説明

熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法

【課題】異形押出成形加工性に優れると共に、柔軟性、ゴム弾性、耐傷付き性に優れ、押出成形品の表面が平滑でブツの少ない熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】下記の成分(a)及び(b)の合計質量に対する、成分(a)の質量比率が10%以上、90%以下であり、成分(b)の質量比率が90%以下、10%以上であり、架橋されている。
(a)エチレンと、炭素数が3以上、12以下の1種以上のα−オレフィンとからなり、GPCによる分子量分布{質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)}が3.0未満である、2種類以上のエチレン・α−オレフィン共重合体から構成され、密度が0.850g/cm3以上、0.900g/cm3以下であり、GPC法による分子量分布{質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)}が3.0以上である、オレフィン系共重合体群。
(b)密度が0.900g/cm3より大きいオレフィン系重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関し、更に詳しくは、成形加工性に優れると共に、柔軟性、ゴム弾性、耐傷付き性に優れ、表面が平滑でブツが少ない熱可塑性エラストマー組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム的な軟質材料であって、加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有する、スチレン系、オレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系等の熱可塑性エラストマーが、工程合理化やリサイクル性等の観点から注目され、自動車部品、家電部品、医療用機器部品、包装用資材、土木建築用資材、電線、及び雑貨等の分野で広汎に使用されており、中でも、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体又はその水素添加物からなるスチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟性やゴム弾性等に優れた材料として、又、結晶性プロピレン系樹脂とエチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムとを有機過酸化物の存在下に動的に熱処理して後者ゴムを架橋せしめた部分架橋物であるオレフィン系熱可塑性エラストマーは、耐侯性や軟化剤の耐ブリード性等に優れ、又、比較的安価であるため経済的に有利な材料として、それぞれゴム用軟化剤を配合することによって成形加工性や柔軟性等を付与して種々の分野において用いられている。
【0003】
耐環境劣化性を改善し、且つ、耐摩耗性等の機械的特性に優れた熱可塑性組成物として、特許文献1には、密度が0.858〜0.915g/cm3の範囲であり、且つ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(gel permeation chromatography:以下適宜「GPC」と略称する。)により算出される質量平均分子量(weight-average molecular weight:以下適宜「Mw」と略称する。)と数平均分子量(number-average molecular weight:以下適宜「Mn」と略称する。)との比である分子量分布(Mw/Mn)が3.0未満である、エチレン及び炭素数が3〜12のα−オレフィンからなる少なくとも1種以上のオレフィン系重合体25〜100質量%を、ラジカル開始剤及び/又は多官能不飽和化合物により架橋してなる熱可塑性組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−104787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の組成物は、分子量分布(Mw/Mn)がシャープであり耐傷性には優れているが、射出成形するとフローマークが発生し成形外観が不良であり、また、異形押出成形しようとすると異形押出の形状が出づらいという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の従来技術に伴う課題を解決しようとするものであって、異形押出成形加工性に優れると共に、柔軟性、ゴム弾性、耐傷付き性に優れ、押出成形品の表面が平滑でブツの少ない熱可塑性エラストマー組成物、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、エチレンと1種以上のα−オレフィンとからなる、分子量分布(Mw/Mn)が3未満のエチレン・α−オレフィン共重合体2種類以上から構成され、密度が0.850〜0.900g/cm3であり、分子量分布が3.0以上であるオレフィン系共重合体群を、密度が0.900g/cm3より大きいオレフィン系重合体とともに必須成分として用いることにより、上述の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、下記の成分(a)及び(b)を含有し、成分(a)及び(b)の合計質量に対する、成分(a)の質量比率が10%以上、90%以下であり、成分(b)の質量比率が90%以下、10%以上であり、架橋されていることを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物に存する(請求項1)。
(a)エチレンと、炭素数が3以上、12以下の1種以上のα−オレフィンとからなり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という。)法による分子量分布{質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)}が3.0未満である、2種類以上のエチレン・α−オレフィン共重合体から構成され、密度が0.850g/cm3以上、0.900g/cm3以下であり、GPC法による分子量分布{質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)}が3.0以上であるオレフィン系共重合体群。
