説明

熱伝導性高分子成形体及びその製造方法

【課題】発熱した部品からの放熱用途において、より好適に使用可能な熱伝導性高分子成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱伝導性高分子成形体は、調製工程、相転移工程、配向工程、成形工程、及び加熱工程を経て製造される。調製工程では、熱液晶性高分子を含有する液晶性組成物が調製される。相転移工程では、熱液晶性高分子が液晶状態に相転移される。配向工程では、熱液晶性高分子が流動場、せん断場、磁場、及び電場から選ばれる少なくとも一種の外場によって配向される。成形工程では、熱液晶性高分子の配向を維持した状態で、熱液晶性高分子を液晶状態から固体状態に相転移させることにより熱液晶性高分子成形体が成形される。加熱工程では、熱液晶性高分子成形体に加熱処理が施されて熱伝導性高分子成形体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子機器内において発熱した電子部品から電子機器外への放熱に用いられる熱伝導性高分子成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化、小型化、及び軽量化に伴って、電子機器に用いられる半導体パッケージの高密度化、並びに高密度集積回路(LSI)の高集積化及び高速化が行われている。それに伴い、各種の電子部品において発生する熱が増大することから、発熱した電子部品から電子機器外へ効果的に放熱させるための熱対策が非常に重要な課題となっている。このような熱対策として、例えばプリント配線基板、半導体パッケージ、筐体、ヒートパイプ、又は放熱板(熱拡散板)に、放熱材料、例えば金属、セラミックス、又は高分子組成物からなる熱伝導性成形体が用いられている。これらの中でも、高分子組成物からなる熱伝導性成形体、即ち熱伝導性高分子成形体は、任意の形状に成形し易く、更に他の放熱材料からなる熱伝導性成形体に比べて軽量であることから、広く利用されている。
【0003】
熱伝導性高分子成形体を構成する高分子組成物としては、高分子マトリックス材料、例えば樹脂又はゴムに、高い熱伝導率を有する熱伝導性充填材が含有されているものが知られている。熱伝導性充填材の素材としては、例えば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英等の金属酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物;炭化ケイ素等の金属炭化物;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;金、銀、銅等の金属;黒鉛等の炭素が挙げられる。
【0004】
電子部品の実装及び使用時の高い温度環境下においても変形が生じないような耐熱性が要求される用途には、良好な成形加工性及び優れた耐熱性を有する熱液晶性高分子を高分子マトリックスとして用いた高分子組成物及び熱伝導性高分子成形体が提唱されている。この種の高分子組成物として、特許文献1には、熱伝導性充填材として50〜90重量%のジルコンと10〜50重量%の熱液晶性高分子とを含む組成物が開示されている。特許文献2には、炭素繊維等の熱伝導性充填材20〜80重量%と、熱液晶性高分子80〜20重量%とを含む組成物が開示されている。これらの組成物は、熱伝導性充填材に起因して高い熱伝導性を有する。
【0005】
さらに、特許文献3には、熱液晶性高分子の配向方法が開示されている。特許文献4には、熱液晶性高分子を磁場で配向させることにより、配向方向に沿って高い熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体が開示されている。特許文献5には、熱液晶性高分子の加熱処理により高い熱伝導性を有する成形体が開示されている。
【0006】
ところが、最近の電子部品の高性能化に伴う発熱量の増大に対して、上述した従来の組成物及び成形体が有する熱伝導性は十分に対応することができなかった。
【特許文献1】特開平5−271465号公報
【特許文献2】特表2001−523892号公報
【特許文献3】特開昭63―75037号公報
【特許文献4】特開2004−149722号公報
【特許文献5】特開2006−57005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、発熱した部品からの放熱用途において、より好適に使用可能な熱伝導性高分子成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、熱液晶性高分子を含有した液晶性組成物を調製する調製工程と、前記液晶性組成物中の熱液晶性高分子を液晶状態に相転移させる相転移工程と、前記熱液晶性高分子を、流動場、せん断場、磁場、及び電場から選ばれる少なくとも一種の外場によって配向させる配向工程と、前記熱液晶性高分子の配向を維持した状態で、熱液晶性高分子を液晶状態から固体状態に相転移させることにより熱液晶性高分子成形体を成形する成形工程であって、熱液晶性高分子成形体において、X線回折測定から下記式(1)によって求められる熱液晶性高分子の配向方向に沿った配向度αが0.5以上1.0未満である成形工程と、
配向度α=(180−Δβ)/180…(1)
(式(1)において、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す)
前記熱液晶性高分子成形体に加熱処理を施すことにより熱伝導性高分子成形体を得る加熱工程とを備える熱伝導性高分子成形体の製造方法を提供する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記液晶性組成物の流動開始温度をFT(℃)で表したとき、前記加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱温度はFT−80(℃)からFT(℃)の範囲内である請求項1に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法を提供する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記配向工程において、前記液晶性組成物に磁場を印加することにより熱液晶性高分子が配向される請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法を提供する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記熱液晶性高分子が熱液晶性ポリエステルである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法を提供する。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法によって得られることを特徴とする熱伝導性高分子成形体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発熱した部品からの放熱用途において、より好適に使用可能な熱伝導性高分子成形体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を熱伝導性高分子成形体に具体化した一実施形態を説明する。
