説明

熱分解装置およびそれを用いた熱分解方法

【課題】第1処理対象物質Xの熱分解で生成される中間生成物質が、第2処理対象物質Yと爆発的に反応し、かつ、第2処理対象物質は、第1処理対象物質の熱分解によって生成される物質と反応して熱分解されるといった2種類の処理対象物質を安全かつ安定的に継続して効率的に熱分解する熱分解装置を提供する。
【解決手段】熱分解装置10を、3つの熱分解空間40、42、44と、第1熱分解空間40および第2熱分解空間42の上端部を連通する第1連絡路48と、第2熱分解空間42の上端部および第3熱分解空間44の上端部を連通する第2連絡路50と、第1熱分解空間40および第3熱分解空間44に設けられたヒータ24と、第1処理対象物質導入路52と、第2処理対象物質Yを第2熱分解空間42の下端部に導入する第2処理対象物質導入路54とで構成することにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造用ガスの生産時あるいは半導体製造装置から排出される排ガスに含まれる人体や環境に有害な処理対象物質を熱分解して無害化する熱分解装置およびそれを用いた熱分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造に際しては、エッチングガスやクリーニングガスといった様々な半導体製造用ガスが使用されており、半導体生産量の急増に合わせて、これら半導体製造用ガスの生産量・使用量も近年急激に増加している。
【0003】
ところで、半導体製造用ガスを製造する際には、目的とする半導体製造用ガスの他に人体や環境に対して有害な副生物質が生成される場合がある。また、半導体製造時において半導体製造装置からも有害な排ガスが排出される。この有害な副生物質や半導体製造時の排ガスを処理対象ガスとして個別対応で熱分解することによって無害化する熱分解装置が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示された熱分解装置は、処理対象ガスを熱分解処理するための1の反応器を有しており、当該反応器に導入された処理対象ガスは、ヒータからの熱を受けて無害なガスに熱分解された後、系外に排出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−82893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の熱分解装置では処理することができない副生物質が生成される場合もある(副生物質には、ガスに限らず、常温で液体あるいは固体のものもある。)。例えば、シリコンウエハのプラズマエッチングに使用される三フッ化窒素(以下、「NF3」という。)を製造する際には、二フッ化アンモニウム(Ammonium BiFluoride[NH4HF2]、以下、「ABF」という。)および一酸化二窒素(以下、「N2O」という。)が副生物質として生成される。これらの副生成物質は、別々の工程で排出される物質であり、さらに、N2Oには、工程上、どうしても目的物質であるNF3が混入してしまうという事情があった。
【0007】
ここで、ABFが熱分解されたときに中間生成物質として生成されるアンモニア(以下、「NH3」という。)は、高温下でNF3と爆発的に反応する性質を有していることから、特許文献1の熱分解装置を用いてABFとNF3とを混ぜた状態で熱分解すると、反応器中で、ABFが熱分解されることによって生成されたNH3(中間生成物質)とNF3とが爆発的に反応し、最悪の場合、反応器が破損してしまい、処理対象物質の安全かつ安定的な熱分解を継続して行うことができなかった。
【0008】
もちろん、ABFとNF3(およびN2O)とを別々の熱分解装置で熱分解すれば上述のような爆発の危険性は無くなるのであるが、2つの熱分解装置を設けることは設置スペースやコスト的に不利になるばかりでなく、1つの熱分解装置でABFとNF3(およびN2O)とを処理する方が効率的であった。
【0009】
すなわち、ABFを熱分解すると、式1および式2に示すように、最初にフッ化水素(以下、「HF」という。)と中間生成物質であるNH3とに分解され(式1)、然る後、NH3が窒素と水素とに分解される(式2)。
NH4HF2 → NH3+2HF (式1)
2NH3 → N2+3H2 (式2)
【0010】