(b)密度が0.900g/cm3より大きいオレフィン系重合体。
【0009】
ここで、下記の成分(c)及び(d)を更に含有することが好ましい(請求項2)。
(c)スチレン系熱可塑性エラストマー。
(d)炭化水素系ゴム用軟化剤。
【0010】
また、架橋剤の存在下に動的熱処理することにより架橋されたものであることが好ましい(請求項3)。
【0011】
また、前記成分(a)が、メタロセン系触媒を用いて製造されたものであることが好ましい(請求項4)。
【0012】
また、前記成分(b)が、プロピレン系重合体であることが好ましい(請求項5)。
【0013】
また、前記成分(a)中のエチレン・α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンの炭素数が、4以上であることが好ましい(請求項6)。
【0014】
また、本発明の別の要旨は、上述の成分(a)及び(b)を、成分(a)及び(b)の合計質量に対する、成分(a)の質量比率が10%以上、90%以下であり、成分(b)の質量比率が90%以下、10%以上となるように混合し、架橋させることを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に存する(請求項7)。
【0015】
ここで、前記架橋を、架橋剤の存在下に動的熱処理することにより行なうことが好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、異形押出成形加工性に優れると共に、柔軟性、ゴム弾性、耐傷付き性に優れ、表面が平滑でブツの少ない押出成形品が得られる。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法によれば、このような熱可塑性エラストマー組成物を効率的に得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】各実施例及び比較例の熱可塑性エラストマー組成物の異形押出成形性の評価に用いた、単軸押出機の口金の断面形状を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0019】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも以下の成分(a)及び(b)を、含有する。具体的に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の成分(a)及び(b)の合計の含有率は、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上の範囲である。
【0020】
そして、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(a)及び(b)の合計質量に対する、成分(a)の質量比率が10%以上、90%以下であり、成分(b)の質量比率が90%以下、10%以上であり、且つ、架橋されていることを特徴とするものである。
【0021】
(a)エチレンと、炭素数が3以上、12以下の1種以上のα−オレフィンとからなり、GPC法による分子量分布(Mw/Mn)が3.0未満である、2種類以上のエチレン・α−オレフィン共重合体から構成され、密度が0.850g/cm3以上、0.900g/cm3以下であり、GPC法による分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上である、オレフィン系共重合体群。
(b)密度が0.900g/cm3より大きいオレフィン系重合体。
【0022】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(a)は、熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとして機能し、成分(b)は、熱可塑性エラストマーのハードセグメントとして機能することになる。
以下、各特徴について詳しく説明する。
【0023】
[成分(a)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に使用される成分(a)のオレフィン系共重合体群は、2種類以上のエチレン・α−オレフィン共重合体から構成される。ここで、個々のエチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレンと、炭素数が3以上、12以下のα−オレフィンとからなる。エチレンのみからなる重合体や、α−オレフィンのみからなる重合体は、結晶を形成してしまう場合がある。
【0024】
なお、成分(a)のオレフィン系共重合体群は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、GPC法による分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上のゴム等が挙げられる。但し、成分(a)のオレフィン系共重合体群に占める2種類以上のエチレン・α−オレフィン共重合体の割合が、通常は80質量%以上であるのが好ましい。
【0025】
炭素数3以上、12以下のα−オレフィンの種類は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等が挙げられる。炭素数12以下のα−オレフィンを含有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いると、特に後述する炭化水素系ゴム用軟化剤を配合した場合に、積層体のシート表面がべた付いたり、ブリードを起こしたりし難くなる傾向にある。一方、α−オレフィンの炭素数の下限は上述のように3以上であるが、中でも4以上であることが好ましい。
【0026】
とりわけ、成分(a)のオレフィン系共重合体群の構成要素としては、エチレン及びブテン−1からなるエチレン・ブテン−1共重合体が、シート状に成形した表面のべた付きが少ないため望ましい。
【0027】
