説明

熱伝導性組成物及びこれを加工した熱伝導性シート

【課題】製造が容易であり、熱伝導率の改善及び耐熱性が良好で、且つ柔軟性に富み薄いシートに出来る熱伝導性組成物及びこれを加工した熱伝導性シートを提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニール(PVF)を除く溶融押し出し成形が可能なフッ素樹脂100質量部に、フィラー30ないし1500質量部を添加し、熱伝導率が0.5ないし400W/m・Kの範囲にある熱伝導性組成物が得られる。上記フッ素樹脂は、種々の特性を有するフィラーを大量に且つ容易に添加出来、製造が容易であり、添加したフィラーの特性を顕在化させ易く、特に、熱伝導率の改善を図れて放熱性に優れ、耐熱性や耐久性も良好であり、柔軟性に富み薄いシートも得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製品などの熱伝導用部品、耐熱用部品、電気絶縁用部品、電気伝導用部品などに利用される熱伝導性組成物に関し、詳しくは、ポリテトラフルオロエチレン及びポリフッ化ビニルを除く溶融押し出し成形が可能なフッ素樹脂に、フィラーを添加することで、特に熱伝導率を高めた熱伝導性組成物及びこれを加工した熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ(CPU)、トランジスタ、発光ダイオード(LED)、サイリスタなどの半導体製品は、使用中に発熱し、その熱のためこれら半導体製品の性能が低下することがある。このため、このように発熱する半導体製品には、放熱材料を挟んでヒートシンクなどの放熱器が取り付けられ、半導体製品が冷却されるようになっている。
【0003】
また、近年、パワーエレクトロニクス化が進み、上記半導体製品は無論、モジュールとしても発熱量が膨大になってきている。加えて、モジュールが小型化し、それに伴い放熱器も小型化して、冷却効率を良くするためにモジュールに直接接する放熱材料も高熱伝導率を要求されるようになった。
【0004】
一般的に、放熱材料の熱伝導率を上げるには、素材である高分子材料にフィラーを多く添加することが必要になる。しかしながら、高分子材料にフィラーを多く添加すると、耐熱性が低下することが多く、且つ硬くなり加工性や耐久性が低下してしまうという問題がる。
【0005】
このような状況から、さまざまな提案がなされ、ゴム材料に高熱伝導性フィラーである窒化ホウ素を添加することで、フィラー添加量を減らし、耐熱性の低下と硬くなることを防いだ熱伝導性組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、耐熱性のよいシリコーンゴムに、窒化物あるいは炭化物と塩基性金属酸化物とを併用したフィラーを添加して、耐熱性を向上させ、軟質とした熱伝導性組成物が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、耐熱性のよいシリコーンゴムに、高温下でもシリコーンゴムの熱劣化を助長しないカーボンフィラーを添加し、さらに、耐熱向上剤として酸化セリウムを添加して、耐熱性を向上させ、軟質とした熱伝導性組成物が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、耐熱性のよいフッ素樹脂に、窒化ホウ素であるフィラー添加を添加して、耐熱性が高く、軟質とした熱伝導性組成物が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−343728号公報
【特許文献2】特開平09−151324号公報
【特許文献3】特開平07−119010号公報
【特許文献4】特開2010−137562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の熱伝導性組成物における窒化ホウ素は、ゴム材料に添加する量が少なくてすむから、耐熱性の良好な熱伝導性組成物のフィラーとして優れている。しかしながら、窒化ホウ素は、上記ゴム材料に添加するのが難しく、熱伝導率の改善につながりづらく、加えて、価格が高いという難点がある。
【0011】
特許文献2は、耐熱性の良いシリコーンゴムの熱伝導率を高めるため、窒化物あるいは炭化物と塩基性金属酸化物とを併用したフィラーを多く添加する結果、シリコーンゴムの耐熱性が低下してしまう難点がある。
【0012】
特許文献3は、カーボンフィラーが期待ほどシリコーンゴムの熱伝導率を向上させることがなく、多量のカーボンフィラーを添加することで、酸化セリウムの耐熱性向上の効果が薄れてしまう難点がある。
【0013】
さらに、特許文献4は、フッ素樹脂に窒化ホウ素であるフィラーを直接添加しているため、添加作業が困難であり、また、フッ素樹脂は溶融しづらいから、シート加工が難しく薄いシートを得ることが困難である。
【0014】
そこで、本発明の目的は、製造が容易であり、熱伝導率を改善させるとともに、耐熱性が良好で、その上、柔軟性に富み薄いシートを得ることが出来る熱伝導性組成物及びこれを加工した熱伝導性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであって、下記の構成からなることを特徴とするものである。
