説明

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法

【課題】幅方向に沿って物性が均一であり、かつ熱寸法安定性、機械的特性にも優れ、平面性も良好な熱可塑性樹脂フィルムを生産性よく得ることが可能となるテンタークリップと熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】クリップ把持部の機構がクリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動可能なテンタークリップSと、クリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動しないテンタークリップDを併用したテンター内で、延伸、熱処理、冷却のいずれかの処理を行う熱可塑性樹脂フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、テンターにおいて、フィルムをクリップ外れが生じることなく機能性よく、延伸もしくは熱処理および/または冷却するためのテンタークリップを用いた、熱寸法安定性と機械的特性に優れ、平面性が良好で幅方向の物性が均一な熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】熱可塑性樹脂フィルムは、その物理的、熱的特性等に応じて様々な分野で利用されている。特に、縦方向と横方向の二軸方向に延伸をかけたポリエステルフィルムは、機械的特性などにも優れているため、好ましく用いられている。中でもポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6ナフタレートフィルムは、その機械的特性、熱的特性および電気的特性が優れるため、複写機やプリンタなどに使用されるオーバーヘッドプロジェクタ(OHP)用シートや製図用原紙、モーターやトランスなどにおける電気絶縁用材料、また、ICカード用途、FPC基板用や磁気記録用ベースフィルムおよびプリンタリボンなどのOA用途などさまざまな用途で用いられている。
【0003】ここで、ポリエステルの二軸配向フィルムは、フィルムを延伸により分子配向させることで、ヤング率などの機械的特性を向上させたものであるが、この二軸配向フィルムには、延伸による歪みが分子鎖に残留するため、加熱によりこの分子鎖の歪みが開放され、収縮するという性質を持っている。この収縮特性を利用して、包装用のシュリンクフィルムなどに展開されているが、一般には、上述したような用途においては、この収縮特性は障害となることが多い。
【0004】そこで、二軸延伸後に、横延伸に用いられるテンター中で、横延伸に引き続き、熱処理(熱固定とも呼ばれる)を行なうことで、この分子鎖の歪みを開放する方法が用いられている。一般に、熱収縮量はこの熱処理の温度に応じて低下していくが、この熱処理だけでは完全に歪みを除去することができず、熱収縮が残留するという問題が生じる。
【0005】従来、この残留歪みを除去するために、テンターのレール幅を先細りになるようにして(トウイン、リラックスなどと呼ばれる)、幅方向に若干収縮させるようにして、この残留歪みを完全除去する方法が採用されている。
【0006】しかしながら、この方法では、幅方向の熱収縮率は除去可能であるが、長手方向の熱収縮を除去することはできない。このため長手方向の熱収縮を除去する方法について、過去にいろいろな方法が検討されている。
【0007】例えば、特公平4−28218号公報では、テンターのクリップ間隔が除々に狭くなるようにすることで、長手方向に弛緩処理を行なう方法が提案されている。しかしながら、この方法では、装置上の問題で弛緩率に上限があり、また、弛緩率を大きくすると、弛緩処理前のクリップ間隔が広くなり、クリップ把持部と非把持部の物性むらが大きくなるという問題が生じる。また、いったん、フィルムを巻き取った後に、ゆっくりと巻き出しながらオーブンで加熱処理し、その際に長手方向に速度差をつけて弛緩処理を施す方法が行なわれているが、この方法ではフィルムが幅固定されていないため、フィルム面が波打つような状況が生じて、平面性が悪化するという問題が生じる。
【0008】また、特公昭60−226160号公報には、フィルムの製膜工程中に、オーブンによる長手方向の弛緩処理装置を設ける方法が提案されているが、フィルムの製膜速度との兼ね合いで、処理温度を高めるとフィルムの平面性が悪化するため、温度をあまり高められず、結果として熱収縮が十分に除去されないという問題が生じるため、低熱収縮性、平面性に優れたフィルムが得られていない。
【0009】さらに製品化されるフィルム幅方向の物性の均一化は、収率を向上させる上で重要である。一般に、幅方向の物性むらは、テンターにおける加熱時に生じる熱収縮応力によるものと、テンターにおける横延伸工程で生じる縦方向の収縮力により、熱処理室での加熱から、剛性が低いフィルムのうち長手方向への拘束が弱いフィルム中央部が、横延伸工程側に引き込まれることにより生じると考えられている。
【0010】このようにして生じる物性むらは、テンター入り口でフィルムの横方向に平行に引いた直線が、出口で弓状に湾曲するボーイング現象と同様に、フィルム幅方向に分布を示す。そこで、このボーイング現象を抑える方法として、例えば、一軸延伸したフィルムをテンターで横延伸し、いったん、クリップ把持を開放し、更に再度クリップでフィルムを把持し、120〜240℃の温度領域において昇温させながら熱固定する方法(例えば、特開昭57−87331号公報)、未延伸フィルムを延伸温度以上で予熱した後、縦横方向に同時二軸延伸し、次いで等温ずつ多段階に分割昇温させて再熱処理する方法(例えば、特開昭54−137076号公報)、横延伸直後にフィルム温度をいったんガラス転移温度以下まで下げて剛性を増し、熱処理室側のフィルムが延伸室に引き込まれるの防止する方法(例えば、特開平3−13027号公報、特開平3−216326号公報)、冷却工程を入れる代わりに、横延伸と熱処理間にニップロールを設けて、中央部を強制的に進行させる方法(例えば、特公昭63−24459号公報)、あるいは、フィルムを二軸延伸後、フィルムの中央部より端部の温度が高くなるように加熱する方法(例えば、特開昭61−233523号公報、特開昭62−83327号公報、特開昭62−183328号公報)などが提案されている。
