説明

焼込損失(bakingloss)を減少させるための組成物

本発明は、本発明は、焼込損失を減少させるための組成物、すなわち、小麦粉と、使用中のベーキング工程において従来品である少なくとも1つのベーキング剤の組み合わせに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼込損失を減少させるための組成物、すなわち、小麦粉と、使用中のベーキング工程において従来品である少なくとも1つのベーキング剤との組み合わせに関する。
【0002】
ベークド商品の品質は、複数の因子の影響を受ける:原材料および製法;生地放置時間、作業ならびに発酵およびベーキングの条件。
【0003】
コムギ品種の選択は、タンパク質含量および湿麩(wet gluten)含量、ベーキング量および沈降価などのベーキングの品質特性に大きな影響を及ぼす。
【0004】
当業者は、焼込損失(最終的な焼込損失(final baking loss)でも知られる)をベーキング中の生地もしくは生地片の重量減少と見なす。主に、これは蒸発生地水であり、そして最小限で、アルコール、有機酸、およびエステルなどの他の揮発性成分でもある;そのために、当業者は「水分損失」とも呼ぶ。
【0005】
焼込損失は、ベーキング中の生地片での温度経過と並行して進み、すなわち、端の領域(パン皮(crust))で最大となり、これは最高温度がそこまで広がるためである。また、焼込損失は、ベークド製品(baked product)の大きさまたはベークド製品の表面積に大きく依存する。大きなベークド製品よりも、比較的小さなベークド製品での焼込損失のパーセント数値の方が高い。ベーカリー製品の大きさおよび形に加えて、別の因子も影響を有する:すなわち、生地加工および生地静置、パン皮の部分;ベーキング時間およびオーブン温度である。
【0006】
小さなベーカリー製品での平均焼込損失は18〜22%、1,000gのパンの場合は13%、そして2,000gのパンの場合は11%である。
【0007】
高い焼込損失は、ベーカーでのベークド製品の収率、ひいては販売されるベークド商品の重量および個数にも悪影響を及ぼす。
【0008】
また、ベーキング工程中での水分損失は、ベークド商品の鮮度に悪影響を及ぼし、これによってより早く老化し、すなわち、堅くなる。
【0009】
次に、これによってベークド商品の香り、ひいてはいわゆる「口当たり」が損なわれる。
【0010】
ベーキング工程中、ベーキング剤の添加が従来の手順である。当業者は、ベーキング剤を量、収率、香り、鮮度保持、および/または生地加工を改善させる(させるはずの)全ての物質を意味すると考える。
【0011】
従来のベーキング剤は、例えば、キサンタン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グアー種子ミール、ペクチン、イナゴマメミール、乳化剤または大豆粉である。
【0012】
ベーキング剤の使用によって追加費用が生じ、そしてほとんどの場合で、程度の差こそあれ生地加工およびベーキング工程の複雑な適応が要求される。一方、対照的に、焼込損失を減らすことは、長期的には、ベーキング剤の使用が経済的に理にかなうほどに常に十分に高いわけではない。
【0013】
したがって、ベーカリー製品の生産時における焼込損失を減らして、香りや口当たりなどの特性を改善させて、そしてベーカーでのベーキング収率も高める組成物および用途が大いに必要となっている。
【0014】
本発明は、2μmol未満のデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を含む組成物よりも大幅に焼込損失を減らす量の少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせて、少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を含む組成物に関する。
【0015】
好ましい態様では、本発明の組成物は、焼込損失を相乗的に減らす量の少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせて、少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を含む。
【0016】
驚くべきことに、ベーキング剤と組み合わせて、少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を使用することで相乗効果が得られることが、本発明において見出された。この相乗効果によって焼込損失が著しく多く減らされて、すなわち、この組成物の作用が個々の成分の作用よりも大きい。
【0017】
本発明に関連して、個々の成分は、以下を意味する:1つの成分は、少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量を含み;他の成分は、非改変のものと一緒にそれぞれのベーキング剤であり、これは、ベークド商品はベーキング剤だけでは生産することができないためである。
【0018】
本発明に関連して、「リン酸含量」という用語は、粉のグルコース単量体の「6」の位置の炭素原子に結合したリン酸基の含量を意味すると考えられる。原則として、デンプン中では、グルコース単位のインビボでの位置C2、C3およびC6をリン酸化することができる。以下に記載の光学的酵素試験を用いたグルコース−6−リン酸測定によって、本発明に関連して、C6の位置のリン酸含量(=C−6−P含量)を測定した(Nielsen et al., 1994, Plant Physiol.105, 111-117にしたがう)。
【0019】
本発明に関連して、「少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量」という表現は、グルコース単量体の「6」の位置の炭素原子に結合したリン酸基の含量がデンプン1g当たり少なくとも2μmolであることを意味する。
【0020】
さらなる態様では、使用される粉を改変して、リン酸含量が少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gになるようにする。好ましい態様では、粉は、2μmol〜10μmolのデンプンC−6−リン酸/g、特に好ましくは2μmol〜8μmolのデンプンC−6−リン酸/g、そして非常に好ましくは4μmol〜6μmolのデンプンC−6−リン酸/gを有する。
【0021】
様々な方法によって小麦粉のリン酸含量を改変することができ、これは、例えば、小麦植物の遺伝子改変によってか、または抽出されたデンプンの化学的リン酸化によって進めることができる。
【0022】