一方、NF3およびN2Oは、ABFを完全に分解することによって生成されるH2を使用して熱分解することができ(式3および式4)、NF3を熱分解することによってもHFが生成される(式3)。
2NF3+3H2 → 6HF+N2 (式3)
2O+H2 → N2+H2O (式4)
【0011】
このように、1つの熱分解装置でABFとNF3(およびN2O)とを順に処理すれば、ABFを完全に熱分解することによって生成されるH2を使用してNF3およびN2Oを熱分解できるので、NF3およびN2Oを熱分解するために別途外部からH2を供給する必要がなくなる。
【0012】
さらに言えば、1つの熱分解装置で処理すれば、その排ガス中には、ABFおよびNF3を熱分解することによって生成されるHFがまとまって高濃度で含まれることになるので、HFの回収効率が高まるというメリットもある。
【0013】
それゆえに本発明の主たる課題は、「第1処理対象物質(上記例であれば、ABF)が完全に熱分解される途中で生成される中間生成物質(上記例であれば、NH3)が第2処理対象物質(上記例であれば、NF3)と爆発的に反応する性質を有しており、かつ、第2処理対象物質は、第1処理対象物質を完全に熱分解することによって生成される物質の一部(上記例であれば、H2)と反応して熱分解される」という条件を満たす2種類の処理対象物質を安全かつ安定的に継続して効率的に熱分解することのできる熱分解装置および熱分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載した発明は、
「熱分解される途中で生成される中間生成物質が第2処理対象物質Yと爆発的に反応する性質を有する第1処理対象物質X、および
前記第1処理対象物質Xを完全に熱分解することによって生成される物質の一部と反応して熱分解される前記第2処理対象物質Yを熱分解する熱分解装置であって、
互いに独立した3つの熱分解空間40、42、44と、
少なくとも、前記第1熱分解空間40の上端部、および前記第3熱分解空間44の上端部に設けられたヒータ24と、
前記第1熱分解空間40の上端部、および前記第2熱分解空間42の上端部を連通する第1連絡路48と、
前記第2熱分解空間42の上端部、および前記第3熱分解空間44の上端部を連通する第2連絡路50と、
前記第1処理対象物質Xを前記第1熱分解空間40に導入する第1処理対象物質導入路52と、
前記第2処理対象物質Yを前記第2熱分解空間42の下端部に導入する第2処理対象物質導入路54と、
前記第3熱分解空間44から処理済み排ガスを系外へ排出する排ガス排出路56とを有する熱分解装置10」である。
【0015】
本発明が適用された熱分解装置10では、図1に示すように、ヒータ24が、少なくとも、第1熱分解空間40および第3熱分解空間44の各上端部に配設されていることから、両空間40、44の上端部は十分に熱分解を生じさせることができるような高温領域になっている。
【0016】
そして、第1連絡路48が第1熱分解空間40の上端部と第2熱分解空間42の上端部とを互いに連絡していることにより、第1処理対象物質導入路52を通じて第1熱分解空間40に導入された第1処理対象物質Xは、同空間40内の高温領域に向けて上昇しながら温度が高められることによって熱分解を促進させ、当該高温空間を通り抜けることによって完全に熱分解されてから、第2熱分解空間42の上端部に入ることになる。
【0017】
第2熱分解空間42と第3熱分解空間44とを連通する第2連絡路50は、第2熱分解空間42の上端部に接続されていることから、第2熱分解空間42の上部に導入された熱分解後の第1処理対象物質Xは、同空間42の上端部を通過して第2連絡路50に入る。
【0018】
その一方で、第2処理対象物質導入路54を通じて第2熱分解空間42の下端部に導入された第2処理対象物質Yは、同空間42内を上昇し、その上端部において初めて熱分解後の第1処理対象物質Xと合流するようになっている。
【0019】
このため、第2熱分解空間42に導入された熱分解後の第1処理対象物質Xは、導入後直ちには第2処理対象物質Yと混合しないので、万一、第1処理対象物質Xの熱分解によって生成された中間生成物質が第2熱分解空間42に流入したとしても、当該中間生成物質は、第2処理対象物質Yと合流するまでの間に第1熱分解空間40からの余熱によって完全に熱分解されるので、該中間生成物質と第2処理対象物質Yとが混ざり合う可能性を極小化することができる。