【0011】しかしながら、このような方法ではボーイング現象を多少抑制することはできても、熱寸法安定性、機械的特性および平面性などを損なわずにフィルム幅方向における諸物性を均一化するにはなお不十分であったり、装置が大型化するという問題が生じる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる問題を解決し、幅方向において物性が均一であり、かつ熱寸法安定性に優れ、平面性も良好な熱可塑性樹脂フィルムの製造を可能にするテンタークリップを用いた熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、クリップ把持部の機構がクリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動可能なテンタークリップSと、クリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動しないテンタークリップDを併用したテンター内で、フィルムの延伸、熱処理、冷却のいずれかの処理を行うことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】本発明におけるテンタークリップとは、テンターにおける延伸、熱処理、冷却のいずれかの製膜工程で使用するクリップをいい、クリップ把持部の機構がクリップ把持部内においてフィルムが長手方向に移動可能となるテンタークリップ(以下、テンタークリップSという。)と、クリップ把持部内においてフィルムが長手方向に実質的に移動しないテンタークリップ(以下、テンタークリップDという。)をいう。
【0016】本発明においては、テンタークリップDは従来から通常用いられているテンタークリップであり、クリップ把持部の形態は上部、下部ともに平板形状であるために、クリップ把持部内のフィルムは長手方向にも拘束されている。これに対し、テンタークリップSは、テンタークリップDとは異なり、クリップ把持部内においてフィルムが長手方向に移動可能となる把持部の機構を有していることが必要である。
【0017】本発明においては、該テンタークリップSと該テンタークリップDを併用したテンター内で、フィルムの延伸、熱処理、冷却のいずれかの処理を行うして熱可塑性樹脂フィルムを製造する必要がある。
【0018】上述したように、テンタークリップDは、クリップ把持部内のフィルムは長手方向にも拘束されているため、クリップ自体の動きに伴って移動している。そのため、テンタークリップDのみを使用した場合は、フィルム中央部は加熱や冷却時に発生する収縮応力に応じて比較的自由に収縮することができるが、端部はクリップの動きに伴って移動しているために収縮することができず、中央部と端部とでは物性の異なったフィルムとなってしまう。
【0019】これに対して、テンタークリップSは、該テンタークリップDとは異なり、フィルム端部が収縮応力に応じて長手方向に移動可能なテンタークリップであるため、このテンタークリップSを用いることにより、容易に長手方向に弛緩処理を施すことが可能となり、ボーイング現象を抑制して幅方向に物性が均一なフィルムを得ることが可能となる。しかしながら、このテンタークリップSのみを使用した場合は、テンター入口部でフィルムをクリップに噛ませる際や、弛緩処理を必要としない工程において、テンター内の加熱された雰囲気温度によりフィルムが長手方向に移動してしまい、フィルムをテンター入口部からテンター出口部まで搬送することが困難となるため好ましくない。つまり、上述したテンタークリップSとテンタークリップDを併用することにより、テンターにおける延伸、熱処理及び/または冷却はもちろん、弛緩処理も容易に施すことが可能となるのである。
【0020】本発明において、上述したテンタークリップSとテンタークリップDの走行方向における配置としては、D+(S×n)の単位の繰り返しとなり、かつ、nは1以上、10以下であることが好ましい。ここで、D+(S×n)の単位の繰り返しとは、例えば、n=3のとき、DSSSDSSSDSSS・・・のように、テンタークリップSがテンタークリップDの隣にnの数だけ連続して配列し、該D+(S×n)の単位が繰り返された配置のことをいう。また、nはより好ましくは1以上、8以下、更に好ましくは1以上、5以下である。nが上記範囲を超えると、テンター入口部でフィルムをクリップに噛ませる際や、弛緩処理を必要としない工程において、テンター内の加熱された雰囲気温度によりフィルムが長手方向に移動し易くなってしまい、フィルムをテンター入口部からテンター出口部まで搬送することが困難となるため好ましくない。
【0021】また、クリップ走行方向と垂直な方向である横方向においては、同じ機構を持つクリップを配置させ、クリップでフィルム幅方向に把持することは、平面性と幅方向物性均一性を得る上で好ましいことである。
【0022】ここで、本発明で用いられるテンタークリップのクリップ把持部の形態について説明する。図1は、本発明に係るテンタークリップにおけるクリップ把持部の形態を示した概略モデル図である。
【0023】図1において、矢印はフィルム搬送方向1を示している。また、平板形状を示す図は、クリップ把持部内においてフィルム2がフィルム長手方向に移動しない3ことを示しており、テンタークリップDの把持部の形状を示している。一方、円柱形状、そろばん玉形状、太鼓ロール形状を示す図は、いずれもクリップ把持部内においてフィルム2がフィルム長手方向に自由に移動可能4であることを示しており、同様にテンタークリップSのクリップ把持部の形状を示している。
【0024】本発明においては、テンタークリップSの把持部の形状は、図1に示すようなフィルム長手方向と平行に回転する円柱形状、そろばん玉形状および太鼓ロール形状から選ばれた一つを使用することが好ましく、さらに好ましくはクリップ把持部の上部は太鼓ロール形状で下部は円柱形状であるものが好ましい。該テンタークリップSが上述したようにフィルム長手方向と平行に回転する形状であることにより、該クリップ把持部においてフィルム端部が加熱により発生する収縮応力に応じて長手方向に移動することが可能となる。
【0025】また、この際、該テンタークリップSの該把持部材の上部1個と下部1個を一組とし、1つのクリップがフィルム長手方向に把持している長さをクリップ把持幅L(mm)とした場合、該組数に対する該クリップ把持幅Lの比は1/60以上であることが好ましく、更に好ましくは1/30以上である。
【0026】さらに、該テンタークリップSの把持部がフィルムの搬送方向に複数列個配列していることも好ましい態様である。さらに、テンタークリップSの把持部の表面粗さを表すパラメータである最大高さは、0.01以上、2μm以下が好ましく、より好ましくは0.01以上、1μm以下、更に好ましくは0.01以上、0.6μm以下である。
【0027】ここで、本発明で用いられるテンターにおけるテンタークリップのフィルム把持と解除方法について、図面に基づいて簡単に説明する。
【0028】図2ないし図6は、テンタークリップSとテンタークリップDの模式図であり、図2および図6は、テンタークリップSとテンタークリップDのフィルム解放状態を示す側断面図であり、図3は、フィルムの延伸工程におけるテンタークリップSとテンタークリップDのフィルム把持状態を示す側断面図であり、図4は、熱処理および/または冷却工程における弛緩処理時のテンタークリップSのフィルム把持状態とテンタークリップDのフィルム解放状態を示す側断面図であり、また、図5は、熱処理および/または冷却工程におけるテンタークリップDの再フィルム把持状態を示す側断面図である。
