説明

熱可塑性ポリウレタン−シリコーンエラストマー

【課題】熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)およびシリコーンエラストマー(B)を含み、該シリコーンエラストマーと該熱可塑性ポリウレタンポリマーの重量比が5:95〜85:15である再加工可能な熱可塑性エラストマー組成物、ならびに該組成物の製造方法を開示する。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)、シリコーンエラストマー(B)を含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記シリコーンエラストマー(B)が、少なくとも30のウイリアムス塑性度を有しかつその分子中に平均で少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンゴム(B')を100重量部と、場合により補強性充填剤(B")を最大で200重量部と、その分子中にケイ素に結合した水素を平均で少なくとも2個含む有機ヒドリドケイ素化合物(C)と、ヒドロシリル化触媒(D)とを含み、成分(C)および(D)が前記ジオルガノポリシロキサン(B')を硬化するのに十分な量で存在する、動的加硫の反応生成物であり、
前記シリコーンエラストマーと前記熱可塑性ポリウレタンポリマーの重量比が5:95から85:15であり、かつ再加工可能な熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタンポリマーおよびシリコーンエラストマーを含む再加工可能な熱可塑性エラストマー組成物、および該組成物の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマー(TPE)は、可塑性とゴム状性質を併せ持つ高分子材料である。これらはエラストマーとしての機械的性質を有するが、通常の熱硬化性ゴムとは異なり、高温で再加工ができる。再加工によって組立部品のリサイクルが可能になり、スクラップが大幅に低減するので、この再加工が可能であることは、化学的に架橋したゴムに優るTPEの大きな利点である。
【0003】
一般に、熱可塑性エラストマーには、2つの主な種類が知られている。ブロックコポリマー熱可塑性エラストマーには、外界より高い融点またはガラス転移点をもつ「ハード」高分子セグメント、および室温よりかなり低いガラス転移点または融点をもつ「ソフト」高分子セグメントが含まれている。これらの系では、ハードセグメントが凝集して別個のミクロ相を形成し、ソフト相に対する物理的架橋として機能し、その結果、室温でゴムの特性が付与される。高温では、ハードセグメントが溶融または軟化し、コポリマーが流動できるようになり、通常の熱可塑性樹脂と同様に加工することが可能になる。
【0004】
他にも、エラストマー成分を熱可塑性樹脂と均一に混合することによって、単純ブレンド(物理ブレンド)と呼ばれる熱可塑性エラストマーを得ることができる。また混合中にエラストマー成分が架橋される場合には、当技術分野で熱可塑性硬化物(TPV)として知られている熱可塑性エラストマーが生じる。TPV中の架橋されたエラストマー相は不溶性であり高温でも流動せず、単純ブレンドと比較して、TPVでは一般に耐油性、耐溶剤性が改善され、圧縮永久ひずみも減少する。
【0005】
一般に、TPVは動的加硫として知られる方法によって形成され、エラストマーと熱可塑性マトリックスを混合し、混合過程中に架橋剤および/または触媒の支援によりエラストマーを硬化する。熱可塑性成分が有機非シリコーンポリマーであり架橋エラストマー成分がシリコーンポリマーであるTPV(すなわち熱可塑性シリコーン硬化物)を含め、いくつかのTPVが当技術分野で知られている。
【0006】
ポリウレタンは、各種の実用分野で有用である重要な熱可塑性樹脂の1種である。一般に、組成物中で使用される出発原料(例えば、ポリオール、イソシアネート、および鎖延長剤)の種類および量を選択することによってポリウレタンの物理的性質を調節できる。別法としては、ポリウレタンに他のポリマーまたは材料を配合することによってその物理的性質を改変できる。
【0007】
ポリウレタンとシリコーンを組み合わせて独自の組成物を作り出す試みがいくつかなされてきた。例えば、米国特許第4,647,643号には、長鎖ポリエステルもしくはポリエーテルジオール、短鎖ジオール、ジイソシアネート、およびシリコーンジオールを反応させて調製した、軟質の非ブロックポリウレタンが開示されている。
【0008】
米国特許第4,500,688号でArklesは、500〜100,000cSの粘度を有するビニル含有シリコーン流体を通常の熱可塑性樹脂中に分散させた、半相互侵入網目(semi-IPN)を開示している。典型的な熱可塑性樹脂として、ポリエステル、ポリウレタン、スチレン系ポリマー、ポリアセタールおよびポリカーボネートを挙げている。Arklesは、シリコーン濃度が比較的低いIPNを例示しているだけである。シリコーン水素化物含有シリコーン成分を使用する鎖延長または架橋メカニズムによって、溶融混合中に、ビニル含有シリコーンを熱可塑性樹脂中で硬化する。Arklesは、この開示を米国特許第4,714,739号中で拡張し、不飽和基を含みかつ水素化物含有シリコーンを不飽和官能基をもつ有機ポリマーと反応させて調製したハイブリッドシリコーンを使用することを含めている。Arklesは、1〜40重量パーセントの範囲('739号特許の場合は1〜60%)のシリコーン流体含量を開示しているが、これらの比あるいは有機樹脂の特性に関する限界については何も示唆していない。更に、Arklesは長期熱曝露に対するポリウレタンの物理的性質を改善する方法については何も教示していない。
【0009】
熱可塑性シリコーン硬化物(前に考察したTPSiV)は、米国特許第6,153,691号に開示されているように、熱可塑性樹脂およびシラノール末端ジオルガノポリシロキサンを動的加硫法で縮合硬化させることによって調製されている。'691号特許の熱可塑性樹脂にはポリウレタンが含まれているが、この特許では、物理的性質の改善された、特定ポリウレタンを基剤とした組成物については教示されていない。
【0010】
米国特許第4,164,491号には、ジオルガノポリシロキサンゴム、100℃より低い軟化点をもつポリウレタンエラストマー、補強性充填剤、および有機過酸化物を含有する、熱硬化が可能なシリコーンゴム組成物が開示されている。しかし'491号特許によって得られる硬化生成物は、「シリコーンゴム」であり、したがって再加工が可能でないと教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,647,643号
【特許文献2】米国特許第4,500,688号
【特許文献3】米国特許第4,714,739号
【特許文献4】米国特許第6,153,691号
【特許文献5】米国特許第4,164,491号
【特許文献6】米国特許第5,905,133号
【特許文献7】米国特許第5,908,894号
【特許文献8】米国特許第6,054,533号
【特許文献9】米国特許第3,419,593号
【特許文献10】米国特許第5,175,325号
