説明

熱動引き外し装置の製造方法および熱動引き外し装置

【課題】従来の熱動引外し装置では、製造の際の組み込み工程、または組み込み工程の後にワーク搬送において調整機構の調整子が脱落する可能性があり、調整子の取り上げ及び調整子の再取り付けが、困難となる問題があった。
【解決手段】前記バイメタル成形工程は、前記第一系合穴から所定距離離れた位置に第二係合穴を設け、前記第一係合穴と前記第二係合穴との間に軸を形成し、
前記系合工程は、前記案内溝に前記弓状部を嵌め込み、熱動引き外し装置の一部を変形させることによって前記軸に前記調整子を回転可能に係合させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノーヒューズ遮断器等の機器における熱動引きはずし装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の熱動引き外し装置では、引き外し機構の作動点、すなわち、バイメタルがトリップバーを押す位置が、引きはずし機構を構成する各部品の加工、組立誤差、材料特性のばらつき等、製造ばらつきの累積によりばらついて、遮断器の遮断時間にばらつきが生じてしまう。そこで、このような製造ばらつきを吸収するために、バイメタルの先端に調整機構を取り付け、調整機構によりバイメタル先端からトリップバーまでの距離(ギャップ)を調整するようにしている(例えば、特許文献1。)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−15006号公報(段落〔0021〕−〔0023〕、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の熱動引外し装置では、製造の際の組み込み工程、または組み込み工程の後にワーク搬送において調整機構の調整子が脱落する可能性がある。組み込み後に調整子が脱落すると、調整子の取り上げ及び調整子の再取り付けが、困難となる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る熱動引き外し装置の製造方法は、端部に案内溝が設けられて前記案内溝から所定距離離れた位置に第一係合穴が設けられたバイメタルを成形するバイメタル成形工程、前記バイメタルの変形によってトリップバーに当接する当接部と一方の端に前記バイメタルに係合する鉤状部と他方の端に前記案内溝内を摺動する弓状部とを有する調整子を成形する調整子成形工程、前記バイメタルに前記調整子を係合させる係合工程を備えた熱動引き外し装置の製造方法において、前記バイメタル成形工程は、前記第一系合穴から所定距離離れた位置に第二係合穴を設け、前記第一係合穴と前記第二係合穴との間に軸を形成し、前記系合工程は、熱動引き外し装置の一部を変形させることによって、前記軸に前記調整子を回転可能に係合したものである。
【0006】
また、この発明に係る熱動引き外し装置は、端部に案内溝、および前記案内溝から所定距離離れた位置に第一係合穴が形成されたバイメタルと、前記バイメタルの変形によってトリップバーに当接する当接部、一方の端に前記バイメタルに係合する鉤状部、および他方の端に前記案内溝内を摺動する弓状部が形成された調整子とを備えた熱動引き外し装置において、前記バイメタルは、前記第一係合穴から所定距離離れた位置に第二係合穴を有し、前記第一係合穴と前記第二係合穴との間に軸が形成され、前記調整子は、熱動引き外し装置の一部を変形させることによって、前記軸に回転可能に前記バイメタルに係合されたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、バイメタルに調整子を組付けた状態にて調整子の脱落の可能性が低いため、熱動引きはずし装置単体で調整子を組み付けた後に熱動引きはずし装置をベースに取り付けることができる。よって、ベース組込み等によるバイメタルの取り付け位置などにばらつきがあったとしても、簡易な装置で容易に組み付けが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における熱動引きはずし装置の断面図を示すものである。図1(A)において、熱動引き外し装置は、バイメタル11と、このバイメタル11に回転可能に係合された調節子12とを有する。
【0009】
バイメタル11は、熱膨張率が異なる2枚の金属板を貼り合わせた板状部材を打ち抜いて短冊形状に形成される。バイメタル11は、一端に案内溝11aが形成され、案内溝11aからバイメタル11の長手方向に所定の間隔をおいて第一係合穴11bが形成され、第一係合穴11bに対して案内溝11aと反対側に所定の間隔をおいて第二係合穴11cが形成されている。第一係合穴11bと第二係合穴11cとの間のバイメタルは、軸として機能する。
