説明

熱可塑性樹脂フィルムロール

【課題】巻芯の転写跡が少なく、かつ巻ずれや搬送時の蛇行が起きにくくなることにより、フィルムの擦過やシワが少なく、さらには、フィルムの製造および加工工程の歩留まりを上げることができる熱可塑性樹脂フィルムロールの提供。
【解決手段】フィルム幅方向の両端部分の片面または両面に突起付与処理を施した熱可塑性樹脂フィルムを筒(コア)に巻き取ってなるフィルムロールであって、半径方向におけるコア外径からの層厚みX(mm)が20mmより小さい(X≦20)部分を巻芯部とし、コア外径からの層厚みX(mm)が20mmより大きい(X>20)部分を製品部としたとき、前記巻芯部の突起付与処理によって変形した部分の平均高さ(b)、前記製品部での突起付与処理部の平均高さ(b)、およびフィルム平均厚み(a)が、次式(1)と(2)を同時に満たすものである。(1)b>b(2)0.01<b/a<0.2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用フィルム、表面保護材、磁気記録媒体、感熱転写材、電気絶縁材料、離型材および包装材料等の用途、中でも光学用フィルムおよび表面保護材など透明性が求められる用途に有効に用いられる熱可塑性樹脂フィルムロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムは、物理的性質に優れ、かつ生産性にも優れているため、様々な用途に広く用いられている。近年は、IT分野の伸びに伴い、熱可塑性樹脂フィルムは、ディスプレイ用の反射防止フィルム、液晶用バックライト用拡散板およびタッチパネル用など基材や、光ディスクおよび液晶位相差板など光学用部材の工程紙などの光学用フィルムの用途が増えてきている。
【0003】
このような光学用フィルムでは、高い透明性が要求されるため、一般的な包装用フィルムや工業材料用フィルムに易滑材として添加されている不活性粒子はほとんど添加されていない。不活性粒子が添加されていない光学用フィルムは、非常に平滑で滑りにくいため、フィルム製造工程での搬送性が悪く、搬送ロール上で蛇行したり最終的にロール上に巻取った場合にフィルム層間に巻き込んだ空気が抜けにくく、巻きずれを起こすことがある。
【0004】
また、フィルムは、通常、紙やプラスチック等からなる筒(コアと呼ぶことがある。)に巻き取られフィルムロールが形成される。その際、フィルムの巻き取りに先立ち、フィルムの先端部が粘着テープでコアに貼り付け固定され、それから巻き取りが開始される。ところが、フィルムをコアに貼り付ける際に用いられた粘着テープおよび巻始めのフィルムの段差が、巻き取られたフィルムに転写し、フィルムロール内層のフィルムは製品として使用できなくなるという問題がある。このような問題は、フィルム製造工程のみではなく、フィルムの加工工程中でも同様に惹起し、フィルムの製造と加工工程の歩留まりを低下させる原因となっている。
【0005】
従来、このような問題を改善する方法して、フィルムの両端部分に突起を形成する方法が提案されてきた(特許文献1、特許文献2および特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−272003号公報
【特許文献2】特開2002−18944号公報
【特許文献3】特開2007−70514号公報 しかしながら、このようにフィルムの両端部分に突起付与処理を上記特許文献のように規定するだけでは、巻芯の転写跡を改善するにはなお不十分であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、フィルムの製造および加工工程での搬送性が良好で巻ずれがなく、かつ巻芯の転写跡が少ない、特に光学用フィルムに好適な熱可塑性樹脂フィルムロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールは、上記課題を解決するために、次の構成を有するものである。
1.フィルム幅方向の両端部分の片面または両面に突起付与処理を施した熱可塑性樹脂フィルムを筒(コア)に巻き取ってなるフィルムロールであって、半径方向におけるコア外径からの層厚みX(mm)が20mmより小さい(X≦20)部分を巻芯部とし、コア外径からの層厚みX(mm)が20mmより大きい(X>20)部分を製品部としたとき、前記巻芯部の突起付与処理によって変形した部分の平均高さ(b)、前記製品部での突起付与処理部の平均高さ(b)およびフィルム平均厚み(a)が、次式(1)と(2)を同時に満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムロール。
>b (1)
0.01<b/a<0.2 (2)