好ましい態様では、本発明の基礎となる小麦粉を改変する。好ましい態様では、本発明の基礎となる小麦粉の遺伝子を改変した。本発明に関連して、「遺伝子改変した小麦粉」とは、小麦粉が遺伝子改変した小麦植物の子実に由来することを意味しており、その遺伝子改変は、対応する非遺伝子改変小麦植物のリン酸含量との比較で、デンプンのリン酸含量の増加をもたらす。非改変小麦粉では、リン酸は、デンプン中においてまったく検出できないか、またはごく微量にすぎない。
【0023】
さらに好ましい態様では、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のR1遺伝子を発現する小麦植物が使用される(α−グルカンウォータージキナーゼ(alpha-glucan water dikinase)、E.C.2.7.9.4; Lorberth et al. (1998) Nature Biotechnology 16: 473-477)。ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列番号1および配列番号2に報告されている。これらの植物の生産については、特許出願国際公開公報第02/34923号(実施例1および2)に広く記載さている。
【0024】
さらなる好ましい態様では、本発明の基礎となる小麦粉のデンプンは化学薬剤よってリン酸化され、このリン酸化によって、化学的にリン酸化されていない対応する小麦植物のリン酸含量と比較して、リン酸含量が増加した。
【0025】
好ましい態様では、キサンタン、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、乳化剤、イナゴマメミール、グアー種子ミールまたは大豆粉の(しかし、これらに限定はされない)群からのベーキング剤が使用される。
【0026】
本発明の好ましい組成物は、少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gを有する小麦粉およびベーキング剤であるキサンタンを含む。キサンタン(E415)は、細菌ザンソモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)によるグルコースまたはショ糖の発酵を用いる生物工学的方法において産生される天然多糖類である。これは、例えば、食品産業や建築資材産業における増粘剤や安定剤として、そして塗布剤や化粧品の乳剤として、様々な方法で使用できる。食品産業では、これはとりわけ酵母ベークド商品中のグルテン代替物としても使用される。Sidhu and Bawa 2002 (Int. Journal of Food Properties 5(1): 1-11)は、小麦粉への0.2%キサンタンの添加によって吸水率が59%から60.8%に上昇し、そして0.5%キサンタンの添加によって62%に上昇したことを記述している。
【0027】
これに関連して、個々の成分の互いの比率は、比較的大きな範囲内で変動しうる。好ましくは、粉に添加するキサンタンの量は、0.01%〜2%、特に0.1%〜1%、そして特に好ましくは0.1%〜0.5%である。
【0028】
本発明のさらに好ましい組成物には、少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gを有する小麦粉、およびベーキング剤であるカルボキシメチルセルロースも含まれる。
カルボキシメチルセルロース(=CMC;E466)は、構造的には、植物繊維の化学修飾結晶、すなわち、灰汁(lye)あるいはクロロ酢酸で処理されたセルロースである。CMCは、とりわけ、ゲル化剤や増粘剤、そして水分貯留系としても使用され、ひいては食物が新鮮である時間を延長させるために使用される。Sidhu and Bawa (2000, Int. Journal of Food Properties, 3(3): 407-419)には、小麦粉への0.1%〜0.5%のCMC添加で、対照と比較して、吸水率の1.4%から8.6%への上昇が認められた。比容積および追加収率が0.7%〜3.3%増加して、1%超の収率が0.3%以上のCMC添加で得られた、しかし、著者によると、これはパンの品質低下を伴った(「多少ゴム状になる」)。
【0029】
これに関連して、個々の成分の互いの比率は、比較的大きな範囲内で変動しうる。好ましくは、粉に添加するカルボキシメチルセルロースの量は、0.1%〜2%、特に0.1%〜1%、そして特に好ましくは0.2%〜0.5%である。
【0030】
本発明のさらに好ましい組成物には、少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gを伴う小麦粉、およびベーキング剤であるペクチンも含まれる。
【0031】
ペクチン(E440)は植物(リンゴの搾りかす、ビートコセット(beet cossette)、柑橘類の果皮)から得られる多糖類であり、そしてゲル化剤として、そしてばら繊維(bulk fiber)としても使用される。Yaseen et al. (2001, Polish J. of Food and Nutrition Sc.10/51 (4): 19-25)は、パンの老化防止剤としてのペクチンの効果について記述している。彼らの研究によると、1〜2%のペクチン添加によって焼込損失が1〜1.5%減少して、1.5%以上の割合のペクチンがパンの容積および安定性に悪影響を持つ。
【0032】
これに関連して、個々の成分の互いの比率は、比較的大きな範囲内で変動しうる。好ましくは、粉に添加するペクチンの量は、0.1%〜1.5%、特に0.1%〜1.0%、そして特に好ましくは0.2%〜0.5%である。
【0033】
本発明のさらに好ましい組成物には、少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gを伴う小麦粉、そしてベーキング剤として乳化剤も含まれる。
【0034】
乳化剤は、実際には互いに混和性ではない成分を永続的な乳剤にすることができる物質である。乳化剤は、水中で、そして脂肪中でも可溶性であることによって識別される。乳化剤の分子は2つの部分、すなわち、親油性部分と疎水性部分からなる。このように、これらは脂肪と水といった実際には相容れない2つの物質間の界面を安定させることができる。
【0035】
乳化剤は、天然で主に動物性油脂もしくは植物性油脂、例えば、(大豆)レシチン中に存在する。例えば、DATEM(ジアセチル酒石酸エステル)やSSL(ステアロイル−2−ラクチル酸ナトリウム)などであり、これらは工業的にも生産される。乳化剤は、混合システムを安定化させるために食品産業において使用される。これらは、生地の混練や発酵の安定性を改善させるため、そしてパンの容積をより大きくして、パン粉をより柔らかくするために、ベーカリー製品の生産に使用される。
【0036】
