説明

照明装置及び光学装置

【課題】スペックルノイズが目立つことなく、被照明領域(像形成領域)を均一に照明する照明装置、光学装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る照明装置は、コヒーレント光を出射する光源11と、光源11から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部15と、複数の要素レンズを有し、光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイ22と、レンズアレイ22の各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系23と、を備え、レンズアレイ22の入射側あるいは出射側には、隣接する要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、偏光制御素子もしくは光路差長を与える光学素子が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光などのコヒーレント光を使用する照明装置、及び、そしてそれに用いられる光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光源からの照明光を、液晶やMEMSなどの光変調素子(マイクロディスプレイ)を用いて映像化し、スクリーンに投影するプロジェクタ(投射型映像表示装置)が知られている。このようなプロジェクタでは、その光源に高圧水銀ランプなどの白色光源を用いたものが知られており、液晶などの2次元光変調素子を照明し得られた画像を投射光学系で拡大してスクリーン上に映像を投射している。
【0003】
しかしながら、高圧水銀ランプなどの高輝度放電ランプは、寿命が比較的短くプロジェクタなどに利用した場合、頻繁にランプを交換する必要がある。また、装置自体が大型化してしまうという欠点もある。さらには、環境負荷の観点から水銀を使用する高圧水銀ランプの仕様は好ましいものとはいえない。このような欠点を解消するため、レーザー光を光源として使用するプロジェクタも提案されている。半導体レーザーは、高圧水銀ランプなどと比較して高寿命であり、また、装置全体の小型化を図ることも可能である。
【0004】
このように、プロジェクタの次世代光源として期待されているレーザー光は直進性に優れるため、LEDなどと比較しても光入射効率の向上を図ることができると考えられる。しかしながら、レーザー光を光源として用いた場合、コヒーレンスの高さに起因するスペックルノイズが発生し、映像を見難くしてしまう欠点がある。
【0005】
スペックルノイズは、コヒーレントなレーザー光を光源とした場合、照射対象表面の微少凹凸からの散乱光が干渉することで生ずる斑点状のノイズであって、プロジェクタで発生した場合には画質劣化の原因となるのみならず、観察者に対して生理的不快感をもたらすこともある。このスペックルノイズを低減するため、レーザー光が通過する拡散板を振動させる、レーザースペクトルの波長スペクトルを拡大する、レーザー光の照射対象となるスクリーン自体を振動させるなど、各種試みが行われている。このようなスペックルノイズ低減の試みとして、特許文献1には、コヒーレント光が通過する拡散素子を回転運動させることで、スペックルノイズの低減を図る無スペックル・ディスプレイ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−208089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるスペックルノイズ低減方法では、拡散素子到達前に生じていたスペックルノイズ(干渉パターン)は平均化できるものの、拡散中心からスクリーンへの入射光線角度はスクリーン上のいずれの点においても不変であるため、スクリーン各点の光散乱特性も一定となり、結果としてスクリーン上で発生するスペックルノイズの除去効果は殆ど得られないという問題があった。
【0008】
このような、コヒーレント光を原因として生ずるスペックルは、コヒーレント光を光源として使用する投射型映像表示装置(プロジェクタ)のみならず、コヒーレント光を使用
する様々な照明装置において問題となっている。
【0009】
本発明は、コヒーレント光を光源とした場合に生ずるスペックルの抑制を図る照明装置、及び、このような照明装置を利用した投射型映像表示装置を提供することを第1の目的としている。さらに、本発明では、このような照明装置、投射型映像表示装置において、被照明領域を効果的に照明し、光の利用効率を図ることを目的としている。さらに、被照明領域をほぼ同じ条件で照明することで、被照明領域全体を均一に照明することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る照明装置は、
