説明

熱交換器

【課題】クラッド材に防食効果を有する電位勾配層を確実に形成することができ、冷却水に対して優れた耐食性が得られるとともに、クラッド材どうしの接合部近傍で薄板クラッド材に腐食孔が発生することを抑制できる熱交換器の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の熱交換器10は、薄板クラッド材2と、該薄板クラッド材2との間に通路4を画成するように配設され、前記薄板クラッド材2よりも厚い板厚を有する厚板クラッド材1と、各クラッド材1、2どうしの間に収容されたインナフィン3とを有し、厚板クラッド材1および薄板クラッド材2は、それぞれ、通路4側にZnを含有するろう材層12、22を有し、ろう付後表面Zn量A、Aが所定の条件を満たすように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車、各種電子機器回路等に搭載され、例えば半導体素子等の発熱素子を冷却する熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車、各種電子機器回路には、半導体素子のような発熱素子を冷却する熱交換器が搭載される。
図4に、この種従来の熱交換器の一例を示す。この熱交換器100は、冷媒として冷却水を用いる水冷方式として構成されており、半導体素子などの被冷却体が取り付けられるアルミニウム合金板からなる天板102と、該天板102との間に通路104を画成するアルミニウム合金板の底板101と、これらアルミニウム合金板の間に収容されたインナフィン103とを有し、通路104内を流れる冷却水とインナフィン103との熱交換によって天板102を介して被冷却体を冷却する。この種の熱交換器100では、冷却水と被冷却体との熱交換効率を高めるため、被冷却体が取り付けられる天板102は、底板101よりも十分薄い構造とされている。
また、近年では、天板102に、半導体素子(被冷却体)が接合される絶縁回路用基板(冷却素子基板)を取り付けたものも開発されている。この絶縁回路用基板は、AlNやSiなどの熱伝導絶縁セラミックスの両面に純アルミニウム等の金属板を貼り合わせたものであり、半導体素子と天板102とを絶縁しつつ、半導体素子が発生する熱を効率良く天板102に伝導する機能がある。
【0003】
上述の構成の熱交換器100では、例えば、天板102および底板101を構成するアルミニウム合金板として、少なくとも通路104側の面にろう材層101S、102Sを有するクラッド材が用いられ、熱交換器100を構成する天板102、底板101、インナフィン103は、先のろう材層101S、102Sによって互いにろう付されている。なお、以下の説明では、底板101となるクラッド材を「厚板クラッド材」と称し、天板102となるクラッド材を「薄板クラッド材」と称することがある。
【0004】
ところで、近年の環境志向の高まりから、自動車の軽量化が図られており、これに搭載される熱交換器100についても各構成部材の薄肉化が進行している。その一方で、半導体素子等の発熱量はより大きくなっており、これを冷却する熱交換器100に対しては、より大きな冷却性能が求められるようになっている。
【0005】
ここで、この種の熱交換器100にあっては、エンジンに通常設けられているラジエータなどと同様の腐食環境となるが、冷却水を流すと、冷却水と各部材が接触する結果、各部材が腐食環境に曝され、熱交換器100の構成部材にとって厳しい環境となる場合、特に薄肉化された天板102では、通路104側からの腐食が深さ方向に進行し、設計した寿命よりも早期に腐食孔が形成されるおそれがある。このため、熱交換器100の薄肉化と冷却性能の向上を同時に達成するには、特に、薄板クラッド材である天板102の耐食性を改善することが必須となる。
従来、熱交換器100の耐食性改善を目的としたブレージングシート(クラッド材)としては、芯材を、Znを添加したAl−Si系ろう材層もしくはAl−Zn系合金からなる皮材層(犠牲材層)でクラッドしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このうち、例えばろう材層を有するクラッド材を天板(薄板クラッド材)102として用い、ろう材層102Sが通路104側となるように熱交換器100に組み付け、ろう付けを行うと、ろう付けに際する熱処理によって、ろう材層102Sに含まれるZn成分が芯材中に拡散し、天板102の表面(通路104側の表面)102aから深さ方向にZn成分の濃度勾配が形成される。このZnの濃度勾配が生じることによって、薄板クラッド材からなる天板102の表面102aから深さ方向に電位勾配が生じる。このような電位勾配層が形成された天板102では、冷却水による腐食が面方向に優先的に進行し、深さ方向への腐食が抑制されるため、腐食孔の発生を抑止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−41895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記構成の熱交換器100において薄板クラッド材からなる天板102に、電位勾配層によって防食性を付与しようとすると以下のような問題を生じることがあった。
すなわち、薄板クラッド材の天板102に対し、防食効果を有する電位勾配層が形成されることを狙って熱交換器100を設計したとしても、ろう付後のクラッド材で狙った通りの電位勾配が形成されておらず、期待する防食効果が得られない場合があった。
【0009】
この点について本発明者らが検討を行ったところ、ろう付の際には、厚板クラッド材の底板101および薄板クラッド材の天板102において各ろう材層101S、102Sが溶融し、ろう付に供されるが、このとき天板102に接触する位置に存在する底板101で溶融したろう材の一部は、表面張力によって天板102の表面側に引き寄せられ、該表面を経由してインナフィン103側に流動することが判明した。そして、この過程で、天板102のZn成分が、底板101由来の溶融ろう材Lに溶け込んで希釈されるため、Zn成分による電位勾配が設計したパターンからずれてしまうものと考えられる。