また、成分(a)のオレフィン系共重合体群を構成するエチレン・α−オレフィン共重合体は、GPC法により算出される質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、通常3.0未満、好ましくは2.8未満である。エチレン・α−オレフィン共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が前記上限よりも小さいものは、耐傷付き性の点で好ましい。一方、エチレン・α−オレフィン共重合体の分子量分布(Mw/Mn)の下限は特に制限されないが、通常1.5以上である。
【0028】
なお、本発明における「質量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により下記表1の条件で測定したポリスチレン換算の質量平均分子量である。
【0029】
【表1】

【0030】
成分(a)のオレフィン系共重合体群は、例えば、これを構成するエチレン・α−オレフィン共重合体を混ぜることにより、得ることができる。
【0031】
成分(a)のオレフィン系共重合体群を構成するエチレン・α−オレフィン共重合体は、公知のメタロセン系触媒を用いて製造することができる。
【0032】
メタロセン系触媒は、一般には、チタン、ジルコニウム等の周期律表第4族金属のシクロペンタジエニル誘導体と助触媒からなり、重合触媒として高活性であるだけでなく、従来のチーグラー系触媒と比較して、得られる重合体の分子量分布が狭く、共重合体中のコモノマーである炭素数3以上、12以下のα−オレフィンの分布が均一である。従って、メタロセン系触媒により製造されたオレフィン系エラストマーは、チーグラー系触媒等を用いる従来のものと比較して重合体の性質が大きく異なっている。
【0033】
また、成分(a)のオレフィン系共重合体群は、その密度が、通常0.850g/cm3以上、好ましくは0.853g/cm3以上、特に好ましくは0.855g/cm3以上、また、通常0.900g/cm3以下、好ましくは0.890g/cm3以下、特に好ましくは0.880g/cm3以下の範囲である。密度が前記下限以上のものは、熱可塑性エラストマー組成物の強度の点で好ましく、前記上限以下のものは、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性の点で好ましい。なお、オレフィン系共重合体群の密度は、JISK7112に準拠して測定することが可能である。
【0034】
また、成分(a)のオレフィン系共重合体群は、共重合体群全体での分子量分布(Mw/Mn)が、通常3.0以上、好ましくは3.1以上である必要がある。この分子量分布(Mw/Mn)が前記下限以上のものは、熱可塑性エラストマー組成物を射出成形する際にフローマークが発生し難く、成形外観が良好であり、また、異形押出成形の際に異形押出の形状が出やすいので好ましい。共重合体群全体の分子量分布(Mw/Mn)の上限は特に制限されないが、好ましくは10.0以下である。前記上限以下のものは、熱可塑性エラストマー組成物の耐傷付き性の点で好ましい。
【0035】
また、成分(a)のオレフィン系共重合体群は、JIS K7210準拠により、190℃、21N荷重の条件で測定したmelt flowrate(以下適宜「MFR」と略称する。)が、通常0.05g/10分以上、中でも0.1g/10分以上、また、通常100g/10分以下、中でも80g/10分以下、更には60g/10分以下の範囲であることが好ましい。熱可塑性エラストマー組成物の成形性の観点から、この範囲が好ましい。
【0036】
[成分(b)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に使用される成分(b)は、密度が0.900g/cm3より大きいオレフィン系重合体である。密度が0.900g/cm3より大きいオレフィン系重合体は、耐熱性の点で優れている。
【0037】
成分(b)のオレフィン系重合体の種類は特に制限されない。例としては、プロピレン系樹脂、エチレン系樹脂、結晶性ポリブテン−1樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合樹脂等が挙げられるが、中でもプロピレン系樹脂が好適に用いられる。プロピレン系樹脂の具体例としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンを主成分とするプロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂、プロピレン−エチレンブロック共重合体樹脂等が挙げられる。重合様式は、樹脂状物が得られる限り、如何なる重合様式を採用しても差し支えない。
【0038】
成分(b)のオレフィン系重合体の密度は、上述のように通常0.900g/cm3以上であるが、好ましくは0.901g/cm3以上、特に好ましくは0.902g/cm3以上である。密度が前記下限以上のものは、耐熱性に優れるという点で好ましい。密度の上限は特に制限されないが、通常0.970g/cm3以下、中でも0.965g/cm3以下である。密度が前記上限以下のものは、得られる熱可塑性組成物の成形性に優れるという点で好ましい。なお、オレフィン共重合体の密度は、上述の[成分(a)]の欄で説明したものと同様の手法により測定することが可能である。
【0039】
成分(b)のオレフィン系重合体の溶融流れ速度(MFR)は、JIS K7210に準拠し、230℃、21.2N荷重の条件で測定した値で、通常0.05g/10分以上、中でも0.1g/10分以上、また、通常200g/10分以下、中でも100g/10分以下の範囲であることが好ましい。溶融流れ速度が上記範囲内のものは、熱可塑性エラストマー組成物の射出成形性及び押出成形性の点で好ましい。
【0040】
[成分(a)及び(b)の質量比率]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物における成分(a)及び(b)の質量比率は、以下の通りである。成分(a)及び(b)の合計量(100質量%)に対し、成分(a)の割合は、通常10質量%以上、好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上、また、通常90質量%以下、好ましくは85質量%以下、特に好ましくは80質量%以下の範囲であり、成分(b)の割合は、通常90質量%以上、好ましくは85質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは15質量%以下、特に好ましくは20質量%以下の範囲である。成分(a)の割合が前記下限以上(即ち、成分(b)の割合が前記上限以下)の場合は、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性の点で好ましく、成分(a)の割合が前記上限以下(即ち、成分(b)の割合が前記下限以上)の場合は、熱可塑性エラストマー組成物の射出成形性及び押出成形性の点で好ましい。