すなわち、本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニール(PVF)を除く溶融押し出し成形が可能なフッ素樹脂100質量部に、フィラー30ないし1500質量部を添加し、熱伝導率が0.5ないし400W/m・Kの範囲にあることを特徴とする熱伝導性組成物が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、前記フッ素樹脂はこれのディスパージョンである熱伝導性組成物が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、前記フッ素樹脂に耐熱性フィラーを添加し、耐熱温度を180℃以上とした熱伝導性組成物が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、前記フッ素樹脂に電気伝導性フィラーを添加した熱伝導性組成物が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、前記フィラーは、織布、不織布、耐熱フィルムから選択された1種類以上である熱伝導性組成物が提供される。
【0020】
また、本発明によれば、上記した複数の熱伝導性組成物から選択された1の熱伝導性組成物をシート状に加工してなることを特徴とする熱伝導性シートが提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニール(PVF)を除く溶融押し出し成形が可能なフッ素樹脂に、種々の特性を有するフィラーを大量に且つ容易に添加出来るため、まず、製造が容易であり、添加したフィラーの特性を顕在化させ易く、特に、熱伝導率の改善を図れて放熱性に優れ、耐熱性や耐久性も良好であり、柔軟性に富み薄いシートも得ることが出来る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の熱伝導性組成物の利用形態を示す正面図である。
【図2】本発明の熱伝導性組成物の利用形態を示す側面図である。
【図3】本発明の熱伝導性シートをLED電球に適用した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の熱伝導性組成物のベースとして使われる高分子材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニル(PVF)を除く溶融押し出し成形が可能なフッ素樹脂(以下、単に「フッ素樹脂材料」という)である。
本発明において使用出来るフッ素樹脂材料は、具体的には、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジイオキソールコポリマー(TFE/PDD)などであり、これ以外にもPTFE及びPVFを除く溶融押し出し成形が可能なフッ素樹脂であればよく、これらから1種あるいは2種以上の混合物でもよく、さらに、上記のフッ素樹脂材料あるいはフッ素樹脂材料を主体とする混合物に、これらのフッ素樹脂材料以外の耐熱性のある高分子材料を混合したものでもよい。
【0024】
そして、上記のフッ素樹脂材料は、ディスパージョン溶液であり、そのフッ素樹脂材料濃度は10ないし90質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは40ないし70質量%の範囲である。
【0025】
また、本発明に使われるフィラーとしては、金属酸化物、窒化物、炭化物、金属粉、カーボン、カーボンナノチューブ、グラファイト、炭素繊維などが挙げられる。上記の金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化珪素などがあり、窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素などがあり、炭化物としては、炭化珪素、炭化ホウ素などがあり、さらに、金属粉としては、銀、金、銅、アルミニウムなどがあり、これらから1種あるいは2種以上の混合物も使用できる。
なお、上記各種フィラーのうち、特に電気伝導性を付与するものとしては、金属粉、カーボン、グラファイトであり、これらから電気伝導性の強度により選択され、さらに、添加するフィラーはこれらから1種あるいは2種以上の混合物としてもよい。
【0026】
本発明のフッ素樹脂材料に添加して、例えば、熱伝導性を高めるためのフィラーの粒子形状は、球状あるいは繊維状いずれでもよく、この熱伝導性フィラーの平均粒径は0.02ないし200μmの範囲である。また、熱伝導性フィラーの形状が繊維状である場合は、繊維長分布0.01ないし1500μmの範囲であり、平均繊維長は、0.05ないし300μmの範囲であることが好ましく、この場合の平均繊維径は、0.01ないし15μmの範囲であることが好ましい。
【0027】
なお、熱伝導性フィラーの形状は、球状あるいは繊維状の1種類に統一する必要はなく、その際の平均粒径も必要に応じて、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