【特許文献11】米国特許第6,417,293号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Encyclopedia of Chemical Technology、第3版,23巻、「Urethane Polymers」、576〜608頁、(Wiley & Sons、ニューヨーク)
【非特許文献2】Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、13巻、「Polyurethane」、243〜303頁、(Wiley & Sons、ニューヨーク)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ポリウレタン組成物に関する技術分野でのこれらの進歩にも拘らず、物理的性質の向上したポリウレタン組成物を更に探し出す必要性が依然として存在する。特に、総合的な強度を犠牲にしないで、より低いジュロメーター値(硬さ)をもつポリウレタン組成物が求められている。更に、長時間の熱曝露(例えば120〜150℃)後でも物理的性質のプロフィールを保持するポリウレタン組成物を探し出すことが求められている。更に、再加工が可能であるようなポリウレタン組成物を探し出すことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、熱可塑性ポリウレタンポリマーとシリコーンエラストマーから動的加硫法で作られる再加工が可能な熱可塑性エラストマー組成物を見出した。本発明組成物は、前に開示したポリウレタン-シリコーン組成物に対し優れた物理的性質を有している。更に、組成物を長期間熱に曝露しても、硬さ、引張強さ、伸び、および圧縮永久ひずみなどの物理的諸性質が同一に保持されるか、あるいは、ほとんど劣化しない。
【0015】
本発明は、熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)、シリコーンエラストマー(B)、を含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、該シリコーンエラストマーと該熱可塑性ポリウレタンポリマーの重量比が5:95〜85:15であり、該熱可塑性エラストマー組成物が再加工可能である、熱可塑性エラストマー組成物を対象とする。
【0016】
また、本発明は、
(I)熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)、少なくとも30の可塑度を有しかつその分子中に平均で少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン(B')ゴムを100重量部、および場合によっては、補強性充填剤(B")を最大で200重量部含むシリコーン基材(B)(前記シリコーンエラストマーと前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の重量比は5:95〜85:15である)、その分子中にケイ素に結合した水素を平均で少なくとも2個含む有機ジヒドロケイ素化合物(C)、およびヒドロシリル化触媒(D)(成分(C)および(D)は前記のジオルガノポリシロキサン(B')を硬化するに十分な量である)、を混合すること、および
(II)前記ジオルガノポリシロキサン(B')を動的に加硫すること、を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の成分(A)は、熱可塑性ポリウレタンポリマー(A')、または該熱可塑性ポリウレタンポリマーの少なくとも1種と非ポリウレタン熱可塑性樹脂(A")とのブレンドである。本明細書で用語「ポリマー」とは、ホモポリマー、コポリマー、またはターポリマーを包含する。
【0018】
熱可塑性ポリウレタンポリマーは当技術分野で周知であり、一般には、ヒドロキシ末端線状ポリオール(主としてポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオール)、有機ジイソシアネート、および鎖延長剤(短鎖ジオールの場合が多い)を反応させることによって得られる。本発明の熱可塑性ポリウレタンポリマーを調製するための反応成分として有用な、ヒドロキシ末端線状ポリオール、有機ジイソシアネート、および鎖延長剤の代表的な部類は、例えばEncyclopedia of Chemical Technology、第3版、23巻、「Urethane Polymers」、576〜608頁(Wiley & Sons、NY)、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、13巻、「Polyurethanes」、243〜303頁(Wiley & Sons、NY)、および米国特許第5,905,133号、第5,908,894号、第6,054,533号に記載されており、その全てを参照として本明細書に組み込む。
【0019】
本発明で成分(A)として有用な熱可塑性ポリウレタンポリマーの調製方法は広く知られている。一般には、ヒドロキシ末端線状ポリオール、有機ジイソシアネート、および鎖延長剤を、任意選択の触媒および補助剤および/または添加剤と一緒に、NCO基とイソシアネートと反応性のある基、特に低分子ジオール/トリオールおよびポリオールのOH基との当量比が一般に0.9:1.0〜1.1:1.0、あるいは0.95:1.0〜1.10:1.0であるような量で反応させる。
【0020】
本発明の成分(A')としては任意の熱可塑性ポリウレタンポリマーを使用できるが、一般的に成分(A')は、1種または複数の通常TPUと称される熱可塑性ポリウレタンエラストマーから選択される。TPUおよびその製造法は当技術分野で広く知られている。本発明の成分(A')を構成できるTPUの代表例としては、それに限定はされないが、Pellethane(登録商標)2355-80AE(Dow Chemical、ミッドランド、ミシガン州)などのポリアジピン酸ポリエステル系ポリウレタン、Pellethane(登録商標)2102(Dow Chemical、ミッドランド、ミシガン州)、Pellethane(登録商標)2103(Dow Chemical、ミッドランド、ミシガン州)、Elastollan(登録商標)Cシリーズ、Elastollan(登録商標)600シリーズ、およびElastollan(登録商標)Sシリーズ(BASF、ドイツ)などのポリエーテルおよびポリエステル系ポリウレタンが挙げられる。
【0021】
本発明の成分(A')を構成できるTPUの具体的な代表例としては、それに限定はされないが、以下のものが挙げられる。
BASF Elastollan(登録商標)C60A10W:熱可塑性ポリウレタン65%超+可塑剤35%未満
BASF Elastollan(登録商標)C70A10W:熱可塑性ポリウレタン75%超+可塑剤25%未満
BASF Elastollan(登録商標)C78A15:熱可塑性100%
BASF Elastollan(登録商標)S80A15:熱可塑性100%
BASF Elastollan(登録商標)688A10N:熱可塑性100%
BASF Elastollan(登録商標)B80A11:熱可塑性100%
Dow Pellethane(登録商標)2102-75A:メチレンジフェニルジイソシアネート、1,4-ブタンジオールおよび2-オキセパノンからの熱可塑性ポリウレタン98%超+添加剤2%未満
Dow Pellethane(登録商標)2102-80A:メチレンジフェニルジイソシアネート、1,4-ブタンジオールおよび2-オキセパノンからの熱可塑性ポリウレタン98%超+添加剤2%未満