【0029】テンタークリップは、ベース6とアーチ形に起立した形状の起立部7を有し、テンタークリップDにおいては、ベース6のクリップ把持部下部6aは図1に示すような平板形状であり、テンタークリップSにおいては、ベース6のクリップ把持部下部6a’は凹部に軸に支持されたフィルム長手方向に回転自在に軸支され、内部に軸受材が組み込まれた、図1に示すようなフィルム長手方向と平行に回転する形状の把持部材が複数個設けられている。
【0030】また、起立部7の先端部には、クリップレバー軸8が設けられている。クリップレバー5は、そのほぼ中央部を軸8に回転自在に軸支されたクリップレバーで、テンタークリップDにおいてはクリップレバー5は軸8による軸支部を境に上部レバー5aと下部レバー5bとで構成されており、テンタークリップSにおいてはクリップレバー5は軸8による軸支部を境にクリップレバー上部5a’とクリップレバー下部5b’とで構成されている。また、テンタークリップSのクリップレバー上部5a’の長さSLとテンタークリップDのクリップレバー上部5aの長さDLの関係は、SL<DLである。さらに、テンタークリップDの下部レバー5bのクリップ把持部上部5cは爪部になっており、また、テンタークリップSの下部レバー5b’のクリップ把持部上部5c’には、凹部にフイルム長手方向に回転自在に軸に支持され、内部に軸受材が組み込まれた図1に示すようなフィルム長手方向と平行に回転する形状の把持部材が複数個設けられている。この際、クリップ把持部上部5c’とクリップ把持部下部6a’の内部に組み込む軸受材はすべり軸受やベアリング等を用いることが好ましい。
【0031】また、ベース6と起立部7の間にはクリップレバー5のフィルム把持・解除の位置を保持するための圧縮コイルバネ(図示せず)を有することが好ましい。クリップクローザー9はテンター入口部に、クリップクローザー11は弛緩処理後の再フィルム把持開始部に、クリップオープナー10は熱処理および/または冷却工程における該テンタークリップSの解除開始部に、クリップオープナー12はテンター出口部にそれぞれ設けられている。
【0032】次に、テンタークリップの動作について説明する。
【0033】テンター入口部では、図2に示すようにテンタークリップは解放状態であり、フィルムがテンタークリップSおよびテンタークリップDのクリップ把持部上部5c、5c’とクリップ把持部下部6a、6a’との間にそれぞれ挿入される。次に、図3に示すように、テンター入口部に設けられたクリップクローザー9により、クリップレバー5がクリップレバー軸8を中心に回動し、フィルムの端部をクリップ把持部下部6a、6a’とクリップ把持部上部5c、5c’で把持される。その後、テンタークリップSおよびテンタークリップDは、レール(図示せず)に案内され延伸工程でフィルムの横延伸が行なわれる。
【0034】延伸工程が終わると、テンタークリップはレールに案内され熱処理および/または冷却工程に入る。
【0035】ここで、本発明においては、熱処理および/または冷却行程において、テンタークリップDのフィルム把持を解除することが好ましく、解除した区間において弛緩処理を施すことが好ましい。また、この際の好ましいテンタークリップDのフィルム把持の解除方法としては、テンタークリップDのみのクリップレバー上部5aがクリップオープナー10により押されて、クリップレバー5が、図4に示すように、クリップレバー軸8を中心に回転し、フィルムの端部をテンタークリップDから解放することが好ましい。また、この際、テンタークリップSはクリップ把持部上部5c’とクリップ把持部下部6a’がフィルムの長手方向に回転自在となっているため、フィルムの端部がフィルムの長手方向に自由に移動が可能で、熱処理および/または冷却工程で発生する収縮応力に応じてテンタークリップ上をフィルム長手方向に移動する。その結果、フィルム中央部に対する端部の遅れを低減することができ、ボーイング現象を抑制して幅方向に物性が均一なフィルムを容易に得ることが可能となる。
【0036】ここで、本発明において、テンタークリップSのクリップレバー上部5a’の長さSLとテンタークリップDのクリップレバー上部5aの長さはDLはSL<DLであることが好ましい。SLとDLが上記範囲を外れると、クリップオープナーによりテンタークリップSとテンタークリップDの両方のフィルム把持が解除されたり、テンタークリップSのみのフィルム把持が解除されて、弛緩処理が施されてしまうため好ましくない。
【0037】また、弛緩処理後、必要に応じて再びテンタークリップDでのフィルム把持を行なう場合は、図5に示すようにクリップクローザー11により、クリップレバー上部5aが押されて、クリップレバー5がクリップレバー軸8を中心に回動し、フィルムの端部をクリップ把持部下部6aとクリップ把持部上部5cで把持してもよい。
【0038】その後、テンタークリップSおよびテンタークリップDは、レールに沿ってテンター出口部へ案内される。テンター出口部にはクリップオープナー12があり、テンタークリップSのクリップレバー上部5a’およびテンタークリップDのクリップレバー上部5aがクリップオープナー12に当接し、クリップレバー5が図6に示すようにクリップレバー軸8を中心に回動し、フィルムの端部をテンタークリップSおよびテンタークリップDから解放する。その後、テンタークリップSおよびテンタークリップDは、レールに案内されて180度反転して入口部へ戻る。
【0039】本発明においては、テンタークリップSのフィルム長手方向の拘束力x(N)のクリップ把持幅L1 (mm)に対する比x/L1 (N/mm)が2(N/mm)以下であり、かつ、フィルム幅方向のフィルム把持力y1(N)のクリップ把持幅L2 (mm)に対する比y /L2 (N/mm)が0.5(N/mm)以上であるテンターを用いることが好ましい。より好ましくは、x/L1 は1(N/mm)以下、更に好ましくは0.5(N/mm)以下、最も好ましくは0.3(N/mm)以下であり、y /L2 は1(N/mm)以上がより好ましく、更に好ましくは2(N/mm)以上、最も好ましくは3(N/mm)以上である。x/L1 が2(N/mm)以下であることにより、フィルム端部も収縮応力に応じて長手方向に移動可能となり幅方向に物性が均一なフィルムを得ることが可能となるため好ましい。また、一般に同じ条件で得た厚みの異なる未熱処理二軸延伸フィルムは、厚みの薄いフィルムの方が収縮力が小さくなる。そのため、x/L1 が上記範囲を超えると、特に厚みの薄いフィルムの場合はフィルム端部が長手方向に移動しにくくなるため好ましくない。
