説明

熱可塑性ポリウレタン

【課題】 耐熱性、耐熱水性および弾性回復性に優れた熱可塑性ポリウレタンの提供。
【解決手段】 結晶化エンタルピーが70J/g以下である数平均分子量1000〜5000のポリエステルポリオール(A−1)および数平均分子量500〜2500のポリエーテルポリオール(A−2)からなり、ポリエステルポリオール(A−1)およびポリエーテルポリオール(A−2)の配合割合が80モル%以上であるポリオール組成物であって、水酸基平均官能基数(f)が2.006〜2.100であるポリオール組成物(A);有機ジイソシアネート(B);並びに鎖伸長剤(C)を下記式:
1.00≦b/(a+c)≦1.10
(式中、aはポリオール組成物(A)中のポリオールの全モル数、bは有機ジイソシアネート(B)のモル数、cは鎖伸長剤(C)のモル数を表す。)
を満足する割合で反応させて得られる熱可塑性ポリウレタンにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタンに関する。本発明の熱可塑性ポリウレタンは、耐熱性、耐熱水性、弾性回復性に優れるポリウレタン弾性繊維を与える。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維の製造方法としては、乾式紡糸法、湿式紡糸法、溶融紡糸法などの方法が知られている。そのうちでも、溶融紡糸法により得られるポリウレタン弾性繊維は、熱セット性、耐摩耗性、透明性が優れていて、しかも製造コストが低いことなどから、近年、その使用量が伸びている。しかしながら、溶融紡糸法により得られるポリウレタン弾性繊維は、乾式紡糸法により得られるポレウレタン弾性繊維に比べて、強固なハードセグメントが形成され難く、耐熱性、耐熱水性が十分でなかった。
【0003】
そのため、以前より、溶融紡糸法により得られるポリウレタン弾性繊維の耐熱性および耐熱水性を向上させる方法が種々提案されている。そのような従来法としては、繊維を構成するポリウレタンの分子間に架橋構造を形成させる方法が知られており、例えば、特許文献1〜3などには、トリメチロールプロパン等の3官能以上の多官能性鎖伸長剤を用いてポリウレタンのハードセグメント部分に架橋構造を形成させることが開示されている。しかしながら、ハードセグメント部分に架橋構造を形成させた上記の従来のポリウレタンは、その耐熱性が未だ充分ではなく、そのため、それから得られるポリウレタン弾性繊維の耐熱性も充分に満足のゆくものではない。
【0004】
また、上記した従来法とは別に、低残留歪み性と動的弾性に優れるポリウレタン弾性繊維を得ることを目的として、2級水酸基を有するグリコールおよび3官能以上の多価アルコールをジカルボン酸と反応させて得られるヒドロキシポリエステル並びに鎖伸長剤を有機ジイソシアネートと反応させてポリウレタンを製造し、そのポリウレタンを用いて溶融紡糸を行ってポリウレタン弾性繊維を得る方法が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、この方法によって得られるポリウレタン弾性繊維は耐熱性が劣っており、耐熱性に優れたポリウレタン弾性繊維を得るという目的を達成できない。しかも、本発明者らがこの特許文献4の実施例に記載されている方法に準じてポリウレタンおよびポリウレタン弾性繊維を製造したところ、その結果得られたポリウレタン弾性繊維は、耐熱性が劣っているだけでなく、耐熱水性などの性質にも劣っていることが判明した。
【0005】
また、特許文献5には、水酸基官能基数が2よりも大きいポリオールを用いてポリウレタンを製造し、湿式化学紡糸法によってポリウレタン弾性繊維を製造する方法が提案されているが、湿式化学紡糸法による場合は糸の均質性、耐摩耗性が劣ったものとなりやすい。一方、特許文献6および7には、ポリエステルジオールとポリエーテルジオールの混合物から形成されたソフトセグメントのプレポリマーを用いて製造されたポリウレタンが紡糸時等の溶液安定性に優れることが記載されているが、これらのポリウレタンは、耐熱性、耐熱水性などが不十分である。
【0006】
このような中、特許文献8には、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを含むジオールと炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸成分の反応によって得られるポリエステルジオールを有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤と共に用いてポリウレタンを製造し、そのポリウレタンから繊維を製造すると、それにより得られるポリウレタン弾性繊維は、耐塩素性、耐水性、耐かび性、弾性回復性、耐熱性、耐熱水性、伸度などに優れることが開示されている。さらに、特許文献9では、ポリエステルポリオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維において、ポリエステルポリオールなどのポリウレタン原料の組成を特定なものとすることで、前記した各種性能を保持したまま繊維の均一性が向上することが開示されている。しかしこれらのポリウレタン弾性繊維では、耐熱性や耐熱水性はある程度改善されているが、これらの性能をより一層改善することが望まれている。
【特許文献1】特開昭48−58095号公報
【特許文献2】特公昭50−10630号公報
【特許文献3】特開平6−294012号公報
【特許文献4】特公昭42−3958号公報
【特許文献5】特公昭42−5251号公報
【特許文献6】特開昭59−179513号公報
【特許文献7】特開昭63−159519号公報
【特許文献8】特開平3−220311号公報
【特許文献9】特開平9−49120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかして、本発明の目的は、耐塩素性、耐水性、耐かび性、弾性回復性、伸度などの性能に優れるとともに、特に耐熱性、耐熱水性の高い熱可塑性ポリウレタンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、[1] 結晶化エンタルピーが70J/g以下である数平均分子量1000〜5000のポリエステルポリオール(A−1)および数平均分子量500〜2500のポリエーテルポリオール(A−2)からなり、ポリエステルポリオール(A−1)およびポリエーテルポリオール(A−2)の配合割合が80モル%以上であるポリオール組成物であって、下記式(I):