【0010】
調整子12は、バイメタル11の係合穴11bと係合穴11cとの間の板を軸にして、回転可能に係合されている。また、調整子12は、一方の端にバイメタル11の係合穴11bと係合する鉤状部12bが、他方の端にバイメタル11の案内溝11a内を摺動する弓状部12aが、形成されている。鉤状部12bの先端には、バイメタル11の厚さより隙間の間隔が小さく形成された突起部12cが形成されている。ただし、突起部12cの間隔は、弾性変形によって広がった状態で、バイメタル11の板厚と同じまたは、板厚より広く出来る間隔である。
【0011】
図1(B)は、バイメタル11に調整子12を係合させ、バイメタル11の板厚方向が水平で、案内溝11aが鉛直上側になるように固定した時の状態を表した断面図である。バイメタル11に調整子12を係合するとき、調整子12の突起部12cが、まず、弾性変形によって開口して、バイメタル11の固定穴11cとの間の板を挟み、さらに固定穴11c側に進んで、固定穴11に嵌り込む。このようにして、調整子12の鉤上部12bが、係合穴11bと固定穴11cとの間の板に係合する。
【0012】
一旦、鉤状部12が係合すると、突起部12cの先端の間隔は、バイメタル11の板厚以下となるから、調整子12は、バイメタル11から外れ難い状態となり、調整子12が脱落するのを防止できる。
【0013】
また、調整子12は、弓状部12aの先端に係止部12dを形成しても良い。係止部12dは、鉤状部12bがバイメタル11に係合した状態(図1(B)の状態)で、調節子12が軸周り(図1(B)にて時計回りに)に回転すると、案内溝11aの周囲のバイメタル11に当接する。係止部12dが当接することによって、さらに調節子12が回転して、弓状部12aが案内溝11aから外れるのを防止する。
【0014】
熱動引き外し装置は、通電電流等によってバイメタル11が高温になると、線膨張係数の違いからバイメタル11に反りが生じる。この反りによる変位によってトリップバーに当接し、当接したことを契機としてトリップバーに電流遮断等の動作を行わせる。調整子12は、熱動引き外し装置がトリップバーに当接することでトリップバーに動作を行わせる電流を所定値にするために、トリップバーと調整子12との距離が調節されている。なお、調節子12のトリップバーと当接する部分を当接部と呼ぶ。
【0015】
距離調節するには、まず、本体ケースに熱動引き外し装置とトリップバーを組付け、熱動引き外し装置にトリップバーに動作させるための所定値の電流を通電する。次に、所定値の電流によりバイメタル11の温度が上昇して、熱動引き外し装置が変位している状態で、調整子12の当接部がトリップバーに当接する位置に回転させ、当該位置で調整子12とバイメタル11とを固定する。固定には、弓状部12bと案内溝11aとを溶接するなどして行う。溶接の他、接着材による固定でも良い。
【0016】
バイメタル11の板を垂直に保持すると、調整子12は、係止部12dがバイメタル11に当接することによって、図1(B)の位置から図中の時計回りに回転した状態になる。図1(B)の場合は、バイメタル11は、電流が流れて高温になると上部(案内溝11a側)が時計回り方向に移動する方向に反る。上記溶接などにより調整子11を固定するまでは、調整子12は、トリップバーに当接しても、軸部11dを中心に図1(B)の図で反時計回りに回転する。所定値の電流を通電した状態の調整子12の位置で、弓状部12aと案内溝11aとが固定される。
【0017】
調整子12がバイメタル11に固定されると、所定電流以上の電流がバイメタルを流れてバイメタル11が変形した場合、調整子12の当接部が、トリップバーを押し、トリップバーに電流遮断等の動作を行わせる。
【0018】
次に、本実施の形態の熱動引き外し装置の製造方法について、以下工程に分けて説明する。
【0019】
(1)バイメタル成形工程
バイメタル成形工程は、図4のバイメタル11の形状を成形する。図4は、バイメタル11の全体形状の正面図と側面断面図を表したものである。板状のバイメタル11に対して、上部に案内溝11aが成形される。また、案内溝11aから所定距離離れた位置に、第一係合穴11bが成形される。ここで所定距離とは、調整子12の弓状部12aと鉤状部12cとの間の距離より小さい距離にする必要がある。少なくとも弓上部12aと鉤状部12cの間の空間内に案内溝11aと第一係合穴の間のバイメタルの板が納まる必要があるからである。