これに関連して、個々の成分の互いの比率は、比較的大きな範囲内で変動しうる。好ましくは、粉に添加する乳化剤の量は、0.1%〜2%、特に0.2%〜1.0%、そして特に好ましくは0.3%〜0.5%である。
【0037】
本発明のさらに好ましい組成物には、少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gを伴う小麦粉、およびベーキング剤であるイナゴマメミールも含まれる。
イナゴマメミールは、イナゴマメ木(Ceratonia siliqua)の熟した種子の胚乳を粉にすることによって得られる。小麦粉の90%以上が、ガラクトマンナンカルビン(galactomannan carubin)を含む多糖類からなる。多糖類は大量の水に結合することができ、このために医療分野でも使用される。
【0038】
これに関連して、個々の成分の互いの比率は、比較的大きな範囲内で変動しうる。好ましくは、粉に添加するイナゴマメミールの量は、0.1%〜2%、特に0.3%〜1.5%、そして特に好ましくは0.5%〜1%である。
【0039】
本発明のさらに好ましい組成物には、少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gを伴う小麦粉、およびベーキング剤であるグアー種子ミールも含まれる。
グアー種子ミールは、インドクラスタマメ(Indian cluster bean)の種子から得られる。これは高い水結合能を持っており、このために糖尿病に適用するためにも使用される。
【0040】
これに関連して、個々の成分の互いの比率は、比較的大きな範囲内で変動しうる。好ましくは、粉に添加するグアー種子ミールの量は、0.1%〜2%、特に0.3%〜1.5%、そして特に好ましくは0.5%〜1%である。
【0041】
本発明のさらに好ましい組成物には、少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gを伴う小麦粉、およびベーキング剤である大豆粉も含まれる。
大豆は大豆粉(=大豆粉末)として添加される。水結合の改良は大豆粉に起因する。小麦粉への大豆粉の添加については、とりわけ、Stauffer (2002, American Soybean Association, Europe & Maghreb)によって研究されている。彼らは、小麦粉に3%〜5%の大豆粉末を添加した際の焼込損失の0.5%〜1.5%の低下を記述している。
【0042】
これに関連して、個々の成分の互いの比率は、比較的大きな範囲内で変動しうる。好ましくは、粉に添加する大豆粉の量は、0.5%〜10%、特に1%〜5%、そして特に好ましくは1%〜3%である。
【0043】
好ましい態様では、本発明の小麦粉を遺伝子組み換えした。特に好ましい態様では、本発明の組成物の小麦粉を遺伝学的工程によってリン酸化した。これによって、リン酸含量を少なくとも2μmolのデンプンC−6−リン酸/gまで増加させた。
【0044】
本発明に関連して、「遺伝子改変した小麦粉」とは、小麦粉が遺伝子改変した小麦植物の粒に由来することを意味しており、この遺伝子改変によって、対応する非遺伝子改変小麦植物のリン酸含量との比較で、デンプンのリン酸含量が増加する。非改変小麦粉では、リン酸がデンプン中でまったく検出できないか、もしくはごく微量である。
【0045】
さらなる態様では、本発明の組成物中において、使用される粉が、相乗的な焼込損失を減らす量の少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせて、異なる粉の混合物からなり、この粉の混合物のリン酸含量は少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gである。
【0046】
好ましい態様では、これは少なくとも1つの組み換え粉と少なくとも1つの非改変粉との混合物である。
【0047】
好ましい態様では、本発明の組成物中には、使用される粉は2またはそれ以上の異なる改変粉からなる。
【0048】
さらなる好ましい態様では、改変粉は遺伝子改変粉である。
【0049】
焼込損失を減らすためのこれらの各粉の混合物の使用が、同様に本発明に含まれる。
【0050】
これらの粉混合物の1つを使用することを含む、焼込損失を減らすための工程も含まれる。
【0051】
質的に異なる粉からなる粉の使用は、ベーキング方法について全く従来通りである。最終産物に応じて、これは(質的に)異なる小麦粉の混合物、または小麦粉と粉、または他の植物由来のデンプン、例えば、コーンスターチとの混合物でありうる。従来通り、粉の混合物はベーカー向けに早ければ穀物製粉機内において作成される。
【0052】
これに関連して、「ベーカー」は、粉を加工してベーカリー製品を作るための任意の形の操作を意味する。「穀物製粉機」は、穀物を粉に加工する、機械的に操作されるミリングシステムを意味する。
【0053】
好ましい態様では、本発明には、焼込損失の減少において相乗効果を得るための工程が含まれる。この工程には、少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせて、少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を使用することが含まれる。
【0054】
さらなる態様では、本発明の工程では、ベーキング剤は、キサンタン、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、乳化剤、イナゴマメミール、グアー種子ミール、もしくは大豆粉から選択される。
【0055】
さらなる態様では、本発明の工程では、使用される小麦粉はリン酸化されている。
【0056】
さらなる好ましい態様では、本発明の工程には、少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせて、様々な遺伝子改変粉の混合物を使用することが含まれる。特に好ましい態様では、これらの粉は遺伝子工学的工程によってリン酸化された。好ましい態様では、これらは小麦粉である。
【0057】
さらなる態様では、本発明において、本発明の工程によるベークド商品における、ベーキング工程後の重量損失としての焼込損失は、ベーキング剤を用いて非組み換えの野生型植物の粉から生産したベークド商品よりも1%〜20%少ない。
【0058】
さらなる有利な態様では、重量損失は1%〜18%、好ましくは2%〜15%、特に好ましくは2%〜10%、そして非常に好ましくは3%〜8%である。
【0059】
「重量損失」は、当業者によって、水分蒸発に起因するベーキング時における焼込損失を意味するために用いる。重量損失(=焼込損失)は、基本的に生地の重量、および生地の重量とパンの重量の比率に基づいている。これは以下の通りに計算される:
【数1】

