説明

熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法

【課題】熱処理後の液晶ポリエステル含浸基材としての実使用部が支持材へ融着しない、熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法の提供。
【解決手段】第一の液晶ポリエステル含浸基材11を熱処理する工程において、第一の液晶ポリエステル含浸基材11を、熱処理後の実使用部以外において支持部材12で支持しながら、熱処理することにより、第二の液晶ポリエステル含浸基材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル含浸基材は、例えば、液晶ポリエステル溶液をガラスクロス等の基材に含浸させた後、溶媒を除去することで作製できる。このような液晶ポリエステル含浸基材は、耐熱性や強度が高くて寸法安定性に優れ、誘電損失が低いことから、従来、種々の電子機器に組み込まれるプリント配線板(プリント基板、プリント回路基板)の絶縁層として検討されている(例えば、特許文献1参照)。そして、絶縁層として用いる場合には、液晶ポリエステル含浸基材を予め熱処理して高分子量化させた後、さらにこれを加熱プレスすることで金属箔と共に積層するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/143455号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、液晶ポリエステル含浸基材を金属製トレイなどの支持材上に直接配置すると、熱処理によって、液晶ポリエステル含浸基材としての実使用部が支持材に融着してしまうという問題点があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱処理後の液晶ポリエステル含浸基材としての実使用部が支持材へ融着しない、熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、
本発明は、液晶ポリエステル含浸基材を熱処理する工程を有し、該工程において、前記液晶ポリエステル含浸基材を、熱処理後の実使用部以外において支持部材で支持しながら、熱処理することを特徴とする熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法を提供する。
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記液晶ポリエステル含浸基材の前記支持部材によって支持された面において、前記基材の前記支持部材との接触部が15%以下の面積を占めることが好ましい。
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記支持部材が樹脂製、金属製、合金製又はセラミックス製で枠状であり、前記液晶ポリエステル含浸基材の周縁部を前記支持部材に貼付して、前記液晶ポリエステル含浸基材を支持することが好ましい。
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記支持部材が金属製又は合金製のクリップであり、一端が固定された金属製又は合金製の連結部材の多端に結合され、前記液晶ポリエステル含浸基材を前記支持部材で挟持して、前記液晶ポリエステル含浸基材を支持することが好ましい。
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有することが好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記液晶ポリエステルが、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜80モル%、前記一般式(2)で表される繰返し単位を10〜35モル%、前記一般式(3)で表される繰返し単位を10〜35モル%有することが好ましい。
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記一般式(3)において、X及び/又はYがイミノ基であることが好ましい。
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記液晶ポリエステルが、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を合計で30.0〜45.0モル%、テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる一種以上の化合物に由来する繰返し単位を合計で25.0〜35.0モル%、4−アミノフェノールに由来する繰返し単位を25.0〜35.0モル%有することが好ましい。
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記液晶ポリエステル含浸基材が、液晶ポリエステルをガラスクロスに含浸させたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、熱処理後の液晶ポリエステル含浸基材としての実使用部が支持材へ融着しない、熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態における熱処理時の液晶ポリエステル含浸基材の支持形態を例示する概略図であり、(a)は斜視図、(b)は支持方向に対して反対側から見た場合の平面図である。
【図2】本発明の一実施形態における熱処理時の液晶ポリエステル含浸基材の他の支持形態を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材(以下、「第二の液晶ポリエステル含浸基材」という。)の製造方法は、液晶ポリエステル含浸基材(以下、「第一の液晶ポリエステル含浸基材」という。)を熱処理する工程を有し、該工程において、第一の液晶ポリエステル含浸基材を、熱処理後の実使用部以外において支持部材で支持しながら、熱処理することを特徴とする。