【0020】
さらに、第一係合穴11bから軸の径に相当する距離離れた位置に第二係合穴11cが成形されている。第一係合穴11bと第二係合穴11cとによって、これらの穴の間に軸形状が形成される。軸の径に相当する距離として、バイメタル11の板厚をとると、軸断面形状が正方形となり、軸として好適である。
【0021】
(2)調整子成形工程
調整子12の成形工程は、バイメタル11の変形によってトリップバーに当接する当接部12dが成形される。当接部12dの一方の端にバイメタル11に係合する鉤状部12cが、他方の端に案内溝11aを摺動する弓状部12aが成形される。鉤状部12bは、バイメタル11の軸11d周りに回転できる大きさとする。また、鉤状部12bの両先端には、突起部12cが成形される。突起部12c間の間隔は、バイメタル11の板厚より小さく、広げて弾性変形するとバイメタル11の板圧より大きくなる間隔に設定する。また、弓状部12aの先にバイメタル11と当接する係止部12eを設けても良い。
【0022】
(3)係合工程
係合工程は、案内溝11aに弓状部12aを摺動させる位置に調整子12を位置決めするとともに、熱動引き外し装置の一部を変形させることによって、軸11dに調整子12の鉤状部12cを係合させる。軸11dに鉤状部12cが係合すると調整子12は、軸11dを中心に回転可能となる。なお、温度上昇によりバイメタル11が曲がると、調整子12は、係合穴を中心にして上記案内溝11a内を摺動することにより、バイメタル11が曲がりにより変位した方向と逆方向に回転可能なように形成される。
【0023】
具体的には、調整子12の鉤状部12bをバイメタル11の軸11dに押し込む。このとき突起部12cは、軸11dを挟むように弾性変形した後、さらに調整子12を押し込むと、鉤状部12b及び突起部12cの内側に軸11dが入り込む。この状態では、鉤状部12bおよび突起部12cは、弾性変形する前の形状に戻り、突起部12cの間隔は、バイメタル11の板厚より小さくなる。このため、鉤状部12bが軸11dに係合し、軸11d周りに回転可能となる。同時に、調整子12は、軸11dから外れるのを防止する効果がある。
【0024】
(4)調整子固定工程
まず、調整子固定工程は、上記の熱動引き外し装置を対象製品の本体ベースに組み込む。この際、調整子12は、バイメタル11から外れないため、移動、組み立ての作業をスムーズに行うことができる。
【0025】
次に、バイメタル11に所定の電流を流すなどして、バイメタル11を所定の温度に設定する。すると、バイメタル11は、表裏の線膨張係数の違いにより曲がる。バイメタル11が曲がると、調整子12の当接部12dがトリップバーに当接して調整子12がバイメタル11の曲がりによる変位方向と逆方向に回転する。調整子12が回転した状態で、案内溝11aと弓状部12aとを溶接で固定される。
【0026】
以上により製造された本実施の形態の熱動引き外し装置は、製品に組み込まれている。製品に組み込まれた状態で、バイメタル11に所定の電流が流れるなどして、バイメタル11が所定の温度になると、バイメタル11が曲がり、調整子12の当接部12dがトリップバーに当接する。調整子12は、バイメタル11に固定されているので、トリップバーを押し、上記製品がトリップされ、機能を果たす。このとき、上記調整子固定工程で本体ベースに熱動引き外し装置を取り付けた状態で、バイメタル11を所定温度にして固定するため、本体ベース、熱動引き外し装置の製造上の誤差、取り付け誤差があっても、調整子12によって、高精度に調整できる効果がある。
【0027】
本実施の形態によれば、突起部12cの先端の間隔をバイメタル11の板厚以下であって、弾性変形して板厚まで広がる間隔にしたから、バイメタル11に調整子12を組付けた状態にて調整子12の脱落の可能性が低くなる。よって、熱動引外し装置単体で調整子12を組付けた後に、熱動引外し装置を本体ベースに取り付けることができ、本体ベース取り付け後に、調整子12を組付ける困難さが解消される。
【0028】
また、本実施の形態によれば、調整子12の弓状部12aの先端に係止部12dを設けたので、弓状部12aが案内溝11aから外れるのを防止することができる。よって、バイメタル11に調整子12を組付けた後に、熱動引外し装置を本体ベースに取り付けても、弓状部12aが案内溝11aから外れない。したがって、調整子12の弓状部12aを案内溝11aに挿入する工程が不要となる効果がある。
【0029】
実施の形態2.
