説明

熱交換器用プレートフィン材およびその製造方法ならびに該プレートフィン材を用いた熱交換器およびその製造方法

【課題】熱交換器のプレートフィンにおいて、良好なろう付性を確保するとともにろう付後による強度低下を防止して高い強度を確保する。
【解決手段】板厚が0.05〜0.15mmであり、接合部位が成形されて前記接合部位に伝熱管がろう付される単材またはクラッド材からなるプレートフィン材であって、前記単材またはクラッド材の芯材が質量%で、Mn:1.5超〜2.0%、Fe:0.15〜0.50%を含有し、かつ前記Mn、Fe含有量が3.5≦Mn/Fe≦10.0の条件を満たし、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、ろう付け熱処理後において、接合部位以外の部位が断面組織において面積率で50%以上の亜結晶組織を有し、前記接合部位が断面組織において亜結晶組織の面積率が50%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱交換器用プレートフィン材およびその製造方法ならびに該プレートフィン材を用いた熱交換器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用および業務用エアコンの熱交換器の一部には、板状に加工された複数のプレートフィンとこれらを貫通して設けられた伝熱管(チューブ)とを組み合わせて構成されるクロスフィンタイプのものが用いられている。上記プレートフィンには軽量で加工性や熱伝導性に優れるアルミニウム合金が使用されており、伝熱管には主に熱伝導性、加工性、強度等が優れる銅管(丸管)が広く用いられている。
【0003】
熱交換器の組立工程の一つには、プレートフィンに伝熱管の外径より直径の大きい固定穴をくり貫き、かかる貫通穴に伝熱管を挿入した後、伝熱管を内部から押し広げて拡管することで一体化されるものが挙げられる。図2に上記タイプの熱交換器の一部を示す。
すなわち、貫通孔11および図示しないカラー成形部が形成されたプレートフィン材10を用意し、複数のプレートフィン材10の貫通穴11に伝熱管12を挿入し固定している。プレートフィン材10は、伝熱管12への固定によってプレートフィンとして機能する。このタイプでは、伝熱管12とプレートフィン材10に未接着部分が発生すると、熱交換器として使用する際に熱交換性能(放熱性能)が大幅に低下してしまう。
【0004】
さらに、上記拡管の際に、積層されたプレートフィン同士のアベックが生じ、通気抵抗が上昇して熱交換器の性能が低下するという問題がある。さらに軽量化に伴い薄肉化されたプレートフィンにおいては、プレートフィンの剛性が低下する一方、カラー成形部の縦壁部分が加工硬化して強度が高くなり、拡管時に比較的強度の低い未加工部が曲がってさらにアベックが発生しやすくなることも問題になる。
【0005】
上記アベックの問題については、例えば、特許文献1には、Si、Mn、Zr、Tiを適量含有し、不純物として含まれるCu、Mg量を制限したフィン材によって、カラー成形部の加工硬化を抑制してアベックを防止するものが開示されている。特許文献2には、Fe、Tiを含有し、不純物として含まれるSi、Cu量を制限し、さらにMg量を制限したフィン材により、未加工部とカラー成形部との加工硬化量の差を小さくすることでアベックの発生を抑制するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−126799号公報
【特許文献2】特開2005−264289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、伝熱管の拡管する方法では、加工硬化による問題を避けがたく、近年、熱交換性能の向上を目的に従来の拡管接合タイプに代えてろう付けによる接合が検討されている。ろう付接合では、置きろうやAl−Si合金ろう材が表面に貼り合わされたクラッドフィンを用い、ろう付熱処理によってろう材のみを溶融させて伝熱管とフィン材とを接合している。しかし、ろう付熱処理によりプレートフィンが軟化するため、ろう付後のプレートフィンの強度(耐力)が大幅に低下して、熱交換器の取り扱い時にフィンの変形が容易に生じてしまうなどの問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、軽量化された薄肉のフィンと伝熱管との間の良好なろう付性を確保するとともに、ろう付後に得られる熱交換器の強度を大幅に向上させるプレートフィン材、熱交換器およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するべく研究を重ね、プレートフィン材の材料組織を制御することに着目した。熱間圧延、冷間圧延の工程で該フィン材に加えられる応力(歪みエネルギー)は、圧延工程における圧延率、焼鈍時の加熱温度、焼鈍時間によって変化するが、その後の成形加工、ろう付熱処理の際に該材料組織を形成することで解放される。該材料組織には、亜結晶組織、再結晶組織がある。本発明においては、特にろう付け加熱後においてもプレートフィンに高い強度を与える上で寄与する亜結晶組織に着目した。