【0041】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内において、上述の成分(a)及び(b)以外の成分を含んでいても良い。
【0042】
成分(a)及び(b)以外の成分の例としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、炭化水素系ゴム用軟化剤、各種熱可塑性樹脂やゴム、及びガラス繊維、可塑剤、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、タルク、マイカ、シリカ、チタニア、炭酸カルシウム、カーボンブラック等の充填剤、並びに、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、石油樹脂、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、分散剤、難燃剤、導電性付与剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤、着色剤等が挙げられる。中でも、スチレン系熱可塑性エラストマー(以下「成分(c)」とする。)、及び/又は、炭化水素系ゴム用軟化剤(以下「成分(d)」とする。)を含有させることが好ましい。これらの成分(c)及び成分(d)については後に詳しく説明する。
【0043】
なお、これら成分(a)及び(b)以外の成分は、成分(a)及び成分(b)の何れかに予め含有させておいても良く、各成分を均一に混合時、溶融混練時或いは動的熱処理時に配合してもよい。更には、架橋処理後に加えてもよい。
【0044】
〔成分(c)〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、強度の向上、外観の向上等の観点から、成分(c)として、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーとは一般に、以下に説明するビニル芳香族炭化水素−エラストマー性重合体ブロック共重合体を表わす。
【0045】
ビニル芳香族炭化水素−エラストマー性重合体ブロック共重合体は、ビニル芳香族炭化水素の重合体ブロックとエラストマー性の重合体ブロックとからなり、そのビニル芳香族炭化水素の重合体ブロックがハードセグメントを、エラストマー性の重合体ブロックがソフトセグメントをそれぞれ構成し、代表的には、ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック−エラストマー性重合体ブロック、又は、ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック−エラストマー性重合体ブロック−ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックで表される共重合構造を有し、エラストマー性重合体ブロックの二重結合が部分的に或いは完全に水素添加されていてもよいブロック共重合体であって、一般にスチレン系熱可塑性エラストマーとして知られているものである。
【0046】
このスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−、m−、p−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。また、エラストマー性重合体ブロックとしては、エラストマー性が発現されれば特に制約は無いが、共役ジエンが好ましい。共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。中でも、ブタジエン若しくはイソプレン、又は、ブタジエン及びイソプレンの質量比2/8〜6/4の混合物が好ましい。
【0047】
本発明において、このスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、芳香族ビニルの含有量が、通常10質量%以上、中でも15質量%以上、更には20質量%以上、また、通常50質量%以下、中でも45質量%以下、更には40質量%以下の範囲であることが好ましい。芳香族ビニルの含有量が前記下限以上のものは、熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度、耐熱性の点で好ましく、また、前記上限以下のものは、柔軟性、ゴム弾性が良好であると共に、後述する炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードが生じ難いという面で好ましい。なお、スチレン系熱可塑性エラストマー中の芳香族ビニルの含有量は、例えば核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR)法等の手法により測定することが可能である。
【0048】
また、共役ジエンとしてブタジエンのみが用いられている場合、積層体としての触感を良好にする面から、スチレン系熱可塑性エラストマーの共役ジエン重合体ブロックにおけるブタジエンが重合して生じる1,2−結合{−CH2−CH(CH=CH2)−}と1,4−結合{−CH2−CH=CH−CH2−}の合計中の1,2−結合の割合(質量比)が、通常20%以上、中でも25%以上、また、通常50%以下、中でも45%以下の範囲であるものが好ましい。なお、スチレン系熱可塑性エラストマー中の芳香族ビニルの含有量は、例えばNMR法等の手法により測定することが可能である。
【0049】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーの共役ジエン重合体ブロックの二重結合の水素添加率は、全二重結合に対するモル比率の値で、通常30%以上、中でも50%以上、更には90%以上であるものが好ましい。水素添加率が前記範囲内のものは、熱可塑性エラストマー組成物の耐候性、耐熱性の面で好ましい。なお、スチレン系熱可塑性エラストマー中の二重結合の水素添加率は、例えばNMR法等の手法により測定することが可能である。
【0050】
