場合には、サイジング工程(c)の後でかつ共ずりバレル工程(e)の前に、熱処理工程(d)を設けることが好ましい。サイジング工程(c)の後に熱処理を実施するのであれば、過度な荷重を必要とすることなくサイジングを実施することができ、サイジングによる加工精度も高くできる。また、共ずりバレル工程(e)の前に硬度向上のための熱処理を実施しておけば、後の相互研磨工程で、熱処理により表面に生じる酸化皮膜などの異物を除去することができるためである。
【0036】
なお、図1に示す製造方法の流れはあくまでも一例に過ぎない。相互研磨工程としての共ずりバレル工程(e)および含油工程(f)とを有する限りにおいて、他の工程の組合せは任意である。また、上記工程以外に、例えば共ずりバレル工程(e)の後、含油工程(f)の前に、バレル研磨により焼結体からコンタミなどの不要物を除去するための洗浄工程を設けることも可能である。
【0037】
以上の説明に係る焼結金属部品は、例えば各種事務機器等におけるブレーキ装置や紙の重送防止装置、特にプリンタや複写機等における紙の重送防止機構をなすトルクリミッタ用の内輪として使用することができる。以下、上述の焼結金属部品を組み込んだトルクリミッタ、およびその使用態様について説明する。なお、内輪としての焼結金属部品に関する説明につき、既述の符号を付したものに関しては、その説明を省略する。
【0038】
図7は、トルクリミッタの断面図を示している。このトルクリミッタは、例えばプリンタや複写機の給紙装置の紙の重送防止機構として好適に使用されるもので、上記工程を経て製造された内輪11とその外側に回転自在に配設される外輪12と、外輪12と内輪11との間に組み込まれる締結力付与部材としてのコイルばね13と、外輪12の一端に固定され、外輪12と一体に回転する環状部材16とを主たる構成要素として備える。このうち、コイルばね13は、主に、内側に配置された内輪11の外周面(摺動面5)を締め付ける小径部13aと、小径部13aと連続し、かつ小径部13aより大径の大径部13bとからなる。また、この図示例では、小径部13aの端部を折曲してなる一方の折曲部14を、外輪12の内側端面に設けた凹部に嵌合すると共に、大径部13bの端部を折曲してなる他方の折曲部15を、外輪12に固定した環状部材16の内側端面に設けた凹部に嵌合することで、コイルばね13を外輪12に固定している。
【0039】
上記構成のトルクリミッタにおいて、例えば環状部材16の側から見て、内輪11をコイルばね13の巻方向と同方向に回転させると、コイルばね13の小径部13aは内輪11から縮径する向きの力を受け、内輪11を締付ける。このため、内輪11の回転はコイルばね13を介して外輪12に伝達され、外輪12が内輪11と同じ方向に回転する。
【0040】
外輪12への負荷(回転に抗する負荷)が増し、小径部13aの内輪11への締付け力が内輪11から受ける回転トルクを下回ると、内輪11と小径部13aとの間で滑りが生じ、外輪12への回転トルクの伝達が遮断される。
【0041】
また、内輪11をコイルばね13の巻方向と逆方向に回転させると、コイルばね13の小径部13aが拡径し、内輪11と小径部13aとの間で滑りが生じることで、外輪12への回転トルクの伝達が遮断される。
【0042】
上述の如く作動するトルクリミッタにおいては、コイルばね13の小径部13aと内輪11との間である程度の締め代をもたせて嵌合させる必要があり、装着時に内輪11の外周面に付着した潤滑油7をばねの内周面が掻き取ってしまう。そのため、摺動面5上に残存する潤滑油の量にばらつきが生じ、場合によっては、図6に示すように、潤滑油7が摺動面5上に不足する事態が考えられる。これに対して、本発明に係る方法で製造された内輪11であれば、摺動面5に形成した凹部6が油溜りの役割を果たし、外輪12との相対回転に伴い、凹部6に保持された潤滑油7を摺動面5上に供給することができる。そのため、摺動時、特に組立て直後の最初の摺動開始時における潤滑油不足を解消して、異音の発生や接触による摺動摩耗の低減を図ることができる。
【0043】
また、通常、コイルばね13の内周面と内輪11の外周面との間で摺動を開始する際のトルク値は、これらの嵌め合い寸法を適宜に設定することにより制御される。ここで、上述のように、サイジング工程(c)の後に共ずりバレル工程(e)を経て得られた内輪11であれば、摺動面5の外径寸法やその面精度を高めることができ、摺動開始時のトルク値を精度よく制御することができる。
【0044】
以上、トルクリミッタ用の内輪に本発明を適用した場合を説明したが、本発明は、この用途に限定されるものではない。上述の共ずりバレルにより研磨可能な摺動面を有し、かつ内部に保持した潤滑油を摺動面に供給可能なものである限りにおいて、例えばコイルばね式以外のトルク伝達、遮断を可能とする機構、あるいは正逆双方向の回転によるトルク伝達、遮断を可能とする機構を有するトルクリミッタの摺動部品、さらには他の摺動機械部品に対しても本発明を適用することができる。
【0045】
また、以上の説明では、潤滑流体として潤滑油を使用した場合を説明したが、これは例示に過ぎない。焼結金属部品の内部空孔に保持され、かつ相対摺動時、摺動面上に滲み出るものである限りにおいて、グリースをはじめとする各種潤滑剤が使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る焼結金属部品の製造方法のフローチャートである。
【図2】焼結工程を経た後の焼結体の表面周辺の拡大断面図である。
【図3】サイジング工程を経た後の焼結体の摺動面周辺の拡大断面図である。
【図4】共ずりバレル工程を経た後の焼結体の摺動面周辺の拡大断面図である。
【図5】含油工程を経た後の焼結体の摺動面周辺の拡大断面図である。
【図6】潤滑油の引き込み時における焼結体の摺動面周辺の拡大断面図である。
【図7】本発明により製造された内輪を組み込んだトルクリミッタの断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 焼結体
2 金属粉末
3 内部空孔
4 表面開孔
5 摺動面
7 凹部
8 潤滑油
11 内輪
12 外輪
13 コイルばね13
13a 小径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を圧粉成形し、焼結して得られる多孔質の焼結体で、その内部空孔に潤滑流体が含浸されると共に、他部材との摺動面を有する焼結金属部品の製造方法であって、
複数の焼結体を容器に投入し、該容器の運動により、複数の前記焼結体を相互に研磨材として作用させ前記摺動面を研磨すると共に、複数の前記焼結体を相互に衝突させ前記摺動面に衝突による凹部を形成する工程と、
前記焼結体の前記内部空孔および前記凹部に前記潤滑流体を供給する工程とを少なくとも備える焼結金属部品の製造方法。
【請求項2】
前記相互研磨工程の前に、前記摺動面をサイジングする工程をさらに備える請求項1記載の焼結金属部品の製造方法。
【請求項3】
前記サイジング工程の後でかつ前記相互研磨工程の前に、前記焼結体に対して熱処理を施し、前記摺動面の硬度向上を図る熱処理工程をさらに備える請求項2記載の焼結金属部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の方法で製造された焼結金属部品。
【請求項5】
筒状をなし外周に前記摺動面を有するもので、その外側に配した前記他部材としてのコイルばねから締付け力を受ける向きに回転する際、前記コイルばねとの間でトルク伝達を行い、該伝達トルクが所定量を超えた場合、前記摺動面と前記コイルばねとの間で相対摺動を行う請求項4記載の焼結金属部品。
【請求項6】
請求項5記載の焼結金属部品を備えたトルクリミッタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−248288(P2008−248288A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89109(P2007−89109)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】