説明

熱可塑性樹脂及びその成形品

【課題】粘性流体である樹脂中のアスペクト比の高いフィラーは、射出成形時に流動抵抗の小さい方向に並び、フィラーの長尺方向と樹脂の流れ方向がほぼ同一になる。そのため、通常の射出成形時には、樹脂の厚み方向に対して垂直方向に樹脂が押し出されることから、フィラーは樹脂の厚み方向と垂直をなす方向に配向し、フィラーが樹脂外部への放熱に寄与できない。
【解決手段】この発明に係る熱可塑性樹脂は、熱伝導率が1W/(m・K)以上の充填材を含有し、当該充填材は、平板状の第一板状体と、前記第一板状体と結合した平板状の第二板状体とからなり、前記第一板状体の主面と前記第二板状体の主面とが、前記結合部を挟んで向かい合う場合の内角θが45度乃至135度であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ装置等の絶縁部に用いられる熱可塑性樹脂成形品に関し、特に熱伝導率を改善した熱可塑性樹脂及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁機器において、高効率化及び小型化に伴い電磁コイルの冷却性能の向上が求められている。そのため、電磁コイルの周辺に用いられている電気絶縁性の材料を高熱伝導化させる必要があり、無機粉末を含有する熱可塑性樹脂を用いた樹脂部材の開発が進められている。その一つとして、アルミナ繊維をフィラーとして熱可塑性樹脂に混合したものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
さらに、窒化ホウ素等の熱伝導率の高い無機材料で構成されたアスペクト比の高い鱗片状のフィラーを充填したものが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/048000号公報
【特許文献2】特開2009−187817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献では、繊維形状や鱗片形状等の長尺方向と短尺方向の寸法比(以下、アスペクト比と記載する場合もある。)が2以上と高いフィラーを含有することで、樹脂と比較して熱伝導率の高いフィラーを伝って熱が伝わりやすくなることを利用してフィラーの長尺方向と同一の配向方向に対して高い熱伝導率を実現しているが、粘性流体である樹脂中のアスペクト比の高いフィラーは、射出成形時に流動抵抗の小さい方向に並び、フィラーの長尺方向と樹脂の流れ方向がほぼ同一になる。
【0006】
そのため、通常の射出成形時には、樹脂の厚み方向に対して垂直方向に樹脂が押し出されることから、フィラーは樹脂の厚み方向と垂直をなす方向に配向し、フィラーが樹脂外部への放熱に寄与しないという問題がある。
【0007】
この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、樹脂の任意の方向に対して高い熱伝導率を有する熱可塑性樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電気機器の絶縁部に用いられる熱可塑性樹脂は、前記熱可塑性樹脂は熱伝導率が1W/(m・K)以上の充填材を含有し、当該充填材は、平板状の第一板状体と、前記第一板状体と結合した平板状の第二板状体とからなり、前記第一板状体の主面と前記第二板状体の主面とが、前記結合部を挟んで向かい合う場合の内角θが45度乃至135度であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、フィラーのいずれかの配向面が樹脂の厚み方向に対して45度以下となるように構成したため、樹脂の厚み方向に対して高い熱伝導率を有するといった従来にない顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る無機フィラーの外形を示す概略図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る無機フィラーのXYZ軸上の長さを示した図である。