また、本発明において、スチレン系熱可塑性エラストマーの質量平均分子量(Mw)は、GPCにより測定したポリスチレン換算の値で、通常80000以上、中でも100000以上、更には150000以上、また、通常500000以下、中でも450000以下、更には400000以下の範囲であるのが好ましい。質量平均分子量が前記前記下限以上のものは、熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性、機械的強度に優れ、押出成形加工性も良好であるという点で好ましい。一方、前記上限以下のもの、押出成形加工性の面で好ましい。
【0051】
本発明に用いるスチレン系熱可塑性エラストマーの製造方法としては、上記の構造・物性が得られるものであれば、どのような製造方法を用いてもよい。例えば、特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行なうことによって得ることができる。また、これらのブロック共重合体の水素添加処理は、例えば特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、或いは特開昭59−133203号公報及び特開昭60−79005号公報に記載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下で行うことができる。このようなブロック共重合体の市販品としては、「KRATON−G」(クレイトンポリマー社)、「セプトン」(株式会社クラレ)、「タフテック」(旭化成株式会社)等の商品が例示できる。また、スチレン又はその誘導体、次いでエラストマー性ブロックを重合し、これをカップリング剤によりカップリングして得ることもできる。また、ジリチウム化合物を開始剤としてエラストマー性ブロックを重合し、次いで、スチレン又はその誘導体を逐次重合して得ることもできる。
【0052】
成分(c)のスチレン系熱可塑性エラストマーの使用量は、成分(a)及び成分(b)の合計量を100質量部とした場合に、通常100質量部以下、好ましくは50重量部以下の範囲である。
【0053】
〔成分(d)〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性や成形性の向上等の観点から、成分(d)として、炭化水素系ゴム用軟化剤を含有することが好ましい。炭化水素系ゴム用軟化剤の例としては、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系の鉱物油系炭化水素、及び、ポリブテン系、ポリブタジエン系等の低分子量物等の合成樹脂系炭化水素等が挙げられるが、中でも、鉱物油系炭化水素が好ましい。また、その質量平均分子量(Mw)が、GPCにより測定したポリプロピレン換算の値で、通常300以上、中でも500以上、また、通常2000以下、中でも1500以下の範囲であるものが好ましい。
【0054】
鉱物油系炭化水素からなるゴム用軟化剤は、一般に、芳香族系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及びパラフィン系炭化水素の混合物で、パラフィン系炭化水素の炭素数が全炭素数中の50%以上を占めるものがパラフィン系オイル、ナフテン系炭化水素の炭素数が全炭素数中の30〜45%のものがナフテン系オイル、芳香族系炭化水素の炭素数が全炭素数中の30%以上のものが芳香族系オイルと、それぞれ呼ばれているが、本発明においては、耐候性や耐熱性、色調に優れるという点から、パラフィン系オイルが特に好ましい。
【0055】
また、ゴム用軟化剤としての前記鉱物油系炭化水素は、40℃における動粘度が、通常20cst以上、中でも50cst以上、また、通常800cst以下、中でも600cstの範囲であることが好ましく、また、その流動点が、通常−40℃以上、中でも−30℃以上、また、通常0℃以下の範囲であることが好ましく、更には、その引火点が、通常200℃以上、中でも250℃以上、また、通常400℃以下、中でも350℃以下の範囲であることが好ましい。これらの特性を満たす鉱物油系炭化水素は、耐ブリード性に優れるという点で好ましい。
【0056】
成分(d)の炭化水素系ゴム用軟化剤の使用量は、成分(a)及び成分(b)の合計量を100質量部とした場合に、通常200質量部以下、好ましくは150重量部以下の範囲である。
【0057】
〔その他の熱可塑性樹脂〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、上述の成分(a)〜(d)以外に含有していてもよい熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂等を挙げることができる。
【0058】
〔その他のゴム〕
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、上述の成分(a)〜(d)以外に含有していてもよいゴムとしては、例えば、必須成分以外のエチレン・プロピレン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム等のオレフィン系ゴム、ポリブタジエン等、またスチレン系共重合体ゴム等を挙げることができる。
【0059】
[架橋]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上述の成分を含有するとともに、架橋されていることを特徴としている。架橋の方法は特に制限されないが、通常は、ゴム弾性、押出成形性の改良の観点から、架橋剤の存在下に動的に熱処理する(動的架橋する)ことが好ましい。
【0060】
ここで、動的に熱処理する(動的熱処理)とは、溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。通常、動的熱処理は、前記の各成分を均一に混合した後、架橋剤及び必要に応じて用いられる架橋助剤の存在下に溶融混練することによって行なわれる。混合装置としては、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等が使用され、混練装置としては、ミキシングロール、ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダープラストグラフ、一軸又は二軸の押出機等が使用される。
【0061】