上記した熱伝導性フィラーは、フッ素樹脂材料100質量部に対して30ないし1500質量部の範囲で添加され、より好ましくはフッ素樹脂材料100質量部に対して50ないし1200質量部の範囲である。
【0029】
また、フッ素樹脂材料に添加するフィラーは、表面処理をするのがよく、この表面処理剤として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、フッ素系カップリング剤、高級アルコール、含フッ素高級アルコール、高級脂肪酸、含フッ素高級脂肪酸、含フッ素安息香酸、含フッ素安息香酸誘導体、ポリジメチルシロキサンなどが例示でき、これらの例示に拘束されない。これらの表面処理剤の濃度は、フィラーに対して0.1ないし5質量%の範囲である。なお、表面処理剤は、フィラーの種類毎に変えるのがよく、その処理方法は乾式法、湿式法、インテグラル法など公知の方法を使用することができる。
【0030】
主に機械的強度を高めるフィラーとしては、織布、不織布、耐熱フィルムなどがあるが、これらの材料の耐熱温度は200℃以上あることが望ましく、材質としては、硝子繊維、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリイミド、テトラフルオロエチレンなどを例示できるが、これらの例示に限定されるものではない。
【0031】
織布は、平織、綾織などがあり、いずれを用いてもよいが、特に平織が好ましい。これらの織布、不織布、耐熱フィルムの厚みは2ないし100μmの範囲であることが好ましく、より好ましい厚みは、4ないし50μmの範囲である。さらに、フィラーとして織布、不織布を使用する場合は、これらに存在する編み目、空隙を埋めておくのが電気絶縁性を向上させる点で好ましい。これら編み目、空隙を埋める作業は、事前に高分子材料単独あるいはフィラー添加の高分子材料のコンパウンドを溶剤で希釈して塗料を作り、この塗料中に織布、不織布をさっと漬けて余分な塗料を掻き取ったあと乾燥硬化させるのがよい。
【0032】
また、上述のように、フッ素樹脂材料100質量部に対してフィラー30ないし1500質量部の範囲で添加されるが、この際の混合は、ポットミル、プラネタリミキサー、二本ロール、3本ロールなど公知の装置を使用して行われ、目的とする熱伝導性組成物を得ることができる。さらに、得られた熱伝導性組成物のシート成形は、カレンダー成形、スクリーン印刷、プレス成形、押し出し成形、コーティングなど種々あり、どれを用いてもよい。
【0033】
なお、熱伝導性組成物1は、例えば、図1、2に示すように、半導体製品2とアルミ板3との間に密着した状態で介在し、さらに、アルミ板3の下にヒートシンク4が設けられていて、半導体製品2とアルミ板3との間を電気絶縁すると共に、アルミ板3に半導体製品2からの熱を伝導して、ヒートシンク4により放熱する。
また、LED電球では、例えば、図3に示すように、LED素子5の下に敷かれた金属基板6の下に、さらに熱伝導性シート1Aが敷かれ、さらに、その下にヒートシンク4Aが設けられて、金属基板6とヒートシンク4Aとの間を電気絶縁すると共に、金属基板6にLED素子5からの熱を伝導して、ヒートシンク4Aにより放熱する。
【0034】
以下に、本発明の熱伝導性組成物及びこれを加工した熱伝導性シートの優位性を検証したので、その状況を詳述する。
【0035】
[実施例1]
パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー(FEP)成分が56質量%のディスパージョン溶液(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)(以下、単に「56%FEPディスパージョン溶液」という)178.5質量部に、酸化アルミニウム(AA−3 住友化学社製)(以下、単に「酸化アルミニウム」という)250質量部、溶剤800質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材をイミドフィルムに塗布して室温で1時間風乾し、さらに、120℃、1時間の条件で乾燥機にて乾燥させた。そして、イミドフィルムで上下を挟み、熱圧着装置にて300℃、50kg/cm2 の圧力で1分間熱圧着して、0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0036】
[実施例2]
56%FEPディスパージョン溶液178.5質量部に、酸化アルミニウム500質量部、溶剤1000質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて実施例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0037】
[実施例3]
56%FEPディスパージョン溶液178.5質量部に、酸化アルミニウム250質量部、シランカップリング剤(KBM−3063、信越化学工業株式会社製)(以下、単に「シランカップリング剤」という)2.5質量部、溶剤800質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて実施例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0038】