2.前記のコア外径からの層厚みX(mm)が40mmより大きい範囲において、突起付与処理が施されていないことを特徴とする前記1に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
3.表面粗さRaが20nm以下の熱可塑性樹脂フィルムの基材として使用することを特徴とする前記1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、巻芯の転写跡が少なく、かつ巻ずれや搬送時の蛇行が起きにくくなることにより、熱可塑性樹脂フィルムの擦過やシワが少ない熱可塑性樹脂フィルムロールを得ることができ、さらには、熱可塑性樹脂フィルムの製造および加工工程の歩留まりを上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明においてフィルム幅方向の両端部分に凹凸を形成(突起付与処理)する方法を例示説明するための概略側面図である。
【図2】図2は、図1の概略平面図である。
【図3】図3は、本発明で用いられる凹凸パターンを例示説明するための概略拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールについて、更に詳細に説明する。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールは、熱可塑性樹脂フィルムが筒(コア)に巻き取られた形状からなり、フィルム幅方向の両端部分の片面または両面に突起付与処理が施され凹凸が形成されてなるもの(以下、「凹凸形成部」という。)で、その凹凸形成部の高さは巻芯部側と表層部側で異なり、巻芯部側の凹凸形成部が表層部側の凹凸形成部より高く形成されてなるものである。
【0013】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミドおよびポリオレフィンなどの樹脂が挙げられ、これらの中でもポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0014】
ここでいうポリエステルとは、二塩基酸とグリコールを構成成分とするポリエステルであり、二塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸およびダイマー酸などを挙げることができる。また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレグリコール、ナフタレンジオールおよびシクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができる。
【0015】
ポリエステル樹脂の具体的な例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートおよびポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどを挙げることができ、特に、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレン−2,6−ナフタレートは、機械強度や寸法安定性などの物理的性質に優れ、かつ生産性にも優れているため、特に好ましく用いられる。また、フィルムを巻取った後のフィルムロールの平面性や形態保持に優れているので、フィルムを巻出した後のフィルムの平面性は良好であるが、巻芯の転写跡が付きやすい。そのため、本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールには、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレン−2、6−ナフタレートからなる熱可塑性樹脂フィルムが好適に用いられる。
【0016】
また、本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、先に挙げたもののうち1種類単独でも、2種以上の樹脂の共重合体や、2種以上の樹脂の混合体であってもかまわない。
【0017】
また、これらの熱可塑性樹脂の中に、目的に応じて各種添加剤を添加することができる。例えば、易滑性付与のためにコロイダルシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、有機シリコーンおよびポリジビニルベンゼンスルホン酸などの不活性粒子を添加することができる。また、帯電防止剤や酸化防止剤などが添加されていてもかまわない。熱可塑性樹脂フィルムが、透明性が要求される光学用途に用いられる場合は、これらの添加物をほとんど添加しないか、もしくは添加するとしても粒径の小さいものを極少量添加することが好ましい。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールは、フィルム幅方向の両端部分の片面または両面に突起付与処理を施した熱可塑性樹脂フィルムを筒(コア)に巻き取ってなるフィルムロールであって、半径方向におけるコア外径からの層厚みX(mm)が20mmより小さい(X≦20)部分を巻芯部とし、コア外径からの層厚みX(mm)が20mmより大きい(X>20)部分を製品部としたとき、前記巻芯部の突起付与処理によって変形した部分の平均高さ(b)、前記製品部での突起付与処理部の平均高さ(b)およびフィルム平均厚み(a)が、次式(1)および(2)を満たすことを必要とする。