実施の形態1では、突起部12cの先端の間隔をバイメタル11の板厚以下であって、弾性変形してバイメタル11の板厚まで広がる間隔にするように構成したが、突起部12cの間隔をバイメタル11の板厚以上として形成し、バイメタル11に係合後、突起部12cの間隔をバイメタル11の板厚以下に塑性変形させるように構成しても良い。この場合、係合前の突起部12cの間隔を大きく取れるため、バイメタル11に調整子12を係合させやすい。また、係合後の突起部12cをペンチ等の工具により塑性変形させて突起部12cの先端の間隔を小さくできるので、組付け作業がしやすく、かつ調整子12がバイメタル11から脱落するのを確実に防止することができる。
【0030】
図2は、本実施の形態における熱動引き外し装置の断面図である。図2(A)は、熱動引き外し装置の組立て前の状態を説明する図である。図において、熱動引き外し装置は、バイメタル11と、このバイメタル11に回転可能に係合させる調節子12とを有する。
【0031】
バイメタル11は、実施の形態1と同様に熱膨張率が異なる2枚の金属板を貼り合わせた板状部材を打ち抜いて短冊形状に形成される。バイメタル11には、実施の形態1と同様の案内溝11a、第一係合穴11b、第二係合穴11cが形成され、第一係合穴11bと第二係合穴11cとの間のバイメタルは、軸として機能する。
【0032】
調整子12は、バイメタル11の係合穴11bと係合穴11cとの間の板を軸にして、回転可能に係合さるものである。また、調整子12は、実施の形態1と同様に、一端側に鉤状部12bが、他端側にバイメタル11の案内溝11a内を摺動する弓状部12aが形成されている。鉤状部12bの先端には、組立て前の状態において、バイメタル11の第一係合穴11bと第二係合穴11cとの間のバイメタル11の厚さより大きい隙間を有する突起部12cが形成されている。また、上記実施の形態と同様に、調整子12は、弓状部12aの先端に係止部12dを形成しても良い。
【0033】
図2(B)は、バイメタル11に調整子12を組付けた後の状態を示す図である。図において、鉤状部12bがバイメタル11の軸部11dに係合している。係合するときには、調整子12の突起部12cは、バイメタル11の第一係合穴11bと第二係合穴11cとの間のバイメタルを越えて、鉤上部12bが係合した後、突起部12cの両側をペンチにより挟んで塑性変形され、突起部12cの先端の間隔がバイメタル11の板厚より小さくされている。なお、突起部12cの先端の距離を0にすることもできる。上記塑性変形によって、鉤状部12bおよび突起部12cが、バイメタル11の第一係合穴11bと第二係合穴11cとの間の軸部11dを挟み、バイメタル11に嵌り込む。これによって、調整子12は、バイメタル11の軸部11dを中心に回転可能に係合し、かつ、調整子12のバイメタル11からの脱落を防止できる。
【0034】
(製造方法)
基本的には、実施の形態1の熱動引き外し装置の製造方法の(1)、(4)と同じ方法を本実施の形態の熱動引き外し装置に用いることができる。(1)のバイメタル成形工程は、図4の形状を成形する。ただし、本実施の形態では、調整子12の形状が異なるため、上記成形工程(2)は、一部異なり、また、(3)係合工程も一部異なる。以下、異なる点について説明する。
【0035】
(2)の調整子成形工程は、当接部12dおよび鉤状12c部は上記実施の形態1と同様である。ただし、鉤状部12bの両先端の突起部12c間の間隔が異なる。突起部12c間の間隔は、バイメタル11の板厚より大きくして、第一係合穴11bと第二係合穴11cとの間のバイメタル11が十分通過できるようにする。
【0036】
(3)の係合工程は、案内溝11aに弓状部12aを摺動させる位置に調整子12を位置決めするとともに、熱動引き外し装置の一部を変形させることによって、軸11dに調整子12の鉤状部12cを係合させる点で、実施の形態1と同様である。ただし、具体的には、調整子12の鉤状部12bをバイメタル11の軸11dに押し込むが、突起部12c間の間隔が軸11dの幅より広いため、突起部12bを変形させる必要がない点で異なる。そのままでは、鉤状部12bが軸11dから外れるため、突起部12bの間隔を狭くするように、ペンチなどの工具を使って塑性変形させる。塑性変形後の突起部12b間の間隔は、軸11dの幅以下で、0であっても良い。