Dow Pellethane(登録商標)2355-75A:メチレンジフェニルジイソシアネート、1,4-ブタンジオールおよびポリブチレンアジペートからの熱可塑性ポリウレタン98%超+添加剤2%未満
Dow Pellethane(登録商標)2103-70A:メチレンジフェニルジイソシアネート、1,4-ブタンジオールおよびポリテトラメチレングリコールからの熱可塑性ポリウレタン98%超+添加剤2%未満
Dow Pellethane(登録商標)2103-80AE:メチレンジフェニルジイソシアネート、1,4-ブタンジオールおよびポリテトラメチレングリコールからの熱可塑性ポリウレタン98%超+添加剤2%未満
Bayer Texin(登録商標)985(U):芳香族熱可塑性ポリウレタン
Bayer Texin(登録商標)990R:芳香族熱可塑性ポリウレタン
Bayer Texin(登録商標)DP7-1165:芳香族熱可塑性ポリウレタン
Bayer Desmopan(登録商標)KU2-8651:芳香族熱可塑性ポリウレタン
Bayer Desmopan(登録商標)385:芳香族熱可塑性ポリウレタン
【0022】
成分(B)は、以下で定義する、ジオルガノポリシロキサン(B')ゴム、任意選択の補強性充填剤(B")、および成分(C)、(D)を含むシリコーン基剤の反応生成物であるシリコーンエラストマーである。ジオルガノポリシロキサン(B')は、その分子中に2〜20個の炭素原子をもつアルケニル基を少なくとも2個含む、高コンシステンシー(ゴム)ホモポリマーまたはコポリマーである。そのアルケニル基を具体的に例示すれば、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、およびデセニルが挙げられる。アルケニル官能基の位置はそれほど決定的ではなく、分子鎖末端位、分子鎖上の非末端位、またはその双方に結合していてよい。一般には、アルケニル基はビニルまたはヘキセニル基であり、この基はジオルガノポリシロキサンゴム中に0.001〜3重量パーセント、あるいは0.01〜1重量パーセントの濃度で存在している。
【0023】
成分(B')中でケイ素に結合している残りの(すなわちアルケニルでない)有機基は、脂肪族不飽和を含まない炭化水素またはハロゲン化炭化水素から独立に選択される。これを具体的に例示すれば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、およびヘキシルなど1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルなどのシクロアルキル基、フェニル、トリルおよびキシリルなど6〜12個の炭素原子を有するアリール基、ベンジル、フェネチルなど7〜20個の炭素原子を有するアラルキル基、および3,3,3-トリフルオロプロピルおよびクロロメチルなど1〜20個の炭素原子を有するハロゲン化アルキル基が挙げられる。これらの基が、ジオルガノポリシロキサン(B')ゴムが室温より低いガラス転移温度(または融解点)を有し、その結果そのゴムがエラストマーであるように選択されることは当然である。一般にメチル基は、成分(B')中でケイ素に結合している非アルケニル有機基の少なくとも50モルパーセント、あるいは少なくとも90モルパーセントを占める。
【0024】
したがって、ジオルガノポリシロキサン(B')はこのような有機基を含むホモポリマーまたはコポリマーであってよい。例としては、ジメチルシロキシ単位とフェニルメチルシロキシ単位、ジメチルシロキシ単位とジフェニルシロキシ単位、およびジメチルシロキシ単位、中でもジフェニルシロキシ単位とフェニルメチルシロキシ単位を含むゴムが含まれる。また、分子構造はそれほど決定的ではなく、例としては線状および部分分岐した直鎖が挙げられる。
【0025】
ジオルガノポリシロキサン(B')の具体例には、トリメチルシロキシ末端ブロックジメチルシロキサン-メチルヘキセニルシロキサンコポリマー、ジメチルヘキセニルシロキシ末端ブロックジメチルシロキサン-メチルヘキセニルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキシ末端ブロックジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキシ末端ブロックメチルフェニルシロキサン-ジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサンコポリマー、ジメチルビニルシロキシ末端ブロックジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサンコポリマー、ジメチルビニルシロキシ末端ブロックメチルフェニルポリシロキサン、ジメチルビニルシロキシ末端ブロックメチルフェニルシロキサン-ジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサンコポリマー、および少なくとも1つの末端基がジメチルヒドロキシシロキサンである類似のコポリマーが含まれる。低温分野用の一般的な系には、特に、ジメチルシロキサン単位のモル含有量が93%である、メチルフェニルシロキサン-ジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサンコポリマー、およびジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサンコポリマーが含まれる。
【0026】
成分(B')には2種以上のジオルガノポリシロキサンの組合せを含めてもよい。一般に、成分(B')は、その分子の各末端がビニル基で終わっているポリジメチルシロキサンホモポリマー、またはその主鎖に沿って少なくとも1個のビニル基を含むようなポリジメチルシロキサンホモポリマーである。
【0027】
本発明の目的のためには、ジオルガノポリシロキサンゴムの分子量であれば、米国材料試験協会(ASTM)試験法926で測定した場合に少なくとも30のウイリアムス可塑度を付与するに十分である。本明細書で可塑度とは、体積が2cm3、高さが約10mmの円柱形試験片を25℃で3分間49ニュートンの圧縮負荷をかけた後の試験片の厚み(ミリメートル)×100と定義される。前に触れたArklesによって使用された低粘度流体シロキサンの場合のようにこの成分の可塑度が30未満の場合には、本発明法による動的加硫によって調製されたTPSiVは均一性に乏しく、高シリコーン含有量(例えば、50〜70重量パーセント)において、完全にシリコーンだけの領域および完全に熱可塑性樹脂だけの領域があり、その組成物は弱く砕け易い。これらのゴムは、従来技術で使用されるシリコーン流体よりもはるかに粘度が高い。例えば、前に触れたArklesによって考えられたシリコーンは、100,000cS(0.1m2/s)の上限粘度を有し、そのような低粘度流体の可塑性をASTM D926の方法で測定するのは容易でないが、約24の可塑性に相当すると判断された。成分(B')の可塑性に絶対的な上限はないが、通常の混合機器での加工性を実際的に考慮するとその値には限界がある。一般に、可塑度は100〜200、あるいは120〜185であるべきである。
【0028】
