説明

熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用アルミニウムクラッド材

【課題】高強度化および高耐食性化を図った熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材を提供する。
【解決手段】本発明の熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用アルミニウムクラッド材は、Cu:0.4〜1.0質量%、Si:0.3〜1.0質量%、Mn:0.5〜2.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を心材1とし、当該心材1の一面側に、Zn:2.2質量%未満を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなる犠牲防食材3をクラッドし、当該心材1の他面側にアルミニウム合金からなるろう材2をクラッドしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度と耐食性に優れたアルミニウムクラッド材に関し、特にラジエータなどの自動車用熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材に適するアルミニウムクラッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ラジエータなどの自動車用熱交換器は、軽量化・コンパクト化が図られるとともに、リサイクル性が重要視されるようになっている。そのため、従来は樹脂等で作製されていたヘッダ部材およびタンク部材が、アルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、これらを総称して「アルミニウム製」という)のクラッド材に変更されつつある。
【0003】
図3(a)に示すように、このようなクラッド材は、アルミニウム製の心材の一面側に、心材より融点の低いAl合金をろう材としてクラッドし、その他面側に犠牲防食材としてAl−Zn系合金をクラッドすることで製造されている。なお、図3(a)は、アルミニウム製のクラッド材を用いて形成される熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材の要部断面図である。
【特許文献1】特開平9−296996号公報(段落番号0009,0008、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ヘッダ部材およびタンク部材をアルミニウム製のクラッド材で作製すると、ろう材と犠牲防食材が接合される箇所が生じる。かかる箇所では、図3(b)に示す拡大図のように、ろう付時に犠牲防食材中のZnがフィレット(ろうだまり)に拡散し、Znの含有量が高くなりやすい。Znの含有量が高くなると、ろう付後のろう材表面や犠牲防食材表面よりもフィレットの電位が卑化することになるので、結果的にフィレットが優先的に腐食されやすくなる。フィレットが腐食されると、漏れが発生するおそれが高くなるだけでなく、腐食箇所から熱交換器が破壊してしまうおそれもある。なお、図3(b)は、図3(a)の一部拡大図である。
なお、ヘッダ部材やタンク部材がアルミニウム製に変更されると樹脂製のヘッダ部材やタンク部材より板厚が薄くなることから、クラッド材の高強度化を図る必要がある。
【0005】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高耐食性化および高強度化を図った熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討し、研究した結果、前記課題を解決することができた。
前記課題を解決した本発明に係る熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材は、Cu:0.4〜1.0質量%、Si:0.3〜1.0質量%、Mn:0.5〜2.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を心材とし、当該心材の一面側に、Zn:2.2質量%未満を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなる犠牲防食材をクラッドし、当該心材の他面側にアルミニウム合金からなるろう材をクラッドした構成となっている。
【0007】
このように、本発明の熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材は、Si、Cu、Mnの含有量を高くして、固溶・分散強化を行わしめることで、ろう付け後におけるクラッド材の高強度化を図ることができる。
