説明

熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法

【課題】押出発泡体中の気泡径を細かくし、且つ熱伝導率を低下させることが可能な熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体との混合物(A)、ポリスチレン樹脂とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(B)、ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(C)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体(D)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(E)、又はポリ(メタ)アクリル酸メチル(F)からなる熱可塑性樹脂と、発泡剤とN-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物とが混練されてなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡することを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が低く、建築物の壁、床、屋根等の断熱材等に有用な熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂発泡体は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから、板状に成形された断熱材等として広く利用されている。このような発泡体は、一般に、押出機中で熱可塑性樹脂と物理発泡剤とを溶融混練してなる発泡性樹脂溶融物を、押出機先端に付設されたスリット形状等のダイから低圧域に押出発泡し、さらに所望に応じてダイ出口に賦形具等を連結して成形することにより製造されている。
【0003】
一般に、断熱性能の高い発泡体を得る為の手法として、熱伝導率の低いガスを発泡剤として使用すること、熱伝導率の低い樹脂を使用すること、気泡径を小さくすること等、数々の方法が検討されてきている。
【0004】
特許文献1には、ポリスチレン樹脂とスチレン−メタクリル酸メチル共重合体とからなる、長期間に亘り断熱性にすぐれ、難燃性を有する、見掛け密度が20〜60kg/cm、厚みが10〜150mmの発泡体が開示されている。
特許文献2には、難燃剤を含有し、見掛け密度が0.01〜0.10g/cmである、ポリスチレン樹脂とスチレン−メタクリル酸系共重合樹脂からなるポリスチレン樹脂組成物発泡体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−133424号公報
【特許文献2】特開2006−290922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、発泡体の断熱性を向上させるための一手段として、発泡体の気泡径をより小さくすることが試みられてきた。従来の、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム等の気泡調整剤の添加量を増やすことによって、気泡径の小さい発泡体を得ることは可能であった。しかしながら、この場合には、発泡体を構成する樹脂の熱伝導率が高くなり、断熱性の向上が見られなくなってしまうという問題があった。この問題は、従来の気泡調整剤が熱伝導率が高い無機物からなり、該無機物が発泡体を構成する樹脂に配合されることに起因していた。即ち、従来の気泡調整剤を多量に添加する方法によっては、発泡体の気泡径を小さく均一にして、且つ断熱性能を向上させた発泡体を得ることは、工業上、経済上の困難性を伴うものであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、種々の検討を重ねた結果、基材樹脂として、スチレン成分と、(メタ)アクリル酸メチル成分(本明細書において、(メタ)アクリル酸メチルとはアクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸メチルを意味するものする。)とを含有している熱可塑性樹脂を用い、さらに、特定のヒンダードアミン系化合物を配合することにより、前記課題を解決して、気泡径が小さく均一であり、且つ熱伝導率が低い、優れた熱可塑性樹脂押出発泡体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)に記載する発明を要旨とする。
(1)ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体との混合物(A)、ポリスチレン樹脂とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(B)、ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(C)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体(D)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(E)又はポリ(メタ)アクリル酸メチル(F)からなる熱可塑性樹脂と、発泡剤と、N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物とが混練されてなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡することを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
(2)前記熱可塑性樹脂中の(メタ)アクリル酸メチル成分量が0.1質量%以上であることを特徴とする前記(1)に記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
(3)前記ヒンダードアミン系化合物の配合量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜1質量部であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
