説明

熱伝導性シート並びにその製造方法

【課題】高い熱伝導性を有する厚手のアクリル系熱伝導性シートを形成することを可能にする組成物、それから得られた熱伝導性シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(1)(a)少なくとも1種の(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体と(b)熱重合開始剤とを必須成分として含む熱重合性バインダー成分と、
(2)熱伝導性フィラーとを含有する、アクリル系熱伝導性組成物を形成するための組成物であって、前記アクリル系熱伝導性組成物の30〜90体積%の量で熱伝導性フィラーを含む、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系熱伝導性組成物形成用組成物から得られた熱伝導性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータを含む各種の電子・電気機器から発生する熱を放熱することは重要である。熱伝導性シートは、電子・電気機器内の発熱性部品からの熱を、ヒートシンクや金属カバーなどの放熱部品へ逃がすための放熱対策として使用されている。また、電子部品と放熱部品との固定にも用いられている。
【0003】
熱伝導性シートのバインダー成分としてはシリコーン樹脂が一般に使用されてきた。しかし、シリコーン樹脂は、この樹脂から発生する低分子量シロキサンが機器に付着して、接点不良の原因になるという問題が指摘されている。シリコーン樹脂に代わるバインダーとしてはアクリル樹脂が考えられる。特許文献1及び2は、アクリル系ポリマー、溶剤及びフィラーを含む組成物を、フィルム上に塗布し、溶剤を乾燥除去することにより得られる熱伝導性テープを記載している。しかし、溶剤を使用しているために、フィラーを高充填すると、フィラーが沈降分離するので充填率を上げることができず、また、溶剤を含むので、厚手のシートを作成することができない。
【0004】
特許文献1及び3〜6は、溶剤を含まないアクリル系単量体あるいは部分重合体とフィラーを含む組成物をシート化し、紫外線などによる光重合反応を行なうことにより、熱伝導性シートを得ている。しかし、この組成物は重合反応を進行させるために光透過性を必要とするため、フィラー含有率及びシート厚さが限定される。したがって、熱伝導率が低いシート及び薄手のシートしか作製できなかった。特に、黒色や緑色などの光透過率が低い有色フィラーを高充填することができなかった。
【0005】
一方、特許文献7及び8には、熱重合反応を利用した無溶剤型アクリル樹脂が記載されているが、熱伝導性フィラーを多量に配合することは検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO98/24860明細書
【特許文献2】特開平11−269438号公報
【特許文献3】特開平6−88061号公報
【特許文献4】特開平9−316388号公報
【特許文献5】特開平10−324853号公報
【特許文献6】特開2001−279196号公報
【特許文献7】特表平9−512054号公報
【特許文献8】特開2000−34453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、高い熱伝導性を有する厚手のアクリル系熱伝導性シートを形成することを可能にする組成物、それから得られた熱伝導性シート及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、(1)(a)少なくとも1種の(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体と(b)熱重合開始剤とを必須成分として含む熱重合性バインダー成分と、
(2)熱伝導性フィラーとを含有する、アクリル系熱伝導性組成物を形成するための組成物であって、前記アクリル系熱伝導性組成物の30〜90体積%の量で熱伝導性フィラーを含む、組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
このような組成物は、熱重合反応により、厚手のシート状製品として高い熱伝導性を有する組成物を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアクリル系熱伝導性組成物を形成するための組成物(以下において、「熱伝導性組成物前駆体」とも呼ぶ)は、溶剤を実質的に用いない熱重合により熱伝導性組成物を形成するための組成物である。これにより、従来の技術では得られなかったような高い熱伝導性を有する熱伝導性組成物を得ることが可能になる。本発明の組成物は熱伝導性シート状成形物として利用することができることに加えて、接着しようとする部位の間に液状のまま装填した後に加熱重合する熱伝導性接着剤として利用することもできる。なお、本発明の熱伝導性組成物は粘着性を有しても、又は非粘着性であってもよい。
【0011】
(メタ)アクリル系単量体
熱伝導性組成物前駆体は少なくとも1種の(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体と(b)熱重合開始剤とを必須成分として含む熱重合性バインダー成分を含む。(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体のための(メタ)アクリル系単量体は特に限定されることはなく、一般に、アクリル系ポリマーを形成するために使用するどのような単量体であってもよい。具体的には、(メタ)アクリル系単量体は、炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が用いられ、より詳細には、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、得られる熱伝導性組成物の凝集力を高めるために、ホモポリマーのガラス転移温度が20℃以上である(メタ)アクリル系単量体を併用することも好ましい。このような単量体としては、アクリル酸及びその無水物、メタクリル酸及びその無水物、イタコン酸及びその無水物、マレイン酸及びその無水物などのカルボン酸及びそれらの対応する無水物が挙げられる。また、ホモポリマーのガラス転移温度が20℃以上である(メタ)アクリル系単量体の他の例としては、シアノアルキル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミドなどの置換アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピペリジン、アクリロニトリルなどのような極性を有する窒素含有材料が含まれる。さらに他の単量体には、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(メタ)アクリレート、塩化ビニルなどが含まれる。なお、ガラス転移温度が20℃以上である(メタ)アクリル系単量体の量は、好ましくは、炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体100重量部あたり100重量部以下の量で含まれる。
