説明

焼酎粕を利用した調味料

【課題】焼酎粕には、食品としての有効成分が各種含有されているものの、これまで食品としての利用が進まなかった要因として、泥状の形態、特有の臭い、腐敗しやすさ、酸味およびえぐみが挙げられる。焼酎粕の大量消費に対応し、焼酎粕の有効成分を活かした、新たな風味の調味料を提供する。
【解決手段】本発明においては、焼酎粕を固液分離した後の液体部分を使用する。
固液分離後の上澄み液は透明な琥珀色を呈し、各種有効成分や若干の糖分、および酵母が含有されている。これに糖分と酵母を添加して加温して、十分に発酵、熟成させることによりエステル類が生成されて、上澄み液の酸味の尖った味や、えぐみが消え、焼酎粕特有の臭いが和らいで、まろやかな新たな風味の調味料を得ることができる。更に、これにアミノ酸のうまみ成分と塩分を添加する。臭いは、うまみ成分を添加することによって目立たなくなる。なお、腐敗については、冷蔵保存で対応できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼酎粕を利用した調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の焼酎粕の利用技術として、アルコール飲料(特許文献1)や、食酢(特許文献2)、抗血栓飲食品(特許文献3)などの高機能性食品の製造が報告されている。
【0003】
焼酎粕は、製品の2倍以上の量が排出され、これまで産業廃棄物として、飼料や肥料として再利用されたり、海洋投棄による処分がなされてきた。しかし、ロンドン条約議定書に対応するため海洋投棄が禁止され、総量陸上処分に移行することになった。大量の焼酎粕の処分方法として、新たにメタンガスに分解してバイオマスエネルギーとして利用するなどの処理が行われている。
【0004】
焼酎粕は、全体が泥状で、特有の臭いと酸味およびえぐみがあり、腐敗しやすいことから、有効利用が制限されて、ほとんどが産業廃棄物として処分されてきた。そもそも焼酎粕は、厳選された原料、および清潔に管理された製造工程において産出される焼酎の副産物である。食品として利用されるべきものである。
【0005】
焼酎粕には、Na、K、Ca、Mg、Fe、Pなどのミネラル類や、グルタミン酸などのアミノ酸、クエン酸などの有機酸、若干の糖分、アルコールが含有されていることが知られている。(参考資料:鹿児島県工業技術センター33号19年「1.4.いも焼酎蒸留粕のし別分離区分の成分」、同2003.17号「市販もろみ酢の栄養成分分析」)
【0006】
焼酎粕を食品として利用する従来の技術は、製品の利用者が限定される品目が多く、焼酎粕の消費量も限られている。大量消費に対応する技術としては、食酢が挙げられる。
【0007】
本技術の焼酎粕を利用した調味料は、広く一般の家庭で使われたり、食品加工会社において大量に使用されうるものであり、成分を有効利用しつつ、焼酎粕の大量消費に対応する技術である。これまで、焼酎粕を調味料として利用した技術は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-237299号公報
【特許文献2】特開2005-102651号公報
【特許文献3】特開2005-124517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
焼酎粕には、食品としての有効成分が各種含有されているにもかかわらず、これまで食品としての利用が進まなかった要因として、泥状の形態、特有の臭い、腐敗しやすさ、酸味およびえぐみが挙げられる。大量に排出される焼酎粕の大量消費に対応する食品として、焼酎粕の有効成分を活かした、かつ広く普及する新たな風味の調味料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の調味料においては、焼酎粕を固液分離した後の液体部分(以後「上澄み液」と称する)を使用し、これに糖分と酵母を添加して加温し、発酵、熟成することによってなる。
【0011】
固液分離した後の上澄み液は透明な琥珀色を呈し、各種有効成分や若干の糖分、および酵母が含有されている。これに糖分と酵母を添加して加温して、十分に発酵、熟成させることによりエステル類が生成されて、上澄み液の酸味の尖った味や、えぐみが消え、焼酎粕特有の臭いが和らいで、まろやかな新たな風味の調味料を得ることができる。 更に、これにグルタミン酸やイソシン酸などのアミノ酸よりなるうまみ成分と塩分を添加してもよい。残存していた臭いは、うまみ成分を添加することによって目立たなくなる。なお、腐敗については、冷蔵保存により対応できる。
【0012】
また、糖分が、甘藷残渣の果肉部分を乾燥させて糖分を凝縮させ、麦芽発酵によって得た水飴であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本技術の焼酎粕を利用する調味料は、これまで多大の費用をかけて処理してきた産業廃棄物が、食品として有価物に生まれ変わるものである。
【0014】
本技術による調味料は、まろやかな味で主張が強くなく、さまざまな素材の味の引き立て役となる調味料である。その用途は、一般家庭に常備される醤油に替わる調味料として、また、各種食品の加工用調味料として使用されうるものであり、広く普及することで、原料の焼酎粕を大量消費することができ、資源の有効利用が図られる。
【0015】
本技術による調味料は、健康維持に有益なクエン酸を含有しており、酸味があることで減塩が可能となり、健康に寄与する調味料を提供できる。
【0016】