【0040】また、一般にテンターにおいて、延伸工程ではフィルム幅方向において延伸応力が、また熱処理および/または冷却工程においては収縮応力が発生するが、円滑に製膜を行なうためには、これらの応力によるクリップ外れを生じさせないことが重要である。しかしながら、y/L2 (N/mm)が0.5(N/mm)未満であると収縮応力に耐えきれず、フィルムのクリップ外れが生じ易くなるため好ましくない。特に、延伸工程においても該クリップを用いる場合は、y /L2(N/mm)は1(N/mm)以上であることが好ましく、より好ましくは5(N/mm)以上、更に好ましくは6(N/mm)以上、最も好ましくは8(N/mm)以上であるものを用いることにより、特に、横延伸倍率が3倍を超えるような高倍率延伸の際でも延伸応力に耐えることができ、フィルムのクリップ外れを防止することができるため好ましい。
【0041】本発明において、1つのクリップがフィルム幅方向を把持している長さをクリップ把持幅L1 とし、フィルム長手方向を把持している長さをクリップ把持幅L2 (mm)とした。また、フィルム拘束力とは、厚み75μmのポリエチレンテレフタレートのフィルム両端部をクリップで把持し、(株)今田製作所製のプッシュスケール「PS−10K」および「PSH−100K」を使用して、フィルムを引張り速度0.3m/分で長手方向に走行させた際の走行力を測定し、その走行力をクリップの拘束力x(N)とした。さらに、フィルム把持力とは、自作製フィルム把持力試験機(クリップテスター)を用いて、厚み75μmのポリエチレンテレフタレートのフィルム両端部をクリップで把持し、フィルムを引張り速度0.3m/分で幅方向に引張った際に、フィルムがクリップ外れを起こした際の張力を測定し、該張力をクリップのフィルム把持力y(N)とした。
【0042】上述したように、本発明ではテンタークリップSとテンタークリップDを併用することにより、テンターにおいて弛緩処理を必要としない区間においては、テンタークリップSとテンタークリップDによりフィルム幅方向を把持し、フィルム長手方向はテンタークリップDにより把持されているため、テンタークリップSのクリップ間でフィルムが長手方向に移動してしまうことはない。また、弛緩処理を必要とする区間では、テンタークリップDのフィルム把持を解除して、テンタークリップSのみによりフィルム幅方向を把持し、かつ、テンタークリップSの把持部内でフィルムを長手方向に移動させて弛緩処理を施すことが可能となる。
【0043】そのため、本発明においては、テンタークリップSとテンタークリップDを併用したテンター内で延伸、熱処理および/または冷却、弛緩処理することにより、熱寸法安定性と機械特性に優れ、平面性が良好で幅方向の物性が均一なフィルムを容易に得ることができる。
【0044】ここで、本発明の熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6,ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、その他、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂はホモポリマーであってもよく、他成分の共重合体またはブレンド組成物であってもよい。また、これらの樹脂の中に、公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子および有機粒子などが添加されてもよい。特に、無機粒子や有機粒子はフィルムの表面に易滑性を与え、フィルムの取り扱い性を高めるためにも有効である。
【0045】また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、単層でもよいが二層以上の積層構造をとることも好ましい態様である。積層構造としては、フィルムを横延伸する前に、塗材をフィルムに塗布して、テンター内で溶媒の乾燥し、横延伸および熱処理を行なう方法が好ましく行なわれる。例えば、インクやトナーなどの易接着性、あるいは静電気を抑える帯電防止性などの多様な特性の付与に効果的である。
【0046】さらに、本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、フィルムの長手方向と、長手方向と垂直な方向(幅方向)に分子を配向させることが好ましい。具体的には、溶融押出し、実質的に無配向なフィルムを長手方向に延伸後、幅方向に延伸する方法、幅方向に延伸後、長手方向に延伸する方法、あるいは、長手方向、幅方向同時に延伸する方法、また長手方向の延伸、幅方向の延伸を複数回組み合わせて行なってもよい。
【0047】本発明においては、より熱寸法安定性に優れ、幅方向の物性が均一なフィルムを得るために、該テンターにおいて、長手方向に弛緩処理を施すことが好ましく、その場合の弛緩率は0.5%以上、10%以下とすることが好ましい。
【0048】さらに、熱寸法安定性に優れ、平面性が良好で幅方向の物性が均一なフィルムを効果的に得るためのテンターにおける製膜方法としては、例えば、長手方向に一軸延伸したフィルムをテンターにおいて幅方向に延伸した後の熱処理について、長手方向に弛緩処理を施し、引き続き、熱固定を施すことは、熱寸法安定性に優れたフィルムを得る上で有効であるが、特に幅方向の物性を均一にする上で効果的である。この際、弛緩率は2%以上、10%以下、好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下で、弛緩処理温度は(Tm−165)℃〜(Tm−20)℃で熱固定温度に昇温しながら行なうことが好ましい。また、熱固定温度は(Tm−30)℃〜Tm、好ましくは(Tm−20)℃〜Tmである。ここに、Tmは樹脂の融点である。
【0049】また、長手方向に一軸延伸したフィルムをテンターにおいて幅方向に延伸して熱処理を施した後、長手方向に弛緩処理を施すことは、より熱寸法安定性に優れたフィルムを得る上で効果的である。この際、熱処理温度は(Tm−30)℃〜Tm、好ましくは(Tm−20)℃〜Tmとすることが好ましい。また、弛緩率は0.5%以上、5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下で、弛緩処理温度は(Tg+135)℃〜(Tg+25)℃で徐冷しながら行なうことがより効果的である。ここに、Tgは樹脂のガラス転移点である。
【0050】もちろん、テンターにおける温度や時間などの各処理条件を適宜変更し最適化することや、幅方向の熱収縮率を抑えるために熱処理後に冷却しながら幅方向に弛緩処理を施すことも好ましい態様である。
【0051】次に、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造法について具体的に説明するが、本発明はかかる例に限定されるものではない。また、ここでは熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレートの例を示すが、本発明はこれにも限定されるものではない。