【0012】
熱伝導性フィラー
本発明のアクリル系熱伝導性組成物前駆体は熱伝導性フィラーを含有する。従来の紫外線などによる光重合による組成物では、重合のための光透過性を確保するために白色フィラーで45体積%未満、有色フィラーで10体積%未満の量でしか熱伝導性フィラーを含有することができなかったが、本発明のアクリル系熱伝導性組成物前駆体は熱重合により重合を行なうため、得られる熱伝導性組成物中にフィラーの色によらず10体積%以上の量で熱伝導性フィラーを含有することができる。また、熱伝導性フィラーの量は、通常、30〜90体積%である。熱伝導性フィラーの量が30体積%未満であると、熱伝導率が低くなり、90体積%を超えると、シートの強度が弱くなるからである。
【0013】
熱伝導性フィラーとしては、セラミックス、金属酸化物、金属水酸化物、金属などを使用できる。具体的には、熱伝導性フィラーには、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、炭化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素、ホウ素化チタン、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ニッケル、銅、アルミニウム、チタン、金、銀などが挙げられる。結晶形は、六方晶や立方晶など、それぞれの化学種がとるいかなる結晶形を使用することもできる。フィラーの粒径は、通常、500μm以下である。フィラーの粒径が大きすぎると、シート強度が低下する。また、より大きい粒子の群と、より小さい粒子の群を組み合わせることが好ましい。より大きい粒子の群の間により小さい粒子の群が存在して、充填可能なフィラー量を多くすることができるからである。好ましくは、より大きい粒子の群の粒径は10〜150μmであり、より小さい粒子の群の粒径はより大きい粒子の群の粒子より小さく、10μm未満である。シートの強度を向上するために、シラン、チタネートなどで表面処理したフィラーを用いてもよい。また、フィラー表面にセラミックス、ポリマーなどで耐水コート、絶縁コートなどのコーティングを施したフィラーを用いてもよい。なお、用語「粒径」とは、フィラーの重心を通過する直線として計測したときに最も長い長さの寸法を意味する。フィラーの形状は規則的な形状又は不規則な形状であるが、例えば、多角形状、立方体状、楕円状、球形、針状、平板状又はフレーク状あるいはこれらの組み合わせの場合が挙げられる。また、複数の結晶粒子が凝集した粒子であってもよい。フィラーの形状は、熱重合性バインダー成分の粘度及び重合後の最終的な熱伝導性組成物の加工のしやすさで選択される。さらに、電磁波吸収性を付与するために、電磁波吸収性フィラーを加えることも出来る。電磁波吸収性フィラーとして、Ni−Znフェライト、Mg−Znフェライト、Mn−Znフェライトなどのソフトフェライト化合物、カルボニル鉄、Fe−Si−Al合金(センダスト)などの軟磁性金属、カーボンなどが挙げられる。電磁波吸収性フィラーも熱伝導性フィラーなので、電磁波吸収性フィラーは単独で用いてもよいし、熱伝導性フィラーと混合して使用してもよい。
【0014】
熱重合性バインダー成分
熱重合性バインダー成分は、少なくとも1種の(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体と、熱重合開始剤とを含む。(メタ)アクリル系単量体は、一般に、そのままでは粘度が低いので、(メタ)アクリル系単量体を含むバインダー成分に熱伝導性フィラーを混合したときに、フィラーが沈降してしまうことがある。このような場合には、(メタ)アクリル系単量体を予め部分重合して増粘しておくことが好ましい。このように部分重合は、熱重合性バインダー成分として、100〜10,000センチポアズ(cP)程度となるように行なわれることが好ましい。部分重合は種々の方法で行なうことができ、例えば、熱重合、紫外線重合、電子線重合、γ−線照射重合、イオン化線照射がある。
【0015】
このような部分重合には、一般に、熱重合開始剤又は光重合開始剤が用いられる。熱重合開始剤としては、ジアシルパーオキシド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキシド類、ヒドロパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、パーオキシエステル類、パーオキシジカーボネート類などの有機過酸化物フリーラジカル開始剤を用いることができる。具体的には、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルヒドロパーオキシドなどが挙げられる。あるいは、パースルフェート/ビスルファイトの組み合わせでもよい。
【0016】
光開始剤としては、ベンゾインエチルエーテルやベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインエーテル類、アニソイン(anisoin)エチルエーテル及びアニソインイソプロピルエーテル、ミヒラーケトン(4,4’−テトラメチルジアミノベンゾフェノン)、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(例えば、サルトマー(Sartomer)からのKB−1、チバスペシャルティーケミカル(Ciba-Specialty Chemical)からの「イルガキュアTM(IrgacureTM)」651)、2,2−ジエトキシアセトフェノンなどの置換アセトフェノン類が挙げられる。その他に、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノンなどの置換α−ケトール類、2−ナフタレンスルホニルクロリドなどの芳香族スルホニルクロリド類、1−フェノン−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなどの光活性オキシム系化合物が挙げられる。あるいは、以上述べた熱重合開始剤又は光重合開始剤の任意の組み合わせも用いることができる。
【0017】
部分重合のための開始剤の量は、特に限定されないが、通常、(メタ)アクリル系単量体100重量部に対して0.001〜5重量部である。
【0018】