【0060】
ベーキング剤を添加した遺伝子改変小麦粉からできたベークド商品での重量損失は、非改変小麦粉からのベークド商品よりもパーセンテージで低く;これはホワイトパンブレッドの場合で最も大きく示される(10.6%〜11.1%)。
【0061】
ベーキングにおいて、少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせて、少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を使用することを含む、重量損失を減らすための工程が、同様に本発明に含まれる。
【0062】
本発明に関連して、「ベークド商品」という表現を用いて、様々な「状態」でありうる、すなわち、ベーキングしていない(unbaked)、プレベーキングした(prebaked)、エンドベーキングした(end-baked)生地片に対する広義の用語を意味する。
【0063】
当業者はベーキングしていない生地(unbaked dough)を、ベークド商品(例えばロール)の生産用の生地とみなし、これは全ての必要な原料を含んでいるか、またはまだベーキングされていないこれらの材料からの生地片を既に形成している(ベーキングされていない生地片)。これとは対照的に、プレベーキングした生地は、より良好な保存もしくは消費者に対する簡素化のために、定められた条件下で製造業者にて最初のベーキング作業(複数の段階を含むことができる)を通過した生地片を意味する。最終的な完了のために、最終消費者によるさらなるベーキング作業が必要とされる。
【0064】
エンドベーキングした生地片は、対応して新たに焼いて販売される生地片であるか、もしくはプレベーキングした生地片の最終ベーキング作業によって消費者自身によって生産される。
【0065】
本発明に関連して、「対応して」という表現は、複数の品物の比較時に、互いに比較される対象の品物が同じ条件下で保存されることを意味する。これに関連して、「対応して」という表現は、互いに比較されるベークド商品が同じ条件で生産されて、そして試験されることを意味する。使用される粉に関して、「対応して」という表現は、使用される粉を最終的に得るための植物が、同じ栽培条件下で育てられることを意味する。
【0066】
本発明に関連して、「野生型小麦粉」という表現は、これが非改変小麦植物(=野生型小麦植物)の穀物から生産される粉であることを意味する。これらの小麦植物は、本発明でのそれらの使用のために遺伝子改変された小麦植物の出発材料となり;すなわち、それらの遺伝情報は、リン酸含量の増加をもたらす導入された遺伝子改変とは別に、遺伝子改変小麦植物の遺伝情報に対応する。
【0067】
さらなる態様では、本発明の工程において、ベーキング後の水分損失としての焼込損失は、ベーキング剤を用いて非組み換え小麦粉から製造したベークド商品よりも1%〜25%少ない。
【0068】
さらなる有利な態様では、水分損失は5%〜20%、好ましくは5%〜15%、そして特に好ましくは5%〜10%減らされる。
【0069】
本発明に関連して、水分損失(生地中の水分に基づく水分損失(%))は、ベーキング工程後に起こる水分の損失を意味するために用いる。
【0070】
遺伝子組み換え粉およびベーキング剤からの生地、もしくは非組み換え粉からの生地の生産において、最終的に同じ生地の粘度を得るために、同じ量の粉に対して異なる量の水を量り分ける。生産される生地片は同じ重量を持つが、しかし、異なる量の水を含む。生地の粘度は、方法において後述されるファリノグラフ(ICC-Standard 115/1)を利用して測定された。
【0071】
上記の重量損失(水分蒸発に起因する焼込損失)が、生地に存在する水の量に基づく場合、水分損失の実際のパーセンテージを計算できる:
【数2】