コヒーレント光を出射する光源と、
前記光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備え
前記レンズアレイの入射側あるいは出射側には、隣接する前記要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、偏光制御素子が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る照明装置は、
コヒーレント光を出射する光源と、
前記光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備え、
前記レンズアレイの入射側あるいは出射側には、隣接する前記要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、光路差長を与える光学素子が設けられていることを特徴とする。
照明装置。
【0012】
さらに本発明に係る照明装置において、前記光路変換系は、前記光走査部におけるコヒーレント光の走査位置によらず、前記被照明領域全体を照明することを特徴とする。
【0013】
さらに本発明に係る照明装置において、前記光路変換系は、集光機能を有する光学素子を含むことを特徴とする。
【0014】
さらに本発明に係る照明装置において、前記レンズアレイの要素レンズは、屈折率分布型レンズであることを特徴とする。
【0015】
さらに本発明に係る照明装置において、前記レンズアレイは、光軸方向に複数の要素レンズが配列されていることを特徴とする。
【0016】
さらに本発明に係る照明装置において、前記レンズアレイに入射するコヒーレント光の光束幅は、隣接する前記要素レンズの間隔よりも小さいことを特徴とする
【0017】
さらに本発明に係る照明装置において、前記光走査部は、ガルバノミラーを含んで構成されることを特徴とする。
【0018】
さらに本発明に係る照明装置において、前記光走査部は、ポリゴンミラーを含んで構成されることを特徴とする。
【0019】
さらに本発明に係る照明装置において、前記光走査部は、可変回折型素子を含んで構成されることを特徴とする。
【0020】
さらに本発明に係る照明装置において、前記光走査部は、位相変調素子を含んで構成されることを特徴とする。
【0021】
さらに本発明に係る照明装置において、前記光源と前記の光走査部間に、ビーム成型手段が配置されていることを特徴とする。
【0022】
また本発明に係る光学装置は、
コヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備え
前記レンズアレイの入射側あるいは出射側には、隣接する前記要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、偏光制御素子が設けられていることを特徴とする。
【0023】
また本発明に係る光学装置は、
コヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備え、
前記レンズアレイの入射側あるいは出射側には、隣接する前記要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、光路差長を与える光学素子が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の照明装置によれば、光走査部でコヒーレント光を走査することで、レンズアレイからの発散光は、被照明領域を時間的に異なる角度で照射することとなり、被照明領域で発生するスペックルを観察者に不可視の状態とさせることが可能となる。さらに、本発明の投射型映像表示装置では、スクリーンに対しても時間的に異なる角度で照射することで、スクリーン上で発生するスペックルを効果的に抑制することができる。
【0025】
さらに本発明の照明装置(投射型映像表示装置)では、レンズアレイから出射された発散光の発散角度が抑えられた状態で、被照明領域(像形成領域)を照明することができ、被照明領域(像形成領域)の各点を略同じ条件で照明することが可能となり、例えば、被照明領域(像形成領域)全体を均一に照明することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る照明装置を備えた投射型映像表示装置の構成を示す図
【図2】本発明の実施形態に係る照明装置の構成を示す図
【図3】本発明の実施形態に係るレンズアレイとレンズアレイに入射するコヒーレント光の関係を示す図
【図4】本発明の他の実施形態に係る要素レンズ間の干渉を防止するための構成を示す図
【図5】本発明の他の実施形態に係る屈折率分布型レンズを利用したレンズアレイの構成を示す図
【図6】本発明の他の実施形態に係る光走査部(可変回折型素子)の構成を示す図
