説明

熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる樹脂成形品。

【課題】耐衝撃性、流動性、表面光沢に優れ、かつブロンズ現象を解決し、さらに淡色系での耐候性が良好なAAS系樹脂組成物の提供。
【解決手段】特定の物性を有する2種類のアクリル酸エステル系ゴム(a−1)20〜80重量%の存在下に芳香族ビニル20〜90重量%、シアン化ビニル0〜20重量%およびアルキル(メタ)アクリレート0〜80重量%からなる単量体(a−2)80〜20重量%を重合してなるグラフト率が20〜150%のグラフト重合体(A)10〜90重量%および芳香族ビニル10〜49.5重量%、シアン化ビニル0〜10重量%およびアルキル(メタ)アクリレート50.5〜90重量%を重合してなる共重合体(B)10〜90重量%からなる熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、流動性、表面光沢に優れ、かつブロンズ現象を解決してなり、さらに淡色系での耐候性が良好な熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン重合体、いわゆるABS樹脂に代表されるゴム強化熱可塑性樹脂は、耐衝撃性が良好である事から自動車の内装部品、電気製品のハウジング等広く用いられている。しかし、ABS樹脂はそのゴム成分として使用するブタジエン系ゴムが紫外線等により分解され易いことから、耐候性に劣るという欠点を有している。そこで、このような耐候性を改良すべく、アクリル酸エステル系ゴムをゴム成分とするAAS樹脂が使用されているが、一般にAAS樹脂はABS樹脂と比較して耐衝撃性が劣るという欠点を有している。
また、ABS樹脂中のゴム成分をエチレン−プロピレン系ゴムに置換する事で耐候性を改良したAES樹脂が車両部品及び建築材料用等で実用化されているが、マトリックス樹脂としてアクリロニトリル−スチレン共重合体を使用しているために、耐候性は十分満足できるものではなかった。
そこで、マトリクス樹脂としてポリメチルメタクリレート樹脂を使用することにより、良好な耐候性を付与することが提案されているが、溶融成形時の流動性が低く、自動車部材のように大型あるいは薄肉形状を有する成形品の射出成形が困難であり、そのために利用できる成形品の形状あるいは加工法等に制限が生じるという問題があった。
【0003】
一方、通常、このようなゴム強化熱可塑性樹脂は、着色剤の配合により着色されており、着色成形品として用いられている。調色・着色工程において注意すべき事項の一つに“メタメリズム”がある。これは、光源が変わると色が異なる現象である。例えば室内灯下における色と太陽光下における色とが一致していないといったことがしばしば見受けられる。この現象は、着色剤に起因するものであり、着色剤の選択により解決することができる。又、この現象は、肉眼にても容易に判断できると共に、分光光度計により数値(反射率)又はグラフ(反射率曲線)として確認することができる。しかしながら、着色成形品においては、前述のメタメリズムのみならず“ブロンズ現象”といった問題点がある。
この“ブロンズ現象”とは、直射日光下でない室内及び室内灯下では色相が良好であるにもかかわらず、直射日光下や直射日光を通した透明ガラス下においては本来の着色した色相以外に、可視光線の赤〜黄色の範囲の色が重なって見える現象であり、成形品の外観上、品質のイメージを低下させ、商品価値を落とすものである。もちろんこのブロンズ現象とメタメリズムとは異なる現象である。このようなブロンズ現象を解決する方法として、ある特定の粒子径の範囲にあるゴム粒子の数を低減させるという方法が提案されている(特許文献1:特開昭63−275617号公報)が、特許文献1においては使用するゴム成分の構造(トルエン不溶分ならびにその膨潤度、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量)、さらには該ゴム成分の構造と各種特性との関係については何ら開示されていない。また、特開2000−17135号公報(特許文献2)においては、流動性、表面光沢に優れ、かつブロンズ現象を解決したAAS系樹脂組成物が提案されているが、特に淡色系での耐候性が不十分であり、さらにフローマーク、発色性、ブロンズ現象についてもさらなる改良が望まれている。
【特許文献1】特開昭63−275617号公報
【特許文献2】特開2000−17135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐衝撃性、流動性、表面光沢に優れ、かつブロンズ現象を解決し、さらに淡色系での耐候性が良好なAAS系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定構造のアクリル酸エステル系ゴム(粒子径、トルエン不溶分、トルエン不溶分の膨潤度、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量)を使用することによりかかる課題を解決できることを見出したものである。