本実施形態の熱伝導性高分子成形体は熱伝導性を備えており、放熱部材を構成する。即ち、熱伝導性高分子成形体は、放熱部材として例えば電子機器内に設けられ、発熱した部品、例えば発熱した電子部品から電子機器外へ放熱する。熱伝導性は熱伝導性高分子成形体内の熱伝導のし易さを表す指標であり、熱伝導性高分子成形体の熱伝導率に起因している。熱伝導性高分子成形体は、その熱伝導率が高いほど発熱した部品からの熱伝導を促進し、優れた熱伝導性を発揮する。熱伝導性高分子成形体は液晶性組成物から製造される。
【0014】
液晶性組成物は熱液晶性高分子を含有している。熱液晶性高分子は熱可塑性を有する高分子であり、熱伝導性高分子成形体が通常使用される温度範囲では固体状態であるが、加熱されて溶融する際に所定の温度範囲で光学的異方性を示す溶融相を有する液晶状態に相転移する。熱液晶性高分子は扁平又は棒状の細長い分子形状を有している。即ち、熱液晶性高分子は扁平又は棒状の分子鎖を有しており、該分子の長鎖に沿って高い剛性を有している。熱液晶性高分子の光学的異方性は、直交偏光子を利用した偏光検査法によって確認される。以下の説明において、熱伝導性高分子成形体を“熱伝導性成形体”と称し、液晶性組成物を単に“組成物”と称し、熱液晶性高分子において高い剛性を有する分子鎖を“メソゲン基”と称する。
【0015】
熱液晶性高分子は、例えば主鎖型の熱液晶性高分子、側鎖型の熱液晶性高分子、及び複合型の熱液晶性高分子に分類される。主鎖型の熱液晶性高分子では、液晶構造の発現のもととなるメソゲン基が主鎖に位置している。主鎖型の熱液晶性高分子としては、主鎖に主として芳香族基又はアルキレン基を有し、これらが主としてエステル基(−COO−又は−OCO−)で連結しているコポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートとヒドロキシ安息香酸とを縮合して得られるコポリエステル、及びヒドロキシナフトエ酸とヒドロキシ安息香酸とを縮合して得られるコポリエステルが挙げられる。側鎖型の熱液晶性高分子ではメソゲン基が側鎖に位置している。側鎖型の熱液晶性高分子としては、例えばエチレン系高分子の主鎖、又はシロキサン系高分子の主鎖にメソゲン基が側鎖として連なった構造を繰り返し単位として含むものが挙げられる。複合型の熱液晶性高分子では、前記主鎖型と側鎖型とが混在している。
【0016】
熱液晶性高分子としては、例えば熱液晶性ポリエステル、熱液晶性ポリエステルアミド、熱液晶性ポリエステルエーテル、熱液晶性ポリエステルカーボネート、及び熱液晶性ポリエステルイミドが挙げられる。これらの中でも、より高度の耐熱性及び熱安定性を有することから、特に熱液晶性ポリエステルが好ましい。
【0017】
熱液晶性ポリエステルの繰り返し単位は、例えば、芳香族ジカルボン酸系化合物、及び脂環族ジカルボン酸系化合物から選ばれる少なくとも一種(以下、ジカルボン酸系化合物という)、芳香族ヒドロキシカルボン酸系化合物から選ばれる少なくとも一種(以下、ヒドロキシカルボン酸系化合物という)、及び芳香族ジオール系、脂環族ジオール系、及び脂肪族ジオール系化合物から選ばれる少なくとも一種(以下、ジオール系化合物という)から由来する。即ち、熱液晶性ポリエステルは、例えばジカルボン酸系化合物及びジオール系化合物の縮合により得られたり、ジカルボン酸系化合物、ヒドロキシカルボン酸系化合物及びジオール系化合物の縮合により得られたりする。
【0018】
芳香族ジカルボン酸系化合物としては、芳香族ジカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、4,4′−トリフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェノキシブタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−4,4′−ジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−3,3′−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−3,3′−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−3,3′−ジカルボン酸、及び1,6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の誘導体は、芳香族ジカルボン酸に置換基、例えばアルキル、アルコキシ、又はハロゲンが導入されたものである。芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、例えばクロロテレフタル酸、ジクロロテレフタル酸、ブロモテレフタル酸、メチルテレフタル酸、ジメチルテレフタル酸、エチルテレフタル酸、メトキシテレフタル酸、及びエトキシテレフタル酸が挙げられる。前記芳香族ジカルボン酸系化合物の具体例の中でも、優れた耐熱性を有するとともに磁場の印加によって配向度が容易に高められることから、テレフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及びイソフタル酸が好ましい。
【0019】
脂環族ジカルボン酸系化合物としては、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、例えばトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,3−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。脂環族ジカルボン酸の誘導体は、脂環族ジカルボン酸に置換基、例えばアルキル、アルコキシ、又はハロゲンが導入されたものである。脂環族ジカルボン酸の誘導体としては、例えばトランス−1,4−(2−メチル)シクロヘキサンジカルボン酸、及びトランス−1,4−(2−クロル)シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
【0020】