f={ポリオール組成物中のポリオールに含まれる水酸基の全モル数}/{ポリオール組成物中のポリオールの全モル数} (I)
で示される水酸基平均官能基数(f)が2.006〜2.100であるポリオール組成物(A);
[2] 有機ジイソシアネート(B);並びに
[3] 鎖伸長剤(C)
を下記式(II):
1.00≦b/(a+c)≦1.10 (II)
(式中、aはポリオール組成物(A)中のポリオールの全モル数、bは有機ジイソシアネート(B)のモル数、cは鎖伸長剤(C)のモル数を表す。)
を満足する割合で反応させて得られる熱可塑性ポリウレタンに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性ポリウレタンおよびそれからなるポリウレタン弾性繊維は、紡糸安定性、耐熱性、耐熱水性、弾性回復性、伸度、糸の均質性などの諸特性に優れており、それらの特性を活かして多くの用途に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、上記のポリエステルポリオール(A−1)およびポリエーテルポリオール(A−2)からなり、ポリエステルポリオール(A−1)およびポリエーテルポリオール(A−2)の配合割合が80モル%以上であるポリオール組成物(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖伸長剤(C)を、下記式(II):
1.00≦b/(a+c)≦1.10 (II)
(式中、aはポリオール組成物(A)中のポリオールの全モル数、bは有機ジイソシアネート(B)のモル数、cは鎖伸長剤(C)のモル数を表す。)
を満足する割合で反応させて得られる熱可塑性ポリウレタンである。ここで、b/(a+c)の値が1.00未満であると、熱可塑性ポリウレタンの分子量が低くなることにより、それから得られるポリウレタン弾性繊維の耐熱性や耐熱水性が劣ったものとなる。一方、b/(a+c)の値が1.10を越えると、ポリウレタン弾性繊維を製造する際の紡糸安定性が悪化し、得られるポリウレタン弾性繊維は均質性に欠けたものとなる。b/(a+c)の値は、1.00〜1.07の範囲内にするのが、熱可塑性ポリウレタン、ひいてはそれから得られるポリウレタン弾性繊維の紡糸安定性や耐熱性、耐熱水性などを良好なものとする点から好ましい。
【0011】
そして、本発明の熱可塑性ポリウレタンを構成するポリエステルポリオール(A−1)の数平均分子量は、1000〜5000の範囲内である。ポリエステルポリオール(A−1)の数平均分子量が1000未満であると、得られる熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維の耐熱性、耐熱水性が低下し、一方、数平均分子量が5000を越えるとポリウレタン弾性繊維を製造する際の紡糸安定性が悪化し、得られるポリウレタン弾性繊維は均質性に欠けたものとなる。ポリエステルポリオールの数平均分子量は、1500〜3500の範囲内が好ましい。なお、本明細書でいうポリエステルポリオール(A−1)および後記するポリエーテルポリオール(A−2)の数平均分子量は、いずれもJIS K−1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0012】
さらに、本発明の熱可塑性ポリウレタンを構成するポリエステルポリオール(A−1)の結晶化エンタルピー(ΔH)は、70J/g以下である。ポリエステルポリオール(A−1)の結晶化エンタルピー(ΔH)が70J/gを越える場合は、得られる熱可塑性ポリウレタン、ひいてはポリウレタン弾性繊維の伸度や弾性回復性が大幅に低下する。ここで、本発明でいうポリエステルポリオール(A−1)の結晶化エンタルピー(ΔH)は、示差走査熱量計を用いて測定することができ、具体的には下記の実施例の項に記載した方法で求めた値をいう。
【0013】
また、本発明の熱可塑性ポリウレタンを構成するポリエーテルポリオール(A−2)の数平均分子量は、500〜2500の範囲内である。ポリエーテルポリオール(A−2)の数平均分子量が500未満であると、得られる熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維の耐熱性、耐熱水性が低下し、一方、数平均分子量が2500を越えると熱可塑性ポリウレタンを製造する際の重合反応が進行しにくくなるばかりでなく、ポリウレタン弾性繊維を製造する際の紡糸安定性も悪化し、得られるポリウレタン弾性繊維は均質性に欠けたものとなる。ポリエーテルポリオール(A−2)の数平均分子量は、700〜2300の範囲内が好ましい。
【0014】
本発明の熱可塑性ポリウレタンを構成するポリオール組成物(A)は、ポリエステルポリオール(A−1)およびポリエーテルポリオール(A−2)から主としてなり、これらの配合割合は、得られる熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維の耐熱性、耐熱水性の点から、ポリオール組成物(A)中のポリオールの全モル数に基づいて80モル%以上であり、90モル%以上であるのが好ましい。
また、ポリエステルポリオール(A−1)とポリエーテルポリオール(A−2)の配合割合は、前者対後者のモル比で5/95〜95/5の範囲内であるのが好ましく、10/90〜90/10の範囲内であるのがより好ましい。該モル比が5/95未満であると、ポリウレタン弾性繊維を製造する際の紡糸安定性が悪化しやすくなり、また弾性繊維の伸度が低下しやすくなる。一方、該モル比が95/5を越える場合は、熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維に高い耐熱性や耐熱水性を付与させにくくなる。
【0015】
さらに、本発明の熱可塑性ポリウレタンを構成するポリオール組成物(A)は、下記式(I):
f={ポリオール組成物中のポリオールに含まれる水酸基の全モル数}/{ポリオール組成物中のポリオールの全モル数} (I)