(4)前記ヒンダードアミン系化合物の分子量が、2000以下であることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法は、前記(A)〜(F)のいずれかからなる熱可塑性樹脂に、特定のヒンダードアミン系化合物を配合することにより、従来のように多量の気泡調整剤を添加する必要がないことから、優れた押出発泡性を有し、気泡径が小さく、且つ熱伝導率が低い、優れた熱可塑性樹脂押出発泡体を容易に製造することが可能となる。
また、本発明の製造方法により得られうる熱可塑性樹脂押出発泡体は、特定のヒンダードアミン系化合物が配合されてなることにより、厚み方向の平均気泡径が小さく且つ均一な押出発泡体であっても、押出発泡体を構成する基材樹脂自体の熱伝導率が増加することがなく、機械的強度に優れ、かつより高度の断熱性を有する押出発泡体である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔1〕「熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法」について
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法は、少なくとも、熱可塑性樹脂と、発泡剤と、N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物とが混練されてなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡するものであって、
該熱可塑性樹脂が、ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体との混合物(A)、ポリスチレン樹脂とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(B)、ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(C)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体(D)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(E)又はポリ(メタ)アクリル酸メチル(F)からなることを特徴とする。
【0011】
本発明の、熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法に使用される熱可塑性樹脂は、前記の(A)〜(F)のいずれかからなるものであり、スチレン成分と(メタ)アクリル酸メチル成分(本明細書において、「スチレン成分と(メタ)アクリル酸メチル成分」における「成分」とは「構造単位」を意味するものとする。)とを含有するものである。該熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル酸メチル成分を含有し、且つ後述する特定のヒンダードアミン系化合物を配合することにより、発泡体の独立気泡率を維持しつつ、発泡体の気泡を微細化させる効果が得られる。
該熱可塑性樹脂中の、(メタ)アクリル酸メチル成分量(但し、スチレン成分と(メタ)アクリル酸メチル成分の合計を100質量%とする)の下限の好ましい範囲は、0.1質量%、より好ましくは0.3質量%、更に好ましくは3質量%、更により好ましくは10質量%、最も好ましくは15質量%である。一方、(メタ)アクリル酸メチル成分量の上限は特に制限はなく概ね80質量%であるが、押出発泡体の機械的強度の向上という観点からは、50質量%であることが好ましく、40質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは30質量%である。
【0012】
本発明における熱可塑性樹脂を構成するポリスチレン樹脂としては、スチレン単独重合体、スチレンと共重合可能な単量体((メタ)アクリル酸メチルモノマーを除く)との共重合体が挙げられる。該共重合体としては、例えば、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)等が例示される。これらのスチレン系共重合体におけるスチレン成分の含有量は、発泡体の機械的強度の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。これらのポリスチレン樹脂は1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0013】
前記ポリスチレン樹脂の中でも、押出発泡時の発泡性、発泡体の機械的強度の観点から、スチレン単独重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体が好ましく、これらのなかでも、スチレン単独重合体が特に好適である。
【0014】
本発明における熱可塑性樹脂を構成するスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体としては、具体的には、例えば、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体が例示されるが、これらの共重合体の中でスチレン−メタクリル酸メチル共重合体が好ましい。また、これらのスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体は1種又は2種以上を混合して使用することができる。なお、該共重合体中に(メタ)アクリル酸メチル成分を1〜95質量%含むものが好ましく、更に好ましくは2〜60質量%である。
【0015】
本発明における熱可塑性樹脂を構成するポリ(メタ)アクリル酸メチルとしては、具体的には、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチルが例示されるが、これらのうちポリメタクリル酸メチルが好ましい。これらのポリ(メタ)アクリル酸メチルは1種又は2種を混合して使用することができる。
【0016】