【図7】本発明の他の実施形態に係る光走査部(位相変調素子)の構成と位相変化の様子を示す図
【図8】本発明の他の実施形態に係る光走査部(位相変調素子)における位相変化の様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
では、本発明の実施形態に係る照明装置、及び、投射型映像表示装置について図面を参照しつつ説明を行う。図1は、本発明の実施形態に係る照明装置を備えた投射型映像表示装置の構成を示す図である。なお、以下に説明する図面は、模式的に示した図であって、実際の形状、寸法、配置とは異なる場合もある。
【0028】
本実施形態の投射型映像表示装置10は、照明装置20と、映像を形成するための光変調素子31、光変調素子31で形成された映像をスクリーン41に投射する投射光学系32などを備えている。なお、図では、映像が投影されるスクリーン41面をX−Y平面、それに直交する軸をZ軸としている。スクリーン41には、スクリーン41で反射された映像を観察する反射型スクリーン、あるいは、スクリーン41を透過した映像を観察する透過型スクリーンどちらを使用することもできる。
【0029】
本実施形態の照明装置20は、光源11、光走査部15、第1光路変換系21、レンズアレイ22、第2光路変換系23を有して構成されている。なお、この実施形態の照明系20において、光源11を除いた他の構成にて、本発明でいう光学装置が構成される。ただし、第1光路変換系21については必須の構成ではない。
【0030】
光源11は、コヒーレント光としてのレーザー光を出射する半導体レーザー装置など各種レーザー装置が使用される。光源11から出射されるコヒーレント光は、光走査部15を照明する。なお、光源11から出射されるコヒーレント光に対して、その断面方向の強度分布の均一化を図るビーム成型手段を設けておくことが好ましい。設計例として、光走査部近傍の面で均一化されるようにビーム成型手段を設けるとともに、その面と光変調素子面を共役に設定することにより、被照明領域を均一な強度で照明することが可能となる。
【0031】
光走査部15は、光源11にて出射されたコヒーレント光の方向を時間的に変化させる光学素子である。本実施形態では、回動中心Raを中心として反射面を回動させることのできるガルバノミラーが用いられている。この他、可動ミラーを機械的に回動させる可動式ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラー、MEMSスキャナを用いることも考えられる。また、可動式ミラーデバイスに限らず、電気的に回折条件を変更することで、出射方向を変化させる可変回折型素子、あるいは、位相変調素子を用いることとしてもよい。このような素子では、可動式ミラーデバイスと異なり、可動部を有さないため、製造時あるいはメンテナンス時などの工程負担を軽減することが可能となる。詳細については後で説明する。
【0032】
本実施形態の光走査部15は、Y軸方向に回動中心Raを有し、コヒーレント光をX−Z面内で走査する1次元的走査を行うこととしているが、光走査部15によるコヒーレント光の走査は1次元的、2次元的走査のどちらを利用してもよい。何れの場合においてもレンズアレイ22の入射面を走査し、結果として被照明領域を十分に照明できることが必要とされる。
【0033】
光源11から入射するコヒーレント光は、この光走査部15にて時間的に方向が変化する走査光Laとなり、第1光路変換系21を経て、レンズアレイ22に入射する。図では、最外端付近の走査光La(t1)とLa(t2)の様子が示されているが、実際には、走査光Laは、このLa(t1)とLa(t2)の間を連続的に移動することとなる。
【0034】
第1光路変換系21は、走査部15からの走査光Laがレンズアレイ22の入射面に対して略垂直に入射するように変換する光学素子であって、集光機能を有する凸レンズなどを用いて構成される。このように変換された走査光La’を、レンズアレイ22を構成する各要素レンズに対して垂直に入射させることで、各要素レンズに対して同じ条件で走査光La’を入射させることとなる。そのためレンズアレイ22の各要素レンズの設計を等しくするなど、設計上の負担を削減することが可能となる。なお、この第1光路変換系21は、必ずしも設ける必要はなく、レンズアレイ22を構成する要素レンズやそれ以降の光学系を入射光の状態に応じて変更することなどにて対応することが可能である。
【0035】