【0020】
然る後、熱分解後の第1処理対象物質Xと合流した第2処理対象物質Yは、第2連絡路50を通り、ヒータ24によって高温領域にされた第3熱分解空間44の上端部に導入され、第1処理対象物質Xが完全に熱分解することによって生成された物質の一部を用いて熱分解した後、同空間44に接続された排ガス排出路56を通って系外に排出される。
【0021】
以上のように、本発明の熱分解装置10によれば、第1処理対象物質Xが熱分解される途中で生成される中間生成物質と第2処理対象物質Yとが爆発的に反応する性質を有している場合において、万一、第1熱分解空間40における第1処理対象物質Xの熱分解によって生成された中間生成物質が第2熱分解空間42に流入したとしても、該中間生成物質と第2処理対象物質Yとが混ざり合う可能性を極小化することができる。
【0022】
さらに、第1処理対象物質Xを完全に熱分解することにより、第2処理対象物質Yの熱分解に使用される物質が生成されることから、完全に熱分解された第1処理対象物質Xを第2熱分解空間42で第2処理対象物質Yに混合させることにより、当該第2処理対象物質Yの熱分解に必要な物質を外部から別途供給することなく、少なくとも第3熱分解空間44で第2処理対象物質Yを熱分解することができる。
【0023】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の熱分解装置10に関し、「前記第1、2処理対象物質X、Yを熱分解することにより、回収の対象となる同一の有用成分が生成される」ことを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、熱分解装置10から排出された処理済ガスには、第1処理対象物質Xおよび第2処理対象物質Yを熱分解することによってそれぞれから生じた同一の「有用成分」が濃い状態で含まれているので、当該「有用成分」の回収再利用が容易になる。
【0025】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載の熱分解装置10に関し、
「前記第1処理対象物質Xは、液体あるいは固体であって、
前記第1熱分解空間40の下端部には、前記第1処理対象物質導入路52から導入された前記第1処理対象物質Xを受ける樋58を有する第1処理対象物質気化促進装置28が設けられている」ことを特徴とする。
【0026】
本発明が適用された熱分解装置10によれば、液体あるいは固体として第1処理対象物質導入路52から導入された第1処理対象物質Xは、第1処理対象物質気化促進装置28の樋58に溜まり、溜まった第1処理対象物質Xは、上端部のヒータ24からの輻射熱等を受けることにより昇温して気化が促進される。このような樋58を設けることにより、液体あるいは固体として導入された第1処理対象物質Xが第1熱分解空間40の底面に落下してしまい、最悪の場合、炉体12(本実施例では、耐火レンガ36)の内面を損傷させてしまうのを回避することができる。
【0027】
請求項4は、請求項1に記載した熱分解装置10を用いた処理対象物質の熱分解方法であり、
「熱分解される途中で生成される中間生成物質が、第2処理対象物質Yと爆発的に反応する性質を有する第1処理対象物質X、および
前記第1処理対象物質Xを完全に熱分解することによって生成される物質の一部と反応して熱分解される前記第2処理対象物質Yの熱分解方法であって、
前記第1処理対象物質Xを、第1処理対象物質導入路52を介してその上端部にヒータ24が設けられた第1熱分解空間40に導入して熱分解し、
熱分解された前記第1処理対象物質Xを、第1連絡路48を介して第2熱分解空間42の上端部に導入するとともに、第2処理対象物質導入路54を介して前記第2処理対象物質Yを前記第2熱分解空間42の下端部に導入し、
熱分解された前記第1処理対象物質X、および同物質Xと前記第2熱分解空間42の上端部で混合された第2処理対象物質Yを、前記第2熱分解空間42の上端部から第2連絡路50を介して第3熱分解空間44の上端部に導入し、前記第2処理対象物質Yを前記第3熱分解空間44で熱分解する熱分解方法」である。
【0028】
