説明

熱処理装置

【課題】基板上の照度分布の不均一を容易に是正することができる熱処理装置を提供する。
【解決手段】チャンバー6内にて保持プレート7によって半導体ウェハーWが保持される。チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ光照射部5には複数の点光源のフラッシュランプFLがハニカム状に配列されている。フラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光は、光を拡散するディフューザ55を透過した後にチャンバー6内に入射して半導体ウェハーWの表面に照射される。点光源のフラッシュランプFLであれば、半導体ウェハーWの表面に照度分布の不均一が生じていたとしても、その不均一箇所に対応するフラッシュランプFLのみの強度を調整して照度分布の不均一を容易に是正することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハーや液晶表示装置用ガラス基板等の薄板状の精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)に対してフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、不純物導入は半導体ウェハー内にpn接合を形成するための必須の工程である。現在、不純物導入は、イオン打ち込み法とその後のアニール法によってなされるのが一般的である。イオン打ち込み法は、ボロン(B)、ヒ素(As)、リン(P)といった不純物の元素をイオン化させて高加速電圧で半導体ウェハーに衝突させて物理的に不純物注入を行う技術である。注入された不純物はアニール処理によって活性化される。この際に、アニール時間が数秒程度以上であると、打ち込まれた不純物が熱によって深く拡散し、その結果接合深さが要求よりも深くなり過ぎて良好なデバイス形成に支障が生じるおそれがある。
【0003】
そこで、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するアニール技術として、近年フラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、不純物が注入された半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0004】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。このため、キセノンフラッシュランプによる極短時間の昇温であれば、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
このようなキセノンフラッシュランプを使用した熱処理装置として、特許文献1には、半導体ウェハーをホットプレートに載置して所定の温度まで予備加熱し、その後フラッシュランプからのフラッシュ光照射によって所望の処理温度にまで昇温する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−5532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるような従来のフラッシュランプは長尺の棒状ランプであった。このような棒状ランプは、長手方向に沿って発光する線状の光源であり、処理対象となる半導体ウェハー上に照度分布の不均一が生じているときに、その不均一を是正するのが困難であった。すなわち、例えば、半導体ウェハー上の1箇所のみの照度が低いときに、当該箇所の直上に位置するフラッシュランプの発光強度を高めると、その棒状フラッシュランプの下方に位置する他の箇所の照度が高くなり、結果として新たな照度分布の不均一が生じることとなる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基板上の照度分布の不均一を容易に是正することができる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に対してフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて前記基板を保持する保持手段と、複数の点光源フラッシュランプを配列し、前記保持手段に保持された前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ光照射手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理装置において、前記フラッシュ光照射手段に前記複数の点光源フラッシュランプをハニカム状に配列することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る熱処理装置において、前記複数の点光源フラッシュランプのそれぞれに個別に発光回路を接続することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記フラッシュ光照射手段と前記保持手段との間に、入射した光を拡散させる光拡散板を設けることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記保持手段は、前記基板を載置して保持する非加熱式プレートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1から請求項5の発明によれば、フラッシュ光照射手段に複数の点光源フラッシュランプを配列しているため、基板上に照度分布の不均一が生じていたとしても、その不均一箇所に対応するフラッシュランプのみの強度を調整して照度分布の不均一を容易に是正することができる。
