説明

熱伝導性セメント

【課題】廃棄された家庭用電気製品や自動車などから、有用な金属である鉄や亜鉛、鉛などを抜き取った残渣は、有効な利用手段が存在せず、産業廃棄物として処理されている。この残渣は、金属(特に鉄)の含有率が高い反面、空隙率が高く、密度が低いために、そのまま残渣の状態でセメントに混合しても、熱伝導率の向上は見られず、逆に残渣を加えなかったセメント複合材料に比べ、熱伝導率が低下してしまった。
【解決手段】本件発明のセメント複合材料製造方法により、残渣を粉砕し粉砕残渣とすることで、熱伝導セメントを得るための材料として有効活用することが可能となる。また、この粉砕残渣が含まれるセメント複合材料を用いてコンクリートやモルタル、セメントペーストを作製することで、熱伝導性のコンクリートや、モルタル、セメントペーストを得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、廃棄された家庭用電気製品を粉砕し、鉄や亜鉛、鉛などが抜き取られた残渣である粉砕残渣を有効活用した熱伝導性セメントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にコンクリートやモルタルなどセメントを用いた複合材料は、熱伝導性が低いことが知られている。このセメントを用いた複合材料の熱伝導性を高くするためには、骨材として熱伝導率の高い骨材を用いることが知られている。例えば、特許文献1では、セメントに黒鉛(グラファイトカーボン)などの高熱伝導率材料を混合し、熱伝導性の高いセメント複合材料を得ている。
【0003】
一方、廃棄された家庭用電気製品や自動車などから、有用な金属である鉄や亜鉛、鉛などを抜き取った残渣は、有効な利用手段が存在せず、産業廃棄物として処理されている。この残渣は、金属(特に鉄)の含有率が高いことから、セメントに混合することで、熱伝導性の高いセメント複合材料を得ることが期待された。
【特許文献1】特開2006−169075
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この残渣は、金属の含有率が高い反面、空隙率が高く、密度が低いために、そのまま残渣の状態でセメントに混合しても、熱伝導率の向上は見られず、逆に残渣を加えなかったセメント複合材料に比べ、熱伝導率が低下してしまった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本件発明では、スクラップなどから鉄や亜鉛、鉛などの有用金属を抜き取られた還元焙焼残渣を用いて、熱伝導性セメント複合材料および熱伝導性複合材料の製造方法を提供する。
【0006】
すなわち第一の発明としては、廃棄された家庭用電気製品および自動車スクラップを粉砕する製品粉砕ステップと、粉砕ステップでの粉砕にて得られる粉砕片を溶融し鉄成分を抜き取る鉄抜取ステップと、鉄抜取ステップにて鉄の抜き取られた残分である電炉ダストを還元焙焼して亜鉛、鉛、などの成分を抜き取る亜鉛等抜取ステップと、亜鉛等抜取ステップにて亜鉛、鉛、などの成分の抜き取られた残分である還元焙焼残渣を粉砕する残渣粉砕ステップと、残渣粉砕ステップにて粉砕された粉砕残渣をセメント粉末と混合してセメント複合材料を生成するセメント粉末混合ステップと、からなるセメント複合材料製造方法を提供する。
【0007】
第二の発明としては、セメント粉末混合ステップが、さらに炭酸カルシウム粉末を混合する炭酸カルシウム混合サブステップを有する第一の発明に記載のセメント複合材料製造方法を提供する。
【0008】
第三の発明としては、還元焙焼残渣は、成分として酸化鉄を少なくとも30重量パーセント以上含有する第一の発明または第二の発明に記載のセメント複合材料製造方法を提供する。
【0009】
第四の発明としては、還元焙焼残渣は、残渣粉砕ステップにて密度が3.0g/cm以上となるように粉砕される第一の発明から第三の発明のいずれか一に記載のセメント複合材料製造方法を提供する。