芳香族ヒドロキシカルボン酸系化合物としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、及び6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸の誘導体は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に置換基、例えばアルキル、アルコキシ、又はハロゲンが導入されたものである。芳香族ヒドロキシカルボン酸の誘導体としては、例えば3−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジメチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−メトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−5−メチル−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ナフトエ酸、2−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、2,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−ブロモ−4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−5−クロロ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−7−クロロ−2−ナフトエ酸、及び6−ヒドロキシ−5,7−ジクロロ−2−ナフトエ酸が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸系化合物の具体例の中でも、優れた耐熱性を有するとともに磁場の印加によって配向度が容易に高められることから、4−ヒドロキシ安息香酸、及び6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が好ましい。
【0021】
芳香族ジオール系化合物としては、芳香族ジオール及びその誘導体が挙げられる。芳香族ジオールとしては、例えば4,4′−ジヒドロキシジフェニル、3,3′−ジヒドロキシジフェニル、4,4′−ジヒドロキシトリフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ナフタレンジオール、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、3,3′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,6−ナフタレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、及びビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンが挙げられる。芳香族ジオールの誘導体は、芳香族ジオールに置換基、例えばアルキル、アルコキシ、又はハロゲンが導入されたものである。芳香族ジオールの誘導体としては、例えばクロロハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、フェノキシハイドロキノン、4−クロロレゾルシン、及び4−メチルレゾルシンが挙げられる。芳香族ジオール系化合物の具体例の中でも、優れた耐熱性を有するとともに磁場の印加によって配向度が容易に高められることから、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、2,6−ナフタレンジオール、ハイドロキノン、及びレゾルシンが好ましい。
【0022】
脂環族ジオール系化合物としては、脂環族ジオール及びその誘導体が挙げられる。脂環族ジオールとしては、例えばトランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、及びトランス−1,3−シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。脂環族ジオールの誘導体は、脂環族ジオールに置換基、例えばアルキル、アルコキシ、又はハロゲンが導入されたものである。脂環族ジオールの誘導体としては、例えばトランス−1,4−(2−メチル)シクロヘキサンジオール、及びトランス−1,4−(2−クロロ)シクロヘキサンジオールが挙げられる。
【0023】
脂肪族ジオール系化合物としては、直鎖状又は分岐状の脂肪族ジオールが挙げられる。直鎖状又は分岐状の脂肪族ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、及びネオペンチルグリコールが挙げられる。脂肪族ジオール系化合物の具体例の中でも、優れた耐熱性を有するとともに磁場の印加によって配向度が容易に高められることから、エチレングリコールが好ましい。
【0024】
熱液晶性ポリエステルは、その耐熱性及び熱安定性を著しく低下させない範囲において、主鎖にエステル基以外の連結基を有してもよい。エステル基以外の連結基として好ましい連結基はアミド基(−CONH−又は−NHCO−)である。即ち、本実施形態の熱液晶性高分子として、連結基の一部としてアミド基を有する熱液晶性ポリエステルアミドが用いられてもよい。
【0025】
熱液晶性ポリエステルアミドの繰り返し単位は、前記ジオール系化合物の一部が、芳香族ジアミン、ヒドロキシ基を有する芳香族アミン、脂環族ジアミン、及びヒドロキシ基を有する脂環族アミンから選ばれる少なくとも一種の化合物に置換されたものから由来する。即ち、熱液晶性ポリエステルアミドは、例えば上述のように一部が置換されたジオール系化合物と前記ジカルボン酸系化合物との縮合により得られる。
【0026】
芳香族ジアミンとしては、例えば1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノビフェニル、及び2,6−ジアミノナフタレンが挙げられる。ヒドロキシ基を有する芳香族アミンとしては、例えば4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4’−アミノビフェニル−4−オール、及び5−アミノナフトールが挙げられる。脂環族ジアミンとしては、例えば1,4−シクロヘキサン、1,3−シクロヘキサン、及び1,3−シクロペンタンが挙げられる。ヒドロキシ基を有する脂環族アミンとしては、例えば4−アミノシクロヘキサノール、及び3−アミノシクロヘキサノールが挙げられる。
【0027】
熱液晶性ポリエステルは、例えば脂肪酸無水物を用いて原料中の水酸基(ヒドロキシ基)をアシル化した後、脱酢酸重縮合による重合を行う方法により合成される。この方法は、例えば特開2002−220444号公報、及び特開2002−146003号公報に記載されている。
【0028】
熱液晶性高分子の重量平均分子量Mwは、好ましくは5000以上100000未満であり、さらに好ましくは8000以上20000未満であり、特に好ましくは10000以上16000未満である。重量平均分子量Mwが100000以上の場合、組成物の流動開始温度以下の温度による加熱によっても熱伝導性成形体の熱伝導率が向上しないおそれがある。重量平均分子量Mwが5000未満の場合、液晶状態に相転移した組成物の粘度が低下し、配向工程における組成物の取扱いが困難になる。