【0015】
特に、請求項2の発明によれば、複数の点光源フラッシュランプをハニカム状に配列するため、点光源フラッシュランプの配置密度は均一となり、基板上の照度分布を均一にすることができる。
【0016】
特に、請求項3の発明によれば、複数の点光源フラッシュランプのそれぞれに個別に発光回路を接続するため、複数の点光源フラッシュランプ毎に強度の調整を行うことができる。
【0017】
特に、請求項4の発明によれば、フラッシュ光照射手段と保持手段との間に、入射した光を拡散させる光拡散板を設けるため、点光源のフラッシュランプを配列した場合であっても、そのランプ配列に起因した照度分布の不均一を解消して基板上に均一な照度分布にてフラッシュ光照射を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る熱処理装置の要部構成を示す図である。
【図2】吹き出しプレートの平面図である。
【図3】フラッシュ光照射部における複数のフラッシュランプの平面配列の一例を示す平面図である。
【図4】各フラッシュランプを発光させるための発光回路を示す図である。
【図5】図1の熱処理装置における半導体ウェハーの処理手順を示すフローチャートである。
【図6】ディフューザによって拡散されるフラッシュ光を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の要部構成を示す図である。この熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。本実施形態の熱処理装置1では、レジスト膜が表面に形成された半導体ウェハーWにフラッシュ光照射を行ってそのレジスト膜を加熱する。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0021】
熱処理装置1は、主たる構成として、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6と、チャンバー6内にて半導体ウェハーWを保持する保持プレート7と、保持プレート7に保持された半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射するフラッシュ光照射部5と、を備えている。また、熱処理装置1は、チャンバー6内に処理ガスを供給するガス供給部8と、チャンバー6から排気を行う排気部9と、を備えている。さらに、熱処理装置1は、これらの各部を制御してフラッシュ光照射処理を実行させる制御部3を備える。
【0022】
チャンバー6は、フラッシュ光照射部5の下方に設けられており、略円筒状の内壁を有するチャンバー側部63、および、チャンバー側部63の下部を覆うチャンバー底部62によって構成される。また、チャンバー側部63およびチャンバー底部62によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。チャンバー6の上部開口にはチャンバー窓61が装着されて閉塞されている。
【0023】
チャンバー6の天井部を構成するチャンバー窓61は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ光照射部5から出射されたフラッシュ光を熱処理空間65に透過する石英窓として機能する。チャンバー6の本体を構成するチャンバー底部62およびチャンバー側部63は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されている。
【0024】
また、熱処理空間65の気密性を維持するために、チャンバー窓61とチャンバー側部63とは図示省略のOリングによってシールされている。すなわち、チャンバー窓61の下面周縁部とチャンバー側部63との間にOリングを挟み込み、これらの隙間から気体が流出入するのを防いでいる。
【0025】
チャンバー側部63には、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部66が設けられている。搬送開口部66は、図示を省略するゲートバルブによって開閉可能とされている。搬送開口部66が開放されると、図外の搬送ロボットによってチャンバー6に対する半導体ウェハーWの搬入および搬出が可能となる。また、搬送開口部66が閉鎖されると、熱処理空間65が外部との通気が遮断された密閉空間となる。
【0026】
保持プレート7は、金属製(例えば、アルミニウム)の略円板形状の部材であり、チャンバー6内にて半導体ウェハーWを載置して水平姿勢(主面の法線方向が鉛直方向に沿う姿勢)に保持する。本実施形態の保持プレート7は、特段の温調機構(加熱機構および/または冷却機構)を有さない非加熱式のプレートである。
【0027】