【0010】
すなわち、本発明の熱交換器用プレートフィン材のうち第1の本発明は、板厚が0.05〜0.15mmであり、接合部位が成形されて前記接合部位に伝熱管がろう付される単材またはクラッド材からなる熱交換器用プレートフィン材であって、
前記単材または前記クラッド材の芯材が、質量%で、Mn:1.5超〜2.0%、Fe:0.15〜0.50%を含有し、かつ前記Mn、Fe含有量が3.5≦Mn/Fe≦10.0の条件を満たし、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、ろう付け熱処理後において、接合部位以外の部位が断面組織において面積率で50%以上の亜結晶組織を有し、前記接合部位が断面組織において亜結晶組織の面積率が50%未満であることを特徴とする

【0011】
第2の本発明の熱交換器用プレートフィン材は、前記第1の本発明において、前記組成として、さらに質量%で、Si:0.05〜1.2%、Cu:0.05〜0.50%、Zn:0.05〜5.0%、Zr:0.05〜0.20%、Ti:0.05〜0.20%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0012】
第3の本発明の熱交換器用プレートフィン材は、第1または第2の本発明において、質量%で、Si:5.0〜12.5%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるろう材が片面あるいは両面にクラッドされていることを特徴とする。
【0013】
第4の本発明の熱交換器用プレートフィン材は、前記第3の発明において、前記ろう材に、さらに質量%でZn:0.05〜5.0%、Sr:0.01〜0.05%、Mn:0.05〜1.0%、Ti:0.05〜0.20%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0014】
第5の本発明の熱交換器は、前記第1〜第4の本発明のいずれかに記載のプレートフィン材を素材とするプレートフィンの接合部位に伝熱管がろう付け接合されていることを特徴とする熱交換器。
【0015】
第6の本発明の熱交換器用プレートフィン材の製造方法は、前記第1または2の本発明に記載の組成を有する単材またはクラッド材の熱間圧延材を冷間圧延し、少なくとも1回の中間焼鈍を行い、最後の中間焼鈍後、最終冷間圧延を3%超〜15%未満の圧延率で行って、最終板厚を0.05〜0.15mmとすることを特徴とする。
【0016】
第7の本発明の熱交換器用プレートフィン材の製造方法は、前記第1または2の本発明に記載の組成を有する単材またはクラッド材の熱間圧延材を冷間圧延して最終板厚を0.05〜0.15mmとし、前記冷間圧延後、150〜250℃に加熱する最終焼鈍を行うことを特徴とする。
【0017】
第8の本発明の熱交換器の製造方法は、前記第6または7の本発明の製造方法により得られる熱交換器用プレートフィン材に穴あきの接合部位を成形して熱交換器用プレートフィンとし、前記接合部位に伝熱管を挿入し、ろう付けによって該伝熱管を前記熱交換器用プレートフィンに接合することを特徴とする。
【0018】
以下、本発明に規定する条件について説明する。なお、以下における各成分の含有量はいずれも質量%で示されている。以下のプレートフィン材の組成は、単材またはクラッド材の芯材に関するものである。
【0019】
(プレートフィン材)
Mn:1.5%超え〜2.0%
Mnは、Fe等とAl−Mn−Fe系の金属間化合物を生成することでろう付後のプレートフィンの強度を向上させる効果を有している。その含有量が1.5%以下では、その効果が十分発揮されず、2.0%を超えると、Al−Mn系の巨大晶が生成してアルミニウム合金板の製造性が大幅に低下する。そのためMn含有量は1.5超え〜2.0%に定める。なお、同様の理由により、下限は1.6%、上限は1.8%とするのが望ましい。
【0020】
Fe:0.15〜0.50%
Feは、Mn等とAl−Mn−Fe系の金属間化合物を生成することでろう付後のプレートフィンの強度を向上させる効果を有している。その含有量が0.15%未満では、フィンのろう付後のプレートフィンの強度が低下し、0.50%超えると、Al−Fe系の粗大な金属間化合物が生成し、フィン成形時の金型摩耗性が大幅に低下する。そのためFe含有量を0.15〜0.50%とする。なお、同様の理由により、下限は0.20%、上限は0.40%とするのが望ましい。