前記(A)〜(F)のなかでも、断熱性と難燃性を両立した押出発泡体を得るという観点からは、ポリスチレン樹脂を主成分とし、(メタ)アクリル酸メチル成分が添加された、前記(A)、(B)、(C)の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。即ち、前記熱可塑性樹脂におけるポリスチレン樹脂の配合量が50質量%以上であることが好ましく,さらには、60質量%以上であることが好ましい。上記範囲内であれば、例えばJIS A9511:2006Rの5・13・1測定方法Aの難燃性規格を満足するような高度な難燃性を有し、断熱材として好適な押出発泡体を、より容易に製造することができる。
【0017】
本発明において前記熱可塑性樹脂には、本発明の目的、作用効果を損なわない範囲において、その他の重合体を混合することができる。その他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体及びその水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びその水添物、スチレン−エチレン共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸アルキル−ブタジエン共重合体などが挙げられる。これらのその他の重合体の配合量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して30質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。
【0018】
本発明の押出発泡体の製造方法においては、N-H型又はN-CH型のヒンダードアミン系化合物(以下、ヒンダードアミン系化合物をHALSということがある)を用いることを特徴とする。なお、本発明において、N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物とは、ピペリジル環、ピペリジン誘導体からなる環構造(以下、併せてピペリジル環構造ということがある)を有する化合物において、ピペリジル環構造における窒素原子に水素原子又はメチル基が結合した化合物をいい、水素原子が結合した化合物(−NH−)はN-H型、また、メチル基が結合した化合物(−NCH−)はN-CH3型といわれる。このようなヒンダードアミン系化合物は、一般には高分子化合物の光安定化剤として使用されるものである。
【0019】
なお、該N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物と該(メタ)アクリル酸メチル成分とが、押出発泡の際にどのように相互作用して効果が発揮されるかについては定かではないが、前記熱可塑性樹脂中の(メタ)アクリル酸メチル成分と特定のヒンダードアミン系化合物との組合せにより生ずる何らかの相互作用により、押出発泡体の微細な気泡構造の形成に密接に関係し、気泡調整剤として働くと推測される。上記の観点から、ヒンダードアミン化合物の中でも、N-H型又はN-CH型のヒンダードアミン系化合物は塩基性が高いことから、前記熱可塑性樹脂中の(メタ)アクリル酸メチル成分との相互作用が効果的に生じ、このような微細な気泡径が形成された発泡体が得られ易くなると考えられる。また、かかる観点から、該ヒンダードアミン系化合物の塩基定数(pK値)は6以下であることがより好ましい。
【0020】
前記N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ポリ[(6−モルフォリノ−S−トリアジン−2,4−ジイル)〔2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル〕イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、1,6−ヘキサンジアミン,N,N ’−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−,ポリマーズモルホリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン、ポリ〔{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕、N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ) トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミンとコハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN‐(2,2,6,6‐テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)−ジエタノールとの縮合物などが挙げられ、これらを2種以上混合して使用することもできる。
【0021】
前記N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物の分子量の上限は、押出発泡体の燃焼性を低下させるという観点からは、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、更には1000以下であることがより好ましい。一方、前記ヒンダードアミン系化合物の分子量の下限は、前記熱可塑性樹脂との混練が容易であり相溶性にも優れるという観点からは、700以上であることが好ましく、さらには800以上であることが好ましい。前記範囲内であれば、前記熱可塑性樹脂中での分散性がさらに向上し、押出発泡体の気泡の不均一性を抑制でき、かつ微細な気泡構造の押出発泡体を得ることが可能となる。
尚、本発明においてN-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物の分子量とは、化合物を構成する原子の質量の合計から求められるが、該化合物が分子量の異なる複数の化合物からなる場合は、GPC法(Gel permeation Chromatography)による数平均分子量(ポリスチレン換算値)から求めることができる。
【0022】
