照明装置
【課題】LED光源を用いた照明装置において、照射光の色調を損わずに、かつ、低コストで飛翔昆虫の誘引性を低下する。
【解決手段】照明装置は、青色光にピーク波長を有するLED素子と、この青色光を波長変換して白色光を出射する蛍光体とを有するLED部とを備える。蛍光体は波長変換素子であって、かつ、LED素子41からの光の波長を制御する光学部材を成す。この波長制御により、LED部からの出射光の発光スペクトルは460〜520nmの波長帯にボトム波長を有し、このボトム波長の発光強度が青色光のピーク波長に比べ十分の一以下に大きく低下される特性を持つ。これにより、昆虫を誘引する可視光領域に含まれ、白色への寄与が少ない460〜520nmの波長帯を低下させることができるので、白色の照射光の色調を損なわず、かつ、LEDを追加することなく低コストで飛翔昆虫の誘引性を低下することができる。
【解決手段】照明装置は、青色光にピーク波長を有するLED素子と、この青色光を波長変換して白色光を出射する蛍光体とを有するLED部とを備える。蛍光体は波長変換素子であって、かつ、LED素子41からの光の波長を制御する光学部材を成す。この波長制御により、LED部からの出射光の発光スペクトルは460〜520nmの波長帯にボトム波長を有し、このボトム波長の発光強度が青色光のピーク波長に比べ十分の一以下に大きく低下される特性を持つ。これにより、昆虫を誘引する可視光領域に含まれ、白色への寄与が少ない460〜520nmの波長帯を低下させることができるので、白色の照射光の色調を損なわず、かつ、LEDを追加することなく低コストで飛翔昆虫の誘引性を低下することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫を寄せ難いLED光源を用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多くの昆虫等では、短波長光に向う走行性があり、紫外線にその誘引のピークがあることが知られている。照明装置の光源からの照射光に上記のような短波長光が含まれていると、周囲が暗いとき等に照明装置が点灯されることにより虫を誘引する。このような光源からの光と昆虫の誘引性との関係は、例えば図14に示されるカット波長と誘引比率との相関データに示されている(松下電工技報Vol.53No.1参照)。この相関データによれば、照射光により昆虫が誘引される誘引比率は光源(ここでは、蛍光灯)のカット波長によって変化し、長波長ほど低下し、とくに410nmまでに急激に低下し、略600nm付近で殆どゼロとなっている。このことから、通常、光による昆虫の誘引の低減は、紫外線を含む短波長領域をカットすることにより行われ、例えば380nmまで(ケース1)、450nmまで(ケース2)、及び600nmまで(ケース3)の波長をそれぞれカットするものが挙げられる。
【0003】
ケース1の場合は、昆虫の誘引性は低下するが、可視光領域にも昆虫を誘引する光が存在するので、低誘引性能としては不十分である。また、ケース2の場合は、昆虫の誘引性は良くなるが、可視光領域の450nm付近までカットするので、照明光が黄色く見え、一般の照明用としては好ましくない。さらに、ケース3の場合は、ほぼ完全に昆虫を寄せないようになるが、照射光は赤色に見え、通常の太陽光等の白色光と比較すると、人が作業を行なう際、非常に不快に感じたり、作業能力が低下したりする可能性があり、一般の照明用としては不適である。
【0004】
ところで、可視光領域に発光ピークを持つLEDは、蛍光灯等と異なり殆ど紫外線を発しないように波長制御することができ、このようなLEDを光源とする照明装置では、昆虫の誘引は少ない。しかし、この種の照明装置においても、LEDで発生する可視光領域に虫を誘引する光が存在するため、低誘引性能としては十分とは言えない。
【0005】
この種の照明装置として、青色光の第1のLEDと黄色蛍光体とを用いた白色LEDからの光に、500nm以上にピーク波長を持つ第2のLED素子からの光を付加することにより、昆虫の誘引性を低減するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−224148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種の照明装置においては、第2のLED素子が500nm以上で赤色光にピーク波長を持つ場合、昆虫はその視覚特性から赤色が見えないと言われていることから、赤色光自体による忌避効果はない。また、第2のLED素子が黄色光をピーク波長とする場合は、黄色光は従来から夜行性蛾類の行動抑制には効果があるとされているが、それ以外の昆虫の忌避効果は確認されていない。従って、忌避効果が夜行性蛾類に限られるなど、昆虫の誘引を低減することが難しい。また、ピーク波長の異なるLEDを追加する必要があるため、消費電力が増え、構成が複雑となりコストアップとなる。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、LED光源を用いた照明装置において、照射光の色調を損わずに、かつ、飛翔昆虫の誘引性を低下することができる低コストの照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の照明装置は、可視光領域にピーク波長を有する光を出射するLEDを備え、出射光の分光スペクトルが、前記ピーク波長の十分の一以下の発光強度となるボトム波長を460〜520nmの波長帯に有する。
【0010】
この照明装置において、前記LEDは400〜450nmの波長帯にピーク波長を有することが好ましい。
【0011】
この照明装置において、前記分光スペクトルは、460〜520nmの波長帯に発光強度が略ゼロとなるボトム波長を有することが好ましい。
【0012】
この照明装置において、前記分光スペクトルは、390nm以下の波長帯の発光強度が略ゼロであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の照明装置によれば、昆虫を誘引する可視光のうち、白色光への寄与の比較的少ない460〜520nmの波長帯を低下するので、照射光の色調を損なわず、かつ、LEDを追加することなく低コストに飛翔昆虫の誘引性を低下することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る照明装置の構成図。
【図2】同上照明装置の前面図。
【図3】(a)は同上照明装置における光源部の斜視図、(b)は同光源部におけるLED部の断面構成図。
【図4】同上照明装置からの照射光の分光スペクトル図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る照明装置のLED部の断面図。
【図6】図5のA部の拡大図。
【図7】同上照明装置の光源部におけるの波長カットフィルタ(帯域阻止型)の概略の光透過特性図。
【図8】同上照明装置からの照射光の分光スペクトル図。