コンシステンシー(稠度)が高く不飽和基を含有するジオルガノポリシロキサンを調製する方法は、広く知られており、本明細書で詳細に考察する必要なない。例えば、アルケニル官能性ポリマーを調製する代表的な方法には、同様のアルケニル官能性種の存在下における環状および/または線状ジオルガノポリシロキサンの塩基触媒平衡が含まれる。
【0029】
任意選択の成分(B")は、ジオルガノポリシロキサン(B')を補強することが知られている微粒化充填剤であり、一般に、少なくとも50m2/グラムの比表面積を有する、ヒュームドシリカおよび沈降シリカ、シリカエーロゲル、および二酸化チタンなどの、微粒化し熱に安定な鉱物から選択される。ヒュームドシリカは、最大450m2/グラムに達することも可能なその高表面積を基礎にした代表的な補強性充填剤であり、ヒュームドシリカは50〜400m2/g、あるいは200〜380m2/gの表面積を有する。一般に、ヒュームドシリカ充填剤には、シリコーンゴムの技術分野で一般的に行われているように、その表面に疎水性を付与するための処理が加えられる。この処理は、シリカをシラノール基または加水分解可能なシラノール基前駆体を含む液状有機ケイ素化合物と反応させることによって達成できる。シリコーンゴムの技術分野では抗クリープ剤または可塑剤とも呼ばれる充填剤処理剤として使用できる化合物には、低分子量の液状ヒドロキシまたはアルコキシ末端ポリジオルガノシロキサン、ヘキサオルガノジシロキサン、シクロジメチルシラザンおよびヘキサオルガノジシラザンが含まれる。別法では、処理剤が2〜100、あるいは2〜10の平均重合度(DP)を有するヒドロキシ末端オリゴマー性ジオルガノポリシロキサンであり、シリカ充填剤の各100重量部に対し5〜50重量部の濃度で使用される。成分(B')がビニル官能性またはヘキセニル官能性ポリジメチルシロキサンである場合には、この処理剤は一般にヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンである。
【0030】
補強性充填剤(B")を使用する場合には、ゴム(B')の各100重量部に対して充填剤を200重量部、あるいは5〜150、更には20〜100重量部の濃度で添加してシリコーンエラストマー(B)を調製する。このようなブレンド物を、シリコーン分野の当業者は通常「ベース」(基剤)と称している。ブレンド操作は、一般に、二本ロールミル、密閉式ミキサー、またはその他適当な装置を使用し、室温で実施される。別法としては、後で更に説明するように、ゴムの動的加硫の前の混合中にその場所で補強性充填剤を含有するシリコーンエラストマーを形成できる。後者の場合には、補強性充填剤がジオルガノポリシロキサンゴム中によく分散するまでは、混合温度をポリエステル樹脂の融点よりも低く保持する。
【0031】
成分(C)は、本発明組成物のジオルガノポリシロキサン(B')に対する架橋剤(硬化剤)として機能できる有機ヒドリドケイ素化合物であり、各分子中にケイ素に結合した少なくとも2個の水素原子を含むオルガノポリシロキサンであるが、ケイ素に結合した水素を少なくとも0.1重量パーセント、あるいは0.2〜2、更には0.5〜1.7パーセント含有する。当業者であれば、ジオルガノポリシロキサン(B')を硬化する場合、成分(B')または成分(C)の一方または両方が2つより多い官能基をもたなければならない(すなわち、これらの官能基の総数が平均で4より大であるべきである)ことを当然認識するであろう。成分(C)中でケイ素に結合した水素の位置はそれほど決定的ではなく、分子鎖末端位、分子鎖に沿った非末端位、またはその両方の位置で結合してもよい。成分(C)のケイ素に結合した有機基は、その実施形態に含まれるジオルガノポリシロキサン(B')に関連して先に説明した任意の炭化水素またはハロゲン化炭化水素基から独立に選択される。成分(C)の分子構造もそれほど決定的ではなく、例としては、直鎖、部分分岐直鎖、分岐、環状および網状構造、線状のホモポリマーまたはコポリマーが挙げられる。
【0032】
以下に成分(C)の例を示す。
PhSi(OSiMe2H)3などの低分子シロキサン
トリメチルシロキシ末端ブロックメチルジヒドロポリシロキサン
トリメチルシロキシ末端ブロックジメチルシロキサン-メチルジヒドロシロキサンコポリマー
ジメチルヒドリドシロキシ末端ブロックジメチルポリシロキサン
ジメチル水素シロキシ末端ブロックメチル水素ポリシロキサン
ジメチルヒドリドシロキシ末端ブロックジメチルシロキサン-メチルジヒドロシロキサンコポリマー
環状メチル水素ポリシロキサン
環状ジメチルシロキサン-メチルヒドリドシロキサンコポリマー
テトラキス(ジメチル水素シロキシ)シラン
(CH3)2HSiO1/2、(CH3)3SiO1/2、およびSiO4/2単位から構成されるシリコーン樹脂、および
(CH3)2HSiO1/2、(CH3)3SiO1/2、CH3SiO3/2、PhSiO3/2およびSiO4/2単位から構成される(以後Phはフェニル基を意味する)シリコーン樹脂。
【0033】
代表的な有機ヒドリドケイ素化合物は、R''''が1〜20の炭素原子を有するアルキル基、フェニルまたはトリフルオロプロピルから独立に選択されるR''''3SiO1/2またはHR''''2SiO1/2のいずれかで終わるR''''HSiO単位をもつホモポリマーまたはコポリマーである。R''''は一般にメチルである。また、一般に、成分(C)の粘度は25℃で0.5〜1,000mPa-s、あるいは2〜500mPa-sである。更にこの成分は、一般に、ケイ素に結合した0.5〜1.7重量パーセントの水素を有し、ケイ素に結合した0.5〜1.7パーセントの水素を有しかつ25℃で2〜500mPa-sの粘度を有する、本質的にメチルヒドリドシロキサン単位から構成されるポリマーまたは本質的にジメチルシロキサン単位とメチルジヒドリドシロキサン単位から構成されるコポリマーから選択される。一般に、このような系はトリメチルシロキシまたはジメチルヒドリドシロキシ基から選択される末端基を有する。これらのSiH官能性材料は当技術分野で広く知られており、その多くが商業的に入手可能である。
【0034】
成分(C)は、上で説明した系の2つまたはそれ以上を組み合わせたものでもよく、その中のSiHと成分(B')中のSi-アルケニルとのモル比が1より大きく、一般には50未満、あるいは3〜30、更には4〜20であるような濃度で使用される。
【0035】
ヒドロシリル化触媒(D)は本組成物中でのジオルガノポリシロキサン(B')の硬化を促進する。このヒドロシリル化触媒の例としては、白金黒、シリカ担持白金、炭素担持白金、塩化白金酸、塩化白金酸アルコール溶液、白金/オレフィン錯体、白金/アルケニルシロキサン錯体、白金/β-ジケトン錯体、白金/ホスフィン錯体などの白金触媒、塩化ロジウムおよび塩化ロジウム/ジ(n-ブチル)スルフィド錯体などのロジウム触媒、およびパラジウム炭素、塩化パラジウムなどのパラジウム触媒が挙げられる。成分(D)は一般に塩化白金酸、二塩化白金、四塩化白金、Willingの米国特許第3,419,593号により調製されジメチルビニルシロキシ末端ブロックポリジメチルシロキサンで希釈した、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンを反応させて作られる白金錯体触媒、およびBrownらの米国特許第5,175,325号により調製される塩化白金とジビニルテトラメチルジシロキサンの中和錯体などの、白金をベースとする触媒である。典型的には、触媒(D)は塩化白金とジビニルテトラメチルジシロキサンの中和錯体である。