で示される水酸基平均官能基数(f)が2.006〜2.100の範囲内にある。なお、上記の式(I)から明らかなように、水酸基平均官能基数(f)はポリオール組成物(A)に含まれるポリオール一分子あたりの平均の水酸基数を意味する。
【0016】
ポリオール組成物(A)の水酸基平均官能基数(f)が2.006未満であると、熱可塑性ポリウレタンの分子量が高くならず、熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維に十分な耐熱性、耐熱水性を付与させることができないばかりか、ポリウレタン弾性繊維を製造する際の紡糸安定性も悪化し、得られるポリウレタン弾性繊維は均質性に欠けたものとなる。この傾向は、ポリエステルポリオール(A−1)に対するポリエーテルポリオール(A−2)の配合割合が高くなるにつれて大きくなる。
一方、上記の水酸基平均官能基数(f)が2.100を越えると、得られる熱可塑性ポリウレタンの耐熱性、耐熱水性が低下する。しかも紡糸時に紡糸温度を高くする必要が生じて熱可塑性ポリウレタンの熱分解反応が生じるために、熱劣化物が生成して紡糸安定性が悪化する。
ポリオール組成物(A)の水酸基平均官能基数としては、得られる熱可塑性ポリウレタンの耐熱性、耐熱水性の点から、2.010〜2.080の範囲内であるのが好ましい。
【0017】
本発明におけるポリエステルポリオール(A−1)は、ジカルボン酸成分に対して、ジオールおよび必要に応じて少量の3官能以上のアルコールを含む多価アルコール成分を反応させて製造される。その際に、ジカルボン酸成分および多価アルコール成分の使用割合は、ポリエステルポリオール(A−1)を所定量配合した際に、ポリオール組成物(A)の水酸基平均官能基数(f)が上記した2.006〜2.100の範囲内になるようにし、しかも数平均分子量が上記した1000〜5000になるような条件下で重縮合を行うことが必要である。
【0018】
そして、上記の重縮合反応では、得られるポリエステルポリオール(A−1)の結晶化エンタルピー(ΔH)が上記した70J/g以下になるようにするために、ジカルボン酸成分の一部または全部として分岐鎖状ジカルボン酸を用いるか、および/または多価アルコール成分の一部または全部として分岐鎖状1級ジオールを用いるのが好ましい。その場合、分岐鎖状ジカルボン酸および/または分岐鎖状1級ジオールの含有割合は、ポリエステルポリオール(A−1)の形成に用いるジカルボン酸成分および多価アルコール成分の全モル数(合計モル数)に基づいて、分岐鎖状ジカルボン酸および分岐鎖状1級ジオールの合計モル数が、10モル%以上であるのが好ましく、30モル%以上であるのがより好ましく、50モル%以上であるのがさらに好ましい。
【0019】
ポリエステルポリオール(A−1)の形成に用いるジカルボン酸成分および多価アルコール成分の全モル数に対して、分岐鎖状ジカルボン酸および分岐鎖状1級ジオールの合計モル数が10モル%未満であると、ポリエステルポリオール(A−1)の結晶化エンタルピー(ΔH)を70J/g以下にすることが困難になり、その結果、結晶化エンタルピー(ΔH)が本発明の範囲から外れる。そのようなポリエステルポリオールを用いて得られる熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維は、伸度や弾性回復性のみならず耐熱性、耐熱水性に劣ったものとなりやすい。ジカルボン酸成分および多価アルコール成分の全モル数(合計モル数)に基づいて、分岐鎖状ジカルボン酸および分岐鎖状1級ジオールの合計モル数が、10モル%以上である限りは、ポリエステルポリオール(A−1)の製造に用いる、ジカルボン酸成分のみが分岐鎖状ジカルボン酸を含有していて多価アルコール成分が分岐鎖状1級ジオールを含有していなくても、ジカルボン酸成分が分岐鎖状ジカルボン酸を含有せず多価アルコール成分のみが分岐鎖状1級ジオールを含有していても、またはジカルボン酸成分が分岐鎖状ジカルボン酸を含有し、かつ多価アルコール成分が分岐鎖状1級ジオールを含有していてもよい。
【0020】
ポリエステルポリオール(A−1)の製造に好ましく用いられる上記した分岐鎖状ジカルボン酸としては、分岐状飽和脂肪族炭化水素鎖または分岐状不飽和脂肪族炭化水素鎖を有し、その炭化水素鎖の両端にカルボキシル基がそれぞれ結合している炭素数5〜14の分岐鎖状ジカルボン酸、またはそのエステル形成誘導体が好ましく用いられる。そのような分岐鎖状ジカルボン酸の好ましい例としては、2−メチルコハク酸、3−メチルグルタル酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,7−ジメチルセバシン酸、3,8−ジメチルセバシン酸、またはそれらのエステル形成誘導体などを挙げることができ、これらの分岐鎖状ジカルボン酸は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、ポリエステルポリオール(A−1)の製造に当たっては、上記した分岐鎖状ジカルボン酸とともに直鎖状ジカルボン酸および環状ジカルボン酸からなる他のジカルボン酸を必要に応じて使用してもよく、そのようなジカルボン酸の例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの直鎖状ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、テトラブロモフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;またはそれらのエステル形成誘導体を挙げることができ、これらの他のジカルボン酸は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。さらに、ポリエステルポリオール(A−1)が本発明の要件を満足する限りは、その製造に当たって、必要に応じてトリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上の多価カルボン酸またはそのエステル形成誘導体を少量使用してもよい。
【0022】