この熱分解方法によれば、第1処理対象物質Xが熱分解される途中で生成される中間生成物質と第2処理対象物質Yとが爆発的に反応する性質を有している場合において、万一、第1熱分解空間40における第1処理対象物質Xの熱分解によって生成された中間生成物質が第2熱分解空間42に流入したとしても、第2処理対象物質導入路54を通じて第2熱分解空間42の下端部に導入された第2処理対象物質Yは、同空間42内を上昇し、その上端部において初めて熱分解後の第1処理対象物質Xと合流するようになっているので、当該中間生成物質は、第2処理対象物質Yと合流するまでの間に第1熱分解空間40からの余熱によって完全に熱分解されることとなり、中間生成物質と第2処理対象物質Yとが混ざり合う可能性を極小化することができる。
【0029】
さらに、第1処理対象物質Xを完全に熱分解することにより、第2処理対象物質Yの熱分解に使用される物質が生成されることから、完全に熱分解された第1処理対象物質Xを第2熱分解空間42で第2処理対象物質Yに混合させることにより、当該第2処理対象物質Yの熱分解に必要な物質を外部から別途供給することなく、少なくとも第3熱分解空間44で第2処理対象物質Yを熱分解することができる。
【0030】
この場合において、第1、2処理対象物質X、Yをそれぞれ熱分解することにより、回収の対象となる同一の「有用成分」が生成されることにより、上述のように、当該「有用成分」の回収再利用が容易になる(請求項5)。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、「第1処理対象物質が完全に熱分解される途中で生成される中間生成物質が第2処理対象物質と爆発的に反応する性質を有しており、かつ、第2処理対象物質は、第1処理対象物質を完全に熱分解することによって生成される物質の一部と反応して熱分解される」という条件を満たす2種類の処理対象物質を安全かつ安定的に継続して効率的に熱分解することができた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明が適用された熱分解装置を示す断面図である。
【図2】本発明が適用された熱分解装置を示す、図4および図5のI−I矢視による断面図である。
【図3】本発明が適用された熱分解装置を示す、図4および図5II−II矢視による断面図である。
【図4】本発明が適用された熱分解装置を示す、図2および図3のIII−III視による断面図である。
【図5】本発明が適用された熱分解装置を示す、図2および図3のIV−IV矢視による断面図である。
【図6】本発明が適用された熱分解装置を示す、図2および図3のV−V矢視による断面図である。
【図7】第1処理対象物質気化促進装置を示す、図4VI−VI矢視による図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明が適用された熱分解装置10について、図1〜図6を用いて説明する。図1は、本実施例の熱分解装置10内における3つの熱分解空間40、42、44と、第1処理対象物質Xおよび第2処理対象物質Yの流れとの関係の理解を容易にすることを目的として、当該熱分解空間40、42、44を横一列に並べて描いたものであり、本実施例の熱分解装置10(図2〜図6)とは、例えば、第1処理対象物質導入管16の挿入方向等が異なっている。
【0034】
なお、本明細書では、各部位の符号に関し、上位概念で示す場合には、アルファベットの枝番をつけずアラビア数字のみで示し、各部位を区別する必要がある場合(すなわち下位概念で示す場合)にはアルファベットの枝番をアラビア数字に付して区別する。
【0035】
熱分解装置10は、大略、炉体12と、隔壁14と、第1処理対象物質導入管16および第2処理対象物質導入管18と、キャリアガス導入管22と、ヒータ24と、排ガス排出管26と、第1処理対象物質気化促進装置28とで構成されている。
【0036】
炉体12は、ステンレス等で形成された金属製のケーシング30と、当該ケーシング30の内側面に形成され、内部空間32を有する耐火断熱材34とで構成されている。本実施例において、耐火断熱材34は、内部空間32を囲繞する耐火レンガ36と、当該耐火レンガ36を囲繞するようにして設けられた断熱ボード38とで構成されているが、耐火断熱材34はこのような構成に限られず、キャスタブル材のみを用いた単層としてもよいし、他の材料を使用してもよい。
【0037】