【0029】
組成物は、熱伝導性成形体の例えば耐熱性又は成形加工性を向上させるために、前記熱液晶性高分子以外の高分子を更に含有してもよい。熱液晶性高分子以外の高分子としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン、アクリル系高分子、ポリサルホン、シリコーン系高分子、ハロゲン系高分子、及びオレフィン系高分子が挙げられる。
【0030】
組成物は、熱伝導性成形体の熱伝導性を向上させるために、熱伝導性充填材を更に含有してもよい。熱伝導性充填材の素材としては、例えば金属、金属酸化物、金属珪酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、金属被覆樹脂、及び炭素材料が挙げられる。金属としては、例えば銀、銅、金、及び白金が挙げられる。金属酸化物としては、例えば酸化アルミニウム、及び酸化マグネシウムが挙げられる。金属珪酸化物としては、例えばジルコンが挙げられる。金属窒化物としては、例えば窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素が挙げられる。金属炭化物としては、例えば炭化ケイ素が挙げられる。金属水酸化物としては、例えば水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムが挙げられる。炭素材料としては、例えば天然黒鉛、及び人造黒鉛が挙げられる。
【0031】
熱伝導性充填材の形状は特に限定されず、球状でもよいし、繊維状でもよいし、板状でもよい。例えば炭素材料から形成される熱伝導性充填材としては、例えば炭素繊維、黒鉛化炭素繊維、球状黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ、ウィスカー状カーボン、マイクロコイル状カーボン、ナノコイル状カーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンが挙げられる。
【0032】
組成物は、熱伝導性成形体の例えば機械的強度を向上させるために、前記熱伝導性充填材以外の充填材、例えばガラス繊維、又はガラスフレークを更に含有してもよい。組成物中におけるこれらの充填材の含有量は、熱液晶性高分子100重量部に対して、好ましくは100重量部未満であり、より好ましくは80重量部未満であり、さらに好ましくは70重量部未満である。充填材の配合量が熱液晶性高分子100重量部に対して100重量部以上の場合、熱液晶性高分子の配向を妨げるおそれがある。熱伝導性成形体の軽量化が要求されている場合には、組成物は前記熱伝導性充填材以外の充填材を実質的には含有しないことが好ましい。ここで、“組成物が前記熱伝導性充填材以外の充填材を実質的には含有しないこと”は、組成物中における前記充填材の含有量が、熱液晶性高分子100重量部に対して、好ましくは5重量部以下であり、より好ましくは1重量部以下であることを意味する。
【0033】
組成物は、必要に応じて例えば顔料、染料、蛍光増白剤、分散剤、安定剤、紫外線吸収剤、エネルギー消光剤、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤、又は溶剤を含有してもよい。しかしながら、組成物が熱液晶性高分子のみを含有すること、即ち組成物が液晶性高分子のみからなることが好ましい。従って、本発明の組成物の概念は、液晶性高分子と、該液晶性高分子以外の成分とから構成されるものだけでなく、液晶性高分子のみから構成されるものも含む。
【0034】
熱伝導性成形体は、調製工程、相転移工程、配向工程、成形工程、及び加熱工程を順に経て製造される。調製工程では、前記熱液晶性高分子と、必要に応じて他の成分とを配合して前記組成物を調製する。相転移工程では、組成物を加熱して溶融させることにより、組成物中の熱液晶性高分子を液晶状態に相転移させて液晶性を発現させる。相転移工程における組成物の加熱時間は、熱液晶性高分子の劣化を防止するために短いことが好ましい。
【0035】
配向工程では、組成物中において、液晶性を発現した熱液晶性高分子を、流動場、せん断場、磁場、及び電場から選ばれる少なくとも一種の外場によって配向させる。これらの外場の中でも、熱液晶性高分子の配向度を容易に制御することができることから磁場が好ましい。組成物に磁場が印加される際、熱液晶性高分子のメソゲン基が磁場の磁力線と平行に延びるように配向される。
【0036】
組成物に印加する磁場の発生手段としては、例えば永久磁石、電磁石、超電導磁石、及びコイルが挙げられる。これらの中でも、実用的な磁束密度を有する磁場を発生させることができることから超電導磁石が好ましい。
【0037】
熱液晶性高分子に印加される磁場の磁束密度は、好ましくは1〜20テスラ(T)であり、さらに好ましくは2〜20Tであり、特に好ましくは3〜20Tである。磁束密度が1T未満の場合、熱液晶性高分子のメソゲン基を十分に配向させることができないおそれがある。磁束密度が20Tを超える磁場は実用上得られにくい。3〜20Tの磁束密度は、本発明に係る熱伝導性成形体が得られやすいことから実用的である。
【0038】
成形工程では、例えば組成物を冷却して固化させることにより熱液晶性高分子を液晶状態から固体状態に相転移させ、組成物から熱液晶性高分子成形体を成形する。このとき、熱液晶性高分子は、配向を維持した状態で液晶状態から固体状態に相転移する。成形工程で得られる熱液晶性高分子成形体中の液晶性高分子は、相転移工程における液晶状態への相転移、配向工程における配向、及び成形工程における固体状態への相転移を経て、配向された状態を維持している。そのため、熱液晶性高分子成形体において、X線回折測定から下記式(1)によって求められる熱液晶性高分子の配向方向に沿った配向度αは、0.5以上1.0未満であり、好ましくは0.55以上1.0未満であり、さらに好ましくは0.6以上1.0未満であり、特に好ましくは0.7以上1.0未満である。
【0039】
配向度α=(180−Δβ)/180…(1)
式(1)において、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す。配向度αが0.5未満では、配向工程後の加熱工程において、得られる熱伝導性成形体の熱伝導率が向上されない。配向度αは、半値幅Δβが常に正の値を示すことから、上記式(1)から1.0以上の値はとり得ない。配向度αが0.5以上1.0未満であることにより、配向工程後の加熱工程において、得られる熱伝導性成形体の熱伝導率が高くなり、該熱伝導性成形体が優れた熱伝導性を発揮することができる。
【0040】