すなわち本発明は、0.2μm未満のアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)20〜80重量%および0. 2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)80〜20重量%からなるアクリル酸エステル系ゴム(a−1)であって、0.2μ未満のアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)のトルエン不溶分が20%以上、トルエン不溶分の膨潤度が5〜50、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量が3万以上であり、さらに0.2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)のトルエン不溶分が80%以上、トルエン不溶分の膨潤度が5〜35、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量が3万以上であるアクリル酸エステル系ゴム(a−1)20〜80重量%の存在下に芳香族ビニル系単量体20〜90重量%、シアン化ビニル系単量体0〜20重量%およびアルキル(メタ)アクリレート系単量体0〜80重量%からなる単量体(a−2)80〜20重量%を重合してなるグラフト率が20〜150%のグラフト重合体(A)10〜90重量%および芳香族ビニル系単量体10〜49.5重量%、シアン化ビニル系単量体0〜10重量%およびアルキル(メタ)アクリレート系単量体50.5〜90重量%を重合してなる共重合体(B)10〜90重量%からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
耐衝撃性、流動性、表面光沢に優れ、かつブロンズ現象を解決し、さらに淡色系での耐候性が良好なAAS系樹脂組成物が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明におけるグラフト重合体(A)を構成するアクリル酸エステル系ゴム(a−1)は0.2μm未満のアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)20〜80重量%および0.2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)80〜20重量%からなる。このようなアクリル酸エステル系ゴムは、架橋剤の存在下または非存在下にアルキル基の炭素数が1〜16のアクリル酸エステル系単量体、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の1種または2種以上、さらには必要に応じて他の共重合可能な単量体、例えばスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等の1種または2種以上を重合してなるゴムである。ここで、使用可能な架橋剤としては、例えばジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。このようなアクリル酸エステル系ゴムは、通常、乳化重合にて重合することができ、その際には公知の乳化剤、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤やポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤を使用できる。また重合開始剤としては、水溶性、油溶性開始剤の単独系あるいはレドックス系、例えば、過硫酸塩等の無機系開始剤やt−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物やアゾ化合物等を単独で用いるかあるいは亜硫酸塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート等と組み合わせてレドックス系開始剤として使用することができる。さらに必要に応じて重合連鎖移動剤、例えばt−ドデシルメルカプタン等を使用することができる。また、重合に際し、適宜、乳化剤、電解質、開始剤濃度、重合時間等を変更することにより粒子径の相違するアクリル酸エステル系ゴムを得ることができる。また、特に0.2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)については、小粒子径のアクリル酸エステル系ゴムを公知の方法で凝集肥大化させることにより得ることもできる。
本発明においては、上記のとおり、それぞれ粒子径の相違する2種類のアクリル酸エステル系ゴムからなることが必要である。アクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)が20重量%未満(アクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)が80重量%を超える)ではブロンズ現象が発生し、また光沢、発色性に劣り、80重量%を超える(アクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)20重量%未満)と耐衝撃性に劣るため好ましくない。
【0008】
また、0.2μm未満のアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)はトルエン不溶分が20%以上、トルエン不溶分の膨潤度が5〜50、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量が3万以上であり、さらに0.2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)のトルエン不溶分が80%以上、トルエン不溶分の膨潤度が5〜35、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量が3万以上であることが必要である。0.2μm未満のアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)においてトルエン不溶分が20%未満、または0.2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)において80%未満では、十分な耐衝撃性および光沢が得られない。0.2μm未満のアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)においてトルエン不溶分の膨潤度が5未満または50を超える、または0.2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)において5未満または35を超えると耐衝撃性に劣り、さらにそれぞれテトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量が3万未満ではやはり耐衝撃性に劣る。このような、上記トルエン不溶分、トルエン不溶分の膨潤度およびテトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量を調整する方法としては、例えば重合時の温度、単量体の添加方法、架橋剤、開始剤、連鎖移動剤の種類および使用量等にて適宜調整することができる。