隔壁14は、耐火断熱材34に使用されているものと同じ耐火レンガが使用され、炉体12の内部空間32を区画するためのものであり、本実施例では、2枚の隔壁14a、14bによって、当該内部空間32が互いに独立した3つの熱分解空間40、42、44に区画されている。
【0038】
また、両隔壁14a、14bの上端部には、それぞれ連通孔46a、46bが形成されており、隔壁14aに形成された連通孔46aが、第1熱分解空間40と第2熱分解空間42とを互いに連通する第1連絡路48となり、また、隔壁14bに形成された連通孔46bが、第2熱分解空間42と第3熱分解空間44とを互いに連通する第2連絡路50となる。
【0039】
第1処理対象物質導入管16は、第1処理対象物質Xを第1熱分解空間40に導入するためのパイプであり、その一端が第1処理対象物質Xを供給する装置等(図示せず)に接続されており、他端が炉体12を斜め下向きに貫通して第1熱分解空間40における下端部に接続されている。この第1処理対象物質導入管16の内部が第1処理対象物質導入路52となる。
【0040】
第2処理対象物質導入管18は、第2処理対象物質Yを第2熱分解空間42に導入するためのパイプであり、その一端が第2処理対象物質Yを供給する装置等(図示せず)に接続されており、他端が炉体12を貫通して第2熱分解空間42における下端部に接続されている。この第2処理対象物質導入管18の内部が第2処理対象物質導入路54となる。
【0041】
キャリアガス導入管22は、第1処理対象物質Xや第2処理対象物質Y、あるいはこれら物質X、Yを含む処理対象ガスの供給量が少ないことから、各熱分解空間40、42、44内で所定の流速が得られないような場合において、キャリアガス(例えば、窒素等の不活性ガス)Zを各熱分解空間40、42に導入するため、必要に応じて設けられる管である。本実施例では、第1処理対象物質導入管16の下方、および第2処理対象物質導入管18の下方にそれぞれキャリアガス導入管22が設けられ、第1熱分解空間40および第2熱分解空間42にキャリアガスZを導入できるようになっている。
【0042】
ヒータ24は、第1処理対象物質Xや第2処理対象物質Yを熱分解可能な温度まで第1熱分解空間40および第3熱分解空間44を昇温するためものであり、本実施例では、図示しない給電線を介して給電される電気式シーズヒータが使用されている。本実施例のヒータ24は、回路等が収容された本体部24aと、当該本体部24aから下方に延出する一対のヒータ部24bとで構成されており、第1熱分解空間40に対して2セット、第3熱分解空間44に対して2セット、さらに、第2熱分解空間42に対して1セットのヒータ24が、炉体12の上面から各熱分解空間40、42、44の上端部に挿設されている。
【0043】
なお、ヒータ24は本実施例のような電気式シーズヒータに限定されず、他の種類の電気ヒータでもよいし、大気圧プラズマや燃料式バーナー等の電気とは異なる熱源を利用してもよい。
【0044】
排ガス排出管26は、完全に熱分解された後の、第1処理対象物質Xおよび第2処理対象物質Yを第3熱分解空間44から排出するためのパイプであり、その一端が炉体12を貫通して第3熱分解空間44における下端部に接続されており、他端が排出先に接続されている。この排ガス排出管26の内部が排ガス排出路56となる。
【0045】
第1処理対象物質気化促進装置28は、液体あるいは固体の第1処理対象物質Xが第1処理対象物質導入路52介して第1熱分解空間40に供給される場合等において、必要に応じて設けられる装置であり、本実施例では、セラミックパイプを半割りにして形成された樋58と、当該樋58を第1熱分解空間40の底面から離れた位置に保持する、耐火レンガで形成された樋保持台60とで構成されている。
【0046】
樋58は、図7に示すように、第1熱分解空間40における第1処理対象物質導入管16の他端の直下において、その内側面を上向きにして配設されている。また、樋58は、第1熱分解空間40における第1処理対象物質導入管16が接続された内側面から当該内側面の対向面にかけて配設されている。これにより、液体あるいは固体として第1処理対象物質導入管16から導入された第1処理対象物質Xは樋58の上に溜まり、溜まった第1処理対象物質Xは、上端部のヒータ24からの輻射熱等を受けることにより昇温して気化が促進される。また、当該樋58によれば、液体あるいは固体として導入された第1処理対象物質Xは第1熱分解空間40の底面に落下してしまい、最悪の場合、炉体12(本実施例では、耐火レンガ36)の内面を損傷させてしまうのを回避することができる。