また、犠牲防食材のZn量を2.2質量%未満に抑制することによって、ろう付けに起因するフィレットのZnの濃縮量を抑制することができる。これにより、フィレットの電位卑化を抑制し、ろう材と犠牲防食材と表面における電位差を抑制することが可能となり、フィレットの優先腐食を抑制することができる。
【0008】
また、前記課題を解決した本発明に係る熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材は、Cu:0.4〜1.0質量%、Si:0.3〜1.0質量%、Mn:0.5〜2.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を心材とし、当該心材の一面側に、Si:0.15〜1.0質量%、Mn:0.15〜1.3質量%、Zn:2.2質量%未満を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、さらにSi/Mn=0.11〜6.7の範囲で添加されている犠牲防食材をクラッドし、当該心材の他面側にアルミニウム合金からなるろう材をクラッドした構成となっている。
【0009】
このように、犠牲防食材に含有されるSiとMnの含有量や、その含有比率の範囲をさらに特定の範囲に制御することによって、フィレットの耐食性を損なうことなく、犠牲防食材の高強度化を図ることで、本発明の熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材のさらなる高強度化を図ることができる。
【0010】
本発明においては、板厚が0.7〜2.5mmであり、かつ、前記心材は、Ti:0.25質量%以下、Cr:0.25質量%以下、Zr:0.25質量%以下の中から選択される少なくとも1種を含有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、強度および耐食性に優れた熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材を提供することができる。
したがって、本発明の熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材を用いれば、ラジエータなどの熱交換器(特に、ヘッダ材やタンク部材)を高強度化、高耐食化することができる。また、熱交換器の材質をアルミニウムまたはアルミニウム合金としているので、リサイクル率の向上などに多大に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、図1を参照しつつ、本発明の熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材(以下、単に「アルミニウムクラッド材」という。)について詳細に説明する。なお、図1は、本発明のアルミニウムクラッド材の構成を示す模式図である。
【0013】
図1に示すように、本発明のアルミニウムクラッド材は、心材1と、この心材1の一面側に犠牲防食材3をクラッドし、心材1の他面側にろう材2をクラッドした構成となっている。
【0014】
ここで、本発明に用いる心材1は、Cu:0.4〜1.0質量%、Si:0.3〜1.0質量%、Mn:0.5〜2.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されている。
【0015】
また、本発明に用いる犠牲防食材3は、Zn:2.2質量%未満を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されている。
なお、この犠牲防食材3は、Si:0.15〜1.0質量%、Mn:0.15〜1.3質量%、Zn:2.2質量%未満を含み残部がAlおよび不可避的不純物からなり、さらにSi/Mn=0.11〜6.7の範囲で添加されているアルミニウム合金で構成するのがより好ましい。
【0016】
そして、本発明で用いるろう材2は、心材1よりも融点の低いアルミニウム合金で構成されている。
以下、心材1および犠牲防食材3の化学組成を特定の範囲に規制した理由について説明する。なお、ろう材2は、心材1よりも融点が低く、従来公知の化学組成を有するアルミニウム合金であれば、特に限定されることなく用いることができるので、その説明を省略する。
【0017】
(1)Cu
Cuは、ろう付後に固溶状態でアルミニウム合金中に存在し、強度を向上させる。また、Cuは、代表的なアルミニウム添加元素の中でも電位が貴な元素である。そのため、1000系や7000系のアルミニウム合金の犠牲防食材等をクラッドさせることによって心材1と犠牲防食材3との間で十分な電位差を確保することができるので、犠牲防食材3の犠牲防食効果(耐食性)を大きくすることが可能となる。
Cuの含有量が0.4質量%未満であると、固溶強化によるろう付後の強度の大幅な向上が認められず、また、心材1と犠牲防食材3の電位差も小さくなるため、犠牲防食材3の犠牲防食効果が得にくくなる。特に最近の薄肉化の傾向においては、好適なろう付後の強度、耐食性を得ることが厳しくなるため、0.4質量%以上とするのが望ましい。