前記N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物の融点は、50℃以上が好ましい。該融点が前記範囲内であれば、押出発泡時の分散性がさらに良好となり、押出発泡体の気泡の不均一性を抑制でき、且つ微細な気泡構造の発泡体が得られる。かかる観点から、該融点は、80℃〜140℃がより好ましく、85℃〜120℃が更に好ましい。
該融点は、JIS K7121(1987)に準拠する方法により測定することができる。即ちJIS K7121(1987)における試験片の状態調節(2)の条件(但し、冷却速度は10℃/分)により前処理を行い、10℃/分にて昇温する、示差走査熱量分析によるDSC曲線を得る。そして得られたDSC曲線の融解ピークの頂点の温度を融点とする。尚、融解ピークが2つ以上現れる場合は、最も面積の大きな融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【0023】
押出発泡時の前記N−H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物の分散性の観点から、該N−H型又はN−CH型のヒンダードアミン系化合物は、前記熱可塑性樹脂を基材樹脂としたマスターバッチを調製して配合することが好ましい。マスターバッチの調製は、例えば、該熱可塑性樹脂中のヒンダードアミン系化合物の含有量が20〜80質量%となるように調製されることが好ましく、30〜70質量%となるように調製されることがより好ましい。
前記N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物の配合量は、微細な気泡がより得られ易くなり、押出発泡時の発泡体の表面平滑性と独立気泡率が向上し、及び押出発泡時の吐出量の安定性が向上するという観点から、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましく、0.02〜0.9質量部がより好ましく、0.1〜0.8質量部が更に好ましい。また、前記N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物の配合量と、前記(メタ)アクリル酸メチル成分量との比は、0.002〜0.5であることが好ましく、0.005〜0.1であることが更に好ましい。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造には、通常、従来公知のオゾン破壊係数がゼロ(0)である発泡剤を使用することが好ましい。発泡剤としては、長期にわたる高い断熱性の維持を考慮すると、以下に示すような押出発泡体に対するガス透過性が比較的遅いものが好ましい。ガス透過性が比較的遅い発泡剤としては、炭素数3〜5の脂肪族炭化水素、炭素数3〜6の脂環式炭化水素の炭化水素が挙げられる。具体的には、炭素数3〜5の脂肪族炭化水素としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン等が挙げられ、炭素数3〜6の脂環式炭化水素としては、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。これらの中でも、ガス透過性が遅く発泡性に優れる、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタンがより好ましく、加えて取り扱い性に優れるノルマルブタン、イソブタンが更に好ましく、イソブタンが特に好ましい。これらの発泡剤は、単独または2種以上を併用して使用することができる。
【0025】
更に、見掛け密度の低い押出発泡体を製造する場合には、本発明の熱可塑性樹脂に対するガス透過性が前記炭化水素よりも速い発泡剤を、前記炭化水素と併用する混合発泡剤を使用することが好ましい。該混合発泡剤を使用することにより、さらに発泡性を高めることができる。ガス透過性が速い発泡剤は発泡後速やかに押出発泡体中からそのほとんどが逸散してしまうので、ガス透過性が比較的遅い発泡剤との混合発泡剤を使用することにより、押出発泡体中には所望の量の炭化水素を残存させて、長期にわたる高い断熱性を維持することが可能となる。
【0026】
ガス透過性が速い発泡剤としては、例えば、塩化アルキル、アルコール類、エーテル類、ケトン類、カルボン酸アルキルエステル類、二酸化炭素、水等が挙げられる。これらの発泡剤の中でも炭素数1〜3の塩化アルキル、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素数が1〜3のエーテル類、アルキル鎖の炭素数が1〜5のカルボン酸アルキルエステル、二酸化炭素、水等が好ましい。具体的には、炭素数1〜3の塩化アルキルとしては、例えば塩化メチル、塩化エチル等が挙げられる。
炭素数1〜4の脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール等が挙げられる。アルキル鎖の炭素数が1〜3のエーテル類としては、例えばジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチレンジメチルエーテル等が挙げられる。アルキル鎖の炭素数が1〜5のカルボン酸アルキルエステルとしては、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等が挙げられる。特に、ガス透過性が速く、その取り扱い性に優れることから、前記発泡剤の中でも、塩化メチル、ジメチルエーテル、蟻酸メチル、二酸化炭素、水が特に好ましい。これらの発泡剤は単独または2種以上を併用して用いることができる。さらに、本発明の所期の目的を損なわない範囲内で、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン等のHFC(フッ化炭化水素)を発泡剤に添加することもでき、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤を前記熱可塑性樹脂に添加することもできる。
【0027】
これら発泡剤の使用量は所望する発泡倍率との関連で適宜選択され、例えば、見掛け密度が20〜50kg/cmの発泡体を得る場合には、通常、熱可塑性樹脂1kg当たり、発泡剤として0.5〜3モル添加されることが好ましく、更には0.6〜2.5モル添加されることが好ましい。