さらに、部分重合において、得られる部分重合体に含まれる重合体の分子量及び含有量を制御するために、連鎖移動剤をもちいて部分重合をおこなうことができる。このような連鎖移動剤として、メルカプタン類、ジサルファイド類、四臭化炭素、四塩化炭素又はそれらの組み合わせなどが挙げられる。連鎖移動剤は、使用されるならば、通常、(メタ)アクリル系単量体100重量部に対して0.01〜1.0重量部の量で使用される。
【0019】
架橋剤
得られる熱伝導性組成物をシート状に加工したときなどの強度を上げるために架橋剤を用いることもできる。架橋剤としては、熱によって活性化される架橋剤を用いることができる。アルキル基中に1〜4個の炭素原子を有する低級アルコキシレート化アミノホルムアルデヒド縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミン(例えば、アメリカン・シアナミド社の「シメルTM(CymellTM)」303)又はテトラメトキシメチル尿素(例えば、アメリカン・シアナミド社の「ビートルTM(BeetleTM)」65)又はテトラブトキシメチル尿素(「ビートルTM」85)が含まれる。他の有用な架橋剤には1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートなどの多官能アクリレートが含まれる。架橋剤は単量体100重量部に対して、通常、0.001〜5重量部の量で用いられる。あるいは、以上述べた架橋剤の組み合わせも用いることができる。
【0020】
熱重合開始剤
上記熱重合性バインダー成分は熱重合開始剤を含む。(メタ)アクリル系単量体を部分重合した場合、部分重合後、熱重合開始剤がその部分重合体またはその単量体と部分重合体の混合物に添加される。添加される熱重合開始剤としては、ジアシルパーオキシド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキシド類、ヒドロパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、パーオキシエステル類、パーオキシジカーボネート類などの有機過酸化物フリーラジカル開始剤を用いることができる。具体的には、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルヒドロパーオキシドなどが挙げられる。あるいは、パースルフェート/ビスルファイトの組み合わせでもよい。熱重合性バインダー成分に含まれる熱重合開始剤の量は、(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体または、その単量体と部分重合体の混合物100重量部に対して0.001〜5重量部である。
【0021】
連鎖移動剤
熱重合性バインダー成分の重合において、得られるアクリル系重合体の分子量を制御するために、熱重合性バインダー成分は、連鎖移動剤をさらに含むこともできる。このような連鎖移動剤として、メルカプタン類、ジサルファイド類、四臭化炭素、四塩化炭素などが挙げられる。連鎖移動剤は、使用されるならば、通常、(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体100重量部に対して0.01〜1.0重量部(phr)の量で使用される。
【0022】
その他の添加剤
本発明の熱伝導性組成物は、その熱伝導性を阻害しないかぎり、粘着付与剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、沈降防止剤、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴムなどの増粘剤、超微粉シリカなどのチクソトロピー剤、界面活性剤、消泡剤、着色剤、導電性粒子、静電気防止剤、有機微粒子、セラミックスバブルなどの添加剤を含むことができる。あるいは、以上述べた添加剤の組み合わせも用いることができる。
【0023】
熱伝導性組成物及び熱伝導性シートの製造方法
上記の(メタ)アクリル系単量体または(メタ)アクリル系単量体を部分重合した部分重合体、或いは上記単量体と部分重合体との混合物、熱重合開始剤を含む熱重合性バインダー成分と、熱伝導性フィラー、及び、場合により、架橋剤や連鎖移動剤や添加剤を添加して、熱重合性混合物(熱伝導性組成物前駆体)を形成する。この場合の熱重合開始剤には、上記の部分重合体について記載したのと同一のものが用いられる。また、半減期の異なる2種以上の熱重合開始剤を用いて熱重合性混合物を形成してもよい。
【0024】
さらに、この熱伝導性組成物前駆体を、プラネタリーミキサーなどで脱気混合する。得られた熱重合性混合物は、接着しようとする部位の間に液状のまま装填した後に50〜200℃で加熱重合することにより熱伝導性接着剤として利用することができる。あるいは、熱重合性混合物を50℃〜200℃程度に加熱して熱重合反応することにより本発明の熱伝導性シートが得られる。重合には、上記の部分重合体について記載したのと同一の熱重合開始剤が用いられる。また、半減期あるいは活性温度の異なる2種以上の熱重合開始剤を用いて、熱重合混合物を形成してもよい。
【0025】
(メタ)アクリル系単量体は分子内に酸性、中性、塩基性のいかなる極性を有するものを使用できる。また、熱伝導性フィラーは酸性、中性、塩基性のいかなる極性を有するものも使用できる。(メタ)アクリル系単量体と熱伝導性フィラーの組み合わせは、極性が同一でもよく、異なっていてもよい。但し、過酸化物によるアクリルの熱重合反応では、還元性金属イオンの存在によりレドックス反応と呼ばれる促進反応が起こる場合があるため、アクリル酸などの酸性(メタ)アクリル系単量体を用いる場合は注意を要する。すなわち、アクリル酸などの酸性(メタ)アクリル系単量体および過酸化物系熱重合開始剤を含む酸性の熱重合バインダー成分を使用し、熱伝導性組成物を作製する場合、ミキサーとしてステンレスなど鉄を成分とするものを使用すると、酸性溶液中に還元性の鉄イオンが溶出し、それが過酸化物系熱重合開始剤の触媒となり、撹拌中に重合反応が進行してしまい、成形することが出来なくなることがある。また、使用する熱伝導性フィラーもしくは電波吸収性フィラーによっては酸性(メタ)アクリル系単量体により還元性の金属イオンが溶出するため、レドックス反応を促し、問様の問題が生じる場合がある。この問題は、熱重合性バインダー成分中の部分重合体の割合を小さくして低粘度にすること、非金属製のミキサーや金属表面に樹脂コートを施してあるミキサーを使用すること、あるいはフィラーの表面処理により避けることができる。
【0026】
