説明

熱伝達方法

【課題】有機ランキンサイクルシステムでの冷媒の使用。
【解決手段】冷媒が下記の式(I)で表される少なくとも4つの炭素原子を有する少なくとも一種のヒドロフルオロオレフィンを含む:
1CH=CHR2 (I)
(ここで、R1およびR2はそれぞれ独立して少なくとも一つのフッ素原子で置換され、必要に応じて少なくとも一つの塩素原子で置換された1〜6つの炭素原子を有するアルキル基を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロフルオロオレフィンを含む組成物によるエネルギー変換方法に関するものである。本発明は特に、有機ランキンサイクル(Organic Ranking cycle) システムでのヒドロフルオロオレフィンを含む組成物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エネルギ価格が定常的に上昇するため、エネルギの利用と回収を最適化するというニーズが増えている。さらに、二酸化炭素の排ガス流を減らすことの必要性を示すキャンペーンはエネルギ回収の重要性を示している。
【0003】
エネルギの回収原理は未使用エネルギを電気へ転換することである。例えば、ガスのような流体の膨張では運動エネルギーが機械エネルギーに変換される。すなわち、タービンでは膨張現象を利用してホイールを駆動して電気を作る。
【0004】
ランキンサイクルは液体の水/スチームからエネルギを製造するための工業レベルでの基本サイクルを構成し、 (i) 加熱、(ii)飽和に達するまでの一定温度での蒸発、(iii) 等エントロピー膨張(理想的なケース)、(iv)等温凝縮および(v)等エントロピー圧縮の相から成る。
【0005】
このランキンサイクルは他の熱力学系、特にスチーム以外の流体を使用する系に適用できる。有機ランキンサイクルを用いることでこの他の流体の特性の開拓をすることができる。
【0006】
大気のオゾン層を枯渇させる物質に起因する問題(オゾン減損ポテンシャル(ODP)がモントリオールで論議され、クロロフルオロカーボン(CFC)の生産および使用を減らすことが合意され、このプロトコールの改正でCFCの廃棄が決められ、他の化合物への規制が広げられた。
【0007】
CFCおよび/またはヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)はハイドロフルオロカーボン(HFC)に置換された。
【0008】
有機ランキンサイクルシステム用の流体として1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)が提案されている。この場合、HFC245faは140〜300°F(60〜149℃)の温度に加熱される(特許文献1)。
【0009】
特許文献2(国際特許第WO 2005/085398号公報)には、熱エネルギーを機的エネルギーに変換するための、特に有機ランキンサイクルシステムでの流体として、ポリフッ素化エーテルおよびポリフッ素化ケトンの使用を開示している。これはHFC245fa(154℃)の臨界温度または臨界温度以上で使用される。
【0010】
これらポリフッ素化エーテルまたはケトンの問題点は凝縮器の低圧タービンにある。すなわち、低圧下にある装置中への空気の侵入が促進され、その結果、湿気および酸素の存在下での装置が腐食し、機械部品が破損する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際特許第WO 2006/113902号公報
【特許文献2】国際特許第WO 2005/085398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は、有機ランキンサイクルシステム、特に60〜150℃の低温で運転されるシステムのエネルギー変換流体として、ヒドロフルオロオレフィンを含む組成物が特に適しているということを発見した。しかも、この組成物のODPおよびGWP(地球温暖化ポテンシャル)は既存の流体に比べて無視しえるものである。この混合物は150℃以上の臨界温度を有するので、有機ランキンサイクルシステムでより高い温度で使用できる。
【0013】
温室効果現像に対する流体の影響度はGWPの判定基準によって定量化される。このGWPでは二酸化炭素での温室効果を1として基準値にする。有機ランキンサイクルシステムでは一段または複数の段階を冷媒とよばれ流体で運転する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、冷媒の蒸発段階と、タービンでの膨張段階と、内部熱交換器でのデスーパーヒーティング(desuperheating)段階と、流体の凝縮段階と、ポンプ中での液体の圧縮段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有するタービンを用いたエネルギー変換プロセスにおいて、
冷媒が下記の式(I)で表される少なくとも4つの炭素原子を有する少なくとも一種のヒドロフルオロオレフィンを含むことを特徴とするエネルギー変換プロセスを提供する:
1CH=CHR2 (I)
(ここで、R1およびR2はそれぞれ独立して少なくとも一つのフッ素原子で置換され、必要に応じて少なくとも一つの塩素原子で置換された1〜6つの炭素原子を有するアルキル基を表す)
【発明を実施するための形態】
【0015】
ヒドロフルオロオレフィンの少なくとも一つのアルキル基はフッ素原子で完全に置換されているのが好ましい。
【0016】
冷媒の凝縮温度は空気、その他の天然低熱源(湖または水流)の外界温度以上であり、季節または地理的位置に従って、一般に−40℃〜50℃の間にあるのが好ましい。
【0017】
冷媒の蒸発温度は60〜150℃、有利には80℃〜150℃の間にあるのが好ましい。
【0018】