【0072】
驚くべきことに、結果は焼込損失の大幅な低下を示し;生地中に存在する水に基づく水分損失は、組み換えTAAB小麦粉から作られた全てのベークド商品において、対応する野生型ベークド商品の場合よりも低かった。水分損失が最も大きく減少したのは、野生型の場合での35.3%との比較で、ハンバーガーロール(ロールパン)の場合での32.8%であった。同じことがホワイトパンブレッドでも見出されており;ここで、野生型KWBの水分損失は27%であるが、しかし、TAABホワイトパンブレッドではわずか24.9%であった。
【0073】
また、驚くべきことに、本発明の組成物から作られたベークド商品のパン水分が増加していることが見出された。パン水分の増加は、ベークド商品のより長期間の鮮度保持および良い香りに有益な効果を及ぼす。パン水分は、ベーカリー製品の種類およびベーキング工程に左右される。ベークド商品の水分は、乾燥後に以下の通りに計算される:
【数3】

【0074】
本発明の使用の場合、パン水分は、ベークド商品全体の水分を意味するために用いられ、すなわち、パンの身(crumb)とパン皮は区別されず;後者は明らかにパン粉よりも水分が低い。理想的には、パン水分は0.5%〜5%増加する。好ましい態様では、パン水分は1%〜5%、特に好ましくは1.5%〜4%、そして特に好ましくは1.5%〜3%増加する。
【0075】
さらに好ましい態様では、本発明の組成物において、小麦粉は遺伝子組み換えデンプンを含む。
【0076】
本発明の「遺伝子組み換えデンプン」という表現は、遺伝子組み換えされていない野生型植物由来の小麦デンプンと比較して、リン酸含量が増加するような遺伝的方法を利用して、そのリン酸含量について変化させた小麦デンプンを意味する。このために、国際公開広報第02/034923号に記載の通りに、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のR1遺伝子を小麦(Triticum aestivum)に形質転換させた。
【0077】
さらなる態様では、遺伝子組み換えデンプンは、そのリン酸含量が2μmol〜10μmolのデンプンC−6−リン酸/gになるように変化させる。好ましい態様では、デンプンの含量は2μmol〜8μmolのデンプンC−6−リン酸/g、そして特に好ましくは4μmol〜6μmolのデンプンC−6−リン酸/gである。
【0078】
本発明の方法には、非組み換え小麦粉を使用することと比較して、本発明の組成物を少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせた場合、生地の収率が5%〜25%増加することがさらに含まれる。生地の収率を用いて、当業者は粉100に基づく生地の重量を意味する。野生型の生地と比較して、生地の収率は、1%〜10%、好ましくは2%〜8%、そして特に好ましくは3%〜5%増加する。
【0079】
驚くべきことに、本発明の方法には、非組み換え小麦粉を使用することと比較して、本発明の組成物を使用した場合にベーキングの収率が5%〜25%増加することもさらに含まれることが認められている。
【0080】
本発明に関連して、ベーキングの収率は、粉100に基づく最終ベークド商品の重量を意味するために用いる。さらに好ましい態様では、ベーキングの収率は、5%〜20%、特に好ましくは8%〜15%、そして特に非常に好ましくは10%〜15%増加する。
【0081】
ハンバーガーロールにおいてベーキングの収率の最も大きな増加が認められ、この場合、TAABベークド商品の収率は、野生型ベークド商品の収率よりも5%高かった。
【0082】
材料と方法
実施例では、以下の方法を利用した。本発明の工程を実施するためにこれらの方法を利用でき、これらは本発明の具体的な態様であるが、しかし、本発明はこれらの方法に制限されない。記載の方法を改変することにより、および/または個々の方法の部分を代わりの方法の部分で置き換えることで、同様の方法で本発明を実施することができることは、当業者には公知である。
【0083】
1. 遺伝子組み換え粉の生産のための植物材料
Solanum tuberosum由来のR1遺伝子(α−グルカンウォータージキナーゼ;E.C.2.7.9.4;EMBL AC: Y09533)を発現する小麦植物(Triticum aestivum)を使用した。これらの植物の生産(使用するベクター、トランスジェニック植物の選択)については、特許出願国際公開広報第02/34923号(実施例1および2)に広範囲に記載されている。R1遺伝子のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列番号1および配列番号2に記載している。形質転換はBecker et al., 1994, Plant J. 5(2): 229-307の方法に従って進められた。これらの小麦植物(TAAB−40A−11−8株)から、熟した穀粒が収穫された。これらの穀粒、これらの穀粒から得られた粉、そしてデンプンについても化学的およびレオロジー的に研究した。使用した対照は、同じ栽培条件下で育てられた野生型品種Floridaの小麦植物であった。
【0084】
植物の生育:
事前の春化処理後に種子を戸外に植えた。
以下の通りに使用する植物を生育および栽培した:
植物保護:種子を植える前に、種子材料をイミダクロプリド(Gaucho(登録商標), Bayer)で前処理して、虫害を抑制した(種子材料100cc/100kg)。発芽前除草剤:ジフルフェニカン(Brodal)、250cc/ha;発芽後除草剤:メトスルフロンメチル(=スルフォニル尿素誘導体;塗布量:6.7g/ha;DuPont)およびジカンバ(塗布量:0.121/ha);殺菌剤:エポキシコナゾール(Allegro、塗布量:0.851/ha)。
施肥:尿素(NHCO:開花まで125kg/ha;その後は100kg/ha。
【0085】
2. 遺伝子組み換え粉の生産
Buhler-Mahlautomat(Gebr. Buhler Maschinenfabrik, Uzwill, Switzerland)を使用して、TAAB 40A−11−8株の小麦粒200kgをひいて粉にした。小麦粒200kg〜140kgの粉タイプ550が産生される(収率70%)。
【0086】
3. デンプン抽出
小麦デンプンは、ICC-Standard No. 155に記載の通りに、Perten-Glutomatic machine (Perten Instruments)によって、蒸留水を使用して小麦粉から単離した。デンプンはアセトン抽出して、2日間〜3日間風乾させて、そして乳鉢内でひいて粉にした。
【0087】
4. 水分測定
パンサンプルの水分を水分メーター(moisturemeter)(Sartorius, Gottingen, Germany)を使用して測定する。重量がそれ以上は減少しないようになるまで、サンプルを115℃で乾燥させる。以下の式に従って計算する:
【数4】