【図9】(a)は本発明の第3の実施形態に係る照明装置の発光部の断面図、(b)は(a)におけるB部の拡大図。
【図10】同上照明装置の光源部における波長カットフィルタの概略光透過特性図。
【図11】(a)は実施例3に使用される波長カットフィルタの概略光透過特性図、(b)は同フィルタの断面図。
【図12】(a)は実施例4に使用される波長カットフィルタの概略光透過特性図、(b)は同フィルタの断面図。
【図13】(a)は実施例6に使用される照明装置の光源部の断面図、(b)は(a)におけるC部の拡大図、(c)は同光源部の波長カットフィルタの概略光透過特性図。
【図14】従来の照明装置における光源のカット波長と昆虫の誘引比率との相関を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る照明装置について、図1乃至図4を参照して説明する。図1、2に示されるように、照明装置1は一面開口の矩形の筐体2と、この筐体2内に収納される光源部3とを備える。光源部3は、LED素子と、この素子から出射される光の波長を制御する光学部材(詳細後述)とを有し、可視光領域の光を出射するLED部4を備え、開口21に対向する筐体2内の底面に取り付けられる。本実施形態の照明装置1は、その出射光の分光スペクトルが、そのピーク波長の十分の一以下の発光強度となるボトム波長を460〜520nmの波長帯に有するものである。なお、照明装置1は、取付治具(不図示)により、例えば天井面に直接取り付けられ照明器具として、または天井壁面に埋め込まれるダウンライトなどとして使用される。なお、ここでのピーク波長は、分光スペクトルの中で最大のピーク波長を言う。
【0016】
図3(a)に示すように、光源部3は、複数のLED部4が配置される基板31を備える。なお、基板31は、プリント基板やセラミック基板等が使用され、その形状は図示の円形に限らず、多角形などでもよい。また、LED部4はその配置を基板31の中心部などに限定されるものではない。
【0017】
図3(b)に示すように、LED部4は基板31に装着され可視光領域にピーク波長を有する光を出射するLED素子41と、LED素子41を覆う透明部材からなる封止部42と、封止部42内にLED素子41からの光を波長変換する蛍光体5とを備える。この蛍光体5は波長変換素子であって、かつ、LED素子41からの光の波長を制御する光学部材を成す。LED部4はLED素子41からの光と、このLED素子41からの光が蛍光体5で波長変換された光とにより白色光を発光し、その照射光の分光スペクトルは、その発光波長領域におけるピーク波長の十分の一以下の発光強度となるボトム波長を有する。
【0018】
LED素子41は、青色光を発光するGaN系青色LEDチップ(例えば、豊田合成社製、三菱化学社製のものなど)を用い、目標の青色ピーク波長を示すものであれば、その材料は限定されない。ここでは、LED素子41は400〜450nmの波長帯にピーク波長を有し、蛍光体5を高効率に励起する。なお、LED素子41は基板31上に形成される電源回路(不図示)によりその基板2上の配線パターンを介して給電される。
【0019】
封止部42は、部材に透明樹脂のシリコーン樹脂を用い、キャップ形状を成してLED素子41を覆っている。なお、封止部42はシリコーン樹脂に限らず、アクリル樹脂(PMMA)などを用いてもよく、また、その形状はキャップ型に限らず、砲弾型や半円球状等として集光レンズ機能を持たせてもよい。
【0020】
蛍光体5は、色変換部材の材料のうち、特に発光効率の点で優れているイットリウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体(YAG)や、シリケート系蛍光体等を用いることができる。この蛍光体5は封止部42の透明樹脂内に分散保持され、例えばLED素子41からの青色光の一部を吸収し波長変換して黄色光を発光し、この黄色光と、蛍光体5で吸収されなかった残りの青色光とにより白色光が形成される。これらLED素子41と蛍光体5を含む封止部42とは白色光を出射する白色LEDを形成する。
【0021】
ここでは、蛍光体5はLED素子41と組み合わされ、その出力光の発光スペクトルが目標のピーク波長とボトム波長とを有するように、蛍光材料の選択やシリコン樹脂への配合比の設定、及び複数の蛍光体の混合などを行うことにより形成される。なお、蛍光体5は上記発光波長を制御することが可能であれば何ら限定されるものではない。
【0022】
上記蛍光体5により、LED部4は、LED素子41からの光が波長変換されて発光する際、その発光スペクトルが460〜520nmの波長帯に、そのピーク波長の十分の一以下の発光強度のボトム波長を有するように形成される。
【0023】
また、LED素子41はピーク波長を400〜450nmの波長帯としているが、その波長帯内でピーク波長の位置を短波長側にすれば、蛍光体5の発光効率がより高まる。このとき、LED素子41は、ピーク波長がその短波長側に寄り過ぎると、LED発光の波長ブロードにより390nm以下の光が出てしまうので、これを避けるため、410〜420nm付近にピーク波長があることが望ましい。
【0024】
図4は、LED部4から照射される光の相対的な分光スペクトルを示す。この分光スペクトルは略440〜450nmの波長帯に最大のピーク波長を有し、このピーク波長の発光強度を相対値1とし正規化表示され、460〜520nmの波長帯に、そのピーク波長に対し相対値0.1以下の発光強度となるボトム波長を有している。
【0025】
本実施形態によれば、LED部4からの可視光は460〜520nmの波長帯にボトム波長を有し、このボトム波長の発光強度はピーク波長に比べ十分の一以下に大きく低下されている。このとき、ボトム波長は、青色光(400〜450nm付近)と黄色光(例えば、560nm〜600nm付近)の間にあるので、青色光と黄色光の発光強度への影響が少なく、それらの光による白色光の色調は殆ど変化しないようにできる。また、460〜520nmでのボトム波長の発光強度の低減により、昆虫の誘引性のある可視光領域の光の一部を抑制できるので、飛翔昆虫の誘引性を低下することができる。また、LED部4に青色光以外にピーク波長を有するLED素子を追加する必要がないので、簡単な構成で低コストにできる。また、ボトム波長の発光強度の低減に伴う青色光の発光強度の低下は殆どないので、蛍光体5での変換効率が維持され、効率の低下が抑えられる。
【0026】
また、LED部4はピーク波長を400〜450nmの波長帯とし、ボトム波長を460〜520nmの波長帯としているので、その発光スペクトルがピーク波長からボトム波長に急峻に低下することにより、白色がきれいに見える。なお、本実施形態はLED光源を使用する全ての照明装置に使用することができる。