【0036】
成分(D)は、成分(B')と(C)の反応を促進し、それによってジオルガノポリシロキサンを硬化し、エラストマーを形成するに十分な触媒量で本組成物に添加される。触媒は一般に熱可塑性エラストマー組成物の総重量を基準にして金属原子が0.1〜500百万分率(ppm)、あるいは0.25〜100ppmとなるように添加される。
【0037】
場合によっては本発明の組成物に安定剤、成分(E)を添加できる。安定剤(E)は抗酸化化合物または配合品など、高温での熱可塑性樹脂の分解を防ぐ当技術分野で周知の任意の安定剤から選択できる。一般に、安定剤(E)にはヒンダードフェノール、チオエステル、ヒンダードアミン、2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジン-4-オン)、または3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸、ヘキサデシルエステルから選択される少なくとも1種の有機化合物が含まれる。本発明で安定剤(E)として適した有機化合物の例は、米国特許第6,417,293号の開示されており、該特許を参照として本明細書に組み込む。
【0038】
本発明に有用な典型的安定剤は、テトラキス(メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメート))メタン、N,N'-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナムアミド)、およびN-フェニル-ベンゼンアミン(ジフェニルアミン)と2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物(例えばCiba Specialty Chemical社のIrganox5057)である。
【0039】
シリコーンエラストマー(B)を加えた熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)の各100重量部に対し0.01〜5重量部の安定剤(E)を使用する。一般に、(A)プラス(B)の各100重量部に対して0.1〜2重量部、あるいは0.1〜1重量部の(E)を添加する。
【0040】
本発明の組成物には、前記の成分(A)に加えて、(E)を通して少量(すなわち、組成物総量の40重量パーセント未満、一般には20重量パーセント未満)の任意選択添加剤(F)を組み込むことができる。この任意選択添加剤の例としては、それに限定はされないが、ガラス繊維および炭素繊維、石英、タルク、炭酸カルシウム、珪藻土、酸化鉄、カーボンブラックおよび微粒化金属などの充填剤、潤滑剤、可塑剤、分散剤、ポリジメチルシロキサン流体、顔料、染料、帯電防止剤、発泡剤、水和化酸化セリウムなどの熱安定剤、酸化防止剤、およびハロゲン化炭化水素、三水和アルミナ、水酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、珪灰石、および有機リン化合物などの難燃(FR)添加剤が挙げられる。
【0041】
任意選択添加剤(F)は一般に動的加硫後の最終熱可塑性組成物に添加されるが、その添加剤が動的加硫に悪影響を及ぼさないなら調製中の任意の時点で添加してもよい。勿論、上記添加成分は最終組成物に望まれる性質をほとんど損なわない濃度でのみ使用される。
【0042】
本発明の目的のためには、シリコーンエラストマー(B)と熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)との重量比は5:95〜85:15、あるいは30:70〜70:30、更には40:60〜60:40である。この比が5:95より小さい場合には、得られる組成物の物理的性質が熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)の性質により類似することが見出された。一方、上記の比は85:15を超えるべきではなく、この値を超えると組成物が弱く、硬化シリコーンエラストマーに類似する傾向がある。この上限の他にも、成分のある与えられた組合せにおける(B)と(A)との最大重量比は加工性の観点からも制限され、シリコーンエラストマーの含有量があまりに多いと、部分的に架橋した連続相が生じ、もはや熱可塑性ではなくなる。本発明の目的のためには、この実際的限界はごく通常の定型的実験によって容易に決定され、その限界は組成物を圧縮成形できる成分(B)の最大濃度を意味している。
【0043】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は再加工が可能である。本明細書で「再加工可能」とは、組成物を射出成形およびブロー成形など、これまでの通常の成形操作で容易に加工できることを意味する。一般に、続いて再加工される本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、概してその元の値と同様の物理的性質(例えば、引張強さ、伸び、圧縮永久ひずみ、および硬さ)を示す(すなわち、この再加工によって熱可塑性エラストマーはほとんど変化しない)。
【0044】
なんらかの理論によって限定されるものではないが、本発明者らは、シリコーンエラストマーをポリウレタンポリマーに混合する方式の本質的結果として、本発明組成物の再加工が可能になると考える。本発明の組成物には必要でないが普通の例として、シリコーンエラストマーを個別の粒子としてポリウレタンポリマー中に分散させる。言い換えれば、シリコーンエラストマー粒子を、「連続相」とみなせるポリウレタンポリマー中に「内部相」として分散させる。一般に、シリコーンエラストマー粒子は30マイクロメートル未満、あるいは20マイクロメートル未満、更には10マイクロメートル未満の平均粒径を有する。本明細書で用いる場合、「平均粒径」とは、一般に、内部シリコーンエラストマー粒子の平均面積に関して、顕微鏡的技法で組成物の代表サンプルを評価することによって普通決定される面積平均粒径を意味する。別法としては、本発明組成物は相互連続モルフォロジーをもつことが可能であり、シリコーンエラストマーとポリウレタンポリマーが2つの併存連続相(シリコーンエラストマーおよびポリウレタンポリマーが各1相)を生成し、どちらの相も内部相とも連続相とも考えられないように混合される。これらの組成物は、前に定義したように再加工が可能であれば、本発明の範囲内であると考えられる。
【0045】
本発明の組成物は、更に、出発ポリウレタンポリマーまたはシリコーンエラストマー、あるいはこれら2つの単なる混合物に比べ独特の物理的性質を有することができる。組成物に関して当初または熱老化後に試験される引張強さ、引張永久ひずみ、伸び、圧縮永久ひずみ、硬さ、磨耗抵抗、摩擦係数などの物理的性質は、本発明組成物の様々な実施形態に対する根拠を提供する。
【0046】
1つの実施形態としては、ASTM D2240(ショアA)で測定した場合、熱可塑性エラストマー組成物は、可塑剤の入っていない熱可塑性ポリウレタンポリマーよりも10ポイント低い、あるいは20ポイント低い、更には50ポイント低い硬さ値を有している。本明細書で使用する場合、「可塑剤がない」とは、可塑剤として当分野で既知の材料が本発明の熱可塑性エラストマー組成物に添加されていないことを意味する。
【0047】