保持プレート7の上面には、アルミナ(Al23)等の部材から構成された複数個(例えば3個)の図示省略のプロキシミティボールが配設されている。複数個のプロキシミティボールは、その上端が保持プレート7の上面から微少量だけ突出する状態で配設されている。このため、プロキシミティボールによって半導体ウェハーWを支持したときには、半導体ウェハーWの裏面と保持プレート7の上面との間にいわゆるプロキシミティギャップと称される微小間隔が形成される。なお、保持プレート7の上面にサセプタを設置し、そのサセプタにて半導体ウェハーWを支持するようにしても良い。
【0028】
また、保持プレート7には、その上面に出没する複数本(本実施の形態では3本)のリフトピン77が設けられている。3本のリフトピン77の上端高さ位置は同一水平面内に含まれる。3本のリフトピン77はエアシリンダ78によって一括して鉛直方向に沿って昇降される。各リフトピン77は、保持プレート7に上下に貫通して設けられた挿通孔の内側に沿って昇降する。エアシリンダ78が3本のリフトピン77を上昇させると、各リフトピン77の先端が保持プレート7の上面から突出する。また、エアシリンダ78が3本のリフトピン77を下降させると、各リフトピン77の先端が保持プレート7の挿通孔の内部に埋入する。
【0029】
熱処理空間65の上部であって、チャンバー窓61の直下には、吹き出しプレート68が設けられている。図2は、吹き出しプレート68の平面図である。吹き出しプレート68は、石英にて形成された円板形状部材であり、保持プレート7に保持された半導体ウェハーWの表面に対向するように水平姿勢に設置されている。図2に示すように、吹き出しプレート68には、多数の吐出孔69が穿設されている。具体的には、少なくとも保持プレート7に保持された半導体ウェハーWの表面に対向する吹き出しプレート68の領域には均一な密度にて複数の吐出孔69が穿設されている。
【0030】
図1に戻り、ガス供給部8は、チャンバー窓61と吹き出しプレート68との間に形成されたガス溜め空間67に処理ガスを供給する。ガス供給部8は、処理ガス供給源81とバルブ82とを備えており、バルブ82を開放することによってガス溜め空間67に処理ガスを供給する。ガス供給部8が供給する「処理ガス」は、不活性ガスおよび反応性ガスの総称である。「不活性ガス」は、半導体ウェハーWの材質およびその表面に形成された薄膜との反応性に乏しいガスであり、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などである。「反応性ガス」は、半導体ウェハーWの材質および表面に形成された薄膜との反応性に富むガスであり、酸素(O2)、水素(H2)、塩素(Cl2)、水蒸気(H2O)、塩化水素(HCl)、オゾン(O3)、アンモニア(NH3)などの他に臭素(Br)系化合物ガスやフッ素(F)系化合物ガスが該当する。また、処理の目的によっては、窒素は反応性ガスにもなり得る。さらに、ガス供給部8からは、温度と湿度とが調節され、かつ、アンモニア成分が除去された加湿空気を処理ガスとして供給するようにしても良い。なお、処理ガス供給源81としては、熱処理装置1内に設けられた気体タンクと送給ポンプとで構成するようにしても良いし、熱処理装置1が設置される工場の用力を用いるにようにしても良い。
【0031】
ガス供給部8からガス溜め空間67に供給された処理ガスは吹き出しプレート68に穿設された複数の吐出孔69から下方に向けて吐出される。このときに、ガス溜め空間67における流体の通過抵抗は吐出孔69の通過抵抗よりも小さいため、ガス供給部8から供給された処理ガスは一旦ガス溜め空間67内を拡がるように流れてから複数の吐出孔69から均一に吐出されることとなる。また、複数の吐出孔69は、保持プレート7に保持された半導体ウェハーWに対向する領域には均一な密度にて設けられている。従って、吹き出しプレート68からは保持プレート7に保持された半導体ウェハーWの表面全面に均等に処理ガスが吹き付けられることとなる。
【0032】
排気部9は、排気装置91およびバルブ92を備えており、バルブ92を開放することによって排気口93からチャンバー6内の雰囲気を排気する。排気口93は、保持プレート7を囲繞するようにチャンバー側部63に形成されたスリットである。排気口93が形成される高さ位置は、保持プレート7に保持される半導体ウェハーWと同じ高さ位置以下であり、半導体ウェハーWよりもやや下方が好ましい。保持プレート7を取り囲むように形成されたスリット状の排気口93から排気部9が排気を行うことによって、保持プレート7に保持される半導体ウェハーWの周囲から均等に気体の排出が行われることとなる。
【0033】
排気装置91としては、真空ポンプや熱処理装置1が設置される工場の排気ユーティリティを用いることができる。排気装置91として真空ポンプを採用し、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく密閉空間である熱処理空間65の雰囲気を排気すると、チャンバー6内を真空雰囲気にまで減圧することができる。また、排気装置91として真空ポンプを用いていない場合であっても、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく排気を行うことにより、チャンバー6内を大気圧よりも低い気圧に減圧することができる。