【0019】
>b (1)
0.01<b/a<0.2 (2)
上記式(1)は、巻芯部の突起付与処理部の平均高さbが製品部の突起付与処理部の平均高さbより大きいことが必要であることを表し、この場合、巻芯部の凹凸形成部を高くすることにより、巻芯部にあるフィルム層間にエアが入り込み巻芯の転写跡を改善することができる。ここで、巻芯部の突起付与処理部の平均高さ(b)と、巻芯部以外の製品部の突起付与処理部の平均高さ(b)の比(b/b)が1.2以上4.0以下であることが好ましく(ただし、bが0の場合はこの比は考慮しない)、より好ましくは1.5以上2.8以下である。
【0020】
上記平均高さの比(b/b)が1.2未満では巻芯部の転写跡を改善する効果は薄く、またその比(b/b)が4.0より大きい場合は、巻芯部側の凹凸高さが高すぎることで、巻姿が悪くなる傾向にある。
【0021】
平均高さの比(b/b)が1.2以上4.0以下では巻芯部の転写跡は良好で、1.5以上2.8以下ではさらに巻芯部の転写跡は良好であった。b≦bで、b≦5μmのとき、巻芯の転写跡を改善することが出来ない。b>5μmのとき、フィルム端部の凹凸が盛り上がりすぎて、巻姿も悪く熱可塑性樹脂フィルムの平面性も悪くなる。巻芯転写跡とは、フィルムとコアをつなげているテープの跡が、テープの面積とほぼ同等の面積でフィルムにつく跡のことをいう。
【0022】
本発明では、巻芯部の凹凸形成部の処理範囲を、巻径方向のコア外径からの層厚み(X)20mmとした。層厚みX(mm)が20mmを超えた場合、巻芯テープ跡が確認出来る範囲をはるかに超えており、巻芯テープ跡のない部分の凹凸形成部の高さを高くしてしまうことになる。この結果、フィルム両端部が盛り上がった熱可塑性樹脂フィルムロールは、外観姿が悪く、巻芯部の層厚み(X)はX≦20mmであることが必要である。
【0023】
熱可塑性樹脂フィルムロールにおいて、主な製品ロール表層までの層厚みは通常140〜260mm程度である。フィルムのコア(巻き取り用巻芯)には、紙菅、金属コア(鉄コア、SUSコアおよびアルミコア他)、樹脂コアおよびプラスチック(FWP)コアが主に使用されている。コアの形状は筒で中空になっており、幅は製品幅に応じ様々な幅がある。また、厚みも製品重量を考慮し、設計されている。巻芯のテープ跡の付きやすさは、硬い材質ほど付きやすい。例えば、紙コアよりもFWPコアの方がテープ跡が付きやすい。
【0024】
また、上記式(2)は、フィルムの平均厚み(a)に対する巻芯部の突起付与処理部の平均高さ(b)が0.01から0.2の範囲であることが必要であることを表し、その範囲は好ましくは0.03<b/a<0.2であり、更に好ましくは0.05<b/a<0.19である。その範囲がb/a≧0.2となる場合は、すだれ等の問題が起こるため良くない。ここで、すだれとは、熱可塑性樹脂フィルムロールに横段状のすじが発生する欠点のことである。また、その範囲がb/a≦0.01となる場合は、凹凸形成部が低すぎるため巻芯の転写跡改善効果が全くない。
【0025】
上記式(1)と(2)を全て満たす範囲とすることにより、本発明の効果である巻芯部の転写跡の少ない熱可塑性樹脂フィルムロールとすることが出来る。
【0026】
次に、上記式(1)と(2)を全て満たし、かつコア外径からの層厚みX(mm)が40mmより大きい範囲において、突起付与処理が施されていない態様の熱可塑性樹脂フィルムロールについて説明する。巻芯部から表層部まで凹凸をつけることにより、加工工程での搬送性が良好で巻ずれが少なく、かつ巻芯の転写跡を少なくすることが出来るが、凹凸が好まれない用途もある。その理由は、加工工程の問題で凹凸形成部があると、うまく拡散ビーズをコーティング出来ない等の問題がある。そのため、現在でも凹凸形成部を有さない熱可塑性樹脂フィルムロールも存在する。そのような熱可塑性樹脂フィルムロールに巻芯部のみ凹凸形成部を設けることで、そのようなロールでの巻芯転写跡を改善することが出来る。
【0027】