【0021】
Mn/Fe比:3.5≦Mn/Fe≦10.0
Mn含有量とFe含有量は3.5≦Mn/Fe≦10.0の条件を満たすことが必要である。Mn/Feが3.5未満であると、Al−Fe系の粗大な金属間化合物の割合が増加し、所望のろう付後強度が得られない。一方、Mn/Feが10.0を超えると、Al−Mn系の粗大な金属間化合物の割合が増加し、所望のろう付後強度が得られない。したがって、Mn/Fe比を上記範囲に限定する。なお、同様の理由で、上記比を5.0以上、8.0以下とするのが好ましい。
【0022】
プレートフィン材へのその他の添加元素
Si:0.05〜1.2%、Cu:0.05〜0.50%、Zr:0.05〜0.20%、Ti:0.05〜0.20%の1種または2種以上
Si、Cu、Zr、Tiは、ろう付後のプレートフィンの強度を向上させるので、所望により1種以上を含有させる。
Si、Cu、Zr、Tiの各元素の含有量が0.05%未満であると、ろう付後のプレートフィンの強度を向上させる効果が十分に得られない。一方、Siが1.2%、Cuが0.50%を超えるとプレートフィン材の自己耐食性が低下するとともに融点が低下してろう付時にプレートフィン材が溶融しやすくなる。また、Zrが0.20%、Tiが0.20%を超えると、巨大晶が生成しやすく、アルミニウム合金板の製造性が大幅に低下する。これらの理由により、Si、Cu、Zr、Tiの各含有量を上記に定める。
【0023】
Zn:0.05〜5.0%
Znの添加はプレートフィンの電位を卑とする効果を有するので所望により含有させる。Znの含有量が0.05%未満であると、電位への寄与が小さく、伝熱管に対する所望の犠牲陽極効果が得られない。一方、Znの含有量が5.0%を超えるとプレートフィンの自己耐食性が低下する。これらの理由によりZnの含有量を上記範囲に定める。
【0024】
板厚:0.05〜0.15mm
プレートフィン材の板厚が0.05mm未満であると、プレートフィン材の成形性が低下するとともにろう付時にプレートフィンが溶融しやすくなる。一方、0.15mmを超える板厚であると熱交換器の質量が増加するとともに熱交換性能が低下する。このため、プレートフィン材の板厚を0.05〜0.15mmとする。なお、同様の理由で、下限は0.07mm、上限は0.13mmとするのが望ましい。
なお、上記板厚は、プレートフィン材がクラッド材である場合は、全厚になる。
【0025】
(亜結晶組織率)
接合部位以外の部位:断面組織において面積率50%以上の亜結晶組織
接合部位 :断面組織において亜結晶組織の面積率が50%未満
亜結晶組織は各々の結晶粒径(亜結晶粒)が数μm以下と微細なため、ろう付時に結晶粒界を経路としたろう侵食(エロージョン)が起こりやすい一方で、これら微細な亜結晶粒は材料の変形を抑制するため、ろう付後の強度が向上する。一方で再結晶組織は結晶粒が粗大なため、亜結晶組織に比べて、ろう付性(耐エロージョン性)に優れる一方で、ろう付後の強度に劣る。
そこで、プレートフィン材のろう付後の断面組織において、接合部位以外の部位で面積率で50%以上の亜結晶組織を有することでろう付後の高強度を得る。なお、同様の理由で接合部位以外の部位で70%の亜結晶組織を有するのが望ましい。また、伝熱管との接合部位において断面組織において亜結晶組織の面積率を50%未満とすることでろう付性(耐エロージョン性)を確保する。なお、同様の理由で接合部位で亜結晶組織の面積率を30%以下とするのが望ましい。
なお、プレートフィン材がクラッド材である場合、上記組織率は、芯材のものを示している。
なお、ろう付処理により完全に再結晶しない組織を亜結晶組織と定義した。
【0026】
(ろう材)
本発明の熱交換器用プレートフィン材のろう付けに際し、置きろうを用いても良く、また、前記プレートフィン材を芯材としてろう材を片面または両面にクラッドしたものとしても良い。以下に、ろう材の好適な成分を説明する。以下の成分はいずれも質量%で示されている。
【0027】
Si:5.0〜12.5%
ろう材のSi量は、ろう付性に影響を及ぼし、Si量が5.0%未満では、ろう付時に溶融するろうの量が少なく、伝熱管との接合が不十分となり、Si量が12.5%を超えると、プレートフィン材へのエロージョン(ろう侵食)が大きくろう付後のプレートフィンに座屈が生じるおそれがある。そのためSi含有量は5.0〜12.5%とする。なお、同様の理由により、下限は6.5%、上限は9.5%が望ましい。
【0028】
ろう材へのその他の添加元素