[実施例4]
56%FEPディスパージョン溶液178.5質量部に、酸化アルミニウム500質量部、シランカップリング剤5.0質量部、溶剤1000質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて実施例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0039】
[実施例5]
56%FEPディスパージョン溶液178.5質量部に、窒化ホウ素(HP-40、水島合金株式会社製)(以下、単に「窒化ホウ素」という)56質量部、溶剤150質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて実施例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0040】
[実施例6]
56%FEPディスパージョン溶液178.5質量部に、窒化ホウ素85質量部、溶剤200質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて実施例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0041】
[実施例7]
56%FEPディスパージョン溶液178.5質量部に、グラファイト粉(CGC−50、日本黒鉛工業株式会社製)(以下、単に「グラファイト粉」という)230質量部、増粘剤溶液(外割2%CMC溶液、カルボキシメチルセルロースアンモニウム粉末、和光純薬工業株式会社製)(以下、単に「増粘剤溶液」という)12質量部、溶剤580質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて実施例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0042】
[実施例8]
56%FEPディスパージョン溶液178.5質量部に、グラファイト粉400質量部、増粘剤溶液12質量部、溶剤1000質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて実施例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0043】
[実施例9]
56%FEPディスパージョン溶液(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)178.5質量部に対して酸化亜鉛 150質量部(酸化亜鉛1種 堺化学工業株式会社製)、球状酸化亜鉛 600質量部(LPZINC−11 堺化学工業株式会社製)、シランカップリング剤2.5質量部(KBM−3063)、溶剤1000質量部を添加してポットミルにて混練りし塗材にした。
この塗材をイミドフィルムに塗布して室温で1時間風乾し、さらに120℃、1時間の条件で乾燥機にて乾燥させた。更にイミドフィルムで上下挟み熱圧着装置にて温度300℃、加圧50kg/cmで1分間熱圧着し厚み0.2mmの熱伝導性組成物を得た。
【0044】
[実施例10]
56%FEPディスパージョン溶液(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)178.5質量部に対して酸化亜鉛 300質量部(酸化亜鉛1種 堺化学工業株式会社製)、球状酸化亜鉛 1200質量部(LPZINC−11 堺化学工業株式会社製)、シランカップリング剤5.0質量部(KBM−3063)、溶剤1200質量部を添加してポットミルにて混練りし塗材にした。
この塗材をイミドフィルムに塗布して室温で1時間風乾し、さらに120℃×1時間の条件で乾燥機にて乾燥させた。更にイミドフィルムで上下挟み熱圧着装置にて温度300℃、加圧50kg/cmで1分間熱圧着し厚み0.2mmの熱伝導性組成物を得た。
【0045】
以上の実施例で得られたシート及び組成物について、熱伝導率、曲げ特性、耐熱性を以下の方法にて測定した。
(1)熱伝導率 ASTM D5470に準じて測定した。
(2)曲げ特性
◎:φ1のピンゲージを使用して熱伝導性シートが割れない場合
○:φ1.1ないし2のピンゲージを使用して熱伝導性シートが割れない場合
△:φ2.1ないし3のピンゲージを使用して熱伝導性シートが割れない場合
×:φ3.1以上のピンゲージを使用して熱伝導性シートが割れる場合
(3)耐熱性
熱伝導性シートを熱風循環式オーブンにて300°C×24時間曝露する。まず、曝露する前の熱伝導性シートが割れない最少径のピンゲージを探査する。次に、曝露したあとの熱伝導性シートが割れない最少径のピンゲージを探査する。そして、曝露前後のピンゲージの径の差により耐熱性を判定する。
◎:ピンゲージ径の差がφ0ないし1.0の場合
○:ピンゲージ径の差がφ1.1ないし2の場合
△:ピンゲージ径の差がφ2.1ないし3の場合
×:ピンゲージ径の差がφ3.1以上の場合
その結果を表1に示した。
【表1】

【0046】
[比較例1]