【0010】
第五の発明としては、第一の発明から第四の発明のいずれか一に記載のセメント複合材料製造方法によって製造されたセメント複合材料を提供する。
【0011】
第六の発明としては、第五の発明に記載のセメント複合材料を用いたコンクリートを提供する。
【0012】
第七の発明としては、第五の発明に記載のセメント複合材料を用いたモルタルを提供する。
【0013】
第八の発明としては、第五の発明に記載のセメント複合材料を用いたセメントペーストを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本件発明のセメント複合材料製造方法により、従来産業廃棄物として破棄されていた、スクラップなどから有用金属を取り除かれた残渣である還元焙焼残渣を粉砕し粉砕残渣とすることで、熱伝導セメントを得るための材料として有効活用することが可能となる。また、この粉砕残渣が含まれるセメント複合材料を用いてコンクリートやモルタル、セメントペーストを作製することで、熱伝導性コンクリートや、熱伝導性モルタル、熱伝導性セメントペーストを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0016】
実施形態1は、主に請求項1、請求項3、請求項4、請求項5などに関する。
【0017】
実施形態2は、主に請求項2および請求項5などに関する。
【0018】
実施形態3は、主に請求項5請求項6などに関する。
【0019】
実施形態4は、主に請求項5請求項7などに関する。
【0020】
実施形態5は、主に請求項5請求項8などに関する。
<<実施形態1>>
<実施形態1 概要>
【0021】
本実施形態は、家庭用電気製品や自動車スクラップなどから、鉄や亜鉛、鉛などの有用な成分を抜き取った後に得られる還元焙焼残渣を用いて、熱伝導性を有するセメント複合材料を製造する方法である。
<実施形態1 構成>
【0022】
図1に本実施形態のセメント複合材料製造方法を説明するためのフローチャートを示した。また図2には本実施形態のセメント複合材料製造方法の概念図を示した。本実施形態のセメント複合材料製造方法は、廃棄された家庭用電気製品や自動車スクラップを粉砕する製品粉砕ステップ(S0101、0201)と、粉砕ステップでの粉砕にて得られる粉砕片を溶融し鉄成分(0206)を抜き取る鉄抜取ステップ(S0102、0202)と、鉄抜取ステップにて鉄の抜き取られた残分である電炉ダスト(0207)を還元焙焼して亜鉛、鉛、などの成分(0208)を抜き取る亜鉛等抜取ステップ(S0103、0203)と、亜鉛等抜取ステップにて亜鉛、鉛、などの成分の抜き取られた残分である還元焙焼残渣(0209)を粉砕する残渣粉砕ステップ(S0104、0204)と、残渣粉砕ステップにて粉砕された粉砕残渣をセメント粉末(0210)と混合してセメント複合材料(0211)を生成するセメント粉末混合ステップ(S0105、0205)と、からなる。
【0023】
「製品粉砕ステップ」は、原料となる家庭用電気製品や自動車スクラップを粉砕する工程である。家庭用電気製品や自動車スクラップを粉砕することで、次の鉄抜取ステップにおいて、電気炉内にて効率的に処理を行うことが可能となる。
【0024】
「鉄抜取ステップ」は、製品粉砕ステップにて粉砕された家庭用電気製品や自動車スクラップから鉄を抜取回収する工程である。鉄の抜取は、一般的な電気炉製鋼法などで行う。電気炉製鋼法では、まず家庭用電気製品や自動車スクラップを電気炉内に投入し、アーク放電などにより加熱溶解させ溶鋼を製造する。この溶鋼を取鍋精錬炉に移し、精製し鉄を抜き取る。この際、鉄が抜き取られた後に残された残分である電炉ダストを回収し、亜鉛等抜取ステップへ移される。
【0025】