【0027】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る照明装置について、図5乃至図8を参照して説明する。図5に示すように、本実施形態は前記実施形態において、光源部3がLED部4の封止部42の表面側に、所定の波長光の透過を阻止するための波長カットフィルタ6を備えたものである。波長カットフィルタ6は、LEDからの光の波長を制御する光学部材を成す。本実施形態においては、LED部4はLED素子41からの光が波長カットフィルタ6を通過することにより、460〜520nmの波長帯に、発光強度が略ゼロとなるボトム波長を持つ分光スペクトルを有する。この波長カットフィルタ6はLED部4の光出射方向に設けられていればよく、LED部4と共にパッケージングされていなくてもよい。また、波長カットフィルタ6は、複数のLED部を1部材で覆うカバー部材として形成されていてもよい。なお、波長カットフィルタ6の特性を補助するために、蛍光体5によって前記実施形態と同様の光透過特性を持たせるようにしてもよい。
【0028】
ここでは、LED部4は、LED素子41を収納する矩形の凹型の枠体43を有し、枠体43はその底面にLED素子41を装着し、その内部は蛍光体5を保持しLED素子41を封止する封止部42の透明樹脂で充満されている。また、枠体43は透明部材から成る平板状の前面フィルタ7でその光出射面側が覆われている。前面フィルタ7は、樹脂やガラスからなる透明部材から成り、ここではガラス部材を用い封止部42から出る光をそのまま透過させる。この前面フィルタ7の上に波長カットフィルタ6が配置される。
【0029】
波長カットフィルタ6は、図6に示すように、前面フィルタ7のガラス基板上に、酸化チタンと酸化ケイ素を順に積層し、8層の膜を成膜して積層された誘電体薄膜から成る光学多層膜を有する。波長カットフィルタ6はこの光学多層膜により所定の波長カット特性を持つ光フィルタとして形成される。この光学多層膜は、具体的には、ガラス上に膜厚400nmの酸化チタンと、膜厚246nmの酸化ケイ素を交互に7層まで積層し、その上に最上層として膜厚100nmの酸化ケイ素を重ねて構成される。
【0030】
この波長カットフィルタ6の特性は、光学多層膜において異なる誘電体同士の界面で生じる反射が干渉することにより、光の透過特性が変わることを利用して形成される。なお、光学多層膜における誘電体薄膜の組成、膜厚、及び層構成は、例えば目標のフィルタ特性に基き薄膜設計ソフトウェアを用いたシミュレーション等により設計され、誘電体薄膜は電子ビーム蒸着法等により作成される。また、上記波長を制御することが可能であれば何らフィルタ材料を限定するものではない。
【0031】
この波長カットフィルタ6は、波長カットフィルタ6を透過したLED部4からの光が、460〜520nmの波長帯の少なくとも1箇所の発光強度が略ゼロとなるようにする光透過特性を有するように形成される。なお、この光透過特性は、490nm付近の波長が略ゼロであることが望ましい。また、色調に影響を与えない場合は、460〜520nmの波長帯が全てゼロであってもよい。
【0032】
図7は、波長カットフィルタ6を通る光の概略の透過特性を示す。この光透過特性は、460〜520nmの波長帯で略ゼロのボトム波長を有し、この帯域での透過を阻止する帯域阻止型を成している。図8は、LED部4からの照射光が上記光透過特性を持つ波長カットフィルタ6を透過した光の分光スペクトルを示す。ここでは、略460〜520nmの波長帯内で分光スペクトルが急峻に低下され、これらの波長帯の一部で発光強度がほぼゼロとなっている。
【0033】
本実施形態によれば、LED部4からの光は460〜520nm波長帯の少なくとも1箇所の発光強度が略ゼロとなるボトム波長を有するので、その波長帯の発光強度がより抑制されるようになり、飛翔昆虫の誘引性をより減少することができる。
【0034】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る照明装置について、図9を参照して説明する。図9(a)(b)に示されるように、本実施形態は前記実施形態の光源部3において、LED部4の前面側に帯域阻止型の波長カットフィルタに代えて、390nm以下の短波長帯(高域)側を阻止する高域阻止型の波長カットフィルタ8(光学部材)を備える。本実施形態は、LED部4からの光が波長カットフィルタ8を透過することにより、その放射光の分光スペクトルにおいて390nm以下の波長帯の発光強度が略ゼロとなるものである。
【0035】
波長カットフィルタ8は、アクリル(PMMA)、ポリカーボネイト樹脂やガラス等の透明部材を用いる。ここでは、波長カットフィルタ8は、LED部4の前面フィルタ7をアクリル樹脂で形成し、そのアクリル樹脂に少なくとも紫外線吸収剤(例えば、チバ社製:チヌビン326他)や染料及び顔料等の添加剤9を添加する。波長カットフィルタ8は、この添加によって390nm以下の短波長帯側をカットするように透過波長を制御する。なお、この添加剤9としては、耐久性及び色調を考えると紫外線吸収剤を使用することが望ましい。
【0036】
また、波長カットフィルタ8は、樹脂やガラスに光学多層膜を積層して、前述と同様に、光フィルタ設計により390nm以下の波長をカットすることによっても形成できる。なお、波長カットフィルタ8は蛍光体5と一体としてもよい。また、波長カットフィルタ8は、その部材にガラス材を用い、ガラス材にハロゲン化物等を添加し、上記波長カットの光透過特性を有する硼珪酸系や、リン酸系等からなる透光性ガラスにより形成してもよい。また、LED素子の組成を制御することによって、LED部4自体において、390nm以下で発光しないようにするようにしてもよい。なお、短波長側に青色の波長ピークがある場合、390nmの光を発するだけでなく、400〜420nm付近の光も多く出すので、波長カットフィルタ8により、405nm以下の発光強度をピーク波長の発光強度に比べ50%以下にすることが望ましい。また、上記波長を制御することが可能であれば何ら材料・方式を限定するものではない。
【0037】
本実施形態によれば、光源部3からの照射光の390nm以下の短波長帯側がカットされることにより、紫外線領域の発光スペクトルが減少し、飛翔昆虫の誘引性がより低下する。また、波長カットフィルタ8を、アクリル樹脂に添加剤9を入れて形成する場合は、光学多層膜を用いないので、低コストで製造することができる。
【0038】
次に、上述した実施形態に係る実施例1〜6と、比較例1〜2(実施形態でない)とを対比して説明する。実施例1〜6及び比較例1〜2における照明装置1は、図10(a)、(b)に示すように、水平方向に取り付けられたダウンライト形状とし、光源部3からの光を筐体2の開口21から水平方向に照射するように、部屋の中央部のポール10に取り付けた。光源部3は、筐体2の開口21の光照射面に黒色パネル(木製)を設け、その黒色パネルに穴を開け、その穴の中から照射するように筐体2内に設置した。筐体2の開口21は略500mm角のサイズを成し、その上下端側には、開口21の一部を塞ぐように、幅200×長さ500mmのサイズを成す捕虫用の粘着トラップシート11をそれぞれ取り付けた。光源部3からの光は粘着トラップシート11の間の開口21側からのみが照射されるようにした。ここでは、光源部3は8個のLEDを用いた。照明装置の固定は、パナソニック電工製ダウンライト(NNN21615形状)を用いて実施した。