【0052】まず、重合したポリエチレンテレフタレートのペレットを180℃で5時間真空乾燥した後、270〜300℃の温度に加熱された押出機に供給し、これをTダイからシート状に押出す。この溶融されたシート状物を、ドラム表面温度25℃に冷却されたドラム上に静電気力により密着固化し、実質的に非晶状態の成形フィルムを得る。このフィルムを80〜120℃の加熱ロール群で加熱し長手方向に3〜6倍に一段もしくは多段で縦延伸し、20〜50℃のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得る。
【0053】続いて、テンターに導いてこの一軸延伸フィルムの両端部をクリップで把持しながら、80〜140℃に加熱された熱風雰囲気中で予熱し、幅方向に3〜6倍に横延伸し、熱処理を行ない二軸延伸フィルムを得る。この際、熱処理温度は220〜255℃、好ましくは235〜250℃にするのが熱寸法安定性に優れたフィルムを得るのに有効である。
【0054】また、横延伸後に90〜235℃で熱固定温度に昇温しながら長手方向に2〜10%の弛緩処理を施し、引き続き200〜255℃で熱固定を行なうことは低熱収縮性のフィルムが得られるだけでなく、幅方向における物性をより均一化する上でも効果的である。次いで、熱処理後に120〜210℃で冷却する。この冷却区間においては幅方向の熱収を抑えるために、幅方向に5%以下の弛緩処理を行うことが好ましい。また、より熱寸法安定性のフィルムを得るには、引き続き100〜210℃において長手方向に0.5〜5%の弛緩処理を行なうことが好ましい。
【0055】ここで、本発明において、テンター内で使用するクリップはクリップの機構がクリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動可能となテンタークリップSと、通常用いられているクリップ把持部内でフィルムが移動しないテンタークリップDを併用する。この際、走行方向における該テンタークリップSと該テンタークリップDの配列は、D+(S×n)の単位の繰り返しとなり、かつ、nは1以上、10以下であることが好ましい。また、クリップ走行方向と垂直な方向である横方向においては、同じ機構を持つクリップを配置させることが平面性、幅方向物性均一性に優れたフィルムを得る上で好ましい。さらに、延伸工程や熱処理および/または冷却工程において弛緩処理を必要しない区間においては、テンタークリップSとテンタークリップDによりフィルム幅方向を把持し、かつ、テンタークリップDによりフィルムを長手方向に把持し、また熱処理および/または冷却工程において弛緩処理を必要とする区間においては、テンタークリップDのフィルム把持を解除して、テンタークリップSのみによりフィルム幅方向を把持し、かつ、テンタークリップSの把持部内でフィルムを長手方向に移動させて弛緩処理を施すことにより、熱寸法安定性に優れ、かつ、幅方向の物性が均一なフィルムを平面性を悪化させることなく大規模な装置を用いずに容易に得ることが可能となる。この際、テンタークリップDのフィルム把持の解除方法としては、テンタークリップSのクリップレバー上部の長さSLとテンタークリップDのクリップレバー上部の長さDLがSL<DLであり、テンタークリップDのクリップレバーのみがクリップオープナーにより押されてクリップレバーが回転し、該テンタークリップでのフィルム把持を解除することが好ましい。
【0056】また、この際、フィルムが長手方向に移動可能な該テンタークリップSは、延伸工程におけるy /L2 (N/mm)が1(N/mm)以上で、熱処理または冷却工程におけるx/L1 (N/mm)が2(N/mm)以下で、y /L2 (N/mm)が0.5(N/mm)以上であるもを用いることが好ましい。さらに、テンタークリップの把持部の形態は円柱形状、そろばん玉形状、および太鼓ロール形状から選ばれたものであることが好ましく、本発明のフィルムを得る上で効果適である。さらに、該テンタークリップの把持部を該フィルムの搬送方向に複数個配列させることや、該把持部のロールの表面粗さを表すパラメーターである最大高さが2μm以下であることは、フィルムを長手方向へ自由に移動させる上で有効である。このようにして得られたフィルムを室温まで徐冷して巻き取ることで本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0057】[物性値の評価法]
(1)表面粗さを表すパラメータである最大高さJIS B0601−1994に従い、(株)小坂研究所製の高精度薄膜段差計ET−10を用いて、触針先端半径0.5μm、針圧5mg、測定長1mm、カットオフ0.08mmとし、レプリカ法にて転写してから測定した。
【0058】(2)クリップのフィルム把持力、およびフィルム拘束力厚み75μmのポリエチレンテレフタレートのフィルム両端部をクリップで把持し、(株)今田製作所製のプッシュスケール「PS−10K」および「PSH−100K」を使用して、室温でフィルムを引張り速度0.3m/分で長手方向に走行させた際の走行力を測定し、その走行力をクリップの拘束力x(N)とした。また、自作製フィルム把持力試験機(クリップテスター)を用いて、厚み75μmのポリエチレンテレフタレートのフィルム両端部をクリップで把持し、室温でフィルムを引張り速度0.3m/分で幅方向に引張った際に、フィルムがクリップ外れを起こした際の張力を測定し、その張力をクリップのフィルム把持力y1(N)とした。
【0059】(3)熱収縮率幅10mm、長さ250mmにサンプリングした試料に、約200mm間隔となるように直線を引き、その間隔の長さを万能投影機により測定し、L0 (mm)とする。次に、該サンプルを150℃に加熱された熱風オーブン中で30分間保持し、その後、室温で2時間冷却した後、再び、直線の間隔を万能投影機で正確に測定し、L1 (mm)とする。この測定結果から、熱収縮率=((L0 −L1 )/L0)×100)(%)とし、n数5サンプルの平均値を採用した。
【0060】(4)フィルム幅方向の物性均一性フィルム幅方向における配向角の最大値と最小値の差z(°)のフィルム幅Lt(m)に対する比をz/Lt(°/m)とし、以下のようにしてフィルム幅方向物性均一性を判定した。なお、配向角は、白色光を光源として偏光顕微鏡を用い、その消光値から配向主軸とフィルム幅方向との狭角を求め配向角(°)とした。また、配向主軸は幅方向を0°、幅方向と垂直な方向(長手方向)を90°とした。
○:z/Lt(°/m)が15°/m未満のもの。
△:z/Lt(°/m)が15°/m以上、30未満のもの。
×:z/Lt(°/m)が30°/mを越えるもの。
【0061】(5)F−5値オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置テンシロンAMF/RTA−100を用いて、幅10mm、試長200mmとなるようにセットし、引張り速度200m/分、温度25℃、湿度65RH%の条件でフィルムの長手方向の5%伸長に対するF5値とした。