【0088】
5. C6の位置におけるデンプンのリン酸含量(C6−P含量)の測定
デンプン中では、グルコース単位のC3およびC6の位置をリン酸化させることができる。デンプンのC6−Pを測定するために(Nielsen et al., 1994, Plant Physiol.105: 111-117に記載)、小麦デンプン100mgを連続振動によって、95℃の500μlの0.7M HCl中で加水分解させた。続いて、バッチを10分間13,000rpmの遠心分離にかけて、そして上精をフィルターメンブレン(0.45μM)によって浮遊物および混濁から精製させた。透明な加水分解物20μlを180μlのイミダゾールバッファー(300mMイミダゾール、pH7.4;7.5mM MgCl、1mM EDTAおよび0.4mM NADP)と混合させた。340nmの測光器内で測定を実施した。基礎吸収の測定後、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(Leuconostoc mesenteroides, Boehringer Mannheim)2単位を加えることによって酵素反応を開始させた。吸収の変化は、6−ホスホノ−グルコン酸とNADPHを生成するグルコース−6−リン酸とNADPの等モル反応に基づいており、NADPHの形成は、上記の波長で測定する。プラトーに達するまで、反応を追跡した。この測定の結果は、加水分解物中のグルコース−6−リン酸の含量である。同じ加水分解物から、遊離されたグルコースの含量に基づき、加水分解の程度を測定した。これを利用して、グルコース−6−リン酸含量を生重量からの加水分解されたデンプンの分画に関連付ける。このために、加水分解物10μlを10μlの0.7M NaOHによって中和させて、続いて水で1:100に希釈した。この希釈液4μlを196μlの測定バッファー(100mMイミダゾールpH6.9;5mM MgCl、1mM ATP、0.4mM NADP)と混合させて、そして基礎吸収の測定に使用した。酵素混合液(ヘキソキナーゼ1:10;酵母からのグルコース6−リン酸脱水素酵素、測定バッファー中1:10)2μlの添加によって、340nmでプラトーまで反応を追跡した。測定原理は最初の反応に対応する。
この測定の結果は、加水分解の過程で出発材料に存在するデンプンから遊離したグルコースの量(mg)を示す。
続いて、加水分解されたデンプンの1mg当たりのグルコース−6−リン酸含量を表すために、両方の測定の結果を関連付ける。サンプルの生体重にグルコース−6−リン酸の量を関連づける場合以外に、この計算によって、グルコース−6−リン酸の量は、グルコースに完全に加水分解されたデンプンの一部にのみ基づいており、ひいてはグルコース−6−リン酸の供給源と見なす必要もある。
【0089】
6. 粉の分析データ
TAAB粉、そして野生型の小麦粉も、International Association for Cereal Science and Technology (ICC/www.icc.or.at)もしくはAmerican Association of Cereal Chemists (AACC/www.aaccnet.org)の標準方法によって分析した。それぞれの場合で使用する標準物質を括弧内に記載している。これはそれぞれのインターネットページで求めることができるため、ここでは再び記載しない。以下のパラメーターについて研究した:
1. 灰分(ICC Standard 104/1)
2. タンパク質含量(ICC Standard 105/2)
3. 湿ふ含量(ICC Standard 137/1)
4. グルテンインデックス(ICC Standard 155)
5. 沈降価(ICC Standard 116/1)
6. 損傷デンプン(AACC Method 76-31)
7. フォーリングナンバー(AACC Method 22-08)
8. ファリノグラフ(ICC Standard 115/1)
【0090】
7. ベーキング実験手順
標準方法に従って、ベーキング実験をBayer BioScience GmbH (Potsdam, Germany)で、そしてAmerican Institute of Baking International (= AIBI; Kansas, USA)でも実施した。これについては、遺伝子組み換え小麦植物由来の粉だけでなく、対照として野生型の小麦植物由来の粉も使用した。
【0091】
図1には、下文の7.1.−7.4に記載の様々なベーキング工程の概観を示している。
【0092】
【表1】