一方、Cuの含有量が1.0質量%以上となると、他の元素の添加量によっては、鋳造時に割れが発生しやすくなり、生産性が低下する。また、ろう付時にろう材2から拡散してくるSiによって融点が低下するので、ろう付時に心材1が溶融してしまい、結果的に心材1に侵食等が発生しやすくなる。その結果、ろう付性が低下する。
したがって、Cuの含有量は、0.4〜1.0質量%とするのが望ましい。特に、Cuの含有量を0.6〜0.9質量%とすれば、犠牲防食材3の犠牲防食効果および高強度化を十分に図ることができる。
【0018】
(2)Si
Siは、固溶状態で固溶強化する効果を有するとともに、AlおよびMnと金属間化合物を形成し、分散強化によって強度を向上させる効果を有する。
心材中のSiの含有量が0.3質量%未満であると強度を向上させる効果を十分に得ることができない。
一方、心材中のSiの含有量が1.0質量%を超えると、他の元素の添加量によっては、融点が低下してしまい、ろう付時に心材が溶融し、ろう付が不可能となる。
したがって、Siの含有量は、0.3〜1.0質量%とするのが望ましい。特に、高強度化に関しては、Siの含有量を0.6質量%以上とすることによって優れた効果を発揮し得るので、0.6質量%以上含有するのが望ましい。
【0019】
一方、犠牲防食材中のSiの含有量を1.0質量%以下としたのは、1.0質量%までは添加量を増加させることによってろう付後強度が向上するが、1.0質量%を超えて添加されるとSiの固溶量が増加するために電位が貴化して耐食性が劣化する。また、結晶粒界にSiが析出しやすくなり粒界腐食によって耐食性が劣化する。
一方、Siの含有量が0.15質量%未満であると、ろう付後強度に寄与する効果が小さくなる。
したがって、犠牲防食材のSiの含有量は、0.15〜1.0質量%とするのが望ましいが、ろう付後強度と耐食性を好適に両立するために推奨される範囲は、0.6〜0.9質量%であるが、心材1が高強度(例えば、150MPa以上)であるときは添加をしなくても構わない。
【0020】
(3)Mn
Mnは、微細な金属間化合物を合金中に分布させ、耐食性を低下させることなく強度を向上させるための必須元素である。本発明の化学組成においては、Al、Siと金属間化合物を形成し、その微細な金属間化合物の分散により、ろう付後強度が大幅に向上する。また、一部のMnはアルミニウム合金中に固溶するため、固溶によるろう付強度の向上を図ることができる。
【0021】
心材中のMnの含有量が0.5質量%未満であると金属間化合物の分散による効果を十分に得ることができないので、ろう付後強度が大幅に向上しない。
一方、Mnの含有量が2.0質量%を超えると、強度が向上しすぎるので成形性が低下し、プレス成形やロールフォーミングが困難となる。
したがって、心材中のMnの含有量は、0.5〜2.0質量%とするのが望ましい。
【0022】
また、犠牲防食材中のMnの含有量が1.3質量%を超えると、固溶するMn量の増加により電位が貴化し、十分な犠牲防食効果が得られない。また、カソード反応サイトである金属間化合物数の増加によって腐食速度が速くなり、耐食性が劣化する。
一方、Mnの含有量が0.15質量%未満であると、Al、Siと金属間化合物を形成しないので、強度向上に寄与しないだけでなく、金属間化合物を形成しないために固溶Siが粒界析出する量が多くなり、耐食性が劣化する。
したがって、耐食性およびろう付後強度を確保するために推奨されるMnの含有量は、0.15〜1.3質量%とするのが望ましく、0.6〜0.9質量%とするのがより望ましいが、心材が高強度であるときは添加しなくても構わない。
【0023】
(4)Ti,Cr,Zr
Ti、Cr、Zrを0.25質量%以下と規定したのは、これらを0.25質量%を超えて含有することとなると、鋳造時に巨大な晶出物が形成されやすくなり、耐食性が大幅に劣化するからである。
しかし、Tiを0.25質量%以下で含有すると、圧延時に晶出物が層状に分布し、層状の腐食形態をとることができるため、耐食性を向上させることができる。
また、CrおよびZrを0.25質量%以下で含有すると、ろう付後強度を向上させることができる。
【0024】
(5)犠牲防食材中のSi/Mn比
犠牲防食材が、Siを0.15〜1.0質量%の範囲で含み、Mnを0.15〜1.3質量%の範囲で含む場合(すなわち、本願の請求項2に相当する場合)は、Si/Mn=0.11〜6.7の範囲とする必要がある。どちらか一方の元素のみを添加した場合、例えば、Siのみを添加した場合は、結晶粒界にSiが単体で析出し、Mnのみを添加した場合は、Al−Mn系の金属間化合物が結晶粒界に析出する。このように、結晶粒界に析出物が存在すると粒界腐食感受性が顕著に高くなるので、耐食性が大幅に劣化してしまう。
なお、SiおよびMnを同量添加すると、結晶粒界内に微細なAl−Mn−Si系の金属間化合物が析出し、分散強化による強度の向上を図ることができる。
【0025】