また、ポリエステルポリオール(A−1)の製造に好ましく用いられる上記した分岐鎖状1級ジオールとしては、分岐状飽和脂肪族炭化水素鎖または分岐状不飽和脂肪族炭化水素鎖の両端にそれぞれ水酸基が結合している炭素数4〜10の分岐鎖状1級ジオールが好ましく用いられる。そのような分岐鎖状1級ジオールの好ましい例としては、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオールなどを挙げることができ、それらの中でも得られる熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維の耐熱性、耐熱水性などをより良好なものとするために、特に3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよび2−メチル−1,8−オクタンジオールが好ましく用いられる。分岐鎖状1級ジオールは単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、ポリエステルポリオール(A−1)の製造に当たっては、上記した分岐鎖状1級ジオールとともに、直鎖状ジオールおよび環状ジオールからなるジオールを必要に応じて使用してもよく、そのような他のジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの直鎖状ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオールなどを挙げることができ、これらの他のジオールは、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0024】
そして、ポリエステルポリオール(A−1)の製造に当たっては、ポリエーテルポリオール(A−2)とともに所定量配合した際のポリオール組成物(A)の水酸基平均官能基数(f)が上記した2.006〜2.100の範囲内となるようにするために、上記したように、前記したジオールとともに少量の3官能以上のアルコールが好ましく用いられる。ジオールと併用する3官能以上のアルコールの例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどを挙げることができ、これらは単独で使用してもまたは2種以上併用してもよい。そして、前記した中でも、グリセリン、トリメチロールプロパンがより好ましい。
【0025】
ポリエステルポリオール(A−1)の製造に当たっては、得られるポリエステルポリオール(A−1)が所定の水酸基平均官能基数になるように、ジカルボン酸成分、ジオールおよび3官能以上のアルコールを含む多価アルコール成分の使用割合を調節して反応を行うことが必要である。
【0026】
本発明における熱可塑性ポリウレタンの製造に用いられるポリエステルポリオール(A−1)は、単一のポリエステルポリオールであっても2種以上の混合物であっても、本発明におけるポリエステルポリオール(A−1)の要件を満足していれば特に限定されない。
【0027】
本発明におけるポリエステルポリオール(A−1)の製造法は特に制限されず、上記したジカルボン酸成分、ジオール、3官能以上のアルコール、および必要に応じて3官能以上のカルボン酸成分などを用いて、エステル化法またはエステル交換法による公知の重縮合法により製造することができる。
【0028】
ポリエステルポリオール(A−1)を製造する際の重縮合反応は、触媒の存在下に行うことができ、その場合の触媒としては、チタン系触媒、スズ系触媒が好ましく用いられる。チタン系触媒の例としては、チタン酸、テトラアルコキシチタン化合物、チタンアシレート化合物、チタンキレート化合物などを挙げることができ、より具体的には、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのテトラアルコキシチタン化合物、ポリヒドロキシチタンステアレート、ポリイソプロポキシチタンステアレートなどのチタンアシレート化合物、チタンアセチルアセトネート、トリエタノールアミンチタネート、チタンアンモニウムラクテート、チタンエチルラクテートなどのチタンキレート化合物などを挙げることができる。スズ触媒の例としては、ジアルキルスズジアセテート、ジアルキルスズジラウレート、ジアルキルスズビスメルカプトカルボン酸エステル塩などを挙げることができ、より具体的にはジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸エトキシブチルエステル)塩などを挙げることができる。
【0029】
そして、チタン系触媒を用いる場合は、その使用量は各々の状況に応じて調節でき特に制限されないが、一般に、ポリエステルポリオールの製造に用いる反応成分の全重量に基づいて、約0.1〜50ppmであるのが好ましく、約1〜30ppmであるのがより好ましい。また、スズ系触媒を用いる場合も、その使用量は各々の状況に応じて調節でき特に制限されないが、一般に、ポリエステルポリオールの製造に用いる反応成分の全重量に基づいて約1〜200ppmであるのが好ましく、約5〜100ppmであるのがより好ましい。
【0030】
そして、チタン系触媒を用いて製造されたポリエステルポリオールでは、ポリエステルポリオール中に含まれるチタン触媒を失活させておくことが好ましく、失活されていないチタン系触媒を含むポリエステルポリオールを用いて熱可塑性ポリウレタンを製造すると、熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維の耐熱性、耐熱水性などの特性が劣ったものになりやすい。
【0031】
ポリエステルポリオール中に含まれるチタン系触媒の失活方法としては、例えば、(1)ポリエステルポリオールを加熱下に水と接触させる方法;(2)ポリエステルポリオールをリン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステルなどのリン化合物で処理する方法などを挙げることができる。そして、水と接触させる前記(1)の方法による場合は、例えば、ポリエステルポリオールに水を1重量%以上添加して、70〜150℃、好ましくは90〜130℃の温度で1〜3時間程度加熱すればよい。そして、その際の加熱による失活処理は常圧下で行ってもまたは加圧下で行ってもよく、失活処理後に系を減圧にすると、失活に用いた水分をポリエステルポリオールから円滑に除去することができる。