【0039】
【表1】
【0040】
(測定方法)
照明装置からの分光スペクトルを瞬間マルチ測光システム(MCPD3000:大塚電子社製)を用いて測定し、ピーク波長及びボトム波長における発光強度と共に、ボトム波長のゼロ強度領域を測定した。ボトム波長及びピーク波長における発光強度の比率(B/P比率という)は、ピーク波長の強度を10として計算により算出した。例えば、B/P比率が1.0のときは、ボトム波長の発光強度がピーク波長の十分の1であることを示す。
【0041】
(評価方法)
昆虫を誘引する誘虫性評価は、10m四方の部屋の中に3種類(ハエ、コナガ等)の虫を各400匹離し、1時間後の捕虫数により評価を行った。ここでは、比較例2における虫の総捕虫数を100とし、これを基準値として相対比較を行った。上記条件で測定した評価結果を上記の表1に示す。表1は、縦欄に実施例及び比較例をそれぞれ示し、横欄に順にピーク波長、B/P比率、ボトム波長のゼロ波長領域、短波長以下のカットフィルタの有無、昆虫の誘虫性を示す。また、色調評価は、ダウンライト形状の照明装置からの光を白色板に照射し、その色調を目視評価し、この目視評価で「白」又は「大幅な色調変化なし(黄みが強くない)」場合は、○とし、黄みが強く見える場合は、×とした。
【0042】
(実施例1)
実施例1における照明装置は、前記第1の実施形態と同様の構成を成し、青色のピーク波長を発光するLED素子上に、黄色系の蛍光体を配合したシリコン樹脂の封止部を設ける構成とした。それらの発光スペクトルは、ピーク波長を440nmとし、B/P比率は1.0となり、ボトム波長の発光強度がピーク波長の十分の一以下となっている。また、昆虫の誘虫性は85を示し基準値(100)以下となり、飛翔昆虫を誘引し難くできた。また、色調評価は、良好であった。なお、以下の各実施例では、実施例5を除き、ピーク波長を全て440nmとしている。
【0043】
(実施例2)
実施例1における照明装置は、前記第1の実施形態と同様の構成を成し、青色のピーク波長を発光するLED素子上に、2種類の黄色系の蛍光体を配合したシリコン樹脂の封止部を設ける構成とした。この結果、B/P比率は0.5を示し、昆虫の誘虫性は75とより低減された。
【0044】
(実施例3)
実施例3における照明装置は、前記第2の実施形態において、波長カットフィルタを図11(a)に示すように、485〜490nmで光透過特性が略ゼロになるものを用いた。この波長カットフィルタは、図11(b)に示すように、耐候性の透明のアクリル樹脂上に8層から成る光学多層膜を形成し、上記の光透過特性を得るように構成した。この結果、B/P比率は0.1以下となり、誘虫性はより低くなった。
【0045】
(実施例4)
実施例4は、実施例3において、図12(a)に示すように、波長カットフィルタを475〜495nmで光透過特性が略ゼロとなるものとした。この波長カットフィルタは、図12(b)に示すように、耐候性の透明のアクリル樹脂上に20層から成る光学多層膜を形成して、上記の光透過特性を得るように構成した。この結果、B/P比率は0.1以下となり、誘虫性は65を示し、各実施例の中で最も低くなった。
【0046】
(実施例5)
実施例5における照明装置は、前記第3の実施形態において、短波長帯を抑制する波長カットフィルタを、アクリル樹脂に紫外線吸収剤、光安定剤等を入れ、405nm以下(300〜405nm)をカットするように構成した。ここでは、ピーク波長を410nmと低くした。この場合も、昆虫の誘虫性は基準値より低くなっている。
【0047】
(実施例6)
実施例6における照明装置は、前記第3の実施形態において、図13(a)、(b)に示すように、波長カットフィルタ8として、390nm以下の短波長帯を抑制する高域阻止型の光フィルタを、光学多層膜により構成した。この波長カットフィルタ8は、LED部4上に設けられる透明のアクリル樹脂から成る前面フィルタ7上に積層された14層の光学多層膜により形成される。図13(c)に示すように、この波長カットフィルタ8の光透過特性は、390nm近傍で急峻に低下し、390nm以下の短波長帯側をカットするようになっている。この場合も、昆虫の誘虫性は基準値より低くなる。また、この波長カットフィルタ8は、390nm付近をシャープにカットするので、フィルタの色調(黄み)が特に少なくなる。
【0048】
(比較例1)
比較例1の照明装置は、前記実施例1において青色光のピーク波長を470nmに変更し、シリコン樹脂へ蛍光体の配合を変更したものである。この結果、B/P比率は1.5を示し、昆虫の誘虫性は120と基準値を越えた。なお、色調評価は良好であった。
【0049】
(比較例2)
比較例2の照明装置は、前記実施例2において、青色光のピーク波長を455nmに変更し、シリコン樹脂に混合する2種類の黄色系の蛍光体の配合比を変更したものである。この結果、B/P比率は1.2を示した。この場合の昆虫の捕虫数を100と規定し、これを誘虫性の評価基準とした。
【0050】
(比較例3)
比較例3の照明装置は、前記実施例2において、青色光のピーク波長を440nmに変更し、シリコン樹脂に混合する2種類の黄色系の蛍光体の配合比を変更したものである。この結果、B/P比率は2.0を示し、昆虫の誘虫性は110と基準値を越えた。
【0051】
上記評価結果から分かるように、いずれの実施例も、B/P比が1.0以下となり、すなわち、460〜520nmの波長帯に、LED部4の発光波長領域におけるピーク波長の十分の一以下の発光強度のボトム波長を持つ分光スペクトルを有する。これにより、誘虫性が比較例より低減する効果が得られた。特に、実施例3、5は、それぞれ485〜490nm及び475〜495nmでB/P比率0.1以下となり、略ボトムゼロ領域としたことにより、昆虫の誘虫性を比較例2に比べ30%以上低下でき、昆虫に対する忌避効果をより高めることができた。また、390nm及び405nm以下の波長カットフィルタを有した場合にも、誘虫性が基準値より低下した。なお、色調評価は、いずれの場合も良好であった。
【0052】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上記各実施形態で、波長カットフィルタと蛍光体、及び封士部を一体としてもよい。また、各実施形態の照明装置はダウンライトに限らず、街路灯等のエクステリア照明器具や、ベースライトの照明器具などにも使用でき、LED光源を使用するものであればよい。
【符号の説明】
【0053】
1 照明装置
4 LED部(LED)