ただし、不可避的不純物レベル相当量でSiおよびMnが存在している場合は、前記した関係式の範囲外であっても構わない。理由としては、含有量が非常に少ないため、粒界に単体SiおよびAl−Mn系金属間化合物が析出する量が極端に減少し、耐食性を大幅に低下させることがないからである。本発明において、SiおよびMnの不可避的不純物レベル相当量としては、Siは0.15質量%未満、Mnは0.15質量%未満である。
【0026】
(6)Zn
Znは、アルミニウム合金に犠牲防食効果(耐食性)を与える効果を有する。
通常、ラジエータ等の熱交換器用アルミニウムクラッド材では、犠牲防食材のZnの含有量が増加すると、ろう付後の心材−犠牲防食材の電位差が大きくなり、犠牲防食材3の犠牲防食効果が大きくなる。
【0027】
しかし、例えばラジエータのタンク部とヘッダ部とをろう付すると、犠牲防食材3とろう材2が必ず接触する箇所があるために、ろう付後に形成されたフィレット中にZnが濃縮してしまう。フィレット中に濃縮したZnの含有量は、犠牲防食材表面のZnの含有量よりも多くなるために電位が卑化しやすいため、フィレットが優先的に腐食されることとなり、漏れや亀裂が発生することになる。
したがって、本発明においては、Znの含有量を2.2質量%未満とする必要がある。Znの含有量が2.2質量%以上となると前記したようにフィレットが優先的に腐食されるなどの問題がある。なお、本発明では心材中のCuの含有量が多いため、Znを犠牲防食材3に添加しなくても心材−犠牲防食材の電位差を十分確保することが可能であり、耐食性が大幅に劣化することはない。しかし、フィレットの優先的な腐食を防止することを考慮すると、Znを1.0質量%以下で含有するのがより望ましい。
【0028】
(7)その他の元素
Feは、0.2質量%以下であれば心材、犠牲防食材に添加しても構わない。Feの含有量が0.2質量%を超えて含有されると、鋳造後の晶出物の個数が大幅に増加するため、カソード反応を促進し、耐食性が大幅に劣化する。
【0029】
(8)板厚
アルミニウムクラッド材の板厚が0.7mm未満であると、板厚が薄いため剛性が低下しヘッダおよびタンク材として用いることができない。
一方、アルミニウムクラッド材の板厚が2.5mmを超えると、成形が困難となる。
したがって、板厚は、0.7〜2.5mmとするのが望ましい。
【実施例】
【0030】
≪実施例A≫
次に、本発明の熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用アルミニウムクラッド材(以下、単に「アルミニウムクラッド材」という。)について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
【0031】
心材の一面側に犠牲防食材をクラッドし、この心材の他面側にろう材をクラッドしたアルミニウムクラッド材を下記の方法により製造した。
【0032】
まず、表1に示す化学組成を有する試験材No.1〜12の心材を面削し、44mmの板厚とした後、590℃×6時間の均質化熱処理を施した。ろう材と犠牲防食材は、鋳塊を面削した後、510℃×6時間の熱処理を行った後に熱間圧延を行い、3mmの板厚のろう材と3mmの板厚の犠牲防食材とした。なお、≪実施例A≫の犠牲防食材の化学組成にはSiおよびMnが含まれているが、いずれの試験材においてもこれらの含有量が0.15質量%未満であるために、不可避的不純物レベル相当量を含有しているということができる。
【0033】
そして、犠牲防食材およびろう材を、それぞれ心材の一面側および他面側に重ね合せて3層構造材とし、これを熱間圧延圧着して板厚4mmのアルミニウムクラッド材とした(図1参照)。
【0034】
このアルミニウムクラッド材に冷間圧延を行い、板厚を1.6mmとした後、380℃×3時間で焼鈍を行い、O材のアルミニウムクラッド材を作製した。図1に示すように、心材1の一面側にろう材2をクラッドし、心材1の他面側に犠牲防食材3をクラッドしたものである。
このようにして作製したアルミニウムクラッド材から幅50mm×長さ60mmの試験片を切り出し、所定の量(5g/m)のフラックスを塗布した後、図2に示すように、ろう材2面と、犠牲防食材3面とが20mm重なるように重ね合わせ、窒素雰囲気中で595℃×5分間ろう付を行った。なお、図2は、ろう付したアルミニウムクラッド材の要部拡大図である。
【0035】
ろう付後、外面耐食性評価用サンプルとしてろう材2面側が腐食試験面となるように犠牲防食材3面にシールを貼り、犠牲防食材3面側が腐食液(CASS試験液)に触れないようにろう材2面にシールの一部を折り返した後、シール端部をボンドで塗り、犠牲防食材3面側に腐食液が入り込まないようにした。
また、ろう付後、内面耐食性評価用サンプルとして犠牲防食材面側が腐食試験面となるようにろう材面にシールを貼り、ろう材2面側が腐食液に触れないように犠牲防食材面にシールの一部を折り返した後、シール端部をボンドで塗り、ろう材面側に腐食液が入り込まないようにした。
