説明

熱交換器の製造方法

【課題】 拡管加工を用いて製造される熱交換器の製造に当たって、フィン材を成形加工する際に形成された切断面等、アルミニウムが剥き出しになる部分を保護し、熱交換器の長期間にわたる高度の耐食性を確保する。
【解決手段】
金属板を打ち抜いて孔部を形成する工程と、前記金属板に形成された孔部に管を挿入する工程と、前記管を拡管することにより管を金属板に固定して組立体となす工程とを含んで作製される熱交換器において、孔部端面を含む前記金属板表面にジルコニウム化合物を含有する耐食性樹脂層が形成されており、前記耐食性樹脂層中のジルコニウム濃度が前記金属板側から上に向かって連続的に減少していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の製造方法に関するものであり、特に、プレス成形によりアルミニウム板に孔部を形成し、当該孔部に管を挿入し、さらに拡管して製造される拡管加工と呼ばれる方法によって作られる熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ方式の家庭用又は業務用エアコンの熱交換器は、フィンとなるアルミニウムや銅等の金属薄板を打ち抜いてカラーと呼ばれる成形部位を作製し、このカラー部に銅管又はアルミニウム管を挿入し、その後、当該銅管又はアルミニウム管を機械的に拡管するか、液圧あるいは空気圧をかけて拡管し、フィンと管を固定することにより製造されている。このような熱交換器の製造方法に関しては、例えば特許文献1に示されている。
【0003】
フィン用の金属薄板としては、軽量で適度な機械的特性を有し、かつ美観、成形加工性に優れたアルミニウム材が主流となっている。(なお、本明細書中において以後、純アルミニウム材及びアルミニウム合金材を総称して「アルミニウム材」とする。)この熱交換器は極寒地等を除き、あらゆる環境で使用される。すなわち、海岸近く等の塩害のあるような地域あるいは高速道路際の排気ガス等に曝されるような場所にも設置され、また半導体工場のような腐食性ガスを使用する環境でも使われている。そのため、このような熱交換器には高い耐食性が求められている。
【0004】
熱交換器の耐食性を向上させるために、これまでにも種々の検討がなされ、特にフィンに用いるアルミニウム材の耐食性向上が図られてきた。その一つとして、あらかじめ塗装などの表面処理がなされたアルミニウム材を用いて成形する方法が挙げられる。すなわち、アルミニウム材に表面処理を施した所謂プレコート材を用いて所定の形状に成形を行い、孔部に管を挿入後、拡管して熱交換器とするものである。
【0005】
プレコート材を得るために用いられる表面処理として、例えば特許文献2に開示されているように、アルミニウム材にあらかじめリン酸クロメート皮膜のような耐食性化成皮膜を設ける方法や、特許文献3に開示されているようにアルミニウム材にアクリル酸系樹脂を設ける方法がある。これらの方法は、主にフィンの平坦部分の耐食性を向上させるのに効果がある。
【0006】
しかしながら、熱交換器の製造においては、アルミニウム材を成形加工してフィン材とするため、フィン中に多数の切断面が形成される。この切断面の部分は、プレコート皮膜がなくアルミニウム面が剥き出しとなる結果、熱交換器の使用中に腐食が起こりやすい。また、近年は熱交換率を高めることを目的にフィンにルーバー加工(スリット成形後、当該箇所を起こす加工)を施すことも多い。このようにルーバー加工を施すと、アルミニウム材の切断面が増加すると共に、切り起こし部分に水分が溜まりやすいため、腐食がさらに進みやすくなる。
【0007】
特に、このような熱交換器が沖縄や徳之島等の地で使用される場合、高温・高湿かつ塩分の多い厳しい環境条件であるため、フィンにおけるアルミニウムの剥き出し部分から腐食が始まり、さらに腐食生成物によるフィン間の目詰まりによって機能の低下を招いたり、最終的にはフィンの脱落がおこる場合がある。
【0008】
このような不具合を防止するため、露出したアルミニウム切断面部分を保護する方法として熱交換器組立後に、亜鉛を含んだ塗料や、溶剤型アクリル系樹脂、溶剤型エポキシ樹脂等の耐食性樹脂をスプレー塗装することが行われている。しかし、スプレー塗装では、フィンとフィンの間の狭い隙間における細かい部分にまで耐食性樹脂を十分に付着させることが出来ず、アルミニウム切断面が剥き出しになった部分先端部やルーバーの切断面の耐食性を十分に得ることができない。また、溶剤型の耐食性樹脂を用いると、溶剤がプレコート皮膜にダメージを与えるため、却って耐食性が低下する場合がある。さらに、溶剤による作業環境の悪化も招くため好ましくない。
【0009】