【0010】
一方、仮に、薄板クラッド材の天板102側に防食性を有する電位勾配層が形成されていたとしても、底板101と天板102どうしの接合部近傍106において、天板102の表面102aが底板101の表面101aよりも電位が低いと、各表面101a、102aが接する接合部近傍で電池効果が生じ、天板102の腐食が優先的に進行する。これにより、天板102に目的とした耐用年数より早期に腐食孔が発生してしまう問題が生じる。
また、熱交換器100の冷却の効率を向上させるために、冷却水の流速を上げることも検討されているが、冷却水の流速を早くしすぎると、乱流が発生してエロージョンまたはコロージョンが発生するなどの問題もある。
【0011】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、熱交換器を構成する各クラッド材に防食効果を有する電位勾配層を確実に形成することができ、冷却水に対して優れた耐食性が得られるとともに、各クラッド材どうしの接合部近傍において薄板クラッド材が用いられていても腐食孔の発生を抑制できる熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが、熱交換器の耐食性を改善すべく検討を行った結果、板厚の異なるブレージングシートを組み合わせた場合の耐食性については、一方のブレージングシートの組成だけでなく、他方のブレージングシート側から流動してくるろう材の影響も考慮する必要があり、各ブレージングシートのろう付後の表面Zn量を規定することにより、ろう付条件に関わりなく、各ブレージングシートの耐食性が確実に改善されるとの知見を得るに至った。
本発明は、かかる知見に基づいて成されたものであって、以下の構成を有する。
【0013】
本発明の熱交換器は、薄板クラッド材と、該薄板クラッド材との間に通路を画成するように配設され、該薄板クラッド材よりも厚い板厚を有する厚板クラッド材と、前記各クラッド材どうしの間に収容されたインナフィンとを有し、これら各部材の被接合部どうしがろう付接合されて構成され、前記薄板クラッド材の前記通路と反対側に取り付けられた被冷却体を、前記通路を流動する冷却水との熱交換によって冷却する熱交換器であって、前記厚板クラッド材および前記薄板クラッド材は、いずれも芯材および該芯材の前記通路側の表面を被覆するろう材層を有し、前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%、Cu:0.05〜0.8質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%、前記ろう材層は、SiおよびZnを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、
Si:4.5〜11.0質量%、Zn:0.5〜6.0質量%、
前記インナフィンは、Mn、Znを下記の含有量で含有するとともに、Cu、Si、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成されており、Mn:0.8〜1.5質量%、Zn:0.5〜3.0質量%、Cu:0.05〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.20質量%、
ろう付後における前記厚板クラッド材の前記通路側表面のZn量をA、ろう付後における前記薄板クラッド材の前記通路側表面のZn量をAとしたとき、下記の条件を満たすことを特徴とする。
:0.5〜3.0質量%、A:0.4〜2.0質量%、A>A−0.5
【0014】
また、本発明の熱交換器は、薄板クラッド材と、該薄板クラッド材との間に通路を画成するように配設され、該薄板クラッド材よりも厚い板厚を有する厚板クラッド材と、前記各クラッド材どうしの間に収容されたインナフィンとを有し、これら各部材の被接合部どうしがろう付接合されて構成され、前記薄板クラッド材の前記通路と反対側に取り付けられた被冷却体を、前記通路を流動する冷却水との熱交換によって冷却する熱交換器であって、前記厚板クラッド材は、芯材および該芯材の前記通路側の表面を被覆するろう材層を有し、前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%、Cu:0.05〜0.8質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%、
前記ろう材層は、SiおよびZnを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、Si:4.5〜11.0質量%、Zn:0.5〜6.0質量%
前記薄板クラッド材は、芯材および該芯材の前記通路側の表面を被覆する犠牲材層を有し、前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%、Cu:0.05〜0.8質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%、
前記犠牲材層は、Znを下記の含有量で含有するとともに、Si、Fe、Mn、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金犠牲材によって構成されており、
Zn:0.5〜5.0質量%、Si:0.1〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Mn:0.1〜1.1質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%、
前記インナフィンは、芯材と、該芯材の薄板クラッド材側の片面あるいは両面を被覆するろう材層とを有するクラッド材であって、
Mn、Znを下記の含有量で含有するとともに、Cu、Si、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成されており、
Mn:0.8〜1.5質量%、Zn:0.5〜3.0質量%、Cu:0.05〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.20質量%、