【0047】
本実施例の熱分解装置10を用いて、「第1処理対象物質Xが完全に熱分解される途中で生成される中間生成物質が、第2処理対象物質Yと爆発的に反応する性質を有している。」といった2種類の処理対象物質X、Yを安全かつ安定的に継続して熱分解する手順について説明する。
【0048】
本実施例では、シリコンウエハのプラズマエッチングに使用されるNF3を製造する工程において副生物質として生成されるABF[NH4HF2]を第1処理対象物質Xとし、目的物質であるNF3を第2処理対象物質Yとする。なお、第2処理対象物質Yには、同じ工程で生成されるN2Oも含まれている。
【0049】
ABFを熱分解すると、式1および式2に示すように、最初にフッ化水素(以下、「HF」という。)と中間生成物質であるNH3とに分解され(式1)、然る後、NH3が窒素と水素とに分解される(式2)。この中間生成物質(=NH3)は、高温下で第2処理対象物質YのNF3と爆発的に反応する性質を有している。
NH4HF2 → NH3+2HF (式1)
2NH3 → N2+3H2 (式2)
【0050】
一方、第2処理対象物質Yに含まれるNF3およびN2Oは、第1処理対象物質X(=ABF)を完全に分解することによって生成されるH2を使用して熱分解される(式3および式4)。
2NF3+3H2 → 6HF+N2 (式3)
2O+H2 → N2+H2O (式4)
【0051】
最初に、熱分解装置10の各ヒータ24に給電することによって各ヒータ24を発熱させ、各熱分解空間40、42、44の温度を1200℃まで昇温する(第2熱分解空間42にヒータ24を設けない場合には、同空間42を1200℃まで昇温させる必要はない。)。
【0052】
また、第1処理対象物質X(=ABF)は、融点が約125℃、沸点が約240℃であり、常温では固体である。このため、第1処理対象物質導入管16の一端には固体のABFを連続的あるいは断続的に供給するABF供給装置(図示せず)が設けられており、さらに、第1処理対象物質導入管16にはABF加熱用ヒータ(図示せず)が取り付けられ、ABF供給装置から供給された固体のABFを第1処理対象物質導入管16内で溶融し、液状のABFを第1熱分解空間40に設けられた第1処理対象物質気化促進装置28の樋58に滴下できるようになっている。各ヒータ24への給電開始と同時に、ABF加熱用ヒータにも給電を開始する。ABF加熱用ヒータは、例えば400℃に設定されており、一部のABFは第1処理対象物質導入管16内(=第1処理対象物質導入路52)で気化することになる。なお、この場合、図示するように、第1処理対象物質導入管16を断熱キャスタブルで包み込んで、第1処理対象物質導入路52を保温することが好適である。
【0053】
昇温が完了すると(あるいは昇温中でもよい)、各キャリアガス導入管22を通じて第1熱分解空間40および第2熱分解空間42にキャリアガス(=N2)の供給を開始し、各熱分解空間40、42、44にキャリアガスZを充満させた後、第1処理対象物質Xおよび第2処理対象物質Yの供給を開始する。
【0054】
第1処理対象物質導入管16内(=第1処理対象物質導入路52)を通ったABFは、上述のように、その一部が気化し、残部が液化した状態で第1熱分解空間40に導入される。液状のABFは、第1処理対象物質気化促進装置28の樋58に滴下した後、ヒータ24からの輻射熱等を受けて気化し、第1処理対象物質導入管16の下方に設けられたキャリアガス導入管22からのキャリアガスZとともに(第1処理対象物質導入路52で先に気化したものも含めて)第1熱分解空間40内を上昇し、最も温度が高いヒータ24付近を通過することによって完全に(つまり、N2とH2とに)熱分解される。
【0055】
その後、N2とH2とは、第1連絡路48を通って第2熱分解空間42の上端部に入り、ここで、第2処理対象物質導入管18内(=第2処理対象物質導入路54)を通って第2熱分解空間42に導入され、キャリアガスCとともに同空間42内を上昇してきたNF3およびN2O(=第2処理対象物質Y)と混ぜ合わされた後、第2連絡路50を通って第3熱分解空間44の上端部に導入される。なお、本実施例では、第2熱分解空間42の上端部にもヒータ24が設けられているので、上述のように第3熱分解空間44に入る前の段階で、ABFが分解することによって生成されたH2と反応して、一部のNF3やN2Oが分解されることも考えられる。