他の実施形態としては、その熱可塑性エラストマー組成物を120℃で少なくとも1000時間熱老化させた後でも、熱可塑性エラストマー組成物の引張強さ、破断伸び、および硬さから選択される機械的性質は、その当初値の60%、あるいは40%、更には30%しか減少しない。「熱老化」とは、熱可塑性エラストマーのサンプルを、通常の大気条件例えば一般には空気循環オーブン中で所定時間高温にさらす過程を指す。ASTM D573-99がこのような熱老化技法の例である。本発明では、引張強さおよび破断伸びはASTM D412(ダイD)で規定されたものであり、硬さはASTM D2240で規定されたものである。
【0048】
更に他の実施形態としては、ASTM D395(B法)によって測定した場合、熱可塑性エラストマー組成物が、熱可塑性ポリウレタンポリマーより5パーセント低い、あるいは10パーセント低い、更には30パーセント低い、高温(例えば120℃)圧縮永久ひずみを有する。
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマーは、得られる混合物が前に説明したように再加工可能な熱可塑性シリコーンエラストマーを与える場合には、既知の混合方法によりシリコーンエラストマー(B)を熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)と完全混合することによって調製できる。一般には、熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)、ジオルガノポリシロキサン(B')、場合によっては充填剤(B")を混合し、有機ヒドリドケイ素化合物(C)および触媒(D)を用いてジオルガノポリシロキサンを動的に加硫することによって、熱可塑性シリコーンエラストマーを調製できる。任意選択の安定剤(E)は、どの時点でも添加できるが、一般には成分(A)、(B)および(C)の完全混合に引き続き、かつ、成分(D)を入れる前に添加する。
【0050】
本発明は、また
(I)熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)、少なくとも30のウイリアムス可塑度を有しかつその分子中に平均で少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン(B')を100重量部、および場合によっては補強性充填剤(B")を最大で200重量部含むシリコーン基材(B)(前記シリコーンエラストマーの前記熱可塑性ポリウレタンポリマーに対する重量比は5:95〜85:15である)、その分子中にケイ素に結合した水素を平均で少なくとも2個含む有機ヒドロケイ素化合物(C)、およびヒドロシリル化触媒(D)(成分(C)および(D)は前記のジオルガノポリシロキサン(B')を硬化するに十分な量である)を混合すること、および、
(II)前記ジオルガノポリシロキサン(B')を動的に加硫することを含む、熱可塑性エラストマー組成物の調製方法を提供する。
【0051】
混合は、密閉式ミキサーまたは商業的調製で一般的である押出機など、熱可塑性ポリウレタンポリマーに成分を均一に分散することが可能な任意の装置内で実施され、その温度は、一般に良好な混合と実際上両立させながら樹脂を分解させないような低い温度に保持される。個々の系で異なるが、一般に混合順序はそれほど決定的ではなく、例えば、(A)の軟化点より高い温度で成分(A)および(C)を(B)に添加し、次いで(D)を導入して動的加硫を開始できる。一般には、動的加硫が始まる前に、熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)中に成分(B)から(D)までをよく分散させるべきである。
【0052】
混合の別な実施形態には、成分(B)、(C)、(D)、(E)、および(F)のプレミックスを作ることが含まれる。次いで、このプレミックスを成分(A)に添加し、続いて加熱して硬化処理を開始する。本発明者らは、この混合方式であれば架橋剤および触媒が少なくて済み、特に(F)がDow Corning(登録商標)200流体(1000cs)などのポリジメチルシロキサン流体である場合には、この方式によって経済的に加工処理ができる。別法としては、他の成分を添加する前に、触媒(D)、および場合によっては(F)、ポリジメチルシロキサン流体を前混合することができる。
【0053】
前に触れたように、補強性充填剤を含むシリコーンエラストマーをその場で形成することも考えられる。例えば、樹脂の軟化点よりも低い温度の熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)およびジオルガノポリシロキサンゴム(B')が入っている混合機に任意選択の補強性充填剤を加え、ゴム中に充填剤を完全分散させてもよい。次いで、昇温して樹脂を融解させ、その他の成分を添加し、混合/動的加硫を実施する。最適温度、混合時間およびその他の混合操作条件は、個々の樹脂および添加を予定しているその他の成分によって異なり、これらの条件は当業者による通常の定型的実験によって決めればよい。しかし、この混合および動的加硫は、一般には、乾燥した窒素、ヘリウムまたはアルゴンなどの乾燥不活性雰囲気下(すなわち、成分と不都合な反応を行わない雰囲気、さもないとヒドロシリル化による硬化が阻害される)で実施される。
【0054】
本発明法による通常の手順では、樹脂の軟化点未満(例えば外界条件)で熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)、シリコーン基材(B)、および場合によっては有機ヒドリドケイ素化合物(C)をブレンドしてプレミックスを形成することが含まれる。次いで、このプレミックスをボウルミキサーまたは密閉式ミキサー中で、一般には樹脂の軟化点よりも35℃までのわずかに高い温度に制御された乾燥不活性ガスを用いて溶融し、それに触媒(D)を混合する。溶融粘度(混合トルク)が、成分(B)のジオルガノポリシロキサンの動的加硫が完了したことを示す定常状態値に到達するまで混合を続ける。別法としては、例えば二軸押出機を用いる押出法を用いて、同様の混合手順を連続的に実施できる。
【0055】
本発明方法によって調製される熱可塑性エラストマー組成物は、前に規定したように再加工が可能である。一般に、本発明方法によって調製される熱可塑性エラストマー組成物は、更に、出発ポリウレタンポリマーまたはシリコーンエラストマーの物理的性質、あるいはこの2つの単なる混合物の物理的性質と比較して独特の物理的性質を有することができる。組成物に関して当初または熱老化後に試験された引張強さ、引張り永久ひずみ、伸び、圧縮永久ひずみ、硬さ、磨耗抵抗、摩擦係数などの物理的性質は、本発明組成物の様々な実施形態に対する根拠を提供する。ここで用語「単純ブレンド」または「物理ブレンド」とは、熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)とシリコーンエラストマー(B)の重量比が本発明の熱可塑性エラストマー組成物の比と同一であるが硬化剤を使用していない(すなわち、成分(C)もしくは(D)のいずれか、または両方が省かれており、したがってゴムが硬化されていない)組成物を意味する。
【0056】