前記熱処理により、第一の液晶ポリエステル含浸基材中の液晶ポリエステルが高分子量化することで、第二の液晶ポリエステル含浸基材が得られる。
【0009】
前記支持部材は、熱処理時に第一の液晶ポリエステル含浸基材を安定して支持できるものであれば特に限定されない。
支持部材の材質は、耐熱性を有するものであればよく、アルミニウム等の金属類;ステンレス(SUS)等の合金類;アルミナ等のセラミックス;アラミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂類が例示できる。前記樹脂類は、示差走査熱量分析での測定により、320℃以上の融点を示すか、又は320℃未満で分解せずかつ融点を示さない樹脂が好ましい。これは、熱処理時の加熱温度を320℃未満とすることが多いからである。なお、「融点を示さない」とは、おもに分解することを指す。
【0010】
支持部材の形状は、第一の液晶ポリエステル含浸基材の支持部を有していれば特に限定されず、例えば、ピン状、ブロック状、枠状等の、第一の液晶ポリエステル含浸基材を載置し得る部位を有しているだけのもの((i))でもよいし、クリップ状等の、第一の液晶ポリエステル含浸基材を挟持し得る部位を有しているもの((ii))でもよい。このような支持部材は、その材質に応じた公知の方法で成型や加工等を行うことで製造できる。
例えば、前記(i)の支持部材は、材質が樹脂類、金属類、合金類及びセラミックスのいずれも好適である。また、前記(ii)の支持部材は、材質が金属類又は合金類であることが好ましい。
【0011】
支持部材の使用数は、支持部材の形状を考慮して選択すればよく、一つでもよいし、二つ以上でもよい。
また、支持部材の使用数が二つ以上である場合には、支持部材は一種でもよいし、二種以上でもよい。二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0012】
第一の液晶ポリエステル含浸基材の支持部材によって支持された面において、第一の液晶ポリエステル含浸基材の支持部材との接触部が15%以下の面積を占めることが好ましい。このようにすることで、支持部材によって、第一の液晶ポリエステル含浸基材を安定して支持できると共に、熱処理後の実使用部を広く確保できる。
例えば、クリップ状の支持部材等を使用して、第一の液晶ポリエステル含浸基材を挟持した場合等、第一の液晶ポリエステル含浸基材の表面及び裏面の両面に支持部材との接触部が存在する場合には、支持部材との接触部の面積が大きい方の面において、前記接触部が15%以下の面積を占めることが好ましい。
【0013】
第一の液晶ポリエステル含浸基材は、例えば、液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を基材に含浸させ、得られた組成物含浸基材から溶媒を除去することで製造できる。
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0014】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0015】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0016】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0017】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0018】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0019】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0020】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0023】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは30〜60モル%、特に好ましくは30〜40モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0024】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0025】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0026】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは溶媒に対する溶解性がより優れたものとなる。
【0027】
液晶ポリエステルは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を合計で30.0〜45.0モル%有することが好ましい。
また、液晶ポリエステルは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる一種以上の化合物に由来する繰返し単位を合計で25.0〜35.0モル%有することが好ましい。
また、液晶ポリエステルは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、4−アミノフェノールに由来する繰返し単位を25.0〜35.0モル%有することが好ましい。
そして、液晶ポリエステルは、これら比率の繰返し単位をすべて有することが好ましい。
【0028】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0029】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃〜350℃、さらに好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、高過ぎると、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、上記の液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0030】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0031】