【0032】
本発明におけるポリエーテルポリオール(A−2)は、ジオールと必要に応じて少量の3官能以上のアルコール成分の存在下に、環状エーテルを開環重合して製造される。その際に、ジオールと3官能以上のアルコール成分の使用割合は、ポリエーテルポリオール(A−2)を所定量配合した際にポリオール組成物(A)の水酸基平均官能基数(f)が上記した2.006〜2.100の範囲内になるようにし、しかもポリエーテルポリオール(A−2)の数平均分子量が上記した500〜2500になるような条件下で開環重合を行うことが必要である。
【0033】
本発明におけるポリエーテルポリオール(A−2)の例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などを挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物として用いることができる。また、必要に応じてポリエーテルポリオールの製造に用いる3官能以上のアルコールの例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどを挙げることができ、これらのアルコールは単独で使用してもまたは2種以上併用してもよい。
【0034】
さらに本発明における、ポリオール組成物(A)には、ポリエステルポリオール(A−1)およびポリエーテルポリオール(A−2)に加えてこれら以外のポリオールを必要に応じて用いることができる。そのようなポリオールとしては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオールなどを挙げることができ、その配合割合は、ポリオール組成物(A)に含まれるポリオールの全モル数に基づいて20モル%以下であることが好ましい。
【0035】
本発明における熱可塑性ポリウレタンの製造に用いられる有機ジイソシアネート(B)としては特に制限はなく、通常の熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から使用されている有機ジイソシアネートのいずれを使用してもよく、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族または脂環式ジイソシアネートなどを挙げることができる。これらの有機ジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いるのが好ましい。また、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのような3官能以上のポリイソシアネート化合物を必要に応じて少量添加してもよい。
【0036】
本発明における熱可塑性ポリウレタンの製造に用いられる鎖伸長剤(C)としては特に制限はなく、通常の熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から使用されている鎖伸長剤のいずれを使用してもよく、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物を用いるのが好ましい。そのような低分子化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられる。これらの鎖伸長剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素数2〜10の脂肪族ジオールを用いるのが好ましく、1,4−ブタンジオールを用いると耐熱性、耐熱水性に優れた熱可塑性ポリウレタンひいてはポリウレタン弾性繊維を得ることができるのでより好ましい。
【0037】
本発明における熱可塑性ポリウレタンの製造法は、特に制限されず、上記のポリエステルポリオール(A−1)、ポリエーテルポリオール(A−2)、有機ジイソシアネート(B)、鎖伸長剤(C)および必要に応じて他の成分を使用して、従来から用いられている方法のいずれもが使用できる。そのような方法としては、例えば溶融重合、溶液重合などの公知のウレタン化反応技術を利用した、プレポリマー法、ワンショット法などの方法を挙げることができる。中でも、実質的に溶媒の存在しない条件下で溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタンを製造する方法が、重合を簡単にかつ円滑に行うことができる点から好ましく、特にその溶融重合を多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合法によって行うと、生産性も高くなり好ましい。また、本発明における熱可塑性ポリウレタンの製造に当たっては、スズ系ウレタン化触媒を用いてポリウレタン形成反応を行うことができ、特に、熱可塑性ポリウレタン原料の合計重量に基づいてスズ系ウレタン化触媒をスズ原子に換算して0.5〜10ppmの割合で用いてポリウレタンを製造すると分子量の高い熱可塑性ポリウレタンを製造することができ、そしてそのような熱可塑性ポリウレタンを用いてポリウレタン弾性繊維を製造すると、紡糸巻き取り性が良好になり、かつ繊維同士の膠着が少なくなる。さらに、そのような高分子量の熱可塑性ポリウレタンを用いて繊維を製造することによって、耐熱性などの諸性能に優れるポリウレタン弾性繊維を得ることができる。その際のスズ系ウレタン化触媒としては、例えばジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸エトキシブチルエステル)塩などを挙げることができる。
【0038】
また、熱可塑性ポリウレタンの重合過程または重合後に、必要に応じて熱可塑性ポリウレタンを製造する際に通常使用されている熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤、着色剤、加水分解防止剤、結晶核剤、耐候性改良材、防黴剤などの各種添加剤を適宜加えてもよい。
【0039】
そして、本発明の熱可塑性ポリウレタンを溶融紡糸する方法によってポリウレタン弾性繊維を製造することができる。溶融紡糸によってポリウレタン弾性繊維を製造する場合は、