上記方法によって調製された熱可塑性エラストマーを、次いで、押出成形、真空成形、射出成形、ブロー成形または圧縮成形などの従来技術によって加工できる。更に、機械的性質の悪化なしで、あるいはほとんどなしで、これらの組成物を再加工(リサイクル)することができる。
【0057】
本発明の新規な熱可塑性エラストマーは、とりわけ自動車、エレクトロニクス、電気、通信、電気器具および医療分野用の組立部品およびコンポーネント用に使用できる。例えば、電線およびケーブルの絶縁材、ベルト、ホース、ブーツ、ベローズ、ガスケット、燃料配管コンポーネント、および空気ダクトなどの自動車および電機器具コンポーネント、建築用シーラント、ボトル用栓、家具コンポーネント、ハンドヘルド器具用軟質感グリップ(例えば器具のハンドル)、医療器具、スポーツ用品および一般ゴム部品を製造するのに使用できる。
【実施例】
【0058】
本発明の組成物と方法を更に例示するために以下の実施例を開示するが、本発明を限定するものと解釈すべきでない。別記しない限り、実施例中の部およびパーセントは全て重量基準であり、測定は全て23℃で得られたものである。
【0059】
材料
実施例では以下の材料を使用した。
基剤1はLCS740 Silastic(登録商標)シリコーンゴム(Dow Corning社、ミッドランド、ミシガン州)であり、
基剤2はHS-70 Silastic(登録商標)シリコーンゴム(Dow Corning社、ミッドランド、ミシガン州)であり、
基剤3はDC4-4758 Silastic(登録商標)シリコーンゴム(Dow Corning社、ミッドランド、ミシガン州)であり、
基剤4はHS-71 Silastic(登録商標)シリコーンゴム(Dow Corning社、ミッドランド、ミシガン州)である。
X-LINKERは本質的に68.4%のMeHSiO単位、28.1%のMe2SiO単位、および3.5%のMe3SiO1/2単位から構成され、粘度が約29mPa・sであるSiH-官能性架橋剤である。これは平均分子式MD16D'39Mに相当する(但し、Mは(CH3)3Si-O-、Dは-Si(CH3)2-O-、およびD'は-Si-(H)(CH3)-O-である)。
触媒は1,3-ジエチニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの白金錯体1.5%、テトラメチルジビニルジシロキサン6%、ジメチルビニル末端ポリジメチルシロキサン92%、および6個以上のジメチルシロキサン単位を有するジメチルシクロポリシロキサン0.5%である。
200流体はDow Corning200fluid(登録商標)(1000cS) (Dow Corning社、ミッドランド、ミシガン州)、トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン流体である。
使用したポリウレタンエラストマー(TPU)は、
TPU1=BASF Elastollan(登録商標)C60A10W:熱可塑性ポリウレタン65%超+可塑剤35%未満(TPUおよび可塑剤の組成は両方とも販売者のMSDSに開示されていない)
TPU2=BASF Elastollan(登録商標)C70A10W:熱可塑性ポリウレタン75%超+可塑剤25%未満(TPUおよび可塑剤の組成は両方とも販売者のMSDSに開示されていない)
TPU3=Dow Pellethane(登録商標)2103-70A:メチレンジフェニルジイソシアネート、1,4-ブタンジオールおよびポリテトラメチレングリコールからの熱可塑性ポリウレタン98%超+添加剤2%未満
TPU4=BASF Elastollan(登録商標)S80A15:熱可塑性樹脂100%(TPUの組成は販売者のMSDSに開示されていない)
TPU5=BASF Elastollan(登録商標)C85A10
TPU6=Bayer Texin(登録商標)DP7-1165:芳香族熱可塑性ポリウレタン
TPU7=BASF Elastollan(登録商標)WY03995-5
TPU8=BASF Elastollan(登録商標)1180A50
TPU9=Bayer Texin(登録商標)985(U):芳香族熱可塑性ポリウレタン
TPU10=BASF Elastollan(登録商標)S85A50DPN、である。
【0060】
成分の混合は、25mmのWerner-Pfleiderer二軸押出機を使用し、加工部を180℃〜200℃に加熱し、軸回転速度を250rpm〜500rpm、押出速度を10kg/hr〜20kg/hrで実施した。10℃〜30℃の成形温度で4.00インチ(10.16cm)×4.00インチ(10.16cm)×0.062インチ(0.16cm)のプラーク板を180℃〜200℃での射出成形することにより試験片を調製した。プラーク板からダイD試験バーを切り出し、レーザー伸縮計を用いASTM D412によって伸びを測定した。
【0061】
(実施例1-4)
比較例
商業的に入手可能な材料の代表であるいくつかのポリウレタンエラストマー(TPU)についてその熱老化挙動を評価した。結果を表1に要約する。
【0062】
【表1】

【0063】
(実施例5-8)
25mmのWerner-Pfleiderer二軸押出機を使用し、加工部を180℃〜200℃に加熱し、軸回転速度を250rpm〜500rpm、押出速度を10kg/hr〜20kg/hrとしポリウレタン-シリコーンエラストマーを調製した。配合処方および得られた性質を表2に要約する。これらの結果から、ポリウレタン-シリコーンエラストマー組成物が熱老化後もその物理的性質を維持することがわかる。特に、引張強さ、破断伸び、ショアA硬度値に関する機械的性質が熱老化後もほとんど低下しなかった。
【0064】
【表2】


【0065】
(実施例9-12)
各種ポリウレタンエラストマーを使用し、前記の手順によりポリウレタン-シリコーンエラストマー組成物を調製した。特に、「エステル」対「エーテル」型のポリウレタンを調製した。当初、ならびに120℃および150℃で1008時間熱老化させた後の物理的性質を評価した。配合処方および得られた物理的性質を表3に要約する。
【0066】
【表3】

【0067】
(実施例13-16)
各種シリコーン基剤を使用し、前記の手順によりポリウレタン-シリコーンエラストマー組成物を調製した。当初、ならびに120℃および150℃で1008時間熱老化させた後の物理的性質を評価した。配合処方および得られた物理的性質を表4に要約する。
【0068】
【表4】

【0069】
(実施例17-21)
比較例
前記の手順によりポリウレタン-シリコーンエラストマー組成物を調製し、対応するTPUおよびシリコーン基剤の単純ブレンド、すなわち動的加硫法を使用していないものと比較した。配合処方および得られた物理的性質を表5に要約する。
【0070】
単純ブレンド品は、あまりにも軟らかく粘着性であり、いくつかの物理的性質を評価するためのペレット化が、在来の水浴冷却およびストランドカッターを使用してはできなかった。また、単純ブレンド品は、射出成形でひどい層間剥離(層化、相分離)が生じた。更に、単純ブレンド品は、動的加硫法を使用して調製したポリウレタン-シリコーンエラストマーと比較すると、機械的性質(引張強さ、破断伸び)が劣り、弾性特性(引張永久ひずみ、圧縮永久ひずみ)も劣っていた。その結果、これらの単純ブレンド品は再加工ができなかった。