【0093】
ベーキング実験の組成物および方法:
7.1 ホワイトパンブレッド(WPB)用のスターターおよび生地
【表2】


ミキサー:McDuffeeボウルおよびフォーク混練付属品を伴うHobart A-120 Mixer (Hobart Corporation/OH/USA)
スターター:速度1(=104rpm)で1分間原料を混合させる。
さらに速度1で1分間混合させる。混合後の生地温度:26℃±1℃
発酵:発酵はホイルで覆われた20℃の容器内で4時間にわたり進む。
生地:生地原料は生地ボウル内において速度1(=104rpm)で30秒間混合させる。
スターターの添加および速度1(=104rpm)でさらに30秒間の混合
最適なグルテン変化(指の間で生地をぎゅっとつかむことで認識可能)まで速度2(194rpm)で生地を混合させる。
理想的な生地温度は26℃±1℃である。
試験時間:覆われた29℃の容器内で20分間生地を試験する。
1バッチ当たり2個の塊(塊1個当たり524g)に分ける。
中間発酵:室温で10分間にわたる生地片(524g)試験
成形:ローラー成形機
大きさ:トップロール:0.87cm;ボトムロール:0.67cm;
プレスプレート:3.1cm;プレスプレート幅:23cm。発酵:成形させた塊を43℃および相対湿度81.5%の発酵キャビネ内のパン型中に置く。
生地はパン型の上部縁より上に最高1.5cm超まで膨張しなければならない。
ベーキング:215℃で20分間
パン型の大きさ:
上部(内部):25×10.8cm(推定)
下部(外部):24.1×7.6cm
深み(内部):7cm
【0094】
7.2. ハンバーガーロールパン用のスターターおよび生地
【表3】


ミキサー:McDuffeeボウルおよびフォーク混練付属品を伴うHobart A-120 Mixer (Hobart Corporation/OH/USA)
生地の混合:速度1(104rpm)で1分間原料を混合させる。
さらに速度1(104rpm)で1分間混合させる。
混合後、混合生地の温度を26℃±1℃にする必要がある。
発酵:発酵はホイルで覆われた29℃の容器内で3.5時間にわたり進む。
パン生地:生地原料は生地ボウル内において速度1(104rpm)で30秒間混合させる。
混合生地の添加および速度1でさらに30秒間の混合
最適なグルテン変化まで速度2(194rpm)で生地を混合させる。理想的な生地温度は26℃±1℃である。
試験時間:覆われた29℃の容器内で10分間にわたり完全に混合させた生地を試験する。
中間段階:生地を56g片に分けて、丸平形にする。
片試験:成形させた塊をパン型中に置いて、そして43℃および相対湿度90%の発酵キャビネ内に入れる。
生地を3.6cmまで膨張させる必要がある。
ベーキング:224℃で11分間
パンの大きさ:重量(g)および容積(cc);測定はベーキング後30分間にわたり進む。
【0095】
7.3 プレベーキングした冷凍バケット
【表4】


ミキサー:螺旋型ミキサー(Diosna, 221 - Diosna Dierks & Sohne GmbH, Osnabruck/Germany)
混合:速度1(100rpm)で2分間
速度2(200rpm)で3分間
所望の生地温度は24℃である。
試験:20分間
分割:生地を115gの生地片に分けて、手で丸めて、そして長さを整える。
片試験:成形させた塊をパン型中に置いて、そして24℃および相対湿度87%の発酵キャビネ内で90分間にわたり発酵させる。
ベーキング:240℃で30秒間
210℃で2分間
200℃で15.5分間
ベーキング工程中、バケットに80mlのHOをスプレーした。
冷凍:プレベーキングしたバケットを−70℃で1時間冷凍させて、その後、−18℃のディープフリーザー内で保存する。
ベーキングアウト:1週間の保存後、プレベーキングしたバケットを215℃で12分間エンドベーキングする。
【0096】
7.4 ロール
【表5】