熱液晶性高分子の配向度αの求め方について具体的に説明する。熱液晶性高分子の配向度αを求めるためには、熱液晶性高分子成形体について広角X線回折測定を行う。X線回折装置において、試料にX線を照射すると、該試料中に含まれる粒子(分子鎖)が配向している場合には、同心弧状の回折パターン(デバイ環)が得られる。従って、熱液晶性高分子成形体の表面にX線を照射してデバイ環を得る。
【0041】
次に、このデバイ環の中心から赤道方向(半径方向)におけるX線回折強度分布を示す回折パターン(図1参照)を得る。この回折パターンにおいて、2θ=20度に現れる回折ピークは、熱液晶性高分子成形体における熱液晶性高分子の各分子鎖間の距離を示すと考えられている。回折ピークが現れる2θは、熱液晶性高分子の構造、及び組成物における各成分の配合によって、20度を基準として約15〜30度の範囲で変化する場合もあるが、通常は20度である。
【0042】
この回折ピークが現れる2θ(ピーク散乱角)を固定して、方位角方向(デバイ環の周方向)に0〜360度までのX線回折強度分布を測定することにより、図2に示すような方位角方向のX線回折強度分布が得られる。次に、前記方位角方向のX線回折強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅Δβ)を求め、この半値幅Δβを前記式(1)に代入することにより配向度αを求める。図2に示す方位角方向のX線回折強度分布の場合、配向度αは0.89である。
【0043】
加熱工程では、前記熱液晶性高分子成形体に加熱処理を施すことにより熱伝導性成形体を得る。加熱処理における熱液晶性高分子成形体の加熱温度は通常、熱液晶性高分子の分解反応の発生を抑制するために100〜360℃である。しかしながら、組成物の流動開始温度をFT(℃)で表したとき、熱液晶性高分子成形体の加熱温度は、好ましくはFT−80(℃)からFT(℃)の範囲内である。加熱温度が前記範囲を外れると、熱伝導性成形体の熱伝導率が十分に高められないおそれがある。また、加熱温度がFT(℃)を超えると、熱液晶性高分子成形体に加熱処理を施す際に熱液晶性高分子の配向が乱れて熱伝導性成形体の熱伝導率が低下するおそれがある。
【0044】
流動開始温度とは、内径が1mmであり、且つ長さが10mmであるダイスが取り付けられた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下において昇温速度4℃/分で組成物をノズルから押し出すときに組成物の溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度のことである。この流動開始温度は熱液晶性高分子の分子量を表す指標である(例えば、小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0045】
組成物の流動開始温度として、該組成物自身の流動開始温度が測定されてもよいし、組成物中の高分子成分のみの流動開始温度が測定されてもよい。組成物中の高分子成分とは該組成物に含有される高分子のことであり、高分子成分として例えば熱液晶性高分子が挙げられる。組成物の流動開始温度は該組成物中の高分子成分に依存していることから、高分子成分の流動開始温度と、該高分子成分を含有する組成物の流動開始温度とは実質的に等しい。そのため、流動開始温度が予め測定された高分子成分と、該高分子成分以外の成分とを混合して組成物を調製することにより、組成物の流動開始温度を測定することなく該流動開始温度を得ることができる。
【0046】
加熱処理における熱液晶性高分子成形体の加熱時間の下限は、より高度の機械的強度の成形体が得られることから、好ましくは10分であり、さらに好ましくは20分であり、特に好ましくは40分である。このように加熱時間が長時間に設定されることによって機械的強度が向上する原因は定かではないが、熱液晶性高分子成形体中の熱液晶性高分子が、より高分子量化するためと推定される。この熱液晶性高分子の高分子量化は、該熱液晶性高分子が熱液晶性ポリエステルである場合に顕著である。また、前記加熱時間の上限は、熱液晶性高分子の熱劣化を抑制することができることから、好ましくは8時間であり、さらに好ましくは6時間である。加熱処理において、熱液晶性高分子成形体は空気雰囲気中で加熱されてもよいが、熱伝導性成形体の表面の着色を防止するために、不活性ガス雰囲気中で加熱されたり、減圧状態又は真空状態で加熱されたりすることが好ましい。
【0047】
熱伝導性成形体の製造では、通常の合成樹脂を成形する際に使用される装置、例えば射出成形装置、押出成形装置、又はプレス成形装置が用いられ得る。相転移工程、配向工程、成形工程、及び加熱工程は、例えば磁場が印加された状態で連続して行われてもよいが、磁場内での工程の短縮によって生産性を向上させることができることから、各工程が別個に行われることが好ましい。
【0048】
次に、図3に示すように、シート状を有し、熱液晶性高分子が厚さ方向(図3のZ軸方向)に沿って延びている熱伝導性成形体11の製造方法について具体的に説明する。熱液晶性高分子が厚さ方向に沿って延びていることから、この熱伝導性成形体11は、厚さ方向に沿って高い熱伝導性が要求されるプリント配線基板、又は半導体パッケージ用の放熱シートとして、電子機器内において好適に使用される。
【0049】
熱伝導性成形体11を製造するときには、まず調製工程及び相転移工程として、熱液晶性高分子を含有する組成物を調製した後、該組成物を加熱して溶融させ、液晶性高分子を液晶状態に相転移させる。
【0050】
次いで、配向工程として、図4に示すように、シート状のキャビティ12を有する金型13を準備する。この金型13の上下には、磁場の発生手段としての一対の永久磁石14が配置され、該永久磁石14によって発生する磁場の磁力線Mは、キャビティ12の厚さ方向に沿って延びている。即ち、一対の永久磁石14は、それらのS極とN極とが対向するように配置されている。そして、溶融した組成物15をキャビティ12に充填する。金型13には図示しない加熱装置が設けられており、この加熱装置によって、キャビティ12に充填された組成物15の溶融状態が維持される。次いで、永久磁石14によって、キャビティ12に充填された組成物15に所定の磁束密度を有する磁場を印加する。このとき、磁力線Mはキャビティ12の厚さ方向に沿って延びていることから、熱液晶性高分子のメソゲン基がキャビティ12の厚さ方向に沿って配向される。
【0051】
続いて、成形工程として金型13を冷却する。このとき、キャビティ12に充填された組成物15が冷却されて固化し、液晶性高分子が液晶状態から固体状態に相転移して熱液晶性高分子成形体が得られる。この熱液晶性高分子成形体において、熱液晶性高分子は熱液晶性高分子成形体の厚さ方向に沿って配向されている。また、熱液晶性高分子の前記厚さ方向に沿った配向度αは0.5以上1.0未満である。そして、加熱工程において熱液晶性高分子成形体に加熱処理を施すことにより、シート状を有するとともに熱液晶性高分子が厚さ方向に沿って延びている熱伝導性成形体を得る。