レンズアレイ22は、複数の要素レンズが、光走査部15による光の走査位置(X−Y面上)に配列された光学素子であって、各要素レンズに入射する走査光La’を発散光Lbに変換する。レンズアレイ22を構成する要素レンズの大きさ、形状は、必要に応じて適宜に設定することが可能であって、例えば、要素レンズの形状としてシリンドリカルレンズを用いたシリンドリカルレンズアレイを用いることや、極小さい大きさの要素レンズで構成されたマイクロレンズアレイを用いることとしてもよい。さらに本実施形態では、各要素レンズが光軸方向(Z軸方向)に複数段(2段)配列された構成を取っている。光源11から出射されるコヒーレント光は、必ずしも平行光として出射されるとは限らず、平行な状態から幾分かずれた散乱成分を含む場合がある。本実施形態では、要素レンズを光軸方向に複数段配置することで、この散乱成分の抑制が図られる。光軸方向に配列される要素レンズは、同等の径を有するとともにその中心軸が光の進行方向に揃えられて配列される。なお、レンズアレイ22は、各要素レンズが光軸方向に1段で構成された形態のものを使用してもよい。
【0036】
第2光路変換系23(本発明における「光路変換系」)は、レンズアレイ22から出射される発散光Lbにて、被照明領域としての像形成領域を照明する光学素子である。光走査部15によって光走査されたレンズアレイ22の各点から出射される発散光Lbは、この第2光路変換系23を経て、経時的に重なるように被照明領域を照明する。この第2光路変換系23は、レンズアレイ22から出射される発散光Lbが、被照明領域としての光変調素子31の像形成領域を照明する集光機能を有することが好ましい。レンズアレイ22にて発散された発散光Lbの発散角度を抑え、像形成領域に集光させることで、光の利用効率の向上が図られる。さらに、第2光路変換系23は、発散光Lbが平行光あるいは略平行光となるように変換することが好ましい。平行光あるいは略並行光として像形成領域を照明することで、像形成領域の各領域を略同条件にて照明することが可能となり、例えば、像形成領域全体を均一に照明することが可能となる。
【0037】
なお、第2光路変換系23としては、発散角度を抑える機能を有すればよく、レンズや凹面鏡、ミラーやプリズムの組み合わせなどが用いられる。同等の機能を有するホログラム素子や回折素子などで実現してもよい。また、これらの組み合わせにより実現してもよい。
【0038】
また、第2光路変換系23から出射される発散光Lb’は、各時点において、像形成領域の少なくとも一部を照明し、光走査部15の走査によって像形成領域全体を照明することで足りるものであるが、発散光Lb’が各時点において像形成領域全体を照明することが好ましい。このような構成によれば、像形成領域における輝度分布の均一化を図ること
が可能となる。
【0039】
光変調素子31は、映像信号に基づいて像が形成される像形成領域を有するディスプレイであって、本実施形態では透過型の液晶表示素子が用いられている。光変調素子31としては、このような透過型のもの以外に、MEMSなどの反射型のものを利用することも可能である。第2光路変換系23からの発散光Lb’は、時間の経過に伴い入射角度を変化させつつ光変調素子31に入射し、像形成領域に表示される像に基づいて変調光Lcに変換される。
【0040】
投射光学系32は、光変調素子31からの変調光Lcを映像再生光Ldに拡大変換してスクリーン41に投射する。本実施形態では、この投射光学系32の後段に絞り33が設けられている。この絞り33(投射光学系の瞳面)と、レンズアレイの各要素レンズの焦点面とは、略共役に保たれることが好ましい。この構成により、すべての要素レンズからの光束に対し、結像の光学特性を、光変調素子の面内で均一にすることが可能となる。
【0041】
では、この投射型映像表示装置10において、スペックルを抑制するための主要構成である照明装置20について、その原理などを詳細に説明する。図2は、本発明の実施形態に係る照明装置20の構成を示す図であって、レンズアレイ22による照明の様子を示した図である。
【0042】
図2に示されるように、時刻t1のときの走査光La(t1)は、第1光路変換系21にて、レンズアレイ22の入射面に対して垂直に入射するように変換された後、レンズアレイ22に入射し、発散光Lb(t1)を出射する。レンズアレイ22から出射される発散光Lb(t1)は、第2光路変換系23にて光変調素子31における像形成領域の少なくとも一部の領域を照明するように変換された後、当該領域を照明する。時刻t2のときの走査光La(t2)も同様に、第2光路変換系23から出射された発散光Lb’(t2)に変換された後、像形成領域の少なくとも一部の領域を照明する。この図に示されるように照明装置20は、被照明領域に対する入射角度を時間的に変化させつつ照明することとなる。
【0043】
図1に戻り、光変調素子31で変調された変調光Lcは、投射光学系32で拡大され映像再生光Ldとしてスクリーン41上に投射され、反射、あるいは、透過される映像を観察者に観察させる。このときスクリーン41の面上に投射されたコヒーレント光は互いに干渉することでスペックルを生じさせる。しかしながら、本実施形態では、光走査部15によってコヒーレント光が走査されるため、結果としてスクリーン41に投射する映像再生光Ldの入射角度を経時的に変化させ、このスペックルを極めて効果的に目立たなくしている。