また、上記したように、亜鉛を含んだ塗料をスプレーする場合、亜鉛はアルミニウムより卑な金属であるため犠牲防食作用が期待できるが、犠牲材である亜鉛が腐食することにより白色の腐食生成物が多量に発生するため外観が汚くなり、見栄えが悪くなる恐れがある。さらに、亜鉛が腐食して消失した後の防食作用は期待できないため、熱交換器は長期間の使用に耐えないことになる。
【0010】
一方、組立後の熱交換器にリン酸クロメート皮膜のような化成皮膜を設ける方法があるが、化成皮膜のみでは、厳しい環境で使用される熱交換器の十分な耐食性を確保することができない。また、組立後の熱交換器に化成皮膜を形成した後、さらに耐食性塗料をポストコートにて設けることとすれば、化成皮膜のみの場合に比べて耐食性は向上するが、化成皮膜と耐食性塗料との間の密着性に劣るため、長期間に亘って使用した場合、塗膜の剥離が起こる恐れがある。この現象は、化成皮膜と耐食性塗膜との密着性が、水素結合程度の非常に弱い結合によるものであるためと考えられる。さらに、化成皮膜形成と耐食性塗料の塗布を共に行うことは、工程数の増大・コストの上昇を招き、また、化成皮膜処理後のリンス水廃液等による環境負荷増大の懸念もある。
【0011】
組立後の熱交換器に、化成皮膜を設けずに直接耐食性塗料をポストコートする方法も考えられるが、このような場合、アルミニウム表面と耐食性塗料との間の密着性が十分でないため、使用条件によっては塗膜剥離が起こることがある。
【特許文献1】特開昭59−43538号公報
【特許文献2】特開2000−226675号公報
【特許文献3】特開平06−65524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、拡管加工を用いて製造される熱交換器の製造に当たって、フィン材を成形加工する際に形成された切断面等、アルミニウムが剥き出しになる部分を保護し、熱交換器の長期間にわたる高度の耐食性を確保することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成すべく、本発明の熱交換器は、金属板を打ち抜いて孔部を形成する工程と、前記金属板に形成された孔部に管を挿入する工程と、前記管を拡管することにより管を金属板に固定して組立体となす工程とを含んで作製される熱交換器において、
孔部端面を含む前記金属板表面にジルコニウム化合物を含有する耐食性樹脂層が形成されており、前記耐食性樹脂層中のジルコニウム濃度が前記金属板側から上に向かって連続的に減少していることを特徴とする熱交換器である。
【0014】
かかる熱交換器は、前記組立体の一部又は全体をジルコニウム化合物及び水溶性の耐食性樹脂を含む水系塗料に浸漬する工程と、
浸漬後の熱交換器を、40℃以上でかつ前記耐食性樹脂の硬化温度よりも低い温度にて1秒以上保持した後、前記耐食性樹脂の硬化温度以上の温度に加熱する工程と、
を含む製造方法によって実現される。
【0015】
前記ジルコニウム化合物が、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム酸のいずれか一種以上であることとすると、特に好ましい。
また、前記水溶性の耐食性樹脂が、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリル変性エポキシ、ウレタンのいずれか一種以上を含むこととすると、さらに好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱交換器の製造方法によれば、熱交換器の細部にまで耐食性皮膜を行き渡らせることができ、アルミニウム切断面が剥き出しになっている部分を含めた全面を耐食性樹脂で確実に覆うことができるため、熱交換器の長期間にわたる高度の耐食性を確保することが可能になる。また、耐食性樹脂に含まれるジルコニウム化合物の働きにより、耐食性樹脂の熱交換器表面への密着性が大幅に向上し、熱交換器の高度な耐食性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0018】
本発明の熱交換器の製造方法において、打抜きで形成された孔部端面を含む熱交換器表面にジルコニウム化合物含有耐食性樹脂層(以下、単に耐食性樹脂層と呼ぶこともある。)を形成するには、ジルコニウム化合物及び水溶性の耐食性樹脂を含む水系塗料に、組立後の熱交換器を浸漬し、後述する所定の条件で加熱・乾燥を行う。この工程を行うことによって、耐食性樹脂中のジルコニウム化合物濃度が熱交換器表面から上に向かって減少していく、一種の傾斜構造が得られる。したがって、金属板表面に無機系化成皮膜と樹脂塗膜を順に形成した場合と同様な効果を持つ耐食性皮膜構造を、一つの工程で実現することができる。その上、耐食性樹脂中のジルコニウム化合物濃度が連続的に変化しているため、化成皮膜と樹脂塗膜との間の密着性が不足する問題は起きない。
【0019】