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫を寄せ難いLED光源を用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多くの昆虫等では、短波長光に向う走行性があり、紫外線にその誘引のピークがあることが知られている。照明装置の光源からの照射光に上記のような短波長光が含まれていると、周囲が暗いとき等に照明装置が点灯されることにより虫を誘引する。このような光源からの光と昆虫の誘引性との関係は、例えば図14に示されるカット波長と誘引比率との相関データに示されている(松下電工技報Vol.53No.1参照)。この相関データによれば、照射光により昆虫が誘引される誘引比率は光源(ここでは、蛍光灯)のカット波長によって変化し、長波長ほど低下し、とくに410nmまでに急激に低下し、略600nm付近で殆どゼロとなっている。このことから、通常、光による昆虫の誘引の低減は、紫外線を含む短波長領域をカットすることにより行われ、例えば380nmまで(ケース1)、450nmまで(ケース2)、及び600nmまで(ケース3)の波長をそれぞれカットするものが挙げられる。
【0003】
ケース1の場合は、昆虫の誘引性は低下するが、可視光領域にも昆虫を誘引する光が存在するので、低誘引性能としては不十分である。また、ケース2の場合は、昆虫の誘引性は良くなるが、可視光領域の450nm付近までカットするので、照明光が黄色く見え、一般の照明用としては好ましくない。さらに、ケース3の場合は、ほぼ完全に昆虫を寄せないようになるが、照射光は赤色に見え、通常の太陽光等の白色光と比較すると、人が作業を行なう際、非常に不快に感じたり、作業能力が低下したりする可能性があり、一般の照明用としては不適である。
【0004】
ところで、可視光領域に発光ピークを持つLEDは、蛍光灯等と異なり殆ど紫外線を発しないように波長制御することができ、このようなLEDを光源とする照明装置では、昆虫の誘引は少ない。しかし、この種の照明装置においても、LEDで発生する可視光領域に虫を誘引する光が存在するため、低誘引性能としては十分とは言えない。
【0005】
この種の照明装置として、青色光の第1のLEDと黄色蛍光体とを用いた白色LEDからの光に、500nm以上にピーク波長を持つ第2のLED素子からの光を付加することにより、昆虫の誘引性を低減するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−224148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種の照明装置においては、第2のLED素子が500nm以上で赤色光にピーク波長を持つ場合、昆虫はその視覚特性から赤色が見えないと言われていることから、赤色光自体による忌避効果はない。また、第2のLED素子が黄色光をピーク波長とする場合は、黄色光は従来から夜行性蛾類の行動抑制には効果があるとされているが、それ以外の昆虫の忌避効果は確認されていない。従って、忌避効果が夜行性蛾類に限られるなど、昆虫の誘引を低減することが難しい。また、ピーク波長の異なるLEDを追加する必要があるため、消費電力が増え、構成が複雑となりコストアップとなる。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、LED光源を用いた照明装置において、照射光の色調を損わずに、かつ、飛翔昆虫の誘引性を低下することができる低コストの照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の照明装置は、可視光領域にピーク波長を有する光を出射するLEDを備え、出射光の分光スペクトルが、前記ピーク波長の十分の一以下の発光強度となるボトム波長を460〜520nmの波長帯に有する。
【0010】
この照明装置において、前記LEDは400〜450nmの波長帯にピーク波長を有することが好ましい。
【0011】
この照明装置において、前記分光スペクトルは、460〜520nmの波長帯に発光強度が略ゼロとなるボトム波長を有することが好ましい。
【0012】
この照明装置において、前記分光スペクトルは、390nm以下の波長帯の発光強度が略ゼロであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の照明装置によれば、昆虫を誘引する可視光のうち、白色光への寄与の比較的少ない460〜520nmの波長帯を低下するので、照射光の色調を損なわず、かつ、LEDを追加することなく低コストに飛翔昆虫の誘引性を低下することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る照明装置の構成図。
【図2】同上照明装置の前面図。
【図3】(a)は同上照明装置における光源部の斜視図、(b)は同光源部におけるLED部の断面構成図。
【図4】同上照明装置からの照射光の分光スペクトル図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る照明装置のLED部の断面図。
【図6】図5のA部の拡大図。
【図7】同上照明装置の光源部におけるの波長カットフィルタ(帯域阻止型)の概略の光透過特性図。
【図8】同上照明装置からの照射光の分光スペクトル図。
【図9】(a)は本発明の第3の実施形態に係る照明装置の発光部の断面図、(b)は(a)におけるB部の拡大図。
【図10】同上照明装置の光源部における波長カットフィルタの概略光透過特性図。
【図11】(a)は実施例3に使用される波長カットフィルタの概略光透過特性図、(b)は同フィルタの断面図。
【図12】(a)は実施例4に使用される波長カットフィルタの概略光透過特性図、(b)は同フィルタの断面図。
【図13】(a)は実施例6に使用される照明装置の光源部の断面図、(b)は(a)におけるC部の拡大図、(c)は同光源部の波長カットフィルタの概略光透過特性図。
【図14】従来の照明装置における光源のカット波長と昆虫の誘引比率との相関を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る照明装置について、図1乃至図4を参照して説明する。図1、2に示されるように、照明装置1は一面開口の矩形の筐体2と、この筐体2内に収納される光源部3とを備える。光源部3は、LED素子と、この素子から出射される光の波長を制御する光学部材(詳細後述)とを有し、可視光領域の光を出射するLED部4を備え、開口21に対向する筐体2内の底面に取り付けられる。本実施形態の照明装置1は、その出射光の分光スペクトルが、そのピーク波長の十分の一以下の発光強度となるボトム波長を460〜520nmの波長帯に有するものである。なお、照明装置1は、取付治具(不図示)により、例えば天井面に直接取り付けられ照明器具として、または天井壁面に埋め込まれるダウンライトなどとして使用される。なお、ここでのピーク波長は、分光スペクトルの中で最大のピーク波長を言う。
【0016】
図3(a)に示すように、光源部3は、複数のLED部4が配置される基板31を備える。なお、基板31は、プリント基板やセラミック基板等が使用され、その形状は図示の円形に限らず、多角形などでもよい。また、LED部4はその配置を基板31の中心部などに限定されるものではない。
【0017】