【0028】
本発明の押出発泡体は、建築用断熱板として使用される場合には、JIS A9511:2006Rの5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足する高度な難燃性が要求される。さらに、JIS A9511:2006Rの4.2で規定される熱伝導率の規格を満足することが要求される。したがって、前記難燃性と熱伝導率の規格を両立させるためには、発泡体中にガス透過性が遅い発泡剤を残存させる必要がある。発泡剤として前記炭化水素を使用する場合には、熱伝導率の観点からは、発泡体中の炭化水素含有量は多ければ多いほど好ましく、その含有量の下限は、発泡体1kg当たり0.4モル以上であることが好ましく、0.45モル以上であることがより好ましく、0.5モル以上であることが更に好ましい。一方、難燃性の観点からは、発泡体中の炭化水素含有量は少なければ少ないほど好ましく、含有量の上限は発泡体1kg当たり0.9モル以下であることが好ましく、0.8モル以下であることがより好ましく、0.7モル以下であることが更に好ましい。
【0029】
本発明において、前記JIS A9511:2006Rの5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足することが要求される断熱材として使用する場合には、前記炭化水素の添加量の調整に加えて、難燃剤を添加することにより達成される。ここに使用される難燃剤は、ポリスチレン樹脂発泡体等の製造において従来使用されている難燃剤が使用できる。
【0030】
難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく使用される。臭素系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(アリルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルオキサイド、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、臭素化ポリスチレン、臭素化ビスフェノールエーテル誘導体などが挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。前記の臭素系難燃剤の中でも、その熱安定性が高く、高い難燃効果が得られることから、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、臭素化ポリスチレンを配合することが好ましく、これら化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。
本発明の押出発泡体中における難燃剤の配合量は、難燃性を向上させるとともに、押出時の発泡性の低下および発泡体の機械的物性の低下を最小限にするうえで、熱可塑性樹脂100質量部当たり1〜10質量部が好ましく、1.5〜7質量部がより好ましい。
【0031】
さらに、本発明おいては、押出発泡体の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を前記臭素系難燃剤と併用して少量使用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、トリフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0032】
前記難燃剤および難燃助剤を熱可塑性樹脂へ配合する方法としては、所定割合の難燃剤および難燃助剤を前記熱可塑性樹脂と共に押出機の上流部に設けられている原料供給部に供給し、押出機中にて前記熱可塑性樹脂と共に混練する方法が挙げられる。その他、押出機中に設けられた難燃剤供給部より熱可塑性樹脂溶融物中に難燃剤および難燃助剤を供給することもできる。なお、難燃剤および難燃助剤を押出機に供給する場合、難燃剤および難燃助剤と熱可塑性樹脂とをドライブレンドしたものを押出機に供給する方法、難燃剤及び難燃助剤と熱可塑性樹脂とをニーダー等により混練した溶融混練物を押出機に供給する方法、予め加熱溶融させた液状の難燃剤を押出機内に供給する方法や、難燃剤および難燃助剤を含むマスターバッチを作製して押出機に供給する方法を採用することができる。特に、分散性の点から難燃剤および難燃助剤を含むマスターバッチを作製して押出機に供給する方法を採用することが好ましい。
【0033】
本発明においては熱可塑性樹脂に、添加剤として断熱性向上剤を添加して、さらに断熱性を向上させることができる。断熱性向上剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミ等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛等の微粉末、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイトなどが例示される。これらは1種又は2種以上を使用することができる。断熱性向上剤の添加量は熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.3〜5質量部、好ましくは1〜4質量部の範囲で使用される。
【0034】
また、本発明においては熱可塑性樹脂に、必要に応じて、他の気泡調整剤(本発明に用いられるヒンダードアミン系化合物は除く)、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、その他充填剤等の各種の添加剤を適宜添加することができる。前記他の気泡調整剤として、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末などを用いることができる。
【0035】
また、添加剤として、酸化チタンを添加した場合には、本発明の(メタ)アクリル酸メチル成分とヒンダード系化合物との相互作用に対して、相乗的な気泡微細化効果が得られる。前記相乗的な気泡微細化効果を得るという観点からは、熱可塑性樹脂100質量部に対して、酸化チタンの添加量は0.3〜3質量部が好ましい。
【0036】