前記ろう材層は、SiおよびZnを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、Si:5.0〜12.0質量%、Zn:0.5〜3.0質量%
ろう付後における前記厚板クラッド材の前記通路側表面のZn含有量をB、ろう付後における前記薄板クラッド材の前記通路側表面のZn含有量をBとしたとき、下記の条件を満たすことを特徴とする。
:0.5〜3.0質量%、B:0.4〜2.0質量%、B>B−0.5
【0015】
また、本発明において、前記薄板クラッド材は、前記芯材の前記通路と反対側の面を被覆するろう材層を有し、前記ろう材層は、Siを5.0〜12.6質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱交換器によれば、厚板クラッド材が、通路側にZnを含有するろう材層を有するとともに、薄板クラッド材が、通路側にZnを含有するろう材層もしくはZnを含有する犠牲材層を有するため、ろう付に際する熱処理によって各ろう材層もしくは犠牲材層に含まれるZn成分が拡散し、厚板クラッド材および薄板クラッド材の各通路側に電位勾配層が形成される。また、厚板クラッド材および薄板クラッド材は、ろう付後の各通路側表面(電位勾配層表面)のZn含有量A、A、B、Bが所定の条件を満たしていると、電位勾配層によって優れた防食効果が得られる。このため、本発明の熱交換器では、腐食が確実に抑制され、各クラッド材、特に、薄板クラッド材において腐食孔の発生を効果的に抑えることができる。また、冷却水の流速を速くした場合であっても、各クラッド材のエロージョンおよびコロージョンが確実に抑制され、各クラッド材、特に、薄板クラッド材において腐食孔の発生を効果的に抑えることができる。
【0017】
また、薄板クラッド材の通路側表面のZn含有量A、Bとして、A−0.5、B−0.5が厚板クラッド材の通路側表面のZn含有量A、Bよりも小としていることにより、薄板クラッド材の通路側表面は、厚板クラッド材の通路側表面よりも電位が貴となる。これにより、各クラッド材どうしの接合部近傍で、電池効果による薄板クラッド材の腐食の進行が抑えられ、この接合部近傍での腐食孔の発生を抑止することができる。厚板クラッド材では、薄板クラッド材に比べて板厚が厚く、芯材からろう材表面へのCu拡散量が少なくなる。Zn量の同量の場合、その表面の電位は薄板クラッド材よりも厚板クラッド材の方が卑になる。ろう材表面Zn量の比較をA>A−0.5、B>B−0.5としたのは、これら関係による。
したがって、本発明の熱交換器は、冷却水の流速を上げても薄板クラッド材に腐食孔が発生し難く、各部材の薄肉化と冷却性能の向上を同時に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の熱交換器の第1実施形態を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明の熱交換器の第3実施形態を示す概略縦断面図である。
【図3】本発明の熱交換器の第4実施形態を示す概略縦断面図である。
【図4】従来の熱交換器を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明にかかる熱交換器の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明にかかる熱交換器の第1実施形態を示す概略縦断面図である。
図1に示す熱交換器10は、底板となる厚板クラッド材1と、インナフィン3と、天板となる薄板クラッド材2とがこの順に積層され、各クラッド材1、2の内側面に設けられた各ろう材層12、22により、各クラッド材1、2の被接合部13、23どうし、および、各表面1a、2aとインナフィン3とがろう付接合されて構成されている。
【0020】
厚板クラッド材(底板)1および薄板クラッド材(天板)2は、冷却水(冷媒)が流動する通路4を画成する。
厚板クラッド材1は、板状をなし、その所定の間欠位置に薄板クラッド材2の被接合部23と接合される段差部(被接合部)13が形成されている。厚板クラッド材1は、後述する薄板クラッド材2よりも厚い板厚とされ、具体的には1.0〜4.0mm程度の厚みに形成される。
薄板クラッド材2は、厚板クラッド材1と略同じ平面形状をなす板体であり、その所定の間欠位置に厚板クラッド材1の被接合部13と接合される段差部(被接合部)23が形成されている。薄板クラッド材2は、厚板クラッド材1よりも薄い板厚とされ、具体的には0.2〜2.0mm程度とされている。
厚板クラッド材1と薄板クラッド材2とは、各段差部13、23どうしがろう付接合されており、厚板クラッド材1と薄板クラッド材2との間には、段差部13、23の側壁によって囲まれた形状の冷媒の通路4が画成されている。
本実施形態において、厚板クラッド材1と薄板クラッド材2の複合構造とするのは、厚板クラッド材1を用いることで冷却器(熱交換器)としての剛性を確保するため、前述の厚さが必要であり、また、薄板クラッド材2を用いることで軽量化を図り、冷却性能を上げるためである。
【0021】
インナフィン3は、蛇腹状をなし、通路4内に収容されている。インナフィン3は、各折曲部(被接合部)33が、厚板クラッド材1または薄板クラッド材2の各表面(通路側の表面)1a、2aにろう付されている。
この熱交換器10では、薄板クラッド材2の外側面(通路4と反対側の面)2bに被冷却体が取り付けられ、該被冷却体を、通路4内を流動する冷却水などの冷媒によって、インナフィン3および薄板クラッド材2を介して冷却できるように構成されている。なお、通路4を流れる冷媒の流動方向は図1の紙面に垂直な方向であり、通路4の流入側と流出側は冷媒の循環器に接続されて通路4を介して冷媒が循環されるように構成されている。
【0022】
以上のような熱交換器10を製造するには、例えば、厚板クラッド材1、薄板クラッド材2およびインナフィン3にフッ化物系のフラックス(例えば、非腐食性のノコロックフラックスやZn置換フラックス等)を塗布し、これらを組み立てた後、窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気となされた炉内で熱処理する。熱処理温度は590〜620℃程度とする。これにより、各クラッド材1、2のろう材層が溶融、流動し、その後、炉内の温度を降下させることによって、ろう材が固化する。その結果、各被接合部13、23、33どうしがろう付接合され、熱交換器10が得られる。