前記液状組成物は、液晶ポリエステルと溶媒とを含むものであり、溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒]×100)で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0032】
前記溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系化合物(アミド結合を有する化合物);テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、これらの2種以上を用いてもよい。
【0033】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。
また、前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系化合物を用いることが好ましい。
【0034】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める、双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、さらに好ましくは90〜100重量%であり、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
【0035】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める、1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、さらに好ましくは90〜100重量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0036】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び溶媒の合計量に対して、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは15〜45質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
【0037】
液状組成物は、充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を1種以上含んでもよい。
【0038】
前記充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機充填材;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部である。
【0039】
前記添加剤の例としては、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜5質量部である。
【0040】
前記液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜20質量部である。
【0041】
液状組成物は、液晶ポリエステル、溶媒、及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができる。他の成分として充填材を用いる場合は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて、液晶ポリエステル溶液を得、この液晶ポリエステル溶液に充填材を分散させることにより調製することが好ましい。
【0042】
液晶ポリエステルを含浸させる基材は、材質については無機繊維及び有機繊維のいずれでもよく、シート状であることが好ましい。
無機繊維製の前記基材としては、主としてガラス繊維からなるシート、すなわちガラスクロスが好ましい。
有機繊維製の前記基材としては、ポリベンゾオキサイド、アラミド、液晶ポリマー等からなるシートが好ましい。
【0043】
前記ガラスクロスとしては、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維又は低誘電ガラス繊維からなるものが好ましい。また、ガラスクロスを構成する繊維は、その一部にガラス以外のセラミックからなるセラミック繊維又は炭素繊維が混入していてもよい。また、ガラスクロスを構成する繊維は、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤などのカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0044】
これら繊維からなるガラスクロスの製造方法としては、ガラスクロスを形成する繊維を水中に分散させ、必要に応じてアクリル樹脂などの糊剤を添加して、抄紙機にて抄造後、乾燥させることで不織布を得る方法や、公知の織成機を用いる方法が例示できる。
【0045】
繊維の織り方としては、平織り、朱子織り、綾織り、ななこ織り等が利用できる。織り密度は、10〜100本/25mmであることが好ましい。
前記ガラスクロスの単位面積当たりの質量は、10〜300g/mであることが好ましい。
前記ガラスクロスの厚さは、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは10〜180μmである。
【0046】
前記ガラスクロスは、市販品でもよい。容易に入手可能な市販品のガラスクロスとして、電子部品の絶縁含浸基材用のものが挙げられ、旭シュエーベル株式会社、日東紡績株式会社、有沢製作所株式会社等から入手できる。
なお、市販品のガラスクロスで好適な厚さのものとしては、IPC名称で1035、1078、2116、7628のものが例示できる。
【0047】
基材に液状組成物を含浸させる方法としては、浸漬槽中の前記液状組成物に基材を浸漬する方法が例示できる。この方法においては、液状組成物の液晶ポリエステルの含有量、浸漬時間、浸漬した基材の液状組成物からの引き上げ速度を適宜調節することで、基材への液晶ポリエステルの付着量を容易に制御できる。
【0048】
前記組成物含浸基材から溶媒を除去する方法は、特に限定されないが、操作が簡便である点で、溶媒を蒸発させる方法が好ましく、加熱、減圧及び通風のいずれかを単独で、又は二種以上を組み合わせて蒸発させる方法が例示できる。
【0049】
第一の液晶ポリエステル含浸基材を熱処理する工程は、窒素などの不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理時の加熱温度は、320℃未満であることが好ましく、240〜310℃であることがより好ましく、加熱時間は1〜30時間であることが好ましい。また、耐熱性がより良好な第二の液晶ポリエステル含浸基材が得られる点から、加熱温度は250℃以上であることが好ましく、260〜310℃であることがより好ましい。そして、生産性が向上する点から、加熱時間は1〜10時間であることが好ましい。
【0050】
熱処理する工程を行った後は、処理物を支持部材から剥離させ、少なくとも支持部材への接触部位であった部分を除去して、残った部分を第二の液晶ポリエステル含浸基材の実使用部とすればよい。
【0051】
図1は、本発明の一実施形態における第一の液晶ポリエステル含浸基材の支持形態を例示する概略図であり、(a)は斜視図、(b)は支持方向に対して反対側(支持部材側)から見た場合の平面図である。
ここに示す支持形態は、支持部材として前記(i)を使用した場合の具体例である。より具体的には、以下の通りである。
支持部材12は枠状であり、その上には、熱処理の対象である第一の液晶ポリエステル含浸基材11の周縁部が載置され、さらに第一の液晶ポリエステル含浸基材11は、耐熱性粘着テープ13によって、四隅で支持部材12に固定され、支持されている。第一の液晶ポリエステル含浸基材11は、支持部材12と対向する面(支持部材12による支持面)において、支持部材12との接触部位11bを除いた部位(非接触部位11a)に相当する部分が、第二の液晶ポリエステル含浸基材の実使用部となり得る。そして、支持部材12による支持面において、前記接触部位11bが15%以下の面積を占める(前記非接触部位11aが85%以上の面積を占める)ことが好ましい。
【0052】
第一の液晶ポリエステル含浸基材11は、支持部材12上で撓ませずに支持することが好ましい。このようにすることで、得られる第二の液晶ポリエステル含浸基材も撓みの無いものとなり、取り扱い性が向上する。
【0053】
支持部材12で支持された第一の液晶ポリエステル含浸基材11は、熱処理時において、その支持面が鉛直方向(上方向又は下方向)を向くように、水平に配置してもよいし、支持面が水平方向(横方向)を向くように、鉛直方向に立てて配置してもよく、支持面が鉛直方向及び水平方向のいずれでもなく、斜め方向となるように配置してもよい。
【0054】
なお、図1では、第一の液晶ポリエステル含浸基材11が支持部材12に耐熱性粘着テープ13によって固定された例を示しているが、例えば、耐熱性粘着テープ13を使用せずに、第一の液晶ポリエステル含浸基材11の支持面に対して反対側(図1(a)中の上側)に、さらにもう一つの支持部材12を第一の液晶ポリエステル含浸基材11の周縁部に配置して、第一の液晶ポリエステル含浸基材11を挟持するようにしてもよい。そして、図1(a)に示すように、第一の液晶ポリエステル含浸基材11の支持面が下方向を向いている場合には、第一の液晶ポリエステル含浸基材11は支持部材12に固定されていなくてもよい。
また、第一の液晶ポリエステル含浸基材の支持部材との接触部位は、必ずしも周縁部でなくてもよいが、周縁部の方が実使用部を広く確保できる点で好ましい。
【0055】
図2は、本発明の一実施形態における第一の液晶ポリエステル含浸基材の他の支持形態を例示する概略図である。
ここに示す支持形態は、支持部材として前記(ii)を使用した場合の具体例である。より具体的には、以下の通りである。
支持部材22はクリップ状であり、一端が固定された連結部材23の多端に結合され、熱処理の対象である第一の液晶ポリエステル含浸基材11は、四隅で四つの支持部材22で挟持され、支持されている。連結部材23は、支持部材22と同様の材質でよいが、熱処理時の歪みをより抑制できる点から、金属類又は合金類であることが好ましい。また、連結部材23は、取り扱い性の観点から、ひも状又は鎖状であることが好ましい。連結部材23の一端は、例えば、ヒータ等の熱処理装置の内部に固定することが好ましい。
【0056】
第一の液晶ポリエステル含浸基材11は、支持部材22との非接触部位が、第二の液晶ポリエステル含浸基材の実使用部となり得る。したがって、図1に示す支持形態の場合よりも、実使用部を容易に広く確保できる点で有利である。そして、図2においては、第一の液晶ポリエステル含浸基材11の支持部材22との接触部位は、表面及び裏面の両面に存在するが、支持部材22との接触部位の面積が大きい方の面において、該接触部位が15%以下の面積を占める(支持部材22との非接触部位が85%以上の面積を占める)ことが好ましい。
【0057】
第一の液晶ポリエステル含浸基材11は、図1の場合と同様に、撓ませずに支持することが好ましい。このようにすることで、得られる第二の液晶ポリエステル含浸基材も撓みの無いものとなり、取り扱い性が向上する。
また、支持部材22で支持された第一の液晶ポリエステル含浸基材11は、図1の場合と同様に、熱処理時において、その支持面が鉛直方向(上方向又は下方向)を向くように、水平に配置してもよいし、支持面が水平方向(横方向)を向くように、鉛直方向に立てて配置してもよく、支持面が鉛直方向及び水平方向のいずれでもなく、斜め方向となるように配置してもよい。
【0058】
なお、図2では、第一の液晶ポリエステル含浸基材11の支持部材22との接触部位が四隅である場合を示しているが、四隅以外の周縁部でもよい。そして、第一の液晶ポリエステル含浸基材11を支持する支持部材22の数が四つである場合を示しているが、一つでもよいし、四つ以外の複数でもよい。ただし、第一の液晶ポリエステル含浸基材11を安定して支持するためには、四つ以上であることが好ましい。
【0059】
図1〜2で例示している配置形態は、第一の液晶ポリエステル含浸基材の熱処理を「バッチ式」で行うのに好適なものである。この場合、支持部材で支持された第一の液晶ポリエステル含浸基材は、例えば、熱処理装置内において、複数を互いに間隔を空けて配置することが好ましい。
【0060】
一方、第一の液晶ポリエステル含浸基材の熱処理を「連続式」で行う場合には、例えば、長尺の第一の液晶ポリエステル含浸基材を、送り出しロールから送り出した後、途中で搬送ロールを介して、巻き取りロールで巻き取るように構成された装置において、前記搬送ロールとして、その搬送面に支持部材に相当する凸部を設けたものを使用して、この凸部以外には前記搬送ロールに第一の液晶ポリエステル含浸基材が接触しないようにして、熱処理を行う方法が挙げられる。この場合には、前記搬送ロールの数は、目的に応じて任意に選択できる。
【0061】
本発明によれば、支持部材との非接触部位を第二の液晶ポリエステル含浸基材の実使用部とするので、第二の液晶ポリエステル含浸基材は支持部材等、第二の液晶ポリエステル含浸基材を支持するもの全般(支持材)に対する融着の懸念がなく、外観が損なわれることもない。例えば、融着した支持材からの剥離に伴う表面の荒れや、支持材の表面パターンの転写が抑制される。
【実施例】
【0062】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
<第一の液晶ポリエステル含浸基材の製造>
[製造例1]
(1)液晶ポリエステルの製造
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(1976g、10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド(1474g、9.75モル)、イソフタル酸(1620g、9.75モル)及び無水酢酸(2374g、23.25モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分間かけて150℃まで昇温し、その温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生成物の酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、170分間かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了時点とみなし、内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕した後、比較的低分子量の液晶ポリエステルの粉末を得た。こうして得られた粉末について、フローテスター「CFT−500型」(株式会社島津製作所製)により流動開始温度を測定したところ、235℃であった。この液晶ポリエステル粉末を窒素雰囲気下において223℃で3時間加熱処理することにより、固相重合を行った。固相重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
【0064】
(2)第一の液晶ポリエステル含浸基材の製造
得られた液晶ポリエステル(2200g)をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)(7800g)に加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。この液状組成物の溶液粘度は320cPであった。なお、この溶融粘度は、B型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.21、回転速度5rpm、東機産業株式会社製)を用いて、測定温度23℃で測定した値である。
【0065】
こうして得られた液状組成物をガラスクロス(株式会社有沢製作所製、厚さ45μm、IPC名称1078)に含浸させて、組成物含浸基材を作製し、この組成物含浸基材を熱風式乾燥機により設定温度160℃で乾燥させることで、第一の液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0066】
<第二の液晶ポリエステル含浸基材の製造>
[実施例1]
図1に示すように、第一の液晶ポリエステル含浸基材を支持部材で支持して、熱処理を行い、第二の液晶ポリエステル含浸基材を製造した。具体的には、以下の通りである。
SUS製の枠(外枠29cm×30cm、内枠26cm×27cm)に、製造例1で得られた第一の液晶ポリエステル含浸基材(28cm×29cm)の周縁部を耐熱性テープ(日東電工社製、品番:No.973UL−S、フッ素樹脂テープ)で四箇所(第一の液晶ポリエステル含浸基材の四隅)貼り付けることで、第一の液晶ポリエステル含浸基材を支持した。この時の、第一の液晶ポリエステル含浸基材の支持部材による支持面において、支持部材との接触部位は13.5%の面積を占めていた。そして、オーブン内で支持面が水平方向(横方向)を向くように、第一の液晶ポリエステル含浸基材を鉛直方向に立てて配置し、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理を行うことにより、第一の液晶ポリエステル含浸基材中の液晶ポリエステルを高分子量化して、第二の液晶ポリエステル含浸基材を製造した。
【0067】
[実施例2]
図2に示すように、第一の液晶ポリエステル含浸基材を支持部材で支持して、熱処理を行い、第二の液晶ポリエステル含浸基材を製造した。具体的には、以下の通りである。
製造例1で得られた第一の液晶ポリエステル含浸基材(28cm×29cm)の四隅(2cm×2cm部分)を、SUS製のクリップで挟み、一端がオーブン内に固定されたSUS製の針金の多端にこのクリップを結合させることで、第一の液晶ポリエステル含浸基材を支持した。この時の、第一の液晶ポリエステル含浸基材の支持部材による支持面において、支持部材との接触部位は2.0%の面積を占めていた。そして、オーブン内で支持面が水平方向(横方向)を向くように、第一の液晶ポリエステル含浸基材を鉛直方向に立てて配置し、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理を行うことにより、第一の液晶ポリエステル含浸基材中の液晶ポリエステルを高分子量化して、第二の液晶ポリエステル含浸基材を製造した。
【0068】
[比較例1]
製造例1で得られた第一の液晶ポリエステル含浸基材を、一方の面をSUS製トレイ(型番:SUS430)に向けて、このSUS製トレイの底面上に直接平置きした。すなわち、第一の液晶ポリエステル含浸基材の支持部材による支持面において、支持部材との接触部位は100%の面積を占めていた。そして、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理を行うことにより、第一の液晶ポリエステル含浸基材中の液晶ポリエステルを高分子量化して、第二の液晶ポリエステル含浸基材を製造した。
【0069】
<第二の液晶ポリエステル含浸基材の評価>
上記で得られた第二の液晶ポリエステル含浸基材の外観を目視で観察し、実使用部の支持部材(SUS製の枠、クリップ又はトレイ)への融着の有無、支持部材からの表面パターンの転写の有無を確認した。評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜2では、第二の液晶ポリエステル含浸基材の実使用部は、支持部材への融着は認められず、支持部材からの表面パターンの転写も認められなかった。このように、本発明により、良好な外観の第二の液晶ポリエステル含浸基材が得られた。
一方、比較例1では、第二の液晶ポリエステル含浸基材の実使用部が支持部材に融着してしまい、支持部材からの表面パターンの転写が認められ、外観が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、電子機器用のプリント配線板における絶縁層の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
11・・・第一の液晶ポリエステル含浸基材、11a・・・支持部材との非接触部位、11b・・・支持部材との接触部位、12,22・・・支持部材、13・・・耐熱性粘着テープ、23・・・連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル含浸基材を熱処理する工程を有し、該工程において、前記液晶ポリエステル含浸基材を、熱処理後の実使用部以外において支持部材で支持しながら、熱処理することを特徴とする熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項2】
前記液晶ポリエステル含浸基材の前記支持部材によって支持された面において、前記基材の前記支持部材との接触部が15%以下の面積を占めることを特徴とする請求項1に記載の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項3】
前記支持部材が樹脂製、金属製、合金製又はセラミックス製で枠状であり、前記液晶ポリエステル含浸基材の周縁部を前記支持部材に貼付して、前記液晶ポリエステル含浸基材を支持することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項4】
前記支持部材が金属製又は合金製のクリップであり、一端が固定された金属製又は合金製の連結部材の多端に結合され、前記液晶ポリエステル含浸基材を前記支持部材で挟持して、前記液晶ポリエステル含浸基材を支持することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項5】
前記液晶ポリエステルが、下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰返し単位を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【請求項6】
前記液晶ポリエステルが、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記一般式(1)で表される繰返し単位を30〜80モル%、前記一般式(2)で表される繰返し単位を10〜35モル%、前記一般式(3)で表される繰返し単位を10〜35モル%有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項7】
前記一般式(3)において、X及び/又はYがイミノ基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項8】
前記液晶ポリエステルが、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を合計で30.0〜45.0モル%、テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる一種以上の化合物に由来する繰返し単位を合計で25.0〜35.0モル%、4−アミノフェノールに由来する繰返し単位を25.0〜35.0モル%有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項9】
前記液晶ポリエステル含浸基材が、液晶ポリエステルをガラスクロスに含浸させたものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱処理された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153856(P2012−153856A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16448(P2011−16448)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】