【0056】
第3熱分解空間44の上端部に導入されたNF3およびN2Oは、上述のようにABFが分解することによって生成されたH2と反応して、式3および式4に示すように、HF、N2、H2Oに分解される。ABF、NF3およびN2Oが分解することによって生成されたHF、N2、H2O、H2等は、第3熱分解空間44の下端部に接続された排ガス排出管26内(=排ガス排出路56)を通って系外へ排出される。
【0057】
なお、本実施例のように、第1、2処理対象物質X、YであるABFおよびNF3を熱分解すると、それぞれからHFが生成されて、HFを多量に含む排ガスを排出することになるので、排ガス排出管26の他端にHF回収装置(図示せず)を取り付けることにより、高濃度のHFを回収することができる。本実施例の熱分解装置10とHF回収装置とを組み合わせてHF回収設備としてもよい。
【0058】
以上のように、本実施例の熱分解装置10によれば、第1処理対象物質X(=ABF)は熱分解される途中で生成される中間生成物質(=NH3)と、第2処理対象物質Y(=NF3)とが爆発的に反応する性質を有しているが、第1熱分解空間40において第1処理対象物質Xを完全に熱分解した後、第2熱分解空間42で第2処理対象物質Yと混合するようにしており、中間生成物質と第2処理対象物質Yとが混ざり合う可能性を低減することができるので、2種類の処理対象物質X、Yを安全かつ安定的に継続して熱分解することができる。もちろん、本発明は上記の例に限定されるものではない。
【0059】
また、本実施例の熱分解装置10では、少なくとも、第1熱分解空間40および第3熱分解空間44の上端部にヒータ24が配設されていることから、両空間40、44の上端部が高温領域になっている。そして、第1処理対象物質導入路52が第1熱分解空間40の下端部に接続されているとともに、第1連絡路48が同空間40の上端部と第2熱分解空間42の上端部とを互いに連絡している。
【0060】
これにより、第1熱分解空間40に導入された第1処理対象物質Xは、同空間40内の高温領域に向けて上昇しながら温度が高められることによって熱分解を促進させ、当該高温空間を通り抜けることによって完全に熱分解されてから、第2熱分解空間42に入ることになる。
【0061】
また、第1連絡路48および第2連絡路50がともに第2熱分解空間の上端部に接続されていることから、第2熱分解空間42に導入された、熱分解後の第1処理対象物質X(すなわち、N2、H2およびHF)は、同空間42の上端部を通過して第2連絡路50に入り、その一方で、第2熱分解空間42の下端部に導入された第2処理対象物質Yは、同空間42内を上昇し、その上端部において初めて熱分解後の第1処理対象物質Xと合流するようになっている。
【0062】
このため、第2熱分解空間42に導入された、熱分解後の第1処理対象物質Xは、導入後直ちには第2処理対象物質Yと混合しないので、万一、第1処理対象物質Xの熱分解によって生成された中間生成物質(=NH3)が第2熱分解空間42に流入したとしても、当該中間生成物質は、第2処理対象物質Yと合流するまでの間に第1熱分解空間40からの余熱によって完全に熱分解されるので、該中間生成物質と第2処理対象物質Yとが混ざり合う可能性をさらに低くすることができる。
【0063】
さらに、熱分解後の第1処理対象物質Xと合流した第2処理対象物質Yは、第2連絡路50を通って第3熱分解空間44の上端部に導入され、同空間44の下端部に接続された排ガス排出路56に向かって第3熱分解空間44を上から下に通流するようになっており、この間にヒータ24からの熱で完全に熱分解された後、排ガス排出路56を通って系外に排出される。
【0064】
さらに、第1処理対象物質Xを完全に熱分解することにより、第2処理対象物質Y(=NF3およびN2O)の熱分解に使用される物質(=H2)が生成されることから、完全に熱分解された第1処理対象物質Xを第2熱分解空間42で第2処理対象物質Yに混合させることにより、当該第2処理対象物質Yの熱分解に必要な物質を外部から別途供給することなく、少なくとも第3熱分解空間44で第2処理対象物質Yを熱分解することができる。
【0065】