架橋剤としては、有機過酸化物、マレイミド系架橋剤、硫黄、フェノール系架橋剤、オキシム類、ポリアミン等が用いられるが、有機過酸化物、マレイミド系架橋剤、フェノール系架橋剤が好ましく、中でも、適度な架橋度の組成物が得られるという点から、有機過酸化物が特に好ましい。
【0062】
架橋剤として特に好ましい有機過酸化物の具体例としては、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類、アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド等のヒドロパーオキシド類等が挙げられる。これらの中では、適度な架橋度の組成物が得られるという点から、1分間の半減期温度が140℃以上の有機過酸化物が好ましく、斯かる有機過酸化物としては、例えば、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。
【0063】
架橋剤の使用割合としては、成分(a)及び(b)の合計量を100質量部とした場合に、通常0.05質量部以上、好ましくは0.07質量部以上、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下の範囲である。
【0064】
架橋助剤としては、例えば、硫黄、p−キノンジオキシム、p−ジニトロソベンゼン、1,3−ジフェニルグアニジン、m−フェニレンビスマレイミド等の過酸化物架橋用助剤、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられるが、中でもジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0065】
架橋助剤の使用割合は、成分(a)及び(b)の合計量を100質量部とした場合に、通常0質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下の範囲である。
【0066】
動的熱処理の混練温度は、通常100℃以上、好ましくは110℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは280℃以下の範囲である。動的熱処理の混練時間は、通常10秒以上、好ましくは20秒以上、また、通常30分以下、好ましくは20分以下の範囲である。動的熱処理時の材料の状態は、使用する材料の種類や動的熱処理の温度によって異なり、通常は半溶融状態又は溶融状態となるが、特に制限されない。混練に際しては、各成分を一括して混練する方法の他、また任意の成分を混練した後、他の残りの成分を添加して混練する多段分割混練法を採用してもよい。
【0067】
[成形法]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて公知の方法により成形し、成形体として使用することができる。成形法としては、熱可塑性エラストマーに通常用いられている成形法、例えば、射出成形法、押出成形法、中空成形法、圧縮成形法等が挙げられる。また、その後に積層成形、熱成形等の二次加工を行なってもよい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は単体で成形体としてもよく、他の材料と組み合わせ、積層体等としてもよい。
【0068】
[特性及び用途]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、異形押出成形加工性に優れると共に、柔軟性、ゴム弾性、耐傷付き性に優れ、表面が平滑でブツの少ない押出成形品が得られるという特性を有する。
【0069】
上述の特性から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、所望の形状に成形することによって、自動車部品、家電部品、医療用機器部品、包装用資材、土木建築用資材、電線、及び雑貨等の広汎な分野での資材として用いられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明について、実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
尚、実施例及び比較例で使用した材料、成型方法及び評価方法は以下の通りである。
【0071】
[材料]
〔成分(a):エチレン・α−オレフィン共重合体〕
各実施例及び比較例における成分(a)として、下記の成分(a−1)、(a−2)及び/又は(A)を、後述の表2に示す組み合わせ及び比率で混合して用いた。各実施例及び比較例における成分(a)全体のMw/Mnを表2に示す。
【0072】
・成分(a−1):エチレンとブテン−1との共重合体
成分(a−1)として、エチレンとブテン−1との共重合体(三井化学(株)社製タフマーA0250S)を用いた。重合触媒はメタロセン系、密度は0.860g/cm3、Mw/Mn=2.2、MFR(190℃、21N荷重)=0.2g/10分であった。即ち、この成分(a−1)は本発明に規定する成分(a)の構成要素であるエチレン・α−オレフィン共重合体に該当する。
【0073】
・成分(a−2):エチレンとブテン−1との共重合体
成分(a−2)として、エチレンとブテン−1との共重合体(三井化学(株)社製タフマーA1050S)を用いた。重合触媒はメタロセン系、密度は0.860g/cm3、Mw/Mn=2.2、MFR(190℃、21N荷重)=1.5g/10分であった。即ち、この成分(a−2)は、本発明に規定する成分(a)の構成要素となるエチレン・α−オレフィン共重合体に該当する。
【0074】
・成分(A):エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体
成分(A)として、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体(JSR(株)社製EP57C)を用いた。重合触媒はチーグラー系、エチレン含有量は66質量%、エチリデンノルボルネン含量は4.5質量%、密度は0.860g/cm3、Mw/Mn=3.2であった。即ち、この成分(A)は、本発明に規定する成分(a)の構成要素となるオレフィン系共重合体には該当しないものである。
【0075】
〔成分(b):オレフィン系重合体〕
各実施例及び比較例における成分(b)として、プロピレン重合体を用いた(これを以下「成分(b−1)」とする)。密度は0.905g/cm3、MFR(230℃、21.2N荷重)=0.9g/10分であった。