式(I)のヒドロフルオロオレフィンとして特に好ましいものとしては1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブ−2−エン、1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロペンタ−2−エン、1,1,1,4−テトラフルオロブ−2−エン、1,1,1,4,4−ペンタフルオロブ−2−エン、1,1,4−トリフルオロブ−2−エン、1,1,1−トリフルオロブ−2−エン、4−クロルー1,1,1−トリフルオロブ−2−エン、4−クロル−4,4−ジフルオロブ−2−エンが挙げられる。
【0019】
式(I)の好ましいヒドロフルオロオレフィンはシスまたはトランス形か、これら2つの混合物にすることができる。
【0020】
冷媒は、式(I)のヒドロフルオロオレフィンの他に、ハイドロフルオロカーボン、炭化水素、ヒドロフルオロエーテル、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロフルオロプロペン、エーテル、アルコール、蟻酸メチル、二酸化炭素およびトランス−1,2−ジクロロエチレンの中から選択される少なくとも一つの化合物を含むことができる。
【0021】
ハイドロフルオロカーボンとしては特に1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,−ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンおよび1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパンが挙げられる。
【0022】
少なくとも3つの炭素原子を有する炭化水素が好ましい。特に、5つの炭素原子を有する炭化水素、例えばペンタン、イソペンタン、シクロペンタンが特に好ましい。
【0023】
好ましいヒドロクロロフルオロプロペンは2−クロル−3,3,3−トリフルオロプロ−1−エンおよび1−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペ−l−エン、特に、トランス−l−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペ−l−エンである。
【0024】
好ましいヒドロフルオロエーテルは3〜6つの素原子を有するものである。
【0025】
ヒドロフルオロエーテルとして特にヘプタフルオロメトオキシプロパン、ノナフルオロメトオキシブタンおよびノナフルオロエトオキシブタンを挙げることができる。このヒドロフルオロエーテルは下記のようないくつかの異性体の形で入手できる:1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナ−フルオロ−エトオキシブタン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−エトオキシブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナ−フルオロ−メトオキシブタン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−2−(トリフルオロメチル−3−メトオキシブタンおよび1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロメトオキシプロパン。
【0026】
好ましいヒドロフルオロプロペンはトリフルオロプロペン、例えば1,1,1−トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロピぺン、例えば2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFOー1234yf)および1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(シスおよび/またはトランス)である。
【0027】
エーテルはジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジメトキシメタンまたはジプロポキシメタンから選択できる。
【0028】
アルコールはエタノール、イソプロパノール、ブタノールおよびイソブタノールから選択できる。
【0029】
冷媒は少なくとも1種式(I)のヒドロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のハイドロフルオロカーボンとを含むのが好ましい。ハイドロフルオロカーボンは、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンから選択するのが有利である。
【0030】
1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブ−2−エンまたは1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−ペンタ−2−エンと、蟻酸メチル、ペンタン、イソペンタン、シクロペンタンまたはトランス−1,2−ジクロロエチレンとの共沸組成物も適している。
【0031】
冷媒は式(I)のヒドロフルオロオレフィンを少なくとも10重量%含むのが好ましい。
【0032】
本発明の一実施例では、冷媒は40〜100重量%の1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブ−2−エンと、0〜60重量%のペンタン、イソペンタン、シクロペンタンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンから選択される少なくとも一つの化合物とを含むのが好ましい。
【0033】
特に好ましい冷媒としては60〜100重量%の1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブ−2−エンと、0〜40重量%のシクロペンタン、ペンタン、イソペンタンまたはトランス−1,2−ジクロロエチレンとから成るものを挙げることができる。
【0034】
本発で使用可能な冷媒はヒドロフルオロオレフィンの安定剤を含むことができる。この安定剤は流体の全組成物の5重量%以下にする。
【0035】