【0023】
次に、熱交換器10の各部構成および成分組成について説明する。
(1)厚板クラッド材
厚板クラッド材1は、芯材11と、該芯材11の通路4側の表面を被覆するろう材層12とを有している。
芯材11は、Mn、Cu、Siを含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成されている。各成分の含有量はMn:0.4〜1.5質量%、Cu:0.05〜0.8質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%である。また、その作用は下記の通りである。
【0024】
Mn:Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の厚板クラッド材1の強度を向上させる作用がある。また、Al−Mn−Si系化合物を形成することにより、アルミニウムマトリックスのSi固溶度を低くし、マトリックスの融点を向上させる効果がある。
Mnの含有量が0.4質量%未満であると、これらの効果が十分に得られない。また、Mnの含有量が1.5質量%を超えると、アルミニウム合金素材の鋳造性や加工性(圧延性)が低下してしまう。
Si:Siは、Al−Mn−Si系化合物として分散あるいはアルミニウムマトリックスに固溶して存在し、芯材11の強度を向上させる作用がある。
Siの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Siの含有量が1.0質量%を超えると、芯材11の融点が低下し、ろう付時に芯材11が溶融する可能性がある。
【0025】
Cu:Cuは、マトリックス中に固溶して存在し、芯材11の強度を向上させる作用がある。
Cuの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Cuの含有量が0.8質量%を超えると、ろう材表面へ拡散しCuは後述する電位勾配層の犠牲陽極効果を低減させ、その防食効果を損なってしまう。また、Cuの含有量が多過ぎると、芯材11の融点が低下し、ろう付時に芯材11が溶融する可能性がある。また、強度が高くなり過ぎてプレス成形性が低下する。
Fe:Feは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の厚板クラッド材1の強度を向上させる作用がある。また、Al−Mn−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Mn−Fe−Si系の化合物を形成することによって、アルミニウムマトリックス中のMn固溶度およびSi固溶度を低下させ、アルミニウムマトリックスの融点を向上させる効果がある。
Feの含有量が0.05質量%未満であると、これらの効果が十分に得られない。また、Feの含有量が0.5質量%を超えると、芯材11の腐食速度が速くなってしまう。また、巨大晶出物が出現し、これによってアルミニウム合金素材の鋳造性や圧延性が低下してしまう。なお、Feの不可避不純物の範囲は0.05%未満である。
【0026】
Ti、Zr:TiおよびZrは、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、厚板クラッド材1の強度を向上させる作用がある。
これらの含有率が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Ti含有率が0.20質量%を超えた場合、あるいは、Zr含有率が0.15質量%を超えた場合には、芯材11の加工性が低下してしまう。なお、TiおよびZrの不可避不純物の範囲は0.05%未満である。
【0027】
ろう材層12は、被接合部13、23どうし、および、表面1aとインナフィン3の折曲部33とをろう付するろう材を供給する。
SiおよびZnを含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されている。SiおよびZnの含有量はSi:4.5〜11.0質量%、Zn:0.5〜5.0質量%であり、その作用は下記の通りである。
【0028】
Si:Siは、ろう付工程の熱処理によって溶融、流動した後、固化することによって被接合部13、23どうし、および、表面1aとインナフィン3の折曲部33とをろう付接合する。Siは、ろう材の融点を低下させ、その溶融状態での流動性を高める作用がある。
Siの含有量が4.5質量%未満であると、ろう付性が不十分となる。また、Si含有量が12.6質量%を超えると、ろう材の芯材11あるいは被接合部材2、3への侵食が激しくなる。
【0029】
Zn:Znは、ろう付工程の熱処理によって芯材11中に拡散し、厚板クラッド材1の表面1aから深さ方向にZnの濃度勾配を形成する。そして、Znは、比較的電位が卑であるため、そのような濃度勾配が形成されることによって、厚板クラッド材1の表面1aから深さ方向に電位勾配が生じる。
このような電位勾配層が形成された厚板クラッド材1では、通路4内が冷却水による腐食環境となったとき、電位勾配を形成するZnの犠牲陽極効果によって腐食が面方向に優先的に進行し、深さ方向への腐食の進行が抑制されるため、冷却水が流れる腐食環境下であっても優れた耐食性を得ることができる。また、厚板クラッド材1のろう材層12がZnを含んでいると、その溶融ろう材が薄板クラッド材2の内側の表面2aに沿って流動しても、薄板クラッド材2のZn成分はほとんど希釈されない。このため、薄板クラッド材2側で防食効果に優れた電位勾配層を容易に形成することができる。
Znの含有量が0.5質量%未満であると十分な電位勾配が形成されず、また、Znの含有量が5.0質量%を超えると電位勾配層の自己腐食速度が速くなりすぎ、厚板クラッド材1の耐食性および耐エロージョンおよび耐コロージョン性を改善することができない。
【0030】