【0044】
図1に示されるスクリーン上の点P1において、例えば、時刻t1における映像再生光Ld(t1)と、時刻t2における映像再生光Ld(t2)が異なる入射角度で照射されることとなる。図に示す他の点P2や図示しない他の点においても同様であって、映像再生光Ldは、入射角度を時間的に変化させつつスクリーン41上に映像を投射する。したがって、ごく短い時間ではスクリーン上に形成されるスペックルも、映像再生光Ldが時間によって異なる入射角度で照射されることで視覚の応答時間内で時間的に平均化され、スクリーン41に投射される像を観察する観察者には十分に目立たない状態となる。
【0045】
観察者によって観察されるスペックルには、このようにスクリーン41上でのコヒーレント光の散乱を原因として発生するスペックルだけではなく、投射型映像表示装置10の各種光学素子上で発生するものもある。このスペックルは、光変調素子31を介してスクリーン41に投影されることで観察者に観察される。本実施形態では、走査光Laがレン
ズアレイ22を走査することで、被照明領域としての光変調素子31の像形成領域を照明する。すなわち被照明領域を、レンズアレイ22の各点からの発散光が時間的に分離されるように照明することで、レンズアレイ22より前の位相情報をキャンセルするとともにレンズアレイ22の各点からの発散光同士が干渉することも防ぐことができ、投射型映像表示装置10の各種光学素子で発生するスペックルを十分に目立たない状態とすることが可能となる。
【0046】
このように本実施形態では、レンズアレイ22を光走査部15による走査光La’にて時間的に位置を変化させつつ走査することとなる。レンズアレイ22は、隣接した複数の要素レンズで構成されているため、入射する光束が隣接する要素レンズにまたがって照射される場合がある。このとき、各要素レンズから出射される出射光が干渉し、被照明領域にムラや縞模様を生じるなどの不都合が考えられる。
【0047】
このような各要素レンズの出射光の干渉を抑制するため以下のような構成を取ることが好ましい。図3は、本発明の実施形態に係るレンズアレイ22とそれに入射する走査光La’の関係を示す図である。図には、レンズアレイ22を構成する2つの要素レンズ231a、231bにまたがって、走査光La’の光束が入射した状態が示されている。この図に示されるように、走査光La’は、各要素レンズ231a、231bにて発散光Lb_1、Lb_2となり光変調素子31を照明する。このとき、条件として、走査光La’の光束幅d1が隣接する要素レンズ間隔d2よりも小さくなるように設定しておくことで、各発散光Lb_1、Lb_2が重畳させることなく、各発散光Lb_1、Lb_2の干渉を抑制することが可能となる。
【0048】
各要素レンズ231の出射光の干渉を防ぐ手段としては、このように光束幅d1と要素レンズ間隔d2の関係を規定する以外に、以下のような構成を取ることも考えられる。図4は、本発明の他の実施形態に係る要素レンズ間の干渉を防止するための構成を示す図である。
【0049】
図4(a)は、レンズアレイ22を構成する要素レンズ231の前段に、1つおきに光路長差を設ける光学素子としての透明体232を配置した実施形態である。このような構成によれば、隣接する要素レンズ231、例えば、231aと231b間における光路長を光源のコヒーレント長以上に異ならせることで、各要素レンズ231の出射光の干渉を防ぐことが可能となる。
【0050】
図4(b)は、レンズアレイ22を構成する要素レンズ231の前段にλ/4波長板233を配設した実施形態である。図に示されるように隣接するλ/4波長板233、例えば、233aと233bは偏光方向が異なるように配設される。また、入射光はあらかじめ直線偏光状態に設定しておく。このような構成によっても、各要素レンズ231から出射される出射光の干渉を防ぐことが可能である。この例では、要素レンズ231からの出射光は円偏光であって、隣接する要素レンズ231について、λ/4波長板233にて右回り、あるいは、左回りと異ならせることで干渉の防止が図られている。もしくは、入射光を等方的な偏光状態に設定するとともに、要素レンズの前段に軸方向を異ならせた偏光板を設けてもよい。また、これら以外の構成の、偏光状態を干渉しない状態に変化するような素子を用いてもよい。
【0051】
図4(a)で説明した透明体232、図4(b)で説明したλ/4波長板233は、要素レンズ231の前段に配置することに代え、後段に配置することとしても同様の効果が得られる。また、図3で説明した実施形態の構成、図4で説明した実施形態の各構成を併用することとしてもよい。
【0052】