ジルコニウム化合物としては、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム酸のいずれか一種以上を使用することが好ましい。ジルコニウム化合物の量は、水溶性の耐食性樹脂の固形分に対し、0.2〜5.5重量%の範囲が好適である。0.2重量%未満では、ジルコニウム化合物の量が少な過ぎて、耐食性樹脂層と熱交換器表面との間の密着性に劣る。また、5.5重量%を超えると、耐食性樹脂がゲル化する恐れがあるため好ましくない。
【0020】
水溶性の耐食性樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリル変性エポキシ、ウレタンのいずれか一種以上を使用することが好ましい。
【0021】
また、耐食性樹脂層の形成量の調整は、水系塗料中の耐食性樹脂の固形分濃度を調整することにより可能である。本発明においては、樹脂固形分濃度が5〜30重量%となるようにすることが好ましい。樹脂固形分濃度が5%未満であると、必要な耐食性皮膜の量が確保できないばかりか、水系塗料の粘度が低くなり、塗料ハジキが起こったり、金属板の切断面に付着しなくなる等の不具合を招いたりする。一方、樹脂固形分濃度が30%以上であると、水系塗料の粘度が高くなり過ぎて熱交換器の細部にまで耐食性皮膜を確実に形成することができなくなり、また、皮膜が厚くなり過ぎてフィン間にブリッジが形成され、熱交換器の熱交換性能が阻害されることがある。
【0022】
熱交換器に設ける耐食性樹脂層の形成量は、上のようにして2.0〜30.0g/mとなるように調整するものとする。耐食性皮膜の量が2.0g/m未満である場合は十分な耐食性が得られない。一方、30.0g/mを超えてもそれ以上耐食性が向上しないばかりか、フィン材から空気中への熱伝達性が低下するため好ましくない。
【0023】
本発明の特徴である耐食性樹脂の傾斜構造を得るためには、熱交換器を水系塗料中に浸漬した後の加熱・乾燥工程が重要である。ジルコニウム化合物及び水溶性の耐食性樹脂を含む水系塗料においては、ジルコニウム化合物が液中に均一に分散している。そのため、この塗料中に熱交換器を浸漬し、通常の方法で加熱・乾燥しただけでは、ジルコニウム化合物が均一に分散した皮膜が得られるのみであり、本発明の特徴である、耐食性樹脂層中のジルコニウム濃度が金属板側から上に向かって連続的に減少している構造を得ることはできない。本発明の特徴である構造、すなわち、耐食性樹脂層の金属板表面付近ではジルコニウム化合物に富み、上に行くに従って徐々にジルコニウム化合物が減少し、耐食性樹脂層表面付近では樹脂分に富む構造を得るためには、耐食性樹脂層を設ける工程において、金属板表面の金属とジルコニウム化合物とが化学反応を起こすための時間が必要である。
【0024】
これを可能とするためには、まず、水系塗料中に浸漬後、取り出した熱交換器を、40℃以上、かつ水溶性の耐食性樹脂が硬化する温度未満の雰囲気温度において1秒以上保持する。この温度においては、水系塗料中の水分及び溶剤成分が徐々に揮発するのみで、樹脂の硬化は起こらない。また、ジルコニウム化合物は、金属板表面の水系塗料の中を自由に動ける状態である。従って、樹脂が硬化する前に、金属板表面の金属と水系塗料中のジルコニウム化合物とが選択的に反応を繰り返し、金属板表面付近にジルコニウム化合物に富む領域が形成される。
【0025】
その後、熱交換器を水溶性の耐食性樹脂の硬化温度以上の温度に加熱することにより、樹脂分を硬化させる。これにより、上記したような、いわゆる傾斜構造の耐食性樹脂層を得ることができる。(以後、加熱により熱交換器表面の樹脂塗料水溶液を乾燥・硬化させる工程を適宜「焼付け処理」と言う。)この焼付け処理を行う時間は、5分以上とし、熱交換器の生産性や製造ライン能力等を考慮して適宜設定すればよい。5分未満であると、耐食性樹脂層の硬化が不十分となる恐れがある。
【0026】
焼付け処理を行う装置は、上記した温度・時間の条件を実現できれば特に種類は限定されず、熱風炉、赤外炉などが使用できるが、処理効率の点からは熱風炉が最適である。
【0027】
本発明の熱交換器の製造方法においては、耐食性樹脂層を設ける際に、熱交換器の全体を水系塗料中に浸漬するため、熱交換器の細部にまで耐食性樹脂層による皮膜を行き渡らせることができ、金属板切断面が剥き出しになっている部分を含めた全面を耐食性樹脂層で確実に覆うことができる。なお、少なくとも金属板切断面が剥き出しになっている耐食性樹脂で覆うことができれば、必ずしも熱交換器の全体を浸漬せず、必要な部分が浸漬される態様であってもよい。
【0028】
〔実施例1〕