本発明は、表面粗さRaが20nm以下の平滑な熱可塑性樹脂フィルムにおいてより優れた効果を発揮する。好ましくは表面粗さRaは15nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。平滑な熱可塑性樹脂フィルムほど巻芯転写跡がきつくなるため、平滑な熱可塑性樹脂フィルム、例えば光学用フィルム等で特に効果がある
本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールは、フィルム幅方向の両端部分の凹凸形成部の摩擦係数(μA)と、フィルム幅方向内側の凹凸形成部を有さない部分の摩擦係数(μB)の比(μA/μB)が、0.65以上0.95以下であることが望ましく、上記の比は、より好ましくは0.7以上0.93以下であり、更に好ましくは0.75以上0.9以下である。上記の比(μA/μB)を上記の範囲とすることにより、工程中の蛇行と巻ずれがなく粘着テープの転写跡の少ないフィルムロールとすることが出来る。
【0028】
凹凸の個数(N)は、10〜100個/100mmであることが好ましく、より好ましくは15〜85個/100mmであり、更に好ましくは20〜70個/100mmである。凹凸の個数(N)を上記の範囲とすることにより、工程中の蛇行と巻ずれがなく、粘着テープの転写跡の少ないフィルムロールとすることが出来る。
【0029】
凹凸の個数(N)は、スカラ株式会社製デジタルマイクロスコープDG−2Aを用いて、倍率50倍でフィルム両端部の凹凸形成部を片側5視野ずつ合計10視野観察して、凹と凸の個数をカウントし100mmに換算した。凹凸形成部とは、フィルム幅方向の端部の最も外側の凹凸〜最も内側の凹凸の範囲内のことである。凹凸が両面に形成されている場合は、片面5視野ずつ合計20視野観察する。また、ソニー・プレシジョン・テクノロジー株式会社製のデジタルマイクロメーターμメイトM−30を用いて、フィルムの両端部の凹凸が形成された部分と凹凸のない部分の厚みを片側5点ずつ測定して平均し、その差を凹凸の高さとした。
【0030】
凹凸形成部は、刻印ロールのパターンや温度および圧着圧力などを調整し形成することができる。
【0031】
また、凹凸形成部における凹凸のある部分の面積は、フィルムの単位長さあたり25%を超え50%以下であることが好ましく、より好ましくは26%を超え45%以下であり、更に好ましくは27%を超え45%以下である。
【0032】
フィルム表面に凹凸を形成させる方法としては、例えば、四角錐や円錐状の突起が刻印されたリング同士または刻印リングと表面が平坦なロールを圧着し、これらロール間にフィルムを通過させる方法が挙げられる。刻印リングと表面が平坦なHCrメッキやセラミックコーティングなどの比較的硬度の高いロールを圧着させると、刻印リング側のみフィルムの片面に凹凸が形成され、また刻印リング同士や平坦ロールにウレタンゴムなどの弾性を有する材質を用いると、フィルムの両面に凹凸を形成させることが出来る。
【0033】
刻印リングとしては、炭素鋼、ステンレススチール、セラミックコーティングおよびHCrメッキなどの材質の刻印リングを使用することができる。刻印リングは、例えば、突起形成部分の幅が5〜30mm程度であり、刻印の形状は、突起のピッチが幅方向および長手方向とも0.5〜5mm程度であり、突起の高さが0.3〜3mm程度のものが用いられるが、リングの幅、突起のピッチおよび高さとも必要に応じて選ぶことができる。また、平坦ロールは、ウレタンゴム、ステンレススチール、セラミックコーティングおよびHCrメッキなどの材質から必要に応じて最適なものを選択する。
【0034】
凹凸の形成は、常温で行っても、加熱下で行っても構わない。加熱下で凹凸を形成する場合は、刻印リングを外部ヒーターにより加熱する方法、内部に加熱手段を有する刻印リングを用いる方法、加熱された平坦ロールを用いる方法、あるいは熱可塑性樹脂フィルムをあらかじめ加熱してから刻印リングを通過させる方法、およびレーザーで加工する方法などが用いられる。刻印リングや平坦ロールを加熱する場合は、刻印リングやロール円周の温度を均一化させるために、刻印ロール内部に熱電対などの温度測定手段を有し、温度コントロールが可能とすることが望ましい。加熱温度は、好ましくは、熱可塑性樹脂のガラス転移点以上融点以下の温度範囲から選択される。
【0035】
凹凸の形成は、熱可塑性樹脂フィルム製造の工程中で行ってもよく、または、熱可塑性樹脂フィルムが必要な製品幅や長さにスリッターにより裁断された後に、凹凸の形成のための専用工程で行ってもかまわない。フィルム製造工程を簡略化させ製造コストを下げるためには、フィルム製造工程中の中間製品の巻き取り工程や裁断工程に、先に述べた刻印リングと平坦ロールを設置して凹凸の加工を行っても良いし、平坦ロールの代わりにこれら工程中のフィルム搬送ロール上に刻印ロールを設置して凹凸の加工を行ってもよい。
【0036】