シリコーンゴム(SE1183U、東レ・ダウコーニング株式会社製)(以下、単に「シリコーンゴム」という)100質量部に、酸化アルミニウム250質量部、加硫剤(RC−1東レ・ダウコーニング社製)(以下、単に「加硫剤」という)4質量部、キシレン100質量部を添加して、プラネタリミキサーにて混練りして塗材にした。この塗材をポリエステルフィルムにコーティングして室温で24時間風乾し、さらに、100℃×30分間の条件で熱風循環式オーブンで硬化させた。ポリエステルフィルムを剥がして、0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0047】
[比較例2]
シリコーンゴム100質量部に、酸化アルミニウム250質量部、加硫剤6質量部、キシレン100質量部を添加して、プラネタリミキサーにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて比較例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0048】
[比較例3]
シリコーンゴム100質量部に、酸化アルミニウム250質量部、シランカップリング剤2.5質量部、加硫剤4質量部、キシレン100質量部を添加して、プラネタリミキサーにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて比較例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0049】
[比較例4]
シリコーンゴム100質量部に、酸化アルミニウム500質量部、シランカップリング剤5.0質量部、加硫剤6質量部、キシレン100質量部を添加して、プラネタリミキサーにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて比較例1と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0050】
[比較例5]
シリコーンゴム100質量部に、窒化ホウ素56質量部、加硫剤4質量部、溶剤100質量部を添加して、プラネタリミキサーにて混練りして塗材にした。この塗材をポリエステルフィルムにコーティングして室温で24時間風乾し、さらに、100℃×30分間の条件で熱風循環式オーブンで硬化させた。ポリエステルフィルムを剥がし、さらに、200℃×4時間の二次加硫をして0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0051】
[比較例6]
シリコーンゴム100質量部に、窒化ホウ素85質量部、加硫剤6質量部、溶剤100質量部を添加して、プラネタリミキサーにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて比較例5と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0052】
[比較例7]
シリコーンゴム100質量部に、グラファイト粉230質量部、加硫剤4質量部、溶剤100質量部を添加して、プラネタリミキサーにて混練りして塗材にした。この塗材をポリエステルフィルムにコーティングして室温で24時間風乾したのち、もう1枚のポリエステルフィルムを被せ、100℃×30分間の条件でプレス加工により硬化させた。ポリエステルフィルムを剥がし、さらに、200℃×4時間の二次加硫をして0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0053】
[比較例8]
シリコーンゴム100質量部に、グラファイト粉400質量部、加硫剤4質量部、溶剤100質量部を添加して、プラネタリミキサーにて混練りして塗材にした。この塗材を用いて比較例7と同様の方法にて0.2mm厚みの熱伝導性シートを得た。
【0054】
[比較例9]
シリコーンゴム(SE1183U 東レ・ダウコーニング株式会社製) 100質量部に対して酸化亜鉛 150質量部(酸化亜鉛1種 堺化学工業株式会社製)、球状酸化亜鉛 600質量部(LPZINC−11 堺化学工業株式会社製)、シランカップリング剤2.5質量部(KBM−3063)、溶剤100質量部を添加してプラネタのミキサーにて混練りし塗材にした。
この塗材をポリエステルフィルムにコーティングして室温で24時間風乾し、さらに100℃×30分の条件で熱風循環式のオーブンで硬化させた。ポリエステルフィルムをはがし、さらに、200℃×4時間の二次加硫して厚み0.2mmの熱伝導性組成物を得た。
【0055】
[比較例10]
シリコーンゴム(SE1183U 東レ・ダウコーニング株式会社製) 100質量部に対して酸化亜鉛 300質量部(酸化亜鉛1種 堺化学工業株式会社製)、球状酸化亜鉛 1200質量部(LPZINC−11 堺化学工業株式会社製)、シランカップリング剤5.0質量部(KBM−3063)、溶剤100質量部を添加してプラネタのミキサーにて混練りし塗材にした。
この塗材をポリエステルフィルムにコーティングして室温で24時間風乾し、さらに100℃×30分の条件で熱風循環式のオーブンで硬化させた。ポリエステルフィルムをはがし、さらに、200℃×4時間の二次加硫して厚み0.2mmの熱伝導性組成物を得た。
