説明

熱ローラ用ジャケット室の密封装置

【課題】 気液二相の熱媒体を注入したジャケット室の封入口を密封する熱ローラの密封装置において、可溶性金属を用いることなくジャケット室の封入口を確実かつ安全に密封することができるようにすること。
【解決手段】 金属薄板26で仕切られた貫通孔20A、20B、20Cを有する球状の弁と該弁を熱ローラ本体1の周壁に設けたジャケット室15の外部と連通する封入口16に当接してねじ締め固定する貫通孔23を有するねじ18とにより密封装置を構成し、前記ジャケット室15内の所定の圧力上昇で前記金属薄板26を破裂させ、前記ジャケット室15内の圧力を前記球状の弁の貫通孔20A、20B、20Cおよび前記ねじの貫通孔23を経由して外部へ放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱ローラ用ジャケット室の密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばローラ本体の中空内に誘導コイルあるいは鉄心に誘導コイルを巻回した交番磁束発生機構を設置し、交番磁束発生機構が発生する交番磁束によりジュール発熱する、いわゆる誘導発熱ローラは良く知られている。このような誘導発熱ローラでは一つの誘導コイルの長手方向の中心部における発熱量が多く、端部に行くにしたがい発熱量が小さくなる性質を有し、そのためにローラの長手方向における表面温度が不均一となる。この不均一を解消するためにローラ本体の周壁に長手方向に沿ってジャケット室を設け、このジャケット室に水などの熱媒体を適量注入し、そのあとジャケット室を密封するようにしている。このようにすると発熱量が多い箇所で熱媒体が熱を奪って気化し、気化した熱媒体は発熱量が小さい箇所に移動して熱を放出して液化する。この潜熱移動によりローラ本体の長手方向の表面温度を均一化する。
【0003】
このように気液二相の熱媒体を封入したジャケット室を設けると、ローラ本体が異常に加熱された場合、ジャケット室内部に封入されている気液二相の熱媒体が高温となり、ジャケット室内部の圧力が異常に高められ、その圧力によってジャケット室ひいてはローラ本体が破損乃至は爆発する恐れがある。このおそれを防止するために、ジャケット室内部の圧力が所定の圧力以上になるとジャケット室の密封を解除することが必要となる。
【0004】
図3は、ジャケット室の密封を解除する密封装置を設けた誘導発熱ローラ装置の一例を示すもので、図3において1は片持式のローラ本体で、これに軸2が連結されてあり、固定枠3に支持されている軸受4によって回転自在に支持されている。固定枠3には固定盤5がねじ6によって固定されてあり、この固定盤5はローラ本体1の開口面にこれを覆うように相対して配置されている。
【0005】
この固定盤5にはローラ本体1と同軸の誘導コイル7などからなる交番磁束発生機構8が支持されている。図示の交番磁束発生機構8は鉄心を使用していない例であるが、鉄心を使用する場合はこれも固定盤5に支持するようにしておく。誘導コイル7を、リード線9を介して交流電源によって励磁すると、ローラ本体1の周壁1Aに電流が誘起し、この電流によって周壁1Aがジュール発熱する。
【0006】
周壁1Aの温度は温度センサ11,12によって検出される。温度センサ11が検出した温度に対応して誘起した電圧はリード13を介して、および温度センサ12が検出した温度に対応して誘起した電圧は、回転トランス14を介して、それぞれ外部に導出される。このようにして検出された温度に応じて誘導コイル7の励磁電圧を調整するなどして、周壁1Aの表面温度を所望値に維持する。周壁1Aの肉厚部内に気密のジャケット室15が複数設置されてあり、ここに気液二相の熱媒体が密封されている。この熱媒体の相変化による潜熱の移動によって周壁1Aの全域を均温化させ、均一な温度分布を得るようにしている。
【0007】
ジャケット室15には、ジャケット室15内に通じる小径の封入孔16と、この封入孔16に連続し封入孔16と同心の大径のねじ孔25とからなる外気と連通する連通孔が設けられ、図の例ではローラ本体1の開口端縁に開口するようにこの連通孔が設けられている。ねじ孔25の開口面は固定盤5に対して空隙を介して向き合っており、このねじ孔25に、図4に拡大して示す密封装置19が設けられている。密封装置19は、金属たとえばスチールからなる球状の弁17と、この弁17が固定されてあるねじ18とからなり、弁17にはその中心を通る貫通孔20が形成されており、この貫通孔20にたとえば銅からなるピン21がこれを貫く程度に挿入されている。そしてこのピン21と貫通孔20の内周面との間の微小な間隙には、所定の温度で溶融する可溶性金属22が充填されてある。この可溶性金属22が所定値以下の低い温度状態にあって固体状態にあるとき、ピン21は貫通孔20の内部で固定される。