本発明においては、押出機中で熱可塑性樹脂と難燃剤、その他添加物とを溶融、混練した溶融物に所要量の発泡剤を押出機の所定の位置から圧入し、さらに混練した発泡剤、難燃剤等を含有する発泡性熱可塑性樹脂溶融物を押出機の先端のダイリップから大気圧下に押出した後、賦形装置(ガイダー)により所定の形状(板状)に成形することにより製造される。前記賦形装置は、例えば上下一対のポリテトラフルオロエチレン製の板で構成される賦形具を使用することができる。
【0037】
〔2〕「熱可塑性樹脂押出発泡体」について
本発明の製造方法により得られうる熱可塑性樹脂押出発泡体(以下、押出発泡体ということがある。)は、熱可塑性樹脂、発泡剤、及びN-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物が配合されてなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡して得られる、見掛け密度が20〜50kg/m、厚みが10〜150mmである、板状の熱可塑性樹脂押出発泡体であって、
該押出発泡体を構成する熱可塑性樹脂が、ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体との混合物(A)、ポリスチレン樹脂とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(B)、ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(C)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体(D)、又はスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(E)、又はポリ(メタ)アクリル酸メチル(F)からなり、該押出発泡体の独立気泡率が90%以上、及び厚み方向の平均気泡径が130μm未満であることが好ましい。
【0038】
前記熱可塑性樹脂は前記(A)〜(F)のいずれかからなるものが好ましく、スチレン成分と(メタ)アクリル酸メチル成分とを含有するものであることが好ましい。該熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル酸メチル成分を含有し、特定のヒンダードアミン系化合物を配合することにより、微細な気泡構造を有する押出発泡体が得られる。
【0039】
従って、該熱可塑性樹脂中の、(メタ)アクリル酸メチル成分の含有量(但し、スチレン成分と(メタ)アクリル酸メチル成分の合計を100質量%とする)の下限は、0.1質量%が好ましく、より好ましくは5質量%、更に好ましくは10質量%である。
一方、(メタ)アクリル酸メチル成分の含有量の上限については、押出発泡体の熱伝導性の点においては特に限定されるものではないが、建築材料として要求される難燃性規格、例えばJIS A9511:2006Rの5・13・1測定方法Aの難燃性規格を満足するような高度な難燃性を有するという観点からは、50質量%であることが好ましく、更には40質量%であることが好ましく、より好ましくは30質量%である。
【0040】
本発明の押出発泡体の見掛け密度は、20〜50kg/cmであることが好ましい。見掛け密度が低すぎる場合、断熱材として用いる場合には機械的強度が不十分なものとなる。一方、見掛け密度が高すぎる場合、断熱材として用いる場合には押出発泡体の厚みを必要以上に厚くしない限り十分な断熱性を発揮させることが困難であり、また軽量性の点からも好ましくない。このような観点から、本発明の押出発泡体において、押出発泡体の見掛け密度は22〜45kg/cmがより好ましい。
【0041】
本発明の押出発泡体の独立気泡率は90%以上であることが好ましい。本発明においては、(メタ)アクリル酸メチル成分とN-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物とを、特定の組合せで配合することにより、厚み方向の平均気泡径が小さくなり気泡膜が薄く破泡し易くなっても、前記範囲の独立気泡率を維持することが可能となる。前記独立気泡率を高く維持することにより、高い断熱性能を維持し、且つ機械的強度に優れた押出発泡体となる。前記観点から、独立気泡率は92%以上であることがより好ましい。
なお、独立気泡率は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社製の空気比較式比重計930型を使用して測定することができる。
【0042】
本発明の押出発泡体は、厚みが10〜150mmであることが好ましい。厚みが10mm未満では、断熱材として使用される場合には、要求される断熱性が不十分となるおそれがある。一方、150mmを超える場合には、断熱材としての取扱い性が不十分となるおそれがある。従って、厚みは15〜120mmであることが好ましい。尚、厚みの測定方法は、幅方向を4等分する位置の3箇所で測定し、それらを相加平均した値である。
【0043】
本発明の押出発泡体の厚み方向における平均気泡径(以下、平均気泡径ということがある)は、130μm未満であることが好ましい。前記平均気泡径が大きすぎる場合には、気泡が微細化することによる輻射熱を抑制する効果が得られ難くなり、従来よりも高断熱の押出発泡体を得ることが難しくなる。かかる観点からは、厚み方向における平均気泡径の上限は、120μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。
一方、平均気泡径の下限は特に限定されるものではないが、気泡径が小さすぎる場合には気泡膜が薄くなりすぎて押出発泡体の強度が低下するという観点からは、平均気泡径の下限は40μmが好ましく、50μmが更に好ましい。
【0044】
また、本発明の押出発泡体の厚み方向の気泡径の標準偏差は、50μm以下であることが好ましく、さらには、45μm以下であることが好ましい。
本発明の押出発泡体の気泡構造は、微細な気泡構造を有する上に、均一でばらつきの少ない気泡構造となり、圧縮物性の均一な、断熱性に優れる押出発泡体となる。
【0045】
押出発泡体に配合される、N-H型又はN-CH型のヒンダードアミン系化合物は、前述した、N−H型又はN−CH型のヒンダードアミン系化合物と同様である。