【0034】
フラッシュ光照射部5は、チャンバー6の上方に設けられている。フラッシュ光照射部5は、複数のフラッシュランプFLを水平方向に沿って平面状に配列して備える。各フラッシュランプFLは、点光源のランプである。フラッシュ光照射部5には、複数の点光源のフラッシュランプFLが均一な配置密度となる幾何学状に配列されている。なお、複数のフラッシュランプFLの配列によって形成される平面は水平面(すなわち、保持プレート7に保持された半導体ウェハーWと平行)である。
【0035】
図3は、フラッシュ光照射部5における複数のフラッシュランプFLの平面配列の一例を示す平面図である。同図に示すように、本実施形態における複数のフラッシュランプFLの平面配列は、ハニカム状のランプ配列であり、1つのフラッシュランプFLの周囲に正六角形を描くように6つのフラッシュランプFLを配置して設ける平面配列である。フラッシュ光照射部5には、このようなフラッシュランプFLによって形成される正六角形が隙間無く並べられている。
【0036】
図4は、各フラッシュランプFLを発光させるための発光回路を示す図である。同図に示すように、フラッシュランプFLには、コンデンサ23と、コイル24と、スイッチ26とが直列に接続されている。本実施形態の点光源のフラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプである。フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されるとともに陽極および陰極が配設された放電管22と、該放電管22の外周面上に付設されたトリガー電極21とを備える。コンデンサ23には、電源ユニット25によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極21にはトリガー回路27から高電圧を印加することができる。スイッチ26が発光回路を開閉するタイミングおよびトリガー回路27がトリガー電極21に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
【0037】
コンデンサ23が充電された状態でスイッチ26が閉じて放電管22の電極間に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態では放電管22内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路27がトリガー電極21に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサ23に蓄えられた電荷が陽極および陰極間の放電によって放電管22内に瞬時に電流として流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンのフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサ23に蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。
【0038】
図4の発光回路において、コンデンサ23の静電容量、コイル24のインダクタンス、電源ユニット25の充電電圧などを調節することによって、フラッシュランプFLの発光特性(発光強度、発光時間など)を調整することができる。これらの調節を容易にするために、コンデンサ23およびコイル24をそれぞれ可変コンデンサおよび可変コイルとしても良い。フラッシュ光照射部5にハニカム状に配列された複数のフラッシュランプFLのそれぞれに個別に図4に示す如き発光回路が接続されている。従って、フラッシュ光照射部5に配置された複数のフラッシュランプFLのそれぞれについて個別に発光特性を調整することができる。
【0039】
図1に戻り、チャンバー窓61の上面には、ディフューザ55が設置されている。ディフューザ55は、入射した光をランダムに拡散させる光拡散板であり、例えば石英のすりガラスを用いて構成される。ディフューザ55は、チャンバー窓61の上面、すなわちフラッシュ光照射部5とチャンバー6内の保持プレート7との間に設けられている。フラッシュ光照射部5のフラッシュランプFLは、チャンバー6内にて保持プレート7に保持される半導体ウェハーWに対してディフューザ55、チャンバー窓61および吹き出しプレート68を介してフラッシュ光を照射する。このときに、フラッシュ光はディフューザ55によって拡散されることとなる。なお、ディフューザ55は、石英ガラスの内部に多数の気泡を含ませたものであっても良い。
【0040】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0041】
次に、上記構成を有する熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。図5は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する(ステップS1を除く)。
【0042】
まず、半導体ウェハーWの処理に先立って、フラッシュランプFLの発光回路の調整を行う(ステップS1)。上述したように、フラッシュ光照射部5に配置された複数のフラッシュランプFLのそれぞれに個別に発光回路が設けられており、本実施形態では複数のフラッシュランプFL毎に発光回路の調整を行うことができる。