<1>[1] 結晶化エンタルピーが70J/g以下である数平均分子量1000〜5000のポリエステルポリオール(A−1)および数平均分子量500〜2500のポリエーテルポリオール(A−2)からなり、ポリエステルポリオール(A−1)およびポリエーテルポリオール(A−2)の配合割合が80モル%以上であるポリオール組成物であって、下記式(I):
f={ポリオール組成物中のポリオールに含まれる水酸基の全モル数}/{ポリオール組成物中のポリオールの全モル数} (I)
で示される水酸基平均官能基数(f)が2.006〜2.100であるポリオール組成物(A);
[2] 有機ジイソシアネート(B);並びに
[3] 鎖伸長剤(C)
を下記式(II):
1.00≦b/(a+c)≦1.10 (II)
(式中、aはポリオール組成物(A)中のポリオールの全モル数、bは有機ジイソシアネート(B)のモル数、cは鎖伸長剤(C)のモル数を表す。)
を満足する割合であらかじめ反応させて熱可塑性ポリウレタンを製造しておき、その熱可塑性ポリウレタンを用いて溶融紡糸を行う方法;
<2>上記のポリオール組成物(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖伸長剤(C)を、上記の式(II)を満足するような割合で溶融重合させて熱可塑性ポリウレタンを形成しながら、それによって形成された未だ溶融状態にある熱可塑性ポリウレタンをそのまま直接紡糸口金から紡出させる方法;
などがある。
得られる繊維の物性および溶融紡糸作業の容易性などの点から、溶融紡糸温度は260℃以下であるのが好ましく、220〜250℃であるのがより好ましい。そして、溶融紡糸後に得られるポリウレタン弾性繊維の性能を一層向上させるために、50〜100℃で熱熟成処理するのが好ましい。溶融紡糸を行う際の紡糸装置の種類や形式などは特に制限されず、ポリウレタン弾性繊維の製造に用いられている溶融紡糸装置を使用することができる。
【0040】
本発明の熱可塑性ポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維では、繊維を構成する熱可塑性ポリウレタンの重合度は特に制限されないが、ポリウレタン弾性繊維の耐熱性、耐熱水性などの点から、n−ブチルアミンを1重量%含有するN,N−ジメチルホルムアミドに0.5g/dlの濃度になるような量でポリウレタン弾性繊維を溶解させて、30℃で測定したときの対数粘度が0.5dl/g以上になるような重合度であるのが好ましく、特に0.7dl/g以上になるような重合度であるのがより好ましい。
特に、ポリウレタン弾性繊維をn−ブチルアミンを1重量%含有するN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させようとしたときに、全く溶解しないか、または一部だけが溶解するような高い重合度を有する熱可塑性ポリウレタンからポリウレタン弾性繊維を形成した場合には、耐熱性、耐熱水性に一層優れたポリウレタン弾性繊維が得られる。
【0041】
本発明の熱可塑性ポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維の単繊維繊度は特に制限されず、その用途などに応じて適宜決めることができるが、一般に、その単繊維繊度を10〜100デニール程度にしておくのが好ましい。また、本発明の熱可塑性ポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維は、モノフィラメントの形態であっても、またはマルチフィラメントの形態であってもよく、マルチフィラメントの場合、そのフィラメント数、総デニール数などは特に制限されず適宜決めることができる。さらに、本発明の熱可塑性ポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維の断面形状は特に制限されず、丸形、方形、中空形、三角形、楕円形、扁平形、多葉形、V字形、T字形、アレイ形やその他の任意の異形断面にすることができる。また、本発明の熱可塑性ポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維を用いて各種の製品を製造するに当たっては、本発明の熱可塑性ポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維を単独で使用しても、他の繊維と適当な形態で組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明の熱可塑性ポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維の用途は特に制限されず、種々の用途に使用可能であるが、その弾性特性を生かして、例えば水着、アウターウェア、サイクリングウェア、レオタードなどのスポーツ用品;ランジェリー、ファンデーション、肌着などの衣料品;パンティストッキング、靴下、サポーター、帽子、手袋などの装飾品; 包帯、人工血管などの医療用品;テニスラケットのガット、一体成形加工用車両シート地、ロボットアーム用の金属被覆地などの非衣料製品などに有効に使用することができる。その中でも、本発明の熱可塑性ポリウレタンからなるポリウレタン弾性繊維は、その優れた耐熱性、耐熱水性、伸度、弾性回復性、糸の均質性などの特性を生かして、スポーツ用品、衣料品などの用途に極めて有効に使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、ポリオールの数平均分子量、ポリエステルポリオールの結晶化エンタルピー(ΔH)、ポリウレタン弾性繊維を製造する際の紡糸安定性、ポリウレタン弾性繊維の対数粘度、耐熱性、耐熱水性、弾性回復率および繊維均質性は、以下の方法により測定または評価した。
【0044】
〔ポリオールの数平均分子量〕
JIS K1557に準拠して測定した水酸基価に基づいてポリオールの数平均分子量を算出した。
【0045】
〔ポリエステルポリオールの結晶化エンタルピー(ΔH)〕
示差走査熱量計(理学電気社製「TAS10」)を用いて、ポリエステルポリオールの結晶化エンタルピー(ΔH)を測定した。サンプル量は約10mgとし、窒素ガス雰囲気下で下記に示す行程で熱量測定を行い、行程3におけるピーク面積により結晶化エンタルピー(ΔH)を算出した。
【0046】