JIS3003相当のアルミニウム合金薄板(板厚0.100mm)を用意した。このアルミニウム合金薄板を、フィンプレス装置にて成形を行った後、孔部に銅管を挿入して拡管し、210mm×300mm×38.1mmの大きさの熱交換器を作製した。成形においては、孔部の直径を7.3mmとし、形成されたカラー部の高さを1.5mmとした。なお、揮発性のプレスオイルが付着しているのでこれを除去するために、熱交換器を150℃にて5分ほど乾燥させた。
【0029】
この熱交換器に耐食性樹脂層を形成するため、炭酸ジルコニウム及び水溶性エポキシ樹脂を含有する水系塗料(大日本インキ製のエポキシ樹脂塗料)に熱交換器を浸漬し、その直後に、40℃にて1秒間保持した。その後、200℃で焼付け処理を行った。焼付け処理の時間は5分間とした。
【0030】
水系塗料中の炭酸ジルコニウム濃度、及び熱交換器浸漬後の保持条件を種々変えて作製した熱交換器を本発明例1〜5及び比較例1〜4とし、以下に述べるように評価を行った。
【0031】
〔実施例1の評価〕
(1)耐食性樹脂層の状態評価:水系塗料に浸漬し、焼付け処理を行った後の熱交換器について、耐食性皮膜の状態を目視にて評価した。評価の基準は以下のとおりである。即ち、異常なしと認められたものを○、部分的に皮膜ハジキが発生していたものを△、多くの部分で皮膜ハジキが発生していたものを×とした。
【0032】
(2)熱交換器の耐食性:CASS試験機内に配置した熱交換器を、試験機外に設置したコンプレッサーユニットと配管接合し、熱交換器の運転を行わせた状態でCASS試験を行った。運転は、冷房運転30分、停止1時間の繰り返し運転とし、総試験時間は500時間とした。CASS試験後、熱交換器を取り出し、腐食の発生した面積を目視にて確認し、以下の基準により評価した。即ち、熱交換器全体の表面積に対する腐食発生面積の割合が30%以下のものを○、30%を超え60%以下のものを△、60%を超えたものを×とした。
【0033】
(3)耐食性樹脂層の密着性:上記の耐食性試験を実施した後の熱交換器において、耐食性樹脂層が残っている部分の密着性について目視で剥離の有無を評価した後、テープ密着試験を行い、剥離の有無を評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0034】
テープ密着試験前、試験後とも耐食性樹脂層の剥離なし・・・○
テープ密着試験前は剥離なし、試験後は剥離あり・・・△
テープ密着試験前に既に剥離あり・・・×
これら(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0035】
(4)傾斜構造の確認:耐食性樹脂層中の炭酸ジルコニウム濃度の深さ方向分布を調べるため、グロー放電発光分光分析装置(GDS)を用いて、深さ方向の元素分布を測定した。装置は堀場製作所「JY−5000RF」を使用し、プラズマ発光源にはArガスを用いた。各元素の検出波長は、C=156nm,Zr=339nmとした。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から分かるように、本発明例1〜5については、水系塗料中の炭酸ジルコニウム濃度を0.2〜5.5重量%の範囲とし、熱交換器浸漬後の保持時間を40℃、1秒としたことから、耐食性皮膜の状態・熱交換器の耐食性・耐食性皮膜の密着性ともに良好な結果が得られた。
【0038】
一方、比較例1では、水系塗料中の炭酸ジルコニウム濃度が0.18%と低かったため、耐食性樹脂層と熱交換器表面との間の密着性に劣り、また、その結果、熱交換器の耐食性に劣っていた。
【0039】
比較例2では、水系塗料中の炭酸ジルコニウム濃度が6%と高かったため、水系塗料がゲル化してしまい、熱交換器を浸漬することができなかった。
【0040】
比較例3では、熱交換器を水系塗料中に浸漬後、40℃での保持を行わずに焼付け処理を行ったため、耐食性樹脂層中のZr化合物濃度分布が傾斜構造とならずに均一構造となった。そのため、耐食性樹脂層の密着性に劣るとともに、熱交換器の耐食性も不十分であった。
【0041】
比較例4では、熱交換器を水系塗料中に浸漬後に保持を行った温度が38℃と低かったため、耐食性樹脂層中のZr化合物濃度分布が傾斜構造とならずに均一構造となった。そのため、耐食性樹脂層の密着性に劣るとともに、熱交換器の耐食性も不十分であった。
【0042】
〔実施例2〕
JIS3003相当のアルミニウム合金薄板(板厚0.100mm)を用意した。このアルミニウム合金薄板を、フィンプレス装置にて成形を行った後、孔部に銅管を挿入して拡管し、210mm×300mm×38.1mmの大きさの熱交換器を作製した。成形においては、孔部の直径を7.3mmとし、形成されたカラー部の高さを1.5mmとした。なお、揮発性のプレスオイルが付着しているのでこれを除去するために、熱交換器を150℃にて5分ほど乾燥させた。
【0043】