また、以上のような耐食性を得るために、厚板クラッド材1は、ろう付後の通路側表面(電位勾配層の表面)1aのZn含有量A(以下、「ろう付後表面Zn量A」と言う。)が0.5〜3.0質量%であることが重要である。この理由については後に詳述する。
【0031】
(2)薄板クラッド材
薄板クラッド材2は、芯材21と、該芯材21の通路4側の表面を被覆するろう材層22とを有しており、その厚さが厚板クラッド材1の1/2未満とされるとともに、ろう付後の通路側表面2aのZn含有量A(以下、「ろう付後表面Zn量A」と言う。)が、0.4〜2.0質量%であって厚板クラッド材1のろう付後表面Zn量Aよりも小となるように規定されている以外は、前記厚板クラッド材1と同様の構成とされている。
【0032】
ここで、薄板クラッド材2は厚さが薄いため、従来の構成では、冷却水による腐食の進行によって腐食孔が発生し易く、これが熱交換器10に孔が開く原因になるおそれを有していた。
これに対して、本発明では、薄板クラッド材2が、通路4側にZnを含有するろう材層22を有することにより、前述の厚板クラッド材1の場合と同様、薄板クラッド材2においても、ろう付に際する熱処理によってろう材層22のZn成分が芯材21中に拡散して電位勾配層が形成される。これにより、深さ方向への腐食の進行が抑制されるため、薄板クラッド材2で特に問題となる腐食孔の発生を抑えることができる。
【0033】
ただし、以上のような耐孔食性を得るには、各クラッド材1、2のろう付後表面Zn量A、Aが所定の条件を満たす必要がある。以下、この理由について説明する。
本発明では、前述のように厚板クラッド材1のろう付後表面Zn量Aを0.5〜3.0質量%に規定し、薄板クラッド材2のろう付後表面Zn量Aを0.4〜2.0質量%であってA>A−0.5となるように規定する。
各クラッド材1、2のろう付後表面Zn量A、Aは、言い換えれば、ろう付の加熱処理によって形成された電位勾配層の表面Zn量である。表面Zn量A、Aが前記範囲の電位勾配層は、優れた防食効果を発揮し、各クラッド材1、2の冷却水に対する耐食性を大きく改善することができる。
【0034】
ここで、ろう付前の各クラッド材について、防食効果が得られるようにZn含有量を規定しても、Zn成分は、ろう付に際する熱処理によって拡散したり、他方のクラッド材から流動してきた溶融ろう材に溶け込んだりして分布が変化するため、設計した通りの防食効果を得るのが難しい。これに対して、本発明のように、ろう付後の各クラッド材1、2について、防食効果が得られるように表面Zn量A、Aを規定すると、ろう付後はZn分布が変化するような処理は行われないため、完成した熱交換器10において目的の防食効果を得ることができる。
【0035】
また、薄板クラッド材2の表面Zn量Aから0.5を引いた濃度が厚板クラッド材1の表面Zn量Aよりも小とすることにより、Znの影響により、薄板クラッド材2の通路側表面2aは、厚板クラッド材1の通路側表面1aよりも電位が貴となる。これにより、各クラッド材1、2どうしの被接合部13、23近傍で、電池効果による薄板クラッド材2の腐食の進行が抑えられ、その腐食孔の発生を抑止することができる。
ここで、厚板クラッド材1および薄板クラッド材2のろう付後表面Zn量A、Aは、各部11、12、21、22の成分組成、芯材11、21の板厚、ろう材層12、22のクラッド率、ろう付の条件等によって所定の範囲に制御することができる。
【0036】
(3)インナフィン
本実施形態のインナフィン3は、Mn、Znを含有するとともに、Cu、Si、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金のベア材によって構成されている。各成分の含有量はMn:0.8〜1.5質量%、Zn:0.5〜3.0質量%、Cu:0.05〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.20質量%である。また、その作用は下記の通りである。
【0037】
Mn:Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後のインナフィン3の強度を向上させる作用がある。また、Al−Mn−Si系化合物を形成することにより、マトリックスのSi固溶度を低くし、マトリックスの融点を向上させる効果がある。
Mnの含有量が0.8質量%未満であると、これらの効果が十分に得られない。また、Mnの含有量が1.5質量%を超えると、アルミニウム合金素材の鋳造性や加工性(圧延性)が低下してしまう。
Zn:Znは、インナフィン3の電位を卑にして、各クラッド材1、2に対する犠牲陽極効果を向上させる作用がある。
Znの含有量が0.5質量%未満であると、この効果が十分に得られない。また、Znの含有量が3.0質量%を超えると、インナフィン3の自己腐食速度が速くなり過ぎ、自己耐食性が低下する。
【0038】
Cu:Cuは、マトリックス中に固溶して存在し、インナフィン3の強度を向上させる作用がある。
Cuの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Cuの含有量が0.3質量%を超えると、Cuは電位が比較的貴であるため、インナフィン3の犠牲陽極効果を低減させてしまう。また、Cuの含有量が多過ぎると、インナフィン3の融点が低下し、ろう付時にインナフィン3が溶融する可能性がある。なお、Cuの不可避不純物濃度範囲は0.05%未満とする。
Si:Siは、Al−Mn−Si系化合物として分散あるいはアルミニウムマトリックスに固溶して存在し、インナフィン3の強度を向上させる作用がある。
Siの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Siの含有量が1.0質量%を超えると、インナフィン3の融点が低下し、ろう付時にインナフィン3が溶融する可能性がある。また、その熱伝導性が低下し、熱交換器の熱交換効率が低くなってしまう。なお、Siの不可避不純物濃度範囲は0.05%未満とする。
【0039】