【0052】
続いて、シート状を有し、熱液晶性高分子が面内方向(図3のX軸、Y軸方向)に沿って延びている熱伝導性成形体11の製造方法について具体的に説明する。前述と同様に、まず調製工程及び相転移工程として、熱液晶性高分子を含有する組成物を調製した後、該組成物を加熱して溶融させ、液晶性高分子を液晶状態に相転移させる。
【0053】
次いで、配向工程として、図5に示すように、一対の永久磁石24が金型23の左右に配置された以外は、図4に示す金型13と同一の構成を有する金型23を準備する。永久磁石24によって発生する磁場の磁力線Mは、キャビティ22の面内方向に沿って延びている。そして、溶融した組成物15をキャビティ22に充填し、図示しない加熱装置によってキャビティ22に充填された組成物15の溶融状態を維持しながら、永久磁石24によって、キャビティ22に充填された組成物15に所定の磁束密度を有する磁場を印加する。このとき、磁力線Mはキャビティ22の面内方向に沿って延びていることから、熱液晶性高分子のメソゲン基はキャビティ22の面内方向に沿って配向される。
【0054】
続いて、成形工程として金型23を冷却する。このとき、キャビティ22に充填された組成物15が冷却されて固化し、液晶性高分子が液晶状態から固体状態に相転移して熱液晶性高分子成形体が得られる。この熱液晶性高分子成形体において、熱液晶性高分子は熱液晶性高分子成形体の面内方向に沿って配向されている。また、熱液晶性高分子の前記面内方向に沿った配向度αは0.5以上1.0未満である。そして、加熱工程において熱液晶性高分子成形体に加熱処理を施すことにより、シート状を有するとともに熱液晶性高分子が面内方向に沿って延びている熱伝導性成形体を得る。
【0055】
熱伝導性成形体は、放熱部材、例えばプリント配線基板、半導体パッケージ、筐体、ヒートパイプ、又は放熱板(熱拡散板)を構成する。熱伝導性成形体の形状は特に限定されず、熱伝導性成形体は前記シート状を有してもよいし、フィルム状、ブロック状、粒状、又は繊維状を有してもよい。
【0056】
熱伝導性成形体中の熱液液晶性高分子は、配向工程によって配向されている。配向工程における外場の印加方向は、熱伝導性成形体での所望の方向における熱伝導率が他の方向に比べて高くなるように調整されている。外場として磁場が組成物に印加される場合、磁場の磁力線に沿って熱液晶性高分子が配向され易いことから、熱伝導性成形体における高熱伝導率を発現する方向を磁場の印加方向によって制御することができる。更に、熱伝導性成形体中の熱液晶性高分子は、前述のように加熱工程によってその分子量が増加し易く、この分子量の増加により、熱伝導性成形体での所望の方向における熱伝導率が、他の方向に比べて更に高くなる傾向がある。これらより、熱伝導性成形体における熱液晶性高分子の前記配向方向に沿った熱伝導率λは1.0〜5.0W/(m・K)を達成することができ、さらに好ましくは1.7〜5.0/(m・K)を達成することができ、特に好ましくは2.3〜5.0W/(m・K)を達成することができる。そのため、熱伝導性成形体は、特に発熱量が多い電子部品の放熱部材に適している。
【0057】
これは、以下の理由によるものと推察される。即ち、熱伝導性成形体において、熱液晶性高分子の配向方向における熱伝導性が他の方向に比べて高い場合には、熱伝導性成形体の製造過程において熱液晶性高分子に以下のようなことが起きていると推察される。熱液晶性高分子は配向工程によって配向され、加熱工程において、配向方向に沿って並んだ熱液晶性高分子同士が結合して高分子量化することにより、熱液晶性高分子の配向方向に沿った分子鎖が加熱前に比べて長くなる。熱伝導性成形体の前記配向方向に沿った熱伝導率は、このように配向方向に沿って延びる分子鎖が長い熱液晶性高分子が存在している場合が、分子鎖が短い熱液晶性高分子が配向している場合に比べて高い。
【0058】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の熱伝導性成形体の製造方法は、熱液晶性高分子を配向させる配向工程と、成形工程を経て得られる熱液晶性高分子成形体に加熱処理を施す加熱工程とを備えている。そのため、熱伝導性成形体の熱伝導性は、配向工程における熱液晶性高分子の配向によって向上されるとともに、加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱処理によって更に向上される。従って、本実施形態の熱伝導性成形体は、熱液晶性高分子の配向のみ、又は熱液晶性高分子成形体の加熱処理のみが行われた場合に比べて高い熱伝導性を発揮することができる。
【0059】
・ 加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱温度は、好ましくはFT−80(℃)からFT(℃)の範囲内である。この場合、熱液晶性高分子の配向が乱れたりすることなく熱伝導性成形体の熱伝導率を高めて該熱伝導性成形体の熱伝導性を向上させることができる。
【0060】
本実施形態は、以下のように変更して具体化されてもよい。
・ 一対の永久磁石14,24の内、一方の永久磁石14,24が省略されてもよい。
・ 一対の永久磁石14,24は、それらのS極同士又はN極同士が対向するように配置されてもよい。
【0061】
・ 本実施形態において、前記磁力線Mは直線状に延びるように設定されているが、曲線状に延びるように設定されてもよい。また、前記永久磁石14,24は磁力線Mが一方向に延びるように配設されているが、磁力線Mが二方向以上に延びるように永久磁石14,24が配設されてもよい。さらに、永久磁石14,24が金型13,23を中心として回転されてもよい。
【実施例】
【0062】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(合成例1)
合成例1においては、0.60dL/gの固有粘度を有するポリエチレンテレフタレート69.1g(0.36モル)及びp−ヒドロキシ安息香酸259.2g(1.44モル)の混合物を、攪拌器と、短い蒸留塔と、窒素入口とを備えた500mlのフラスコに入れた。このフラスコ内を真空にした後、窒素を用いてフラスコ内のパージを3回行った。次いで、275℃に保持されたウッドメタル浴中にフラスコを入れた後、フラスコ内の混合物を窒素雰囲気下及び275℃で攪拌し、フラスコから酢酸を徐々に留出させた。攪拌から60分経過した後、大部分の酸が留出して低溶融粘度を有するポリエステルフラグメントを得た。次に、275℃でフラスコ内を真空にして攪拌を更に4時間行い、白色不透明であるとともに高溶融粘度を有する熱液晶性ポリエステルを得た。この熱液晶性ポリエステルの流動開始温度をフローテスター〔島津製作所社製、「CFT−500型」〕を用いて測定したところ252℃であった。
【0063】
(実施例1)