【0062】(6)熱特性至差走査熱量計として、セイコー電子工業株式会社製のロボットDSC「RDC220」を用い、データ解析装置として、同社製ディスクステーション「SSC/5200」を用いて、サンプル約5mgをアルミニウム製の受皿上300℃で5分間溶融保持し、液体窒素中で急冷固化した後、室温から20℃/分で昇温した。このときに観測されるガラス状態からゴム状態への移転に基づく、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の段階状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移点(Tg)とした。また、融解ピークの頂点の温度を融点(Tm)とした。
【0063】(7)平面性A4サイズにカットしたフィルムをコルク板の上に置き、不織布を巻き付けた棒でフィルムをしごき、空気を排除した後、以下のようにして平面性を目視で判定した。
○:コルク板から浮き上がった部分が見られないもの。
△:コルク板から浮き上がった部分が3ヶ所以下であるもの。
×:コルク板から浮き上がった部分が3ヶ所以上を越えるもの。
【0064】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0065】(実施例1)熱可塑性樹脂として、o−クロロフェノール中で測定した固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを用いた。DSCを用いて熱特性を測定したところ、Tg:75℃、Tm:255℃であった。このポリエチレンテレフタレートのペレットを180℃で5時間真空乾燥した後に、270〜300℃に加熱された押出機に供給し、Tダイからシート状に成形した。さらにこのシート状物を表面温度25℃の冷却ドラム上に静電気力で密着固化して未延伸フィルムを得た。
【0066】この未延伸フィルムを80〜120℃の加熱ロール群で加熱し長手方向に3.3倍一段階で縦延伸し、20〜50℃のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。続いて、得られた一軸延伸フィルムの両端部をクリップで把持しながらテンターに導き、90℃に加熱された熱風雰囲気中で予熱し、95℃の熱風雰囲気中で横方向に4倍に横延伸し二軸配向フィルムを得た。
【0067】このようにして二軸配向されたフィルムをそのままテンター中で、95〜230℃の昇温区間でフィルムをクリップ把持部で長手方向に移動させて2%弛緩処理を施し、引き続き250℃で熱固定を行い、熱処理後、いったん200℃まで緊張下で冷却し、200〜120℃の冷却区間でテンターのレール幅を縮めて幅方向に3%、長手方向に2.5%弛緩処理を施し、さらにテンターから取り出し、フィルムエッジ部分をトリミングして巻き取り、厚み75μmの本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0068】なお、この際用いたテンタークリップは、クリップの機構がクリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動可能となるテンタークリップSと、クリップ把持部内でフィルムが移動しないテンタークリップDを使用した。また、該テンタークリップSと該テンタークリップDのクリップ走行方向における配列は、D+(S×n)の単位の繰り返しとなり、かつ、nは2とし、クリップ走行方向と垂直な方向である横方向においては、同じ機構を持つクリップを配置させた。さらに、該テンタークリップのクリップレバー上部の長さはSL<DLであり、弛緩処理を必要しない区間においては、テンタークリップSとテンタークリップDにより、フィルムを把持しながら製膜を行ない、弛緩処理を必要とする区間においては、テンタークリップDのクリップレバー上部のみがクリップオープナーにより押されて、クリップレバーが回転し、テンタークリップDのフィルム把持を解除して、テンタークリップSのクリップ間によりフィルムの弛緩処理を施した。
【0069】また、クリップ把持部内においてフィルムが長手方向に移動可能となる機構を持つテンタークリップは、クリップ把持部の形態が上部は太鼓ロール形状で下部は円柱形状のもので、該把持部がフィルム搬送方向に上下にそれぞれ3個配列してあり、該把持部の表面粗さを表すパラメータである最大高さは0.6μmであった。さらに把持幅L1 は10mm、L 2は73mmであり、フィルム拘束力は3(N)でありx/L1 が0.3(N/mm)、フィルム把持力は350(N)でありy/L2が4.8(N/mm)であった。
【0070】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。平面性が良好で、機械的特性、熱寸法安定性に優れ、そして幅方向における物性も均一化されたものが得られた。
【0071】(実施例2)実施例1と同様にして一軸延伸フィルム得た後、引き続き、テンターに導き、実施例1での該テンタークリップSの把持部の表面粗さを表すパラメータである最大高さが3μmであり、フィルム拘束力が25(N)でx/L1 が2.5(N/mm)であり、フィルム把持力が480(N)でy /L2 が6.6(N/mm)であるテンタークリップを用いて、厚みが200μmのフィルムを得たこと以外は、実施例1と同様にして、テンターから二軸延伸フィルムを取り出し、フィルムエッジ部をトリミングして巻き取り、厚み75μmの本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0072】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。クリップの拘束力が大きかったが、フィルム厚みが厚かったため若干フィルムが長手方向に移動しにくく、設定値よりも低い実行弛緩率となったが弛緩処理を施すことができた。また、実施例1と比較して熱収縮率が若干高く、幅方向における物性も若干不均一なものとなった。
【0073】(実施例3)実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た後、引き続き、それをテンターに導き、実施例1でのフィルム拘束力が3(N)でx/L1 が0.3であり、フィルム把持力が58.4(N)でありy /L2 が0.8(N/mm)であるテンタークリップを用いて、横延伸倍率を2.5倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、テンターから取りだし、フィルムエッジ部をトリミングして巻き取り、厚み75μmの本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0074】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。延伸工程におけるクリップのフィルム把持力は小さい値であったが、横延伸倍率が低倍であったため、クリップ外れを起こすことなく、平面性が良好で、機械的特性、熱寸法安定性に優れ、幅方向における物性も均一化されたものが得られた。