Fe:Feは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後のインナフィン3の強度を向上させる作用がある。また、Al−Mn−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Mn−Fe−Si系の化合物を形成することによって、マトリックス中のMn固溶度およびSi固溶度を低下させ、マトリックスの融点を向上させる効果がある。
Feの含有量が0.05質量%未満であると、これらの効果が十分に得られない。また、Feの含有量が0.5質量%を超えると、インナフィン3の腐食速度が速くなり過ぎてしまう。また、巨大晶出物が出現し、これによってアルミニウム素材の鋳造性や圧延性が低下してしまう。なお、Feの不可避不純物濃度範囲は0.05%未満とする。
【0040】
Ti、Zr:TiおよびZrは、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、インナフィン3の強度を向上させる作用がある。
これらの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、これらの含有量が0.20質量%を超えた場合には、インナフィン3の加工性が低下してしまう。なお、TiおよびZrの不可避不純物濃度範囲は0.05%未満とする。
【0041】
以上のように、第1実施形態の熱交換器10は、厚板クラッド材1および薄板クラッド材2の各通路4側にZnを含有するろう材層12、22を有するとともに、各クラッド材1、2のろう付後表面Zn量A、Aが所定の条件を満たしているため、各クラッド材1、2の通路4側に防食効果に優れた電位勾配層を形成することができる。このため、この熱交換器10では、冷却水が供給される構造を採用した場合でも、クラッド材1、2の腐食が確実に抑制され、特に、薄板クラッド材2において腐食孔の発生を効果的に抑えることができる。
【0042】
また、薄板クラッド材2の表面Zn量Aを、厚板クラッド材1の表面Zn量Aよりも小としていることにより、薄板クラッド材2の通路側表面2aは、厚板クラッド材1の通路側表面1aよりも電位が貴となり、各クラッド材1、2どうしの被接合部13、23近傍で、電池効果による薄板クラッド材2の腐食の進行が抑えられ、その腐食孔の発生を抑止することができる。
したがって、この熱交換器10は、冷却水を流しても薄板クラッド材2に腐食孔が発生し難く、薄板クラッド材2の薄肉化と冷却性能の向上、耐食性の向上効果を同時に達成することができる。
【0043】
<第2実施形態>
次に、本発明にかかる熱交換器の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態においては、前記第1実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
第2実施形態の熱交換器は、先の実施形態の熱交換器10に対し、薄板クラッド材2が、ろう材層22の代わりに犠牲材層を有し、インナフィン3が、芯材と、該芯材の薄板クラッド材側の片面あるいは両面を被覆するろう材層とを有するクラッド材であること以外は、前記第1実施形態と同様に構成されている。
【0044】
犠牲材層は、芯材21の通路4側の表面を被覆するように設けられている。この犠牲材層は、Znを含有するとともに、Si、Fe、Mn、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成されている。各成分の含有量は、Zn:0.5〜5.0質量%、Si:0.1〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Mn:0.1〜1.1質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%である。各成分の作用は以下の通りである。
【0045】
Zn:Znは、ろう付工程の熱処理によって薄板クラッド材2の表面2aから深さ方向にZnの濃度勾配を形成する。Znは、アルミニウムマトリックスに添加されると比較的電位が卑であるため、そのような濃度勾配が形成されることによって、薄板クラッド材2の表面2aから深さ方向に電位勾配が生じる。
このような電位勾配層が形成された薄板クラッド材2では、その犠牲陽極効果によって、冷却水による腐食が面方向に優先的に進行し、深さ方向への腐食の進行が抑制される。このため、腐食孔の発生を抑えることができる。
Znの含有量が0.5質量%未満であると十分な電位勾配が形成されず、また、Znの含有量が5.0質量%を超えると電位勾配層の自己腐食速度が速くなりすぎ、天板2の深さ方向への腐食を十分に抑えることができない。
ただし、以上のような耐孔食性を得るには、前記第1実施形態と同様、各クラッド材1、2のろう付後表面Zn量B、Bが所定の条件を満たすことが重要である。
【0046】
Si、Fe、Mn:これらの成分は、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の天板2の強度および耐食性を向上させる作用がある。
各成分の含有量が上限より少ない場合には、これらの効果が十分に得られない。また、各成分の含有量が上限を超えると、犠牲材層の腐食速度が速くなりすぎ、芯材の腐食を十分に抑えることができない。
Ti、Zr:これらの成分は、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、天板2の強度を向上させる作用がある。
これらの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Ti含有量が0.20質量%を超えた場合、あるいは、Zr含有量が0.15質量%を超えた場合には、犠牲材層の自己耐食性および加工性が低下してしまう。
また、この熱交換器において、厚板クラッド材1のろう付後表面Zn量Bは0.5〜3.0質量%、薄板クラッド材2のろう付後表面Zn量Bは0.4〜2.0質量%であり、且つ、Bより0.5を引いた濃度が、Bより小となるように規定されている。
【0047】