また、本実施形態で使用するレンズアレイ22は、それを構成する要素レンズ231について、屈折率分布型のレンズを用いることとしてもよい。図5は、屈折率分布型レンズを利用したレンズアレイの構成を示す図である。屈折率分布型レンズは、レンズを構成する領域毎に、材質などを異ならせることなどで屈折率を異ならせたレンズである。特に、本実施形態のような、入射面を走査される形態においては、入射角度など入射光の各種条件に応じた要素レンズ231の設計を容易にすることが可能となる。図5には、レンズアレイ22の一部について、配列された屈折率分布型の要素レンズ231が、光軸中心、光路の様子と共に示されている。
【0053】
また、光走査部15について、図1ではガルバノミラーを用いた可動式ミラーデバイスについて説明したが、可動部を有さない可変回折型素子、あるいは、位相変調素子を使用することも可能である。図6は、本発明の他の実施形態に係る光走査部(可変回折型素子)の構成を示す図であり、図7は、本発明の他の実施形態に係る光走査部(位相変調素子)の構成と位相変化の様子を示す図であり、図8は、本発明の他の実施形態に係る光走査部(位相変調素子)における位相変化の様子を示す図である。
【0054】
図6の光走査部15は、可変回折型素子を利用した実施形態であって、この実施形態では、可変回折型素子として振幅変調型の液晶素子を利用したものとしている。光走査部15を構成する液晶素子は、液晶151によって回折格子を形成する。この液晶151によって形成される回折格子のピッチを時間的に変化させて回折角度を変えることで、光源11から入射されるコヒーレント光の出射方向を時間的に変化させることが可能となっている。本実施形態では、光走査部15の入射面に対して斜めにコヒーレント光を入射させることで、0次光を逃がすとともに、回折光を素子の法線方向に出射させることが可能となる。
【0055】
可変回折型素子としては、この液晶素子以外に、音響光学素子など通過する光の位相を変調する光学素子を用いることとしてもよい。あるいは、反射させる光について位相を変調するマイクロミラーデバイスを用いることも可能である。
【0056】
図7の光走査部15は、位相変調素子を利用した実施形態であって、この実施形態では、位相のみの変調を行う液晶素子を利用したものとしている。図7(a)は、この構成例を示した図であって、光走査部15は、透明基材153、154の間に封入された液晶層152を有して構成されている。液晶層152には、部分毎に配設された画素電極152aと、共通電極152bが設けられており、部分毎に経時的に屈折率を変化させることで透過光の位相を変化させることが可能となっている。
【0057】
図7(b)は、位相変化の基本型を示した図であって、図7(a)の構成図と対応した形で位相分布が示されている。画素電極152aに印加するバイアスを時間的に変化させることで、例えば、時刻t1、t2に示すような位相分布を形成することが可能である。このような位相分布では、図7(a)に示すように時刻t1では、走査光La(t1)が、時刻t2では、走査光La(t2)の状態に偏向させることが可能となる。実際には、t1の位相状態とt2の位相状間を多段階あるいは連続的に変化させることで、走査光Laについても多段階あるいは連続的に方向を変化させることが可能となる。
【0058】
図8は、位相変化の他の形態を示した図であって、位相分布をキノフォーム型に、すなわち0〜2πで繰り返すパターンを時間的に変更することで、偏向条件を時間的に変更し、図7(b)の場合と同様に偏向方向を変化させるものである。この図は、図7(b)と同様、図7(a)の構成図と対応した形で位相分布が示されたものであって、図8(a)は、時刻t1における位相状態、図8(e)は、時刻t2における位相状態が示されている。図8(a)から図8(e)、図8(e)から図8(a)間の位相形状を経時的に変化
させることで、光源11から入射されるコヒーレント光を偏光させている。なお、位相分布は、0〜2π以外の範囲に設定されたフレネルレンズ型を用いることとしてもよい。
【0059】
このように光走査部15に位相変調素子を利用した場合には、前述の可変回折型素子を利用した場合と異なり0次光が発生しないため、光の利用効率の向上が図られる。また、図に示すように光走査部15の入射面に対して垂直にコヒーレント光を入射させることも可能となる。
【0060】
以上、本実施形態によれば、スペックルノイズが目立たない照明装置、並びに、この照明装置にて光変調素子31を照明することでスペックルノイズが目立たない映像を提供することのできる投射型映像表示装置を提供することが可能となる。特に、本実施形態では、レンズアレイ22にて発散された発散光を、第2光路変換系23を介して照明することで光の利用効率向上が図られる。
【0061】
なお、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0062】
10…投射型映像表示装置
11…光源
15…光走査部
151…液晶
152…液晶層
152a…画素電極
152b…共通電極
153、154…透明基材
21…第1光路変換系
22…レンズアレイ