【0075】(実施例4)実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た後、引き続き、それをテンターに導き、昇温区間では弛緩処理を施さず、冷却区間での弛緩率を0.2%とする以外は実施例1と同様にして、テンターから取りだし、フィルムエッジ部をトリミングして巻き取り、厚み75μmの本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0076】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。弛緩率が低かったため、実施例1と比較して熱収縮率が若干高く、幅方向における物性も若干不均一なものとなった。
【0077】(実施例5)実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た後、引き続き、それをテンターに導き、実施例1でのクリップ走行方向における配列におけるnを6に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、テンターから取り出し、フィルムエッジ部をトリミングして巻き取り、厚み75μmの本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0078】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。実施例1と比較してテンター入り口におけるフィルム通しが若干困難であったが、平面性が良好で、機械的特性、熱寸法安定性に優れ、幅方向における物性も均一化されたものが得られた。
【0079】(実施例6)実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た後、引き続き、それをテンターに導き、実施例1でのクリップ走行方向における配列におけるnを15に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、テンターから取り出し、フィルムエッジ部をトリミングして巻き取り、厚み75μmの本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0080】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。実施例5と比較してテンター入り口におけるフィルム通しが困難であり、テンタークリップDの間隔が広かったため、平面性が若干悪く、幅方向における物性も若干不均一なものとなった。
【0081】(実施例7)実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た後、引き続き、それをテンターに導き、実施例1でのテンタークリップSの把持部の下部の形態をベルト形状に変更し、フィルム拘束力が30(N)でx/L1 が3(N/mm)であり、フィルム把持力が350(N)でy /L2 が4.8(N/mm)であるものを用いて、厚みが200μmのフィルムを得たこと以外は、実施例1と同様にして、テンターから取り出し、フィルムエッジ部をトリミングして巻き取り、厚み75μmの本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0082】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。クリップ把持部の下部の形態がベルト形状であるため、実施例1と比較してクリップ把持部とフィルムとの接触面積が大きくなってしまい、拘束力が大きかったが、フィルム厚みが厚かったため若干フィルムが長手方向に移動しにくく、設定値よりも低い実行弛緩率となったが弛緩処理を施すことができた。また、実施例1と比較して熱収縮率が若干高く、幅方向における物性も若干不均一なものとなった。
【0083】(実施例8)実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た後、引き続き、得られた一軸延伸フィルムの両端部をクリップで把持しながらテンターに導き、90℃に加熱された熱風雰囲気中で予熱し、95℃の熱風雰囲気中で横方向に4倍に横延伸し二軸配向フィルムを得た。なお、この際用いたテンタークリップは、クリップの機構がクリップ把持部内でフィルムが移動しないテンタークリップDを使用した。
【0084】このようにして二軸配向されたフィルムをテンター中で、引き続き250℃で熱固定を行い、熱処理後、いったん200℃まで緊張下で冷却し、200〜120℃の冷却区間でテンターのレール幅を縮めて幅方向に3%、長手方向に2.5%弛緩処理を施し、さらにテンターから取り出し、フィルムエッジ部分をトリミングして巻き取り、厚み75μmの本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、この際用いたテンタークリップはクリップの機構がクリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動可能となるテンタークリップSとクリップ把持部内でフィルムが移動しないテンタークリップDとを用い、該テンタークリップSと該テンタークリップDのクリップ走行方向における配列は、D+(S×n)の単位の繰り返しとなり、かつ、nは2とし、クリップ走行方向と垂直な方向である横方向においては、同じ機構を持つクリップを配置させた。さらに、該テンタークリップのクリップレバー上部の長さはSL<DLであり、弛緩処理を必要しない区間においては、テンタークリップSとテンタークリップDにより、フィルムを把持しながら製膜を行ない、弛緩処理を必要とする区間においては、テンタークリップDのクリップレバー上部のみがクリップオープナーにより押されて、クリップレバーが回転し、テンタークリップDのフィルム把持を解除して、テンタークリップSのクリップ間によりフィルムの弛緩処理を施した。
【0085】また、クリップ把持部内においてフィルムが長手方向に移動可能となる機構を持つテンタークリップは、クリップ把持部の形態が上部は太鼓ロール形状で下部は円柱形状のもので、該把持部がフィルム搬送方向に上下にそれぞれ3個配列してあり、該把持部の表面粗さを表すパラメータである最大高さは0.6μmであった。さらに把持幅L1 は10mm、L 2は73mmであり、フィルム拘束力は3(N)でありx/L1 が0.3(N/mm)、フィルム把持力は350(N)でありy/L2が4.8(N/mm)であった。
【0086】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。冷却工程のみ弛緩処理であったため、実施例1と比較して熱収縮率が若干高いものとなった。