【図3】この発明の実施の形態1における熱可塑性樹脂成形品の熱伝導を模式的に示した断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1における熱可塑性樹脂成形品の製造方法を示したフロー図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る無機フィラーの円弧を描く形状で折り曲げられた形態を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る無機フィラー含有率と熱伝導率の関係を示したグラフである。
【図7】この発明の実施の形態1に係る無機フィラー含有率と衝撃強度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
次に、図面を用いて、この発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
図1は、この発明の実施の形態1における熱可塑性樹脂成形品に混合する無機フィラーの外形を示す概略図である。図において、熱伝導率が1W/(m・K)以上の充填材である無機フィラー1は、六面体形状を有する平板状の第一板状体2と六面体形状を有する平板状の第二板状体3とからなり、第一板状体2の側面の内少なくとも一つの側面と第二板状体3の側面の内少なくとも一つの側面とが同形状及び同面積の結合面を構成し、当該結合面である境界面4で結合している。
【0013】
第一板状体2は、ほぼ同面積で最大面積を有する四角形の向かい合う2つの主面を有し、また、第二板状体3も、ほぼ同面積で最大面積を有する四角形の向かい合う2つの主面を有する。第一板状体2と第二板状体3とが結合した状態で内側に位置する各々の主面を、それぞれ第一主面8、及び、第二主面9とする。
【0014】
ここで、第一主面8と第二主面9とがなす内角をθとした場合、θは45度乃至135度の角度を有する。ここでは、一例として、θが略110度の場合を図示している。
【0015】
なお、図において、無機フィラー1は、六面体形状を有し、第一主面8が四角形である平板状の第一板状体2と、六面体形状を有し、第二主面9が四角形である平板状の第二板状体で構成されているが、2つの板状の成形体であって、それらの最大面積を有する主面同士の結合面である境界面4をまたいだ内角θが45度乃至135度の角度を有するような構成をとれば、特に主面が四角形である六面体形状を有していなくとも、例えば、主面が三角形である三角柱形状を有する板状、主面が五角形である五角柱形状を有する板状などの多角柱または一部に円弧を含む板状であってもかまわない。
【0016】
無機フィラー1はベース樹脂5と比較して高い熱伝導率を持つ物質で形成されている。当該物質としては、例えば、上記特許文献1または特許文献2に記載があるアルミナ繊維または窒化ホウ素等がある。
【0017】
図2は、この発明の実施の形態1における熱可塑性樹脂成形品に混合する無機フィラーのXYZ軸上の長さを示した図である。図において、Y軸は第一板状体2の第一主面8と第二板状体3の第二主面9とが接する線分上に、当該線分の一方の点を始点とし取った軸であり、X軸はY軸と同始点で直交し、第一板状体2の第一主面8の一辺に添って取った軸である。また、Z軸はX軸及び前記Y軸に共に同始点で直交する軸であって、第二成形体3の第二主面9方向に伸びる軸である。
【0018】
ここで、Lは第一板状体2の第一主面8における四角形の一辺のX軸上に投影した場合の長さ、ここでは、簡単に理解するために第一主面8を長方形とし、X軸上に投影した場合の長さは長方形の一辺の長さと同じである。また、Lは第一板状体2の第一主面8と第二板状体3の第二主面9とが接する線分のY軸上に投影した場合の長さ、すなわち、線分の長さそのものである。また、Lは境界面4における上記線分と同始点で直交している第二板状体3の第二主面9の一辺のZ軸上の投射長である。ここでは、簡単に理解するために第二主面9を長方形とし、Z軸上に投影した場合の長さは長方形の一辺をZ軸上に投影した場合の長さと同じである。
【0019】
ここで、内角θが直角に近いほど、無機フィラー1が樹脂中にどのような向きに配置されても、それぞれの方向に対して均等な伝熱パスが生じるために、より確実に成形品の厚み方向への伝熱性能の改善が図れる。
【0020】
また、上記X軸、Y軸、及び、Z軸の3軸方向の寸法比が1に近くなるほど、すなわち、L/L、L/L、及び、L/Lが1に近いほど、無機フィラー1が樹脂中にどのような向きに配置されても、それぞれの方向に対して均等な伝熱パスが生じるために、より確実に成形品の厚み方向への伝熱性能の改善が図れる。