ポリエステルポリオールの結晶化エンタルピー測定条件
行程1:室温から100℃まで100℃/分で昇温し、3分間保持。
行程2:100℃から−100℃まで10℃/分で降温し、1分間保持。
行程3:−100℃から100℃まで10℃/分で昇温。
【0047】
〔ポリウレタン弾性繊維を製造する際の紡糸安定性〕
単軸押出機を用いて、下記の実施例または比較例におけるようにして紡糸温度220〜245℃で1週間連続運転して溶融紡糸し、その時の紡糸パック(サンドメッシュ#60〜80)の昇圧を圧力計で測定して、下記に示した評価基準に従って紡糸安定性を評価した。
【0048】
紡糸安定性の評価基準
○:紡糸パックの昇圧がほとんどなく(昇圧が4kg/cm以下)、連続運転可能である。
△:紡糸パックの昇圧があって(昇圧が4を越え8kg/cm未満)、連続運転が困難である。
×:紡糸パックの昇圧が激しくて(昇圧が8kg/cm以上)、連続運転が不可能である。
【0049】
〔ポリウレタン弾性繊維の対数粘度〕
n−ブチルアミンを1重量%含有するN,N−ジメチルホルムアミド溶液に、試料を濃度0.5g/dlになるように溶解し、ウベローデ型粘度計を用いてそのポリウレタン溶液の30℃における流下時間を測定し、下式により対数粘度を求めた。
対数粘度=〔ln(t/t)〕/c
(式中、tはポリウレタン溶液の流下時間(秒)、tは溶媒の流下時間(秒)、cはポリウレタン溶液の濃度(g/dl)を表す。)
【0050】
〔ポリウレタン弾性繊維の耐熱性〕
ポリウレタン弾性繊維からなる試料を木枠を使用して200%伸長した状態で固定し、熱風乾燥機を用いて140℃で1分間熱処理することにより、処理前の糸長さを基準として300%伸長時の強度保持率を下式により求めることで耐熱性の指標とした。
300%伸長時の強度保持率(%)=(M/M)×100
(式中、Mは処理後の300%モジュラス、Mは処理前の300%モジュラスを表す。)
【0051】
〔ポリウレタン弾性繊維の耐熱水性〕
ポリウレタン弾性繊維からなる試料をオートクレーブを用いて温度100℃の熱水中に30分間浸漬した他は前記の耐熱性の評価と同一の方法で評価を行い、耐熱水性の指標とした。
【0052】
〔弾性回復率〕
ポリウレタン弾性繊維からなる試料を300%伸長した状態で室温下に2分間保持した後、張力を除いて2分間放置した後の弾性回復率を下記の数式により算出した。
【0053】
弾性回復率(%)={1−(L−L)/L}×100
(式中、Lは張力除去後2分間放置した後の試料の長さ(mm)、Lは伸長前の試料の長さ(mm)を表す。)
【0054】
〔伸度〕
ポリウレタン弾性繊維からなる試料の伸度はJIS K7311に基づいて測定した。
【0055】
〔ポリウレタン弾性繊維の均質性〕
溶融紡糸によって得られたポリウレタン弾性繊維から長さ50mの試料を採取し、その試料の長さ方向に沿って太さ測定器(計測器工業社製「KEP−80C」)をスライドさせて太さ斑を測定し、下記に示した評価基準に従ってポリウレタン弾性繊維の均質性を評価した。
【0056】
ポリウレタン弾性繊維の均質性の評価基準
○:繊維の太さ斑が1%以内である。
△:繊維の太さ斑が1%を越え、3%未満である。
×:繊維の太さ斑が3%以上である。
【0057】
以下の実施例および比較例で使用した樹脂および化合物に関する略号を、下記に示す。
【0058】
BD :1,4−ブタンジオール
MPD :3−メチル−1,5−ペンタンジオール
TMP :トリメチロールプロパン
AD :アジピン酸
Sb :セバシン酸
MDI :4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
PTMG:ポリテトラメチレングリコール
【0059】
参考例1
MPD950g、TMP117.4gおよびAD954gを反応器に仕込み、常圧下、200℃で生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行った。反応物の酸価が30以下になった時点で、チタン系重合触媒としてテトライソプロピルチタネート30mgを加え、200〜100mmHgに減圧しながら反応を続けた。酸価が1.0になった時点で真空ポンプにより徐々に真空度を上げて反応を完結させた。その後、100℃に冷却し、これに水を3重量%加えて攪拌しながら2時間加熱することにより、チタン系重合触媒を失活させ、減圧下で水を留去した後、これに、スズ系ウレタン化触媒としてジブチルスズジアセテートを10ppm加えた。これにより、チタン系触媒を失活した後にスズ系ウレタン化触媒を添加したポリエステルポリオールAを得た。得られたポリエステルポリオールの数平均分子量、水酸基平均官能基数および結晶化エンタルピー(ΔH)を下記の表1に示す。
【0060】
参考例2〜9
下記の表1に示すポリオール成分およびジカルボン酸成分を用いる他は参考例1と同様にしてエステル化反応を行った後、チタン系触媒を失活させ、スズ系ウレタン化触媒を加えることにより、それぞれに対応するポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオールの数平均分子量、水酸基平均官能基数および結晶化エンタルピー(ΔH)を下記の表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1
(1)直径=30mm、L/D=36の同方向に回転する二軸押出し機に80℃に加熱した参考例2で得られたポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールとして数平均分子量が1500のPTMGおよびBDと、50℃に加熱したMDIを、下記の表2に示す割合で定量ポンプで連続的に供給して、押出し機のシリンダー温度を260℃に保って連続溶融重合させて熱可塑性ポリウレタンを生成させた後、ダイからストランド状に水中に押出し、切断して熱可塑性ポリウレタンペレットを製造し、この熱可塑性ポリウレタンペレットを80℃で24時間真空乾燥した。