【0009】
本発明におけるグラフト重合体(A)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち特にスチレンが好ましい。またシアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち特にアクリロニトリルが好ましい。また、アルキル(メタ)アクリレート系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち特にメチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0010】
また、本発明においてはその効果を妨げない範囲内で上記芳香族ビニル系単量体シアン化ビニル系単量体ならびにアルキル(メタ)アクリレート系単量体と共に共重合可能な他のビニル系単量体を用いることも可能である。このような他のビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸無水物などの不飽和カルボン酸またはその無水物、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド系単量体等々が例示され、それぞれ一種又は二種以上用いることができる。
【0011】
本発明におけるグラフト重合体(A)は、上述のアクリル酸エステル系ゴム(a−1)20〜80重量%の存在下に芳香族ビニル系単量体20〜90重量%、シアン化ビニル系単量体0〜20重量%およびアルキル(メタ)アクリレート系単量体0〜80重量%からなる単量体(a−2)80〜20重量%を重合してなるグラフト重合体である。また、共重合可能な他の単量体については、単量体(a−2)中において0〜40重量%の範囲で使用可能である。また、上記グラフト重合体(A)のグラフト率は20〜150%である。グラフト率が20%未満では、耐衝撃性、光沢さらには表面外観(フローマークの発生)に劣り、150%を超えると流動性に劣り、またフローマークが発生するため好ましくない。
【0012】
本発明における共重合体(B)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち特にスチレンが好ましい。またシアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち特にアクリロニトリルが好ましい。また、アルキル(メタ)アクリレート系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち特にメチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0013】
本発明における共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体10〜49.5重量%、シアン化ビニル系単量体0〜10重量%およびアルキル(メタ)アクリレート系単量体50.5〜90重量%を重合してなる共重合体である。芳香族ビニル系単量体の比率が10重量%未満では流動性に劣り、また49.5重量%を越えると、特に淡色系での耐候性が不十分であるのみならず、フローマーク、ブロンズ現象が発生する傾向にあるため好ましくない。シアン化ビニル系単量体の比率については、その含有量が多くなるほど耐衝撃性は向上するが、屋外使用時の変色が大きくなるためその上限は10重量%である。アルキル(メタ)アクリレート系単量体の比率が50.5重量%未満では、特に淡色系での耐候性が不十分であるのみならず、フローマーク、ブロンズ現象が発生する傾向にあり、また90重量%を越えると流動性に劣るため好ましくない。
【0014】
また、本発明においては、その効果を妨げない範囲内で上記芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体ならびにアルキル(メタ)アクリレート系単量体と共に共重合可能な他のビニル系単量体を用いることも可能である。このような他のビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸無水物などの不飽和カルボン酸またはその無水物、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド系単量体等々が例示され、一種又は二種以上用いることができる。また、これら共重合可能な他の単量体については、共重合体(B)中に0〜40重量%の範囲で使用可能である。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記グラフト重合体(A)10〜90重量%および共重合体(B)10〜90重量%からなる。グラフト重合体(A)が10重量%未満(共重合体(B)が90重量%を超える)またはグラフト重合体(A)が90重量%を超える(共重合体(B)が10重量%未満)では、本発明の目的を達成することができない。
【0016】
本発明におけるグラフト共重合体(A)および共重合体(B)の重合方法に制限は無く、公知の乳化重合法、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいはこれらの重合法を任意に組み合わせた方法を採用することができる。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、着色剤を配合して着色樹脂成形品として用いることができるが、当該成形品をJIS