【0036】
その後、外面耐食性の試験としてCASS試験(塩水噴霧試験:JIS Z 2371)を1500時間行い、内面耐食性の試験として浸漬試験(Na:118ppm、Cl:58ppm、SO2−:60ppm、Cu2+:1ppm、Fe3+:30ppm)を行い、腐食状況を観察した。
【0037】
一方、ろう付後強度の測定に関しては、前記した方法で作製したアルミニウムクラッド材から120mm×250mmの強度測定用の試験片を切り出し、窒素雰囲気中で595℃×5分間ろう付を行った。なお、試験片のろう付は、試験片上部に穴を開け、棒に吊るした状態で1枚ずつ行った。
ろう付後、前記試験片からJIS5号試験片を3本切り出した後に引張試験を行い、強度の測定を行った。
これらの試験を行ったアルミニウムクラッド材の成分を表1に示す。また、これらの試験結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1および表2に示すように、試験材No.1〜6は、本発明の要件を満たしているので、ろう付後強度、外面耐食性および内面耐食性のいずれについても良好な結果を得ることができた。そのため、本発明の実施例に相当すると評価できた。
【0041】
一方、試験材No.7〜12は、本発明の要件のうちのいずれかを満たしていないので、ろう付後強度、外面耐食性および内面耐食性のいずれかについて好ましくない結果が得られた。そのため、本発明の比較例に相当すると評価できた。
【0042】
具体的には、試験材No.7は、心材のCuの含有量が少ないために、ろう材−心材の電位差が小さくなり、外面耐食性が確保できなかった(板貫通腐食)。また、ろう付後強度が低いために、ラジエータ等の熱交換器の部材として用いるには不十分であるという結果になった。また、外面耐食性も劣っていた。
【0043】
試験材No.8は、犠牲防食材中のZnの含有量が多かったので、ろう材と犠牲防食材を重ね合わせてろう付したときに形成されたフィレット中にZnが濃縮し、フィレットの電位が卑化したために当該フィレットが優先的に腐食してしまった(フィレット貫通腐食)。また、外面耐食性も劣っていた。
【0044】
試験材No.9および10は、心材中のCuおよびSiの含有量が多かったので、ろう付時に心材の融点が低下し、ろう材が心材を侵食したためにろう付することができなかった。
【0045】
試験材No.11は、心材中のMnの含有量が少なかったので、Mnの固溶強化および金属間化合物による分散強化の寄与が低下した。そのため、ろう付後強度が低下した。また、心材中の金属間化合物数の減少により心材中の固溶Siが粒界に析出し外面耐食性および内面耐食性が劣る結果となるとともに、板貫通腐食が生じた。
【0046】
試験材No.12は、心材中のMnの含有量が多かったので、金属間化合物の個数およびサイズが大幅に増大した。そのため、外面耐食試験および内面耐食試験においてカソードサイトとなって腐食が促進し、外面耐食性および内面耐食性が大幅に劣る結果となるとともに、板貫通腐食が生じた。
【0047】
≪実施例B≫
≪実施例B≫では、≪実施例A≫で好適な結果を得ることのできた試験No.1と同様に、Cu、Si、Mn、Ti、Feを表3に示す含有量で含む心材と、Si,Mn,Zn,Si/Mnを表3に示す含有量および比率で含む犠牲防食材と、ろう材と、をクラッドしたアルミニウムクラッド材を、≪実施例A≫と同様にして、熱間圧延圧着して板厚4mmのアルミニウムクラッド材を作製した。そして、試験材No.13〜22のアルミニウムクラッド材を板厚1.6mmに冷間圧延した後焼鈍を行い、O材のアルミニウムクラッド材とした。次いで、当該アルミニウムクラッド材から幅50mm×長さ60mmの試験片を切り出し、所定の量(5g/m)のフラックスを塗布した後、図2に示すように、ろう材2面と、犠牲防食材3面とが20mm重なるように重ね合わせ、窒素雰囲気中で595℃×5分間ろう付を行った。
そして、≪実施例A≫と同様にして、ろう付後強度の測定、外面耐食性の試験、および内面耐食性の試験を行った。
これらの試験を行ったアルミニウムクラッド材の成分を表3に示す。また、これらの試験結果を表4に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
表3および4に示すように、試験材No.13〜15は、本発明の要件を満たしているので、ろう付後強度、外面耐食性および内面耐食性のいずれについても良好な結果を得ることができた。そのため、本発明の実施例に相当すると評価できた。
特に、試験材No.13〜15は、犠牲防食材におけるSiとMnが試験材No.1〜6よりも多かったために、これら試験材No.1〜6と比較してろう付後強度が高く、より良好な熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用のアルミニウムクラッド材であると評価できた。
【0051】