(2)上記(1)で得られた熱可塑性ポリウレタンのペレットを、通常の単軸押出し機付きの紡糸装置に供給して、紡糸温度200〜240℃、冷却風露点10℃、紡糸速度500m/分の条件下にモノフィラメント状に溶融紡糸し、これをボビンに巻き取って、ポリウレタン弾性繊維(モノフィラメント)(40d/f)を作製した。この際の紡糸安定性を上記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(3)上記(2)で得られたポリウレタン弾性繊維を室温、60%の相対湿度下で10日間熟成を行った。
(4)上記(3)で得られた熟成後のポリウレタン弾性繊維の対数粘度、耐熱性、耐熱水性、弾性回復率、伸度および糸の均質性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0063】
実施例2〜10
(1)表2に示すポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールを用い、かつポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、鎖伸長剤および有機ジイソシアネートを表2に示す割合で用いた他は実施例1と同様にして熱可塑性ポリウレタンペレットを製造し、次いでそれを実施例1と同様の方法で真空乾燥した。
(2)上記(1)で得られたそれぞれの熱可塑性ポリウレタンのペレットを用いて、実施例1と同様にして溶融紡糸を行ってポリウレタン弾性繊維(モノフィラメント)を作製したところ、その紡糸安定性は表2に示すとおりであった。
(3)上記(2)で得られたポリウレタン弾性繊維を熟成処理した後、実施例1と同様にして、その対数粘度、耐熱性、耐熱水性、弾性回復率、伸度および糸の均質性を上記した方法で測定または評価したところ、下記表2に示すとおりであった。
【0064】
【表2】

【0065】
比較例1〜9
(1) 表3に示すポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールを用い、かつポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、鎖伸長剤および有機ジイソシアネートを表3に示す割合で用いた他は実施例1と同様にして熱可塑性ポリウレタンペレットを製造し、次いでそれを実施例1と同様の方法で真空乾燥した。
(2)上記(1)で得られたそれぞれの熱可塑性ポリウレタンのペレットを用いて、実施例1と同様にして溶融紡糸を行ってポリウレタン弾性繊維(モノフィラメント)を作製したところ、その紡糸安定性は表3に示すとおりであった。
(3)上記(2)で得られたポリウレタン弾性繊維を熟成処理した後、実施例1と同様にして、その対数粘度、耐熱性、耐熱水性、弾性回復率、伸度および糸の均質性を上記した方法で測定または評価したところ、下記表3に示すとおりであった。
【0066】
【表3】

【0067】
表2に示したように、本発明の構成要件を満たす熱可塑性ポリウレタンおよびそれからなるポリウレタン弾性繊維は、紡糸安定性、耐熱性、耐熱水性、弾性回復率、伸度および糸の均質性に優れている。
上記の実施例1〜10のポリウレタン弾性繊維に対し、表3に示したように、数平均分子量の大きいポリエステルポリオールDを用いた比較例1のポリウレタン弾性繊維は、紡糸安定性および糸の均質性に劣り、有機ジイソシアネートのモル数bの少ない比較例2のポリウレタン弾性繊維は、耐熱性および耐熱水性に劣り、有機ジイソシアネートのモル数bの多い比較例3のポリウレタン弾性繊維は、すべての測定値および評価結果に劣っている。また、結晶化エンタルピー(ΔH)の大きいポリエステルポリオールHおよび水酸基平均官能基数の少ないポリオール組成物を用いた比較例4のポリウレタン弾性繊維は、耐熱性、耐熱水性、弾性回復率および伸度に劣り、ΔHの大きいポリエステルポリオールIを用いた比較例5のポリウレタン弾性繊維は、弾性回復率および伸度に劣り、水酸基平均官能基数の多いポリオール組成物を用いた比較例6のポリウレタン弾性繊維は、耐熱水性、弾性回復性および糸の均質性に劣っている。さらに、水酸基平均官能基数の少ないポリオール組成物を用いた比較例7のポリウレタン弾性繊維は、耐熱性、耐熱水性に劣り、数平均分子量の大きいポリエーテルポリオールZを用いた比較例8のポリウレタン弾性繊維は、紡糸安定性および糸の均質性に劣り、ポリエーテルポリオール(A−2)を用いていない比較例9のポリウレタン弾性繊維は、耐熱性および耐熱水性に劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[1] 結晶化エンタルピーが70J/g以下である数平均分子量1000〜5000のポリエステルポリオール(A−1)および数平均分子量500〜2500のポリエーテルポリオール(A−2)からなり、ポリエステルポリオール(A−1)およびポリエーテルポリオール(A−2)の配合割合が80モル%以上であるポリオール組成物であって、下記式(I):
f={ポリオール組成物中のポリオールに含まれる水酸基の全モル数}/{ポリオール組成物中のポリオールの全モル数} (I)
で示される水酸基平均官能基数(f)が2.006〜2.100であるポリオール組成物(A);
[2] 有機ジイソシアネート(B);並びに
[3] 鎖伸長剤(C)
を下記式(II):
1.00≦b/(a+c)≦1.10 (II)
(式中、aはポリオール組成物(A)中のポリオールの全モル数、bは有機ジイソシアネート(B)のモル数、cは鎖伸長剤(C)のモル数を表す。)
を満足する割合で反応させて得られる熱可塑性ポリウレタン。
【請求項2】
ポリオール組成物(A)がポリエステルポリオール(A−1)5〜95モル%およびポリエーテルポリオール(A−2)95〜5モル%からなるポリオール組成物であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン。

【公開番号】特開2008−111133(P2008−111133A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324206(P2007−324206)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【分割の表示】特願平10−190228の分割
【原出願日】平成10年7月6日(1998.7.6)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】