「亜鉛等抜取ステップ」は、鉄抜取ステップにて鉄が抜き取られた残渣を、還元焙焼して亜鉛、鉛などの成分を抜き取る工程である。具体的には、電気炉製鋼法にて発生した残分を、コークスおよび石灰とともにロータリーキルンに装入し、加熱する。ロータリーキルン内において、亜鉛や鉛、カドミウムなどの酸化物が還元され、金属ガスとして揮発される。この揮発した金属ガスは、排ガス中で再酸化され、集塵装置で回収される。このとき亜鉛や鉛、カドミウムなどの金属ガスが抜けた残渣は、還元焙焼残渣として回収される。このとき、回収される還元焙焼残渣の組成の一例を図3に示した。還元焙焼残渣は、シリカが略5から10wt%、アルミナが略3から9wt%、酸化カルシウムが略4から15wt%、酸化マグネシウムが略1から3wt%、酸化鉄が略40から60wt%、酸化マンガンが略3から6wt%含まれている。このように、還元焙焼残渣には、鉄分が大量に含まれている。これらの金属が、後述するセメント複合材料の熱伝導率の向上に寄与している。なお、還元焙焼残渣の組成は、原料となる家庭用電気製品や自動車スクラップの組成に大きく左右されるが、成分として酸化鉄は少なくとも30wt%以上含有していることが望ましい。仮に、酸化鉄の含有率が30wt%を下回った場合には、熱伝導率が低くなり、熱伝導性セメントとしての性能を発揮することが出来なくなる可能性がある。
【0026】
「残渣粉砕ステップ」は、亜鉛等抜取ステップにて回収された還元焙焼残渣を粉砕する工程である。亜鉛等抜取ステップにて回収された還元焙焼残渣は、多孔質であって、多くの空隙を有し、その密度は、略2.75g/cmである。このため、還元焙焼残渣を骨材としてセメントに混合しても、熱伝導率の低い空気が還元焙焼残渣中に含まれるため、熱伝導率は向上しない。
【0027】
図4に還元焙焼残渣を粉砕して得られた粉砕残渣、並びに粉砕を行っていない還元焙焼残渣をセメントに混合し作製したモルタルの熱伝導率の測定を行った。図4の熱伝導率の測定には、英弘精機株式会社製熱伝導率測定装置を用いた。作製したモルタルの組成は、図4の通りであるが、モルタルを作製する際に用いた骨材は標準砂(密度略2.64g/cm)、である。またセメント複合材料のセメントは、太平洋セメント製普通セメント(密度略3.16g/cm)、粉砕残渣は、密度略3.33g/cm、粉末度略5000cm/g、であって、混和剤として、ポリカルボン酸塩系構成の減水剤を用いた。熱伝導率の測定に際して、上記条件で作製したモルタルを10×10×6cmの供試体として、105℃にて絶乾状態とし、供試体作製後28日経過後に熱伝導率の測定を行った。
【0028】
測定の結果、還元焙焼残渣も粉砕残渣も加えていないモルタルの場合、熱伝導率は、1.1W/mKであった。これに対して、粉砕残渣を加えたモルタルでは、1.8W/mKであり、還元焙焼残渣も粉砕残渣も加えていないモルタルに比べて大幅に熱伝導率が向上した。これに対して、粉砕残渣に換えて還元焙焼残渣を加えたモルタルの場合、熱伝導率は、0.65W/mKとなり、還元焙焼残渣も粉砕残渣も加えていないモルタルに比べて半分程度の熱伝導率となった。還元焙焼残渣は、その性状が空隙率の多い多孔質であるため、還元焙焼残渣そのものでは、鉄の含有率が大きくとも熱伝導率が小さい。この残渣粉砕ステップにおいて、略2.6g/cm程度であった還元焙焼残渣の密度を、略3.0g/cm以上となるように粉砕し粉砕残渣とする。これにより、前述のような熱伝導率を向上させることが可能となる。還元焙焼残渣を粉砕することにより得られた粉砕残渣の密度は、例えば融雪路面などに用いる場合には、その熱伝導率が最低でも略1.4W/mK程度必要であるため、略3.0g/cm以上とすることが好ましい。
【0029】
「セメント粉末混合ステップ」は、残渣粉砕ステップにて粉砕された粉砕残渣をセメント粉末と混合するステップである。粉砕残渣をセメント粉末と混合することで、セメント複合材料となる。このセメント複合材料に水を混合することでセメントペーストとなる。また、セメント複合材料と水と骨材として砂を混合することで、モルタルが製造され、セメント複合材料と水と骨材として砕石などを混合することで、コンクリートが製造される。実施形態1のセメント複合材料によって得られるセメントペースト、モルタル、コンクリートの物性に関する詳細は後述する。