23…第2光路変換系
231…要素レンズ
232…光学素子(透明体)
233…λ/4波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光を出射する光源と、
前記光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備え
前記レンズアレイの入射側あるいは出射側には、隣接する前記要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、偏光制御素子が設けられていることを特徴とする
照明装置。
【請求項2】
コヒーレント光を出射する光源と、
前記光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備え、
前記レンズアレイの入射側あるいは出射側には、隣接する前記要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、光路差長を与える光学素子が設けられていることを特徴とする
照明装置。
【請求項3】
前記光路変換系は、前記光走査部におけるコヒーレント光の走査位置によらず、前記被照明領域全体を照明することを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記光路変換系は、集光機能を有する光学素子を含むことを特徴とする
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項5】
前記レンズアレイの要素レンズは、屈折率分布型レンズであることを特徴とする
請求項1から請求項の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項6】
前記レンズアレイは、光軸方向に多段に配列されていることを特徴とする
請求項1から請求項の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項7】
前記レンズアレイに入射するコヒーレント光の光束幅は、隣接する前記要素レンズの間隔よりも小さいことを特徴とする
請求項1から請求項の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項8】
前記光走査部は、ガルバノミラーを含んで構成されることを特徴とする
請求項1から請求項の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項9】
前記光走査部は、ポリゴンミラーを含んで構成されることを特徴とする
請求項1から請求項の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項10】
前記光走査部は、可変回折型素子を含んで構成されることを特徴とする
請求項1から請求項の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項11】
前記光走査部は、位相変調素子を含んで構成されることを特徴とする
請求項1から請求項の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項12】
前記光源と前記の光走査部間に、ビーム成型手段が配置されていることを特徴とする
請求項1から請求項11の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項13】
コヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備え
前記レンズアレイの入射側あるいは出射側には、隣接する前記要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、偏光制御素子が設けられていることを特徴とする
光学装置。
【請求項14】
コヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備え、
前記レンズアレイの入射側あるいは出射側には、隣接する前記要素レンズ間で通過光束同士が干渉しないように、光路差長を与える光学素子が設けられていることを特徴とする
光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−92788(P2013−92788A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−277685(P2012−277685)
【出願日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【分割の表示】特願2011−105456(P2011−105456)の分割
【原出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】