【0056】
以下、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用した場合の比較例を開示する。
[比較例11]
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)パウダー品100質量部に、酸化アルミニウム250質量部を添加して、320℃の条件にて2軸混練装置にて混練りを試みたが、混練りすることが出来ず、0.2mm厚みの熱伝導性シートは得られなかった。
【0057】
[比較例12]
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)パウダー品56質量部に対して、2−プロパノール44質量部を加え攪拌して、実施例1の56%FEPディスパージョン溶液に相当する、56%PTFEディスパージョン溶液を作製した。この56%PTFEディスパージョン溶液178.5質量部に、酸化アルミニウム250質量部、溶剤800質量部を添加して、ポットミルにて混練りして塗材にした。この塗材をイミドフィルムに塗布して室温で1時間風乾し、さらに、120℃、1時間の条件で乾燥機にて乾燥させた。そして、イミドフィルムで上下を挟み、熱圧着装置にて300℃、50kg/cm2 の圧力で1分間熱圧着したが、この場合も、0.2mm厚みの熱伝導性シートを得ることが出来なかった。
【0058】
以上の方法で得られたシート及び組成物を上記実施例と同様の測定方法で評価し、その結果を表2に示した。
【表2】

【0059】
実施例1ないし10と比較例1ないし10の結果の対比から理解されるように、本発明の実施例に示したPTFE及びPVFを除く溶融押し出し成形が可能な所謂「フッ素樹脂材料」は、比較例のシリコーンゴムよりフィラーを多く添加でき、同量のフィラー添加であれば、実施例の方が比較例よりも曲げ特性が良好であることが分かる。
また、実施例3、4のように表面処理をしたフィラーを使用すると、表面処理をしていない実施例1、2よりも、曲げ特性が良くなっている。これは表面処理をしたフィラーがフッ素樹脂材料との親和性が向上したことを示している。
なお、比較例11は、PTFEに直接フィラーを練り込もうとしたが、練り込み出来なかった。また、比較例12は、実施例1の56%FEPディスパージョン溶液に相当する、56%PTFEディスパージョン溶液としたが、一時的にフィラーを充填できても、乾燥して溶剤がなくなると、シート状に保持することができず、熱圧着作業ができなかった。
そのため、比較例11,12については物性の評価ができなかった。
【0060】
以上、本発明の実施例を説明したが、具体的な構成はこれに限定されず、さらに本発明の要旨を逸脱しない範囲での変更は、適宜可能であることが理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の熱伝導性組成物及びこれを加工した熱伝導性シートは、製造が容易であり、熱伝導率の改善は無論のこと、耐熱性が良好で、その上、柔軟性に富み薄いシートを得たいような場合に、その利用可能性が極めて高くなる。
【符号の説明】
【0062】
1 熱伝導性組成物
1A 熱伝導性シート
2 半導体製品
3 アルミ板
4、4A ヒートシンク
5 LED素子
6 金属基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニル(PVF)を除く溶融押し出し成形が可能なフッ素樹脂100質量部に、フィラー30ないし1500質量部を添加し、熱伝導率が0.5ないし400W/m・Kの範囲にあることを特徴とする熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂は、これのディスパージョンである請求項1記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記フッ素樹脂に耐熱性フィラーを添加し、耐熱温度を180℃以上とした請求項1記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂に電気伝導性フィラーを添加した請求項1または2記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記フィラーは、織布、不織布、耐熱フィルムから選択された1種類以上である請求項1または2記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の熱伝導性組成物をシート状に加工してなることを特徴とする熱伝導性シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23664(P2013−23664A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162382(P2011−162382)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(393023721)
【Fターム(参考)】