<実施形態1 効果>
【0030】
本実施形態のセメント複合材料製造方法により、セメントペースト、モルタル、コンクリートに混合することで熱伝導率を向上させることが可能なセメント複合材料を製造することが可能となる。これにより、産業廃棄物として処理されていた、家庭用電気製品や自動車スクラップから排出される残渣を、有効に利用することが可能となる。
<実施形態2>
<実施形態2 概要>
【0031】
本実施形態は、実施形態1に説明したセメント粉末混合ステップに、炭酸カルシウム粉末を混合する炭酸カルシウム混合サブステップを有することを特徴とするセメント複合材料製造方法である。
<実施形態2 構成>
【0032】
図5に本実施形態のセメント複合材料製造方法のフローチャートを示した。本実施形態のセメント複合材料製造方法は、製品粉砕ステップ(S0501)と鉄抜取ステップ(S0502)と亜鉛等抜取ステップ(S0503)と残渣粉砕ステップ(S0504)とセメント粉末混合ステップ(S0505)とからなり、セメント粉末混合ステップに、炭酸カルシウム粉末を混合する炭酸カルシウム混合サブステップ(S0506)を有する。
【0033】
炭酸カルシウム混合サブステップは、セメント粉末混合ステップにおいて、粉砕残渣とセメント粉末を混合する際に、炭酸カルシウム粉末を混合するするステップである。尚、炭酸カルシウム粉末を混合するタイミングは、粉砕残渣にセメント粉末を混合する前であっても、後であっても、同時であっても良い。また、セメント粉末に炭酸カルシウムを混合してから、粉砕残渣と混合しても良い。
【0034】
一般的に、セメントに適量の炭酸カルシウムを混合することで、密実なコンクリートやモルタルの硬化体が得られる。すなわち、炭酸カルシウムを混合することで密実性が向上し、高強度のコンクリートやモルタルが得られる。一方、本実施形態でも、セメント複合材料に炭酸カルシウム粉末を混合することで、密実性が向上し、高強度のコンクリートやモルタルを得ることが可能である。しかし、それにより得られる機能は、高強度のコンクリートやモルタルが得られるだけではなく、粉砕残渣に炭酸カルシウム粉末を混合することで、粉砕残渣を単に加えたコンクリートやモルタルに比べて熱伝導率の高いコンクリートやモルタルを得ることが可能となる。また、粉砕残渣と炭酸カルシウム粉末は、混合保存すると、粉砕残渣の凝集を抑制し、コンクリートやモルタルを成形する際の流動性を向上させ密実性が向上し、その結果として熱伝導率が向上する。
【0035】
図6にセメント複合材料に炭酸カルシウムを加えて作製したモルタルの熱伝導率の測定結果を示した。図6の熱伝導率の測定には、英弘精機株式会社製熱伝導率測定装置を用いた。作製したモルタルの組成は、図6の通りであるが、骨材として用いた標準砂の密度は、略2.64g/cm、セメントは、太平洋セメント製普通セメント(密度略3.16g/cm)、粉砕残渣は、密度略3.33g/cm、粉末度略5000cm/g、炭酸カルシウム粉末は、密度略2.67g/cm、粉末度略7500cm/g、混和剤として、ポリカルボン酸塩系構成の減水剤を用いた。熱伝導率の測定に際して、上記条件で作製したモルタルを10×10×6cmの供試体として、105℃にて絶乾状態とし、供試体作製後28日経過後に熱伝導率の測定を行った。
【0036】
図6の結果から、粉砕残渣も炭酸カルシウムも加えていないモルタルの熱伝導率が1.1W/mKであったのに対して、炭酸カルシウムを加えることで、熱伝導率が1.3W/mKへ向上する。これは前述のように、炭酸カルシウムを加えることでモルタルの密実性が向上し、その結果として熱伝導率が向上したものと思われる。一方、粉砕残渣を加えたモルタルの熱伝導率は、1.5W/mKであるが、これに炭酸カルシウムを添加することで、1.6W/mKへ向上する。
【0037】