【0087】(比較例1)実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た後、引き続き、それをテンターに導き、実施例1でのテンタークリップをテンタークリップDのみの使用に変更したこと以外は、実施例1と全く同様にして、テンターから取り出し、フィルムエッジ部をトリミングして巻き取り、厚み75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、通常のテンタークリップのフィルム拘束力は拘束力が510(N)でx/L1 が51(N/mm)であり、フィルム把持力が510(N)でy /L2が7(N/mm)であった。
【0088】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。通常のテンタークリップのみの使用であったため、フィルムが長手方向に移動できず、結果として、弛緩処理が施すことができなかったため、熱収縮率が大きく、幅方向における物性も不均一なものとなった。
【0089】(比較例2)実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た後、引き続き、それをテンターに導き、実施例1のテンタークリップをテンタークリップSのみの使用に変更したこと以外は、実施例1と全く同様にして、テンターから取り出し、フィルムエッジ部をトリミングして巻き取り、厚み75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、フィルム拘束力が3(N)でx/L1 が0.3(N/mm)であり、フィルム把持力は350(N)でy /L2 が4.8(N/mm)であった。
【0090】得られた熱可塑性樹脂フィルムの特性を表1に示す。クリップ把持部の機構がクリップ把持部内においてフィルムが長手方向に移動可能であるクリップのみの使用であったため、テンター入口部でのクリップでのフィルム把持が困難であり、また延伸工程でもクリップ把持部でフィルムが長手方向に移動可能となり、実質的に長手方向に弛緩処理が施されてしまったため、幅方向における物性も不均一で、平面性が劣ったものとなった。
【0091】
【表1】


【0092】
【発明の効果】本発明によれば、フィルム幅方向における物性が均一であり、かつ熱寸法安定と機械的特性に優れ、平面性も良好な二軸配向熱可塑性樹脂フィルムを生産性よく得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明に係るテンタークリップにおいてのクリップ把持部の形態における形状を示した概略モデル図である。
【図2】 図2は、本発明に係るテンタークリップのフィルム解放状態を示す側断面図である。
【図3】 図3は、本発明に係るテンタークリップを用いた延伸工程におけるテンタークリップの側断面図である。
【図4】 図4は、本発明に係るテンタークリップを用いた熱処理または/および冷却工程における弛緩処理時のテンタークリップの側断面図である。
【図5】 図5は、本発明に係るテンタークリップを用いた熱処理または/および冷却工程における弛緩処理後のテンタークリップDのフィルム再把持時を示す側断面図である。
【図6】 図6は、本発明に係るテンタークリップのフィルム解放状態を示す側断面図である。
【符号の説明】
1:フィルム搬送方向
2:フィルム
3:長手方向に移動しない
4:長手方向に自由に移動可能
5:クリップレバー
5a:クリップレバー上部
5a’:クリップレバー上部
5b:クリップレバー下部
5b’:クリップレバー下部
5c:クリップ把持部上部
5c’:クリップ把持部上部
6:ベース
6a:クリップ把持部下部
6a’:クリップ把持部下部
7:起立部
8:クリップレバー軸
9:クリップクローザー
10:クリップオープナー
11:クリップクローザー
12:クリップオープナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 クリップ把持部の機構がクリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動可能なテンタークリップSと、クリップ把持部内でフィルムが長手方向に移動しないテンタークリップDを併用したテンター内で、フィルムの延伸、熱処理、冷却のいずれかの処理を行うことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】 テンタークリップSと、テンタークリップDとのテンタークリップ走行方向における配列が、D+(S×n)の単位の繰り返しとなり、かつ、nは1以上、10以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】 熱処理および/または冷却工程において、テンタークリップDのフィルム把持を解除することを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】 テンタークリップSのクリップレバー上部の長さSLとテンタークリップDのクリップレバー上部の長さDLがSL<DLであり、該テンタークリップDのクリップレバーのみがクリップオープナーにより押されてクリップレバーが回転し、該テンタークリップDのフィルム把持を解除することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】 フィルムが長手方向に移動可能なテンタークリップSのフィルム長手方向の拘束力x(N)のクリップ把持幅L1 (mm)に対する比x/L1(N/mm)が2(N/mm)以下であり、かつ、フィルム幅方向のフィルム把持力y1(N)のクリップ把持幅L2 (mm)に対する比y1 /L2 (N/mm)が0.5(N/mm)以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】 フィルムが長手方向に移動可能なテンタークリップSの把持部の形態が、円柱形状、そろばん玉形状および太鼓ロール形状から選ばれた一つであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】 フィルムが長手方向に移動可能なテンタークリップSの把持部の形態が、クリップ把持部上部が太鼓ロール形状で、クリップ把持部下部が円柱形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】 テンター内で、フィルムの長手方向に弛緩処理を施すことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】 弛緩率が0.5%以上、10%以下であることを特徴とする請求項8に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2001−334569(P2001−334569A)
【公開日】平成13年12月4日(2001.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−156385(P2000−156385)
【出願日】平成12年5月26日(2000.5.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】