試験材No.16は、試験材No.8と同様に犠牲防食材中のZnの含有量が多かったので、ろう材と犠牲防食材を重ね合わせてろう付したときに形成されたフィレット中にZnが濃縮し、フィレットの電位が卑化したために当該フィレットが優先的に腐食してしまった(フィレット貫通腐食)。また、外面耐食性も劣っていた。
【0052】
試験材No.17は、犠牲防食材中のSiを多めに添加するとともにMnを少なめに添加したため、Si/Mn=42.5となった。その結果、結晶粒界に単体のSiが析出し、内面耐食性が劣るとともに、粒界腐食が生じて貫通腐食した。
【0053】
試験材No.18は、犠牲防食材中のSiを少なめに添加するとともに、Mnを多めに添加したため、Si/Mn=0.059となった。その結果、結晶粒界にAl−Mn系の金属間化合物が析出し、内面耐食性が劣るとともに、粒界腐食が生じて貫通腐食した。
【0054】
試験材No.19は、犠牲防食材中のSiの含有量が多かったので、犠性防食材の電位が貴化し、さらにSiが粒界析出することによって内面耐食性が大幅に劣化し、粒界腐食が生じた。
【0055】
試験材No.20は、犠牲防食材中のMnの含有量が多かったので、犠牲防食材の電位が貴化し、さらに金属間化合物数およびサイズが増大したことによってカソード反応が促進し、内面耐食性が劣化するとともに、板貫通腐食が生じた。
【0056】
試験材No.21は、心材のCuの含有量が少ないため、犠牲防食材−心材およびろう材−心材の電位差が小さくなった。また、心材のFeの含有量が多いため、晶出物の数が多く、かつそのサイズも大きいために、カソード反応が大きくなって腐食が促進された。その結果、貫通腐食が生じた(板貫通腐食)。また、ろう付後強度が低かったため、ラジエータ等の熱交換器の部材として用いるには不十分であるという結果になった。また、外面耐食性および内面耐食性も劣っていた。
【0057】
試験材No.22は、心材中のTi添加量が多かったため、心材鋳造時に巨大金属間化合物が晶出した。そのため、内外面耐食試験においてカソードサイトとなって腐食が促進し、耐食性が大幅に劣化した。その結果、外面耐食性および内面耐食性が劣る結果となるとともに、板貫通腐食が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のアルミニウムクラッド材の構成を示す模式図である。
【図2】ろう付したアルミニウムクラッド材の要部拡大図である。
【図3】(a)は、アルミニウム製のクラッド材を用いて形成される熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材の要部断面図であり、(b)は、(a)の一部拡大図である。
【符号の説明】
【0059】
1 心材
2 ろう材
3 犠牲防食材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:0.4〜1.0質量%、Si:0.3〜1.0質量%、Mn:0.5〜2.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を心材とし、
当該心材の一面側に、Zn:2.2質量%未満を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなる犠牲防食材をクラッドし、当該心材の他面側にアルミニウム合金からなるろう材をクラッドしたことを特徴とする熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用アルミニウムクラッド材。
【請求項2】
Cu:0.4〜1.0質量%、Si:0.3〜1.0質量%、Mn:0.5〜2.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を心材とし、
当該心材の一面側に、Si:0.15〜1.0質量%、Mn:0.15〜1.3質量%、Zn:2.2質量%未満を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、さらにSi/Mn=0.11〜6.7の範囲で添加されている犠牲防食材をクラッドし、当該心材の他面側にアルミニウム合金からなるろう材をクラッドしたことを特徴とする熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用アルミニウムクラッド材。
【請求項3】
板厚が0.7〜2.5mmであり、かつ、前記心材は、Ti:0.25質量%以下、Cr:0.25質量%以下、Zr:0.25質量%以下の中から選択される少なくとも1種を含有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換器のヘッダ部材およびタンク部材用アルミニウムクラッド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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