なお、本実施例では、炉体12の内部空間32を隔壁14で仕切ることによって3つの熱分解空間40、42、44を形成しているが、これに代えて、内部空間を有しており、互いに独立した3つの炉体を用意し、これら炉体の内部空間を各熱分解空間40、42、44として、順にダクト等(その内部が第1連絡路および第2連絡路となる。)を用いて連通させることにより、熱分解装置10を構成してもよい。
【符号の説明】
【0066】
X …第1処理対象物質
Y …第2処理対象物質
Z …キャリアガス
10…熱分解装置
12…炉体
14…隔壁
16…第1処理対象物質導入管
18…第2処理対象物質導入管
22…キャリアガス導入管
24…ヒータ
24a…本体部
24b…ヒータ部
26…排ガス排出管
28…第1処理対象物質気化促進装置
30…ケーシング
32…内部空間
34…耐火断熱材
36…耐火レンガ
38…断熱ボード
40…第1熱分解空間
42…第2熱分解空間
44…第3熱分解空間
46…連通孔
48…第1連絡路
50…第2連絡路
52…第1処理対象物質導入路
54…第2処理対象物質導入路
56…排ガス排出路
58…樋
60…樋保持台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解される途中で生成される中間生成物質が第2処理対象物質と爆発的に反応する性質を有する第1処理対象物質、および
前記第1処理対象物質を完全に熱分解することによって生成される物質の一部と反応して熱分解される前記第2処理対象物質を熱分解する熱分解装置であって、
互いに独立した3つの熱分解空間と、
少なくとも、前記第1熱分解空間の上端部、および前記第3熱分解空間の上端部に設けられたヒータと、
前記第1熱分解空間の上端部、および前記第2熱分解空間の上端部を連通する第1連絡路と、
前記第2熱分解空間の上端部、および前記第3熱分解空間の上端部を連通する第2連絡路と、
前記第1処理対象物質を前記第1熱分解空間に導入する第1処理対象物質導入路と、
前記第2処理対象物質を前記第2熱分解空間の下端部に導入する第2処理対象物質導入路と、
前記第3熱分解空間から処理済み排ガスを系外へ排出する排ガス排出路とを有する熱分解装置。
【請求項2】
前記第1、2処理対象物質を熱分解することにより、回収の対象となる同一の有用成分が生成されることを特徴とする請求項1に記載の熱分解装置。
【請求項3】
前記第1処理対象物質は、液体あるいは固体であって、
前記第1熱分解空間の下端部には、前記第1処理対象物導入路から導入された前記第1処理対象物質を受ける樋を有する第1処理対象物気化促進装置が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱分解装置。
【請求項4】
熱分解される途中で生成される中間生成物質が、第2処理対象物質と爆発的に反応する性質を有する第1処理対象物質、および
前記第1処理対象物質を完全に熱分解することによって生成される物質の一部と反応して熱分解される前記第2処理対象物質の熱分解方法であって、
前記第1処理対象物質を、第1処理対象物質導入路を介してその上端部にヒータが設けられた第1熱分解空間に導入して熱分解し、
熱分解された前記第1処理対象物質を、第1連絡路を介して第2熱分解空間の上端部に導入するとともに、第2処理対象物質導入路を介して前記第2処理対象物質を前記第2熱分解空間の下端部に導入し、
熱分解された前記第1処理対象物質、および同物質と前記第2熱分解空間の上端部で混合された第2処理対象物質を、前記第2熱分解空間の上端部から第2連絡路を介して第3熱分解空間の上端部に導入し、前記第2処理対象物質を前記第3熱分解空間で熱分解する熱分解方法。
【請求項5】
前記第1、2処理対象物質を熱分解することにより、回収の対象となる同一の有用成分が生成されることを特徴とする請求項4に記載の熱分解方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−96190(P2012−96190A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247497(P2010−247497)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(592010106)カンケンテクノ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】