また、図7では、図6と同様の条件で、炭酸カルシウムの添加量に対する熱伝導率の変化を測定した結果である。その結果から、粉砕残渣の配合比を略10.4kg/m、炭酸カルシウムを略104kg/mと、炭酸カルシウムの配合比を大幅に増やした場合の熱伝導率は、1.4W/mKとなり、炭酸カルシウムを大量に加えても熱伝導率はさほど向上しないことが分かる。これに対して、炭酸カルシウムの配合比が少量であっても、粉砕残渣を添加することで熱伝導率は向上する。従って、炭酸カルシウムを加えることで得られる熱伝導率の向上は、炭酸カルシウム単体の熱伝導率の影響ではなく、粉砕残渣との相乗効果によって得られる効果である。
<実施形態2 効果>
【0038】
実施形態1のセメント複合材料にさらに炭酸カルシウムを加えることで、粉砕残渣の凝集を抑制し、密実性を向上させ熱伝導率を上昇させることが可能となる。
<実施形態3>
<実施形態3 概要>
【0039】
本実施形態は、実施形態1に示したセメント複合材料を用いたコンクリートである。実施形態1に示したセメント複合材料を用いたコンクリートは、一般的なセメントのみを用いたコンクリートに比べ、熱伝導率が高くなる。
<実施形態3 構成>
【0040】
本実施形態のコンクリートは、実施形態1に示したセメント複合材料を用いたコンクリートである。図8にセメント複合材料を用いて作製したコンクリートの熱伝導率の測定結果を示した。図8の熱伝導率の測定には、英弘精機株式会社製熱伝導率測定装置を用いた。作製したコンクリートの組成は、図8の通りであるが、コンクリート供試体を作製する際に用いた骨材は、4号珪砂(密度略2.60g/cm)と7号砕石(密度略2.95g/cm)である。また、セメント複合材料のセメントは、太平洋セメント製普通セメント(密度略3.16g/cm)、粉砕残渣は、密度略3.33g/cm、粉末度略5000cm/g、であって、混和剤として、ポリカルボン酸塩系構成の減水剤を用いた。熱伝導率の測定に際して、上記条件で作製したコンクリートを10×10×6cmの供試体として、105℃にて絶乾状態とし、供試体作製後28日経過後に熱伝導率の測定を行った。
【0041】
図8の結果を見ると、セメントに対する粉砕残渣の添加率が上昇するにつれて、熱伝導率が増加することが分かる。このように、コンクリート作製時に本実施形態のセメント複合材料を用いることで、熱伝導率の高いコンクリートを得ることが可能となる。また、その熱伝導率は、セメント複合材料のセメントに対する粉砕残渣の添加率を増加させることで上昇させることが可能である。
【0042】
尚、コンクリートの熱伝導率は、骨材の材料によっても大きく左右される。本実施形態のコンクリートにおいては、図8に示すように7号砕石および4号珪砂を用いている。本実施形態のセメント複合材料をコンクリートに添加することで、熱伝導率は向上するが、その値については、骨材の種類や量によって変化するものである。従って、骨材の種類や量、セメント複合材料の添加量は、コンクリートの使用用途や目的とする熱伝導率の大きさなどによって適宜決定するものである。
【0043】
さらに、図8に、上記のコンクリートに炭酸カルシウムを加えた供試体の熱伝導率の結果を示した。セメントに対する粉砕残渣の添加率が略17.6%であって、炭酸カルシウムを加えていない供試体の熱伝導率は、1.6W/mKであったのに対して、同じくセメントに対する粉砕残渣の添加率が略17.6%で、炭酸カルシウムを略66kg/mの供試体では、熱伝導率が1.9W/mKと向上している。これは実施形態1でも述べたが、炭酸カルシウムを加えることによる密実性の向上効果と、粉砕残渣の相乗効果によるものである。
<実施形態3 効果>
【0044】
本実施形態のコンクリートのように、実施形態1の製造方法で製造されたセメント複合材料を混合することで、熱伝導率を向上させることが可能となる。従って、セメント複合材料を混合することで熱伝導性コンクリートを得ることが可能となる。
<実施形態4>
<実施形態4 概要>