本発明の押出発泡体において、N−H型又はN−CH型のヒンダードアミン系化合物が配合されてなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡して得られるものである。該N−H型又はN−CH型のヒンダードアミン系化合物は、押出発泡体の気泡を微細化するために配合されるものである。
前記N−H型又はN−CH型のヒンダードアミン系化合物の配合量は、従来の気泡調整剤の添加量よりも少ないことから、押出発泡時の発泡体の表面平滑性が良好となり、押出発泡時の吐出量も安定するため、高い独立気泡率の押出発泡体が得られるという観点からは、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.9質量部、更に好ましくは0.1〜0.8質量部である。
【0046】
本発明の押出発泡体は、熱伝導率が0.028W/m・K未満であることが好ましい。前記要件を満足する場合には、JIS A9511(1995)記載の押出ポリスチレンフォーム保温板3種についての熱伝導率の規格を満足するものとなり、建材用の断熱板として好適なものである。前記観点から、熱伝導率は0.027W/m・K以下であることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例により何ら限定されるものではない。
本実施例、比較例において、使用した熱可塑性樹脂、ヒンダードアミン系化合物を以下に記載する。また、押出発泡体の各物性の測定は以下に記載する方法により行った。
(1)熱可塑性樹脂
(イ)ポリスチレン樹脂
PS1:スチレン単独重合体、PSジャパン(株)製、HH32
PS2:スチレン単独重合体、PSジャパン(株)製、679
(ロ)スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体
((メタ)アクリル酸メチル成分をM成分ということがある)
MS1:スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、新日鐵化学(株)製、MS600
(メタクリル酸メチル成分(M成分)含有量60質量%)
MS2:スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、新日鐵化学(株)製、MS200
(メタクリル酸メチル成分(M成分)含有量20質量%)
(ハ)ポリ(メタ)アクリル酸メチル
PMMA:ポリメタクリル酸メチル、住友化学(株)製、LG65
【0048】
(2)ヒンダードアミン系化合物
以下の表1に記載するヒンダードアミン系化合物を使用した。
【表1】

【0049】
(3)各物性の測定
(見掛け密度)
見掛け密度の測定は、JIS K 6767(1999年)に準拠して行った。試料は、押出発泡体の幅方向中央部および幅方向両端部付近の計3箇所から、厚みが得られた発泡体の全厚みである、直方体のサンプルを切り出して各々のサンプルについて見掛け密度を測定し、3箇所の測定値の相加平均値を見掛け密度とした。
【0050】
(厚み)
押出発泡体の厚みは、押出発泡板の幅方向垂直断面の幅方向の端から他方の端までを6等分して両端を除く5箇所に測定点を定め、続いて、前記5箇所の測定点における押出発泡板の厚みをそれぞれ測定し、5箇所の測定値の相加平均値とした。
【0051】
(独立気泡率)
独立気泡率は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社製の空気比較式比重計930型を使用して測定された押出発泡体の真の体積Vxを用い、下記式(1)により独立気泡率S(%)を算出した。
具体的には、試料は、押出発泡体における3箇所の異なる部分からカットサンプルを切り出して各々のカットサンプルについて測定した。なお、カットサンプルは押出発泡体から25mm×25mm×20mmの大きさに切断された、成形表皮を有しないサンプルである。厚みが薄く厚み方向に20mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば25mm×25mm×10mmの大きさに切断された試料(カットサンプル)を2枚重ねて測定した。
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(VA−W/ρ)・・(1)
ただし、Vx:前記測定に使用されるカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡体のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定カットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見かけ上の体積(cm)、
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)、
ρ:押出発泡体を構成する樹脂の密度(g/cm)である。
【0052】
(平均気泡径)
押出発泡体の平均気泡径は、幅方向垂直断面(押出発泡体の押出方向と直交する垂直断面)をミクロトーム等を用い、発泡体の断面を平滑にスライスしたものから、厚さ方向の中央部分を、電子顕微鏡等を用いて拡大した画像をパソコン等で取り込み、画像処理ソフト、ナノシステム株式会社製NanoHunter NS2K−Pro/Ltを用い解析を行い測定し、この測定した300個の気泡径の測定結果の平均値を、厚さ方向の平均気泡径とした。
【0053】
(気泡の均一性)
上記平均気泡径を測定した300個の気泡径の測定結果を集計し、下記計算により求めた標準偏差を気泡均一性とし表記した。本願明細書における気泡径の標準偏差(μm)とは、平均気泡径からのばらつき度合を表す指標である。なお、気泡径の標準偏差Vは次式(2)により求めるものとする。
V={Σ(T−Tav/(n−1)}1/2 (2)
(2)式においてTは前記300個の個々の気泡径の測定値を、Tavは前記平均気泡径を、nは測定数をそれぞれ表し、Σは個々の測定値について計算した(T−Tavを全て足し算することを示す。
【0054】
(熱伝導率)
熱伝導率は、ISO 11561に記載の促進試験に準拠した以下の方法により測定した。