【0076】
〔成分(c):ビニル芳香族炭化水素−エラストマー性重合体ブロック共重合体〕
各実施例及び比較例における成分(c)として、スチレンブロック−ブタジエンブロック−スチレンブロックの共重合構造からなるスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物(クレイトンポリマー社製G1651)を用いた(これを以下「成分(c−1)」とする)。スチレン含有量は33質量%、水素添加率は98%以上、質量平均分子量は245000、1,2−結合の割合は37%であった。
【0077】
〔成分(d):炭化水素系ゴム用軟化剤〕
各実施例及び比較例における成分(d)として、パラフィン系オイル(出光興産社製PW90)を用いた(これを以下「成分(d−1)」とする)。質量平均分子量は539、40℃の動粘度は96cSt、流動点は−15℃、引火点は272℃であった。
【0078】
〔架橋剤〕
架橋剤として、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(以下「POX」と略称する。)を使用した。
【0079】
〔架橋助剤〕
架橋助剤として、ジビニルベンゼン(以下「DVB」と略称する。)を使用した。
【0080】
[実施例1〜4及び比較例1〜4]
下記表2に示す量の成分(c)、成分(d)を、ヘンシェルミキサーにて1分間混合した。更に、下記表2に示す量の成分(a)、成分(b)、POX、DVBを加え、ヘンシェルミキサーにて更に1分間混合した。この混合物を、2個の原料供給口を有する同方向2軸押出機(神戸製鋼製「KTX44」、L/D=41、シリンダブロック数=11)の第1供給口へ30kg/時間の速度で投入し、110℃〜220℃で溶融混練することにより動的に熱処理した。この熱処理の際に、押出機シリンダーの途中に設けられた第2の供給口から、下記表2に示す量の成分(d)を供給した。熱処理後、生成物をダイよりストランド状に押し出し、カッティングして、熱可塑性エラストマー組成物(それぞれ実施例1〜4及び比較例1〜4の熱可塑性エラストマー組成物とする。)のペレットを得た。なお、ここで、実施例1〜4中の成分(a−1)と成分(a−2)とを合わせた密度は、0.860g/cm3である。
【0081】
[評価方法]
得られた実施例1〜4及び比較例1〜4の熱可塑性エラストマー組成物のペレットを用いて、下記の方法にて評価を行なった。
【0082】
(1)異形押出成形性の評価:
40mmφの単軸押出機(三菱重工(株)社製)を使用し、スクリュー回転数70rpm、温度180℃にて、図1に示す断面形状を有する口金から、各実施例及び比較例の熱可塑性エラストマー組成物のペレットを押し出した成形品の形状を評価した。成形品の口金形状の反映性及び表面状態を目視で判定し、偏肉やエッジ切れ等の問題があるものを「不良」、そのような問題がないものを「良好」とした。
【0083】
(2)〜(4)耐傷付き性、硬度、ゴム弾性の評価:
各実施例及び比較例の熱可塑性エラストマー組成物のペレットから、インラインスクリュータイプ射出成形機(東芝機械社製「IS130G」)を用いて、射出圧力500kg/cm2、射出温度220℃、金型温度30℃の条件で、横120mm、縦80mm、肉厚2mmのシートを射出成形した。得られたシートを必要に応じて横方向に打ち抜いて、試料を作製した。得られた試料を用いて、以下に示す方法で、耐傷付き性、硬度及びゴム弾性(圧縮永久歪)を測定した。
【0084】
(2)耐傷付き性:
上記試料の表面を、(株)東洋精機社製(テーバースクラッチテスタ)を用いて、タングステンカーバイト製のカッターにより、加重300gにて引っ掻き、目視にて表面を観察し、以下に示す3段階で評価した。
○:傷付かない
△:殆ど傷付かない
×:傷が付く
【0085】
(3)硬度:
JIS K6253に準拠し、デュロ硬度Aを測定した。
【0086】
(4)圧縮永久歪み:
JIS K6262に準拠し、70℃、22時間、25%圧縮で測定した。
【0087】
(5)〜(6)表面粗さRa及びブツの評価:
各実施例及び比較例の熱可塑性エラストマー組成物のペレットを、渡辺加工機製の45mmφ押出機(シングルフライトタイプスクリュウ)のTダイから、幅250mm、厚さ0.35mmのシート状に押し出した。得られたシートを試料として、表面粗さRa及びブツを評価した。
【0088】
(5)表面粗さRaの評価:
上記試料の表面について、JIS B0601に準拠し、東洋精密社製表面粗さ計(サーフコム570A)を用いて、中心線平均粗さRaを測定した。
【0089】
(6)押出シートにおけるブツの評価:
上記試料のシート肌を目視にて観察し、試料のシート長さ1.5mの範囲のブツの数の多少とブツの大きさに基づいて、以下に示す3段階で評価した。
○:優れる
△:良
×:不良
【0090】
[評価結果]
上述の方法により得られた各実施例及び各比較例の熱可塑性エラストマー組成物の評価結果を下記表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
上記表2の結果から明らかなように、本発明の規定の組成を有する実施例1〜4の熱可塑性エラストマー組成物は、異形押出成形性、耐傷付き性、硬度、圧縮永久歪、表面粗さRa、ブツの何れの評価についても、良好な結果を示している。
【0093】
これに対して、成分(a)の構成要素として、本発明の規定を満たすエチレン・α−オレフィン共重合体を一種類のみ用いた比較例1及び2の熱可塑性エラストマー組成物は、異形押出成形性の評価結果が「不良」であり、ブツの評価結果も「良」に留まっている。
【0094】
また、成分(a)の構成要素として、本発明の規定を満たさないオレフィン系共重合体のみを用いた比較例3の熱可塑性エラストマー組成物、及び、本発明の規定を満たすエチレン・α−オレフィン共重合体一種類を、本発明の規定を満たさないオレフィン系共重合体と組み合わせて用いた比較例4の熱可塑性エラストマー組成物は、異形押出成形性及びブツの評価結果が「不良」であり、耐傷付き性も「良」に留まっている。また、表面粗さRaも高い値を示している。
【0095】
以上の結果から、実施例1〜4の熱可塑性エラストマー組成物は、比較例1〜4の熱可塑性エラストマー組成物に比べて、異形押出成形加工性に優れると共に、柔軟性、ゴム弾性、耐傷付き性に優れ、押出成形品の表面が平滑でブツも少ないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、所望の形状に成形・加工することにより、自動車部品、家電・OA機器部品、医療用機器部品、包装用資材、土木建築用資材、電線、雑貨等の広汎な分野の資材として好適に用いることができる。