【0045】
本実施形態は、実施形態1に示したセメント複合材料を用いたモルタルである。実施形態1に示したセメント複合材料を用いたモルタルは、一般的なセメントのみを用いたモルタルに比べ、熱伝導率が高くなる。
<実施形態4 構成>
【0046】
本実施形態のモルタルは、実施形態1に示したセメント複合材料製造方法に示したセメント複合材料を用いたモルタルである。図9にセメント複合材料を用いて作製したモルタルの熱伝導率を示した。図9の熱伝導率の測定には、英弘精機株式会社製熱伝導率測定装置を用いた。作製したモルタルの組成は、図9の通りであるが、モルタルを作製する際に用いた骨材は標準砂(密度略2.64g/cm)、である。またセメント複合材料のセメントは、太平洋セメント製普通セメント(密度略3.16g/cm)、粉砕残渣は、密度略3.33g/cm、粉末度略5000cm/g、であって、混和剤として、ポリカルボン酸塩系構成の減水剤を用いた。熱伝導率の測定に際して、上記条件で作製したモルタルを10×10×6cmの供試体として、105℃にて絶乾状態とし、供試体作製後28日経過後に熱伝導率の測定を行った。
【0047】
熱伝導率測定の結果、セメント複合材料に粉砕残渣を10%、20%、30%添加すると、熱伝導率が1.5W/mK、1.7W/mK、1.8W/mK、と上昇した。この値は、粉砕残渣を加えていない場合の熱伝導率1.1W/mKに比べて大きく、粉砕残渣を加えることで、熱伝導率が上昇することが示された。熱伝導率は、セメントに対する粉砕残渣の量を増やすことで上昇するため、添加量を略30%以上にした場合、さらに熱伝導率を上昇させることも可能である。しかし、粉砕残渣の添加量を増加させた場合、モルタルの粘性が増加し混練が困難となる。従って、セメント複合材料に添加される粉砕残渣の量は、最大で40%程度にすることが望ましい。
【0048】
また、実施形態2で述べた炭酸カルシウムを添加したり、標準砂とした骨材を、より熱伝導率の高い材料とすることでさらに熱伝導率を上昇させることも可能である。
<実施形態4 効果>
【0049】
本実施形態のモルタルのように、実施形態1の製造方法で製造されたセメント複合材料を混合することで、熱伝導率を向上させることが可能となる。従って、セメント複合材料を混合することで熱伝導性モルタルを得ることが可能となる。
<実施形態5>
<実施形態5 概要>
【0050】
本実施形態は、実施形態1に示したセメント複合材料を用いたセメントペーストである。実施形態1に示したセメント複合材料を用いたセメントペーストは、一般的なセメントのみを用いたセメントペーストに比べ、熱伝導率が高くなる。
<実施形態5 構成>
【0051】
本実施形態のセメントペーストは、実施形態1に示したセメント複合材料製造方法に示したセメント複合材料を用いたセメントペーストである。図10にセメント複合材料を用いて作製したセメントペーストの熱伝導率を示した。図10の熱伝導率の測定には、英弘精機株式会社製熱伝導率測定装置を用いた。作製したセメントペーストの組成は、図10
の通りである。また本実施形態はセメント複合材料を用いたセメントペーストであり、骨材は用いていない。またセメント複合材料のセメントは、太平洋セメント製普通セメント(密度略3.16g/cm)、粉砕残渣は、密度略3.33g/cm、粉末度略5000cm/g、であって、混和剤として、ポリカルボン酸塩系構成の減水剤を用いた。熱伝導率の測定に際して、上記条件で作製したセメントペーストを10×10×6cmの供試体として、105℃にて絶乾状態とし、供試体作製後28日経過後に熱伝導率の測定を行った。
【0052】
熱伝導率の測定の結果、粉砕残渣を加えないセメントペーストの熱伝導率が0.6W/mKであったのに対して、粉砕残渣を添加することで、熱伝導率が0.8から1.1W/mKに上昇した。セメントペーストは、骨材が含まれないため、骨材による熱伝導率への影響はない。また粉砕残渣は空隙率がセメントに比べて大きいことが予想されるため、セメントに対する粉砕残渣の比率が大きくなると、セメントペースト中の空隙率が大きくなり、熱伝導性が頭打ちにあることが予想される。従って、また、セメントに対する粉砕残渣の添加量は、略40%でほぼ頭打ちとなり、その後は添加量を増やしても、熱伝導率の上昇は鈍いと考えられる。