図3(b)に示すように、LED部4は基板31に装着され可視光領域にピーク波長を有する光を出射するLED素子41と、LED素子41を覆う透明部材からなる封止部42と、封止部42内にLED素子41からの光を波長変換する蛍光体5とを備える。この蛍光体5は波長変換素子であって、かつ、LED素子41からの光の波長を制御する光学部材を成す。LED部4はLED素子41からの光と、このLED素子41からの光が蛍光体5で波長変換された光とにより白色光を発光し、その照射光の分光スペクトルは、その発光波長領域におけるピーク波長の十分の一以下の発光強度となるボトム波長を有する。
【0018】
LED素子41は、青色光を発光するGaN系青色LEDチップ(例えば、豊田合成社製、三菱化学社製のものなど)を用い、目標の青色ピーク波長を示すものであれば、その材料は限定されない。ここでは、LED素子41は400〜450nmの波長帯にピーク波長を有し、蛍光体5を高効率に励起する。なお、LED素子41は基板31上に形成される電源回路(不図示)によりその基板2上の配線パターンを介して給電される。
【0019】
封止部42は、部材に透明樹脂のシリコーン樹脂を用い、キャップ形状を成してLED素子41を覆っている。なお、封止部42はシリコーン樹脂に限らず、アクリル樹脂(PMMA)などを用いてもよく、また、その形状はキャップ型に限らず、砲弾型や半円球状等として集光レンズ機能を持たせてもよい。
【0020】
蛍光体5は、色変換部材の材料のうち、特に発光効率の点で優れているイットリウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体(YAG)や、シリケート系蛍光体等を用いることができる。この蛍光体5は封止部42の透明樹脂内に分散保持され、例えばLED素子41からの青色光の一部を吸収し波長変換して黄色光を発光し、この黄色光と、蛍光体5で吸収されなかった残りの青色光とにより白色光が形成される。これらLED素子41と蛍光体5を含む封止部42とは白色光を出射する白色LEDを形成する。
【0021】
ここでは、蛍光体5はLED素子41と組み合わされ、その出力光の発光スペクトルが目標のピーク波長とボトム波長とを有するように、蛍光材料の選択やシリコン樹脂への配合比の設定、及び複数の蛍光体の混合などを行うことにより形成される。なお、蛍光体5は上記発光波長を制御することが可能であれば何ら限定されるものではない。
【0022】
上記蛍光体5により、LED部4は、LED素子41からの光が波長変換されて発光する際、その発光スペクトルが460〜520nmの波長帯に、そのピーク波長の十分の一以下の発光強度のボトム波長を有するように形成される。
【0023】
また、LED素子41はピーク波長を400〜450nmの波長帯としているが、その波長帯内でピーク波長の位置を短波長側にすれば、蛍光体5の発光効率がより高まる。このとき、LED素子41は、ピーク波長がその短波長側に寄り過ぎると、LED発光の波長ブロードにより390nm以下の光が出てしまうので、これを避けるため、410〜420nm付近にピーク波長があることが望ましい。
【0024】
図4は、LED部4から照射される光の相対的な分光スペクトルを示す。この分光スペクトルは略440〜450nmの波長帯に最大のピーク波長を有し、このピーク波長の発光強度を相対値1とし正規化表示され、460〜520nmの波長帯に、そのピーク波長に対し相対値0.1以下の発光強度となるボトム波長を有している。
【0025】
本実施形態によれば、LED部4からの可視光は460〜520nmの波長帯にボトム波長を有し、このボトム波長の発光強度はピーク波長に比べ十分の一以下に大きく低下されている。このとき、ボトム波長は、青色光(400〜450nm付近)と黄色光(例えば、560nm〜600nm付近)の間にあるので、青色光と黄色光の発光強度への影響が少なく、それらの光による白色光の色調は殆ど変化しないようにできる。また、460〜520nmでのボトム波長の発光強度の低減により、昆虫の誘引性のある可視光領域の光の一部を抑制できるので、飛翔昆虫の誘引性を低下することができる。また、LED部4に青色光以外にピーク波長を有するLED素子を追加する必要がないので、簡単な構成で低コストにできる。また、ボトム波長の発光強度の低減に伴う青色光の発光強度の低下は殆どないので、蛍光体5での変換効率が維持され、効率の低下が抑えられる。
【0026】
また、LED部4はピーク波長を400〜450nmの波長帯とし、ボトム波長を460〜520nmの波長帯としているので、その発光スペクトルがピーク波長からボトム波長に急峻に低下することにより、白色がきれいに見える。なお、本実施形態はLED光源を使用する全ての照明装置に使用することができる。
【0027】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る照明装置について、図5乃至図8を参照して説明する。図5に示すように、本実施形態は前記実施形態において、光源部3がLED部4の封止部42の表面側に、所定の波長光の透過を阻止するための波長カットフィルタ6を備えたものである。波長カットフィルタ6は、LEDからの光の波長を制御する光学部材を成す。本実施形態においては、LED部4はLED素子41からの光が波長カットフィルタ6を通過することにより、460〜520nmの波長帯に、発光強度が略ゼロとなるボトム波長を持つ分光スペクトルを有する。この波長カットフィルタ6はLED部4の光出射方向に設けられていればよく、LED部4と共にパッケージングされていなくてもよい。また、波長カットフィルタ6は、複数のLED部を1部材で覆うカバー部材として形成されていてもよい。なお、波長カットフィルタ6の特性を補助するために、蛍光体5によって前記実施形態と同様の光透過特性を持たせるようにしてもよい。
【0028】
ここでは、LED部4は、LED素子41を収納する矩形の凹型の枠体43を有し、枠体43はその底面にLED素子41を装着し、その内部は蛍光体5を保持しLED素子41を封止する封止部42の透明樹脂で充満されている。また、枠体43は透明部材から成る平板状の前面フィルタ7でその光出射面側が覆われている。前面フィルタ7は、樹脂やガラスからなる透明部材から成り、ここではガラス部材を用い封止部42から出る光をそのまま透過させる。この前面フィルタ7の上に波長カットフィルタ6が配置される。
【0029】
波長カットフィルタ6は、図6に示すように、前面フィルタ7のガラス基板上に、酸化チタンと酸化ケイ素を順に積層し、8層の膜を成膜して積層された誘電体薄膜から成る光学多層膜を有する。波長カットフィルタ6はこの光学多層膜により所定の波長カット特性を持つ光フィルタとして形成される。この光学多層膜は、具体的には、ガラス上に膜厚400nmの酸化チタンと、膜厚246nmの酸化ケイ素を交互に7層まで積層し、その上に最上層として膜厚100nmの酸化ケイ素を重ねて構成される。
【0030】