【0008】
ねじ18には弁17の貫通孔20とほぼ同径の貫通孔23と、これに連続するねじ締め孔24が形成されてあり、この貫通孔23にピン21の端部が挿入される。そしてこのピン21を挿入したままの状態で弁17とねじ18とがたとえば接着剤によって固定される。孔23はねじ18の中心に形成されており、この孔23にピン21を挿入して弁17をねじ18に固定する。そのあとねじ18を弁17が封入孔16の開口(以下、封入口という。)の端縁16Aにこれを弁座として押しつけられるように捩じ込む。これにより封入孔16は確実に封止されることになる。また、ジャケット室15の内部温度が所定値を超えると可溶性金属が溶融し、ジャケット室15の内圧でピン21が弁17から抜き取られ、これによりジャケット室15の密封を解除する。
【特許文献1】特公平5−86638号公報
【特許文献2】特開2002−208470号公報
【0009】
以上のように構成した密封装置では、ジャケット室内の圧力をジャケット室内の所定の温度により溶融する可溶性金属を用いているため、その圧力と温度との間のズレでジャケット室が開放される圧力にズレが生じる場合があるという問題があった。また、可溶性金属としてハンダを用いると、ハンダは一般には鉛を含有していることから環境面で使用の制限を受け、その取り扱いが不便であるといった問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、可溶性金属を用いることなくジャケット室の封入口を確実かつ安全に密封することができるようにし、上記の問題を解消する点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱ローラ本体の周壁に、外部と連通する封入口を有するジャケット室を設け、前記封入口から前記ジャケット室に気液二相の熱媒体を注入したあと前記封入口を密封する熱ローラ用ジャケット室の密封装置において、前記密封装置は、金属薄板で仕切られた貫通孔を有する球状の弁と前記弁を前記封入口に当接してねじ締め固定する貫通孔を有するねじとからなり、前記ジャケット室内の所定の圧力上昇で前記金属薄板を破裂させ、前記ジャケット室内の圧力を前記球状の弁の貫通孔および前記ねじの貫通孔を経由して外部へ放出してなることを主たる特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
発明では、ジャケット室の封入口を金属薄板で仕切られた貫通孔を有する球状の弁で密封し、ジャケット室内の所定の圧力上昇で金属薄板を破裂させてジャケット室を開放するので、常に安定したジャケット室内の圧力でジャケット室を開放することができ、また、金属薄板としてSUSや銅など環境面で使用の制限のない金属を適宜使用でき、設計の自由度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
可溶性金属を用いることなくジャケット室の封入口を確実かつ安全に密封することができるようにする目的を、球状の弁の貫通孔を金属薄板で仕切ることにより実現した。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の一実施例に係る熱ローラ用ジャケット室の密封装置の構成を示す図である。なお、図4に示す従来の密封装置と同一または対応する部分には同一の符号を付し、重複する部分の説明は省略する。図1において、1は図3に示す誘導発熱ローラ装置と同様の中空内に誘導コイルなどの加熱源を備えた熱ローラ本体、15は熱ローラ本体1の周壁の肉厚部内に熱ローラ本体1の長手方向に沿ってドリルなどで形成したジャケット室、16はジャケット室15内に通じる小径の封入孔、25は封入孔16に連続し封入孔16と同心の大径のねじ孔であり、ジャケット室15は封入孔16およびねじ孔25を介して外気と連通している。
【0015】
本発明にしたがいスチールからなる球状の弁17は、空洞20Cの球状をなし、その空洞20Cを銅などの金属薄板(金属箔)26で二分している。金属薄板26で二分された一方の半球体17Aの中央部に貫通孔20Aが形成され、他方の半球体17Bの中央部に貫通孔20Bが形成されている。つまり金属薄板26の周縁は半球17Aと17Bの端面で挟まれて半球17Aと17Bに固着されており、貫通孔20Aと貫通孔20Bは延長線上に位置している。
【0016】
そして、一方の半球体17Aの貫通孔20Aの開口をねじ18の貫通孔23に対向させ、他方の半球体17Bの貫通孔20Bの開口を封入孔16に対向させて、ねじ締め孔24に工具を差し込んでねじ18をねじ締め固定する。これにより封入孔16は密閉される。ローラ本体1の加熱時ジャケット室15内の圧力が金属薄板26の厚みなどで設定した所定の圧力以下では金属薄板26でジャケット室15は密封された状態が維持されるが、その圧力を越えると金属薄板26は破裂し、この破裂によってジャケット室15内の圧力は半球体17Bの貫通孔20B、空洞、半球体17Aの貫通孔20Aおよびねじ18の貫通孔24を経由して外部に放出される。この放出によりジャケット室15ひいてはローラ本体1の破損乃至は爆発を防止することができる。