Z8729に準拠して測色した明度(L*)が25以上で彩度(C*)が40以下の淡色熱可塑性樹脂成形品であることが好ましい。
明度(L*)が25未満又は彩度(C*)が40を超えると、直射日光下や直射日光を通した透明ガラス下においては本来の着色した色相以外に、赤〜黄色の範囲の色が重なって見えるいわゆる“ブロンズ現象”が発生する傾向にあるため、好ましくない。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて各種添加剤、例えば公知の酸化防止剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、艶消し剤、充填剤等を適宜添加することができる。また、混合に際しては、押出し機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の公知の混連装置を用いることができる。
【0019】
[実施例]以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部および%は重量に基くものである。
[アクリル酸エステル系ゴム(a−1)の製造]
窒素置換した3リットルガラスリアクターに、純水150部、オレイン酸ナトリウム2部、炭酸水素ナトリウム0.3部を仕込み、65℃に昇温した。過硫酸カリウム0.3部を添加した後、ブチルアクリレート94部、アクリロニトリル5部、アリルメタクリレート1部からなる単量体混合物を65℃で4時間連続的に添加しながら重合を行った。その後、3時間重合を継続し、重合を終了し、アクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)ラテックスを得た。得られたアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)は、それぞれ平均粒子径は0.12μm、トルエン不溶分98%、トルエン不溶分の膨潤度11、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量7万であった。
【0020】
なお、トルエン不溶分については、アクリル酸エステル系ゴムを秤量(重量a)した後トルエン中に24時間浸漬後、遠心分離操作を経て分離された不溶部を真空乾燥して重量を測定し(重量b)、次式によって求めた。
トルエン不溶分=b/a×100(%)
また、上記にて得られたトルエン不溶部を秤量(重量b)した後、再びトルエン中に24時間浸漬後、トルエンで膨潤したサンプル重量(重量c)を測定し、次式によってトルエン不溶分の膨潤度を求めた。
膨潤度=c/b
さらに、アクリル酸エステル系ゴムをテトラヒドロフラン中に24時間浸漬した後、遠心分離操作を経て分離されたテトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量を、次に示す条件でゲル・パーミエーションクロマトグラフィにより測定し、標準ポリスチレンで検量線を作成し、その分子量と保持時間の関係から算出した。
ポンプ :ウォーターズ600Eマルチソルベント送液システム
カラム :ウォーターズ
ウルトラスタイラジェル 2本
温度 :50℃
検出器 :RI
送液 :THF 1ml/min
データ処理:ミレニアム 2010J
【0021】
また、表1に示す重合条件を変更することにより、各種のアクリル酸エステル系ゴムを重合した。
【0022】
〔グラフト重合体(A)の製造方法〕
窒素置換した3リットルガラスリアクターに、表2に示すアクリル酸エステル系ゴムラテックス(混合物)50部(固形分換算)と純水110部、デキストリン0.1部、無水ピロリン酸ナトリウム0.1部および硫酸第1鉄0.005部を溶解した水溶液を添加した後、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル7部、スチレン43部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部の混合液および純水20部にオレイン酸カリウム1.0部を溶解した乳化剤水溶液を4時間に亘り連続添加した。その後、重合を3時間継続し、重合を終了した。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−1)を得た。得られたグラフト重合体(A−1)のグラフト率は60%であった。また、表2に示す重合条件を変更することにより、各種のグラフト重合体を重合した。
【0023】
〔共重合体(B−1)の製造方法〕
容積が20リットルの完全混合型反応槽1基からなる連続的重合装置を用い、スチレン24重量部、メチルメタクリレート66重量部、エチルベンゼン10重量部、t−ドデシルメルカプタン0.2重量部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)0.015重量部からなる重合原料を、プランジャーポンプを用いて13kg/hで連続的に該反応槽に供給して重合を行い、重合温度を調節して反応槽出口における重合転化率を50.5重量%にした。このときの重合温度は150℃であり、また反応槽の攪拌数は150rpmに調整した。重合に続いて、反応槽から連続的に抜き出された重合液を脱揮発分装置に供給した後、押出機を経てメチルメタクリレート含有量71重量%のメチルメタクリレート−スチレン共重合体(B−1)を得た。
【0024】
〔共重合体(B−2)の製造方法〕
容積が20リットルの完全混合型反応槽1基からなる連続的重合装置を用い、スチレン62重量部、メチルメタクリレート28重量部、エチルベンゼン10重量部、t−ドデシルメルカプタン0.2重量部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)0.015重量部からなる重合原料を、プランジャーポンプを用いて13kg/hで連続的に該反応槽に供給して重合を行い、重合温度を調節して反応槽出口における重合転化率を47.5重量%にした。このときの重合温度は150℃であり、また反応槽の攪拌数は150rpmに調整した。重合に続いて、反応槽から連続的に抜き出された重合液を脱揮発分装置に供給した後、押出機を経てメチルメタクリレート含有量33重量%のメチルメタクリレート−スチレン共重合体(B−2)を得た。