【0097】
具体的には、例えば、自動車部品としては、自動車のインストルメントパネル、コンソールボックス、アームレスト、ヘッドレスト、ドアトリム、リアパネル、ピラートリム、サンバンザー、トランクルームトリム、トランクリッドトリム、エアーバック収納ボックス、シートバックル、ヘッドライナー、グローブボックス、ハンドルパッド、ステアリングホイールカバー、座席用シート、天井材などの内装用表皮材が挙げられる。
【0098】
家電・OA機器部品としては、テレビ、ビデオ、洗濯機、乾燥機、掃除機、クーラー、エアコン、リモコン、電子レンジ、トースター、コーヒーメーカー、ポット、ジャー、食器洗い器、電気カミソリ、ヘアードライヤー、マイク、ヘッドホーン、ビューティー器具、CD・カセット収納箱、パーソナルコンピューター、タイプライター、映写機、電話、コピー機、ファクシミリ、テレックスなどのハウジングの表皮材が挙げられる。
【0099】
スポーツ用品としては、スポーツシューズの装飾部品、各種球技のラケット等のスポーツ用品や機器のグリップ、自転車、二輪車・三輪車等のサドル表皮材等が挙げられる。
【0100】
建築・住宅部品としては、家具、机、椅子などの表皮材;門、扉、塀などの表皮材;壁装飾材料;天井装飾材料;カーテンウォールの表皮材;台所、洗面所、トイレなどの屋内用床材;ベランダ、テラス、バルコニー、カーポートなどの屋内用床材;玄関マット、テーブルクロス、コースター、灰皿敷などの敷物等が挙げられる。
【0101】
その他工業部品としては、電動工具類のグリップ、ホース及びこれらの表皮材;パッキング材料等が挙げられる。他に、更に、かばん、ケース類、ファイル、手帳、アルバム等の文房具;カメラボディー;人形等の玩具等の表皮材、額の外枠及びその表皮材等が挙げられる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a)及び(b)を含有し、
成分(a)及び(b)の合計質量に対する、成分(a)の質量比率が10%以上、90%以下であり、成分(b)の質量比率が90%以下、10%以上であり、
架橋されている
ことを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物。
(a)エチレンと、炭素数が3以上、12以下の1種以上のα−オレフィンとからなり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という。)法による分子量分布{質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)}が3.0未満である、2種類以上のエチレン・α−オレフィン共重合体から構成され、
密度が0.850g/cm3以上、0.900g/cm3以下であり、
GPC法による分子量分布{質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)}が3.0以上である、オレフィン系共重合体群。
(b)密度が0.900g/cm3より大きいオレフィン系重合体。
【請求項2】
下記の成分(c)及び(d)を更に含有する
ことを特徴とする、請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(c)スチレン系熱可塑性エラストマー。
(d)炭化水素系ゴム用軟化剤。
【請求項3】
架橋剤の存在下に動的熱処理することにより架橋されたものである
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記成分(a)が、メタロセン系触媒を用いて製造されたものである
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記成分(b)が、プロピレン系重合体である
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記成分(a)中のエチレン・α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンの炭素数が、4以上である
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
下記の成分(a)及び(b)を、成分(a)及び(b)の合計質量に対する、成分(a)の質量比率が10%以上、90%以下であり、成分(b)の質量比率が90%以下、10%以上となるように混合し、架橋させる
ことを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(a)エチレンと、炭素数が3以上、12以下の1種以上のα−オレフィンとからなり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という。)法による分子量分布{質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)}が3.0未満である、2種類以上のエチレン・α−オレフィン共重合体から構成され、
密度が0.850g/cm3以上、0.900g/cm3以下であり、
GPC法による分子量分布{質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)}が3.0以上である、オレフィン系共重合体群。
(b)密度が0.900g/cm3より大きいオレフィン系重合体。
【請求項8】
前記架橋を、架橋剤の存在下に動的熱処理することにより行なう
ことを特徴とする、請求項7記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−107261(P2012−107261A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56349(P2012−56349)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【分割の表示】特願2005−319414(P2005−319414)の分割
【原出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】