【0037】
上記の工程の後、(4)の調整子固定工程が行われる。調整子固定工程にて、熱動引き外し装置を本体ベースに組み込む際、調整子12がバイメタル11から外れないため、異動、組み立ての作業をスムーズに行うことができる。また、製品としても、所定の電流等によってトリップする機能を果たす。
【0038】
本実施の形態によれば、突起部12cの先端間の間隔を軸11dの幅より広く成形し、鉤状部12bに、軸11dが嵌り込んだ後、突起部12cの先端間の間隔を狭めるように塑性変形させるので、調整子12が回転可能であり、調整子12がバイメタル11から脱落する可能性が低い。よって、熱動引外し装置単体で調整子12を組付けた後に、熱動引外し装置を本体ベースに取り付けることができ、本体ベース取り付け後に、調整子12を組付ける困難さが解消される。
【0039】
また、本実施の形態によれば、突起部12cの先端間の間隔を0となるように塑性変形させると、調整子12がバイメタル11から脱落することが無くなる。これによって、熱動引き外し装置を搬送、本体ベースへの取り付けの際、調整子12を組み付ける困難さを確実に無くすことができる効果がある。
【0040】
実施の形態3.
上記実施の形態では、調整子12の変形により、バイメタル11に調整子12を回転可能に固定したが、バイメタル11を変形させることで行っても良い。本実施の形態では、バイメタル11を塑性変形させることによって、調整子12を回転可能に固定する熱動引き外し装置およびこの製造方法について説明する。
【0041】
図3は、本実施の形態における熱動引き外し装置の断面図である。図3(A)は、熱動引き外し装置の組立て前の状態を説明する図である。図において、熱動引き外し装置は、バイメタル11と、このバイメタル11に回転可能に係合させる調節子12とを有する。
【0042】
バイメタル11は、上記実施の形態と同様に熱膨張率が異なる2枚の金属板を貼り合わせた板状部材(バイメタル)を打ち抜いて短冊形状に形成される。バイメタル11は、一端に開口して掲載される案内溝11a、この案内溝11aとバイメタル11の長手方向に所定の間隔を介して形成される係合穴11b、およびこの係合穴11bの上部端を折り曲げた曲げ部11eが形成されている。また、上記実施の形態と同様に、第一係合穴11bと第二係合穴11cとの間のバイメタルは、調整子12と回転可能に係合する軸11dとして機能する。
【0043】
調整子12は、一端側にバイメタルの係合穴11bと係合する鉤状部12bが形成され、他端側に、軸11dを中心にして回転することで案内溝11a内を摺動する弓状部12aが形成される。
【0044】
図3(A)は、組立て直前のバイメタル11と調整子12の位置関係の例を示している。係合穴11bは、曲げ部11eを曲げた状態で、バイメタル11の長手方向に、調整子12の鉤状部12bを通過させることができる寸法を有する。ただし、係合穴11bは、曲げ部11eを曲げない状態では、鉤状部12bは軸11d周り回転できるだけで、通過することができない寸法である。
【0045】
また、案内溝11aと係合穴11bとの間のバイメタル11の長手方向の寸法は、調整子12の弓状部12aと鉤状部12bとの間の間隔より小さい。これにより、調整子12の弓状部12a及び鉤状部12bに衝突することなく、調整子12の鉤状部12bをバイメタル11の軸部11dに係合させることができる(図3(B))。このとき、調整子12の弓状部12aは、バイメタル11の案内溝11a内を摺動可能な位置に配置される。
【0046】