【0043】
発光回路の調整は、例えば以前に処理された半導体ウェハーWの処理結果(シート抵抗値など)に基づいて行えば良い。例えば、以前に処理された半導体ウェハーWの処理結果からウェハー面内の一部にのみ相対的に低温となっている領域があることが判明していれば、当該領域のフラッシュ光照度が他の領域よりも低くなっているものと考えられる。そこで、当該領域の上方に位置するフラッシュランプFLの発光回路を調整して当該フラッシュランプFLの発光強度を高め、半導体ウェハーW上の照度分布が均一となるようにする。この場合であれば、例えば当該フラッシュランプFLの発光回路における電源ユニット25の充電電圧を高くしてフラッシュランプFLの発光強度を高めるようにする。電源ユニット25の充電電圧の変更は、当該電源ユニット25自体にオペレータが機械的な調整を加えるようにしても良いし、熱処理装置1における処理のフローおよび条件を記述したレシピにて充電電圧を指定し、それに従って制御部3が設定するようにしても良い。
【0044】
このようにしてフラッシュランプFLの発光回路の調整を行って照度分布を均一とした後、図示省略のゲートバルブが開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入される(ステップS2)。ここで処理対象となる半導体ウェハーWは、表面にフォトレジストの薄膜(レジスト膜)が形成されてパターン露光処理が行われた直後の半導体基板である。
【0045】
レジスト膜の形成は、例えば半導体ウェハーWを回転させつつ、その回転中心にフォトレジストの塗布液を吐出し、遠心力によって塗布液を拡布することによって半導体ウェハーWの表面にフォトレジストの薄膜を形成するいわゆるスピンコート法によって行えば良い。なお、本実施形態では、フォトレジストとしては化学増幅型レジストを用いる。
【0046】
表面にレジスト膜が形成された半導体ウェハーWに加熱処理(塗布後ベーク処理)を行うことによってレジスト膜が焼成される。さらに、その半導体ウェハーWに対してパターン露光処理が行われる。本実施形態では、化学増幅型レジストを使用しているため、半導体ウェハーW上に形成されたレジスト膜のうち露光された部分では光化学反応によって酸が生成する。これらのレジスト塗布処理、塗布後ベーク処理およびパターン露光処理は、いずれも本発明に係る熱処理装置1とは別の装置にて行われる。そして、パターン露光処理が終了した直後の半導体ウェハーWが熱処理装置1のチャンバー6に搬入される。
【0047】
表面にレジスト膜が形成されてパターン露光処理が終了した半導体ウェハーWを保持した搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入し、保持プレート7の直上にて停止する。続いて、3本のリフトピン77が上昇してハンドから半導体ウェハーWを受け取る。その後、搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出するとともに、搬送開口部66が閉鎖されることによりチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0048】
熱処理空間65が密閉空間とされた後、チャンバー6内の雰囲気が調整される(ステップS3)。本実施形態においては、ガス供給部8からチャンバー6内に加湿された空気を供給するとともに、排気部9がチャンバー6からの排気を行う。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65が加湿空気雰囲気となる。
【0049】
次に、半導体ウェハーWを支持する3本のリフトピン77が下降して保持プレート7の挿通孔の内部に埋入する。リフトピン77が下降する過程において、半導体ウェハーWはリフトピン77から保持プレート7の上面に渡され、その上面に載置・保持される。半導体ウェハーWが保持プレート7に載置・保持された後、制御部3の制御によりフラッシュ光照射部5のフラッシュランプFLから保持プレート7に保持された半導体ウェハーWへ向けてフラッシュ光が照射される(ステップS4)。
【0050】
フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット25によってコンデンサ23に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ23に電荷が蓄積された状態にて、制御部3がスイッチ26を閉じるとともにトリガー回路27を制御してトリガー電極21に高電圧(トリガー電圧)を印加する。これにより、フラッシュランプFLの放電管22内の電極間で瞬時に電流が流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によってフラッシュ光が放出される。
【0051】
フラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光は、フラッシュ光照射部5と保持プレート7との間に設けられディフューザ55を透過した後にチャンバー6内に入射する。図6は、ディフューザ55によって拡散されるフラッシュ光を説明する図である。フラッシュランプFLから出射されてディフューザ55に入射したフラッシュ光は、図6の矢印AR6にて示すように、ランダムに拡散されて下方のチャンバー窓61へと向かう。そして、ディフューザ55によって拡散されたフラッシュ光がチャンバー6内の熱処理空間65に入射し、保持プレート7に保持された半導体ウェハーWの表面に照射され、当該表面に形成されたレジスト膜が加熱される。
【0052】
本実施形態のように、フラッシュ光照射部5に複数の点光源のフラッシュランプFLを配列した場合には、フラッシュランプFLの直下に比較してランプ間の直下では照度が低くなり易い傾向が認められる。フラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光をディフューザ55によってランダムに拡散した後に半導体ウェハーWに照射すれば、複数の点光源のフラッシュランプFLを配列したことに起因した照度分布の不均一を解消し、半導体ウェハーWの表面に均一な照度分布にてフラッシュ光照射を行うことができる。
【0053】
フラッシュランプFLから出射されるフラッシュ光は、コンデンサ23に予め蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。フラッシュランプFLからフラッシュ光が照射された半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に処理温度にまで上昇し、その後急速に下降する。
【0054】
このようなフラッシュ加熱によって、パターン露光時の光化学反応によって化学増幅型レジストの膜中に生じた活性種を酸触媒としてレジスト樹脂の架橋・分解または脱保護等の化学反応を進行させる。これにより、レジスト膜の現像液に対する溶解度を露光部分のみ局所的に変化させる露光後ベーク処理が行われる。すなわち、本実施形態においては、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面温度を瞬間的に昇温して露光後ベーク処理を行っている。
【0055】
フラッシュ光照射による露光後ベーク処理が終了した後、半導体ウェハーWが保持プレート7に保持されたまま所定時間待機する。所定時間経過後、3本のリフトピン77が上昇し、保持プレート7に載置されていた半導体ウェハーWを突き上げて保持プレート7から離間させる。その後、搬送開口部66が再び開放され、搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入して半導体ウェハーWの直下で停止する。続いて、リフトピン77が下降することによって、半導体ウェハーWがリフトピン77から搬送ロボットに渡される。そして、半導体ウェハーWを受け取った搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出することにより、半導体ウェハーWがチャンバー6から搬出され、熱処理装置1における露光後ベーク処理が完了する(ステップS5)。
【0056】
熱処理装置1から搬出された半導体ウェハーWの表面には現像液が供給されて現像処理が行われる。現像処理は、例えば静止状態の半導体ウェハーWの表面に現像液を一定時間留めるいわゆるパドル現像によって行えば良い。このような現像処理も熱処理装置1とは別の装置にて行われる。
【0057】
本実施形態においては、フラッシュ光照射部5に複数の点光源のフラッシュランプFLをハニカム状に配列している。複数の点光源フラッシュランプFLを配列しているため、フラッシュ光照射部5全体としての照度の微調整が容易である。すなわち、例えば半導体ウェハーWの表面において1箇所のみの照度が低いというような照度分布の不均一が生じていたとしても、棒状のフラッシュランプFLであれば照射範囲が線状となるため、当該箇所のみの照度を調整することは困難であった。点光源のフラッシュランプFLであれば、当該箇所の上方に位置するフラッシュランプFLのみの発光強度を高めることによって当該箇所のみの照度を高め、半導体ウェハーW上の照度分布の不均一を容易に是正することができるのである。
【0058】
特に、本実施形態のように半導体ウェハーWの表面に形成されたレジスト膜の露光後ベーク処理を行う場合には、処理温度が比較的低い(百数十℃程度)。処理温度が1000℃以上にもなる場合には、特許文献1に開示されるように、半導体ウェハーをホットプレートに載置して予備加熱を行った後にフラッシュ光を照射するため、ホットプレートによって半導体ウェハーの温度分布をある程度調整できる。しかし、処理温度が比較的低い本実施形態のような場合には、保持プレート7に加熱機構を備えておらず、保持プレート7によってフラッシュ光照射前の半導体ウェハーWの予備加熱を行わない。このため、予備加熱時に半導体ウェハーWの温度分布を調整することはできず、フラッシュ光照射部5によってフラッシュ光の照度分布を均一にして半導体ウェハーWの温度分布を均一にする技術的意義が大きい。
【0059】
また、複数の点光源のフラッシュランプFLはハニカム状に配列されているため、その配置密度は均一であり、フラッシュ光照射部5から放射されるフラッシュ光の強度分布を均一なものとすることができる。
【0060】