Sr:0.01〜0.05%
Srは、ろう材Si粒子を微細化し、フィン成形時の金型摩耗性を向上させるとともにろう付性を向上させるので所望により含有させる。Sr含有量が0.01%未満であると、Si粒子微細化効果が得られず、0.05%を超えると巨大晶が生成しやすく、アルミニウム合金板の製造性が大幅に低下する。そのため、所望により含有させる場合、Srの含有量を0.01〜0.05%とする。
【0029】
Mn:0.05〜1.0%、Ti:0.05〜0.20%
Mn、Tiは、ろう材の流動性を抑え、伝熱管との接合状態を向上させる効果があるので所望により1種または2種を含有させる。Mnの含有量が0.05%未満であると、前記効果が十分でなく、1.0%を超えると巨大晶が生成しやすく、アルミニウム合金板の製造性が大幅に低下する。そのため、Mnを所望により含有させる場合、その含有量を0.05〜1.0%とする。Tiの含有量が0.05%未満であると、上記効果が十分でなく、0.20%を超えると巨大晶が生成しやすく、アルミニウム合金板の製造性が大幅に低下する。そのため、Tiを所望により含有させる場合、その含有量は0.05%〜0.20%とする。
【0030】
Zn:0.05〜5.0%
Znはフィンの電位を卑とする効果があるので所望により含有させる。その含有量が0.05%未満では前記効果が低く、伝熱管に対する所望の犠牲陽極効果が得られず、5.0%を超えるとプレートフィン材の自己耐食性が低下する。そのため、Znを所望により含有させる場合、その含有量を0.05〜5.0%とする。
【0031】
(プレートフィン材の製造工程)
プレートフィン材は、熱間圧延、冷間圧延を経て製造することができ、その一形態として冷間圧延中に中間焼鈍を行い、その後、最終冷間圧延を行う工程が挙げられる。当該工程では、最終冷間圧延の圧延率を規定する。
【0032】
最終冷間圧延率:3%超え〜15%未満
最終冷間圧延率はろう付後に所望の材料組織を得るために制御する。すなわち圧延率を適切にすることで、その後の成形加工およびろう付熱処理により、強度に優れる亜結晶組織を得るとともに伝熱管との接合部位(成形加工部位)では再結晶組織を得ることができる。ここで上記最終圧延率の範囲の下限未満では圧延による歪みエネルギーが小さく、その後の成形,ろう付処理を経てもフィン材に所望の亜結晶組織が得られない。また上限超では、歪みエネルギーが大きく、ろう付熱処理において、いずれの部位でも再結晶が進むため、所望の亜結晶組織が得られない。このため、最終冷間圧延率を3%超え〜15%未満とする。
【0033】
プレートフィン材の製造方法の他の形態として冷間圧延後、最終板厚で最終焼鈍を行う工程が挙げられる。当該工程では、最終焼鈍の温度を規定する。
【0034】
最終焼鈍温度:150℃〜250℃
最終板厚での焼鈍はろう付後に所望の材料組織を得るために制御する。すなわち焼鈍温度を適切にすることで、その後の成形加工およびろう付熱処理により、強度に優れる亜結晶組織を得るとともに伝熱管との接合部位(成形加工部位)では再結晶組織を得ることができる。ここで上記焼鈍温度の範囲の上限超では圧延による歪みエネルギーが小さくなり、その後の成形,ろう付処理を経てもフィン材に所望の亜結晶組織が得られない。また下限未満では、歪みエネルギーが大きく、ろう付熱処理において、いずれの部位でも再結晶が進むため、所望の亜結晶組織が得られない。そのため、最終焼鈍の温度を150℃〜250℃とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、プレートフィンの接合部以外で高い強度が得られるとともに、プレートフィンと伝熱管との接合部で良好なろう付け性を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態の熱交換器における、プレートフィンと伝熱管との接合状態を示す概略図である。
【図2】クロスフィン型熱交換器の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の1実施形態を説明する。
本発明の熱交換器用プレートフィン材の製造に用いる合金は、本発明で規定する成分設定に従って、例えば常法により溶製することができる。例えば、半連続鋳造により造塊することができるが、その溶解、鋳造方法は本発明としては特に限定されるものではない。
得られた鋳塊は、常法により均質化処理、熱間圧延や冷間圧延等の工程を経て最終板厚0.05〜0.15mmのアルミニウム合金板とする。
【0038】
冷間圧延工程では、300℃以上の条件で1回以上の中間焼鈍を行うことができる。最後の中間焼鈍から最終板厚までの最終冷間圧延率は3%超え〜15%未満にする。この場合の質別はH1nとなる。