次に、図面を用いて、熱可塑性樹脂フィルムに凹凸を形成する方法について説明する。
【0037】
図1は、本発明においてフィルム幅方向の両端部分に凹凸を形成(突起付与処理)する方法を例示説明するための概略側面図であり、図2は、図1の概略平面図である。
【0038】
図1と図2において、フィルム1は矢印のフィルム進行方向4に移動し、スリッターによりコアに巻き取られフィルムロール5となる。この間、走行しているフィルム1は加熱された刻印ロール2と対向ロール(受けロール)3で挟持され突起付与処理されてフィルム1の表面に凹凸が形成される。図1では、片面(図中フィルム1の上面)に凹凸が形成される。図2は、図1を上からみた図であり、フィルム1がフィルム進行方向4に移送されている間に、フィルム両端部側に配置されている一対の刻印ロール2と対向ロール3により刻印部分6で刻印され、フィルム1の幅方向の両端部分に凹凸パターンが形成される。
【0039】
また、図3は、本発明で用いられる凹凸パターンを例示説明するための概略拡大平面図である。図3は、矢印で示されるフィルム長手方向8に走行するフィルムのフィルム端部9を表しており、このフィルム端部9の近傍に、形成された凹凸形成部の凹凸パターンが現されている。
【0040】
本発明において熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、50μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは70μm以上360μm以下である。
【0041】
本発明によれば、巻芯の転写跡が少なく、かつ巻ずれや搬送時の蛇行が起きにくくなることで、熱可塑性樹脂フィルムの擦過やシワが少ない熱可塑性樹脂フィルムロールを得ることができる。また、本発明において、熱可塑性樹脂フィルムのヘイズは、5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下である。これは、光学要求として、フィルムのヘイズ値が低いフィルムが好まれるためであり、このような熱可塑性樹脂フィルムのフィルムロールは、光学用フィルムなどの工業材料用途で好適に使用される。
【0042】
本発明において熱可塑性樹脂フィルムは、長手方向と幅方向の二軸に延伸配向されていると、機械強度などの物理的性質が良好となり、加工工程での工程適正や最終製品とした場合の品位が優れたものとなる。また、二軸延伸後に熱処理することにより、後加工工程での加熱時に収縮しにくくなり、寸法安定性が向上する。
【0043】
二軸延伸の方法としては、未延伸の熱可塑性樹脂フィルムを、長手方向あるいは幅方向に延伸し、続いて先の延伸方向と直行する方向の延伸を行う逐次二軸延伸や、長手方向と幅方向に一度に延伸する同時二軸延伸が挙げられる。
【0044】
逐次二軸延伸の場合は、押出機を用いて熱可塑性樹脂を溶融し、スリット状の吐出口を有する口金からシート状に押出し、冷却ロール状で冷却して非晶質のフィルムを得る。続いて、この非晶質の熱可塑性樹脂フィルムを温度制御された数本のロールに接触通過させる方法や赤外線ヒーターなどのヒーターの輻射熱による加熱などの方法により、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱し、前後するロールの周速差などを用いて長手方向に延伸する。このときの延伸倍率は、熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートの場合、好ましくは2〜8倍である。この場合、延伸は1段階で行っても2段階以上で段階的に行ってもかまわない。
【0045】
長手方向に延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、一旦冷却され、引き続きステンターオーブンにより幅方向に延伸される。熱可塑性樹脂フィルムは、ステンターオーブン内のレール上を走行するクリップに把持された状態で、オーブン中で再び熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱されて、クリップが走行するレールの広がりに伴い、幅方向に延伸される。幅方向の延伸倍率は、熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートの場合、好ましくは2〜5倍延伸される。
【0046】