本技術による調味料は、添加するうまみ成分は1種類ないしは数種類の選択が可能で、多様な嗜好や食物制限(甲状腺疾患のヨウ素摂取制限など)に応える製品を製造することが可能である。また、大豆を使用しないことから、大豆製品摂取制限にも対応する。
【0017】
本技術の調味料の製造は、焼酎製造設備の多くを併用して製造することが可能であり、新たな設備投資は一部に限られる。上澄み液の冷蔵保管を行えば、焼酎製造の繁忙期を避けて調味料の製造を行うことができ、特に季節性のあるいも焼酎製造所においては、工場可動期間が増加し、雇用の維持や設備の有効利用を図ることが可能になる。また、焼酎のみを製造する現状は、焼酎の需要の変化が経営を左右するリスクを伴っている。本技術の調味料は、費用をかけて処分していた廃棄物が、収益を生む有価物に変わるものであり、収益構造の多様化によって経営の安定に寄与することができる。
【0018】
本技術の調味料を製造する工程で、上澄み液に糖分を添加するが、その糖分は水飴も適している。焼酎製造の際、大量の甘藷残渣が生じるが、果肉部分を乾燥させて糖分を凝縮させ、麦芽発酵によって水飴を製造すれば、廃棄物を有効利用することができ、コスト削減と同時に、廃棄物の低減を図ることができる。また、水飴にすることで、保管が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の調味料は、通常の方法で製造する焼酎の製造工程で、焼酎を蒸留した時に残る焼酎粕を、固液分離した後の液体(上澄み液)を使用する。なお、本技術で使用する焼酎粕は、焼酎の原料および麹菌ならびに酵母の種類については、制限されない。
【0020】
固液分離の方法としては、ろ過、遠心分離等機械によって強制的に分離する方法があるが、雑味の混入を防ぐ点で、比重差による沈降分離が望ましい。沈降分離は、機械による方法より時間を要するが、温度管理によって腐敗のない良好な上澄み液を得ることができる。
【0021】
たとえば、米麹を使用した甘藷を原料としたいも焼酎を蒸留した際の副産物であるいも焼酎粕は、濃い黄土色の泥状で、液体と固形物の区別がつかない状態であるが、沈降分離によって徐々に琥珀色の上澄み液が分離する。一方沈殿部は濃縮された泥状であるが、更なる時間の経過で上澄み液に移行する。いも焼酎粕の組成は、95%前後が水分で、残りの5%程度が固形物であり、時間経過によって、得られる上澄み液の量が決まる。1日〜2日程度で、3割程度の上澄み液を得ることができる。
【0022】
たとえば、芋焼酎粕の上澄み液には、若干の酵母と糖分およびアルコール類が含有されているが、これに重量の2%の糖分および、0.4%の酵母を添加して、40度前後で20時間程度発酵させると、尖ったような酸味とえぐみが消えて、酸味を含んだ舌ざわりの良いまろやかな風味が発現する。特有の臭いも和らいで、新たな風味の調味料が得られる。これは、焼酎粕にもともと含有されている有機酸類やアルコール類を基に、更に発酵させることにより、より多くのエステル類が生成して、風味が発現すると考えられる。更に10時間発酵を継続すると、酸味が増して、臭いが更に減少する。
【0023】
風味と酸味と臭いは、発酵と熟成の度合い従って微妙な差異が生じる。酸味について言えば、原料の上澄み液は、pH3.7前後であり、20時間発酵後の調味料は、pH3.8前後、30時間発酵後の調味料は、pH3.9前後になる。結果として、pH値は僅差であり、風味と酸味と臭いの差異は、発酵と熟成による成分組成のバランスによると推測される。そもそも焼酎粕は、種類および製造所によって組成が異なるので、添加する糖分の量および酵母の種類と量、発酵時間および加温温度を選択することにより、多様な風味の調味料が製造される。これは製造者および消費者の嗜好による選択に任されるべきものである。異なる原料の焼酎粕を混合して使用することも、なんら制限されない。
【0024】
上澄み液の発酵によって得られた調味料に、鰹節や、いりこ、昆布、しいたけなどのアミノ酸のうまみ成分、および塩分を加えて本技術の調味料は、完成する。なお、うまみ成分の添加は、単独でも各種の混合でも、なんら制限されない。
【0025】
なお、上澄み液の発酵によって得られた調味料には、焼酎粕特有の臭いが残っているが、これに鰹節や、いりこ、昆布、しいたけなどのうまみ成分を加えることで、特有の臭いがこれらに紛れ、気にならない程度に減少あるいは消滅し、臭いの問題は解決される。完成品を、20歳台男性、50歳台女性、60歳台男性をパネラーに試飲を行ったところ、いずれも、焼酎粕の臭いは「気にならない」、あるいは「感じない」との評価であった。また完成品を、胡瓜にかけて試食してもらったところ、いずれのパネラーも「調味料の味が主張しないで、胡瓜の味が引き立てられて美味。これまでにない性格の調味料」との評価であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎粕を固液分離した後の液体部分に、糖分と酵母を添加して加温し、発酵、熟成することによってなる調味料。
【請求項2】
請求項1記載の調味料において、アミノ酸よりなるうまみ成分と、塩分を添加することによってなる調味料。
【請求項3】
請求項1または2記載の調味料において、製造工程で添加する糖分が、甘藷残渣の果肉部分を乾燥させて糖分を凝縮させ、麦芽発酵によって得た水飴である調味料。

【公開番号】特開2011−62157(P2011−62157A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216818(P2009−216818)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(309031167)
【Fターム(参考)】