また、複数のフラッシュランプFLのそれぞれに個別に発光回路が設けられているため、複数のフラッシュランプFL毎に発光特性を調整することができる。これにより、フラッシュ光照射部5全体としての微調整を確実なものとして半導体ウェハーW上の照度分布の不均一を容易に是正することができる。
【0061】
さらに、本実施形態では入射した光をランダムに拡散させるディフューザ55をフラッシュ光照射部5と保持プレート7との間に設けているため、点光源のフラッシュランプFLを配列した場合であっても、ランプ配列に起因した照度分布の不均一を解消して半導体ウェハーWの表面に均一な照度分布にてフラッシュ光照射を行うことができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、フラッシュ光照射部5に複数の点光源のフラッシュランプFLをハニカム状に配列していたが、配列パターンはハニカム状に限定されるものではなく、配設密度が均一となる配列であれば良い。例えば、フラッシュ光照射部5に複数の点光源のフラッシュランプFLを正方格子状に配列するようにしても良い。
【0063】
また、上記実施形態においては、複数のフラッシュランプFLのそれぞれに個別に発光回路を設け、複数のフラッシュランプFL毎に発光特性の調整を行うようにしていたが、これに代えて、フラッシュ光照射部5の複数のフラッシュランプFLを幾つかのゾーンに区分けし、それらのゾーン毎にフラッシュランプFLの発光特性の調整を行うようにしても良い。
【0064】
また、フラッシュランプFLの発光回路の調整工程(図5のステップS1)は、半導体ウェハーWの搬入前に行うことに限定されるものではなく、半導体ウェハーWの搬出後にその処理結果に基づいて行うようにしても良い。
【0065】
また、上記実施形態においては、熱処理装置1にて半導体ウェハーWの表面に形成されたレジスト膜の露光後ベーク処理を行っていたが、これに限定されるものではなく、本発明に係る技術によって他の加熱処理、例えばレジスト膜の塗布後ベーク処理を行うようにしても良いし、シリサイドの形成処理を行うようにしても良い。特に、本発明に係る技術は保持プレート7によって予備加熱を行わない比較的低温のフラッシュ加熱処理を行う場合に好適である。
【0066】
また、不純物の活性化など比較的高温のフラッシュ加熱処理を行う場合であっても、フラッシュ光照射部5に複数の点光源のフラッシュランプFLを配列した本発明に係る熱処理技術を適用することができる。但し、高温のフラッシュ加熱処理を行う場合には、保持プレート7に加熱機構を設け、フラッシュ光照射前に半導体ウェハーWの予備加熱を行うのが好ましい。或いは、高温の加熱処理を行う場合、石英等の光透過性材料で形成された保持プレートにて半導体ウェハーWを保持し、フラッシュ光照射前に半導体ウェハーWの裏面側からハロゲンランプ等の光照射源を使用して半導体ウェハーWの予備加熱を行うようにしても良い。
【0067】
また、本発明に係る熱処理技術によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。これらの基板に形成された膜に比較的低温のフラッシュ加熱処理を行う場合に、本発明に係る熱処理技術は好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 熱処理装置
3 制御部
5 フラッシュ光照射部
6 チャンバー
7 保持プレート
8 ガス供給部
9 排気部
23 コンデンサ
24 コイル
25 電源ユニット
26 スイッチ
55 ディフューザ
61 チャンバー窓
65 熱処理空間
FL フラッシュランプ
W 半導体ウェハー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対してフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内にて前記基板を保持する保持手段と、
複数の点光源フラッシュランプを配列し、前記保持手段に保持された前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ光照射手段と、
を備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記フラッシュ光照射手段に前記複数の点光源フラッシュランプをハニカム状に配列することを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の熱処理装置において、
前記複数の点光源フラッシュランプのそれぞれに個別に発光回路を接続することを特徴とする熱処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記フラッシュ光照射手段と前記保持手段との間に、入射した光を拡散させる光拡散板を設けることを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記保持手段は、前記基板を載置して保持する非加熱式プレートであることを特徴とする熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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