実施例1においては、調製工程として、合成例1により得られた熱液晶性ポリエステルのペレットを脱湿乾燥し、射出成形によって縦50mm×横50mm×厚さ1mmのシート状を有する成形体を作製した。次いで、相転移工程、配向工程、及び成形工程として、成形体を310℃に加熱された金型13のキャビティ12に配置した後、10テスラの磁束密度を有する超伝導磁石の磁場中で成形体を溶融させ、溶融した状態を同磁場中で15分間保持した。そして、溶融した熱液晶性ポリエステルを室温(25℃)まで冷却して固化させ、熱液晶性高分子成形体を得た。ここで、磁力線をキャビティ12の厚さ方向に沿って延びるように設定した。次に、加熱工程として、恒温槽を用いて熱液晶性高分子成形体を252℃で4時間加熱し、シート状を有する熱伝導性成形体を得た。
【0064】
(実施例2)
実施例2においては、加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱温度を172℃に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0065】
(比較例1)
比較例1においては、配向工程における磁場の印加を省略した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0066】
(比較例2)
比較例2においては、配向工程における磁場の印加、及び加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱を省略した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0067】
(比較例3)
比較例3においては、加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱を省略した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0068】
(比較例4)
比較例4においては、調製工程として、合成例1により得られた熱液晶性ポリエステルのペレットを脱湿乾燥し、射出成形によって縦50mm×横50mm×厚さ1mmのシート状を有する成形体を作製した。次いで、相転移工程、配向工程、及び成形工程として、成形体を330℃に加熱された金型13のキャビティ12に配置した後、6テスラの磁束密度を有する超伝導磁石の磁場中で成形体を溶融させ、溶融した状態を同磁場中で10分間保持した。そして、溶融した熱液晶性ポリエステルを室温(25℃)まで冷却して固化させ、加熱工程を経ることなく熱伝導性成形体を得た。ここで、磁力線をキャビティ12の厚さ方向に沿って延びるように設定した。
【0069】
(比較例5)
比較例5においては、調製工程として、合成例1により得られた熱液晶性ポリエステルのペレットを脱湿乾燥し、射出成形によって縦50mm×横50mm×厚さ1mmのシート状を有する成形体を作製した。次いで、相転移工程、配向工程、及び成形工程として、成形体を280℃に加熱された金型13のキャビティ12に配置した後、2テスラの磁束密度を有する超伝導磁石の磁場中で成形体を溶融させ、溶融した状態を同磁場中で2分間保持した。そして、溶融した熱液晶性ポリエステルを室温(25℃)まで冷却して固化させ、加熱工程を経ることなく熱伝導性成形体を得た。ここで、磁力線をキャビティ12の厚さ方向に沿って延びるように設定した。
【0070】
(比較例6)
比較例6においては、調製工程として、合成例1により得られた熱液晶性ポリエステルのペレットを脱湿乾燥し、射出成形によって縦50mm×横50mm×厚さ1mmのシート状を有する成形体を作製した。次いで、相転移工程、配向工程、及び成形工程として、シート状成形体を300℃に加熱された金型13のキャビティ12に配置した後、1.8テスラの磁束密度を有する超伝導磁石の磁場中で溶融させ、溶融した状態を同磁場中で30分間保持した。そして、溶融した熱液晶性ポリエステルを室温(25℃)まで冷却して固化させ、加熱工程を経ることなく熱伝導性成形体を得た。ここで、磁力線をキャビティ12の厚さ方向に沿って延びるように設定した。
【0071】
(合成例2)
合成例2においては、攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、及び還流冷却器を備えた反応器に、p―ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)、及び無水酢酸1235g(12.1モル)を入れた。次いで、反応器内の雰囲気を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分をかけて反応器内を150℃まで昇温し、該温度を保持して反応器内の混合物を3時間還流させた。続いて、留出する副生酢酸、及び未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分をかけて反応器内を320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなして内容物を取り出した。得られた固形分を室温(25℃)まで冷却して該固形分を粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下において、室温(25℃)から250℃まで1時間をかけて昇温した後、250℃から260℃まで5時間をかけて昇温し、更に260℃で3時間保持して固相で重合反応を進めた。そして、固相重合後の粉末を冷却し、熱液晶性ポリエステルの粉末を得た。この熱液晶性ポリエステルの流動開始温度をフローテスター〔島津製作所社製、「CFT−500型」〕を用いて測定したところ311℃であった。
【0072】
(実施例3)
実施例3においては、調製工程として、合成例2により得られた熱液晶性ポリエステルの粉末をペレット化した後に脱湿乾燥し、射出成形によって縦50mm×横50mm×厚さ1mmのシート状を有する成形体を作製した。次いで、相転移工程、配向工程、及び成形工程として、成形体を330℃に加熱された金型13のキャビティ12に配置した後、10テスラの磁束密度を有する超伝導磁石の磁場中で成形体を溶融させ、溶融した状態を同磁場中で15分間保持した。そして、溶融した熱液晶性ポリエステルを室温(25℃)まで冷却して固化させ、熱液晶性高分子成形体を得た。ここで、磁力線をキャビティ12の厚さ方向に沿って延びるように設定した。次に、加熱工程として、恒温槽を用いて熱液晶性高分子成形体を311℃で4時間加熱し、シート状を有する熱伝導性成形体を得た。
【0073】
(実施例4)
実施例4においては、加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱温度を251℃に変更した以外は、実施例3と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0074】
(実施例5)