この第2実施形態の熱交換器では、厚板クラッド材1が、通路側にZnを含有するろう材層12を有するとともに、薄板クラッド材2が、通路側にZnを含有する犠牲材層を有するため、ろう付に際する熱処理によってろう材層12、犠牲材層に含まれるZn成分が芯材11、21中に拡散し、厚板クラッド材1および薄板クラッド材2の各通路4側に電位勾配層が形成される。また、厚板クラッド材1および薄板クラッド材2のろう付後表面Zn含有量B、Bが所定の条件を満たしていることにより、この電位勾配層は優れた防食効果を発揮する。このため、この熱交換器では、冷却水を流す構造とした場合でも、各クラッド材1、2の腐食が確実に抑制され、各クラッド材1、2、特に、薄板クラッド材2において腐食孔の発生を効果的に抑えることができる。
【0048】
また、薄板クラッド材の通路側表面のZn含有量Bより0.5を引いた濃度が、厚板クラッド材の通路側表面のZn含有量Bよりも小としていることにより、薄板クラッド材2の通路側表面2aは、厚板クラッド材1の通路側表面1aよりも電位が貴となる。これにより、各クラッド材1、2どうしの接合部近傍で、電池効果による薄板クラッド材1の腐食の進行が抑えられ、この接合部近傍での腐食孔の発生を抑止することができる。
したがって、本発明の熱交換器は、冷却水の流速を上げても薄板クラッド材に腐食孔が発生し難く、各部材の薄肉化と冷却性能の向上を同時に達成することができる。
【0049】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態の熱交換器について説明する。なお、第3実施形態においては、前記第1実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
図2は、第3実施形態の熱交換器を示す概略縦断面図である。
第3実施形態の熱交換器20は、薄板クラッド材2が、通路4と反対側にろう材層24を有する3層構成とされている以外は、前記第1実施形態と同様の構成とされている。
【0050】
ろう材層24は、芯材22の通路4側と反対側の表面2bを被覆するように設けられている。このろう材層24は、Siを5.0〜12.6質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されている、
【0051】
この第3実施形態においても、前記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、第3実施形態では特に、薄板クラッド材2が通路4と反対側にろう材層24を有するため、このろう材層24により、被冷却体を、熱交換器を構成する各部材のろう付工程と同じ工程で薄板クラッド材2の上にろう付接合することができる。これにより、熱交換器20と被冷却体との冷却ユニット構造を短時間で形成できるという効果が得られる。
【0052】
以上、本発明の熱交換器の実施形態について説明したが、前記熱交換器を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
例えば、第2実施形態の熱交換器において、薄板クラッド材2が、通路4と反対側にろう材層を有していてもよい。
<第4実施形態>
図3は第4実施形態の熱交換器40を示すもので、本実施形態の熱交換器40においては薄板クラッド材2が、通路4と反対側にろう材層24と犠牲材層25を有する4層構造とされている以外は第2実施形態の薄板クラッド材2と同等構造とされている。
本実施形態のろう材層24は先の第3実施形態のろう材層24と同等であり、犠牲材層25は先の第2実施形態の犠牲材層と同等である。
本第4実施形態の構造においては、第2実施形態の熱交換器と同等の効果を得ることができる。
【0053】
また、本発明の熱交換器において、薄板クラッド材の通路と反対側に取り付けられる被冷却体は、特に限定されないが、半導体素子等の発熱素子や、冷却素子基板(例えばAlNやSi等の熱伝導性セラミックスの両面にアルミニウム層を貼り合わせた絶縁回路用基板)の表面に発熱素子が接合された複合構造等が挙げられる。
これら被冷却体は、製造された熱交換器にろう付接合してもよく、熱交換器を構成する各部材のろう付工程と同じ工程でろう付接合してもよい。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す合金成分の厚さ3mmのアルミニウム合金芯材に表1に示す組成の厚さ160μmのろう材層をクラッド圧着してなる図1に示す断面形状の底板を用意した。また、表2に示す合金成分の厚さ0.6mmのアルミニウム合金芯材の表裏両面に表2に示す組成の厚さ70μmのろう材層をクラッド圧着してなる図1に示す断面形状の天板を用意した。表4に示す組成であって図1に示す波形の厚さ0.5mmのフィン材を用意した。前記底板と天板とフィン材とからなる図1に示す熱交換器形状に組み付け、表5に示す如く580〜615℃に1〜15分間加熱するろう付けにより熱交換器を得た。
また、表1に示す合金組成の底板と表3に合金組成を示す犠牲材層(厚さ70μm)とろう材層(厚さ70μm)付きの天板と表4に示す合金組成のインナフィン(ろう材層の厚さ40μm)を用いて熱交換器形状に組み立て、表5に示す如き条件でろう付けを行い、熱交換器を得た。
それらの各熱交換器試料について、ろう付け条件、厚板クラッド材表面Zn量(A)、薄板クラッド材表面Zn量(A)、(A)と(A)の大小関係、腐食試験結果について、以下の表5、表6に示す。
腐食試験の条件については以下の通りである。
腐食液:イオン交換水+(Cl:100ppm SO2−:300ppm Cu++:50ppm) NaCl、NaSO、CuClにて調整。
腐食試験:腐食液60リットルをコア内を循環させる(80℃×8h)(循環)操作と、室温×16h、循環停止する処理を繰り返し、流量(リットル/min)を変化させる。
評価:最大孔食部の深さを測定。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
本発明で規定した範囲に含まれる実施例A〜Lはいずれも腐食試験に耐えることができ、漏れは発生しなかった。これに対し、A>A−0.5の関係となる比較例d、h、i、mの熱交換器試料は漏れが発生した。
【符号の説明】
【0062】