或いは、上記と同様に熱間圧延工程を経た後、最終板厚まで冷間圧延し、その後、150℃〜250℃の温度に加熱する最終焼鈍を行う。この場合の質別はH2nとなる。
【0039】
また、プレートフィン材をクラッド材として提供する場合にはその片面或いは両面にろう材を配することができる。また、一表面にろう材、他表面に犠牲材をクラッドする場合には、犠牲材を構成するアルミニウム合金を同様に用意する。
プレートフィン材、ろう材、所望により犠牲材となる鋳塊を用意し、各材を組み合わせ、5〜20%のクラッド率で熱間圧延、冷間圧延によりクラッド材とし、クラッド材全体の最終板厚を0.05〜0.15mmとする。この際にも、上記と同様にH1nとなる質別で、冷間圧延中に1回以上の中間焼鈍を行い、最後の中間焼鈍から最終板厚までを冷間圧延率3%超え〜15%未満で最終冷間圧延を行う。あるいは、H2nとなる質別で、冷間圧延によって上記クラッド材全体の最終板厚とした後、150℃〜250℃の温度に加熱する最終焼鈍を行う。
【0040】
上記で得られたアルミニウム合金板はプレートフィン材として所定形状に成形し、貫通孔4およびカラー成形部3を成形する。このプレートフィン材1を熱交換器の一構成部材として他の構成部材(伝熱管やヘッダーなど)と組み付け、ろう付に供される。図1は、ろう材4をクラッドしたプレートフィン材1に伝熱管5を挿入した断面図を示しており、ろう付前の状態を示す。カラー成形部3は内面側のろう材4が伝熱管5に接触しており、本発明の接合部となる。
【0041】
ろう付における条件(ろう付温度、雰囲気、フラックスの使用の有無)は、本発明としては特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。ろう付熱処理によってろう材4は溶融し、カラー成形部3を介してプレートフィン材1と伝熱管5とが接合され、プレートフィン材1はろう付け後、プレートフィンとして機能する。
上記で作製された熱交換器は、エアコン等の用途に使用される。該熱交換器のプレートフィンは、接合部以外では面積率で50%以上の亜結晶組織を有し、ろう付け後においても高い強度を有し、接合部であるカラー成形部3では、亜結晶組織が面積率で50%未満になっており、良好なろう付けがなされている。
【実施例】
【0042】
表1に示される組成を有するプレートフィン材を半連続鋳造法により溶解、鋳造した。得られた鋳塊に対し、500℃、10時間の条件で均質化処理を行った後、熱間圧延をした後、冷間圧延をし、400℃、6時間の条件で中間焼鈍を行い、その後、最終板厚0.1mmまでの最終圧延率を表1に示す条件にして実施例1〜7、比較例1〜4のH1n調質材コイルを得た。
一方、同様に熱間圧延、冷間圧延を行い、冷間圧延における全圧下率を95%として最終板厚0.1mmを得た。その後、表1に示す温度で6時間の最終焼鈍を行って、実施例8〜14、比較例5〜8のH2n調質材コイルを得た。これらの供試材では、Si粉末を置きろうとして用いた。
【0043】
さらに、本発明の実施例1と同じ組成からなるプレートフィン材用の芯材合金と、表2に示す組成を有するろう材合金とを、熱間圧延、冷間圧延によって片面10%のみのクラッド率でクラッドした。なお、冷間圧延途中で400℃、6時間の条件で中間焼鈍を行い、中間焼鈍後の最終冷間圧延率を4%にして最終板厚(全体厚さ:0.1mm)まで最終冷間圧延をした。これにより、実施例15〜24、比較例9、10の供試材のコイルを得た。
次に、各供試材について以下の評価試験を行った。
【0044】
(ろう付後の断面組織)
各供試材を図1のように加工し、窒素ガス雰囲気中で600℃で3分間のろう付相当の加熱処理を行い、接合部位と接合部位以外の部位の断面を、図1で示される穴の直径部で切断し、樹脂に埋めて0.5mm×厚みの視野を光学顕微鏡により200倍の倍率で観察した。接合部位、接合部位以外の部位のそれぞれの10視野について、観察結果から画像処理解析装置を用いて解析し、合計の面積からその比率(%)を算出した。算出結果は表1、2に示した。クラッド材の場合、芯材について評価した。
【0045】
(ろう付前の切断加工性)
各供試材のコイルを幅32mmの条材にスリット加工し、得られた条材を用いて、高速プレス機(株式会社黒田製作所製)のエンドシャー(切断刃の材質;SKD6(硬度HRC50))による切断試験を実施した。試験条件は条材の送り速度200spm、5mmピッチで供試材の圧延垂直方向に切断した。評価は切断回数5万ショット後の切断片断面のバリ高さを測定し、以下のように評価した。評価結果を表3、4に示した。
非常に良好(◎):50μm未満のもの
良好(○):50μmで80μm未満のもの
不良(×):80μm以上のもの
【0046】