<実施形態5 効果>
【0053】
本実施形態のセメントペーストのように、実施形態1の製造方法で製造されたセメント複合材料を混合することで、熱伝導率を向上させることが可能となるが、セメントに対する添加量が略40%程度で頭打ちとなる。従って、セメント複合材料を混合することで熱伝導性セメントペーストを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施形態1のセメント複合材料製造方法を説明するためのフローチャート
【図2】実施形態1のセメント複合材料製造方法を説明するための概念図
【図3】実施形態1のセメント複合材料製造方法を説明するための成分データ
【図4】実施形態1のセメント複合材料製造方法を説明するための熱伝導率データ
【図5】実施形態2のセメント複合材料製造方法を説明するためのフローチャート
【図6】実施形態2のセメント複合材料製造方法を説明するための熱伝導率データ
【図7】実施形態2のセメント複合材料製造方法を説明するための熱伝導率データ
【図8】実施形態3のコンクリートの熱伝導率データ
【図9】実施形態4のモルタルの熱伝導率データ
【図10】実施形態5のセメントペーストの熱伝導率データ
【符号の説明】
【0055】
S0101 製品粉砕ステップ
S0102 鉄抜取ステップ
S0103 亜鉛等抜取ステップ
S0104 残渣粉砕ステップ
S0105 セメント粉末混合ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄された家庭用電気製品および自動車スクラップを粉砕する製品粉砕ステップと、
粉砕ステップでの粉砕にて得られる粉砕片を溶融し鉄成分を抜き取る鉄抜取ステップと、
鉄抜取ステップにて鉄の抜き取られた残分である電炉ダストを還元焙焼して亜鉛、鉛、などの成分を抜き取る亜鉛等抜取ステップと、
亜鉛等抜取ステップにて亜鉛、鉛、などの成分の抜き取られた残分である還元焙焼残渣を粉砕する残渣粉砕ステップと、
残渣粉砕ステップにて粉砕された粉砕残渣をセメント粉末と混合してセメント複合材料を生成するセメント粉末混合ステップと、
からなるセメント複合材料製造方法。
【請求項2】
セメント粉末混合ステップは、
さらに炭酸カルシウム粉末を混合する炭酸カルシウム混合サブステップを有する請求項1に記載のセメント複合材料製造方法。
【請求項3】
還元焙焼残渣は、成分として酸化鉄を少なくとも30重量パーセント以上含有する請求項1または2に記載のセメント複合材料製造方法。
【請求項4】
還元焙焼残渣は、残渣粉砕ステップにて密度が3.0g/cm以上となるように粉砕される請求項1から3のいずれか一に記載のセメント複合材料製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一に記載のセメント複合材料製造方法によって製造されたセメント複合材料。
【請求項6】
請求項5に記載のセメント複合材料を用いたコンクリート。
【請求項7】
請求項5に記載のセメント複合材料を用いたモルタル。
【請求項8】
請求項5に記載のセメント複合材料を用いたセメントペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−126424(P2010−126424A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305635(P2008−305635)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(398008114)旭鉱末株式会社 (2)
【Fターム(参考)】