熱伝導性シートを作成する場合、重合は好ましくはライナーのような支持表面上に塗布又はコーティングし、カレンダー成形やプレス成形によりシート化してから行なわれ、それにより、本発明の熱伝導性シートを得ることができる。その際、酸素による重合の阻害が起こらないように、窒素などの不活性雰囲気でシート化を行なってもよい。本発明によると、従来技術と比較して、非常に高い充填率で熱導電性フィラーを充填することができるので、2W/mK以上といった高い熱伝導性を有する組成物とすることができる。このような熱伝導性シートは電子部品、特にパワートランジスタ、グラフィックIC、チップセット、メモリ、中央処理装置(CPU)などの半導体・電子部品に対するヒートシンクや放熱器への接着に用いることができる。シートの厚さは主に適用個所の熱抵抗を考慮して決定する。熱抵抗を小さくすることから、通常、シートの厚さは5mm以下であることが好ましいが、より大きな発熱部品と放熱部品の間隙に充填する場合や、部品表面の凹凸への追従のため5mmを超える厚みのシートが適している場合もある。5mmを超える厚みのシートが適している場合、シートの厚さはより好ましくは10mm未満である。
【0027】
熱伝導性シートは、熱伝導性組成物層を、熱伝導性組成物に対して剥離性を有するか又は剥離処理した支持体又は基材上に形成することにより提供されることができる。このような場合には、使用時に支持体又は基材から剥離することにより、自立性フィルムとして用いることが可能である。または、熱伝導性シートは、シートの強度を向上させるために支持体又は基材上に固定された状態で使用されるものであってもよい。支持体又は基材の例としては、ポリマーフィルムがあり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリメチルテルペン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、芳香族アミドなどのフィルムを使用することができる。耐熱性が特に要求される場合には、ポリイミドフィルム又はポリアミドイミドフィルムが好ましい。また、これらの支持体又は基材中に熱伝導性フィラーを含有させて熱伝導性を上げることもできる。また、支持体又は基材としては、アルミニウムや銅などの金属箔、ガラス繊維、炭素繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維或いはこれらの繊維に金属コートを施したものから形成された織布、不織布又はスクリムを挙げることもできる。支持体又は基材はシートの片側表面上もしくは両面上に存在してよく、又はシートの内部に埋設されてもよい。
【0028】
熱伝導性組成物に特に好適な力学特性を与えるアクリル系重合体
本発明のアクリル系熱伝導性組成物では、熱伝導性フィラーの含有量が高く、熱伝導性が良好である。特に熱伝導性組成物を熱伝導性シートに加工して使用する場合、熱伝導性とともに、引張強度及び圧縮特性などの力学的特性も使用上重要な特性である。すなわち、熱伝導性シートの貼り付け又は貼り直しの際に、シートが切れることがないように十分に高い引張り強度を有する必要があり、また、電子機器に組み込んだ際に電子部品に過度の負荷がかからないように十分に低い圧縮応力を有することが要求される。好適な力学特性を示す熱伝導性シートを得るためには、バインダーを構成するアクリル系重合体の化学構造を制御することが重要となる。今回、絡み合いの少ないアクリルポリマー鎖を多官能アクリレートなどの架橋剤で架橋させることでバインダーとして好適なアクリル系重合体となることを発見した。
【0029】
熱伝導性フィラーが30〜90体積%になるように配合された熱伝導性シートにおいては、バインダーとしてのアクリル系重合体の粘弾性特性は、周波数1Hz、室温(20℃)でのせん断貯蔵弾性率(G’)が1.0×103〜1.0×105Paであり、その損失正接(tanδ)が0.2〜0.8の範囲であることがよい。この粘弾性特性は好適な架橋の範囲を表わしている。一方、ポリマー鎖の絡み合いの程度はその分子量に大きく依存しており、低分子量のものは絡み合いの少ないポリマー鎖となる。そこで、架橋していないポリマー鎖を考えた場合、好適な絡み合いの程度を与える数平均分子量は20万未満である。せん断貯蔵弾性率G’が上記範囲よりも低いと、引張り強度が低すぎ、一方、上記範囲よりも高いと、一定の圧縮応力での圧縮歪みが低く、すなわち、一定歪みでの圧縮応力が高くなりすぎる傾向がある。また、損失正接tanδが上記範囲よりも低いと、圧縮歪みが低く、上記範囲よりも高いと、引張り強度が低くなりすぎる傾向がある。
【0030】
すなわち、バインダーのアクリル系重合体は上記(メタ)アクリル系単量体から得られるアクリル系重合体であって、ポリマー鎖の数平均分子量が20万未満であり、かつ、周波数1Hz、20℃でのせん断貯蔵弾性率(G’)が1.0×103〜1.0×105Paであり、その損失正接(tanδ)が0.2〜0.8の範囲となるように架橋されたものである。
【0031】
一般的に熱ラジカル重合において低分子量の重合物を得る方法には、熱重合開始剤の量を増量すること、使用する熱重合開始剤の分解温度に対してより高温で重合させること、連鎖移動剤を用いることが挙げられる。これらの条件では反応開始初期において発生するラジカル量が多くなったり、発生したラジカルを重合の為に有効に消費できる結果、低分子量の重合物が得られる。具体的には、(1)熱重合開始剤を(メタ)アクリル系単量体100重量部に対して0.1〜10重量部(phr)添加し、重合させた場合、(2)熱重合開始剤にラウロリルパーオキシド(10時間半減分解温度61.6℃)を使用し、80〜200℃で重合させた場合、(3)連鎖移動剤を0.01〜0.1phr添加し、重合させた場合、あるいは(4)上記の方法を組み合わせて重合した場合に、分子量が20万未満に良好に制御されたアクリル系重合体を得ることができる。このような条件下に、(メタ)アクリル系単量体100重量部に対して0.01〜5重量部の量の架橋剤を用いることで、上記粘弾性特性を有するアクリル系重合体が得られる。
【0032】
可塑剤としての低分子量アクリル系重合体
熱伝導性フィラーを多く含有し熱伝導性が高い本発明のアクリル系熱伝導性組成物において、従来の可塑剤の代わりに特定の低分子量アクリル系重合体を用いることで、柔軟性、可とう性及び使用時の密着性を高め、結果として、接触界面での熱抵抗が減少し熱伝導性の高いアクリル系熱伝導性組成物を得ることができることも発見された。本発明のアクリル系熱伝導性組成物における熱伝導性フィラーの含有量が多ければ多いほど、低分子量アクリル系重合体を用いない場合に比べて低分子量アクリル系重合体の上記の効果は顕著に現れる。さらに、この低分子量アクリル系重合体は、従来の可塑剤と比較し、組成物との相容性が高いため染み出しもなく、従来の可塑剤よりも高分子量であるために実質的に揮発しないことから使用時の汚染がないという利点がある。
【0033】