(ろう付後の強度)
各供試材について、単体で窒素ガス雰囲気中で600℃で3分ろう付加熱した後、JIS Z2241に基づいて、耐力(σy)を測定し、以下のように評価した。評価結果は表2、4に示した。
良好(○):60MPa以上のもの
不良(×):60MPa未満のもの
【0047】
(ろう付性)
得られたプレートフィン材を所定の伝熱管と組付けて、フッ化物系のフラックスを塗布後、窒素ガス雰囲気中で600℃で3分間ろう付加熱した。その後、ろう付品の接合部位においてプレートフィンを物理的に切断し、断面観察を実施し、接合部位のフィン総断面積中のろう侵食の面積率を、ろう侵食率(%)として画像解析装置にて測定し、以下のように評価した。
非常に良好(◎):30%未満のもの
良好(○):30%以上で50%未満のもの
不良(×):50%以上のもの
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【符号の説明】
【0052】
1 プレートフィン材
2 貫通孔
3 カラー成形部
4 ろう材
5 伝熱管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が0.05〜0.15mmであり、接合部位が成形されて前記接合部位に伝熱管がろう付される単材またはクラッド材からなる熱交換器用プレートフィン材であって、
前記単材または前記クラッド材の芯材が、質量%で、Mn:1.5超〜2.0%、Fe:0.15〜0.50%を含有し、かつ前記Mn、Fe含有量が3.5≦Mn/Fe≦10.0の条件を満たし、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、ろう付け熱処理後において、接合部位以外の部位が断面組織において面積率で50%以上の亜結晶組織を有し、前記接合部位が断面組織において亜結晶組織の面積率が50%未満であることを特徴とする熱交換器用プレートフィン材。
【請求項2】
前記組成として、さらに質量%で、Si:0.05〜1.2%、Cu:0.05〜0.50%、Zn:0.05〜5.0%、Zr:0.05〜0.20%、Ti:0.05〜0.20%のうち、1種または2種以上を含有する請求項1に記載の熱交換器用プレートフィン材。
【請求項3】
質量%で、Si:5.0〜12.5%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるろう材が片面あるいは両面にクラッドされていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換器用プレートフィン材。
【請求項4】
前記ろう材に、さらに質量%でZn:0.05〜5.0%、Sr:0.01〜0.05%、Mn:0.05〜1.0%、Ti:0.05〜0.20%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3記載の熱交換器用プレートフィン材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換器用プレートフィン材を素材とするプレートフィンの接合部位に伝熱管がろう付け接合されていることを特徴とする熱交換器。
【請求項6】
請求項1または2に記載の組成を有する単材またはクラッド材の熱間圧延材を冷間圧延し、少なくとも1回の中間焼鈍を行い、最後の中間焼鈍後、最終冷間圧延を3%超〜15%未満の圧延率で行って、最終板厚を0.05〜0.15mmとすることを特徴とする熱交換器用プレートフィン材の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の組成を有する単材またはクラッド材の熱間圧延材を冷間圧延して最終板厚を0.05〜0.15mmとし、前記冷間圧延後、150〜250℃に加熱する最終焼鈍を行うことを特徴とする熱交換器用プレートフィン材の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7の製造方法により得られる熱交換器用プレートフィン材にカラーを有する穴あきの接合部位を成形して熱交換器用プレートフィンとし、前記接合部位に伝熱管を挿入し、ろう付けによって該伝熱管を前記熱交換器用プレートフィンに接合することを特徴とする熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−224923(P2012−224923A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94685(P2011−94685)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)