混合:速度1(100rpm)で2分間
速度2(200rpm)で3分間 所望の生地温度=27℃
試験:20分間
スケール:生地を成形プレート上に置いて、目盛・丸め機械を使用して30個の生地片に分ける。
片試験:成形させた塊をパン型中に置いて、そして32℃および相対湿度87%の発酵キャビネ内で35分間にわたり発酵させる。
ベーキング:240℃で30秒間、210℃で2分間、200℃で15.5分間
ベーキング工程中、ロールに80mlのHOをスプレーする。
【0097】
8. 2つの活性化合物の併用の相乗効果の計算
組み換え粉と添加剤(ベーキング剤)との所与の併用で期待される効果(焼込損失の低下)を以下の通りに計算できる(Kaiser 2006, 私信):
x0は、添加剤なしの標準的な粉(トランスジェニックではない)の機能性を表し、そして
y0が組み換え粉の機能性を表す場合、
次に標準的な粉+ベーキング剤の効果、添加剤zの効果はX(z)と記載され、ここで
z=0のとき、X(z)=x0であり、
そして
組み換え粉+ベーキング剤、添加剤zはY(z)と記載され、ここで
z=0のとき、Y(z)=y0である。
【0098】
組み換え粉+添加剤の効果は
Y’(z)=X(z)+y0−x0
として挙動する場合、当業者は、標準的な粉と比較して組み換え粉が使用された場合での改善を期待する。
【0099】
Y(z)がy’(z)より大きい場合、相乗効果が認められる。
【0100】
ここで、
max{Y(z):z>0}>max{X(z):z>0}、
max{Y(z):z>0}−max{X(z):z>0}>y0−x0の場合に一層優れた効果が期待される。
【0101】
同等に、相乗効果はより少量のベーキング剤の添加による著しく早期に増大した効果によって示すこともでき、すなわち、以下を適用した場合:z’について
Y(z’)>=X(z)−x0+y0、ここで0<z’<z。
【0102】
実施例
実施例1:遺伝子組み換え小麦植物の生産
小麦植物の形質転換に使用したpUbiR1ベクターは、国際公開広報第02/034923号(実施例1)に記載の通りに生産した。同様に、国際公開広報第02/034923号(実施例2)には、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のR1遺伝子を有する遺伝子組み換え小麦植物の生産について記載されている。本発明の工程では、TAAB 40A−11−8株の遺伝子組み換え小麦植物を使用した。この株、そして非組み換え小麦「Florida」(以下「野生型」と呼ぶ)の種子材料をアルゼンチンに植えて、そして収穫した。
【0103】
実施例2:非組み換え粉と比較した遺伝子組み換え株の小麦粉の特性に関するまとめ
ICCもしくはAmerican Association of Cereal Chemists(AACC)の標準方法に従って、小麦粉の分析を実施した。以下のパラメーターについて研究した:
1. 灰分(ICC104/1)
2. タンパク質含量(ICC105/2)
3. 湿ふ含量(ICC137/1)
4. グルテンインデックス(ICC155)
5. 沈降価(ICC116/1)
6. 損傷デンプン(AACC76-31)
7. フォーリングナンバー(AACC22-08)
8. ファリノグラフ(ICC115/1)
【0104】
【表6】

【0105】
分析データの比較では、組み換えTAAB粉が、品質パラメーターを保持しており、野生型の非組み換え粉よりも吸水値が高くなることが示されている。
【0106】
実施例3:野生型と比較した、遺伝子組み換え株の小麦デンプンの特性に関するまとめ
【0107】
【表7】

【0108】
実施例4:ベーキング実験の結果
【0109】
【表8】

【0110】
遺伝子組み換え小麦粉(TAAB)および非組み換え小麦粉(WT)の製品比較 WPB=ホワイトパンブレッド/ロールパン=ハンバーガーロールパン
焼込損失は、水蒸発に起因するベーキング中の重量損失である。パーセントでの焼込損失は、基本的に生地重量に基づいており、これは以下のように計算される:
【数5】

【0111】
結果では、組み換え小麦からのベーカリー製品の重量損失は、野生型よりもパーセンテージで低いことが示されている。
【0112】
重量損失を生地中に存在する水の量に関連づけて、実際の水分損失を計算することができる:
【数6】

【0113】
同じ生地粘度を得るために、水分損失は、粉に応じて異なる水添加の高さ、およびそれらの水結合能から計算される。組み換え小麦粉のベーカリー製品での液体損失も、非組み換え粉から生産されたベーカリー製品での液体損失よりも少ない。
【0114】
組み換え小麦粉から作られる全てのベーカリー製品の容積に基づくパン水分は、非組み換え小麦粉からのベーカリー製品よりも大幅に高かった。パン水分の増加は、ベーカリー製品の鮮度保持の改善(有効期間の延長)に有益な効果を持つ。水分は以下の通りに計算した:
【数7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2μmol未満のデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を含む組成物よりも大幅に焼込損失を減らす量の少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせて、少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を含む組成物。
【請求項2】
相乗的に焼込損失を減らす、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ベーキング剤が、キサンタン、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、イナゴマメミール、乳化剤、グアー種子ミールまたは大豆粉から選択される、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
ベーキング剤が、キサンタンである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項5】
ベーキング剤が、カルボキシメチルセルロースである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項6】
ベーキング剤が、ペクチンである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項7】
ベーキング剤が、イナゴマメミールである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項8】
ベーキング剤が、乳化剤である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項9】
ベーキング剤が、グアー種子ミールである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項10】
小麦粉のデンプンが、遺伝子工学的方法を利用してリン酸化された、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
焼込損失を減らすための、請求項1〜10のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項12】
ベーキングにおいて、少なくとも1つのベーキング剤と組み合わせて、少なくとも2μmolのデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉を使用することを含む、焼込損失の減少において相乗効果達成するための方法。
【請求項13】
ベーキング剤が、キサンタン、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、乳化剤、イナゴマメミール、グアー種子ミールまたは大豆粉から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
小麦粉のデンプンが、遺伝子工学的方法を利用してリン酸化された、請求項12または13に記載の工程。
【請求項15】
ベーキング後の水分損失による焼込損失が、2μmol未満のデンプンC−6−P/gのリン酸含量を有する小麦粉から製造したベークド商品よりも10〜20%少ない、請求項14記載の方法。

【公表番号】特表2009−537160(P2009−537160A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511421(P2009−511421)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004650
【国際公開番号】WO2007/134878
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(507203353)バイエル・クロップサイエンス・アーゲー (172)
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE AG
【Fターム(参考)】