本発明において可塑剤として使用できる低分子量アクリル系重合体は、常温で液状であり、Tgが20℃以下である。このようなアクリル系重合体は、アクリル酸エステル単量体を主成分としたものであり、エステル部分の炭素数が1〜20のものである。エステル部分の炭素数が1〜20のアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ネオペンチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸トリデシルおよびアクリル酸ステアリル等のアクリル酸アルキルが挙げられる。これらの中の1種類または2種類以上を併用してもよい。また、低分子量アクリル系重合体には、前記アクリル酸エステル以外にこれと共重合可能な単量体を共重合させることも可能である。共重合可能な単量体としては、例えば、メタクリル酸エステル、α−オレフィン類、ビニルエステル類およびビニルエーテル類などのビニル系単量体が挙げられる。低分子量アクリル系重合体は、水性媒体中での懸濁重合や乳化重合、有機溶剤中での溶液重合、或いは塊状重合など通常の方法で製造することができる。アクリル系重合体のガラス転移温度は20℃以下であり、好ましくは0℃以下である。また、重量平均分子量は500以上100,000以下であり、また、700以上20,000以下であることが好ましい。ガラス転移温度が20℃より高いと、柔軟性および密着性の高い熱伝導シートが得られない。また、重量平均分子量が100,000を越えると、十分な可塑性が発現されないため、熱伝導シートへの加工性が悪くなり、一方、500未満であると、シートの凝集力が低下し取り扱い性が悪くなる。なお、低分子量アクリル系重合体は、上記のような連鎖移動剤を(メタ)アクリル系単量体100重量部に対して0.01〜1.0重量部の量で用いるなどして製造することができる。さらに、本発明のアクリル系熱伝導性組成物製造のための熱伝導性組成物前駆体の重合時、特に、部分重合を行うときに、連鎖移動剤を添加するなどして、その場で、可塑剤として適する低分子量アクリル系重合体を組成物中に形成することもできる。
【0034】
低分子量アクリル系重合体の添加量は、単量体又は部分重合体100重量部に対し、1重量部〜100重量部であり、5重量部〜70重量部であることが好ましい。1重量部よりも少ないと、可塑剤としての効果がなくなる。また、100重量部よりも多いと粘着性が過剰になり取り扱い性が悪化し、且つ、引張り強度などの物理的強度も低下する。
【0035】
なお、低分子量アクリル系重合体についての用語「実質的に官能基を有しないアクリル系重合体」とは、(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体中の官能基並びに熱重合開始剤や、架橋剤と反応するような官能基を実質的に有しないことを意味する。
【実施例】
【0036】
実施例1〜9及び比較例1
1.部分重合体の製造
2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)又はn−ブチルアクリレート(BA)のいずれかの(メタ)アクリル系単量体に対して、紫外線重合開始剤(イルガキュアTM651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、チバスペシャルティーケミカル社製)0.04重量%を混合し、300〜400nmの波長に最大強度を持つ紫外線光源を用いて3mW/cm2の強度の紫外線を照射して粘度約1000センチポアズ(cP)の部分重合体を得た。この部分重合体は単量体全体量のうち10〜20%が重合し、増粘された液状物である。
【0037】
2.熱伝導性組成物の作製
下記の表1に記載される組成で、各成分をミキサーで脱気混練して得た熱伝導性組成物前駆体を、シリコーン離型剤を塗布したポリエチレンテレフタレート(PET)ライナー2枚で挟み、カレンダー加工した。実施例1〜9では、成形後に、150℃のオーブンで15分間加熱することにより熱重合を行い、熱伝導性シートを得た。比較例1では、成形後に300〜400nmの波長に最大強度を持つ紫外線光源を用いて3mW/cm2の強度の紫外線を5分間にわたって照射し、紫外線重合を行なった。実施例1〜9では厚さ0.5〜4mmのシートが得られた。これらのシートをライナーから剥離し、熱伝導率測定器QTM−D3(京都電子工業社製)を用いて熱伝導率を測定した。結果を下記の表1に示す。比較例1では、(メタ)アクリル系単量体の重合が十分に行なわれず、このため、シートに凝集力がなく、ライナーから剥離することができなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
上記表中、2−EHAは2−エチルヘキシルアクリレートであり、BAはn−ブチルアクリレートであり、DMAはN,N’−ジメチルアクリルアミドであり、TCDAはトリシクロデシルアクリレートであり、IBOAはイソボルニルアクリレートであり、HDDAは1,6−ヘキサンジオールジアクリレートであり、LPOはラウロイルパーオキシドであり、パーロイルTMTPC(ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート)は日本油脂株式会社製の熱重合開始剤である。また、炭化ケイ素は平均粒径80μmであり、水酸化アルミニウムは平均粒径2μmであって、チタネート処理されたものである。さらに、アルミナ1は平均粒径50μmのアルミナであって、アルミナ2はシラン処理された平均粒径2μmのアルミナである。また窒化アルミニウムは平均粒径70μmであり、表面に窒化ホウ素コートが施こされたものである。さらに窒化ホウ素は六方晶であり、平均粒径8μmであり、フェライトはNi−Znフェライトであり平均粒径5μmである。
【0040】
以上の結果から、熱重合反応を利用することにより、高熱伝導性で厚手のアクリル系熱伝導性シートが得られることが判った。
【0041】
実施例10〜12
実施例10
1.部分重合体の製造
2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)100重量部、紫外線重合開始剤(イルガキュアTM651、チバスペシャルティーケミカルズ社製)0.04重量部を混合し、300〜400nmの波長に最大強度を持つ紫外線光源を用いて3mW/cm2の強度の紫外線を照射して粘度約1000センチポアズ(cP)の部分重合体を得た。
【0042】
2.熱伝導性シートの製造
上記のとおり製造した2−EHAの部分重合体45重量部、2−EHA単量体40重量部、トリシクロデシルアクリレート(TCDA)単量体15重量部、酸化防止剤(イルガノックスTM1076(オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、チバスペシャルティーケミカルズ社製)0.3重量部、種々の量のヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)(添加重量は下記の表2に記載)及びラウロイルパーオキシド(LPO)0.5重量部からなる重合性バインダー成分40体積部、熱伝導性フィラーである炭化珪素(平均粒径80μm)40体積部、及び熱伝導性フィラーである水酸化アルミニウム(平均粒径2μm、チタネート処理品)20体積部をミキサーで脱気混練し、その後、得られた組成物をライナーで挿み、カレンダー成形した。成形後、180℃×15分、150℃×15分、100℃×30分、80℃×2時間の4条件で熱重合反応を行い、熱伝導性シートを製造した。
【0043】
3.引張り試験
得られた熱伝導性シートについて、引張り強度測定(JIS K6251に準拠)を行った。ただし、試料の厚さを1mm、打抜き型をダンベル2号とした。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
好適な引張り強度は10N/cm2以上である。
【0046】
4.圧縮特性試験
引張り試験で用いた熱伝導性シートについて圧縮特性試験を行なった。厚さ1mmの試料を10mm×10mmにカットし、圧縮速度0.5mm/minで圧縮し、圧縮応力が50N/cm2になったときの圧縮ひずみ(=圧縮量/元の厚さ×100)を測定した。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
好適な圧縮ひずみは10%以上である。
【0049】
5.分子量測定
本例の1で製造した2−EHAの部分重合体45重量部、2−EHA単量体40重量部、TCDA単量体15重量部、イルガノックスTM1076 0.3重量部、及びLPO 0.5重量部からなる重合性バインダー成分を40体積部、熱伝導性フィラーである炭化珪素(平均粒径80μm)を40体積部、及び熱伝導性フィラーである水酸化アルミニウム(平均粒径2μm、チタネート処理品)を20体積部からなる熱伝導性シートを同様の方法で作製した。熱重合条件は表4に示す。得られた熱伝導性シートについてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行ない、ポリスチレン換算で分子量分布を求めた。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
圧縮特性試験結果と分子量との相関を考察すると、分子量の増加に伴い(より低い重合温度条件)、圧縮ひずみが低下している。そこで数平均分子量が20万以上のもので好ましくない低い圧縮ひずみを与えることが判明した。
【0052】
6.粘弾性測定
熱伝導性フィラーを含まない組成物について、各熱重合条件で重合したサンプルの粘弾性測定をおこなった。アクリル組成は、2−EHAの部分重合体45重量部、2−EHA単量体40重量部、TCDA単量体15重量部、イルガノックスTM1076 0.3重量部、及びLPO 0.5重量部で、且つ表5に示される架橋剤HDDAを含む。熱重合条件は、180℃×15分、150℃×15分、100℃×30分、80℃×2時間の4条件で行ない、厚み100μmのサンプルを得た。各々の条件での重合温度プロファイルは、放熱シートを作製する際のものと同様であることを確認した。粘弾性測定は、Rheomitrics社製Dynamic analyzer RDA IIを用い、周波数1Hz、20℃での剪断弾性率(G)(G’:貯蔵弾性率/G”:損失弾性率/単位:Pa)及び損失正接(tanδ)を求めた。結果を表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
引張り試験において、低い強度の結果は架橋の程度の下限を示している。また、圧縮特性においてHDDA 1.0重量部の組成ものは低い圧縮ひずみを示しているがこれは架橋の程度の上限を示している。そこで、アクリル系重合体の粘弾性特性としては、室温(20℃)でのせん断貯蔵弾性率(G’)は1.0×103〜1.0×105Pa、且つ、その損失正接(tanδ)は0.2〜0.8の範囲がよい事が判明した。
【0055】
実施例11
アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)を変えた組成を検討した。重合性バインダー成分の組成は、2−EHAの部分重合体(実施例10の1で製造)15重量部、2−EHA単量体45重量部、TCDA単量体40重量部、イルガノックスTM1076 0.3重量部、HDDA 0.05重量部、及びLPO 0.5重量部である。Foxの式(T.G. Fox, Bull. Am. Phys. Soc., 1, 123 (1956))から計算した、アクリル系重合体のTgは−7.8℃である。上記重合性バインダー成分40体積部、熱伝導性フィラーである炭化珪素(平均粒径80μm)40体積部、及び熱伝導性フィラーである水酸化アルミニウム(平均粒径2μm、チタネート処理品)20体積部からなる組成物より実施例10と同様の方法で熱伝導性シートを得た。粘弾性特性、引張り試験、圧縮特性試験は実施例10と同様の方法で行なった。また、分子量測定は、上記組成からHDDAを含まない組成を別に作製しそのものについて実施例10と同様におこなった。結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
いずれも好ましい力学特性を有する熱伝導性シートが得られた。
【0058】
実施例12
アクリル系重合体のTg及び重合開始剤を変えた組成を検討した。重合性バインダー成分の組成は、2−EHAの部分重合体(実施例10の1で製造)60重量部、2−EHA単量体35重量部、TCDA単量体5重量部、イルガノックスTM1076 0.3重量部、HDDA 0.12重量部であり、開始剤はLPO 0.25重量部と1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.75重量部を併用した。Foxの式から計算した、このアクリル系重合体のTgは−50℃である。上記重合性バインダー成分40体積部、熱伝導性フィラーである炭化珪素(平均粒径80μm)40体積部、及び熱伝導性フィラーである水酸化アルミニウム(平均粒径2μm、チタネート処理品)20体積部からなる組成物より実施例10と同様の方法で熱伝導性シートを得た。粘弾性特性、引張り試験、圧縮特性試験は実施例10と同様の方法で行なった。分子量測定は、上記組成からHDDAを含まない組成を別に作製しそのものについて実施例10と同様におこなった。結果を表7に示す。
【0059】
【表7】

【0060】
いずれも好ましい力学特性を有する熱伝導性シートが得られた。
【0061】
実施例10〜12で作製した熱伝導性シートはいずれも2.1W/mKの熱伝導率を有した。
【0062】
実施例13〜18
以下において、可塑剤としての低分子量アクリル系重合体を含有した場合の実施例を記載する。
【0063】
実施例13〜15及び参考例1〜3
1.部分重合体の作製
2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)100重量部に対して、紫外線重合開始剤(イルガキュア651TM、チバスペシャルティーケミカルズ社製)0.04重量部を混合し、300〜400nmの波長に最大強度を持つ紫外線光源を用いて3mW/cm2の強度の紫外線を照射して粘度約1000センチポアズ(cP)の部分重合体を得た。ここで部分重合体は、2−エチルヘキシルアクリレート単量体の全体量のうち3〜20%を重合し、増粘した液状物である。
【0064】
2.熱伝導性組成物の作製
下記の表8に示す組成で、各成分をミキサーで脱気混練して得た熱伝導性組成物前駆体を、シリコーン離型剤を塗布したポリエチレンテレフタレート(PET)ライナー2枚で挿み、カレンダー成形した。成形後に、150℃のオーブンで15分間加熱することにより熱重合反応を行い、熱伝導性シートを作製した。参考例1及び2として、低分子量アクリル系重合体を含まない熱伝導性シートを作製し、参考例3として、従来の可塑剤であるフタル酸ジ2−エチルヘキシルを含む熱伝導性シートを同様に作製した。また、シートの厚みは全て厚み1mmとした。
【0065】
3.熱伝導性測定
熱伝導率測定器QTM−D3(京都電子工業社製)を用いて、シート自体の熱伝導率を測定するとともに、以下の方法で熱抵抗を測定した。すなわち、10×11mmにカットした試料を発熱体と冷却板に挿み、7.6N/cm2の一定荷重をかけて、4.8Wの電力を加えたときの発熱体と冷却板の温度差を測定し、次式より求めた。
熱抵抗(degC・cm2/W)=温度差(degC)×面積(cm2)/電力(W)
結果を表8に示す。
【0066】
4.加熱減量試験
得られた熱伝導性シートについて、150℃で120分間加熱した後の重量の減少を測定した。結果を表8に示す。
【0067】
【表8】

【0068】
表中の化合物の説明
2−EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル、TCDA:アクリル酸トリシクロデシル、HDDA:ヘキサンジオールジアクリレート、
UP−1000:液状ポリアクリレート、分子量3000、Tg−55℃(東亞合成社製)、
DOP:フタル酸ジ2−エチルヘキシル、
Irganox1076:酸化防止剤(チバスペシャルティーケミカルズ社製)、
LPO:過酸化ラウロイル、BPTC:1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
S151:チタネート系カップリング剤(日本曹達)、
アルミナ−1:平均粒径50μm、アルミナ−2:平均粒径2μm。
【0069】
結果の考察
低分子量アクリル系重合体を可塑剤として添加しなかった参考例1及び2と比較して、実施例13〜15のシートはいずれも熱抵抗が低かった。この結果は、実施例13〜15において、低分子量アクリル系重合体を可塑剤として添加したことにより、柔軟性が高く、使用時に密着性の高いシートが得られたことによるものである。このように実施例13〜15では、参考例1及び2よりも、同じ熱伝導性フィラー含量でも熱伝導性が大幅に増加している。
【0070】
従来の可塑剤を含有する参考例3のシートも熱抵抗が低く、柔軟性および密着性の高いシートが得られたが、可塑剤の揮発によるものと考えられる加熱時減量が多く、このため、可塑剤による被着体などのシート適用部位への汚染が懸念される。
【0071】
以上の結果から、液状の低分子量アクリル系重合体の添加によりシートの柔軟性および使用時の密着性が増加し、熱伝導性の高いアクリル系熱伝導性シートが得られることが判明した。
【0072】
実施例16
1.溶液重合による低分子量アクリル系重合体の作製
低分子量アクリル系重合体を溶液重合により作製した。重合性モノマーとして2−エチルヘキシルアクリレート40g、重合開始剤として2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.5g、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン1.2g、及び溶剤として酢酸エチルを50g加えて攪拌、混合した。この溶液に窒素ガスを吹き込み溶存酸素の置換を10分間行った後、50℃で重合を行った。得られた溶液から溶剤を除き、分子量測定を行ったところ重量平均分子量は14,000であった。
【0073】
2.熱伝導性シートの作製
上記溶液重合より得られた低分子量アクリル系重合体20重量部、実施例13〜15において製造した部分重合体30重量部、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHAモノマー)50重量部、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)0.3重量部、過酸化ラウロイル(LPO)0.25重量部、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(BPTC)0.25重量部及びチタネート系カップリング剤(S151)3.0重量部を混合してなる溶液をバインダー成分とした。このバインダー成分を25体積部、アルミナ−1 50体積部及びアルミナ−2 25体積部からなる前駆体組成物を用いて、実施例13〜15と同様に熱伝導性シートを作製した。
【0074】
3.試験結果
実施例13〜15と同様に熱抵抗、熱伝導率、加熱減量を測定したところ、熱伝導性シートの熱抵抗は3.39degCcm2/W、熱伝導率は6.0W/mK、加熱減量は0.20wt%であった。
【0075】
実施例17
1.低分子量アクリル系重合体とアクリルモノマーからなる部分重合体の作製
重合性モノマーとして2−エチルヘキシルアクリレート100g、光重合性開始剤としてイルガキュア651(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.04g、連鎖移動剤としてチオグリコール酸2−エチルヘキシル0.30gを混合した。この溶液に窒素ガスを吹き込み溶存酸素の置換を行った後、紫外線を照射して粘度1,000センチポアズ(cP)の部分重合体を得た。この部分重合体は、70wt%の重量平均分子量85,000のアクリル重合体を含む、低分子量アクリル系重合体とアクリルモノマーとの混合物であった。
【0076】
2.熱伝導性シートの作製