【実施例2】
【0017】
図2は、本発明の他の実施例に係る熱ローラ用ジャケット室の密封装置の構成を示す図である。図1に示す実施例では、弁17の貫通孔20Aの開口をねじ18の中央部に設けた貫通孔23に対向させるため、ねじ18に対し貫通孔20Aが偏芯して取付けられと、弁17を封入孔16の封入口端縁16Aに対し均一な接触圧で密封することができず、また、ねじ18で締め込む際の回転力が線接触面を通じて弁17に伝わり、弁17自体にも回転力が発生し、封入孔16の封入口端縁16Aで滑りが生じ、その封入口端縁16Aを損傷し、その結果、ジャケット室15内の熱媒体が漏洩する恐れがある。
【0018】
本実施例はこのような恐れを解消するもので、ねじ18の貫通孔23をねじ18の外周部に形成し、また、球状の弁17を構成するねじ18に当接する側の半球体17Aの貫通孔20Aを中央部から外し、図示では2箇所に形成し、球状の弁17の球面とねじ18の平面が当接するようにしている。このように構成すると弁17の貫通孔20Aの開口端縁とねじ18の端面との線接接触がなく、ねじ18の端面と弁17の球面との一点で接触するので、ねじ18の回転力が弁17に伝達されず、弁17を封入口端縁16Aに対し常に均一な接触圧で密封することができる。
【0019】
また、図1に示す実施例と同様に、ジャケット室内の圧力が金属薄板26の厚みなどで設定した所定の圧力以下では金属薄板26でジャケット室は密封された状態が維持されるが、その圧力を越えると金属薄板26は破裂し、この破裂によってジャケット室内の圧力は半球体17Bの貫通孔20B、空洞、半球体17Aの2箇所の貫通孔20Aおよびねじ18の外周部の貫通孔23を経由して外部に放出される。この放出によりジャケット室ひいてはローラ本体1の破損乃至は爆発を防止することができる。
【0020】
なお、本発明は図3に示す片持式の誘導発熱ローラのみに適用されるものではなく、ローラ本体をその両端で支持する、いわゆる両持式の誘導発熱ローラについても、また、誘導発熱ローラのみならず加熱源をヒータあるいは熱媒流体とする加熱又は奪熱ローラについても適用できることはいうまでもない。また、実施例では金属薄板を平坦状としているが、平坦状に限らずたとえばドーム形状に湾曲した金属薄板であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係る密封装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る密封装置の他の構成を示す図である。
【図3】誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図4】従来の密封装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 熱ローラ本体
15 ジャケット室
16 封入孔
16A 封入口端縁
17 球状の弁
17A、17B 半球体
18 ねじ
20A、20B 弁の貫通孔
20C 弁の空洞
23 ねじの貫通孔
26 金属薄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱ローラ本体の周壁に、外部と連通する封入口を有するジャケット室を設け、前記封入口から前記ジャケット室に気液二相の熱媒体を注入したあと前記封入口を密封する熱ローラ用ジャケット室の密封装置において、前記密封装置は、金属薄板で仕切られた貫通孔を有する球状の弁と前記弁を前記封入口に当接してねじ締め固定する貫通孔を有するねじとからなり、前記ジャケット室内の所定の圧力上昇で前記金属薄板を破裂させ、前記ジャケット室内の圧力を前記球状の弁の貫通孔および前記ねじの貫通孔を経由して外部へ放出してなることを特徴とする熱ローラ用ジャケット室の密封装置。
【請求項2】
球状の弁は、内部を二分する金属薄板を備えた中空をなすとともに、金属薄板で仕切られた両側の半球のそれぞれに貫通孔が形成されてなり、一方の半球の貫通孔を前記ジャケット室に向け、他方の半球の貫通孔を前記ねじの貫通孔に向けてなることを特徴とする請求項1に記載の熱ローラ用ジャケット室の密封装置。
【請求項3】
ねじの貫通孔をねじの外周面に形成し、球状の弁の球面とねじの先端平面とを当接してなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱ローラ用ジャケット室の密封装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate