説明

熱処理油組成物

【課題】硫黄分が少なくても被加工物に優れた光輝性を付与できる熱処理油組成物を提供する。
【解決手段】熱処理油組成物は、40℃における動粘度が30mm/s以上であり、硫黄分が300質量ppm以下である基油に、3環以上の縮合多環芳香族化合物を組成物全量基準で0.1〜5質量%配合してなる。この熱処理油組成物を用いて焼入れを行うと、硫黄分が少ないにもかかわらず被加工物に優れた光輝性を付与できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の焼入れなどに使用される熱処理油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
焼入れは、被焼入れ物の機械的強度等を増す為に行われるが、その際に用いられる焼入れ油には冷却性とともに、焼入れ後の処理表面の光輝性、すなわち処理表面の光沢の良さが要求されている。焼入れ後の表面処理の光輝性の良否は、その後の研磨工程の作業性に大きな影響を与えるとともに、被処理物の商品価値をも左右するからである。
そこで、硫黄分が300ppm以下である鉱油および合成油のうち少なくとも1種と、硫黄や硫黄化合物を配合して全硫黄分を3〜1000ppmに調整した基油と、スルホン酸のアルカリ土類金属塩、フェノールのアルカリ土類金属塩、アルケニルコハク酸誘導体、脂肪酸、脂肪酸誘導体、フェノール系酸化防止剤、およびアミン系酸化防止剤よりなる群から選ばれた少なくとも1種とを含有してなる熱処理油組成物が提案されている(特許文献1参照)。また、硫黄を100重量ppm以下含有する所定の鉱油を基油として、リン酸エステル化合物とアルケニルコハク酸イミド化合物等を所定量配合してなる熱処理油組成物も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−070632号公報
【特許文献2】特開2000−45018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、硫黄分が多いとスラッジが発生しやすく熱処理油の寿命が短くなるので、硫黄分の少ない高精製度鉱油を熱処理油として用いることが多い。しかし、硫黄分を少なくすると一般に光輝性が低下する。特許文献1や特許文献2の熱処理油組成物であっても、スラッジ発生の抑制と被焼き入れ物の光輝性との両立は必ずしも十分ではない。
【0005】
そこで、本発明は、硫黄分が少なくても被加工物に優れた光輝性を付与できる熱処理油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような熱処理油組成物を提供するものである。
(1)鉱油および合成油の少なくともいずれか1種である基油に、3環以上の縮合多環芳香族化合物を配合してなることを特徴とする熱処理油組成物。
(2)上述の(1)に記載の熱処理油組成物において、前記3環以上の縮合多環芳香族化合物を組成物全量基準で0.1質量%以上、5質量%以下配合してなることを特徴とする熱処理油組成物。
(3)上述の(1)または(2)に記載の熱処理油組成物において、前記基油の40℃における動粘度が30mm/s以上であり、該基油の硫黄分が300質量ppm以下であることを特徴とする熱処理油組成物。
(4)上述の(1)から(3)までのいずれか1つに記載の熱処理油組成物において、前記縮合多環芳香族化合物が炭化水素である
ことを特徴とする熱処理油組成物。
(5)上述の(1)から(3)までのいずれか1つに記載の熱処理油組成物において、前記縮合多環芳香族化合物がアントラセン骨格を有することを特徴とする熱処理油組成物。
(6)上述の(1)から(3)までのいずれかに記載の熱処理油組成物において、前記縮合多環芳香族化合物がジベンゾフラン骨格を有することを特徴とする熱処理油組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱処理油組成物を用いた熱処理により、被加工物に優れた光輝性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1における試験後の試験片の外観を示す写真。
【図2】実施例2における試験後の試験片の外観を示す写真。
【図3】比較例1における試験後の試験片の外観を示す写真。
【図4】比較例2における試験後の試験片の外観を示す写真。
【図5】比較例3における試験後の試験片の外観を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の熱処理油組成物は、鉱油および合成油の少なくともいずれか1種である基油に、3環以上の縮合多環芳香族化合物を配合してなることを特徴とする。
本発明で用いられる基油としては、特に制限されず各種の鉱油あるいは合成油を用いることができる。鉱油としては、例えばパラフィン基系鉱油、中間基系鉱油、ナフテン基系鉱油などが挙げられる。また、合成油としては、例えばα−オレフィンオリゴマー(炭素数6〜16のα−オレフィンをオリゴマー化したもの、およびそれを水素添加したもの)、炭素数2〜16のオレフィンの(共)重合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニル系炭化水素、各種エステル類、例えばネオペンチルグリコール,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトールなどの多価アルコールの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール誘導体などを用いることができる。
【0010】
上述の基油としては、40℃における動粘度が30mm/s以上のものが好ましい。基油の動粘度が30mm/sより低いと、引火性が高くなるとともに、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがある。ただし、動粘度が800mm/sを超えると、粘度が高すぎて取扱いが不便になるとともに炭化物が発生しやすくなる。このような観点より、上述の動粘度は40〜600mm/sのものがより好ましく、特に60〜400mm/sのものが好ましい。なお、高温油条件での焼入れに適した高粘度でかつ精製度の高い鉱油を用いると一般に炭化物が発生しやすくなる。その場合であっても、後述する所定の縮合多環芳香族化合物を配合してなる本発明の熱処理油組成物は、被加工物に優れた光輝性を与えることができる点で特筆すべきである。
【0011】
また基油の硫黄分は300質量ppm以下であることが好ましく、200質量ppmであることがより好ましく、-100質量ppm以下であることがさらに好ましい。基油の硫黄分が300質量ppmを超えると、熱処理油組成物として用いたときに、スラッジが発生しやすい。
なお、鉱油の場合は、硫黄分が300質量ppm以下のいわゆる高精製度鉱油が好適に使用できる。このような高精製度鉱油は、原油から得られる重質留分に溶剤精製、水素化精製あるいは水素化分解を施して得られる。
【0012】
上述の基油は、引火点が150℃以上であることが好ましく、170℃以上がより好ましい。150℃以上であると、引火の危険性が低く、同時に熱処理加工時における油煙の発生を抑制することもできる。
さらに基油の粘度指数は85以上であることが好ましく、95以上がより好ましい。また、芳香族分(%CA)が10以下であることが好ましく、7以下がより好ましく、さらには3以下、特に1以下のものが好ましい。粘度指数が85以上であり、芳香族分(%CA)が10以下であると、熱処理油組成物の酸化安定性が良好となる。
上述の鉱油および合成油は、1種のみを単独で用いることもできるが、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0013】
本発明における3環以上の縮合多環芳香族化合物は、熱処理油組成物として使用されることにより、被加工物に優れた光輝性を付与する。
このような3環以上の縮合多環芳香族化合物としては、例えば、アントラセン、アセナフタレン、フルオレン、フェナントレン、フルオランテン、ピレン、ベンゾフルオレン、ベンゾフェナントレン、ベンゾフルオランテン、ナフタセン、トリフェニレン、クリセン、ベンゾアントラセン、ベンゾピレン、ベンゾフルオランテン、ベンゾアセフェナントレン、ペリレン、アンタントレン、ベンゾナフタセン、ベンゾクリセン、ベンゾペリレン、ジベンゾアントラセン、ナフトアントラセン、ペンタセン、ペンタフェン、ピセン、コロネン、ジベンゾクリセン、ジベンゾペリレン、ジベンゾクリセン、ナフトペリレン、ヘキサヘリセン、ベンゾコロネン、ベンゾナフトペリレン、ジベンゾコロネン、ピラントレン、ジナフトペンタセン、ナフトコロネン、ベンゾジナフトペンタセン、ベンゾフェナントロペンタセン、ジベンゾナフトペリレン、テトラゼンゾペリレン、ペンタゼンゾペリレン、およびヘキサゼンゾペリレン等の縮合多環芳香族炭化水素が挙げられる。
【0014】
また、これらを基本骨格として炭化水素基や水酸基などで置換されていてもよく、エーテル結合やエステル結合を介し種々の官能基と結合されていてもよい。さらに、基本骨格中の炭素が酸素原子、窒素原子、硫黄原子等で一部置換されていてもよい。例えば、ジベンゾフラン、オキサントレン、9H-キサンテン、9H−カルバゾール、9H−β−カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、1H−ペリミジン、4,7−フェナントロリン、フェナジン、10H−フェノチアジン、および10H−フェノキサジンなどが挙げられる。
【0015】
上述の3環以上の縮合多環芳香族化合物は、熱処理油組成物全量基準で、0.1質量%以上、5質量%以下配合されることが好ましく、0.3質量%以上、3質量%以下配合されることがより好ましく、0.5質量%以上、1質量%以下配合されることがさらに好ましい。該化合物の配合量が0.1質量%未満では、熱処理油組成物として用いたときに、光輝性の付与効果が十分発揮できないおそれがある。一方、該化合物の配合量が5質量%を超えても、光輝性向上効果はさほど望めず、むしろ基油に溶解せず沈殿物となってしまうおそれがある。なお、沈殿物となった縮合多環芳香族化合物は、光輝性への寄与はなく、被加工物を汚染したり、あるいは輸送時に配管に詰まりやすくなるおそれもある。
【0016】
本発明の熱処理油組成物は、基本的には基油に上述した3環以上の縮合多環芳香族化合物を配合することによって調製されるが、さらに必要に応じて、熱処理油に汎用される添加剤、例えば蒸気膜破断剤、酸化防止剤、清浄分散剤などを配合してもよい。
蒸気膜破断剤を配合することにより、蒸気膜段階が短く、かつ沸騰段階の冷却性能の増加が抑制されることから、冷却むらによる焼入れ歪を低減することができる。また、沸騰段階の温度範囲が広く、処理物の硬さを確保することができる。このような蒸気膜破断剤としては、高分子化合物が用いられ、例えば、エチレン-プロピレン共重合体などのエチレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンの炭素数は3〜20)、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンなど炭素数5〜20のα-オレフィンの重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレンなど炭素数3または4のオレフィン重合体、などの各種ポリオレフィン類およびそれらポリオレフィン類の水素添加物、ポリメタクリレート、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、石油樹脂などの高分子化合物、並びにアスファルトなどを挙げることができる。これらの中でも、特に、冷却性、安定性の観点から、アスファルトが、また、光輝性をより向上させる観点からエチレン-プロピレン共重合体などのエチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン、ポリイソブチレンが好ましい。これら蒸気膜破断剤の数平均分子量は、800〜100,000であることが好ましい。またその配合量は、熱処理油組成物全量基準で、0.5〜10質量%の範囲が好ましい。この含有量が0.5質量%以上であると、蒸気膜破断剤の効果が発揮されるが、10質量%を超えると、熱処理油組成物の粘度が高くなりすぎ、熱処理効果が低下しやすくなる。
【0017】
酸化防止剤としては、従来公知のフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤を用いることができる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール;2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール;2,6−ジ−tert−アミル−4−メチルフェノール;n−オクタデシル3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネートなどの単環フェノール類、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などの多環フェノール類などが挙げられる。
【0018】
アミン系酸化防止剤としては、例えばジフェニルアミン系のもの、具体的にはジフェニルアミンやモノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミン;4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミン;テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン:テトラノニルジフェニルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンなど、及びナフチルアミン系のもの、具体的にはα−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン、さらにはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中で、ナフチルアミン系よりジフェニルアミン系の方が、効果の点から好ましく、特に炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン、とりわけ4,4’−ジ(C3〜C20アルキル)ジフェニルアミンが好適である。
本発明においては、酸化防止剤として、前記フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。また、その配合量は、酸化防止効果および経済性のバランスなどの面から、組成物全量基準で、0.01〜5質量%程度である。
【0019】
清浄分散剤としては、無灰系分散剤や金属系清浄剤を用いることができる。ここで、無灰系分散剤としては、例えばアルケニルコハク酸イミド類、ホウ素含有アルケニルコハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類などが挙げられ、金属系清浄剤としては、例えば中性金属スルホネート、中性金属フェネート、中性金属サリチレート、中性金属ホスホネート、塩基性スルホネート、塩基性フェネート、塩基性サリチレート、過塩基性スルホネート、過塩基性サリチレート、過塩基性ホスホネートなどが挙げられる。
これらの清浄分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記した清浄分散剤は、熱処理油組成物を繰り返して使用した際に生じるスラッジの分散効果を有するが、金属系清浄剤は、さらに劣化酸の中和剤としての作用も有している。また、清浄分散剤の配合量は、効果および経済性のバランスなどの面から、組成物全量基準で、0.01〜5質量%程度である。
【0020】
本発明の熱処理油組成物は、金属材料の熱処理において、優れた光輝性を付与できるので、例えば炭素鋼、ニッケル−マンガン鋼、クロム−モリブデン鋼、マンガン鋼などの各種合金鋼に焼入れ、焼きなまし、焼戻し等の熱処理を施す際の熱処理油、好ましくは焼入れを行う際の熱処理油として好適に用いることができる。
また、本発明の組成物を用いて、鋼材等の金属材料を焼入れ処理するには、熱処理油である組成物の温度を、通常の焼入れ処理の温度(60〜150℃程度)に設定してもよいし、170〜250℃の高温に設定してもよい。高油温条件で、本発明の組成物を用いて、鋼材等の金属材料を焼入れ処理すれば、冷却むらが起こりにくいことから、処理物により優れた光輝性と長い光輝性寿命を付与することができ、更に、処理物の歪みを低減させることができる。また本発明の熱処理油組成物は、金属焼入れ油としての使用初期(即ち、新油時)においても光輝性を付与する点にも特徴を有する。一般に、新油時においては光輝性を付与しにくいことから本発明の熱処理油組成物は極めて有効である。
【実施例】
【0021】
次に実施例、比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。具体的には、以下の方法で熱処理油組成物の性能を評価した。
【0022】
〔実施例1〜2、比較例1〜3〕
<試料油の調製>
基油として鉱油(パラフィン系、40℃動粘度:90mm/s)を用い、以下に示すように各種の添加剤を所定量配合して熱処理油組成物(試料油)を調製した(いずれも組成物全量基準)。
実施例1:アントラセン(0.1質量%)
実施例2:ジベンゾフラン(1質量%)
比較例1:添加剤無し(鉱油のみ)
比較例2:部分水素化ターフェニル(1質量%)
(混合物であるので代表的な構造を下に示す。他にオルト置換タイプ、パラ置換タイプ等も含まれる。)
【0023】
【化1】

比較例3:ジフェニルエーテルとビフェニルの同量混合物(1質量%)
【0024】
<焼入れ試験および光輝性の評価>
「熱処理油槽内の酸素による光輝性への影響」(出光トライボレビュー,No.31,pp.1963〜1966、平成20年9月30日発行)を参考にして行った。具体的には以下の通りである。
まず、ダンベル形の金属材料(φ16mm S45C)と、円柱型の金属材料(φ10mm SUJ2)を組合わせて試験片とした。次に、試験片を窒素と水素の混合ガス雰囲気中で850℃まで加熱した。そして、該温度となった試験片を120℃の試料油に投入して焼入れを行った。焼入れ試験後の試験片の写真を図1〜図5に示す。
【0025】
次に、焼入れ後の試験片の「明度」、「端部の着色」および「接触部の着色」について評価した。具体的には以下の通りである。
<明度>
所定の着色を施した外観見本を作成して、焼入れ後の試験片の色と比較評価した。外観見本の着色の程度は以下に示す数値で示される。
0:着色が全くない
1:薄い着色
2:黒褐色〜黒色
【0026】
<端部の着色>
試験片(ダンベルと円柱の非接触部)を目視で観察し、以下の基準で評価した。
0:着色が全くないかほとんどない
1:薄い着色が認められる
2:黒褐色〜黒色の着色が認められる
【0027】
<接触部の着色>
試験片(ダンベルと円柱の接触部)を目視で観察し、以下の基準で評価した。
0:着色が全くないかほとんどない
1:薄い着色が認められる
2:黒褐色〜黒色の着色が認められる
【0028】
〔評価結果〕
前記した評価方法により得られた「明度」、「端部の着色」および「接触部の着色」を順に並べると以下の通りである。
実施例1(図1):0−0−0
実施例2(図2):0−0−0
比較例1(図3):2−2−2
比較例2(図4):2−2−2
比較例3(図5):2−2−2
上述の結果より、本発明の熱処理油組成物は、3環の縮合環芳香族化合物が配合されているので、焼入れ後も試験片が優れた光輝性を発揮していることがわかる。しかも、着色しやすい接触部であっても光輝性に優れることは特筆すべきである。一方、比較例1〜3では、3環以上の縮合多環芳香族化合物が配合されていないので光輝性が非常に劣る。なお、比較例2より、3環構造を有している芳香族化合物でもビフェニル構造では効果がないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、焼入れ等の熱処理において、被加工物に優れた光輝性を与える熱処理油組成物として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油および合成油の少なくともいずれか1種である基油に、3環以上の縮合多環芳香族化合物を配合してなる
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱処理油組成物において、前記3環以上の縮合多環芳香族化合物を組成物全量基準で0.1質量%以上、5質量%以下配合してなる
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱処理油組成物において、
前記基油の40℃における動粘度が30mm/s以上であり、該基油の硫黄分が300質量ppm以下である
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱処理油組成物において、
前記縮合多環芳香族化合物が炭化水素である
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱処理油組成物において、
前記縮合多環芳香族化合物がアントラセン骨格を有する
ことを特徴とする熱処理油組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱処理油組成物において、
前記縮合多環芳香族化合物がジベンゾフラン骨格を有する
ことを特徴とする熱処理油組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−209422(P2010−209422A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57979(P2009−57979)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】