実施例5においては、加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱温度を211℃に設定した以外は、実施例3と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0075】
(比較例7)
比較例7においては、配向工程における磁場の印加を省略した以外は、実施例3と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0076】
(比較例8)
比較例8においては、配向工程における磁場の印加、及び加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱を省略した以外は、実施例3と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0077】
(比較例9)
比較例9においては、加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱を省略した以外は、実施例3と同様にして熱伝導性成形体を得た。
【0078】
そして、各実施例及び各比較例の熱液晶性高分子成形体及び熱伝導性成形体について、下記の各項目に関して測定を行った。その結果を表1及び表2に示す。
<配向度α>
各熱液晶性高分子成形体における熱液晶性高分子の配向方向に沿った配向度αを、X線回折装置(理学電機株式会社製の「RINT RAPID」)を用いて算出した。実施例1に係る熱液晶性高分子成形体のデバイ環の中心から赤道方向の回折パターンを図1に示し、回折ピーク角度2θ=20度における方位角方向のX線回折強度分布を図2に示す。また、比較例1に係る熱液晶性高分子成形体のデバイ環の中心から赤道方向の回折パターンを図6に示し、回折ピーク角度2θ=20度における方位角方向のX線回折強度分布を図7に示す。
【0079】
<熱伝導率λ>
各熱伝導性成形体の熱液晶性高分子の配向方向に沿った熱伝導率λをレーザーフラッシュ法により測定した。
<重量平均分子量Mw>
各熱伝導性成形体における熱液晶性高分子の重量平均分子量MwをGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により測定した。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

表1及び表2に示すように、各実施例の熱伝導性成形体は、熱液晶性高分子の配向方向に沿って、1.7〜2.6W/(m・K)である高い熱伝導率λを有していた。従って、これらの熱伝導性成形体は、熱液晶性高分子の配向方向に沿って高い熱伝導性を備えており、発熱した部品から放熱用途において、より好適に使用可能である。更に、実施例3及び実施例4では、加熱工程における熱液晶性高分子の加熱温度がFT−80(℃)からFT(℃)の範囲内であることから、該加熱温度がFT−80(℃)からFT(℃)の範囲から外れている実施例5に比べて高い熱伝導率λを有していた。
【0082】
これに対して、比較例1及び比較例7においては、配向工程が省略されていることから、加熱工程において熱液晶性高分子成形体に加熱処理が施されても、熱伝導性成形体は低い熱伝導率λを有していた。比較例2及び比較例8においては、配向工程および加熱工程が省略されていることから、熱伝導性成形体は低い熱伝導率λを有していた。比較例3〜6及び比較例9においては、配向度αが0.5以上である熱液晶性高分子成形体が得られているが、加熱工程が省略されていることから、熱伝導性成形体は低い熱伝導率λを有していた。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施例1に係る熱液晶性高分子成形体のデバイ環の中心から赤道方向のX線回折パターンを示すグラフ。
【図2】実施例1に係る熱液晶性高分子成形体の方位角方向のX線回折強度分布を示すグラフ。
【図3】熱伝導性高分子成形体を示す斜視図。
【図4】熱伝導性高分子成形体の厚さ方向に沿って熱液晶性高分子を配向させる配向工程を示す概略図。
【図5】熱伝導性高分子成形体の面内方向に沿って熱液晶性高分子を配向させる配向工程を示す概略図。
【図6】比較例1に係る熱液晶性高分子成形体のデバイ環の中心から赤道方向のX線回折パターンを示すグラフ。
【図7】比較例1に係る熱液晶性高分子成形体の方位角方向のX線回折強度分布を示すグラフ。
【符号の説明】
【0084】
Δβ…半値幅、11…熱伝導性高分子成形体、15…液晶性組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱液晶性高分子を含有した液晶性組成物を調製する調製工程と、
前記液晶性組成物中の熱液晶性高分子を液晶状態に相転移させる相転移工程と、
前記熱液晶性高分子を、流動場、せん断場、磁場、及び電場から選ばれる少なくとも一種の外場によって配向させる配向工程と、
前記熱液晶性高分子の配向を維持した状態で、熱液晶性高分子を液晶状態から固体状態に相転移させることにより熱液晶性高分子成形体を成形する成形工程であって、熱液晶性高分子成形体において、X線回折測定から下記式(1)によって求められる熱液晶性高分子の配向方向に沿った配向度αが0.5以上1.0未満である成形工程と、
配向度α=(180−Δβ)/180…(1)
(式(1)において、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す)
前記熱液晶性高分子成形体に加熱処理を施すことにより熱伝導性高分子成形体を得る加熱工程とを備えることを特徴とする熱伝導性高分子成形体の製造方法。
【請求項2】
前記液晶性組成物の流動開始温度をFT(℃)で表したとき、前記加熱工程における熱液晶性高分子成形体の加熱温度はFT−80(℃)からFT(℃)の範囲内である請求項1に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法。
【請求項3】
前記配向工程において、前記液晶性組成物に磁場を印加することにより熱液晶性高分子が配向される請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法。
【請求項4】
前記熱液晶性高分子が熱液晶性ポリエステルである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法によって得られることを特徴とする熱伝導性高分子成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−150525(P2008−150525A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341467(P2006−341467)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】