長手方向と幅方向に延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、引き続き熱処理される。熱処理は、幅方向の延伸に引き続き同じステンターオーブン内で行っても良いし、幅方向の延伸を行ったステンターオーブンとは別のオーブンで行っても良い。熱処理の温度は、熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートの場合、180℃〜250℃の比較的高温で行うことができる。熱処理を行うことにより、その後の加工工程や最終製品として使用時に高温下に晒されたときの寸法安定性が向上する。また、熱処理後に、長手方向または/および幅方向に、熱可塑性樹脂フィルムを1〜10%弛緩させることにより、更に寸法安定性を向上させることができる。
【0047】
次に、同時二軸延伸の方法について説明する。同時二軸延伸の場合も逐次二軸延伸同様に、非晶質のシート状フィルムを得て、この非晶質のシート状フィルムを、クリップ走行の動力源としてリニアモーターを用いて、フィルムの走行方向において任意にクリップの速度を変更できるステンターオーブンにより、長手方向と幅方向を同時に延伸する。非晶質のシート状フィルムをクリップで把持し、オーブン中で熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱し、クリップの走行経路を徐々に広げながら、同時にクリップの速度を上げていくことにより、フィルムの長手方向と幅方向を同時に延伸する。このような方法で二軸延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、逐次二軸延伸同様に、熱処理と弛緩処理が施される。
【0048】
同時二軸延伸により得られた熱可塑性樹脂フィルムは、逐次二軸延伸で得られた熱可塑性樹脂フィルムに比べて、異方性が少なく加熱時の歪みなどが少なく、またフィルム製造の工程中でロールに接触する機会が逐次二軸延伸に比べて少ないため、表面のキズなどの欠点が少なく、好ましい延伸方式である。
【0049】
二軸延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、一旦広幅の巻き取り機で中間製品として巻き取られた後、スリッターにより、必要な幅と長さに裁断される。先に述べたように、凹凸形成処理はこれらの工程で施されることが望ましい。
【0050】
熱可塑性樹脂フィルムには、フィルムの片面または両面に、接着性付与などを目的として各種塗材を塗布することができる。例えば、光学用フィルムの場合、反射防止層や、ハードコート層、光拡散のためのマット層などを、フィルムの片面または両面に形成することができる。
【0051】
塗材としては、ポリエステル、アクリルポリマー、ポリアミドおよびポリウレタンなどの水溶液または水分散液の塗材が好ましく用いられる。塗材の塗布方法としては、ロールコーター、グラビアコーターおよびバーコーターなどの方法を用いることができる。塗布の工程は、熱可塑性樹脂フィルムの延伸の前、延伸工程の途中、あるいは延伸・熱処理を行った後など、必要に応じて選ぶことができるが、延伸の前や延伸工程の途中などフィルム製造工程内で行うと、工程を簡略化することができる。塗材を塗布する前に、熱可塑性樹脂フィルムにコロナ放電処理などの処理を行うことは、フィルム表面の濡れ性を改善させ塗布を安定させるために有効な手段である。
【0052】
[物性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における物性の測定方法および効果の評価方法は、次のとおりである。
【0053】
(a)凹凸形成部の高さ
ソニー・プレシジョン・テクノロジー株式会社製のデジタルマイクロメーターμメイトM−30を用いて、熱可塑性樹脂フィルムの両端部の凹凸が形成された部分と凹凸の形成されていない部分の厚みを片側5点ずつ測定して平均し、その差を凹凸の高さとした。測定位置としては、コア外径から5mm、10mm、15mm、および20mmを測定し、それぞれb、b10、b15、およびb20とし、4点の平均値を巻芯部の平均ナール高さbとした。また、コア外径から50mm、表層と50mmの中間点、表層から10mm内層の点の3点の平均値を製品部の平均ナール高さbとした。
【0054】
(b)フィルム厚み
上記の(a)の凹凸形成部を有しない部分の厚みの平均を、フィルム厚みとした。
【0055】
(c)フィルムのヘイズ
JIS K 7105:1981に従い、フィルムの凹凸のない部分10点について全光線透過率Tt(%)と散乱光透過率Td(%)を求め、ヘイズ(Td/Tt×100)(%)を算出した。
【0056】
(d)表面粗さRa
JIS−B−0601(2001年版)に準じ、表面粗さを測定した。
【0057】
(e)粘着テープの転写跡
熱可塑性樹脂フィルムの中間製品をスリッターにより裁断し、コアに巻き取りフィルムロールとする。コアに巻き取った熱可塑性樹脂フィルムを巻き戻し、蛍光灯下でテープ跡の確認できる巻径を測定した。評価基準としては、コア外径からの層厚み25mmを超える場合は不合格×、20〜25mmまでは不合格△、16〜20mmは合格○、16mm以下は合格◎とした。粘着テープは、リンテック株式会社製TL−83(テープ厚み0.075mm、テープ幅10mm)を用いた。