1…厚板クラッド材、1a…通路側の表面、11…芯材、12…ろう材層、13…被接合部、2…薄板クラッド材、2a…通路側の表面、2b…通路と反対側の表面、21…芯材、22…ろう材層、23…被接合部、24…ろう材層、3…インナフィン、33…折曲部、10、20…熱交換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板クラッド材と、該薄板クラッド材との間に通路を画成するように配設され、該薄板クラッド材よりも厚い板厚を有する厚板クラッド材と、前記各クラッド材どうしの間に収容されたインナフィンとを有し、これら各部材の被接合部どうしがろう付接合されて構成され、前記薄板クラッド材の前記通路と反対側に取り付けられる被冷却体を、前記通路を流動する冷却水との熱交換によって冷却する熱交換器であって、
前記厚板クラッド材および前記薄板クラッド材は、いずれも芯材および該芯材の前記通路側の表面を被覆するろう材層を有し、
前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%
Cu:0.05〜0.8質量%
Si:0.05〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.15質量%
前記ろう材層は、SiおよびZnを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウムAl合金ろう材によって構成されており、
Si:4.5〜11.0質量%
Zn:0.5〜6.0質量%
前記インナフィンは、Mn、Znを下記の含有量で含有するとともに、Cu、Si、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成されており、
Mn:0.8〜1.5質量%
Zn:0.5〜3.0質量%
Cu:0.05〜0.3質量%
Si:0.05〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.20質量%
ろう付後における前記厚板クラッド材の前記通路側表面のZn量をA、ろう付後における前記薄板クラッド材の前記通路側表面のZn量をAとしたとき、下記の条件を満たすことを特徴とする熱交換器。
:0.5〜3.0質量%
:0.4〜2.0質量%
>A−0.5
【請求項2】
薄板クラッド材と、該薄板クラッド材との間に通路を画成するように配設され、該薄板クラッド材よりも厚い板厚を有する厚板クラッド材と、前記各クラッド材どうしの間に収容されたインナフィンとを有し、これら各部材の被接合部どうしがろう付接合されて構成され、前記薄板クラッド材の前記通路と反対側に取り付けられる被冷却体を、前記通路を流動する冷却水との熱交換によって冷却する熱交換器であって、
前記厚板クラッド材は、芯材および該芯材の前記通路側の表面を被覆するろう材層を有し、
前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%
Cu:0.05〜0.8質量%
Si:0.05〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.15質量%
前記ろう材層は、SiおよびZnを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、
Si:4.5〜11.0質量%
Zn:0.5〜6.0質量%
前記薄板クラッド材は、芯材および該芯材の前記通路側の表面を被覆する犠牲材層を有し、
前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%
Cu:0.05〜0.8質量%
Si:0.05〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.15質量%
前記犠牲材層は、Znを下記の含有量で含有するとともに、Si、Fe、Mn、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金犠牲材によって構成されており、
Zn:0.5〜5.0質量%
Si:0.1〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Mn:0.1〜1.1質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.15質量%
前記インナフィンは、芯材と、該芯材の薄板クラッド材側の片面あるいは両面を被覆するろう材層とを有するクラッド材であって、
Mn、Znを下記の含有量で含有するとともに、Cu、Si、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成されており、
Mn:0.8〜1.5質量%
Zn:0.5〜3.0質量%、
Cu:0.05〜0.3質量%
Si:0.05〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.20質量%
前記ろう材層は、SiおよびZnを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、
Si:5.0〜12.0質量%
Zn:0.5〜3.0質量%
ろう付後における前記厚板クラッド材の前記通路側表面のZn含有量をB、ろう付後における前記薄板クラッド材の前記通路側表面のZn含有量をBとしたとき、下記の条件を満たすことを特徴とする熱交換器。
:0.5〜3.0質量%
:0.4〜2.0質量%
>B−0.5
【請求項3】
前記薄板クラッド材は、前記芯材の前記通路と反対側の面を被覆するろう材層を有し、前記ろう材層は、Siを5.0〜12.6質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されていることを特徴とする請求項1および請求項2に記載の熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−36097(P2013−36097A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174192(P2011−174192)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)