この波長カットフィルタ6の特性は、光学多層膜において異なる誘電体同士の界面で生じる反射が干渉することにより、光の透過特性が変わることを利用して形成される。なお、光学多層膜における誘電体薄膜の組成、膜厚、及び層構成は、例えば目標のフィルタ特性に基き薄膜設計ソフトウェアを用いたシミュレーション等により設計され、誘電体薄膜は電子ビーム蒸着法等により作成される。また、上記波長を制御することが可能であれば何らフィルタ材料を限定するものではない。
【0031】
この波長カットフィルタ6は、波長カットフィルタ6を透過したLED部4からの光が、460〜520nmの波長帯の少なくとも1箇所の発光強度が略ゼロとなるようにする光透過特性を有するように形成される。なお、この光透過特性は、490nm付近の波長が略ゼロであることが望ましい。また、色調に影響を与えない場合は、460〜520nmの波長帯が全てゼロであってもよい。
【0032】
図7は、波長カットフィルタ6を通る光の概略の透過特性を示す。この光透過特性は、460〜520nmの波長帯で略ゼロのボトム波長を有し、この帯域での透過を阻止する帯域阻止型を成している。図8は、LED部4からの照射光が上記光透過特性を持つ波長カットフィルタ6を透過した光の分光スペクトルを示す。ここでは、略460〜520nmの波長帯内で分光スペクトルが急峻に低下され、これらの波長帯の一部で発光強度がほぼゼロとなっている。
【0033】
本実施形態によれば、LED部4からの光は460〜520nm波長帯の少なくとも1箇所の発光強度が略ゼロとなるボトム波長を有するので、その波長帯の発光強度がより抑制されるようになり、飛翔昆虫の誘引性をより減少することができる。
【0034】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る照明装置について、図9を参照して説明する。図9(a)(b)に示されるように、本実施形態は前記実施形態の光源部3において、LED部4の前面側に帯域阻止型の波長カットフィルタに代えて、390nm以下の短波長帯(高域)側を阻止する高域阻止型の波長カットフィルタ8(光学部材)を備える。本実施形態は、LED部4からの光が波長カットフィルタ8を透過することにより、その放射光の分光スペクトルにおいて390nm以下の波長帯の発光強度が略ゼロとなるものである。
【0035】
波長カットフィルタ8は、アクリル(PMMA)、ポリカーボネイト樹脂やガラス等の透明部材を用いる。ここでは、波長カットフィルタ8は、LED部4の前面フィルタ7をアクリル樹脂で形成し、そのアクリル樹脂に少なくとも紫外線吸収剤(例えば、チバ社製:チヌビン326他)や染料及び顔料等の添加剤9を添加する。波長カットフィルタ8は、この添加によって390nm以下の短波長帯側をカットするように透過波長を制御する。なお、この添加剤9としては、耐久性及び色調を考えると紫外線吸収剤を使用することが望ましい。
【0036】
また、波長カットフィルタ8は、樹脂やガラスに光学多層膜を積層して、前述と同様に、光フィルタ設計により390nm以下の波長をカットすることによっても形成できる。なお、波長カットフィルタ8は蛍光体5と一体としてもよい。また、波長カットフィルタ8は、その部材にガラス材を用い、ガラス材にハロゲン化物等を添加し、上記波長カットの光透過特性を有する硼珪酸系や、リン酸系等からなる透光性ガラスにより形成してもよい。また、LED素子の組成を制御することによって、LED部4自体において、390nm以下で発光しないようにするようにしてもよい。なお、短波長側に青色の波長ピークがある場合、390nmの光を発するだけでなく、400〜420nm付近の光も多く出すので、波長カットフィルタ8により、405nm以下の発光強度をピーク波長の発光強度に比べ50%以下にすることが望ましい。また、上記波長を制御することが可能であれば何ら材料・方式を限定するものではない。
【0037】
本実施形態によれば、光源部3からの照射光の390nm以下の短波長帯側がカットされることにより、紫外線領域の発光スペクトルが減少し、飛翔昆虫の誘引性がより低下する。また、波長カットフィルタ8を、アクリル樹脂に添加剤9を入れて形成する場合は、光学多層膜を用いないので、低コストで製造することができる。
【0038】
次に、上述した実施形態に係る実施例1〜6と、比較例1〜2(実施形態でない)とを対比して説明する。実施例1〜6及び比較例1〜2における照明装置1は、図10(a)、(b)に示すように、水平方向に取り付けられたダウンライト形状とし、光源部3からの光を筐体2の開口21から水平方向に照射するように、部屋の中央部のポール10に取り付けた。光源部3は、筐体2の開口21の光照射面に黒色パネル(木製)を設け、その黒色パネルに穴を開け、その穴の中から照射するように筐体2内に設置した。筐体2の開口21は略500mm角のサイズを成し、その上下端側には、開口21の一部を塞ぐように、幅200×長さ500mmのサイズを成す捕虫用の粘着トラップシート11をそれぞれ取り付けた。光源部3からの光は粘着トラップシート11の間の開口21側からのみが照射されるようにした。ここでは、光源部3は8個のLEDを用いた。照明装置の固定は、パナソニック電工製ダウンライト(NNN21615形状)を用いて実施した。
【0039】
【表1】
【0040】
(測定方法)
照明装置からの分光スペクトルを瞬間マルチ測光システム(MCPD3000:大塚電子社製)を用いて測定し、ピーク波長及びボトム波長における発光強度と共に、ボトム波長のゼロ強度領域を測定した。ボトム波長及びピーク波長における発光強度の比率(B/P比率という)は、ピーク波長の強度を10として計算により算出した。例えば、B/P比率が1.0のときは、ボトム波長の発光強度がピーク波長の十分の1であることを示す。
【0041】
(評価方法)
昆虫を誘引する誘虫性評価は、10m四方の部屋の中に3種類(ハエ、コナガ等)の虫を各400匹離し、1時間後の捕虫数により評価を行った。ここでは、比較例2における虫の総捕虫数を100とし、これを基準値として相対比較を行った。上記条件で測定した評価結果を上記の表1に示す。表1は、縦欄に実施例及び比較例をそれぞれ示し、横欄に順にピーク波長、B/P比率、ボトム波長のゼロ波長領域、短波長以下のカットフィルタの有無、昆虫の誘虫性を示す。また、色調評価は、ダウンライト形状の照明装置からの光を白色板に照射し、その色調を目視評価し、この目視評価で「白」又は「大幅な色調変化なし(黄みが強くない)」場合は、○とし、黄みが強く見える場合は、×とした。
【0042】
(実施例1)
実施例1における照明装置は、前記第1の実施形態と同様の構成を成し、青色のピーク波長を発光するLED素子上に、黄色系の蛍光体を配合したシリコン樹脂の封止部を設ける構成とした。それらの発光スペクトルは、ピーク波長を440nmとし、B/P比率は1.0となり、ボトム波長の発光強度がピーク波長の十分の一以下となっている。また、昆虫の誘虫性は85を示し基準値(100)以下となり、飛翔昆虫を誘引し難くできた。また、色調評価は、良好であった。なお、以下の各実施例では、実施例5を除き、ピーク波長を全て440nmとしている。
【0043】
(実施例2)