【0058】
(f)ヘリ高
熱可塑性樹脂フィルムロールのフィルム端部から、20mm内側の点にゼロ点を合わせ、そこから外側端部までヘリ高測定器で測定を行い、最大高さをヘリ高測定結果とした。
【0059】
(g)巻姿
巻姿の評価基準として、ヘリ高測定結果が1000μmより小さいものを合格○とし、1000μm以上を不合格×とした。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づき本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールについて実施態様を説明するが、本発明はこれらの実施態様に限られるものではない。
【0061】
(実施例1)
実質的に不活性粒子を含まないポリエチレンテレフタレートを、180℃の温度で6時間、3torrの減圧下で乾燥し、押出し機に投入して280℃の温度で溶融した後、濾過精度8μmのフィルターで濾過後、口金からシート状に押し出した。押し出されたシート状物を、静電印加キャスト法により表面温度20℃の温度の冷却ロール上で冷却固化し、実質的に非晶質の未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、ロール群からなる長手方向延伸機で90℃の温度で3.1倍延伸し、冷却して一軸延伸フィルムを得た。この一軸延伸フィルムの両面に、バーコーターを用いて、下記の組成からなる塗液をWET膜厚6μmで塗工した後、ステンターオーブンにより97℃の温度で3.7倍幅方向に延伸し、引き続いて同オーブン内で228℃の温度で20秒熱処理し、厚み75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの中間製品を得た。
【0062】
このようにして得られた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、スリッターにより、巻出し張力25kg/m、巻取り張力24kg/m、巻取り面圧10kg/m、スリット速度は加速度1m/分/sで20m/分まで加速後、6分間20m/分で保持し、その後100m/分でスリットして、長さ1500mの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、プラスチック(FWP)の外径167mm、厚み7.3mm、幅は製品幅+20mmのコアに巻き取りフィルムロールを得た。スリッターには、凹凸形成用の刻印ロールと平坦ロールを設置し、スリット後の製品(フィルム)の幅方向両端部分に、幅10mmの凹凸を形成させた。ナールリングの温度は290℃、ナールリング圧力100kgfで行った。
【0063】
この二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの各特性および評価結果は、表1、表2のとおりであった。また、巻芯粘着テープ跡の評価結果は、表2のとおりであり、いずれも従来のフィルムロールに比べて少なく良好であった。
【0064】
[塗液の処方]
下記のポリエステル樹脂エマルジョン100重量部に対し、下記のメラミン系架橋剤液を55重量部と、平均粒径が0.1μmのコロイダルシリカ粒子を1重量部添加したものを塗液とした。塗液濃度は5wt%とした。
【0065】
〔ポリエステル樹脂エマルジョン〕
下記組成の酸成分とジオール成分を共重合して得られたポリエステル共重合体のエマルジョン。
【0066】
<酸成分>
・テレフタル酸 50モル%
・イソフタル酸 40モル%
・5−ナトリウムスルホイソフタル酸 10モル%
<ジオール成分>
・エチレングリコール 96モル%
・ネオペンチルグリコール 3モル%
・ジエチレングリコール 1モル%
〔メラミン系架橋剤液〕
イミノ基型メチル化メラミンを、イソプロピルアルコールと水との混合溶媒(10/90(重量比))で希釈した液。
【0067】
(実施例2、3、比較例1、2)
フィルムの厚み、スリット後の製品幅および凹凸形成条件を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でポリエチレンテレフタレートのフィルムロールを得た。フィルムロールの各特性および評価結果は、表1、表2のとおりである。
【0068】
(実施例4)
スリット速度を加速度3m/分/sで加速し、100m/分でスリットした。また、フィルムの厚み、スリット後の製品幅および凹凸形成条件を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でポリエチレンテレフタレートのフィルムロールを得た。フィルムロールの各特性および評価結果は、表1、表2のとおりである。