製造直後の押出発泡体の中央部から200mm×200mm×10mmの成形表皮が存在しない試験片を切り出し、該試験片を23℃、湿度50%の雰囲気下に保存した。製造後10日後に、該試験片を用いてJIS A1412−2:1999記載の熱流計法(試験体1枚・対称構成方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて熱伝導率を測定した。
【0055】
(難燃性評価)
前記JIS A9511:2006Rの5.13.1「測定方法A」に規定されるポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼規格に基づき、燃焼性の測定を行い、平均燃焼時間(一つの押出発泡板に対して試験片を5個切り出し、測定した場合の平均値)により評価した。平均燃焼時間が短いほど、発泡体に着火した場合であっても、火が燃え広がることを抑制でき、より高度の安全性を備えるものとなる。
【0056】
[実施例1]
内径65mmの第一押出機と内径90mmの第二押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が内径65mmの押出機の終端付近に設けられており、間隙1.5mm×幅115mmの横断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイが第二押出機の出口に連結された製造装置を用いた。
第二押出機の樹脂出口にはこれと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成された賦形装置(ガイダー)を付設した。
表2に示す配合量となるように熱可塑性樹脂、ヒンダードアミン系化合物、難燃剤及び必要に応じて添加される添加剤を配合し、前記第一押出機に供給し、220℃まで加熱し、これらを溶融、混練し溶融物を得た。さらに、第一押出機の先端付近に設けられた発泡剤注入口から表2に示す配合組成の発泡剤を前記溶融物に供給し、溶融混練して発泡性樹脂溶融物を得、続く第2押出機に供給して樹脂温度を表2に示すような発泡樹脂温度(この発泡樹脂温度は押出機とダイとの接合部の位置で測定された発泡性樹脂溶融物の温度である。)に調整した後、吐出量70kg/hrでダイリップからガイダー内に押出し、発泡させながら、平行に配置されたガイダー内を通過させることにより板状に成形(賦形)し、厚さ30mm、幅250mmの板状の押出発泡体を製造した。
【0057】
なお、表2、3において、添加剤の添加量(質量部)は、熱可塑性樹脂100質量部に対する配合量を意味する。また、発泡剤種類のMeClは塩化メチルを、i−Bはイソブタンを意味する。なお、発泡剤添加量は熱可塑性樹脂混合物1kgに対するモル数である。例えば、表2中の実施例1のMeCl/i−B、0.6/0.6(モル/kg)は、熱可塑性樹脂1kgあたりに塩化メチル0.6モルとイソブタン0.6モルとを添加することを意味する。
得られた押出発泡体の物性を表2に示す。
【0058】
[実施例2〜16]
表2、3に示す樹脂、ヒンダートアミン系化合物、添加剤、発泡剤を用い、表2,3に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の物性、評価結果を表2、3に示す。
【0059】
[比較例1]
比較例1は、ヒンダートアミン系化合物を添加しない以外は、実施例1と同様にして押出発泡体を得た。
【0060】
[比較例2]
比較例2は、ヒンダードアミン系化合物を添加せず、無機化合物の気泡調整剤を多量に添加した以外は、実施例1と同様にして押出発泡体を得た。
【0061】
[比較例3]
比較例3はメタクリル酸メチル成分(M成分)を含有しない原料を使用し、ヒンダードアミン系化合物(No2)を用いた以外は、実施例1と同様にして押出発泡体を得た。
【0062】
[比較例4]
比較例4は、N-H型又はN-CH3型ではないヒンダードアミン系化合物を使用した以外は、実施例1と同様にして押出発泡体を得た。
比較例1〜4で使用した熱可塑性樹脂等、成形条件、及び得られた押出発泡体の物性、評価結果を表3に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体との混合物(A)、ポリスチレン樹脂とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(B)、ポリスチレン樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(C)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体(D)、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体とポリ(メタ)アクリル酸メチルとの混合物(E)、又はポリ(メタ)アクリル酸メチル(F)からなる熱可塑性樹脂と、発泡剤と、N-H型又はN-CH3型のヒンダードアミン系化合物とが混練されてなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡することを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂中の(メタ)アクリル酸メチル成分量が0.1質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記ヒンダードアミン系化合物の配合量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜1質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記ヒンダードアミン系化合物の分子量が、2000以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2012−180477(P2012−180477A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45457(P2011−45457)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】