図3(B)は、調整子12は、バイメタル11に所定の位置にて固定された組み立て後の熱動引き外し装置の断面図である。図において、調整子12の鉤状部12bが軸11dに嵌め込まれた後に、バイメタル11の曲げ部11eが、調整子12の鉤状部12bの上側まで塑性変形により曲げ戻される。曲げ部11eが曲げ戻されると、鉤状部12bは、軸部11d周りに回転できるが、係合穴11bを通過することはできない。これによって、調整子12の上側への動きが規制され、鉤状部12bの軸11dからの脱落が防止される。
【0047】
(製造方法)
基本的には、実施の形態1の熱動引き外し装置の製造方法の同様の方法を本実施の形態の熱動引き外し装置に用いることができる。上記工程(1),(2)及び(3)は、一部異なるが、上記工程(4)は同じである。以下、異なる点について説明する。
【0048】
上記(1)のバイメタル成形工程は、まず、図5(A)のバイメタル11の形状を成形する。バイメタル11の形状は、案内溝11a、第一系合穴11b、第二系合穴11cを有する点で同様である。ただし、第一系合穴11bは、調整子12の鉤状部12bが回転可能に軸部11dに係合する間隔があれば良く、鉤状部12bが通過できない大きさに成形する。
【0049】
次に、バイメタル成形工程は、図5(A)のバイメタル11の形状を成形後、第一系合穴11bの上部に、図に示す切込みをいれ、曲げ部11eを設け、曲げ部11eを90度曲げる。図5(B)は、バイメル11の曲げ部11eを曲げた状態を示す断面図である。図のように曲げ部11eを曲げると、第一系合穴11bのバイメタル11の長手方向の長さが長くなり、調整子12の鉤状部12bが通過できる大きさとなる。
【0050】
また、上記(2)の調整子成形工程は、図3(A)の調整子12を成形する。上記同様に、調整子12の成形工程は、バイメタル11の変形によってトリップバーに当接する当接部12dが成形され、当接12dの一方の端に、バイメタル11に係合する鉤状部12cが、他方の端に案内溝11aを摺どうする弓状部12aが成形される。鉤状部12bは、バイメタル11の軸11d周りに回転できる大きさとする。なお、上記突起部12cは成形せず、鉤状部12bの両先端の間隔は、軸部11dの幅および厚さよりも広いものとする。
【0051】
また、上記(3)の係合工程は、上記同様に案内溝11aに弓状部12aを摺動させる位置に調整子12を位置決めするとともに、第一系合穴11bに鉤状部12bを通過させ、軸11dに調整子12の鉤状部12cを係合させる。軸11dに鉤状部12cが係合すると調整子12は、軸11dを中心に回転可能となる。次に、曲げ部11eを曲げ戻してバイメタル11を曲げる前の状態に変形させる。
【0052】
上記のように曲げ部11eを曲げ戻すと、第一系合穴11bのバイメタル11の長手方向の長さは、鉤状部12bの長さより小さくなる。これによって、鉤状部12bが第一系合穴11bを通過できなくなり、鉤状部12bの図3(B)の上方向への移動を制限できる。このため、曲げ部11eが曲げ戻されたことによって、調整子12がバイメタル11から脱落することを防止できる。
【0053】
上記(4)の調整子固定工程においては、熱動引き外し装置を対象製品の本体ベースに組み込む際、上記実施の形態と同様に、調整子12がバイメタル11から外れることなく、移動、組み立ての作業をスムーズに行うことができる。後の工程は、上記と同様に固定することができる。
【0054】
本実施の形態によれば、バイメタル11に調整子12を組み付けた状態にて、調整子12がバイメタル11から脱落する可能性が低いため、熱動引き外し装置単体で調整子12を組み付けた後に、熱動引き外し装置を本体ベースに容易に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明の実施の形態1を示す熱動引き外し装置の断面図である。
【図2】この発明の実施の形態2を示す熱動引き外し装置の断面図である。
【図3】この発明の実施の形態3を示す熱動引き外し装置の断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1および2を示す熱動引き外し装置のバイメタルの正面図および断面図である。