【0069】
(実施例5)
ナールリング圧力150kgfでスリットを行った。また、フィルムの厚み、スリット後の製品幅および凹凸形成条件を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でポリエチレンテレフタレートのフィルムロールを得た。フィルムロールの各特性および評価結果は、表1、表2のとおりである。
【0070】
(実施例6)
実施例1と同じくスリット速度を加速度1m/分で加速し、20m/分で6分保持後、ナールリングを離間させた。また、フィルムの厚み、スリット後の製品幅および凹凸形成条件を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でポリエチレンテレフタレートのフィルムロールを得た。フィルムロールの各特性および評価結果は、表1、表2のとおりである。
【0071】
(比較例3,4)
スリット速度を加速度5m/分/sで加速し、100m/分でスリットした。また、フィルムの厚み、スリット後の製品幅および凹凸形成条件を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でポリエチレンテレフタレートのフィルムロールを得た。フィルムロールの各特性および評価結果は、表1、表2のとおりである。
【0072】
(比較例5)
スリット速度を加速度1m/分/sで加速し、20m/分でスリットした。た、フィルムの厚み、スリット後の製品幅および凹凸形成条件を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でポリエチレンテレフタレートのフィルムロールを得た。フィルムロールの各特性および評価結果は、表1、表2のとおりである。
【0073】
(比較例6)
ナールリング圧力170kgfでスリットを行った。また、フィルムの厚み、スリット後の製品幅および凹凸形成条件を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でポリエチレンテレフタレートのフィルムロールを得た。フィルムロールの各特性および評価結果は、表1、表2のとおりである。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の熱可塑製樹脂フィルムロールは、光学用フィルム、表面保護材、磁気記録媒体、感熱転写材、電気絶縁材料、離型材および包装材料等の用途に好適であり、特に光学用フィルムと表面保護材など透明性が求められる用途に有効である。
【0077】
本発明の熱可塑製樹脂フィルムロールは、加工工程での搬送性が良好で巻きずれがなく、粘着テープの転写跡が少なく、フィルムの製造および加工工程の歩留まりを上げることができる。
【符号の説明】
【0078】
1:フィルム
2:刻印ロール
3:対向ロール
4:フィルム進行方向
5:フィルムロール
6:刻印部分
7:凹凸パターン
8:フィルム長手方向
9:フィルム端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム幅方向の両端部分の片面または両面に突起付与処理を施した熱可塑性樹脂フィルムを筒(コア)に巻き取ってなるフィルムロールであって、半径方向におけるコア外径からの層厚みX(mm)が20mmより小さい(X≦20)部分を巻芯部とし、コア外径からの層厚みX(mm)が20mmより大きい(X>20)部分を製品部としたとき、該巻芯部の突起付与処理によって変形した部分の平均高さ(b)、該製品部での突起付与処理部の平均高さ(b)およびフィルム平均厚み(a)が、次式(1)と(2)を同時に満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムロール。
>b (1)
0.01<b/a<0.2 (2)
【請求項2】
コア外径からの層厚みX(mm)が40mmより大きい範囲において、突起付与処理が施されていないことを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項3】
表面粗さRaが20nm以下の熱可塑性樹脂フィルムの基材として使用することを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−221620(P2010−221620A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73482(P2009−73482)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】