【0071】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)、シリコーンエラストマー(B)を含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記シリコーンエラストマー(B)が、少なくとも30のウイリアムス塑性度を有しかつその分子中に平均で少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンゴム(B')を100重量部と、場合により補強性充填剤(B")を最大で200重量部と、その分子中にケイ素に結合した水素を平均で少なくとも2個含む有機ヒドリドケイ素化合物(C)と、ヒドロシリル化触媒(D)とを含み、成分(C)および(D)が前記ジオルガノポリシロキサン(B')を硬化するのに十分な量で存在する、動的加硫の反応生成物であり、
前記シリコーンエラストマー(B)と前記熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)の重量比が40:60から60:40であり、かつ再加工可能な熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー組成物を120℃で少なくとも1000時間熱老化させた後の、該熱可塑性エラストマー組成物の硬さの低下量が、ASTM D2240によって測定した場合、その元の値の40%を超えない、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー組成物を120℃で少なくとも1000時間熱老化させた後の、該熱可塑性エラストマー組成物の硬さの低下量が、ASTM D2240によって測定した場合、その元の値の30%を超えない、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタンポリマーが熱可塑性ポリウレタンエラストマーである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記ジオルガノポリシロキサン(B')が、本質的にジメチルシロキサン単位およびメチルビニルシロキサン単位から構成されるコポリマー、ならびに本質的にジメチルシロキサン単位およびメチルヘキセニルシロキサン単位から構成されるコポリマーから選択されるゴムであり、補強性充填剤(B")が存在し、それがヒュームドシリカである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
成分(C)が、ケイ素に結合した水素を0.5から1.7パーセント含有しかつ25℃で2から500mP-sの粘度を有する、本質的にメチルヒドリドシロキサン単位から構成されるポリマー、または本質的にジメチルシロキサン単位およびメチルヒドリドシロキサン単位から構成されるコポリマーから選択される、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記触媒(D)が、塩化白金とジビニルテトラメチルジシロキサンとの中和錯体である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
更に、安定剤(E)を含む、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記安定剤が、ヒンダードフェノール、チオエステル、ヒンダードアミン、2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジン-4-オン)、または3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸、ヘキサデシルエステルから選択される少なくとも1種の有機化合物である、請求項8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
(I)熱可塑性ポリウレタンポリマー(A)と、少なくとも30のウイリアムス可塑度を有し、かつその分子中に平均で少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン(B')を100重量部、および場合によっては、補強性充填剤(B")を最大で200重量部含むシリコーン基剤(B)と(但し、前記シリコーンエラストマーと前記熱可塑性ポリウレタンポリマーの重量比は35:65から85:15)、その分子中にケイ素に結合した水素を平均で少なくとも2個含む有機ヒドリドケイ素化合物(C)と、ヒドロシリル化触媒(D)と(但し、成分(C)および(D)は前記のジオルガノポリシロキサン(B')を硬化するに十分な量である)を混合すること、および、
(II)前記ジオルガノポリシロキサン(B')を動的に加硫すること
を含む熱可塑性エラストマーの調製方法。
【請求項11】
前記熱可塑性ポリウレタンポリマーが熱可塑性ポリウレタンエラストマーである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ジオルガノポリシロキサン(B')が、本質的にジメチルシロキサン単位およびメチルビニルシロキサン単位から構成されるコポリマー、ならびに本質的にジメチルシロキサン単位およびメチルヘキセニルシロキサン単位から構成されるコポリマーから選択されるゴムであり、補強性充填剤(B")が存在し、それがヒュームドシリカである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
成分(C)が、ケイ素に結合した水素を0.5から1.7パーセント有しかつ25℃で2から500mP-sの粘度を有する、本質的にメチルヒドリドシロキサン単位から構成されるポリマー、または本質的にジメチルシロキサン単位およびメチルヒドリドシロキサン単位から構成されるコポリマーから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒(D)が、塩化白金とジビニルテトラメチルジシロキサンとの中和錯体である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
更に、安定剤(E)を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記安定剤が、ヒンダードフェノール、チオエステル、ヒンダードアミン、2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジン-4-オン)、または3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸、ヘキサデシルエステルから選択される少なくとも1種の有機化合物である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項10から16までの方法のいずれかによって製造された製品。

【公開番号】特開2009−287035(P2009−287035A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206114(P2009−206114)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【分割の表示】特願2003−538266(P2003−538266)の分割
【原出願日】平成14年10月22日(2002.10.22)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】