【0021】
よって、内角θが直角に近く、かつ、L/L、L/L、及び、L/Lが1に近いほど、樹脂の厚み方向に対して、特に、フィラー形状からY軸方向に垂直な方向の伝熱性能の改善が求められるため、無機フィラー1がY軸と垂直な面内でランダムな配置をとったとしても、熱伝導に寄与する第一板状体2、及び、第二板状体3がY軸と垂直な面内で取り得る角度が小さい角度(45度以下)、すなわち、樹脂の厚み方向に対して小さい角度で配置されることになるため、無機フィラー1が樹脂中にどのような向きに配置されても、それぞれの方向に対して均等な伝熱パスが生じるために、より確実に成形品の厚み方向への伝熱性能の最適化が図れる。
【0022】
なお、上記3軸方向の寸法比が1から大きく外れる場合には、フィラーの折り曲げの効果が十分発揮できないため、すなわち、単なる板状態のフィラーを配置した場合と等価になるため、通常3軸方向の寸法比が0.5乃至2.0の範囲内であることが望ましいが、特にこの範囲に無くても、この範囲から大きく外れなければ、例えば、3軸方向の寸法比が0.3乃至3.0の範囲内であれば、ある程度の効果が得られる。
【0023】
また、通常のフィラーを考慮すれば、上記3軸方向の長さL、L、及び、Lの実寸法に相当する寸法は10μmから100μm程度となるが、特にこの範囲に無くても、熱可塑性樹脂成形品に対し、適切な範囲で設計されていれば、同様の効果が得られる。
【0024】
図3は、この発明の実施の形態1における熱可塑性樹脂成形品の熱伝導を模式的に示した断面図である。図において、Bは熱可塑性樹脂成形品5の裏面(熱原に近い面。以下裏面と記載)、Aは熱可塑性樹脂成形品5の表面(放熱面。以下表面と記載)である。また、6は樹脂中の厚み方向の熱伝導ベクトル、7は樹脂中の厚み方向の熱伝導ベクトルを示す。ここで、フィラー中の熱伝導率は樹脂中のそれよりも大きい。よって、樹脂中で無機フィラー1の垂直方向に占める割合が大きければ大きいほど熱伝導性能が向上する。
【0025】
次に、この発明の実施の形態1における熱可塑性樹脂成形品の製造方法を示す。図4は、この発明の実施の形態1における熱可塑性樹脂成形品の製造方法を示したフロー図である。ここで、S1はフィラー製造工程、S2はベース樹脂製造工程、S3はフィラー混錬樹脂製造工程、S4は樹脂ペレット製造工程、S5は射出成形工程、及び、S6は完成の各工程を示す。
【0026】
S1における無機フィラー1は、熱伝導率が1W/(m・K)以上の材料、例えば、アルミナで形成され、アルミナ粉末を樹脂バインダに混合し、金型や押出型を用いて成形したものを焼結させて作成される。また、アルミナ粉末を樹脂バインダに混合し、板状や鱗片状に加工した後、接合して作成しても良い。S2ではベース樹脂5となる熱可塑性樹脂を製造する。当該製造方法については周知であるため、ここでは省略する。
【0027】
S3では、ベース樹脂5である熱可塑性樹脂と無機フィラー1とを混合して、当該無機フィラー1が熱可塑性樹脂中にほぼ一様に分布したフィラー混錬樹脂を製造する。ここで、熱可塑性樹脂としてはPPS(Polyphenylene Sulfide)を用い、前記無機フィラー1を50wt%混合する。
【0028】
ここで、ベース樹脂5である熱可塑性樹脂の材料をPPSとしたが、当該樹脂に限定するものではなく、PA(Poly Amide)やPBT(Polybutylene terephthalate)、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene)、LCP(Liquid crystal polymer)、PEEK(Polyetherenetherketone)、また、それらのリサイクル材等、射出成形により成形可能な樹脂であれば適用は可能である。
【0029】
なお、ここでは無機フィラー1の含有量を50wt%としたが、含有量を本量に限定するものではなく、衝撃強度や静的強度等の成形品の物性低下や射出成形時の粘度増加に伴う成形性の低下に対して可能な範囲で含有量を増減することが可能である。ただし、極端に少ない場合、十分な熱伝導性能の向上につながらず、極端に多い場合には、衝撃強度や静的強度等が保てないため、無機フィラー1の含有量は通常10wt%乃至60wt%程度である。