安定剤としてはニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、トルトリアゾールまたはベンゾトリアゾールのようなアゾール、トコフェロールのようなフェノール化合物、ハイドロキノン、t−ブチル・ハイドロキノン、2,6−ジ−ter−ブチル−4−メチルフェノール、エポキシド(必要に応じてフッ素化またはパーフッ素化したアルキルまたはアルケニルまたは芳香族)、例えばnーブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、亜リン酸エステル、ホスファイト、ホスフェート、チオールおよびラクトンが挙げられる。
【0036】
本発明プロセスで使用可能な冷媒は潤滑剤を含むことができる。潤滑剤の例としては鉱油、アルキルベンゼン、ポリ−αオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニールエーテルが挙げられる。本発明冷媒で使用する潤滑剤は流体の熱伝導度を改良し、潤滑剤との相容性を有するナノパーティクルを含むことができる。ナノパーティクルとしては特にAl22のまたはTiO2の粒子を挙げることができる。
【0037】
冷媒で使用可能な潤滑剤はゼオライトタイプの減湿剤を含むことができる。ゼオライトは水を吸収し、腐食と性能の低下を防ぐ。
【実施例】
【0038】
実験の部
Evap:蒸発器
Cond:凝縮器
Temp:温度
P:圧力
効率:系へ供給される有効高温パワーに対するタービンにより供給されるパワーの比
【0039】
蒸発器の温度を11.7℃に維持し、凝縮器が149℃のエネルギー変換サイクルの運転条件での冷媒の性能は下記で与えられる:
タービンの等エントロピー効率:100%
C:イソペンタン
D:TDCE
F:ペンタン
G:1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロロブ−2−エン
PFE−PFIPK:ペルフルオロエチル ペルフルオロイソプロピルケトン
MPFBE:メチルペルフルオロブチルエーテル
【0040】
【表1】

【0041】
この結果はPEE−PFIPKおよびMPFBEの2つの化合物は、装置中への空気の浸入が促進される、凝縮器での圧力が低圧であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の蒸発段階と、タービンでの膨張段階と、内部熱交換器でのデスーパーヒーティング(desuperheating)段階と、流体の凝縮段階と、ポンプ中での液体の圧縮段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有するタービンを用いたエネルギー変換プロセスにおいて、
冷媒が下記の式(I)で表される少なくとも4つの炭素原子を有する少なくとも一種のヒドロフルオロオレフィンを含むことを特徴とするエネルギー変換プロセス:
1CH=CHR2 (I)
(ここで、R1およびR2はそれぞれ独立して少なくとも一つのフッ素原子で置換され、必要に応じて少なくとも一つの塩素原子で置換された1〜6つの炭素原子を有するアルキル基を表す)
【請求項2】
蒸発温度が60〜150℃、好ましくは80〜150℃である請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
冷媒が、ハイドロフルオロカーボン、炭化水素、(ヒドロ)フルオロエーテル、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロフルオロプロペン、エーテル、蟻酸メチル、二酸化炭素およびトランス−−1,2−ジクロロエチレンの中から選択される少なくとも一つの化合物をさらに含む請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
冷媒が、ハイドロフルオロカーボン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,3,3,3−ペンタフルオロブタンから選択される少なくとも一つを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
冷媒が、ペンタン、イソペンタンおよびシクロペンタンから選択される少なくとも一つのハイドロフルオロカーボンを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
冷媒が、40〜100重量%の1,1,1,4,4,4− ヘキサフルオロブ−2−エンと、0〜60重量%のペンタン、イソペンタン、シクロペンタンおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンから選択される少なくとも一つの化合物とを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
冷媒が、60〜100重量%の1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブ−2−エンと、0〜40重量%のシクロペンタン、ペンタン、イソペンタンまたはトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
冷媒が安定剤を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
冷媒が潤滑剤を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
潤滑剤がポリアルキレングリコール、ポリオールエステルまたはポリビニールエーテルである請求項9に記載のプロセス。

【公表番号】特表2013−500374(P2013−500374A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522207(P2012−522207)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051283
【国際公開番号】WO2011/015738
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】