【図5】この発明の実施の形態3を示す熱動引き外し装置のバイメタルの正面図および断面図である。
【符号の説明】
【0056】
11 バイメタル、11a 案内溝、11b 係合穴、11c 固定穴、11d 軸部、
11e 曲げ部、12 調整子、12a 弓状部、12b 鉤状部、12c 突起部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部に案内溝が設けられて前記案内溝から所定距離離れた位置に第一係合穴が設けられたバイメタルを成形するバイメタル成形工程、
前記バイメタルの変形によってトリップバーに当接する当接部と一方の端に前記バイメタルに係合する鉤状部と他方の端に前記案内溝内を摺動する弓状部とを有する調整子を成形する調整子成形工程、
および前記バイメタルに前記調整子を係合させる係合工程を備えた熱動引き外し装置の製造方法において、
前記バイメタル成形工程は、前記第一系合穴から所定距離離れた位置に第二係合穴を設け、前記第一係合穴と前記第二係合穴との間に軸を形成し、
前記系合工程は、前記案内溝に前記弓状部を嵌め込み、熱動引き外し装置の一部を変形させることによって前記軸に前記調整子を回転可能に係合したことを特徴とする熱動引き外し装置の製造方法。
【請求項2】
調整子成形工程は、鉤状部の両先端に突起部を設け、前記突起部間の間隔がバイメタルの板厚より小さく前記突起部間を広げると弾性変形して前記バイメタルの板厚より大きくなる間隔に成形し、
係合工程は、前記突起部が前記軸を挟むように調整子を押し込み、前記突起部間の間隔が弾性変形によって広げられて前記突起部間が前記軸を挟んだ後、前記軸が前記鉤状部に嵌め込まれることを特徴とする請求項1に記載の熱動引き外し装置の製造方法。
【請求項3】
調整子成形工程は、鉤状部の先に突起部を設け、前記突起部間の間隔がバイメタルの板厚より大きく成形し、
係合工程は、前記軸が前記鉤状部に嵌め込まれた状態で前記バイメタルの板厚より前記突起部の間隔が小さくなるまで前記鉤状部を塑性変形させることを特徴とする請求項1に記載の熱動引き外し装置の製造方法。
【請求項4】
バイメタル成形工程は、鉤状部が通過できない大きさに第一係合穴を成形し、案内溝と前記第一係合穴との間にバイメタルの板を折り曲げる折り曲げ部を設けて鉤状部が通過できる空間を成形し、
調整子成形工程は、鉤状部の先に突起部を設け、前記バイメタルの板厚より大きく前記突起部間の間隔を成形し、
係合工程は、前記鉤状部の一部を前記空間に通して前記鉤状部が前記軸に嵌る位置に調整子を位置決めした状態で前記折り曲げ部を押し戻して前記鉤状部が前記軸からはずれるのを規制したことを特徴とする請求項1に記載の熱動引き外し装置の製造方法。
【請求項5】
調整子成形工程は、弓状部の先端にバイメタルと当接する係止部を成形することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の熱動引き外し装置の製造方法。
【請求項6】
端部に案内溝、および前記案内溝から所定距離離れた位置に第一係合穴が形成されたバイメタルと、
前記バイメタルの変形によってトリップバーに当接する当接部、一方の端に前記バイメタルに係合する鉤状部、および他方の端に前記案内溝内を摺動する弓状部が形成された調整子とを備えた熱動引き外し装置において、
前記バイメタルは、前記第一係合穴から所定距離離れた位置に第二係合穴を有し、前記第一係合穴と前記第二係合穴との間に軸が形成され、
前記調整子は、熱動引き外し装置の一部を変形させることによって、前記鉤状部が前記軸に回転可能に係合することを特徴とする熱動引き外し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−123416(P2009−123416A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294124(P2007−294124)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】