【0030】
次にS4で、上記フィラー混錬樹脂をペレットに加工する。当該ペレットとしては、通常、例えば、直径約3mmで高さ3mm程度の円柱状のものが使用されるが、特にこの形状、または、大きさに限定されるものではない。熱可塑性樹脂成形品の形状、および、大きさ等を考慮し、製造すべき熱可塑性樹脂成形品の加工により適した形状、または、大きさにすることが望ましいことはいうまでもない。
【0031】
最後にS5の上記ペレットを用いた射出成形工程を経て、S6で熱可塑性樹脂成形品が完成する。
【0032】
以上説明したような無機フィラー1の形状は、金型や押出型を用いて成形したものを焼結させて作成したり、板状や鱗片状に加工した後、接合して作成していたが、平板状に加工した無機フィラーを上記記載した所定の角度に折り曲げることによっても作成できる。特に、折り曲げ位置、角度等に正確な加工を要求されていない場合は、平板状に加工した後、高速で壁等に衝突させることにより、主面同士が一定の角度を有する折り曲げ形状の板状体が得られる。
【0033】
図5は、このようにして得られた無機フィラー1の一例を示す。図において、角が得られず、円弧を描く形状で折り曲げられた形態であるが、主面間の角度θ、ここでは、折り曲げられた状態で、内向となる面同士でより大きな平面を占める部分同士の角度が上記規定した範囲内であれば、ある程度の効果が得られる。この場合、より簡単な加工で無機フィラー1を製造できる利点がある。もちろん、角を有する形で折り曲げられた形態も得られる。
【0034】
図6は、上記に示したアルミナを用いた無機フィラー1の含有率と熱伝導率の関係を示したグラフである。また、図7は、同無機フィラー1の含有率と衝撃強度との関係を示したグラフである。図から明らかなように熱伝導率と衝撃強度は相反する特性を持つため、無機フィラー1の含有量は、20wt%乃至40wt%程度が好ましく、より好ましくは30wt%前後がよい。
【符号の説明】
【0035】
1 無機フィラー、2 第一板状体、3 第二板状体、4 境界面、5 熱可塑性樹脂成形品、8 第一主面、9 第二主面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の絶縁部に用いられる熱可塑性樹脂において、
前記熱可塑性樹脂は熱伝導率が1W/(m・K)以上の充填材を含有し、
当該充填材は、平板状の第一板状体と、前記第一板状体と結合した平板状の第二板状体とからなり、
前記第一板状体の主面と前記第二板状体の主面とが、前記結合部を挟んで向かい合う場合の内角θが45度乃至135度であることを特徴とする熱可塑性樹脂。
【請求項2】
前記第一板状体の主面及び前記第二板状体の主面が四角形であって、前記第一板状体及び前記第二板状体の各々の側面の内少なくとも一つの側面が、同形状及び同面積の結合面を構成することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂。
【請求項3】
前記第一板状体の主面と前記第二板状体の主面とが接する線分上に、当該線分の一方の点を始点としY軸を規定し、前記Y軸と同始点で直交し、前記第一板状体の主面の一辺に添ってX軸を規定し、前記X軸及び前記Y軸に共に同始点で直交する軸をZ軸と規定した場合において、前記線分のY軸上の長さと前記第一板状体の主面の一辺のX軸上の長さとの比、前記線分のY軸上の長さと前記第二板状体の主面の前記線分と同始点で直交している一辺のZ軸上の投射長との比、および、前記第一板状体の主面の一辺のX軸上の長さと前記第二板状体の主面の前記線分と同始点で直交している一辺のZ軸上の投射長との比の各々が0.5乃至2.0であることを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記請求項1記載の熱可塑性樹脂を用いた熱可塑性樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−184545(P2011−184545A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50538(P2010−50538)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】