実施例1における照明装置は、前記第1の実施形態と同様の構成を成し、青色のピーク波長を発光するLED素子上に、2種類の黄色系の蛍光体を配合したシリコン樹脂の封止部を設ける構成とした。この結果、B/P比率は0.5を示し、昆虫の誘虫性は75とより低減された。
【0044】
(実施例3)
実施例3における照明装置は、前記第2の実施形態において、波長カットフィルタを図11(a)に示すように、485〜490nmで光透過特性が略ゼロになるものを用いた。この波長カットフィルタは、図11(b)に示すように、耐候性の透明のアクリル樹脂上に8層から成る光学多層膜を形成し、上記の光透過特性を得るように構成した。この結果、B/P比率は0.1以下となり、誘虫性はより低くなった。
【0045】
(実施例4)
実施例4は、実施例3において、図12(a)に示すように、波長カットフィルタを475〜495nmで光透過特性が略ゼロとなるものとした。この波長カットフィルタは、図12(b)に示すように、耐候性の透明のアクリル樹脂上に20層から成る光学多層膜を形成して、上記の光透過特性を得るように構成した。この結果、B/P比率は0.1以下となり、誘虫性は65を示し、各実施例の中で最も低くなった。
【0046】
(実施例5)
実施例5における照明装置は、前記第3の実施形態において、短波長帯を抑制する波長カットフィルタを、アクリル樹脂に紫外線吸収剤、光安定剤等を入れ、405nm以下(300〜405nm)をカットするように構成した。ここでは、ピーク波長を410nmと低くした。この場合も、昆虫の誘虫性は基準値より低くなっている。
【0047】
(実施例6)
実施例6における照明装置は、前記第3の実施形態において、図13(a)、(b)に示すように、波長カットフィルタ8として、390nm以下の短波長帯を抑制する高域阻止型の光フィルタを、光学多層膜により構成した。この波長カットフィルタ8は、LED部4上に設けられる透明のアクリル樹脂から成る前面フィルタ7上に積層された14層の光学多層膜により形成される。図13(c)に示すように、この波長カットフィルタ8の光透過特性は、390nm近傍で急峻に低下し、390nm以下の短波長帯側をカットするようになっている。この場合も、昆虫の誘虫性は基準値より低くなる。また、この波長カットフィルタ8は、390nm付近をシャープにカットするので、フィルタの色調(黄み)が特に少なくなる。
【0048】
(比較例1)
比較例1の照明装置は、前記実施例1において青色光のピーク波長を470nmに変更し、シリコン樹脂へ蛍光体の配合を変更したものである。この結果、B/P比率は1.5を示し、昆虫の誘虫性は120と基準値を越えた。なお、色調評価は良好であった。
【0049】
(比較例2)
比較例2の照明装置は、前記実施例2において、青色光のピーク波長を455nmに変更し、シリコン樹脂に混合する2種類の黄色系の蛍光体の配合比を変更したものである。この結果、B/P比率は1.2を示した。この場合の昆虫の捕虫数を100と規定し、これを誘虫性の評価基準とした。
【0050】
(比較例3)
比較例3の照明装置は、前記実施例2において、青色光のピーク波長を440nmに変更し、シリコン樹脂に混合する2種類の黄色系の蛍光体の配合比を変更したものである。この結果、B/P比率は2.0を示し、昆虫の誘虫性は110と基準値を越えた。
【0051】
上記評価結果から分かるように、いずれの実施例も、B/P比が1.0以下となり、すなわち、460〜520nmの波長帯に、LED部4の発光波長領域におけるピーク波長の十分の一以下の発光強度のボトム波長を持つ分光スペクトルを有する。これにより、誘虫性が比較例より低減する効果が得られた。特に、実施例3、5は、それぞれ485〜490nm及び475〜495nmでB/P比率0.1以下となり、略ボトムゼロ領域としたことにより、昆虫の誘虫性を比較例2に比べ30%以上低下でき、昆虫に対する忌避効果をより高めることができた。また、390nm及び405nm以下の波長カットフィルタを有した場合にも、誘虫性が基準値より低下した。なお、色調評価は、いずれの場合も良好であった。
【0052】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上記各実施形態で、波長カットフィルタと蛍光体、及び封士部を一体としてもよい。また、各実施形態の照明装置はダウンライトに限らず、街路灯等のエクステリア照明器具や、ベースライトの照明器具などにも使用でき、LED光源を使用するものであればよい。
【符号の説明】
【0053】
1 照明装置
4 LED部(LED)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光領域にピーク波長を有する光を出射するLEDを備え、
出射光の分光スペクトルが、前記ピーク波長の十分の一以下の発光強度となるボトム波長を460〜520nmの波長帯に有することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記LEDは400〜450nmの波長帯にピーク波長を有することを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記分光スペクトルは、460〜520nmの波長帯に発光強度が略ゼロとなるボトム波長を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記分光スペクトルは、390nm以下の波長帯の発光強度が略ゼロであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の照明装置。
【請求項1】
可視光領域にピーク波長を有する光を出射するLEDを備え、
出射光の分光スペクトルが、前記ピーク波長の十分の一以下の発光強度となるボトム波長を460〜520nmの波長帯に有することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記LEDは400〜450nmの波長帯にピーク波長を有することを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記分光スペクトルは、460〜520nmの波長帯に発光強度が略ゼロとなるボトム波長を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記分光スペクトルは、390nm以下の波長帯の発光強度が略ゼロであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−113960(P2012−113960A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261803(P2010−261803)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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