【0025】
〔共重合体(B−3)の製造方法〕
窒素置換した3リットルガラスリアクターに、純水130部および過硫酸カリウム0.3部を仕込んだ後、65℃に昇温した。その後、アクリロニトリル25部、スチレン75部およびt−ドデシルメルカプタン0.3部からなる混合モノマー溶液および不均化ロジン酸カリウム2部を含む乳化剤水溶液30部を各々4時間に亘って連続添加し、その後2時間重合を継続し、重合を終了した。その後、の20重量%及び水と開始剤を仕込み、65℃に昇温し30分間熟成を行う。更に残りの単量体混合物と残りの乳化剤溶液を4時間にわたって連続添加した。その後、塩析・脱水・乾燥し、アクリロニトリル−スチレン共重合体(B−3)を得た。
【0026】
[実施例1〜2、比較例1〜7]
表3に示す組成割合にてグラフト共重合体(A)および共重合体(B)を混合し、顔料としてそれぞれR−TC30(タイオキサイド社)0.7部、YW−520(川村化学(株))1.2部、carbon#45B(三菱化学(株))0.01部、さらに安定剤としてそれぞれアデカスタブLA−77(旭電化工業(株))0.1部、スミソーブ#200(住友化学(株))0.05部を混合した後、40mm二軸押出機を用いて240℃にて溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットより射出成形機にて各種試験片を作製し、物性を測定した。その後、240℃に設定した射出成形機にてASTM試験片および成形品(150×90×3mm)を成形した。
【0027】
(1)
耐衝撃性:ASTM D−256に準拠してノッチ付アイゾット衝撃強度を測定した。23℃、1/8インチ。
(2)
流動性:ASTM D−1238に準拠してメルトフローレイトを測定した。
(3)
光沢:ASTM D−523に準拠して表面光沢を測定した。
(4) ウェルド外観:ウェルド部分の状態を目視で判定した。良好を○、やや良好を△、不良を×とした。
(5) 耐候性:ASTM D 1435−58に準拠して1年間屋外曝露試験を行い、JIS Z8729で測色し、色差(ΔE)で耐候性を評価した。
(6) 発色性及びブロンズ現象:表3に示す組成割合のグラフト共重合体(A)および共重合体(B)100部に対して、carbon#45B(三菱化学(株))を0.5部混合し、40mm二軸押出機を用いて240℃にて溶融混練し、着色ペレット化を得た。得られた着色ペレットより射出成形機にて100×60×3mmtの試験片を作製し、発色性(漆黒性)を目視にて判定した。極めて良好◎、良好○、やや良好△、不良×とした。また、透明ガラスを通した直射日光下の室内でプロンズ現象を目視にて判定した。ブロンズ現象なし○、ブロンズ現象ややあり△、ブロンズ現象が顕著×とした。なお、分光光度計によりいずれの成形品もメタメリズムを起こしていないことが確認された。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のとおり、本発明によれば、耐衝撃性、流動性、表面光沢に優れ、かつブロンズ現象を解決した熱可塑性樹脂組成物が得られるものであり、特に明度の高い淡色での耐候性が良好な熱可塑性樹脂組成物である。例えばドアパネル、フロントフェンダー、リアフェンダー、テールゲート、ホイルキャップ、スポイラー、バンパー、ピラー等の車両用外装部品や樹脂を竹の棒に似せて形成した擬似竹や雨樋等の比較的明度の高い淡色で、耐候性と耐衝撃性を必要とする用途において好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均粒子径0.2μm未満のアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)20〜80重量%および重量平均粒子径0.2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)80〜20重量%からなるアクリル酸エステル系ゴム(a−1)であって、0.2μm未満のアクリル酸エステル系ゴム(a−1−1)のトルエン不溶分が20%以上、トルエン不溶分の膨潤度が5〜50、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量が3万以上であり、さらに0.2〜0.6μmのアクリル酸エステル系ゴム(a−1−2)のトルエン不溶分が80%以上、トルエン不溶分の膨潤度が5〜35、テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量が3万以上であるアクリル酸エステル系ゴム(a−1)20〜80重量%の存在下に芳香族ビニル系単量体20〜90重量%、シアン化ビニル系単量体0〜20重量%およびアルキル(メタ)アクリレート系単量体0〜80重量%からなる単量体(a−2)80〜20重量%を重合してなるグラフト率が20〜150%のグラフト重合体(A)10〜90重量%および芳香族ビニル系単量体10〜49.5重量%、シアン化ビニル系単量体0〜10重量%およびアルキル(メタ)アクリレート系単量体50.5〜90重量%を重合してなる共重合体(B)10〜90重量%からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品であって、JIS
Z8729に準拠して測色した明度(L*)が25以上で彩度(C*)が40以下であることを特徴とする淡色熱可塑性樹脂成形品。

【公開番号】特開2006−56961(P2006−56961A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239107(P2004−239107)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】