この熱交換器に耐食性樹脂層を形成するため、0.5重量%の炭酸ジルコニウム及び水溶性エポキシ樹脂を含有する水系塗料(大日本インキ製のエポキシ樹脂塗料)に熱交換器を浸漬し、その直後に、40℃にて2秒間保持した。その後、種々の温度で焼付け処理を行った。焼付け処理の時間は5分間とした。
【0044】
水系塗料中の耐食性樹脂の固形分濃度を調整することにより、耐食性皮膜の形成量を種々変化させて作製した熱交換器を本発明例1〜7及び比較例1〜4とし、以下に述べるように評価を行った。
【0045】
〔実施例2の評価〕
実施例2における評価方法及び評価基準は、実施例1に示したものと同様である。これらの評価結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2から分かるように、本発明例1〜7においては、耐食性樹脂層の形成量が2.0〜30.0g/mの範囲にあったため、耐食性皮膜の状態・熱交換器の耐食性・耐食性皮膜の密着性ともに良好な結果が得られた。
【0048】
一方、比較例1では、耐食性樹脂層の形成量が1.5g/mと少なかったため、熱交換器の耐食性に劣る結果となった。また、上記形成量とするために樹脂塗料水溶液中の樹脂固形分を低くしたので、樹脂塗料の粘度が不十分となった結果、フィン材のアルミニウム切断面における塗料ハジキが起こり、また、耐食性皮膜の密着性も不十分であった。
【0049】
比較例2では、耐食性皮膜の形成量が1.8g/mと少なかったため、熱交換器の耐食性に劣る結果となった。
【0050】
比較例3では、耐食性皮膜の形成量が32.0g/mと多かったため、耐食性皮膜が厚くなり過ぎ、フィン間にブリッジが形成される結果となった。
【0051】
比較例4では、焼付け処理時間が不足していたため、熱交換器の耐食性、耐食性皮膜の密着性に劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を打ち抜いて孔部を形成する工程と、前記金属板に形成された孔部に管を挿入する工程と、前記管を拡管することにより管を金属板に固定して組立体となす工程とを含んで作製される熱交換器において、
孔部端面を含む前記金属板表面にジルコニウム化合物を含有する耐食性樹脂層が形成されており、前記耐食性樹脂層中のジルコニウム濃度が前記金属板側から上に向かって連続的に減少していることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記ジルコニウム化合物が、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム酸のいずれか一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記水溶性の耐食性樹脂が、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリル変性エポキシ、ウレタンのいずれか一種以上を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱交換器。
【請求項4】
金属板を打ち抜いて孔部を形成する工程と、前記金属板に形成された孔部に管を挿入する工程と、前記管を拡管することにより管を金属板に固定して組立体となす工程とを含んで作製される熱交換器の製造方法において、
前記組立体の一部又は全体をジルコニウム化合物及び水溶性の耐食性樹脂を含む水系塗料に浸漬する工程と、
浸漬後の熱交換器を、40℃以上でかつ前記耐食性樹脂の硬化温度よりも低い温度にて1秒以上保持した後、前記耐食性樹脂の硬化温度以上の温度に加熱する工程と、
を含むことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項5】
前記ジルコニウム化合物が、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム酸のいずれか一種以上であることを特徴とする請求項4に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性の耐食性樹脂が、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリル変性エポキシ、ウレタンのいずれか一種以上を含むことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の熱交換器の製造方法。

【公開番号】特開2009−97769(P2009−97769A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268597(P2007−268597)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】