上記で得られた部分重合体60重量部、2−EHAモノマー40重量部、HDDA 0.2重量部、LPO 0.25重量部、BPTC 0.25重量部、及びS151 3.0重量部を混合してなる溶液をバインダー成分とした。即ち、このバインダー成分には、本発明の低分子量アクリル系重合体は42重量部含有されている。このバインダー成分を25体積部、アルミナ−1 50体積部、及びアルミナ−2 25体積部からなる熱伝導性シートを実施例13〜15と同様に作製した。
【0077】
3.試験結果
実施例13〜15と同様に熱抵抗、熱伝導率、加熱減量を測定したところ、熱伝導性シートの熱抵抗は2.97degCcm2/W、熱伝導率は6.4W/mK、加熱減量は0.21wt%であった。
【0078】
実施例18
1.低分子量アクリル系重合体とアクリルモノマーからなる部分重合体の作製
重合性モノマーとして2−エチルヘキシルアクリレート100g、光重合性開始剤としてイルガキュア651(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.04g、連鎖移動剤としてチオグリコール酸2−エチルヘキシル0.40gを混合した。この溶液に窒素ガスを吹き込み溶存酸素の置換を行った後、紫外線を照射して粘度1,000センチポアズ(cP)の部分重合体を得た。この部分重合体は、50wt%の重量平均分子量65,000のアクリル重合体を含む、低分子量アクリル系重合体とアクリルモノマーとの混合物であった。
【0079】
2.熱伝導性シートの作製
上記で得られた部分重合体60重量部、2−EHAモノマー40重量部、HDDA 0.2重量部、LPO 0.25重量部、BPTC 0.25重量部、及びS151 3.0重量部を混合してなる溶液をバインダー成分とした。即ち、このバインダー成分には、本発明の低分子量アクリル系重合体は30重量部含有されている。このバインダー成分を25体積部、アルミナ−1 50体積部、及びアルミナ−2 25体積部からなる熱伝導性シートを実施例13〜15と同様に作製した。
【0080】
3.試験結果
実施例13〜15と同様に熱抵抗、熱伝導率、加熱減量を測定したところ、熱伝導性シートの熱抵抗は3.13degCcm2/W、熱伝導率は6.0W/mK、加熱減量は0.21wt%であった。
【0081】
本発明のアクリル系熱伝導性組成物前駆体は、熱重合により、従来の技術では得られなかったような高い熱伝導性を有する熱伝導性組成物を得ることを可能にする。また、アクリル系重合体をバインダーとして用いることにより、圧縮特性及び引張強度などの機械特性に優れたアクリル系熱伝導性シートを得ることができる。さらに、低分子量アクリル系重合体を可塑剤として用いることにより、アクリル系熱伝導性組成物の柔軟性が高くなって、被接触体との密着性が改良されるため、熱伝導性はさらに向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)少なくとも1種の(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体と(b)熱重合開始剤とを必須成分として含む熱重合性バインダー成分と、
(2)熱伝導性フィラーとを含有する、アクリル系熱伝導性組成物を形成するための組成物であって、前記アクリル系熱伝導性組成物の30〜90体積%の量で熱伝導性フィラーを含む、組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系単量体は炭素数20以下のアルキル基を有する(メタ)アルキル系単量体を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系単量体は炭素数20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体及びホモポリマーのガラス転移温度が20℃以上の(メタ)アクリル系単量体を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記熱重合開始剤は有機過酸化物である、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
エステル部分の炭素数が1〜20であるアクリル酸エステルを主成分とし、ガラス転移温度が20℃以下であり、かつ重量平均分子量が500以上で100,000以下である、官能基を実質的に有しないアクリル系重合体をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物の重合性バインダー成分を重合したアクリル系熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記重合性バインダー成分は(c)架橋剤をさらに含み、前記重合性バインダー成分を重合及び架橋したバインダーのアクリル系重合体はポリマー鎖の数平均分子量が20万未満であり、かつ、周波数1Hz、20℃でのせん断貯蔵弾性率(G’)が1.0×103〜1.0×105Paであり、その損失正接(tanδ)が0.2〜0.8の範囲となるように架橋されたものである、請求項6記載のアクリル系熱伝導性組成物。
【請求項8】
熱伝導率が2W/mK以上である、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項記載の組成物がシート状に成形されている、熱伝導性シート。
【請求項10】
前記熱伝導性シートの表面及び/又は内部に基材を有する、請求項9記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
(a)少なくとも1種の(メタ)アクリル系単量体またはその部分重合体と(b)熱重合開始剤とを必須成分として含有する熱重合性バインダー成分に熱伝導性フィラーを添加して、熱重合性混合物を形成すること、
前記熱重合性混合物を加熱して重合し、アクリル系熱伝導性組成物を形成すること、
の工程を含み、前記熱伝導性フィラーは前記アクリル系熱伝導性組成物の30〜90体積%の量で含まれる量で添加される、アクリル系熱伝導性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−235953(P2010−235953A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126178(P2010−126178)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【分割の表示】特願2003−12689(P2003−12689)の分割
【原出願日】平成15年1月21日(2003.1.21)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】